説明

発熱性樹脂被覆導線及びその製造方法

【課題】発熱性樹脂被覆導線の耐屈曲性及び耐衝撃性並びに発熱性樹脂被覆導線の高温下の長時間使用において発生する外皮樹脂層の収縮締め付け力を緩和して、内部樹脂層のヒビ割れを防止し、使用中及び取り扱い中の発熱性樹脂被覆導線の断線故障を防止することを課題とするものである。
【解決手段】発熱導線、絶縁層及び検知導線を複合した発熱複合導電線の外面を樹脂被覆した被覆導線であって、発熱複合導電線の全長の外周面の周りに分布し、発熱複合導電線の長手方向に平行に3列以上の複数の断面山型細孔列が形成されてなることを特徴とする発熱性樹脂被覆導線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱性複合導電線を樹脂被覆した耐衝撃性に優れた発熱性樹脂被覆導線に関する。さらに詳しくは、芯材、スパイラル状の発熱線、温度検知線などの線材又は絶縁層若しくは断熱層などの被覆層が複合した複数の断面構造を有する複合導電線の外側表面を押出成形によって樹脂被覆した発熱性樹脂被覆導線であって、耐屈曲性及び耐衝撃性並びに耐熱性に優れた軽量の発熱性樹脂被覆導線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気毛布、電気絨毯等の低温発熱電線は広く使用されている。
例えば、特許文献1には、巻芯の外周に第1の発熱素線をスパイラル状に巻き回し、その周りに、第1の溶断層を設け、その第1の溶断層の外周に第2の発熱素線をスパイラル状に巻き回し、その周りに絶縁シースを形成した発熱電線が開示されている。
特許文献2には、巻芯に第1発熱素線をスパイラル状に巻き回し、その上に耐熱絶縁体層を被覆し、その耐熱絶縁体層の表面に第2発熱素線をスパイラル状に巻き回し、その上に融解樹脂層を被覆し、その融解樹脂層の表面に検知線をスパイラル状に巻き回し、その外側に、絶縁用外被を被覆した発熱電線が開示されている。
特許文献3には、発熱素線と戻り線及び検知線からなる3本の被覆電線を束ねて撚合わせた電線束を熱可塑性樹脂(絶縁シース)で被覆した発熱電線が開示されている。
このように、発熱電線は、発熱素線をスパイラル状に巻き回したり、発熱素線を、断面構造で2重同心2層に分離して配置したり、発熱素線の温度を感知する検知線又は信号線とともに配置したり、径の小さい発熱素線又は検知線が複雑な断面構造で形成されている。そして、これらの低温発熱電線において、複合導電線を被覆する樹脂は熱伝導性が要請され、また、屈曲性の観点からも樹脂厚を厚くすることができない。そして、低温発熱電線に用いる発熱素線及び検知線は、直径が細く(0.2mm以下)、発熱性樹脂被覆導線の繰り返し屈折において及び線材上に重量物が落下したときの衝撃において、細径の発熱素線又は該発熱素線の温度検知線が断線するおそれがある。また、電線の側面からの衝撃によって、細い発熱素線又は検知線の導線が断線するおそれがある。特に発熱複合導電線の外側にある導線が衝撃によって断線する可能性が大きい。
さらに、従来技術の電気毛布、電気絨毯等の低温発熱電線は、全体の低温発熱電線の長さに対して一部の低温発熱電線の上に、座布団のような保温性のあるものが置かれることが多く、この座布団で覆われた範囲が130℃程度にまで異常発熱することがある。しかしながら、検知線によるコントローラは、全体の検知線の温度上昇を検知するものであるので、この短い範囲の温度上昇に対しては、コントローラの温度制御は作動しないことが多い。
例えば、図7の発熱複合導電線の場合、発熱複合導電線製造工程のダイスから押し出される被覆成形時に被覆樹脂層5が延伸されて被覆されているので、被覆樹脂層5が延伸状態のままで冷却固定されている。この延伸歪が残存している発熱複合導電線が異常に発熱保温されると、延伸樹脂の熱収縮が起り、被覆樹脂層5が強く収縮して内部絶縁層3を高温下で強く締め付ける。このような異常発熱保温の収縮が反復されると、発熱複合導電線が締め付けられ、被覆樹脂層5が内部絶縁層3と固着してこの2層間を剥離できなくなり、同時に内部絶縁層3の表面に微細なクラックが発生して、発熱性樹脂被覆導線を屈曲させた場合に、内部絶縁層3が折れて、発熱導線2が断線する。
一方、従来から電線の絶縁層の樹脂被覆には、慣用の電線製造装置の樹脂押出成形機の溶融樹脂押出口から電線を溶融樹脂とともに押し出す押出成型により製造されている。押出成型では、ペレット状の樹脂を押出機のホッパーに投入し、溶融樹脂が押出機内部のスクリューによって押し出される。押し出された樹脂はクロスヘッドに入り、クロスヘッドの内面とニップルの外面の間隙を流れ、ニップルの内部孔の先端から高速で吐出される電線と合流して溶融樹脂が電線の外周表面に隙間なく密着して電線の流れとともにダイスから押し出されて、均一な樹脂厚さの円形樹脂被覆電線を製造することができる(図2及び図3)。
【特許文献1】特開平10−335046号公報
【特許文献2】特開平10−340778号公報
【特許文献3】特開2006−261084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、発熱性樹脂被覆導線の耐屈曲性及び耐衝撃性並びに発熱性樹脂被覆導線の高温下の長時間使用において発生する外皮樹脂層の収縮締め付け力を緩和して、内部樹脂層のヒビ割れを防止し、使用中及び取り扱い中の発熱性樹脂被覆導線の断線故障を防止することを課題とするものである。
第2の課題として、被覆樹脂の使用量を節約するとともに、発熱性樹脂被覆導線の軽量化を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、発熱性樹脂被覆導線の発熱複合導電線に被覆する被覆樹脂層の内周面に発熱複合導電線の長手方向に沿って形成される空間溝を形成することによって、発熱性樹脂被覆導線の耐衝撃性を向上させることを目的とする。
すなわち、本発明は、
(1)発熱導線、絶縁層及び検知導線を複合した発熱複合導電線の外面を樹脂被覆した被覆導線であって、発熱複合導電線の全長の外周面の周りに分布し、発熱複合導電線の長手方向に平行に3列以上の複数の断面山型細孔列が形成されてなることを特徴とする発熱性樹脂被覆導線、
(2)電線製造装置の樹脂押出成形機の溶融樹脂押出口に、内周面が円形断面であり、外周面が3以上の正多角形断面であるニップルを設け、該ニップルの内周面に、発熱複合導電線を連続的に挿通させるとともに、該発熱複合導電線をニップルの外周面に沿って押し出される溶融樹脂とニップルの出口で合流させて電線製造装置の口金に押し出すことを特徴とする第1項記載の発熱性樹脂被覆導線の製造方法、
(3)発熱複合導電線が絶縁中芯の外周にスパイラル状の内部発熱導線を巻き、当該内部発熱導線の外側に内部絶縁層を設け、当該内部絶縁層の外周にスパイラル状の検知導線を巻いた発熱複合導電線である第2項記載の発熱性樹脂被覆導線の製造方法、及び、
(4)発熱複合導電線が中芯の外周にスパイラル状の内部発熱導線を巻き、当該内部発熱導線の外側に内部絶縁層を設け、当該内部絶縁層の外周にスパイラル状の検知導線を巻き、当該検知導線の外側に表面絶縁層を設けた発熱複合導電線である第2項記載の発熱性樹脂被覆導線の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、屈曲に対する耐久性及び電線の長手方向に垂直な方向からの耐衝撃性を大きくするとともに、高温時の外皮樹脂の収縮による内部被覆の締め付けを緩和して内部被覆のヒビ割れを防止することによって、発熱性樹脂被覆導線の耐久性を向上させる効果を達成し、他方、電線の単位長さあたりの表面絶縁層の樹脂材料使用量が減り、軽量化された発熱性樹脂被覆導線を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の6列の断面山型細孔hを内部に有する実施態様の図面によって説明する。この実施の形態は、本発明を制限するものではない。
本発明の発熱性樹脂被覆導線の発熱複合導電線は低温発熱導線用の長尺の導線であり、発熱導線に、芯材、検知導線、断熱層、絶縁層、保護テープ等を複合させて製造することができる。
本発明の発熱性樹脂被覆導線は、図1又は図2の断面図に示す通り、発熱複合導電線6を被覆樹脂層5によって被覆したものであり、発熱性樹脂被覆導線の断面構造において、発熱複合導電線6の外周面と被覆樹脂層5の内面で囲まれた6列の断面山型細孔hが電線の全長に沿って形成されている点に特徴がある。
本発明の断面山型細孔hは、発熱複合導電線の外周面に被覆樹脂層5の6角形状の被覆樹脂の内面7が発熱複合導電線表面と被覆樹脂内面の接近部p及びqで外接した断面山型細孔となる図1(a)のタイプ又は6角形状の内面が発熱複合導電線の表面側に彎曲した凸状面を形成して、図の発熱複合導電線表面と被覆樹脂内面の接近部p及びqで発熱複合導電線の外周面に接している図1(b)のタイプ及び6角形状の内面が外側に向けた凸状面を形成して、発熱複合導電線の外周面に沿うように外接するタイプ(図示していない)の態様がある。最後の態様は山型の頂点の高さが低いので、山型細孔の作用効果が少なくなる。いずれの態様も略6角形状の外周面断面構造のニップルを用いて製造することができる。
なお、図1及び図2の断面形状は設計思想を表現したものであり、この図のように、山型頂点に角度がある断面構造は、発熱性樹脂被覆導線製造時のニップルの出口で発熱複合導電線と溶融樹脂が合流した時点で形成されているが、発熱複合導電線が押し出されて冷却された後の発熱性樹脂被覆導線製品の時点では、図1又は図2の山型細孔の頂点は丸くなり、また、発熱複合導電線表面と被覆樹脂内面の接近部p及びqも点から面になり、6列の断面山型細孔は、発熱複合導電線の図のpとqの間隔より、相当狭くなった長さを底辺として、その中央が山型状に丸く盛り上がった形状の断面山型形状の細孔となる。
【0007】
本発明の発熱性樹脂被覆導線は、公知の連続式樹脂被覆電線製造装置のニップルの形状を変更して製造することができる。そして、発熱複合導電線の外周面に分布させる細孔の数、細孔の配置分布、寸法は、ニップルの形状及び装置の操作条件を調節して製造することができ、特に、断面山型細孔列の形状及び寸法は、これら操作条件に対応して、ニップルの内面と発熱複合導電線の外面との間隙から各断面山型細孔列へ通じる空気圧を、ニップルの発熱複合導電線挿入口において、適宜増減することによって、調整することができる。
図1では、発熱性樹脂被覆導線が被覆樹脂層5に覆われており、断面山型細孔の数が6列となっている。該細孔の列数は、3列以上、好ましくは、5〜8列にすることができる。列数が増加するほど均一性が増加するが8列を超えても作用効果は殆ど同一である。
本発明の発熱性樹脂被覆導線は、発熱複合導電線の周囲に存在する断面山型細孔によって、この細孔の山型形状及び内部の空気の弾力による衝撃緩和が生じ、発熱性樹脂被覆導線が衝撃を受けたとき又は急激に屈曲を受けたときに、発熱複合導電線を構成する極細の発熱導線、検知導線の断線及び極薄の絶縁層、耐熱層が破れることを防止することができる。また、外皮樹脂が熱収縮したときに、被覆外皮樹脂の熱収縮による締め付け力が断面山型細孔の山型形状によって完全に緩和され、発熱複合導電線内の樹脂被覆のヒビ割れを防止する効果を得る。
【0008】
本発明に用いる発熱複合導電線は、公知の発熱性樹脂被覆導線に用いる発熱複合導電線を特に制限なく使用することができ、例えば、図7の斜視図で示す絶縁中芯1、発熱導線2、内部絶縁層3、温度の検知導線4を複合したものを使用することができる。
発熱導線及び検知導線は、極細の銅線、ニッケル線を使用するので、屈曲(内部絶縁層3のヒビ割れに起因するものも含む)及び衝撃に対して断線しやすい。特に、発熱導線の温度を制御するために必要な検知導線の断線は安全上重要な問題となる。
本発明の発熱性樹脂被覆導線は公知の電線樹脂被覆装置のクロスヘッドのニップルの外周面の形状を3以上の多角形状にする改造を行うことによって製造することができる。
図2は、公知の連続式電線被覆装置の樹脂の押出機部分と電線が通過するクロスヘッド部分の配置関係を示す説明断面図である。
押出機の円筒形シリンダー内の溶融樹脂は、スクリューSの回転によって、円筒形シリンダーの先端からクロスヘッド内部に圧入される。クロスヘッドは、円筒形シリンダーの方向に対して発熱複合導電線の供給方向が垂直方向になるように設置されていて、複合導電線がニップルNの内部の筒管内を通過する。圧入された溶融樹脂は、クロスヘッドCの内面とニップルNの外周面との隙間を流れてニップルNの内部から吐出する複合導電線の流れと合流して、ダイスDから吐出され、その直後に樹脂被覆複合導電線を水槽の中に潜らせて冷却して巻き取られる。
【0009】
本発明の発熱性樹脂被覆導線の製造方法に用いられる連続式電線被覆装置は、クロスヘッドのニップルの形状を改造している。
通常、連続式導線被覆装置は、図3に示す態様のクロスヘッドの構造を有している。
このクロスヘッドの電線導入口Aに電線が連続的に供給されて、ニップルNの内部円筒空間Bを通って、クロスヘッドの先端からダイスDを通って吐出される。一方、被覆樹脂は押出機で溶融混練されて、押出機からクロスヘッドに射出ゲートGを経由して、クロスヘッドの内面とニップルNの外面の間の間隙を通過する溶融樹脂流となって、ニップルNの先端から吐出される電線の表面に合流して、電線とともに、ノズルから吐出され、水槽の中に潜らせて冷却後巻き取られる。
本発明に用いる連続式導線被覆装置は、公知の導線被覆装置とは、ニップルNの外面の断面形状が3以上の正多角形状になっている点のみが相違する。
図3は、本発明に用いる一態様の連続式導線被覆装置のクロスヘッド部のニップルとダイスの配置状態を示す断面図である。
図3のクロスヘッドは、市販されている電線被覆装置のクロスヘッドであり、被覆すべき導線径は0.3〜5.0mm程度、樹脂被覆後の径は0.5〜7.0mm程度の樹脂被覆導線の製造に使用できる。樹脂被覆導線の被覆装置には、25mm程度の導線まで交換使用可能なクロスヘッドが市販されている。
本発明に用いる被覆樹脂は公知の被覆樹脂であれば特に制限なく使用することができ、例えば塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、フッ素樹脂等を使用することができる。
図3のニップルNは、ニップルN全長の75%程度までは、導線の直径よりは広い均一直径の円筒通路を有していて、この円筒通路の先端部で、導線の外径よりやや大きい径にまで縮径されて、先端部には、導線がちょうど通過する程度の通路が数mmの長さで設けられている。この数mmの通路で導線の円滑な吐出が達成できる。
【0010】
ニップルNの外周は、長さの約75%程度まで、外径は導線供給口から出口方向に向かって断面円形で次第に直径が増大しているが、溶融樹脂の射出ゲートGの位置から先端部までの出口部は、先端角度約60度の角錐形状を形成しながら縮径して角錐形状を形成している。図3のクロスヘッドには、この縮径する角錐形状のニップルNの外面に対向する形の円錐コーン状の内面を有するダイスDが設置されていて、円錐コーンの先端から溶融樹脂で被覆された導線が通過する狭いダイス口通路が繋がっている。
溶融樹脂は、押出機から射出ゲートGを経由して、ニップルNの角錐外周面とダイスDの円錐面の間隙を通過し、ニップルNの内部から吐出される複合導線と合流して、ダイスDの先端通路を通過する。
本発明の樹脂被覆導線の製造方法に用いる図3のニップルNは、外周面に先端方向に向かう3以上の外周平面を有している。
図4のようなニップルNとダイスDの組み合わせの場合は、ダイスDの縮径傾斜角度β(約60度程度にすることができる)は、通常ニップルNの外周角錐の傾斜角度α(約60度程度にすることができる)とほぼ同一であるが、ダイスDの縮径傾斜角度βの方を緩やかにすることが断面山型細孔hの形状を維持する点では望ましい。そして、同様の意味で、ダイスDの孔の入口に溶融樹脂の流れを閉塞させない限りできるだけ、ニップルNの先端をダイスDに近付けるのが望ましい。
また、図5のようなニップルNとダイスDの組み合わせでは、ニップルNの先端に溶融樹脂を内部の導線の流れ方向に合わせて誘導する外面を多角形状にした長い誘導通路Lを有する形状の公知のニップルNの形状を使用することができる。
本発明のニップルの外周縁の正多角形断面とは、必ずしも、幾何学的に正確な正多角形を意味していない。本発明においては、多角形の頂点の位置が中心に対して均等であることを正多角形として示していて、各辺の長さがほぼ同一であることを示している。しかし、正多角形の頂点の角度は、ニップルの外周縁が内に向かって凸であるか、外に向かって凸であるかによって、正多角形の場合の角度より大きくなったり小さくなったりする。さらに、この頂点は、丸みをつけることもできる。
【0011】
図5のニップルNにおいては、ニップルN外周面の多角形状は、ニップルNの角錐形状の表面ではなく、先端の誘導通路L上の表面に設けたものとなる。
図6は、本発明の発熱性樹脂被覆導線の製造中の外周面に外皮樹脂の6角形状の内面を内側に凸にするための凸面を有するニップルNの先端方向から見た断面図である。図6に示すように、本発明の導線被覆装置のニップルNの外周平面の中央部を流れる溶融樹脂は、ニップルNの先端部から吐出される導電線の表面に近いので、導電線面に密着してダイスに移動する。そして、ニップルNの6角形状の角部分を流動する溶融樹脂は、導線の表面から距離があるので遊離した状態で導線に合流して、r−p−qの断面山型細孔を形成したまま発熱複合導電線の表面に合流する。この合流点でニップルNの外周面の多角形状の頂点の高さが突然なくなるので、溶融樹脂流は導線の表面の間に図6で示される断面形状に相当する溶融樹脂層の空間が瞬間的に形成される。この瞬間にニップルNの内面と発熱複合導電線の外面との間隙kからの空気が上記の空間に引き込まれて、発熱複合導電線がニップルNの先端を経由してダイスから吐出されるときに、発熱複合導電線の流れとともに上記空間に空気を含んだままダイスの口金から吐出される。ダイスから吐出されるまでに、最初の断面形状は溶融樹脂の流動によって大きく変化するが細長形状の空気を含む細孔は、ダイスから吐出された後も、導線の外周の近辺に縦長に平行に維持される。
ダイスから吐出された樹脂被覆導線を水槽で冷却すると、樹脂が固化するとともに被覆樹脂層内部の細長細孔空間も被覆樹脂層内部又は被覆樹脂層と被覆導線表面の境界に固定される。
本発明の断面山型細孔列の形状は、ニップルN表面の多角形状(多角形の数、面が平面又は内側に凸、外側に凸等)、寸法及び隣接する多角形頂点との間隔並びに被覆溶融樹脂の溶融粘度、導線の引き出し速度、ニップルNの発熱複合導電線挿入口から細孔列にかける空気圧力の調節によって、相当の範囲に変更させることができる。本発明の断面山型細孔列の形状は、ニップルの出口で発熱複合導電線と溶融樹脂が合流したときは瞬間的にニップルの多角形状の角の形状が頂点にある山型であるが、製造された発熱性樹脂被覆導線においては、角度が丸くなり、全体形状としても水平底面の中央が丸く盛り上がった半円形の山型断面に近くなる。
本発明に用いる発熱複合導電線としては、発熱導線を含み、絶縁層又は耐熱層や検知導線等を含有する複合導電線であれば特に制限なく使用することができ、例えば公知の複合導電線、特に、図7に示すような絶縁中芯1の外周にスパイラル状の発熱導線2を巻き、当該発熱導線2の外側に内部絶縁層3を設け、当該内部絶縁層3の外周にスパイラル状の検知導線4を設けた発熱複合導電線を使用することができ、さらに、発熱複合導電線が中芯の外周にスパイラル状の内部発熱導線を巻き、当該内部発熱導線の外側に内部絶縁層を設け、当該内部絶縁層の外周にスパイラル状の検知導線を巻き、当該検知導線の外側に表面絶縁層を設けたものも好適に使用することができる。
【実施例】
【0012】
実施例
図5のタイプのニップルとダイスの組み合わせを有する電線の樹脂被覆装置[ユニテック社製]のニップルに、図6の断面の6角形状の内面方向に凸状面を有するニップルを備えたものを使用した。
実施例に用いた図5のタイプのニップルの長さは、全長67mm、Lの長さ7mmであり、6角形のニップルの出口における最大外径は2.6mmであり、最小外径は1.8mmであり、平均外径は2.2mmであり、内径は1.6mmである。
このニップルの先端Lを図5のダイスの導入口Uの位置に合わせて固定して、図3のクロスヘッドの中に組み込んで、これに発熱複合導電線と樹脂を供給して、発熱性樹脂被覆導線を製造した。
本実施例は、図7の斜視図に示す構造の発熱性樹脂被覆導線を製造した。発熱複合導電線は、絶縁中芯1の外周にスパイラル状の発熱導線2を巻き、当該発熱導線2の外側に内部絶縁層3を設け、当該内部絶縁層3の外周にスパイラル状の検知導線4を設けた外径1.31mmの発熱複合導電線をニップルの入口に1.94m/秒の速度で供給して、発熱性樹脂被覆導線を製造した。発熱複合導電線の絶縁中芯1は、直径0.5mmのポリエステル線状体を用いて、発熱導線2は、直径0.124mmの銅線を3本収束したものを使用し、絶縁中芯1にワンピッチ0.95mmの間隔でスパイラル状に巻いて使用した。内部絶縁層は、ナイロン12樹脂による厚み0.25mmで被覆して、そのナイロン12樹脂被覆層の上に、ワンピッチ2.5mmの間隔で、検知導線4として直径0.124mmの純ニッケル線をスパイラル状に巻いたものを使用した。
一方、樹脂としては、耐熱軟質ポリ塩化ビニル樹脂ペレット[アプコ社製]を供給し、押出機温度はクロスヘッド付近で170℃になるように、樹脂投入口より155℃から徐々に温度が高くなる設定で行った。そして、クロスヘッド温度170℃、ダイス温度170℃、射出速度0.53Kg/分の条件で押出成形を行った。
得られた発熱性樹脂被覆導線は、外径2.35mmであり、1,000m当たりの重量は4.120kgであった。比較例に対して93gの樹脂量が削減されて、軽量化されていた。
発熱性樹脂被覆導線を切断した断面には、高さ0.15mm、底辺0.27mmの山型の細孔列断面が発熱複合導電線の周囲に6列存在していた。
【0013】
比較例
この比較例において、ニップルの出口部の外径が2.2mmの円形で内径1.6mmで、他の寸法は実施例と同一のニップルを使用し、実施例と同一の条件で発熱性樹脂被覆導線を製造した。得られた発熱性樹脂被覆導線の1,000m当たりの重量は4.213kgであった。この比較例の発熱性樹脂被覆導線を切断した断面には、発熱複合導電線の周囲には細孔はなく、被覆樹脂が密着して被覆されていた。
<耐久試験>
実施例で得た発熱性樹脂被覆導線及び比較例で得た発熱性樹脂被覆導線の耐久試験を、発熱導線及び検知導線の断線の発生を抵抗器で検知して行った。
(1)屈曲試験
発熱性樹脂被覆導線1.3mを台上において、1端に500gの荷重をかけながら、発熱性樹脂被覆導線の中央部を屈曲部として固定して、左右各90度、合計180度の角度での往復の折り曲げを屈曲1回としてカウントして、1,000回毎に発熱導線及び検知導線の断線の発生の有無を調べて、断線を発見したときの屈曲回数を屈曲耐久性とした。
(2)加熱老化試験
130℃の炉内に多数の低温発熱電線を保存し、24時間毎に試験電線を2本1組で取り出し、冷却後に試験電線の樹脂被覆を発熱複合導電線の表面からニッパーで剥離する操作を行ない、低温発熱電線のみを剥離するときに、発熱複合導電線が断線させず剥離できる最大保存時間を記録し、2本の数値の平均を取る。すなわち、剥離可能時間100時間とは、100時間の炉内保存時間のときに、被覆樹脂の剥離操作の際に発熱複合導電線が断線したことを示す。
(3)耐衝撃試験
発熱性樹脂被覆導線(長さ1m)を鉄板の上に置き、中央部を15cm、20cm及び25cmの間隔をあけて固定して、その中央に、250gの鉄球を所定の高さから落下させて、発熱導線及び検知導線の断線の有無を調べた。
各落下試験の高さ毎に30本の発熱性樹脂被覆導線を試験して、各試験で断線した発熱性樹脂被覆導線の本数を調べた。結果を第1表に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
上記測定結果より、本発明の実施例の発熱性樹脂被覆導線は、比較例よりも、耐衝撃試験、加熱老化試験及び屈曲試験で優れた結果を得ている。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、発熱性樹脂被覆導線の使用中の耐屈曲性及び耐衝撃性が向上するので、電気毛布、電気絨毯等の屈折及び重量物が落下するおそれのある電気製品の発熱性樹脂被覆導線として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1(a)】本発明の発熱性樹脂被覆導線の断面図である。
【図1(b)】本発明の発熱性樹脂被覆導線の断面図である。
【図2】公知の連続式電線被覆装置の樹脂の押出機部分と電線が通過するクロスヘッド部分の配置関係を示す説明断面図である。
【図3】本発明の発熱性樹脂被覆導線の製造装置に用いる1態様のクロスヘッドの断面図である。
【図4】本発明の発熱性樹脂被覆導線の製造に用いるニップルとダイスの1態様の断面図である。
【図5】本発明の発熱性樹脂被覆導線の製造に用いるニップルとダイスの他の態様の断面図である。
【図6】本発明の発熱性樹脂被覆導線の製造中のニップル先端位置における導電線と溶融樹脂層の位置関係を示す断面図である。
【図7】本発明に用いる一態様の発熱複合導電線の構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0018】
1 絶縁中芯
2 発熱導線
3 内部絶縁層
4 検知導線
5 被覆樹脂層
6 発熱複合導電線
7 被覆樹脂の内面
A クロスヘッドの電線導入口
B ニップルNの内部円筒空間
S スクリュー
C クロスヘッド
D ダイス
G 射出ゲート
L 誘導通路
N ニップル
H ニップルの先端
U ダイスの導入口
h 断面山型細孔
k ニップルの内面と発熱複合導電線の外面との間隙
p、q 発熱複合導電線表面と被覆樹脂内面の接近部
r 断面山型細孔の頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱導線、絶縁層及び検知導線を複合した発熱複合導電線の外面を樹脂被覆した被覆導線であって、発熱複合導電線の全長の外周面の周りに分布し、発熱複合導電線の長手方向に平行に3列以上の複数の断面山型細孔列が形成されてなることを特徴とする発熱性樹脂被覆導線。
【請求項2】
電線製造装置の樹脂押出成形機の溶融樹脂押出口に、内周面が円形断面であり、外周面が3以上の正多角形断面であるニップルを設け、該ニップルの内周面に、発熱複合導電線を連続的に挿通させるとともに、該発熱複合導電線をニップルの外周面に沿って押し出される溶融樹脂とニップルの出口で合流させて電線製造装置の口金に押し出すことを特徴とする請求項1記載の発熱性樹脂被覆導線の製造方法。
【請求項3】
発熱複合導電線が絶縁中芯の外周にスパイラル状の内部発熱導線を巻き、当該内部発熱導線の外側に内部絶縁層を設け、当該内部絶縁層の外周にスパイラル状の検知導線を巻いた発熱複合導電線である請求項2記載の発熱性樹脂被覆導線の製造方法。
【請求項4】
発熱複合導電線が中芯の外周にスパイラル状の内部発熱導線を巻き、当該内部発熱導線の外側に内部絶縁層を設け、当該内部絶縁層の外周にスパイラル状の検知導線を巻き、当該検知導線の外側に表面絶縁層を設けた発熱複合導電線である請求項2記載の発熱性樹脂被覆導線の製造方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−266414(P2009−266414A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111331(P2008−111331)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(594096885)荏原電線株式会社 (4)
【Fターム(参考)】