説明

発熱体

工業炉に用いるための発熱体であって、その発熱体に対してより高い電圧の使用を可能とする発熱体を開示する。この発熱体は、48〜75体積%の酸化物相を含む二珪化モリブデン系材料から成る発熱ゾーン、および最大25体積%までの酸化物相を含む二珪化モリブデン系材料から成る2つの端子部を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくとも1つの発熱ゾーンおよび2つの端子部を含む二珪化モリブデン型の発熱体全般に関する。より詳細には、二珪化モリブデン系材料から成る発熱ゾーンを含む発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
二珪化モリブデン材料の発熱体は、1000℃超などの比較的高温で運転される工業炉において、そのような高温での酸化に耐えるその能力のために、広く用いられている。この酸化耐性は、表面上にシリカガラスの薄い接着性の保護層が形成される結果である。
【0003】
このタイプの発熱体の例を図1に示す。発熱体1は、2シャンク発熱体であり、直径がdおよび長さがLeである発熱ゾーン3、ならびに直径がDおよび長さがLuである2つの端子部2を含み、前記端子部は、発熱ゾーン3の各端部に備えられている。2つのシャンク部は、本質的に平行であり、互いの間の距離aで配置されている。
【0004】
使用時は、発熱ゾーンが炉の内部に配置され、端子部が炉壁を通されて、炉の外部で電気接続される。端子部は通常、発熱ゾーンと同じ材料から成るが、電流密度を低くし、従って温度を低下させる目的で、発熱ゾーンよりも大きい直径を持つ。
【0005】
典型的な寸法の発熱体において、発熱体に提供された電力の5〜10%が、端子部において熱として失われる。この熱は、発熱体の効率に寄与するものではない。逆に、端子部が強く加熱されると、例えば、端子部とリードとの接続に問題を引き起こすことがある。
【0006】
このタイプの発熱体を用いることができる用途の例としては、これらに限定されないが、熱処理、鍛造、焼結、ガラス溶融、および精錬用の工業炉が挙げられる。このタイプの発熱体はまた、放射管および実験炉にも用いることができる。
【0007】
既知の発熱体の一例が、特許文献1に開示されている。この発熱体は、二珪化モリブデンの粉末冶金組成物およびSiO2リッチのガラス相から形成される。このエレメントは、U字型の発熱ゾーンおよび2つの端子部を有し、ここで、端子部は、発熱ゾーンよりも厚い。
【0008】
発熱体の別の例は、特許文献2に開示されている。この発熱体は、ネットワーク構造を持つ二珪化モリブデン粒子から本質的に構成される二珪化モリブデン系のセラミック複合物、ならびに珪素含有酸化物およびガラスから成る群より選択される少なくとも1つの材料から構成される第二相から成る。第二相は、前記ネットワーク構造中に、二珪化モリブデンの粒界に沿ってネット様の形状で分布される。第二相は、20から45体積%の量で存在する。
【0009】
特許文献3には、耐ペスト性を持つとされる発熱体が開示されている。端子部は、30〜60体積%の酸化物相を含む二珪化モリブデン材料から成り、発熱ゾーンは、5〜25体積%の酸化物相を含む二珪化モリブデン材料から成る。
【0010】
経済的および環境的な目的のために、工業炉を用いる場合、炉の運転温度を低下する必要なしにエネルギー消費量の低減が可能であることが望ましい。従って、発熱体の電力ロスを最小限に抑えることができることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3,607,475号
【特許文献2】米国特許第6,211,496号
【特許文献3】特開2007‐128796号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、工業炉での使用に適し、高電圧、低電流で用いることができる発熱体を提供することである。本発明のさらなる目的は、工業炉のエネルギー効率の良い運転を可能とする発熱体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの目的は、独立請求項1の主題によって達成される。好ましい態様は、従属請求項に提供される。
【0014】
本発明に従う発熱体は、少なくとも1つの発熱ゾーンおよび2つの端子部を含む。発熱ゾーンの少なくとも一部分は、第一の二珪化モリブデン系材料から成り、この第一の二珪化モリブデン系材料は、48〜75体積%の非導電性化合物を含む。2つの端子部のうちの少なくとも一方の少なくとも一部分は、第二の二珪化モリブデン系材料から成り、前記第二の二珪化モリブデン系材料は、最大25体積%までの非導電性化合物を含む。
【0015】
第一および第二の二珪化モリブデン系材料中の非導電性化合物の含有量が異なることにより、この2つの材料の抵抗率が異なることになる。第一の二珪化モリブデン系材料の抵抗率は、第二の二珪化モリブデン系材料の抵抗率よりも著しく高い。それにより、発熱体の発熱ゾーンの抵抗率が、端子部の抵抗率よりも著しく高くなる。そして、このことが、端子部と比較して、発熱ゾーンで発生するエネルギーを高め、従って温度を高くすることになる。
【0016】
本発明に従う発熱体は、提供されたエネルギーをより効率的に利用することができる。
【0017】
本願の目的のために、非導電性化合物は、1000〜1600℃の温度範囲において、103Ωm超の抵抗率を有する化合物として見なされるべきである。本発明の1つの態様によると、非導電性化合物は、酸化物相、すなわち、SiO2またはAl23である。さらなる別の選択肢としては、これらに限定されないが、炭化珪素、特にSiC、および窒化珪素が挙げられる。
【0018】
当業者であれば理解されるように、二珪化モリブデン系材料中のモリブデンの一部は、主としてタングステンおよびレニウム、ならびにより低い度合いでクロムと置換されていてよい。そのような置換は、本技術分野において、機械特性および/または腐食特性を調整するために行われるものであり、電気特性に与える影響は限定的である。本願を通して用いられる「二珪化モリブデン系材料」という用語は、タングステン、レニウム、およびクロムによる置換に関する、二珪化モリブデン材料を主体とする発熱体のそのような公知の変形を含むことは理解されるべきである。第一および第二の二珪化モリブデン系材料には、不可避の不純物が常に存在する。
【0019】
発熱ゾーンは、例えば、適切には直径2〜15mm、好ましくはおよそ3〜12mmであるロッドの形態であってよい。発熱ゾーンは、発熱体の意図される用途に応じて、直線状であっても、またはU字型を例とする曲がった形状であってもよい。発熱体はまた、らせん形状の発熱体であってもよい。ロッドの断面は、通常は円形であってよいが、用途に応じては、楕円形または長方形を例とするその他の幾何学的形状であってもよい。
【0020】
好ましい態様によると、発熱ゾーンは、第一および第二の末端部を有してよい。第一の端子部は、発熱ゾーンの第一の末端部に提供され、第二の端子部は、発熱ゾーンの第二の末端部に提供される。
【0021】
発熱ゾーンはまた、複数の発熱ゾーンセクションを含んでもよく、この場合、少なくとも1つは、第一の二珪化モリブデン材料から成る。1つの別の選択肢としての態様によると、発熱ゾーンは、複数の発熱ゾーンセクションを含み、ここで、少なくとも、対応する端子部と接続された発熱ゾーンセクションは、第一の二珪化モリブデン系材料から成る。
【0022】
端子部は、ロッド形状であってよく、発熱ゾーンと同一の直径を有していてよいが、また、発熱ゾーンより太くても、または細くてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】発熱ゾーンおよび2つの端子部を含む、本発明に従うU字型2シャンク発熱体を示す図である。
【図2】発熱ゾーンが複数のセクションを含む、本発明の別の選択肢としての態様に従うU字型2シャンク発熱体を示す図である。
【図3】本発明の1つの態様に従う4シャンク発熱体を示す図である。
【図4】本発明に従う発熱体のらせん形状の発熱ゾーンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、発熱ゾーン3、および発熱ゾーン3の各末端部に2つの端子部2を有する発熱体1の一例を示している。図示した発熱体1は、2シャンクU字型発熱体である。しかし、本発明に従う発熱体は、4シャンク発熱体、らせん形状発熱体、または直線状発熱ゾーンを有する発熱体など、その他の形状であってもよい。発熱体はまた、2つ以上の発熱ゾーンおよび3つ以上の端子部を有していてもよい。さらに、発熱ゾーンは、複数の発熱ゾーンセクションに分割されていてもよい。
【0025】
図1において、端子部2の各々は、発熱ゾーンの直径dよりも大きい直径Dを有する。しかし、端子部2は、発熱ゾーン3と本質的に同一の直径を有していてもよいことには留意されたい。
【0026】
上記で開示するように、酸化物相を含む二珪化モリブデン系材料は、発熱体としての使用について既知のものである。炭化珪素または窒化珪素などの他の非導電性化合物もまた、想定することができる。以下では、限定されない例として、非導電性化合物として、本発明の好ましい態様を表す酸化物相を用いて本発明を説明する。酸化物相は、材料中に均質に分布しており、また、高温による酸化の結果として、発熱体の表面にも存在する。しかし、本開示の目的において、特定量の酸化物相を含む二珪化モリブデン系材料は、酸化物相の量が材料全体に分布していると解釈するべきである。酸化物相は、二珪化モリブデンの粒界に沿って材料全体に均質に分布している。このような二珪化モリブデン系材料はまた、本質的にMoSi2および酸化物相から成るサーメットであると述べることもできる。
【0027】
第一の二珪化モリブデン系材料の酸化物相は、SiO2系、Al23系、または本質的にSiO2およびAl23を含む化合物であってよい。この酸化物相はまた、発熱体の製造に用いられる原料に起因する不純物要素を含む場合もある。
【0028】
本発明に従う発熱体の発熱ゾーンの少なくとも一部分は、第一の二珪化モリブデン材料から成り、前記第一の材料は、48〜75体積%の酸化物相を含む。好ましい態様によると、第一の二珪化モリブデン材料中の酸化物相の含有量は、50〜68体積%であり、さらにより好ましくは、52〜63体積%である。
【0029】
発熱ゾーンに用いられる第一の二珪化モリブデン系材料の酸化物含有量が相対的に高いことにより、この材料の抵抗率は、高いが、材料が導電性を確実に示すには十分に低いものとなることが確保される。
【0030】
好ましい態様によると、第一の二珪化モリブデン系材料は、ムライトを主体とする酸化物相を含む。ムライトは、一般式3Al23・2SiO2を有する。別の好ましい態様によると、第一の二珪化モリブデン系材料の酸化物相は、好ましくは酸化物相の少なくとも60体積%の量のムライト、およびモンモリロナイト群から選択されるクレイ、好ましくはベントナイトを含む。主成分としてムライトを含む酸化物相を用いることにより、発熱体の発泡温度(bubble temperature)、すなわち発熱体の表面に泡が形成される温度が高められることが見出された。発泡温度は、1200℃およびそれを超える温度などの高温で発熱体が使用される予定である場合に制限因子となる。
【0031】
しかし、酸化物相がムライトを主体とするものである場合、焼結がより困難となる。従って、材料の焼結性を改善するものであるベントナイトなどのクレイを添加することが好ましい。
【0032】
本発明に従う発熱体の端子部のうちの少なくとも一つの少なくとも一部分は、第二の二珪化モリブデン系材料から成り、前記第二の材料は、最大25体積%までの酸化物相を含む。この基準を満たす適切な二珪化モリブデン系材料の例は、KANTHAL(登録商標)SUPER 1700およびKANTHAL(登録商標)SUPER 1800の商品名で販売されている、発熱体に用いられる材料である。発熱体の好ましい態様によると、前記端子部の一部分は、5〜18体積%の酸化物相、好ましくは、10〜18体積%の酸化物相を含む二珪化モリブデン系材料から成る。
【0033】
第二の二珪化モリブデン系材料の酸化物相は、好ましくは、クレイであるか、またはシリカ系であるか、またはさらには本質的にシリカから成る。しかし、シリカの一部は、所望される場合は、Al23で置換されていてもよい。
【0034】
発熱ゾーンおよび端子部が異なる二珪化モリブデン系材料から成るという事実により、発熱体は、その異なる部分が異なる抵抗率を有することになる。より詳細には、発熱ゾーンの抵抗率は、端子部の抵抗率よりも高くなる。このことにより、従来の二珪化モリブデン材料の発熱体と比較して、端子部での電力ロスが低減され、および同一の発熱体温度および使用電力に対してより高い電圧を用いることができるようになる。さらに、本発明により、端子部での追加的な電力ロスを起こすことなく、発熱ゾーンおよび端子部に同一の直径を用いることが可能となる。端子部は、実際は、本発明の原理を用いることで、発熱ゾーンの直径よりも小さい直径で設計することさえ可能である。
【0035】
1つの態様によると、1もしくは複数の発熱ゾーン全体が、第一の二珪化モリブデン系材料から成り、端子部全体が、第二の二珪化モリブデン系材料から成る。
【0036】
本発明のさらなる態様によると、発熱体の発熱ゾーンの二珪化モリブデン系材料は、所定の温度において、端子部の二珪化モリブデン系材料の抵抗率の少なくとも2倍の抵抗率を有する。好ましくは、発熱ゾーンの二珪化モリブデン系材料の抵抗率は、端子部の二珪化モリブデン系材料の抵抗率の少なくとも2.5倍である。
【0037】
二珪化モリブデン系材料は、既知の方法に従って作製することができる。適切な方法の一例は、微細に分解した二珪化モリブデンを微細に分解した酸化物系材料と混合することである。所望される場合は、この混合物を非酸化性雰囲気下にて約1000〜1400℃で予備焼結し、予備焼結多孔性材料を作製してよい。最終的な焼結は、その後、およそ1400〜1700℃の温度にて、過剰酸素のない雰囲気下で適切に行われる。当業者であれば、作製された材料中の酸化物相の含有量は、二珪化モリブデンと混合する酸化物系材料の量を変化させることで制御することができることが明らかであろう。
【0038】
本開示に従う発熱体は、1もしくは複数の発熱ゾーン、および端子部を別々に作製することで製造してよい。その後、不活性ガス雰囲気下での融接を例とする従来の方法によって、端子部を発熱ゾーンに溶接する。
【0039】
本発明の別の選択肢としての態様によると、発熱体は、2つ以上の発熱ゾーンを有し、この場合、各発熱ゾーンは、端子部接続によって隣接する発熱ゾーンから分離される。端子部接続は、炉壁を通って炉の外部へ延びるように適合され、炉の外部で電気接続される。
【0040】
本発明のなお別の選択肢としての態様によると、発熱体は、複数の発熱ゾーンセクションに分割された発熱ゾーンを有する。発熱ゾーンセクションの少なくとも1つは、第一の二珪化モリブデン系材料、すなわち、48〜75体積%の酸化物相を含む二珪化モリブデン系材料から成る。発熱ゾーンのその他の1もしくは複数のセクションは、同一の二珪化モリブデン系材料から成っていても、または第一および第二の両方の二珪化モリブデン系材料とは異なる酸化物相含有量である第三の二珪化モリブデン系材料を例とする、異なる二珪化モリブデン系材料から成っていてもよい。そのような発熱体の一例を図2に示す。
【0041】
図2の発熱体1は、対応する端部で互いに接続された複数の発熱ゾーンセクション3a、4、3bから成る発熱ゾーンを含むU字型2シャンク発熱体1である。3aおよび3bのセクションは、本質的に直線状であるロッドを構成し、前記ロッドは、曲がった形状のセクション4を介して互いに接続されている。曲がった形状のセクション4と接続した端部とは反対側のセクション3a、3bの端部に、発熱体の端子部2が提供される。セクション3a、3bの少なくとも一方、好ましくは両方は、48〜75体積%の酸化物相を含む第一の二珪化モリブデン系材料から成る。曲がった形状のセクション4は、48〜75体積%などの高い酸化物相含有量を有する二珪化モリブデン系材料から成っていてよいが、端子部の二珪化モリブデン系材料などの標準的な二珪化モリブデン系材料から成っていてもよい。
【0042】
発熱体は、意図される用途に適するいかなる幾何学的形状であってもよいことには留意されたい。発熱体は、例えば、図3に示すように、4シャンク発熱体5であってよい。発熱体はまた、らせん形状発熱体、すなわち、図4に示すように、らせん形状の発熱ゾーン6を有する発熱体であってもよい。しかし、図4には発熱体の端子部は示していない。発熱体はまた、直線状のロッドまたはワイヤであってもよく、これが発熱ゾーンを構成し、そのロッドまたはワイヤの各端部に端子部が提供される。ロッドの断面は、通常は円形であってよいが、用途に応じて、楕円形または長方形を例とするその他の幾何学形状を有していてもよい。
【0043】
発熱ゾーンは、複数の発熱ゾーンセクションを含んでよく、この場合、各セクションは、異なる酸化物相含有量の材料から成る。これにより、設計された抵抗率プロファイル、従って対応する発熱プロファイルが、発熱体の発熱ゾーンに沿って提供される。
【0044】
1もしくは2つ以上の端子部は、複数の端子部セクションを含んでよく、この場合、端子部セクションの少なくとも1つは、第二の二珪化モリブデン系材料から成り、端子部セクションの別の少なくとも1つは、第一の二珪化モリブデン系材料から成るか、または第一の二珪化モリブデン系材料よりは少ないが第二の二珪化モリブデン系材料よりは多い酸化物含有量である二珪化モリブデン系材料から成る。
【0045】
本開示に従う発熱体はまた、発熱体の発熱ゾーンと端子部との間に位置する中間セクションを含んでいてもよい。そのような中間セクションは、好ましくは第一と第二の二珪化モリブデン系材料の酸化物相含有量の間である酸化物含有量を有する第三の二珪化モリブデン系材料から成っていてよい。態様によると、そのような中間セクションの酸化物相含有量は、発熱ゾーン近傍の中間セクションの一部の酸化物相含有量が、発熱ゾーン材料の酸化物相含有量と同一か近いものであり、端子部の近傍の中間セクションの一部が、端子部材料の酸化物相含有量と同一か近いものであるように、徐々に変化する。このことにより、中間セクション全体にわたって電気抵抗率を徐々に変化させることが可能となる。
【0046】
理論計算
理論計算は、以下の式1に示すステファンボルツマンの法則を用いて行い、ここで、Csはステファンボルツマン定数、εは放射率、Teは発熱体温度、およびTfは炉の温度である。
式1 p = Csε(Te4 − Tf4
【0047】
発熱ゾーンの表面負荷pの計算は、式2を用いて行い、ここで、Pは印加電力であり、Aetotは、発熱体の発熱ゾーンの総表面積である。
式2 p = P/Aetot
【0048】
計算はすべて、炉の温度1400℃、および炉外部の温度25℃に対して行った。放射率εは、0.7に設定し、これは、発熱体に用いられる二珪化モリブデン系材料の通常の放射率に本質的に対応するものである。
【0049】
計算はすべて、図1に示す2シャンク発熱体1に対して行った。この発熱体は、発熱ゾーン直径dが6mm、端子部直径Dが12mm、発熱ゾーン長さLeが500mm、端子部長さLuが500mm、およびシャンク距離aが60mmである。
【0050】
端子部の抵抗率に対する発熱ゾーンの抵抗率の比率を変化させることにより、発熱体の温度、ならびに炉の内部および外部の端子部の最低温度を計算することができる。表1から分かるように、発熱ゾーンの抵抗率が端子部の抵抗率に等しいケース、ならびに端子部と比較して発熱ゾーンの抵抗率の方が2、2.5、4、5、および10倍大きいケースについて計算を行った。
【0051】
理論計算の結果を表1に示す。結果から、炉の外部の最低端子部温度が、発熱ゾーンの抵抗率の増加と共に大きく低下することが分かる。さらに、これらの計算から、本質的に同一の電力および発熱体温度を維持した状態で、用いる電圧を、端子部の抵抗率が発熱ゾーンと同一である発熱体における約18Vから、発熱ゾーンの抵抗率が端子部よりも10倍高い発熱体における約57Vまで高めることができることが明らかである。
【0052】
【表1】

【0053】
抵抗率試験
本発明に従う発熱体の発熱ゾーンに用いられる二珪化モリブデン系材料の複数のサンプルについて抵抗率を測定した。サンプルは、二珪化モリブデン系材料を作製するための従来の方法に従って作製した。サンプルの作製に用いた原料を表3に示す。二珪化モリブデン相の量、ならびに酸化物相の量および多孔率、さらには理論密度、および焼結後に得られた密度も表3に示す。
【0054】
表2は、用いた2つの異なるカオリナイトクレイおよび2つの異なるベントナイトクレイのおおよその組成を示す。しかし、これらのクレイは、少量の追加要素を含むことには留意されたい。
【0055】
抵抗率の決定は、表3に示すサンプルのロッドの抵抗を室温で測定し、抵抗率=抵抗*面積/長さ、の式を用いて抵抗率を算出することで行った。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
表3に示す結果を、例えば、Kanthal(登録商標)Super 1700の商品名で市販されている発熱体に用いられる従来の二珪化モリブデン系材料の抵抗率であるおよそ0.3Ωmm2/mと比較することができる。
【0059】
75.4体積%の酸化物相を含むサンプル1は、その抵抗率が非常に高いため、発熱体への使用には適さない。実際、これは抵抗率が非常に高いため、本願では絶縁体と見なし得るものである。しかし、サンプル1よりも酸化物相が僅かに少ないだけであるサンプル2の場合、抵抗率は、この材料が電流を通すのに十分な低さである。さらに、酸化物相の含有量が高いサンプル8は、高い抵抗率を示すが、それでも導電性である。これらの結果から、ヒーターとして用いられる二珪化モリブデン系材料は、酸化物相の含有量を75体積%以下とすべきであることが示される。
【0060】
サンプル3および4では、本質的に同量の酸化物相を原料として用いたが、異なる点は、サンプル4のカオリンの半分をAl23に置換したことである。焼結後、サンプル4は、サンプル3よりも酸化物相の含有量が高かった。サンプル3は、サンプル4よりも高い抵抗率を示した。
【0061】
サンプル2、3、4、および8の結果は、約70%の酸化物相を含む二珪化モリブデン系材料において、約20Ωmm2/mのオーダーの抵抗率を得ることが可能であることを示している。
【0062】
サンプル5は、サンプル2〜4よりも高い量の二珪化物相を含み、発泡温度のおよそ1600℃までの上昇を示した。これは、それぞれおよそ1480℃および1440℃の発泡温度を示したサンプル3および4と比較することができる。さらに、サンプル5はまた、上述の従来の二珪化モリブデン系材料よりも相当に高い抵抗率も有する。
【0063】
サンプル4および8は、同一の量の同一の原料から作製したが、サンプル8は、サンプル4よりも高い密度へ焼結した。サンプル4および8は、同一の抵抗率を示した。
【0064】
サンプル7の測定密度は、理論密度よりも高い。この理由は、サンプル焼結時の温度および雰囲気の誤りにより、MoSi2相の珪素の一部が蒸発し、Mo5Si3相の形成を引き起こしたためと考えられる。Mo5Si3相は、MoSi2相よりも高い密度を有する。しかし、ムライトおよびベントナイトの両方を含むサンプル7は、本質的に最高密度(full density)まで焼結することが可能であると考えられる。
【0065】
サンプル7は、試験サンプル中で最小の抵抗率を示し、試験サンプル中で最小の酸化物相含有量を有していた。しかし、それでもその抵抗率は、上述の従来の二珪化モリブデン系材料の抵抗率の2倍超である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの発熱ゾーンおよび少なくとも2つの端子部を含む発熱体であって、前記発熱ゾーンの少なくとも一部分は、第一の二珪化モリブデン系材料から創られており、前記第一の二珪化モリブデン系材料は、48〜75体積%の非導電性化合物を含み、および前記端子部のうちの1つの少なくとも一部分は、第二の二珪化モリブデン系材料から創られており、前記第二の二珪化モリブデン系材料は、最大25体積%までの非導電性化合物を含むことを特徴とする、発熱体。
【請求項2】
前記第一の二珪化モリブデン系材料の前記非導電性化合物が、SiO2系、Al23系、または本質的にSiO2およびAl23を含む混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の発熱体。
【請求項3】
前記第二の二珪化モリブデン系材料の前記非導電性化合物が、SiO2系、Al23系、または本質的にSiO2およびAl23を含む混合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の発熱体。
【請求項4】
前記第一の二珪化モリブデン材料が、50〜68体積%、好ましくは52〜63体積%の非導電性化合物を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の発熱体。
【請求項5】
前記第二の二珪化モリブデン材料が、5〜18体積%、好ましくは10〜18体積%の非導電性化合物を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の発熱体。
【請求項6】
前記発熱ゾーンが、複数の発熱ゾーンセクションを含み、ここで、前記発熱ゾーンセクションの少なくとも1つは、前記第一の二珪化モリブデン系材料から創られており、前記発熱ゾーンの少なくとももう1つの別のセクションは、非導電性化合物の含有量がより低い二珪化モリブデン系材料から創られていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の発熱体。
【請求項7】
前記発熱ゾーンと前記端子部との間に位置する中間部分をさらに含み、前記中間部分は、前記発熱ゾーンの酸化物含有量よりも低いが、前記端子部の非導電性化合物の含有量よりも高い非導電性化合物含有量を有する第三の二珪化モリブデン材料から創られていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の発熱体。
【請求項8】
前記非導電性化合物が、ムライトを主体とするものである、請求項1から7のいずれか一項に記載の発熱体。
【請求項9】
前記非導電性化合物が、ムライト、およびモンモリロナイト群、好ましくはベントナイトから選択されるクレイを含むものである、請求項1から8のいずれか一項に記載の発熱体。
【請求項10】
前記酸化物相が、少なくとも60体積%のムライトを含む、請求項10に記載の発熱体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−526355(P2012−526355A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509764(P2012−509764)
【出願日】平成22年5月3日(2010.5.3)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050481
【国際公開番号】WO2010/128935
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(507226695)サンドヴィク インテレクチュアル プロパティー アーゲー (34)
【Fターム(参考)】