説明

発泡剤、無収縮グラウト組成物、及びそれを用いた無収縮グラウト材

【課題】 長時間流動性を保持させることができ、材料分離が発生せず、無収縮性を有する、土木・建築業界において使用される無収縮グラウト組成物およびそれを用いた無収縮グラウト材、特に、長時間流動性を保持させた無収縮グラウト組成物およびそれを用いた無収縮グラウト材を提供する。
【解決手段】 アトマイズ法で製造されたアルミニウム粉末からなる、無収縮グラウト組成物に用いる発泡剤、アルミニウム粉末の平均粒径が50μm以下である該発泡剤、セメント、膨張材、該発泡剤、及び減水剤を含む配合物からなる無収縮グラウト組成物、さらに、増粘剤を含む該無収縮グラウト組成物、並びに、該無収縮グラウト組成物、細骨材、及び水を含有してなる無収縮グラウト材を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築業界において使用される発泡剤、無収縮グラウト組成物、及びそれを用いた無収縮グラウト材に関し、特に、長時間流動性を保持させた発泡剤、無収縮グラウト組成物、及びそれを用いた無収縮グラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、グラウト材料としてはセメントに減水剤を加えたものが一般的であり、さらに、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材又は石灰系膨張材や、ミルなどで機械的に粉砕したアルミニウム粉末等の発泡剤を添加し、無収縮グラウト材料とし、これらに、骨材を配合し、ペーストやモルタルとして土木、建築工事等に広く使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
そして、無収縮グラウト材料は、PCグラウト、プレパックドコンクリート用グラウト、トンネルやシールド裏込めグラウト、プレキャスト用グラウト、構造物の補修や補強注入グラウト、鉄筋継手グラウト、橋梁の支承下グラウト、軌道下グラウト、耐震鉄骨ブレース周辺枠グラウト、増設壁逆打ちグラウト、鋼板巻き立て工法用グラウト、及び原子力発電所格納容器下グラウトなど多岐にわたって使用されている。
【0004】
無収縮グラウト材料に要求される性能としては、無収縮であること、流動性が良いこと、ブリーディングや材料分離がないことなどがある。
また、既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針では、耐震補強用圧入グラウトの圧縮強度は、材齢28日で30N/mm2以上としている(非特許文献1参照)。
【0005】
近年、土木・建築構造物に使用される無収縮グラウト材料に要求される性能が高度化してきており、流動性の保持性能の向上が求められている。流動性の保持性能の向上によって、施工時間の延長が可能となるだけでなく、従来は、施工現場で練混ぜていた無収縮グラウト材料を生コンプラントで練混ぜ、アジテータ車で配送し、数時間かけてのポンプ打設が可能となる。さらに、生コンプラント練りは、練混ぜ時に周辺への粉塵の飛散が防止され、環境負荷低減効果もある。
【0006】
しかしながら、練混ぜ後2時間を超えて、長時間流動性を保持すると、モルタル中の骨材が沈降し、材料分離が発生するばかりでなく、発泡剤のアルミニウム粉末の発泡が終了し、その後、打設されたグラウトは無収縮性が得られない場合があった。
【0007】
また、ミルなどで機械的に粉砕したアルミニウム粉末は、鱗片状をしており、比表面積が大きく、反応性が大きく、発泡量が大きく、主に無収縮グラウト材や軽量気泡コンクリートの製造に用いられている。
【0008】
一方、アトマイズ法で製造されたアルミニウム粉末は、ブレーキライニング、触媒、及び花火等に使用されているが、無収縮グラウト材の発泡剤として使用した例は見られない。
【0009】
【特許文献1】特公昭48−009331公報
【非特許文献1】2001年度改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針、財団法人日本建築防災協会発行、平成17年2月、194頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、特定の無収縮グラウト組成物を採用することにより、前記課題が解決できるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、アトマイズ法で製造されたアルミニウム粉末からなる、無収縮グラウト組成物に用いる発泡剤であり、アルミニウム粉末の平均粒径が50μm以下である該発泡剤であり、セメント、膨張材、該発泡剤、及び減水剤を含む配合物からなる無収縮グラウト組成物であり、さらに、増粘剤を含む該無収縮グラウト組成物であり、該無収縮グラウト組成物、細骨材、及び水を含有してなる無収縮グラウト材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無収縮グラウト組成物を使用することにより、長時間流動性を保持させることができ、かつ、材料分離が発生せず、無収縮性を有したグラウト材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する部や%は特に限定のない限り質量基準で示す。
また、本発明ではグラウト材とはグラウトモルタル、グラウトペーストのことを示す。
【0014】
本発明では、アトマイズ法で製造された、平均粒経が50μm以下のアルミニウム粉末からなる発泡剤を使用するものであり、該発泡剤と、セメント、膨張材、及び減水剤を、さらに増粘剤を含有してなる無収縮グラウト組成物を、さらに必要に応じて細骨材を配合し、水と混練して無収縮グラウト材を調製するものである。
【0015】
本発明では、無収縮グラウト組成物に用いる発泡剤として、アトマイズ法で製造されたアルミニウム粉末を用いる。
【0016】
アルミニウム粉末の製造方法は現在大きく分けて、アルミニウムをスタンプミルやボールミルで機械的に粉化させる方法と、アルミニウムを地金から溶湯し、その溶湯に空気、水、又は不活性ガスのジェット流を吹きつけて溶湯を粉砕して液滴として凝固させたり高速で回転するディスク上に落下させて接線方向に剪断力を与えて破砕して微細粉を作るアトマイズ法とに分けられる。
機械的に粉化したアルミニウム粉末は鱗片状であり、アトマイズ法で製造されたアルミニウム粉末は粒状である。
本発明で使用するアルミニウム粉末は、アトマイズ法で製造されたアルミニウム粉末(以下、アトマイズアルミ粉という)であり、その平均粒経は50μm以下が好ましく、10〜25μmがより好ましい。50μmを超えると無収縮性を示さない場合がある。
また本発明では、アトマイズアルミ粉のほかに、機械的に粉化したアルミニウム粉末も本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0017】
アトマイズアルミ粉からなる発泡剤の使用量は、セメントと膨張材からなる結合材100部に対して、0.001〜0.01部が好ましい。0.001部未満だと無収縮性が得られない場合があり、0.01部を超えると膨張量が大きく強度低下を起こす場合がある。
【0018】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、中庸熱、及び低熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、シリカ、フライアッシュ、又は石灰石微粉等を混合した各種混合セメント、並びに、普通エコセメントなどが挙げられる。
【0019】
本発明で使用する膨張材としては、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材、カルシウムアルミノフェライト系膨張材、生石灰系膨張材、及び石膏系膨張材等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することが可能であり、これらのうち、流動性保持性能の面から、カルシウムアルミノフェライト系膨張材、生石灰系膨張材、及び石膏系膨張材が好ましい。
膨張材の粉末度は、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で2,000〜10,000cm2/gが好ましく、3,000〜5,000cm2/gがより好ましい。2,000cm2/g未満ではブリーディングが生じやすい場合があり、10,000cm2/gを超えると流動性が悪くなる場合がある。
膨張材の使用量は、結合材100部中、3〜20部が好ましい。3部未満では膨張性状が得られにくい場合があり、20部を超えると膨張量が大きくなり、セメント硬化体の破壊に繋がる場合がある。
【0020】
本発明で使用する減水剤は、セメントに対する分散作用や空気連行性を有し流動性改善や強度増進するものの総称であり、具体的にはナフタレンスルホン酸系減水剤、メラミンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、及びポリカルボン酸系減水剤等の減水剤が挙げられ、これらのうち一種又は二種以上を使用することができる。これらのうち流動性の保持性からポリカルボン酸系減水剤がより好ましい。
減水剤の使用量は、結合材100部に対して、0.05〜1部が好ましく、0.2〜0.5部がより好ましい。0.05部未満だと流動性の保持性能が悪い場合があり、1部を超えると材料分離が発生する場合がある。
【0021】
本発明では増粘剤を使用することが可能である。
増粘剤としては、ポリビニールアルコール系増粘剤、アクリル系増粘剤、及び水溶性セルロース系増粘剤等が挙げられ、これらのうち、水溶性セルロース系増粘剤は温度依存性が小さく好ましい。
増粘剤の使用量は、結合材100部に対して、0.05〜0.5部が好ましく、0.1〜0.3部がより好ましい。0.05部未満では材料分離抵抗性が充分でない場合があり、0.5部を超えると流動性を得るための水量が多くなり強度低下を起こす場合がある。
【0022】
また、本発明では、さらにオキシカルボン酸又はその塩、デキストリンやショ糖等の糖類、及び無機塩等の遅延性を有するものを併用することが可能である。
【0023】
本発明における細骨材としては、通常使用される珪砂、川砂、海砂、及び砕砂等が使用可能であり、結合材100部に対して、80〜250部が好ましい。80部未満ではひび割れ抵抗性が悪くなる場合があり、250部を超えると強度発現性が悪くなったり、分離抵抗性が低下する場合がある。
【0024】
本発明で使用する練混ぜ水量は特に限定されるものではないが、通常、水/結合材比で30〜60%が好ましく、35〜55%がより好ましい。この範囲外では流動性が大きく低下したり、材料の分離抵抗性が低下したり、強度低下が起きる場合がある。
【0025】
また本発明ではさらに、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、フライアッシュ、消泡剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ビニロンファイバー、炭素繊維、及びワラストナイト繊維等の繊維物質、ポリマーエマルジョン、並びに、ベントナイトなどの粘土鉱物のうちの一種又は二種以上を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0026】
本発明の無収縮グラウト材の練混ぜに用いる機械は特に限定されるものではなく、例えば、ハンドミキサ、グラウトミキサ、簡易バッチャープラント、及び生コンプラントで使用しているミキサの使用が可能である。
【実施例】
【0027】
以下、実験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実験例に限定されるものでない。
【0028】
実験例1
セメント95部、膨張材5部、並びに、セメントと膨張材からなる結合材100部に対して、表1に示す発泡剤と増粘剤、減水剤0.3部、及び細骨材150部を混合しグラウト組成物を調製し、水/結合材比が46%となるように水を添加して、高速ハンドミキサを用いてグラウトモルタルを作製した。
作製したグラウトモルタルの流動性、体積膨張率、及び圧縮強度を評価した。結果を表1に併記する。
【0029】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、市販品
発泡剤A :アルミニウム粉末、機械粉化品、100メッシュパス、市販品
発泡剤B :アトマイズアルミ粉、平均粒経6μm、市販品
発泡剤C :アトマイズアルミ粉、平均粒経8μm、市販品
発泡剤D :アトマイズアルミ粉、平均粒経15μm、市販品
発泡剤E :アトマイズアルミ粉、平均粒経25μm、市販品
発泡剤F :アトマイズアルミ粉、平均粒経50μm、市販品
膨張材 :カルシウムアルミノフェライト系膨張材、ブレーン3,000cm2/g、市販品
増粘剤 :セルロース系増粘剤、市販品
減水剤 :ポリカルボン酸系、市販品
細骨材 :石灰石系砕砂、密度2.62g/cm2、4mm下品
【0030】
<測定方法>
流動性 :JIS R5201-1997「セメントの物理試験方法」11.フロー試験で15回の落下運動を行わない静置フロー、練上がり2時間後に測定
体積膨張率:JSCE-F 533-1999「PCグラウトのブリーディング率および膨張率試験方法」4.膨張率試験方法により材齢1日の体積膨張率を測定した。ただし、試験器への型詰は練上り2時間後のモルタルを充填し基長とした。
圧縮強度 :JSCE-G 505-1999「円柱供試体を用いたモルタル又またはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に準じ、材齢28日で測定
【0031】
【表1】

【0032】
実験例2
結合材100部に対して、発泡剤D0.005部、増粘剤0.15部、及び表2に示す減水剤とを用いて、練上り直後の流動性、材料分離抵抗性、体積膨張率、及び圧縮強度を評価したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0033】
<測定方法>
材料分離抵抗性:練上り後2時間静置し、容器底部への骨材の沈降の程度を触感で判定。良は材料分離なし、可は微小の材料分離が認められるが使用上問題がない、不可は材料分離有り。
【0034】
【表2】

【0035】
実験例3
表3に示す水/結合材比と、結合材100部に対して、減水剤0.3部と表3に示す増粘剤を用いたこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0036】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の無収縮グラウト組成物を使用することにより、練混ぜ後2時間を超え長時間流動性を保持させたモルタル中でも材料分離が発生せず、無収縮性を有したグラウト材を提供することがでる。
そして本発明の無収縮グラウトはPCグラウト、プレパックドコンクリート用グラウト、トンネルやシールド裏込めグラウト、プレキャスト用グラウト、構造物の補修や補強注入グラウト、鉄筋継手グラウト、橋梁の支承下グラウト、軌道下グラウト、耐震鉄骨ブレース周辺枠グラウト、増設壁逆打ちグラウト、鋼板巻き立て工法用グラウト、及び原子力発電所格納容器下グラウトなど、土木および建築用途に広範に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトマイズ法で製造されたアルミニウム粉末からなる、無収縮グラウト組成物に用いる発泡剤。
【請求項2】
アルミニウム粉末の平均粒径が50μm以下である請求項1に記載の発泡剤。
【請求項3】
セメント、膨張材、請求項1又は請求項2に記載の発泡剤、及び減水剤を含む配合物からなる無収縮グラウト組成物。
【請求項4】
さらに、増粘剤を含む請求項3に記載の無収縮グラウト組成物。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の無収縮グラウト組成物、細骨材、及び水を含有してなる無収縮グラウト材。

【公開番号】特開2007−119316(P2007−119316A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315635(P2005−315635)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】