説明

発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法

【課題】 熱可塑性樹脂を主原料とし、低沸点で拡散係数が高い発泡剤を圧入しても、簡易かつ安価で、安定的に、また確実に未発泡の発泡性熱可塑性粒が得られる製造方法を提供することにある。
【解決手段】 熱可塑性樹脂、発泡剤、造核剤および、その他の添加剤を押出機内で溶融混練し、複数の小孔を有するダイから加圧冷却水中に未発泡状態で押出し、ダイに接する回転カッターで切断して小粒化する発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法において、発泡剤の種類および量を規定し、加圧冷却水の圧力を1.5MPa超3.5MPa未満とすることにより、低沸点で拡散係数が高い発泡剤を圧入しても、簡易かつ安価で、安定的に、また確実に未発泡の発泡性熱可塑性粒を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器、断熱材、緩衝材に利用する発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂の発泡成形体を得る方法の一つとして、ビーズ発泡法が用いられている。例えば、熱可塑性樹脂粒を懸濁重合によって得、次いで、発泡剤を含浸させて発泡性熱可塑性樹脂粒とし、乾燥、篩分けにより粒度調整する。かかる発泡性熱可塑性樹脂粒を水蒸気等により加熱軟化させて熱可塑性樹脂粒の粘度を降下させた状態で、含浸発泡剤を揮発させて多数の気泡を熱可塑性樹脂内に形成させ、任意の発泡倍率まで膨張させる(予備発泡工程)。そして、得られた予備発泡粒を金型に充填し、水蒸気等により該予備発泡粒同士を融着させて発泡成形体を得る方法である(例えば特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、従来法では、非連続的な生産方法であり、且つ、粒度分布が広い熱可塑性樹脂粒が得られる。そのため、前述のように粒度調整工程を経る必要があり、工程の複雑化、それによるコストアップ、懸濁重合に伴う廃水処理による環境問題、収率の悪化といった問題があった。また、高断熱性や高い難燃性能を付与して高機能化したい場合、粉末等の固形添加剤を添加する際において制約が多いという問題があった。
【0004】
そこで、熱可塑性樹脂を押出機に投入して、発泡剤やその他添加剤を溶融混練し、押出機先端に設置されたダイの小孔から発泡あるいは未発泡状態で押出し、押出機先端に接触させた回転カッター等で切断して発泡樹脂粒あるいは未発泡の発泡性樹脂粒を得る方法が提案されている(例えば特許文献3)。この方法を用いれば、小さい熱可塑性樹脂粒及び均一な粒度分布を有する熱可塑性樹脂粒が連続的に且つ経済的に製造することができる。
【0005】
かかる方法のうち、未発泡の発泡性熱可塑性樹脂粒を得る方法には、例えば、発泡剤含有溶融樹脂を冷却液体中に押出して樹脂を冷却固化する際に、ダイの小孔ランド部における樹脂の剪断速度と溶融粘度を特定範囲内に制御することにより、懸濁重合・含浸法で得られる発泡性粒子と同等の機械的強度を有する発泡成形品が得られる発泡性粒子を安定して製造する方法が挙げられる(例えば、特許文献4)。
【0006】
しかしながら、この方法では、例えば、機械的強度よりもコスト、軽量性、断熱性等の観点から低密度化を重視して0℃以下の低沸点発泡剤を用いる場合、圧力開放速度が高い場合、押出す際の樹脂温度が高すぎる場合において、冷却液体中に押出されると同時に、熱可塑性樹脂粒が部分的あるいは全体的に発泡して不均一な気泡を含んでしまうことがある。これら不均一な気泡を含んだ発泡性粒は、予備発泡及び成形の段階で不均一性が拡大し、製品性能の低下を招く。
【0007】
そこで、これを抑止するために、押出機内で溶融混練された熱可塑性樹脂および発泡剤を、常圧以上40気圧以下の水中(加圧冷却水)に押し出す方法がある(特許文献5参照)。しかしながら、特許文献5では、加圧冷却水の条件圧力の範囲が広すぎる為、一般的な方法でも当該範囲内に入ってしまう、また、高すぎる圧力では設備の大幅な改良やコストアップを招くため、実用的に適切な範囲を指定するものではなかった。
【0008】
一方で、押出機内で溶融混練された熱可塑性樹脂と発泡剤を2〜20kg/cmの加熱・加圧液体に押し出す方法がある(例えば、特許文献6)。しかしながら、この方法も、低沸点発泡剤の圧入量が高くなるに従い(例えば、5wt%以上)、前述のような理由から、未発泡の発泡性熱可塑性樹脂粒を安定的に得ることが難しいのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−164025号公報
【特許文献2】特開平4−91141号公報
【特許文献3】英国特許GB−A−1062307公報
【特許文献4】特許4221408号公報
【特許文献5】特開昭48−20423号公報
【特許文献6】特開平7−314438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点を鑑みて、熱可塑性樹脂を主原料とし、低沸点で拡散係数が高い発泡剤を圧入しても、簡易且つ安価で、安定的に、また確実に未発泡の発泡性熱可塑性粒が得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂、発泡剤、造核剤、及びその他の添加剤を押出機内で溶融混練し、複数の小孔を有するダイリップから加圧冷却水中に押し出す方法において、加圧冷却水の圧力を適切な範囲に維持することにより、大幅な設備コストアップや改造を招かずに、安定的に、また確実に未発泡の発泡性熱可塑性粒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1] 熱可塑性樹脂、発泡剤、造核剤および、その他の添加剤を押出機内で溶融混練し、複数の小孔を有するダイから加圧冷却水中に未発泡状態で押出し、ダイに接する回転カッターで切断して小粒化する、発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法であって、
発泡剤として、炭素原子数3あるいは4の脂肪族炭化水素系発泡剤を、熱可塑性樹脂100重量部に対して3〜10重量部圧入し、かつ、加圧冷却水の圧力が1.5MPa超3.5MPa未満であることを特徴とする、発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法、
[2] 発泡剤がブタンであることを特徴とする、[1]記載の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法、
[3] 熱可塑性樹脂のガラス転移温度が100℃〜120℃であることを特徴とする、[1]または[2]記載の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法、
[4] 熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法、および、
[5] 加圧冷却水の温度が40℃〜80℃であることを特徴とする、[1]〜[4] のいずれかに記載の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法によれば、高すぎる循環水圧力を用いないため、大幅な設備コストアップや改造を伴わずに、低沸点で拡散係数が高い発泡剤を用いても、未発泡の状態で圧入された熱可塑性樹脂粒を得ることができる。その結果、気泡サイズ分布が狭く、高発泡化可能な予備発泡粒子および発泡成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法は、熱可塑性樹脂、発泡剤、造核剤および、その他の添加剤を逐次または同時に押出機に供給し、押出機内で溶融混練した後、押出機内で適切な温度まで冷却後、押出機先端に設けられた複数の小孔を有するダイリップから、循環加圧冷却水中に未発泡状態で押出し、即断して得た顆粒を遠心脱水機で集約、脱水する工程を基本とする。
【0015】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリスチレン(PS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(耐熱PS)、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体(HIPS)、N−フェニルマレイミド−スチレン−無水マレイン酸の三次元共重合体及び、それとASとのアロイ(IP)などのスチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などのビニル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン3元共重合体、シクロオレフィン系(共)重合体などのポリオレフィン系樹脂およびこれらに分岐構造、架橋構造を導入してレオロジーコントロールされたポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、MXDナイロンなどのポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネートなどのポリエステル系樹脂、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(変性PPE)、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などのエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0016】
これら熱可塑性樹脂の中でも、比較的安価で、特殊な方法を用いずに低圧の蒸気等で発泡成形ができ、高い緩衝・断熱の効果が得られる点から、スチレン系樹脂、特にPS系樹脂、AS、耐熱PS、IPおよび、これらに耐熱性改善や脆性改善のための樹脂を混合したものが好ましい。
【0017】
PS系樹脂としては、スチレンまたはその誘導体、例えばα−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン等を、主成分とする樹脂である。したがって、PS系樹脂は、スチレンまたはスチレン誘導体だけからなる単独重合体に限らず、他の単量体と共重合することによって得られる共重合体であってもよい。
【0018】
耐熱性改善や脆性改善のために混合する樹脂としては、耐熱性改善には、スチレン系樹脂と相溶性がよい変性PPE系樹脂が、脆性改善には、HIPSが好ましい。
【0019】
変性PPE系樹脂としては、PPE系樹脂とPS系樹脂との混合物、PPEへのスチレン系単量体のグラフト共重合物などのスチレン・フェニレンエーテル共重合体、等があげられる。
【0020】
変性PPE系樹脂中のPPE系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレン−4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−プロピルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−ブチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−ブロムフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−エチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)などがあげられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0021】
本発明で用いられる炭素原子数3あるいは4の脂肪族炭化水素系発泡剤としては、プロパン、ブタンおよび、それらの異性体が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0022】
本発明における前記脂肪族炭化水素系発泡剤の添加量は、目標とする発泡成形体の発泡倍率により増減できるが、一般的には熱可塑性樹脂100重量部に対して3〜10重量部の範囲が好ましく、5〜8重量部の範囲がより好ましい。脂肪族炭化水素系発泡剤の添加量が3重量部未満では、所望の発泡倍率が得られない場合があり、発泡成形品における軽量性、及びそれによる製品コストアップの問題が発生する傾向があり、特にガラス転移温度や融点が高い熱可塑性樹脂を使用する場合に問題となりやすい。一方、脂肪族炭化水素系発泡剤の添加量が10重量部超では、発泡剤の樹脂に対する溶解圧も高くなり、押出機を高い圧力に維持する必要があるため、設備的に高価になったり、安定的な製造が困難であったり、得られた熱可塑性樹脂粒から発泡剤が即座に拡散し、予発・成形工程での発泡倍率の制御が困難になる場合がある。
【0023】
本発明の製造方法においては、発泡性改善のために、発泡助剤を適宜併用してもよい。
発泡助剤としては、発泡性スチレン系樹脂に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、スチレン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族有機化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等の、大気圧下における沸点が200℃以下である溶剤が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法においては、得られる未発泡の発泡性熱可塑性樹脂粒を予備発泡、発泡成形する際の気泡調整のために、造核剤を添加してもよい。
造核剤としては、例えば、シリカ、タルク、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機化合物などが、代表的なものとして挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法における、その他添加剤としては、難燃性改善、断熱性改善などの高機能化の目的で、難燃剤、難燃助剤、輻射抑制剤、等が添加される。
【0026】
本発明で用いられる難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系化合物、窒素含有化合物等の非ハロゲン系難燃剤が挙げられる。
これらの中でも、本発明の熱可塑性樹脂の加工条件、分解温度と発泡体の燃焼温度との兼ね合いにより発泡体用途における難燃性の点から、ハロゲン系難燃剤が好ましい。
【0027】
本発明で用いられるハロゲン系難燃剤の具体例としては、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモブタン、ヘキサブロモシクロヘキサン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系化合物;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールF、2,4,6−トリブロモフェノール等の臭素化フェノール類;テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ジグリシジルエーテル等の臭素化フェノール誘導体、等が挙げられる。
【0028】
本発明で用いられる難燃助剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,3−ジメチルー2,3−ジフェニルブタン等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いられる輻射抑制剤としては、近赤外または赤外領域(例えば、800〜3000nm程度の波長域)の光を反射・散乱・吸収する特性を有する物質であれば特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム等のアルミニウム系化合物、アルミン酸亜鉛等の亜鉛系化合物;ハイドロタルサイト等のマグネシウム系化合物;銀等の銀系化合物:チタン、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム等のチタン系化合物;ステンレス、ニッケル、錫、銀、銅、ブロンズ、シラスバルーン、セラミックバルーン、マイクロバルーン、パールマイカ等の熱線反射剤や、カーボンブラック、炭素粉末;硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、硫酸カルシウム、メルカライト、ハロトリ石、ミョウバン石、鉄ミョウバン石等の硫酸金属塩;三酸化アンチモン、酸化アンチモン、無水アンチモン酸亜鉛等のアンチモン系化合物;酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジニウム錫、等の金属酸化物;アンモニウム系、尿素系、イモニウム系、アミニウム系、シアニン系、ポリメチン系、アントラキノン系、ジチオール系、銅イオン系、フェニレンジアミン系、フタロシアニン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シュウ酸アニリド系、シアノアクリレート系、ベンゾトリアゾール系等の熱線吸収剤が挙げられる。
これらの中でも、カーボングラファイト、カーボンブラック、酸化アンチモンまたは硫酸バリウムが、熱伝導率低減効果とコストのバランスが優れる点から、好ましい。
【0030】
本発明の製造方法においては、必要に応じて、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン、オレフィン系ワックス、ステアリルアミド系化合物などの加工助剤、フェノール系抗酸化剤、リン系安定剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類などの耐光性安定剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を添加させても良い。
【0031】
本発明の製造方法においては、上記材料を同時または、原料ホッパーとは別のサイドフィーダー等を用いて逐次、押出機に供給し、押出機内で溶融混練した後、押出機内で適切な温度まで冷却後、押出機の先端に設けられた複数の小孔を有するダイから、循環加圧冷却水中に未発泡状態で押出し、即断して得た顆粒を遠心脱水機で集約、脱水する工程を基本とする。
【0032】
本発明で用いられる押出機としては、一般的な押出機、具体的には、単軸押出機、二軸押出機、タンデム押出機、それらを組み合わせたものが用いられる。
【0033】
本発明のおける発泡剤の圧入時期は特に限定されないが、原料樹脂が溶融あるいは半溶融状態となった後、できるだけ早く圧入されることが好ましい。圧入時期が遅いほど、発泡剤が樹脂中に均一分散されて溶解される前に押出される可能性があり、予発・成形時に均一な気泡を有する発泡体が得られず、品質の劣化を招く恐れがある。
【0034】
本発明においては、圧入された発泡剤は、押出機先端に向かって流れていく過程で、溶解圧よりも10MPa以上高い圧力を維持することが好ましい。ここでいう「溶解圧」とは、一般的な方法、例えば、磁力支持天びん装置で測定された任意の樹脂に対する任意の温度での静的溶解圧を意味する。
押出機内が局所的でも溶解圧未満あるいは溶解圧付近の圧力になる場合は、その地点で発泡剤の急激な拡散に伴う発泡剤の不分散が発生し、予発・成形時に均一な気泡を有する発泡体が得られず品質の劣化を招く恐れがある。
【0035】
本発明の製造方法においては、樹脂中に発泡剤、造核剤、その他添加剤が溶解あるいは均一分散され、適切な温度まで冷却された溶融混練物は、押出機先端に取り付けられたダイから、加圧された冷却水中に押し出される。
【0036】
本発明で用いられるダイリップは特に限定されないが、例えば、直径0.3mm〜2.0mm、好ましくは0.4mm〜1.0mmの小孔を有するものが挙げられる。
【0037】
本発明の製造方法における、ダイより押し出される直前の溶融混練物の温度は、発泡剤を含まない状態での熱可塑性樹脂のガラス転移温度+40℃〜100℃、より好ましくはガラス転移温度+50℃〜70℃まで冷却されることが好ましい。ダイより押し出される直前の溶融混練物の温度がガラス転移温度+40℃よりも低い場合は、吐出樹脂の粘度が高すぎて、ダイリップで詰まってしまい、実質小孔開口率の低下のために得られる樹脂粒が変形したりする場合がある。一方で、ダイより押し出される直前の溶融混練物の温度がガラス転移温度+100℃よりも高い場合は、吐出樹脂が完全に固化されず、発泡してしまう場合や、吐出樹脂の粘度が低すぎて、安定的に加圧冷却水中に吐出できず、実質小孔開口率が低下する場合がある。
【0038】
本発明の製造方法における冷却水の加圧条件としては、1.5MPa超3.5MPa未満の圧力が好ましい。炭素原子数3あるいは4の脂肪族炭化水素系の発泡剤を3〜10重量部圧入する際に、冷却水の加圧条件が1.5MPa以下では、圧力開放速度が大きくなりすぎて、得られる粒子が既に発泡する可能性がある。一方、冷却水の加圧条件が3.5MPa以上では、高圧を維持するための設備が高価になったり、大幅な設備改造を必要とする場合や、吐出樹脂がダイリップで詰まってしまい、実質小孔開口率の低下から得られる樹脂粒が変形したりする場合がある。
ここで、圧力開放速度とは、発泡剤を含んだ溶融樹脂がダイから加圧冷却水中に押出される際に、ダイ中での樹脂圧力と加圧冷却水の水圧との差を吐出速度で除した値で、発泡挙動に深く関わるパラメータである。一般的に、圧力開放速度が大きい方が、発泡力も大きくなる。
【0039】
本発明の製造方法における加圧冷却水の温度は40℃〜80℃が好ましく、特に50〜60℃が好ましい。加圧冷却水の温度が40℃より低い場合は、ダイリップを過度に冷却してしまい吐出樹脂を詰まらせる可能性がある。一方、加圧冷却水の温度が80℃以上の場合は、吐出樹脂が完全に固化されず、発泡してしまう可能性がある。
【0040】
本発明の製造方法における加圧冷却水に押出された樹脂を切断する切断装置としては特に限定されないが、例えば、ダイリップに接触する回転カッターで切断されて小球化され、加圧循環冷却水中を発泡することなく、遠心脱水機まで移送されて脱水・集約される装置、等が挙げられる。
【0041】
以上のようにして得られる未発泡熱可塑性樹脂粒は、従来公知の予備発泡工程、例えば、加熱水蒸気によって10〜80倍に発泡させる工程を経て、一定時間養生させた後、型内成形して発泡成形品が得られる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
[発泡性熱可塑性樹脂粒の作製]
ポリスチレン[PSジャパン(株)製、G0002]100重量部に対して、タルク[林化成株式会社製、商品名:TALCAN PAWDER PK−Z]0.2重量部および脱臭ブタン(イソブタン:ノルマルブタン=33:67)5重量部を、単軸押出機(第1押出機)と単軸押出機(第2押出機)が直列に連結したタンデム押出機に、投入した。
第1押出機において、樹脂温度226℃にて溶融混練を行い、第2押出機内で樹脂温度166℃まで冷却した後、第2押出機の先端に取り付けられた直径0.7mm、ランド長3.0mmの小孔を40個有するダイリップから、吐出量50kg/時間で、温度60℃および加圧条件2.3MPaの加圧循環水中に押出した。この際、ダイ圧力は14MPaであった。
押し出された溶融樹脂は、ダイリップに接触する10枚の刃を有する回転カッターを用いて、3400rpmの条件にて切断・小粒化され、遠心脱水機に移送されて、発泡性熱可塑性樹脂粒として回収された。
得られた発泡性熱可塑性樹脂粒は、白色しているものは無視できるほどの数であり、任意に選んだ粒子をカミソリで切断した後、断面を光学顕微鏡[キーエンス社製、VHX−900]を用いて倍率100倍にて観察した結果、気泡は確認されなかった。
[熱可塑性樹脂予備発泡粒子の作製]
得られた発泡性熱可塑性樹脂粒100重量部に、ブロッキング防止剤としてステアリン酸亜鉛[川村工業(株)製]0.1部、ハイサイクル化剤としてリケマールVT−50[理研ビタミン製]0.1部をドライブレンドし、加圧予備発泡機[大開工業製、BHP−300]に所定量仕込み、蒸気圧1.2kg/cmの水蒸気にて、缶内加圧圧力0.02MPaに保持した状態で30秒間加熱して、約60倍の発泡倍率を有する予備発泡粒子を得た。
得られた予備発泡粒子を任意に選んで上記同様の断面観察を行った結果、ボイドや不規則なセルサイズは確認されず、一定の範囲内で均一なセルを有していた。
[熱可塑性樹脂型内発泡成形体の作製]
得られた予備発泡粒子を300mm×450mm×25mmの金型を有する成形機[ダイセン工業製KR−57]を用いて、得られた予備発泡粒子を前記金型内に充填した後、0.06MPa(ゲージ圧)の水蒸気を用いて20秒間加熱して型内成形した結果、問題なく発泡成形体を得ることができた。
【0044】
(実施例2)
[発泡性熱可塑性樹脂粒の作製]
発泡剤としての脱臭ブタン量を7重量部に、ダイ圧力を13MPaに、冷却水の加圧条件を3.3MPaに変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡性熱可塑性樹脂粒を得た。
得られた発泡性熱可塑性樹脂粒は、白色しているものは無視できるほどの数であり、任意に選んだ粒子をカミソリで切断した後、断面を光学顕微鏡にて観察した結果、気泡は確認されなかった。
[熱可塑性樹脂予備発泡粒子の作製]
得られた発泡性熱可塑性樹脂粒を、実施例1と同様の操作を行い、約70倍の発泡倍率を有する予備発泡粒子を得た。
[熱可塑性樹脂型内発泡成形体の作製]
得られた予備発泡粒子を、実施例1と同様の操作を行い、問題なく発泡成形体を得ることができた。
【0045】
(比較例1)
[発泡性熱可塑性樹脂粒の作製]
循環水の圧力を1.5MPaにした以外は、実施例1と同様の操作により、発泡性熱可塑性樹脂粒を得た。
得られた発泡性熱可塑性樹脂粒は、30%程度の割合で白色化しており、それら白色粒子をカミソリで切断した後、断面を光学顕微鏡にて観察した結果、一部気泡が確認された。
[熱可塑性樹脂予備発泡粒子の作製]
得られた発泡性熱可塑性樹脂粒を、実施例1と同様の操作を行い、予備発泡粒子を得た。
得られた予備発泡粒子の断面を光学顕微鏡にて観察した結果、粒子内の気泡は不均一なものであった。
【0046】
(比較例2)
[発泡性熱可塑性樹脂粒の作製]
循環水の圧力を1.5MPaにした以外は、実施例2と同様の操作により、発泡性熱可塑性樹脂粒を得た。
得られた発泡性熱可塑性樹脂粒は殆どが白色しており、それら白色粒子をカミソリで切断した後、断面を光学顕微鏡にて観察した結果、一部気泡が確認された。
[熱可塑性樹脂予備発泡粒子の作製]
得られた発泡性熱可塑性樹脂粒を、実施例1と同様の操作を行い、予備発泡粒子を得た。
得られた予備発泡粒子の断面を光学顕微鏡にて観察した結果、粒子内の気泡は不均一なものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、発泡剤、造核剤および、その他の添加剤を押出機内で溶融混練し、複数の小孔を有するダイから加圧冷却水中に未発泡状態で押出し、ダイに接する回転カッターで切断して小粒化する発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法であって、
発泡剤として、炭素原子数3あるいは4の脂肪族炭化水素系発泡剤を、熱可塑性樹脂100重量部に対して3〜10重量部圧入し、
かつ、加圧冷却水の圧力が1.5MPa超3.5MPa未満であることを特徴とする、発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法。
【請求項2】
発泡剤がブタンであることを特徴とする、請求項1記載の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度が100〜120℃であることを特徴とする、請求項1または2記載の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法。
【請求項5】
加圧冷却水の温度が40℃〜80℃であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の発泡性熱可塑性樹脂粒の製造方法。


【公開番号】特開2013−22911(P2013−22911A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162009(P2011−162009)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】