説明

発生中の胎児における遺伝子発現を決定するための羊水中の胎児RNA

【課題】 発生中の胎児における遺伝子発現を決定する方法の提供。
【解決手段】 下記のRNAの提供。a.単離された羊水胎児RNA。b.妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて、羊水胎児RNAが得られる工程を包含するプロセスによって得られる、項目aに記載の胎児RNA。c.前記羊水サンプルを処理する前に、細胞集団が該サンプルから取り出される、項目bに記載の胎児RNA。d.前記羊水サンプルを処理する工程が、前記羊水中に存在する細胞集団を単離する工程;該単離された細胞を必要に応じて培養する工程;および該単離された細胞から胎児RNAを抽出する工程を包含する、項目bに記載の胎児RNA。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(政府の利益)
本明細書中に記載される研究は、米国国立衛生研究所によって資金提供された(助成番号NIH HD42053)。米国政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【0002】
(発明の背景)
遺伝障害および先天性異常(出生時欠損とも呼ばれる)は、全生児出生の約3〜5%に生じる(A.RobinsonおよびM.G.Linden,「Clinical Genetic Handbook」,1993,Blackwell Scientific Publications:Boston,MA)。合わせて、遺伝障害および先天性異常は、小児入院の30%を占め(C.R.Scriverら、Can.Med.Assoc.J.,1973,108:1111−1115;E.W.Lingら、Am.J.Perinatal.,1991,8:164−169)、そして先進国におけるすべての小児期死亡の約半数の原因である(R.J.Berryら、Public Health Report,1987,102:171−181;R.A.HoekelmanおよびI.B.Pless,Pediatrics,1998,82:582−595)と見積もられている。米国では、出生時欠損は、乳児死亡の主要な原因である(R.N.Andersonら、Month.Stat.Rep.,1997,Vol.45,No 11,Suppl.2,p.55)。さらに、遺伝障害および先天性異常は、実質的には、長期の障害の一因となり;それらは、多額な医療費に関連し(A.Czeizelら、Mutat.Res.,1984,128:73−103;Centers of Disease Control,Morb.Mortal.Weekly Rep.,1989,38:264−267;S.Kaplan,J.Am.Coll.Cardiol.,1991,18:319−320;C.Cunniffら、Clin.Genet.,1995,48:17−22)、そして罹患した者および/またはその家族への重い心理的負担および感情的負担を生じる。これらの理由および他の理由によって、出生前診断が、妊娠自体の臨床管理の必須の一面として、ならびに遺伝障害の検出、予防、そして最終的には処置に対する重大な工程として、長い間認識されてきた。
【0003】
現在、最も正確な出生前診断は、胎児の核型の分析によって提供される。これらの核型分析法で使用するための胎児細胞は、従来、羊水(羊水穿刺によって得られる)、絨毛膜絨毛(絨毛膜絨毛サンプリングによって得られる)、または胎児血液(臍帯穿刺または経皮的臍帯血サンプリングによって得られる)のサンプルから単離される。そのような分析は、数的な染色体異常および/または構造的な染色体異常の存在を明らかにし得る。必要とする退屈で、時間のかかる労働集約的な工程(B.Eibenら、Am.J.Hum.Genet.,1990,47:656−663)に加えて、これらの方法は、感度が限られており、その標準的な解像のレベルは、小さいかまたは微細な染色体異常の検出を可能とせず、多数の疾患および状態を検出されないままにする。
【0004】
過去10年間に、従来の染色体分析に対する分子生物学的技術の適用が、出生前に診断され得る障害の範囲を広げた新たな臨床細胞遺伝学的手段を生み出してきた。これらの新たな技術に加えて、胎児遺伝物質の新たな供給源もまた探索されている。これらとしては、母体循環に存在する無傷胎児細胞(これらの分析は、胎児染色体異数性の出生前診断を可能にすることが示されている(S.Eliasら、Lancet,1992,340:1033;D.W.Bianchiら、Hum.Genet.,1992,90:368−370;D.Geanshirt−Ahlertら、Am.J.Reprod.Immunol.,1993,30:193−200;J.L.Simpsonら、J.Am.Med.Assoc.,1993,270:2357−2361;F.de la Cruzら、Fetal Diagn.Ther.,1998,13:380;およびD.W.Bianchiら、Am.J.Hum.Genet.,1997,61:822−829))、ならびに妊婦の血清および血漿中に存在する胎児DNA配列(これは、胎児の性別の決定、胎児のRhD状態の同定、問題のある妊娠および種々の出生前状態の診断のために首尾よく使用されている(Y.M.D.Loら、Lancet,1997,350:485−487;B.PertlおよびD.W.Bianchi,Obstet.Gynecol.,2001,98:483−490;Y.M.D.Loら、Clin.Chem.,1999,45:1747−1751))が挙げられる。
【0005】
新たな技術の開発および胎児遺伝物質の新たな供給源の発見は、従来の出生前診断の方法の有意な改善をもたらしてきた。しかし、既存のストラテジーは、それらが提供し得る情報に関して限定される。例えば、それらは、インビボでのヒト胎児発生の研究を可能としない。特に、胎児発生中の遺伝子の発現パターン(これは、子宮内での正常な発生プロセスおよび異常な発生プロセスの原因である遺伝的機構のより良い理解を得るために価値のある情報の一部である)は、これらの方法を通して入手可能ではない。現在、胎児のモニタリングは、母体の子宮サイズの測定、胎児の心拍の検出、および/または超音波試験による胎児の解剖学的構造の評価を通して決定される非常に大ざっぱな非侵襲性のパラメーターに限られる。技術的進歩およびヒトゲノム計画に由来する情報が、何万もの遺伝子転写産物を同時に検出かつ定量することを可能にするマイクロアレイの開発を可能にしているが、胎児遺伝子発現分析は、ヒト流産子の組織試験を通してかまたは動物界にわたって保存される遺伝子および発生経路についての動物モデルを使用して実施されているのみである。従って、ヒトにおいて直接的に研究されたヒト初期発生において活性な遺伝子について公知なものはほとんどない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、生存胎児の福利、病状、および正常な発生 対 異常な発生についての情報を提供し得る出生前遺伝子発現モニタリングを可能にする方法論が、大変望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、以下を提供する:
(項目1)
単離された羊水胎児RNA。
(項目2)
妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて、羊水胎児RNAが得られる工程
を包含するプロセスによって得られる、項目1に記載の胎児RNA。
(項目3)
前記羊水サンプルを処理する前に、細胞集団が該サンプルから取り出される、項目2に記載の胎児RNA。
(項目4)
前記羊水サンプルを処理する工程が、
前記羊水中に存在する細胞集団を単離する工程;
該単離された細胞を必要に応じて培養する工程;および
該単離された細胞から胎児RNAを抽出する工程
を包含する、項目2に記載の胎児RNA。
(項目5)
前記羊水胎児RNAが、胎児メッセンジャーRNA(mRNA)である、項目1に記載の胎児RNA。
(項目6)
出生前診断の方法であって、以下:
羊水胎児RNAのサンプルを提供する工程;
該羊水胎児RNAを分析して、胎児RNAに関する情報を得る工程;および
該得られた情報に基づいて、出生前診断を提供する工程を包含する、方法。
(項目7)
前記羊水胎児RNAが、妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になり、羊水胎児RNAが得られることによって得られる、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記処理する工程の前に、該羊水サンプルから細胞集団を除去して、残りの羊水物質を得る工程をさらに包含する、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記羊水胎児RNAが、以下:
妊婦から得られた羊水サンプルから細胞集団を取り出して、単離された細胞を得る工程;
必要に応じて、該単離された細胞を培養する工程;および
該単離された細胞を処理し、その結果、該細胞中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になり、羊水胎児RNAが得られる工程
によって得られる、項目6に記載の方法。
(項目10)
前記分析する工程の前に、以下:
(a)前記羊水胎児RNAを増幅して増幅された胎児RNAを得て、そして該増幅された胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(b)該羊水胎児RNAを断片化して、断片化した胎児RNAを得て、そして該断片化した胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(c)該羊水胎児RNAを相補的DNA(cDNA)に変換して胎児cDNAを得て、そして該胎児cDNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、または(d)該羊水胎児RNAを相補的RNA(cRNA)に変換して胎児cRNAを得て、そして該胎児cRNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程
をさらに包含する、項目6に記載の方法。
(項目11)
前記検出可能な薬剤が、蛍光標識、比色分析標識、化学発光標識、放射性核種、磁気標識、ハプテン、微粒子、酵素、検出可能な生物学的分子およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記羊水胎児RNAを分析する工程が、羊水胎児RNAの量を決定する工程、羊水胎児RNAの濃度を決定する工程、羊水胎児RNAの配列組成を決定する工程、該羊水胎児RNAを遺伝子分析に提出する工程、およびアレイを用いて該羊水胎児RNAを分析する工程のうちの1以上を包含する、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記羊水胎児RNAを分析する工程から得られた情報が、胎児RNAの量、胎児RNAの濃度、胎児RNAの配列組成、定性的胎児遺伝子発現、定量的胎児遺伝子発現、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、項目6に記載の方法。
(項目14)
出生前診断を提供する工程が、胎児の性別を決定する工程、胎児の発生の進行を決定する工程、および該胎児が罹患している疾患または状態を同定する工程のうちの1以上を包含する、項目6に記載の方法。
(項目15)
前記出生前診断が、疾患または状態を有する疑いのある胎児について実施される、項目6に記載の方法。
(項目16)
胎児における遺伝子発現を確立するための方法であって、該方法は、以下の工程:
羊水胎児RNAの試験サンプルを提供する工程であって、該胎児RNAは、妊婦から得られた羊水のサンプルに由来し、該試験サンプルは、検出可能な薬剤を用いて標識された複数の核酸セグメントを含む、工程;
複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイを提供する工程であって、各遺伝子プローブは、基板表面上の別々のスポットに固定されて、該アレイを形成する、工程;
該サンプル中の該核酸セグメントが該アレイ上の該遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で、該アレイを該試験サンプルと接触させる工程;
該アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する該試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程;および
該得られた結合パターンに基づいて、該胎児について遺伝子発現パターンを確立する工程
を包含する、方法。
(項目17)
前記遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、胎児の性別と相関付ける工程、または該遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、在胎齢と相関付ける工程をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記胎児が、核型および発生に関して正常であるか、核型に関して異常であるか、発生に関して異常であるか、または臨床状態に罹患している、項目16に記載の方法。
(項目19)
異なる在胎齢の核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;ならびに
前記得られた遺伝子発現パターンに基づいて、核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児における異なる在胎齢でのmRNA発現のベースラインレベルを確立する工程
をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目20)
前記分析した羊水胎児RNAが雄性胎児に由来する場合、前記遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、核型および発生に関して正常な雄性胎児の胎児発生の時間もしくは事象と相関させる工程、または
前記分析した羊水胎児RNAが雌性胎児に由来する場合、前記遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、核型および発生に関して正常な雌性胎児の胎児発生の時間もしくは事象と相関させる工程、
をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目21)
異なる在胎齢の核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;
該得られた遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児の胎児発生の時間または事象と相関させる工程;ならびに
該相関に基づいて、核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児についての、異なる在胎齢での発生遺伝子発現パターンを確立する工程
をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目22)
同一の染色体異常を有する、核型に関して異常な胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;
各得られた遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型および発生に関して正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;
該比較に基づいて、該核型に関して異常な胎児において異常に発現され、該染色体異常と関連する1以上の遺伝子を同定する工程;ならびに
必要に応じて、染色体異常と相関するものとして同定された該1以上の遺伝子の目録を作る工程
をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目23)
同一の発生疾患または発生状態を有する、発生に関して異常な胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;
各得られた遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型および発生に関して正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;
該比較に基づいて、該発生に関して異常な胎児において異常に発現され、該発生疾患または発生状態と関連する1以上の遺伝子を同定する工程;ならびに
必要に応じて、発生疾患または発生状態と相関するものとして同定された該1以上の遺伝子の目録を作る工程
をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目24)
同一の臨床状態に罹患した罹病胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;
各得られた遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型および発生に関して正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;
該比較に基づいて、該罹病胎児において異常に発現され、該臨床状態と関連する1以上の遺伝子を同定する工程;ならびに
必要に応じて、臨床状態と相関するものとして同定された該1以上の遺伝子の目録を作る工程
をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目25)
前記羊水胎児RNAが、妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になり、羊水胎児RNAが得られることによって得られる、項目16に記載の方法。
(項目26)
前記処理する工程の前に、前記羊水サンプルから細胞集団を除去して、残りの羊水物質を得る工程をさらに包含する、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記羊水胎児RNAが、以下:
妊婦から得られた羊水サンプルから細胞集団を取り出して、単離された細胞を得る工程;
必要に応じて、該単離された細胞を培養する工程;および
該単離された細胞を処理し、その結果、該細胞中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になる工程
によって得られる、項目16に記載の方法。
(項目28)
前記接触させる工程の前に、以下:
(a)前記羊水胎児RNAを増幅して増幅された胎児RNAを得て、そして該増幅された胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(b)該羊水胎児RNAを断片化して、断片化した胎児RNAを得て、そして該断片化した胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(c)該羊水胎児RNAを相補的DNA(cDNA)に変換して胎児cDNAを得て、そして該胎児cDNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、または(d)該羊水胎児RNAを相補的RNA(cRNA)に変換して胎児cRNAを得て、そして該胎児cRNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程
をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目29)
前記検出可能な薬剤が、蛍光標識、比色分析標識、化学発光標識、放射性核種、磁気標識、ハプテン、微粒子、酵素、検出可能な生物学的分子およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する前記試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程が、該アレイ上の各別個のスポットにおける前記検出可能な薬剤によって生成されたシグナルの強度を測定する工程を包含する、項目16に記載の方法。
(項目31)
前記アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する前記試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程が、以下の工程:
コンピュータ支援画像化システムを用いて、ハイブリダイゼーション後の該アレイの蛍光画像を得る工程;および
コンピュータ支援画像解析システムを用いて、該得られた蛍光画像を分析して、該アレイから画像化されたデータを解釈して、ゲノム遺伝子座に相関するものとして、蛍光強度として結果を表示する工程
を包含する、項目16に記載の方法。
(項目32)
アレイベースの遺伝子発現分析に羊水胎児RNAを提出することによって行われる出生前診断の方法であって、該方法は、以下の工程:
羊水胎児RNAの試験サンプルを提供する工程であって、該胎児RNAは、既知の性別および在胎齢の胎児を有する妊婦から得られた羊水サンプルに由来し、該試験サンプルは、検出可能な薬剤で標識された複数の核酸セグメントを含む、工程;
複数の遺伝子プローブを備える遺伝子発現アレイを提供する工程であって、各遺伝子プローブは、基板表面上の別々のスポットに固定されて、該アレイを形成する、工程;
該サンプル中の該核酸セグメントが該アレイ上の該遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で、該アレイを該試験サンプルと接触させる工程;
該アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する該試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程;
該得られた結合パターンに基づいて、該胎児について遺伝子発現パターンを確立する工程;
該遺伝子発現パターンを分析する工程;および
該分析に基づいて、出生前診断を提供する工程
を包含する、方法。
(項目33)
前記遺伝子発現パターンを分析する工程が、以下:
前記胎児の該遺伝子発現パターンを、同一の性別および在胎齢の核型および発生に関して正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルに対して比較するか、または同一の性別および在胎齢の核型および発生に関して正常な胎児について確立された発生遺伝子発現パターンに対して比較する工程を包含する、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記遺伝子発現パターンを分析する工程が、1以上の異常に発現される遺伝子を検出する工程を包含する、項目32に記載の方法。
(項目35)
前記異常に発現される1以上の遺伝子が、染色体異常、発生異常および/または臨床状態と関連する、項目34に記載の方法。
(項目36)
出生前診断を提供する工程が、前記胎児の発生の進行を決定する工程および/または該胎児が罹患している疾患もしくは状態を同定する工程を包含する、項目32に記載の方法。
(項目37)
前記胎児が、染色体異常に関連した疾患または状態、発生異常に関連した疾患または状態、臨床状態、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される疾患または状態を有する疑いがある、項目32に記載の方法。
(項目38)
前記羊水胎児RNAが、妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になり、羊水胎児RNAが得られることによって得られる、項目32に記載の方法。
(項目39)
前記を
処理する工程の前に、前記羊水サンプルから細胞集団が取り出されて、残りの羊水物質が得られる工程をさらに包含する、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記羊水胎児RNAが、以下:
妊婦から得られた羊水サンプルから細胞集団を取り出して、単離された細胞を得る工程;
該単離された細胞を必要に応じて培養する工程;および
該単離された細胞を処理し、その結果、該細胞中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に入手可能になる工程
によって得られる、項目32に記載の方法。
(項目41)
前記分析する工程の前に、以下:
(a)前記羊水胎児RNAを増幅して増幅された胎児RNAを得て、そして該増幅された胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(b)該羊水胎児RNAを断片化して、断片化した胎児RNAを得て、そして該断片化した胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(c)該羊水胎児RNAを相補的DNA(cDNA)に変換して胎児cDNAを得て、そして該胎児cDNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、または(d)該羊水胎児RNAを相補的RNA(cRNA)に変換して胎児cRNAを得て、そして該胎児cRNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程
をさらに包含する、項目32に記載の方法。
(項目42)
前記検出可能な薬剤が、蛍光標識、比色分析標識、化学発光標識、放射性核種、磁気標識、ハプテン、微粒子、酵素、検出可能な生物学的分子およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する前記試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程が、以下の工程:
コンピュータ支援画像化システムを用いて、ハイブリダイゼーション後の該アレイの蛍光画像を得る工程;および
コンピュータ支援画像解析システムを用いて、該得られた蛍光画像を分析して、該アレイから画像化されたデータを解釈して、ゲノム遺伝子座に相関するものとして、蛍光強度として結果を表示する工程
を包含する、項目32に記載の方法。
(項目44)
キットであって、以下の構成要素:
妊婦から得られた羊水サンプルから無細胞胎児RNAを抽出するための材料;
複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイであって、各遺伝子プローブは、基板表面上の別個の点に固定化されて該アレイを形成している、アレイ;
異なる在胎齢での、核型および発生に関して正常な雄性胎児および正常な雌性胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルを含むデータベース;
異なる在胎齢での、核型および発生に関して正常な雄性胎児および正常な雌性胎児について確立された発生遺伝子発現パターンを含むデータベース;ならびに
該材料および項目32に記載のアレイを使用することについての指示書
を備える、キット。
(項目45)
検出可能な薬剤を用いて核酸サンプルを標識するための材料、ハイブリダイゼーション緩衝液、洗浄緩衝液、RNaseインヒビター、キャリアRNA、およびヒトCot−1 DNAからなる群のうちの1以上の構成要素をさらに備える、項目44に記載のキット。
【0008】
本発明は、出生前の診断、モニタリング、スクリーニングおよび/または試験のための、改善された方法を提供する。本発明は、羊水が、無細胞胎児RNAの豊富な供給源であるという発見に、少なくとも部分的に基づく。胎児RNAの単離および分析の方法が記載され、これらの方法は、他の技術によっては利用可能ではない、胎児遺伝子発現に関する情報をもたらし得る。本発明のシステムは、生存ヒト胎児の健康、成長および発育のより包括的な決定、ならびに種々の疾患および状態の出生前の診断を可能にする。
【0009】
本発明は、生存ヒト胎児における遺伝子発現を評価するためのシステムを提供する。このシステムは、発生事象と相関する遺伝子発現パターンを規定するために使用され得、そして胎児の健康、成長、および発生の評価、ならびに種々の疾患および状態の出生前診断を可能にする。他の技術は、生存ヒト胎児における遺伝子発現パターンを決定するのに利用可能ではない。
【0010】
一般に、本発明は、羊水のサンプルから胎児RNAを単離する工程、およびその得られた胎児RNAを分析する工程を包含する。好ましい実施形態において、その分析は、胎児遺伝子発現についての定性的情報または定量的情報を提供する。特定の実施形態において、胎児RNAは、妊娠期間中の複数の時点で単離される。本発明は、特定の遺伝子発現パターン、またはそのようなパターンの要素を発現事象と相関させることを可能にし、そしてさらに、観察された遺伝子発現パターンまたは成分を、そのような相関が確立されたパターンまたは成分と比較することを可能にする。
【0011】
1つの局面において、本発明は、羊水のサンプルから単離された胎児RNAを提供する。好ましくは、単離された胎児RNAは、以下:
妊婦から得られた羊水のサンプルを処理し、その結果、その羊水のサンプル中に存在する胎児RNAを抽出し、羊水胎児RNAを生じる工程
によって得られる。
【0012】
特定の実施形態において、羊水胎児RNAは、羊水のサンプルから実質的にすべての細胞集団を除去した後に抽出され;そして本質的に、無細胞胎児RNAからなる。他の実施形態において、いくつかの細胞集団が、上記処理工程の前に羊水のサンプルから除去され、残存羊膜物質が生じる。残存羊膜物質のサンプルから抽出された場合、胎児RNAは、無細胞胎児RNAならびにその残存物質中に依然として存在する細胞に由来する胎児RNAを含む。さらに他の実施形態において、胎児RNAは、羊水のサンプルから単離された胎児細胞から抽出され;必要に応じて、その単離された細胞は、RNA抽出の前に培養される。そのような場合において、羊水胎児RNAは、本質的に、その培養された細胞に由来する胎児RNAからなる。
【0013】
好ましくは、細胞集団は、羊水のサンプルを得る工程の2時間以内に取り出され;より好ましくは、細胞は、羊水のサンプルを得る工程の直後に取り出される。
【0014】
特定の実施形態において、RNaseインヒビターが、羊水のサンプルまたは残存羊膜物質に添加され、次いで、羊水または残存羊膜物質のサンプルは、凍結され、そしてある一定期間の間適切な保存条件下で(例えば、−80℃で)保管される。好ましくは、羊水または残存羊膜物質のサンプルが凍結される場合、RNaseインヒビターがサンプルを得る工程の2時間以内に添加される。より好ましくは、RNaseインヒビターは、羊水のサンプルを得る工程の直後に添加される。
【0015】
特定の実施形態において、羊水胎児RNAは、例えば、1以上の胎児配列特異的オリゴヌクレオチドを用いて増幅され、増幅された胎児RNAを生じる。特定の実施形態において、羊水胎児RNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)である。他の実施形態において、羊水胎児RNAは、逆転写酵素によって相補DNA(cDNA)に転換され、胎児cDNAを生じる。さらに他の実施形態において、羊水胎児RNAは、cDNAに転換され、これは、順に、転写によって相補RNA(cRNA)に転換され、胎児cRNAを生じる。
【0016】
別の局面において、本発明は、出生前診断の方法を提供し、これは、以下の工程:
羊水胎児RNAのサンプルを提供する工程;
その羊水RNAを分析して、そのRNAに関する情報を得る工程;および
その得られた情報に基づいて、出生前診断を提供する工程
を包含する。好ましくは、羊水胎児RNAは、以下:
妊婦から得られた羊水のサンプルを処理し、その結果、その羊水中に存在する胎児RNAを抽出し、そして分析に利用可能にし、羊水胎児RNAを生じる工程
によって得られる。
【0017】
特定の実施形態において、羊水のサンプルが処理される場合(凍結され保管される場合とは対照的に)、実質的にすべての細胞集団が、羊水のサンプルから除去され、そして抽出された羊水胎児RNAは、本質的に無細胞胎児RNAからなる。他の実施形態において、いくつかの細胞集団が、羊膜物質から除去されて、残存羊膜物質が得られる。そのような場合において、その残存物質は、依然としていくつかの細胞を含み、抽出された羊水胎児RNAは、無細胞胎児RNAならびに残存羊膜物質中に存在する細胞に由来するRNAを含む。さらに他の実施形態において、胎児RNAは、羊水のサンプルから単離された細胞集団から抽出される。必要に応じて、その単離された細胞は、RNA抽出前に培養される。好ましくは、細胞集団は、2時間以内に取り出される。より好ましくは、細胞集団は、羊水のサンプルを得る工程の直後に取り出される。
【0018】
特定の実施形態において、RNaseインヒビターが、羊水または残存羊膜物質のサンプルに添加され、次いで、そのサンプルは凍結され、ある一定期間の間、適切な保存条件下で(例えば、−80℃で)保管される。分析時に、その凍結されたサンプルが解凍され、あらゆる残存細胞集団が、処理前に除去され得る。好ましくは、羊水または残存羊膜物質のサンプルが凍結される場合、RNaseインヒビターがサンプルを得る工程の2時間以内に添加され;より好ましくは、羊水サンプルを得る工程の直後に添加される。
【0019】
本発明の方法の特定の実施形態において、羊水胎児RNAは、分析される前に、例えば、1以上の胎児配列特異的オリゴヌクレオチドを用いて増幅される。他の実施形態において、羊水胎児RNAは、mRNAである。なお他の実施形態において、羊水胎児RNAは、分析の前に、逆転写酵素によって相補DNA(cDNA)に転換される。さらに他の実施形態において、分析の前に、抽出された羊水胎児RNAは、cDNAに転換され、これは、順に、転写によって相補RNA(cRNA)に転換される。
【0020】
特定の実施形態において、羊水胎児RNAは、(例えば、増幅または転写後に)分析する工程の前に検出可能な物質で標識される。検出可能な物質は、蛍光標識、比色標識、化学発光標識、放射性核種、磁気標識、ハプテン、微粒子、酵素、検出可能な生体分子、およびそれらの任意の組み合わせを含み得る。適切な蛍光標識は、蛍光色素(例えば、Cy−3TM、Cy−5TM、テキサスレッド、FITC、フィコエリトリン、ローダミン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、カルボシアニン、メロシアニン、スチリル色素、オキソノール色素、BODIPY色素)、ならびにこれらの化合物の等価物、アナログ、誘導体および組み合わせを含む。適切なハプテンとしては、例えば、ビオチンおよびジオキシゲニン(dioxigenin)が挙げられる。
【0021】
本発明の出生前診断の方法の特定の実施形態において、抽出された羊水胎児RNAは、分析される前にフラグメント化される。
【0022】
特定の実施形態において、羊水胎児RNAを分析する工程は、胎児RNAの量を決定することを包含する。他の実施形態において、抽出された羊水胎児RNAを分析する工程は、胎児RNAの濃度を決定することを包含する。さらに他の実施形態において、羊水胎児RNAを分析する工程は、胎児RNAの配列組成を決定することを包含する。なお他の実施形態において、羊水胎児RNAを分析する工程は、抽出された胎児RNAを遺伝子分析(例えば、遺伝子発現分析)に提供することを包含する。
【0023】
特定の実施形態において、羊水胎児RNAを分析する工程は、アレイ(例えば、cDNAアレイ、オリゴヌクレオチドアレイ、SNPアレイまたは遺伝子発現アレイ)を用いることを包含する。
【0024】
羊水胎児RNAの分析は、胎児RNAの量、濃度、または配列組成に関する情報、あるいは遺伝子発現についての定性的情報および/または定量的情報をもたらし得る。本発明の方法において、羊水胎児RNAの分析によって得られる情報は、出生前診断を提供するために使用される。特定の実施形態において、出生前診断を提供することは、胎児の性別を決定することを含む。他の実施形態において、出生前診断を提供することは、胎児の発生の進行を評価することを含む。さらに他の実施形態において、出生前診断を提供することは、胎児が罹患している疾患または状態を同定することを含む。
【0025】
本発明の出生前診断の方法は、胎児が疾患または状態を有すると疑われる場合に実施され得る。本発明の方法は、任意の年齢の妊婦に対して行われ得る。特定の実施形態において、本発明の方法は、妊婦が35歳であるかまたは35歳よりも高齢である場合に行われる。
【0026】
別の局面において、本発明は、胎児における遺伝子発現を確立するための方法を提供する。本発明の方法は、以下の工程:
羊水胎児RNAの試験サンプルを提供する工程であって、その試験サンプルは、検出可能な物質で標識された複数の核酸セグメントを含む、工程;
複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイを提供する工程であって、各遺伝子プローブは、アレイを形成するための基板表面上の別個のスポットに固定化されている、工程;
そのアレイを、サンプル中の核酸セグメントがそのアレイ上の遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で、試験サンプルに接触させる工程;
そのアレイ上に固定化された個々の遺伝子プローブに対する、試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程;ならびに
その得られた結合パターンに基づいて、その胎児についての遺伝子発現パターンを確立する工程
を包含する。
【0027】
特定の実施形態において、本発明の方法は、以下:
得られた遺伝子発現パターンのうちの1以上の特徴を、胎児の性別および/または在胎齢と相関させる工程
をさらに包含する。
【0028】
特定の実施形態において、胎児は、核型分析的かつ発生的に正常である。他の実施形態において、胎児は、核型分析的に異常である。なお他の実施形態において、胎児は、発生的に異常である。さらに他の実施形態において、胎児は、臨床的状態に罹患している。
【0029】
特定の実施形態において、本発明の方法は、以下:
様々な在胎齢の核型分析的かつ発生的に正常な男性(または女性)胎児に由来する統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルについて、すべての工程を繰り返す工程;および
その得られた遺伝子発現パターンに基づいて、核型分析的かつ発生的に正常な男性(または女性)胎児における様々な在胎齢でのmRNA発現のベースラインレベルを確立する工程
をさらに包含する。
【0030】
他の実施形態において、本発明の方法は、以下:
遺伝子発現パターンのうちの1以上の特徴を、分析された羊水胎児RNAが男性胎児に由来する場合には核型分析的かつ発生的に正常な男性胎児の胎児発生における時間または事象と、あるいは分析された羊水胎児RNAが女性胎児に由来する場合には核型分析的かつ発生的に正常な女性胎児の胎児発生における時間または事象と相関させる工程
をさらに包含する。
【0031】
なお他の実施形態において、本発明の方法は、以下:
様々な在胎齢の核型分析的かつ発生的に正常な男性(または女性)胎児に由来する統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルについて、すべての工程を繰り返す工程;
得られた遺伝子発現パターンのうちの1以上の特徴を、核型分析的かつ発生的に正常な男性(または女性)胎児の胎児発生における時間または事象と相関させる工程;および
その相関に基づいて、様々な在胎齢における核型分析的かつ発生的に正常な男性(または女性)胎児についての発生遺伝子発現パターンを確立する工程
をさらに包含する。
【0032】
さらに他の実施形態において、本発明の方法は、以下:
同一の染色体異常を有する核型分析的に異常な胎児に由来する統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルについて、すべての工程を繰り返す工程;
得られた各遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型分析的かつ発生的に正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;および
その比較に基づいて、核型分析的に異常な胎児において異常に発現され、かつ染色体異常に関連する1以上の遺伝子を同定する工程
をさらに包含する。好ましくは、異常に発現された1以上の遺伝子は、次いで、染色体異常に応じてカタログに掲載される。
【0033】
染色体異常は、個々の染色体の余剰、個々の染色体の不足、染色体の余剰部分、染色体の不足部分、切断、環、付加、欠失、転座、逆位、重複、およびこれらの任意の組み合わせであり得る。特定の実施形態において、染色体異常は、疾患または状態に関連する。その疾患または状態は、例えば、ダウン症候群、パトー症候群、エドワーズ症候群、ターナー症候群、クラインフェルター症候群およびXYY病のような異数性であり得る。染色体異常に関連する疾患または状態は、X連鎖障害であり得る。あるいは、染色体異常に関連する疾患または状態は、微小欠失/微小重複症候群であり得る。
【0034】
特定の実施形態において、本発明の方法は、以下:
同一の発生疾患または状態を有する発生的に異常な胎児に由来する統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルについて、すべての工程を繰り返す工程;
得られた各遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型分析的かつ発生的に正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;ならびに
その比較に基づいて、発生的に異常な胎児において異常に発現され、かつ発生疾患または状態に関連する1以上の遺伝子を同定する工程
をさらに包含する。好ましくは、異常に発現された1以上の遺伝子は、次いで、発生疾患または状態に応じてカタログに掲載される。
【0035】
そのRNAが本発明の方法によって分析され得る胎児が罹患している発生疾患または状態は、子宮内成長制限、羊水過多、双胎間輸血(TTT)症候群、肺の血液沈滞、羊水過少、糖尿病の母親の乳児(infant of diabetic mother)、内反足、羊膜帯、二分脊椎、先天性横隔膜ヘルニア、および腎形成異常であり得る。
【0036】
他の実施形態において、本発明の方法は、以下の工程:
同一の臨床状態に罹患した罹患胎児に由来する統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルについて、すべての工程を繰り返す工程;
得られた各遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型分析的かつ発生的に正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;ならびに
その比較に基づいて、罹患胎児において異常に発現され、かつその臨床状態に関連する1以上の遺伝子を同定する工程
をさらに包含する。好ましくは、異常に発現された1以上の遺伝子は、次いで、臨床状態に応じてカタログに掲載される。
【0037】
罹患胎児が罹患している臨床状態は、ウイルス感染、細菌感染もしくは寄生虫感染、早産、または子癇前症であり得る。
【0038】
上記のように、本発明の方法において使用される羊水胎児RNAは、本質的に、無細胞胎児RNAからなり得;羊水のサンプル中に存在する細胞に由来する胎児RNAをさらに含んでも、本質的に、羊水のサンプルから単離された培養細胞に由来する胎児RNAからなってもよい。上記のように、羊水胎児RNAは、羊水または残存羊膜物質の凍結サンプルから抽出され得る。
【0039】
胎児の遺伝子発現パターンを確立するための本発明の方法において使用される羊水胎児RNAは、上記のように増幅、転写、標識および/またはフラグメント化され得る。
【0040】
特定の実施形態において、試験サンプルの核酸中に存在する高コピー数の反復配列のハイブリダイゼーション能が抑制される。例えば、反復配列のハイブリダイゼーション能は、接触工程の前に、試験サンプルに非標識ブロッキング核酸を添加することによって抑制される。好ましくは、過剰の非標識ブロッキング核酸が添加される。特定の実施形態において、非標識ブロッキング核酸は、ヒトCot−1 DNAである。
【0041】
特定の実施形態において、アレイ上に固定化された個々の遺伝子プローブに対する試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して結合パターンを得る工程は、アレイ上の各別個のスポットにおいて検出可能な物質によって生成されるシグナルの強度を測定することを包含する。
【0042】
他の好ましい実施形態において、アレイ上に固定化された個々の遺伝子プローブに対する試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して結合パターンを得る工程は、以下のこと:
コンピュータ支援画像化システムを用いて、ハイブリダイゼーション後のアレイの蛍光画像を得ること;および
コンピュータ支援画像分析システムを用いて、得られた蛍光画像を分析し、アレイから画像化されたデータを解釈し、そして結果をゲノム遺伝子座に応じて蛍光強度で表示すること
を包含する。
【0043】
別の局面において、本発明は、羊水胎児RNAをアレイベースの遺伝子発現分析に提供することによって実施される、出生前診断の方法を提供する。本発明の方法は、以下の工程:
羊水胎児RNAの試験サンプルを提供する工程であって、ここで、その胎児RNAは、既知の性別および在胎齢の胎児を有する妊婦から得られた羊水のサンプルに由来し、その試験サンプルは、検出可能な物質で標識された複数の核酸セグメントを含む、工程;
複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイを提供する工程であって、ここで、各遺伝子プローブは、アレイを形成するための基板表面上の別個のスポットに固定化されている、工程;
そのアレイを、そのサンプル中の核酸セグメントがそのアレイ上の遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で、羊水胎児RNAの試験サンプルと接触させる工程;
そのアレイ上に固定化された個々の遺伝子プローブに対する試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程;
その得られた結合パターンに基づいて、その胎児についての遺伝子発現パターンを確立する工程;
その遺伝子発現パターンを分析する工程;ならびに
その遺伝子発現パターンの分析に基づいて、出生前診断を提供する工程
を包含する。
【0044】
特定の実施形態において、遺伝子発現パターンを分析する工程は、その胎児の遺伝子発現パターンを、同一の性別および在胎齢の核型分析的におよび発生的に正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較することを包含する。他の実施形態において、遺伝子発現パターンを分析する工程は、その胎児の遺伝子発現パターンを、同一の性別および在胎齢の核型分析的におよび発生的に正常な胎児について確立された発生的遺伝子発現パターンと比較することを包含する。さらに他の実施形態において、遺伝子発現パターンを分析する工程は、異常に発現された1以上の遺伝子を検出および/または同定することを包含する。異常に発現された1以上の遺伝子は、染色体異常、発生状態または別の型の臨床状態もしくは疾患に関連し得る。
【0045】
本発明の方法に従って出生前診断を提供することは、胎児の発生の進行を決定する工程、および/または胎児が罹患している疾患または状態を同定する工程を包含し得る。
【0046】
本発明の方法は、任意の年齢の妊婦で行われ得る。特定の実施形態において、本発明の方法は、妊婦が35歳であるかまたは35歳よりも高齢である場合に行われる。他の実施形態において、本発明の方法は、胎児が疾患または状態(例えば、染色体異常、発生異常または別の臨床的障害に関連する疾患または状態)を有することが疑われる場合に行われる。
【0047】
特定の実施形態において、胎児の年齢は、Gバンド分析、中期比較ゲノムハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションまたはスペクトル核型分析によって確立された、胎児の核型の分析によって決定される。他の実施形態において、在胎齢は、超音波試験によって決定されている。
【0048】
本発明の方法の実施において、羊水胎児RNAは、上記のように単離、増幅、転写、標識、フラグメント化、保存および/またはハイブリダイズされ得る。同様に、アレイ上に固定化された遺伝子プローブに対する、羊水胎児RNAの試験サンプルの核酸セグメントの結合の検出が、上記のように決定され得る。
【0049】
別の局面において、本発明は、以下の構成要素のうちのいくつかまたはすべてを含むキットを提供する:妊婦から得られた羊水のサンプルから無細胞胎児RNAを抽出するための物質;複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイであって、ここで、各遺伝子プローブは、アレイを形成するための基板表面上の別個のスポットに固定化されている、遺伝子発現アレイ;様々な在胎齢での核型分析的および発生的に正常な男性胎児、および正常な女性胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルを含むデータベース;様々な在胎齢での核型分析的および発生的に正常な男性胎児、および正常な女性胎児について確立された発生遺伝子発現パターンを含むデータベースであって、ここで、その発生遺伝子発現パターンのうちの1以上の特徴が、胎児発生における時間または事象に関連する、データベース;ならびに本発明の方法に従ってその抽出物質、アレイおよびデータベースを使用するための指示書。
【0050】
本発明のキットはまた、核酸のサンプルを検出可能な物質で(例えば、Cy−3TM、Cy−5TM、テキサスレッド、FITC、フィコエリトリン、ローダミン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、カルボシアニン、メロシアニン、スチリル色素(styryl dye)、オキソノール色素、BODIPY色素のような蛍光色素、これらの化合物の等価物、アナログ、誘導体および組み合わせでか、あるいは例えば、ビオチン/アビジン系のようなハプテンで)標識するための物質を含み得る。
【0051】
本発明のキットはまた、個々の容器中に、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液、RNaseインヒビター、キャリアRNAおよび/またはヒトCot−1 DNAを含み得る。
【0052】
本発明の他の局面、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかし、詳細な説明および特定の実施例が本発明の好ましい実施形態を示す一方で、例示のみのために示されることが理解されるべきである。
【0053】
(定義)
他のように述べられない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の用語は、他のように特定されない限りは、それらの用語に帰する意味を有する。
【0054】
本明細書中で使用される場合、用語「出生前診断」とは、胎児の健康および状態の決定(欠損または異常の検出、ならびに疾患の診断を包含する)を指す。種々の非侵襲性技術および侵襲性技術が、出生前診断のために利用可能である。それらの技術の各々は、最高の利用性のために、妊娠の特定の期間の間にのみ使用され得る。これらの技術としては、例えば、超音波検査法、母系血清スクリーニング、羊水穿刺、および慢性絨毛サンプリング(すなわちCVS)が挙げられる。本発明の出生前診断方法は、羊水から単離した胎児RNAの分析を包含する。
【0055】
用語「音波検査」、「超音波(ultrasonographic)検査」、および「超音波(ultrasound)検査」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、高周波数の音波を使用して、胎児の種々の組織および器官により生成されるエコーパターンから可視画像を作製する、臨床的非侵襲性手順を指す。超音波検査は、胎児の大きさおよび/または位置、胎盤の大きさおよび/または位置、羊水の量、胎児の解剖学的構造の状況、および/または胎児の年齢(すなわち、在胎齢)を決定するために使用され得る。超音波検査はまた、先天的異常(すなわち、出生時に存在する解剖学的異常または構造的異常)の存在または発生的異常の存在を明らかにし得る。
【0056】
用語「羊水穿刺」とは、本明細書中で使用される場合、針を誘導するために超音波を使用して母体の下腹部を通して子宮の内側の羊水腔中へと長い針を挿入すること、そして診断目的のために羊水穿刺を実施する場合には少量の羊水を回収すること、または治療目的のために羊水穿刺を実施する場合には大量の羊水を回収することによって実施される、出生前試験を指す。羊水は、胎児に由来する皮膚、腎臓、および肺の細胞を含み得る。従来の羊水穿刺において、これらの細胞は、培養中で増殖され、そしてその核型の決定および分析によって染色体異常について試験され、その羊水自体は、生化学的異常について試験され得る。本出願人により発見されたように(下記参照)、羊水はまた、無細胞胎児核酸を含む。
【0057】
用語「核酸」および「核酸分子」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、一本鎖形態または二本鎖形態のいずれかであるデオキシリボヌクレオチドポリマーまたはリボヌクレオチドポリマーを指し、他のように言及されない限りは、天然に存在するヌクレオチドと類似する様式で機能し得る天然ヌクレオチドの公知アナログを包含する。これらの用語は、合成骨格を有する核酸様構造物および人工生成物を包含する。
【0058】
用語「単離された」とは、胎児RNAに適用される場合には、その起源もしくは操作によって天然で関連する成分のうちの少なくともいくつかから分離している、RNAの分子またはその一部を意味する。あるいは、またはさらに、「単離された」によって、目的のRNA分子が人工的に生成または合成されていることが意味される。
【0059】
用語「分析のために利用可能になった」とは、本明細書中では、羊水の胎児RNAが操作(例えば、増幅、転写、標識、断片化、精製、および/または濃縮され、可溶性水溶液中に再懸濁)されて、そのRNAが分析のために適切な形態になることを特定するために使用される。
【0060】
本明細書中で使用される場合、用語「羊水の胎児RNA」とは、羊水サンプル中において見出されるRNAの配列と同一であるかまたは相補的である配列を有する、胎児起源のRNA分子を指す。この用語は、羊水から抽出されたRNAに由来する、胎児の全RNA,mRNA、cDNAおよびcRNAを包含する。
【0061】
用語「メッセンジャーRNAまたはmRNA」とは、タンパク質性合成を指示するためのテンプレートとして役立つ形態のRNAを指す。代表的には、任意の特定の型のmRNA(すなわち、同じ配列を有し、同じ遺伝子に由来する)の量は、遺伝子が「発現された」程度を反映する。
【0062】
用語「遺伝子発現」とは、遺伝子中にコードされる指示からRNAおよびタンパク質が生成されるプロセスを指す。遺伝子発現の変化は、細胞、組織、器官、または生物全体の機能を変化させ得、時には、特定の遺伝子に関連する観察可能な特徴を生じ得る。遺伝子発現のモニタリングは、個々の遺伝子、関連する遺伝子の群、相互関連する生化学経路、および全体としての生物学的ネットワークを試験するために、使用され得る。
【0063】
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」とは、高分子生成物(これは、RNAまたはタンパク質であり得る)を特定するゲノムの一部を指し、そしてコード配列に先行する調節配列(5’非コード配列)およびコード配列の後にある調節配列(3’非コード配列)を含み得る。
【0064】
用語「RNA転写物」とは、DNA配列の転写から生じる生成物を指す。そのRNA転写物が、RNAポリメラーゼにより触媒される転写の本来の非改変生成物である場合には、そのRNA転写物は、一次転写物と呼ばれる。プロセシング(例えば、スプライシングなど)されたRNA転写物は、その一次転写物とは配列が異なる。完全にプロセシングされた転写物は、「成熟」RNAと呼ばれる。用語「転写」とは、遺伝子のDNA配列をRNA生成物へとコピーするプロセスを指し、このプロセスは、一般的には、そのDNAをテンプレートとしてDNA特異的RNAポリメラーゼによって実行される。タンパク質へと翻訳されるプロセシング後のRNA転写物は、しばしば、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる。
【0065】
用語「相補的DNAまたはcDNA」とは、mRNAと相補的であるDNA分子を指す。cDNAは、DNAポリメラーゼ(例えば、逆転写酵素)によってか、または指向的化学合成によって、生成され得る。用語「相補的」とは、標準的ワトソン−クリック相補規則に従って塩基対形成するか、または比較的ストリンジェントな条件下で特定の核酸セグメントにハイブリダイズ可能である、核酸配列を指す。核酸ポリマーは、その配列全体のほんの一部だけにわたって、必要に応じて相補的である。
【0066】
用語「アレイ」、「マイクロアレイ」、および「バイオチップ」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、既知配列の複数の核酸分子を、基材表面上に配列することを指す。各核酸分子は、その基材表面上に「別個のスポット」(すなわち、規定された位置または割り当てられた位置)に固定される。用語「マイクロアレイ」は、より具体的には、視覚的評価のために顕微鏡試験を必要とするように小型化されているアレイを指す。本発明の方法において使用されるアレイは、好ましくは、マイクロアレイである。
【0067】
用語「遺伝子発現アレイ」とは、mRNA発現レベルの定量のために使用され得る基材表面上に固定された複数の遺伝子プローブを含むアレイを指す。本発明の文脈において、用語「アレイベースの遺伝子発現分析」は、遺伝子発現アレイを使用する遺伝子発現分析の方法を指すために使用される。用語「遺伝子プローブ」とは、本明細書中で使用される場合、そのゲノムの規定された領域中にその起源を有し、短いDNA配列(もしくはオリゴヌクレオチド)でも、PCR生成物でも、またはmRNA単離物でもあり得る、既知配列の核酸分子を指す。遺伝子プローブは、羊水の胎児RNAの試験サンプルに由来する核酸フラグメントがハイブリダイズされる、遺伝子特異的DNA配列である。遺伝子プローブは、1種以上の型の化学結合(通常は、水素結合形成)を介して、相補的配列または実質的に相補的な配列の核酸に、特異的に結合(または特異的にハイブリダイズ)する。
【0068】
用語「オリゴヌクレオチド」とは、本明細書中で使用される場合、ハイブリダイズプローブまたは核酸分子アレイのエレメントとして使用される、通常は短いDNA列またはRNA列を指す。これらの短い配列の連なりは、しばしば化学合成される。そのオリゴヌクレオチドの大きさは、そのオリゴヌクレオチドの機能または用途に依存する。ハイブリダイゼーションのためのマイクロアレイにおいて使用される場合、オリゴヌクレオチドは、天然核酸分子または合成核酸分子を包含し得、そしてmRNAに対して相補的な、約5個と約150個との間、好ましくは約15個と約100個との間、より好ましくは約15個と約30個との間、最も好ましくは約18個と約25個との間のヌクレオチドを含み得る。
【0069】
用語「遺伝子部位」、「遺伝子座」および「ゲノム座」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、ゲノムの特定の領域を指す。本発明の方法において、アレイ上の別個のスポットに固定された各遺伝子プローブは、特定のゲノム座に対して特異的(または特徴的)である配列を有する。
【0070】
用語「ハイブリダイゼーション」とは、相補的塩基対形成を介する2つの一本鎖核酸の結合を指す。用語「特異的ハイブリダイゼーション」(または「特異的にハイブリダイズする)および「特異的結合」(または「特異的に結合する)は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、核酸分子が、ストリンジェントな条件下(例えば、ハイブリダイズする鎖に対する相補性の程度がより低い、競合核酸の存在下)で特定の核酸配列に優先的に結合、二重鎖形成、またはハイブリダイズするプロセスを指す。本発明の特定の実施形態において、これらの用語は、より具体的には、試験サンプルに由来する核酸フラグメント(またはセグメント)が、アレイ上に固定された特定の遺伝子プローブに優先的に結合し、そして他のアレイ状遺伝子プローブにはより低い程度でしか結合しないかまたは全く結合しない、プロセスを指す。
【0071】
用語「遺伝子発現パターン」および「遺伝子発現プロフィール」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、個々の遺伝子の発現または個々の遺伝子の組の発現を指す。遺伝子発現パターンは、サンプル中の標的転写物の存在および標的転写物の相対量レベルまたは絶対量レベルに関する情報を包含し得る。さらに、またはあるいは、遺伝子発現パターンは、出生前処理が特定の遺伝子発現を誘導する能力に関する情報、または出生前処置が特定の遺伝子群の発現を異なるレベルに変化させる能力に関する情報を包含し得る。
【0072】
用語「核型的および発生的に正常な胎児」は、その核型が正常であると決定され(すなわち、染色体異常を含まない核型)、その発生が在胎齢について適切であることが(例えば、超音波検査によって)決定されている、胎児を示すために本明細書中で使用される。
【0073】
本明細書中で使用される場合、用語「核型」とは、通常は有糸分裂中期における染色体の数および形態によって規定される、個体の特定の染色体の相補体を指す。より具体的には、核型は、全染色体数、個々の染色体型のコピー数(例えば、染色体Yのコピー数)、および染色体の形態(例えば、長さ、セントロメア指標、連結性など)のような情報を含む。核型の検査によって、染色体の異常(例えば、余剰な染色体、欠失している染色体、または破壊されている染色体)の検出および同定が可能である。特定の疾患および状態は、特徴的染色体異常に関連するので、核型の分析は、通常は、いくつかの疾患および状態の診断を可能にする。
【0074】
用語「染色体」は、本明細書中では、その分野で理解される意味を有する。この用語は、生物の遺伝情報のほとんどを保有する非常に長いDNA分子(および関連するタンパク質)から構成される構造物を指す。染色体は、「遺伝子」と呼ばれる機能的単位に分割される。その遺伝子の各々は、特定のタンパク質またはRNA分子を生成するための遺伝子コード(すなわち、指示)を含む。ヒトにおいて、正常な体細胞は、46個の染色体を含み、正常な生殖細胞は、23個の染色体を含む。
【0075】
用語「染色体異常(abnormality)」、「染色体異常(aberration)」および「染色体変化」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、核型的に正常な個体における染色体数および構造的組成と比較した、染色体数の差異(すなわち、変動)、または1つ以上の染色体の構造組成の差異(すなわち、改変)を指す。本明細書中で使用される場合、これらの用語はまた、遺伝子レベルで生じる異常を包含する。異常な数の(すなわち、多すぎるかまたは少なすぎる)染色体の存在は、「異数性」と呼ばれる。異数性の齢は、21トリソミーおよび13トリソミーである。構造的染色体異常としては、欠失(例えば、遺伝子配列中に通常は存在する1つ以上のヌクレオチドが存在しないこと、遺伝子全体が存在しないこと、または染色体の部分が失われること)、付加(例えば、遺伝子配列中に通常は存在しない1つ以上のヌクレオチドが存在すること、余分なコピーの遺伝子が存在すること(これは重複とも呼ばれる)、または染色体の余分な部分が存在すること)、環、切断、および染色体再配列が挙げられる。染色体再配列は、転位または逆位であり得る。転位は、遺伝物質がある遺伝子から別の遺伝子へと伝達されるプロセスから生じる。転位は、2つの染色体が遺伝物質を損失することなく片を交換する場合に平衡するが、平衡していない転位は、染色体が遺伝物質を獲得または喪失する場合に生じる。転位は、2つの染色体または1つだけの染色体に関与し得る。逆位は、染色体中で2つの破損が生じて破損したセグメントが180°回転するプロセスによって生成され、それらの遺伝子が逆の順番で再配置される。
【0076】
本明細書中で使用される場合、用語「微小欠失」および「微小重複」とは、検出され得ないかまたは標準的細胞遺伝学的方法(例えば、従来のGバンディング分析または中期比較ゲノムハイブリダイゼーション)によって容易には検出されない、微妙な、隠れている、または小さい、染色体異常(例えば、遺伝子配列中の1つ以上のヌクレオチドに関与するか、または一遺伝子コピーの喪失もしくは獲得に関与する)を指す。
【0077】
本明細書中で使用される場合、用語「染色体異常に関連する疾患または状態」とは、染色体異常によって引き起こされることが公知であるかまたはそのように予期される、任意の疾患、障害、状態、または欠損を指す。染色体異常に関連する例示的な疾患または状態としては、トリソミー(ダウン症候群、エドワーズ症候群、パトー症候群、ターナー症候群、クラインフェルター症候群、およびXYY症候群)、X連鎖障害(例えば、デュシェーヌ筋ジストロフィー、血友病A、特定の形態の重症複合型免疫不全、レッシュ−ナイハン症候群、および脆弱X染色体)、ならびに微小欠失/微小重複症候群(例えば、プラーダー−ヴィリ症候群、アンジェルマン(Angelman)症候群、ディ・ジョージ症候群、スミス−マジェニス(Magenis)症候群、ルビンスタイン−テービ症候群、ミラー−ディーカー(Dieker)症候群、ウィリアムズ症候群、およびシャルコー−マリー−ツース症候群)が挙げられるが、これらに限定されない。染色体異常に関連する疾患または状態のさらなる例は、「Harrison’s Principles of Internal Medicine」Wilsonら編,1991(第12版)Mc Graw Hill:New York,NY,pp.24〜46において見出され得る。
【0078】
本明細書中で使用される場合、用語「Gバンディングまたはギームザバンディング」とは、核型決定するための標準的な染色技術を指す。Gバンディング(G−T−Gバンディングとしても公知)は、染色体に関連するタンパク質のうちのいくらかを分解する酵素(プロテアーゼであるトリプシン)の使用、およびグアニンおよびシトシンが豊富なDNA領域に選択的に結合する染色色素(ギームザ)の使用を含む。この選択的染色は、染色体の長さに沿って交互に暗いバンドと明るいバンドという明瞭なパターンの形成をもたらす。これは、個々の染色体の特徴である(明るいバンドは、グアニンおよびシトシンが豊富な活性DNAであるユークロマチンに対応する。暗いバンドは、アデニンおよびチミンが豊富な非発現DNAであるヘテロクロマチンに対応する)。この染色によって、余分な染色体および欠失している染色体、大きな欠失および重複、ならびにセントロメア(染色体中の主要な狭窄部)の位置が明らかになる。しかし、遺伝物質のより広汎ではない再配列もしくはより複雑な再配列、マーカーの染色体起点、および微妙な転位は、検出されないか、または標準的Gバンディング(ギムーザ、リーシュマン、または改変形)を使用して確実に同定するのが困難である。Gバンディング分析を実施する方法に関するより詳細については、例えば、J.M.Schereら、Hum.Genet.1982,61:8〜11;およびK.Wakuiら、J.Hum.Genet.1999,44:85〜90を参照のこと。
【0079】
本明細書中で使用される場合、「蛍光インサイチュハイブリダイゼーションまたはFISH」とは、核型を生成するために使用され得る分子細胞遺伝学技術を指す。FISH実験において、特別に設計された蛍光分子が、蛍光顕微鏡により特定の遺伝子または染色体部分を可視化するために使用され、それにより染色体異常の検出を可能にする(例えば、T.Bryndorfら、Acta.Obstet.Gynecol.Scand.,2000,79:8〜14;W.Cheong Leungら、Prenat.Diagn.2001,21:327〜332;J.Pepperbergら、Prenat.Diagn.2001,21:293〜301;S.Weremowiczら、Prenat.Diagn.,2001,21:262〜269;およびR.sawaら、J.Obstet.Gynaecol.Res.2001,27:41〜47を参照のこと)。
【0080】
本明細書中で使用される場合、用語「スペクトル核型決定またはSKY」とは、異なる色ですべての染色体の同時可視化を可能にする分子細胞遺伝学技術であり、核型分析をかなり容易にする。SKYは、スペクトル的に区別可能な蛍光色素で標識された短い一本鎖DNA配列のライブラリーの調製を含む。このDNAライブラリー中の個々のプローブ各々は、染色体の独特の領域に対して相補的であり、そのプローブすべては、ゲノム中の染色体すべてに対して相補的なDNAの集合体から構成されている。インサイチュハイブリダイゼーションの後、スペクトル画像化による規定の発光スペクトルの測定によって、異なる色でヒト染色体すべてを明瞭に識別し、染色体異常(例えば、転位、染色体破砕点、および再配列)を検出することが可能になる。SKY技術および核型を確立する際のその使用についてのさらなる詳細については、例えば、E.Shrockら、Hum.Genet.1997,101:255〜262;I.B.Van den VeyverおよびB.B.Roa,Curr.Opin.Obstet.Gynecol.1998,10:97〜103;M.C.Phelanら、Prenatal Diagn,1998,18:1174〜1180;B.R.Haddadら、Hum.Genet.1998,103:619〜625;ならびにB.Peschkaら、Prenatal.Diagn.1999,19:1143〜1149を参照のこと。
【0081】
用語「比較ゲノムハイブリダイゼーションまたはCGH」および「中期比較ゲノムハイブリダイゼーションまたは中期CGH」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、蛍光色素により試験DNAおよび正常参照DNAを差次的に標識すること、その標識した2つのDNAサンプルを正常な中期染色体スプレッドに対して同時ハイブリダイズすること、そして傾向によってそのハイブリダイズした2つのDNAを可視化することを含む、分子細胞遺伝学技術を指す。特定の染色体または染色体領域に沿ったその2つの蛍光色素強度の比は、その2つのサンプル中の個々の核酸配列の相対的コピー数(すなわち、量)を反映する。CGH分析は、ゲノム全体にわたる遺伝物質の獲得および喪失についての全体的外観を提供する。
【0082】
本明細書中で使用される場合、用語「統計学的に有意な数」とは、信頼できるデータを提供するために充分に大きな(分析されたかまたは分析されるべき)サンプル数を指す。
【0083】
用語「標識された」、「検出可能な因子で標識された」、および「検出可能な部分で標識された」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、サンプル由来の核酸分子または個々の核酸セグメントが、例えば、遺伝子プローブへの結合(すなわち、ハイブリダイゼーション)の後に可視化され得ることを特定するために、使用される。ハイブリダイゼーション方法において、核酸セグメントのサンプルは、ハイブリダイゼーション反応の前に検出可能に標識され得るか、またはそのハイブリダイゼーション生成物に結合する検出可能な標識が、選択され得る。好ましくは、その検出可能な因子または部分は、測定され得るシグナルを生じるように、そしてハイブリダイズされた核酸の量にその強度が関連するように、選択される。アレイベースの方法において、その検出可能な因子または部分はまた、好ましくは、局在化シグナルを生成することによってそのアレイ上の各スポットからのシグナルを空間的に分解することが可能であるように、選択される。核酸分子を標識するための方法は、当該分野で周知である(そのような方法のより詳細な説明について、下記を参照のこと)。標識された核酸フラグメントは、標識の組み込みまたは標識への結合体化によって調製され得、その標識は、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、電子的手段、光学的手段、または化学的手段によって、直接的または間接的に検出可能である。適切な検出可能な因子としては、種々のリガンド、放射性核種、蛍光色素、化学発光因子、微粒子、酵素、発色標識、磁気標識、およびハプテンが挙げられるが、これらに限定されない。検出可能な部分はまた、生物学的分子(例えば、分子ビーコンおよびアプタマービーコン)であり得る。
【0084】
用語「フルオロフォア」、「蛍光部分」、「蛍光標識」、「蛍光色素」および「蛍光標識部分」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの用語は、溶液中にて適切な波長の光で励起された場合に、光を発光する分子を指す。広汎な種類の構造および特徴の多数の蛍光色素が、本発明の実施において使用するために適切である。同様に、核酸を蛍光標識するための方法および材料は、公知である(例えば、R.P.Haugland「Molecular Probes:Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992〜1994」第5版,1994、Molecular Probes,Inc.参照)。フルオロフォアを選択する際には、その蛍光分子は、高効率で光を吸収して発光し(すなわち、それぞれ、高いモル吸収係数および蛍光量子収率)、光安定性である(すなわち、その分子は、分析を実施するために必要な時間内では光励起した際に有意には分解しない)ことが、好ましい。
【0085】
本明細書中で使用される場合、用語「コンピュータ支援画像化システム」とは、ハイブリダイゼーション後にアレイを分析するため、そしてハイブリダイゼーション後にそのアレイの蛍光画像を得るために使用され得る、蛍光画像を取得可能なシステムを指す。コンピュータ支援画像化システムは、ハードウェア(照射源(例えば、レーザー)、CCD(すなわち、電荷素子デバイス)カメラ、一組のフィルター、およびコンピュータを含み得る)から構成される。
【0086】
本明細書中で使用される場合、「コンピュータ支援画像分析システム」とは、ハイブリダイゼーション後にアレイの蛍光画像を分析するため、そのアレイから画像化したデータを解釈するため、そして蛍光強度としての結果をゲノム座の関数としてディスプレイするために使用され得る、システムを指す。コンピュータ支援画像分析システムは、アレイ上の別個のスポットにおける蛍光定量および蛍光比決定のためのソフトウェアを伴う、コンピュータを含み得る。
【0087】
用語「コンピュータ」とは、本明細書中では、その最も広い一般的文脈で使用される。本発明の方法は、任意のコンピュータを使用して、任意の公知のソフトウェアまたは方法論と組み合わせて、実施され得る。そのコンピュータは、任意の形態の記憶エレメント(例えば、動的ランダムアクセス記憶装置、フラッシュメモリなど)または大容量記憶装置(例えば、磁気ディスク選択的記憶装置(optional storage))をさらに含み得る。
【0088】
(特定の好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、生きているヒト胎児における遺伝子発現を評価するためのシステムを提供する。とりわけ、本発明のシステムは、(1)種々の在胎齢での核型的および発生的に正常な胎児におけるmRNA発現の基礎レベルを確立すること、(2)核型的および発生的に正常な胎児についての発生遺伝子発現パターンを確立すること、そして(3)染色体異常もしくは発生異常を有する胎児または他の型の臨床状態に罹患している胎児において異常に発現される新規な遺伝子を同定することを、可能にする。
【0089】
本発明は、羊水が、胎児RNAの豊富な供給源であるという発見を包含し、羊水の胎児RNAの単離および分析のための方法に関する。特に、胎児の健康、成長および発生の決定を可能にし、種々の疾患および状態の出生前診断を可能にする、システムが記載される。
【0090】
(I.羊水由来の胎児RNA)
一局面において、本発明は、単離された羊水の胎児RNAを提供する。上記のように、本発明は、RNAの周知の不安定性にも関わらず、胎児RNAは、分析のために適切な量および状態で羊水において生存するという、本発明者らによる認識を包含する。
【0091】
(羊水サンプル)
本発明の方法を実施することは、妊娠中の女性から得た羊水サンプルを提供することを含む。用水は、一般的には、羊水穿刺によって収集され、羊水穿刺において、長い針が、その母体の下腹部中に子宮内部の羊水腔まで挿入されて、一定量の羊水が回収される。
【0092】
出生前診断のために、ほとんどの羊水穿刺は、妊娠第14週目〜第20週目に実施され、回収される羊水の容積は、約10mL〜30mLである。伝統的に、羊水穿刺のための最も一般的な適応症は、高い母体年齢(代表的には、米国においては、推定出産時に35歳以上であると設定);以前に出生時欠損もしくは遺伝的障害の子供を有する;出生前染色体再配列、遺伝子成分が関連する後期発症障害の家族歴、再発性流産、胎児神経管欠損および/もしくは胎児染色体異常の危険が増加していることを示す母体血清スクリーニング検査(多マーカースクリーニング)陽性、ならびに異常な胎児超音波検査(例えば、胎児の異数性に関連することが既知である徴候を示す)が挙げられる。しかし、本発明による羊水サンプルから得られ得る情報の量および型は、標準的な手術手順の変化を支持し得、その結果、羊水穿刺は、あらゆる妊娠において考慮または実施される。
【0093】
羊水穿刺はまた、治療目的のために実施される。このような場合、羊水過剰(すなわち、胎児を取り囲む羊水の過剰)を矯正するために、大量の羊水(>1L)が除去される(羊水減少(amnioreduction))。羊水過剰は、膜の未熟な破裂のリスクの増加による危険を示し得、また、妊娠糖尿病または胎児水腫のような出生異常または他の医学的な問題の徴候であり得る。羊水過剰はまた、多胎妊娠においても観察される。双生児間輸血(TTT)症候群は、一方の嚢内の過剰の羊水ともう一方の嚢内の羊水の不足の共存として断層撮影的に規定される。TTT症候群において、羊水減少の目的は、レシピエントである双生児の嚢内の羊水の体積を減少することによって、流産または早期分娩の可能性を減少する試みである。
【0094】
本発明の文脈において、羊水のサンプルは、標準的な羊水穿刺または治療的な羊水穿刺の後に得られ得る。従来の羊水穿刺手順において、羊水中に存在する胎児細胞は、遠心分離により単離され、そして、染色体分析、生化学分析および/または分子生物学的分析のために培養において増殖される。遠心分離はまた、上清サンプル(本明細書中では、「残りの羊膜物質」と呼ぶ)も生じ、これは通常、アッセイの失敗の場合のバックアップとして−20℃にて保存される。この上清のアリコートはまた、α−フェトプロテインおよびアセチルコリンエステラーゼのレベルの決定のような、さらなるアッセイに使用され得る。一定時間の後、凍結した上清サンプルは代表的に破棄される。羊水減少では、回収された羊水の全サンプルが破棄される。Tufts−New England Medical Center(Boston,MA)におけるCytogenetics Laboratoryによる標準的なプロトコールは、実施例の節に詳細に記載され、この実験室は、出願人らに、羊水の新鮮なサンプルおよび凍結サンプル(治療的な羊水穿刺に由来する)ならびに残りの羊膜物質の新鮮なサンプル(診断的な羊水穿刺に由来する)を提供する。
【0095】
(胎児RNAの単離)
本発明の方法における使用のための胎児RNAは、妊婦から得られた羊水のサンプルから単離される。この単離は、RNAの単離または抽出の任意の適切な方法により実施され得る。
【0096】
好ましい実施形態において、胎児RNAは、羊水サンプル中に存在する胎児RNAが抽出されるように、羊水サンプルを処理することにより得られる。特定の実施形態において、胎児RNAは、羊水サンプル中に存在する細胞集団の実質的に全てまたはいくらかを除去した後に抽出される。この細胞集団は、任意の適切な方法(例えば、遠心分離)により羊水から除去され得る。1回より多くの遠心分離工程が実施され、実質的に全ての細胞集団が取り除かれたことを補償し得る。好ましくは、細胞集団は、羊水サンプルを得てから2時間以内に取り除かれる。より好ましくは、細胞集団は、羊水サンプルを得た直後に取り除かれる。
【0097】
実質的に全ての細胞集団が羊水サンプルから取り除かれる場合、羊水の胎児RNAは、本質的に無細胞の胎児RNAからなる。遠心分離により得られる残りの羊膜物質のサンプルから抽出される場合、胎児RNAは、無細胞の胎児RNA、ならびに残りの物質中になお存在する細胞に由来する胎児RNAを含む。
【0098】
胎児RNAはまた、羊水サンプルから細胞を単離し、必要に応じてこれらの単離した細胞を培養し、そしてこれらの細胞からRNAを抽出することによって得られ得る。このような場合、羊水の胎児RNAは、本質的に培養細胞に由来する胎児RNAからなる。
【0099】
上記のように、胎児RNAの単離または抽出の前に、残りの羊膜物質のサンプルを、適切な保存条件下(例えば、−80℃において)で、一定の期間、凍結保存され得る。凍結前に、RNase(すなわち、リボヌクレアーゼ)による胎児RNAの分解を防止するRNaseインヒビターがサンプルに添加され得る。好ましくは、RNaseインヒビターは、残りの羊水物質サンプルを得てから2時間以内に添加される。より好ましくは、RNaseインヒビターは、残りの羊膜物質のサンプルを得た直後に添加される。RNA抽出の前に、凍結サンプルを37℃にて溶かし、ボルテックスを用いて混合する。この時点でさらに遠心分離を実施して、羊水中になお存在する任意の細胞集団を取り除き、抽出されたRNAが本当に細胞外にあることを確実にし得る。
【0100】
最も一般に使用されるRNaseインヒビターは、特異的(かつ可逆的に)RNaseに結合するヒト胎盤に由来する天然のタンパク質(P.Blackburnら、J.Biol.Chem.,1977,252:5904−5910)である。RNaseインヒビターは、例えば、Ambion(Austin,TX;SUPERase・InTMとして)、Promega,Inc.(Madison,WI;rRNasin(登録商標)リボヌクレアーゼインヒビターとして)、およびApplied Biosystems (Framingham,MA)から市販されている。一般に、RNAサンプル中へのRNaseの混入を防止するための予防策は、当該分野で周知であり、手袋の使用、RNaseフリーであることが保証された試薬および商品の使用、特別に処理された水の使用、ならびに、低温の使用、ならびに、慣用的な汚染除去法の使用などが挙げられ、これらは、本発明の方法の実施において使用される。
【0101】
胎児RNAの単離は、残りの羊膜物質中に存在する胎児RNAを抽出し、分析用に利用可能にするように、残りの羊水物質を処理する工程を包含し得る。抽出された羊水胎児RNAを生じる任意の適切な単離方法が、本発明の実施において使用され得る。胎児の最も正確な評価を得るために、操作プロセスからのアーチファクトを最小限にすることが望ましい。従って、抽出および修飾の工程の数は、好ましくは、可能な限り少なく維持される。
【0102】
RNAの抽出方法は、当該分野で周知である(例えば、J.Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New Yorkを参照のこと)。体液または身体組織からRNAを単離するほとんどの方法は、RNaseを迅速かつ効率的に不活性化するための、タンパク質変性剤の存在下での組織の破壊に基づく。一般に、RNA単離試薬は、他の成分の中でもとりわけ、グアニジウムチオシアネートおよび/またはβ−メルカプトエタノールを含み、これらは、RNaseインヒビターとして機能することが公知である(J.M.Chirgwinら、Biochem.,1979,18:5294−5299)。次いで、単離された総RNAは、タンパク質汚染物からさらに精製され、選択的なエタノール沈殿、フェノール/クロロホルム抽出、およびその後のイソプロパノール沈殿(例えば、P.ChomczynskiおよびN.Sacchi,Anal.Biochem.,1987,162:156−159を参照のこと)、または、塩化セシウム、塩化リチウムもしくはトリフルオロ酢酸セシウム勾配遠心分離(例えば、V.Glisinら、Biochem.,1974,13:2633−2637;D.B.SternおよびJ.Newton,Meth.Enzymol.,1986,118:488を参照のこと)により濃縮される。
【0103】
本発明の特定の方法(例えば、羊水の胎児RNAが遺伝子発現分析に供される方法)において、低レベルのメッセージでも検出可能にするために、総RNAからmRNAを単離することが望ましくあり得る(B.Albertsら、「Molecular Biology of the Cell」,1994(第3版),Garland Publishing,Inc.:New York,NY)。
【0104】
総RNAからのmRNAの精製は、代表的に、大半の成熟した真核生物mRNA種に存在するポリ(A)テイルに頼る。単離方法のいくつかのバリエーションは、同じ原理に基づいて開発されている。第1のアプローチにおいて、総RNAの溶液を、高濃度の塩の存在下で固体セルロースマトリクスに結合されたオリゴ(dT)もしくはd(U)を含有するカラムに通過させ、ポリ(A)テイルのオリゴ(dT)もしくはd(U)へのアニーリングを可能にする。次いで、カラムを低塩の緩衝液で洗浄して、ポリ(A)mRNAを取り除き、放出させる。第2のアプローチにおいて、ビオチン化オリゴ(dT)プライマーを総RNAの溶液に添加して、これを用いてmRNAの3’ポリ(A)領域にハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーション生成物は、常磁性粒子に結合したストレプトアビジンおよび磁性分離スタンドを使用して捕捉され、そして高ストリンジェンシー下で洗浄される。mRNAは、リボヌクレアーゼフリーの脱イオン水を単純に添加することによって、固相から溶出される。他のアプローチは、総RNAの事前単離を必要としない。例えば、表面にオリゴ(dT)配列が共有結合された均質な、超常磁性のポリスチレンビーズは、mRNAのポリ(A)残基とビーズ上のオリゴ(dT)配列との間の特異的塩基対形成により、直接mRNAを単離するために使用され得る。さらに、ビーズ上のオリゴ(dT)配列はまた、逆転写酵素のためのプライマーとして使用され、その後、cDNAの第1鎖を合成し得る。あるいは、総RNAもしくはmRNAの単離、調製および/または精製のための新しい方法または既存の方法の改善が、当業者により考案され得、そして、本発明の実施において使用され得る。
【0105】
多数の種々かつ汎用のキットが、体液からRNA(すなわち、総RNAまたはmRNA)を抽出するために使用され得、そして、例えば、Ambion,Inc.(Austin,TX)、Amersham Biosciences(Piscataway,NJ)、BD Biosciences Clontech(Palo Alto,CA)、BioRad Laboratories(Hercules,California)、Dynal Biotech Inc.(Lake Success,NY)、Epicentre Technologies(Madison,WI)、Gentra Systems,Inc.(Minneapolis,MN)、GIBCO BRL(Gaithersburg,MD)、Invitrogen Life Technologies(Carlsbad,CA)、MicroProbe Corp.(Bothell,WA)、Organon Teknika(Durham,NC)、Promega,Inc.(Madison,WI)およびQiagen Inc.(Valencia,CA)から市販されている。通常、使用するプロトコールをより詳細に記載するユーザーガイドが、これらのキット全てに含まれる。感度、処理時間および費用は、キット毎に異なり得る。当業者は、特定の状況に最も適切なキットを容易に選択し得る。
【0106】
実施例の節に記載されるように、出願人らは、Qiagen Viral RNAミニキットおよび真空プロトコールを使用して、キャリアとしての合成ポリ−A−RNAの存在下で、残りの羊膜物質からRNAを抽出および精製した。これらの実験において使用された残りの羊水の最低容量は、420μLであり;最高容量は30mLであった。抽出実験において使用された低容量の2つのサンプルは、500〜1000pg/mLの精製mRNAを生じ、一方で、高容量の2つのサンプルは、240〜420pg/mLの精製mRNAを生じた(すなわち、それぞれ7.2ngおよび12.7ng)。
【0107】
(抽出された羊水の胎児RNAの増幅)
特定の実施形態において、羊水の胎児RNAは、分析前に増幅される。他の実施形態において、分析前に、羊水の胎児RNAが、逆転写酵素により、相補鎖DNA(cDNA)へと変換され、これは、次に、必要に応じて、転写により相補鎖RNA(cRNA)へと変換され得る。
【0108】
増幅方法は、当該分野で周知である(例えば、A.R.KimmelおよびS.L.Berger,Methods Enzymol.,1987,152:307−316;J.Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York;「Short Protocols in Molecular Biology」,F.M.Ausubel(編),2002,第5版,John Wiley & Sons;米国特許第4,683,195号;同第4,683,202号および同第4,800,159号を参照のこと)。標準的な核酸増幅方法としては以下が挙げられる:ポリメラーゼ連鎖反応(すなわち、PCR、例えば、「PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications」,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,1990;および「PCR Strategies」,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,1995を参照のこと)、およびリガーゼ連鎖反応(すなわち、LCR、例えば、U.Landegrenら、Science,1988,241:1077−1080;およびD.L.Barringerら、Gene,1990,89:117−122を参照のこと)。
【0109】
RNAをcDNAへと転写するための方法がまた、当該分野で周知である。逆転写反応は、係留されたオリゴdTプライマー、もしくはランダム配列プライマーのような非特異的なプライマーを使用するか、または、モニタリングされる各遺伝的プローブについてのRNAに相補的な標的特異的なプライマーを使用するか、または、熱安定性のDNAポリメラーゼ(例えば、鳥類骨髄芽細胞症ウイルス逆転写酵素またはMoloneyマウス白血病ウイルス逆転写酵素)を使用することによって実施され得る。他の方法としては、転写ベースの増幅系(TAS)(例えば、D.Y.Kwohら,Proc.Natl.Acad.Sci.,1989,86:1173−1177を参照のこと)、自律性配列複製(3SR)のような等温性転写ベースの系(例えば、J.C.Guatelliら,Proc.Natl.Acad.Sci.,1990,87:1874−1878を参照のこと)、およびQ−βレプリカーゼ増幅(例えば、J.H.Smithら,J.Clin.Microbiol.,1997,35:1477−1491;およびJ.L.Burgら,Mol.Cell.Probes,1996,10:257−271を参照のこと)が挙げられる。
【0110】
これらの逆転写酵素から生じるcDNA生成物は、適切なRNAポリメラーゼによる複数ラウンドの転写のためのテンプレートとして機能し得る(例えば、核酸配列ベースの増幅すなわちNASBAによる、例えば、T.Kievitsら,J.Virol.Methods,1991,35:273−286;およびA.E.Greijerら,J.Virol.Methods,2001,96:133〜147を参照のこと)。cDNAテンプレートの転写は、元々の標的mRNAからのシグナルを迅速に増幅する。
【0111】
これらの方法ならびに他の方法(当業者に公知であるか、または当業者により新たに考案されたもののいずれか)が、本発明の実施において使用され得る。
【0112】
T7−オリゴdTプライマーを使用する抽出された総RNAのcDNAへの変換、cDNAの第2鎖の合成、得られた二本鎖cDNAの精製、インビトロ転写による二本鎖cDNAのcRNAへの変換、その後のAmbion MEGAscriptプロトコールおよびQiagen製のRNAeasyカラムを使用する転写物の精製による、羊水の胎児RNAのcRNAへの変換の詳細な説明は、実施例の節において見出され得る。
【0113】
増幅はまた、抽出された胎児RNAの量を定量するために使用され得る(例えば、米国特許第6,294,338号を参照のこと)。あるいは、またはさらに、適切なオリゴヌクレオチドプライマーを使用する増幅は、分析前に無細胞胎児RNAを標識するために使用され得る(以下を参照のこと)。適切なオリゴヌクレオチド増幅プライマーは、当業者により容易に選択および設計され得る。
【0114】
(羊水の胎児RNAの標識)
特定の好ましい実施形態において、羊水の胎児RNA(例えば、増幅後、またはcDNAもしくはcRNAへの変換後)は、分析される前に、検出可能な試薬もしくは部分で標識される。検出可能な試薬の役割は、胎児RNAの検出を容易にすること、または、ハイブリダイズした核酸フラグメント(例えば、遺伝的プローブに結合した核酸フラグメント)の可視化を可能にすることである。好ましくは、検出可能な試薬は、測定され得るシグナルを生じ、その強度が、分析されるサンプル中に存在する標識された核酸の量に相関するように選択される。アレイベースの分析方法において、検出可能な試薬はまた、好ましくは、局在化したシグナルを生じ、それにより、アレイ上の各スポットからのシグナルの空間的な分解を可能にするように選択される。
【0115】
核酸分子と検出可能な試薬との間の会合は、共有的であっても非共有的であってもよい。標識された核酸フラグメントは、検出可能な部分の取り込み、または検出可能な部分への結合体化により調製され得る。標識は、核酸フラグメントに直接結合され得るか、または、リンカーを介して間接的に結合され得る。種々の長さのリンカーまたはスペーサーアーム(spacer arm)が当該分野で公知であり、かつ市販されており、そして、立体障害を減少するように、または、結果として生じる標識された分子に他の有用もしくは所望の特性を与えるように、選択され得る(例えば、E.S.Mansfieldら,Mol.Cell.Probes,1995,9:145−156を参照のこと)。
【0116】
核酸分子を標識するための方法は当該分野で周知である。標識プロトコール、標識検出技術およびこの分野における近年の開発の総説については、例えば、L.J.Kricka,Ann.Clin.Biochem.,2002,39:114−129;R.P.van Gijlswijkら,Expert Rev.Mol.Diagn.,2001,1:81−91;およびS.Joosら,J.Biotechnol.,1994,35:135−153を参照のこと。標準的な核酸標識法としては以下が挙げられる:放射活性試薬の取り込み、蛍光色素の直接結合(例えば、L.M.Smithら,Nucl.Acids Res.,1985,13:2399−2412を参照のこと)、または酵素の直接結合(例えば、B.A.ConnolyおよびP.Rider,Nucl.Acids.Res.,1985,13:4485−4502を参照のこと);免疫化学的に検出可能にするか、または他の親和性反応による、核酸フラグメントの化学的修飾(例えば、T.R.Brokerら,Nucl.Acids Res.,1978,5:363−384;E.A.Bayerら,Methods of Biochem.Analysis,1980,26:1−45;R.Langerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1981,78:6633−6637;R.W.Richardsonら,Nucl.Acids Res.,1983,11:6167−6184;D.J.Brigatiら,Virol.,1983,126:32−50;P.Tchenら,Proc.Natl Acad.Sci.USA,1984,81:3466−3470;J.E.Landegentら,Exp.Cell Res.,1984,15:61−72;およびA.H.Hopmanら,Exp.Cell Res.,1987,169:357−368を参照のこと);ならびに、酵素媒介性の標識法(例えば、ランダムプライミング、ニックトランスレーション、PCRおよびターミナルトランスフェラーゼによるテイリング(tailing)(酵素的標識に関する総説については、例えば、J.TemsamaniおよびS.Agrawal,Mol.Biotechnol.,1996,5:223−232を参照のこと))。より最近開発された核酸標識系としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:ULS(Universal Linkage System;例えば、R.J.Heetebrijら,Cytogenet.Cell.Genet.,1999,87:47−52を参照のこと)、光反応性アジド誘導体(例えば、C.Nevesら,Bioconjugate Chem.,2000,11:51−55を参照のこと)、ならびにアルキル化剤(例えば、M.G.Sebestyenら,Nat.Biotechnol.,1998,16:568−576を参照のこと)。
【0117】
任意の広範種々の検出可能な試薬が、本発明の実施において使用され得る。適切な検出可能な試薬としては以下が挙げられるがこれらに限定されない:種々のリガンド、放射性核種(例えば、32P、35S、H、14C、125I、131Iなど);蛍光色素(特定の例示的な蛍光色素については、以下を参照のこと);化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル、安定化ジオキセタンなど);微粒子(例えば、量子ドット(quantum dot)、ナノクリスタル、リン光体など);酵素(例えば、ELISAにおいて使用されるもの、すなわち、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ);比色標識(例えば、色素、金コロイド(colloidal gold)など);磁気標識(例えば、DynabeadsTM);ならびに、ビオチン、ジオキシゲニンまたは他のハプテン、および抗血清もしくはモノクローナル抗体が利用可能なタンパク質。
【0118】
特定の実施形態において、羊水の胎児RNA(増幅後、またはcDNAもしくはcRNAへの変換後)は蛍光標識される。広範種々の化学構造および物理的特徴を有する多数の公知の蛍光標識部分が本発明の実施における用途に適切である。適切な蛍光色素としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:Cy−3TM、Cy−5TM、Texasレッド、FITC、フィコエリトリン、ローダミン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアニン、カルボシアニン、メロシアニン、スチリル色素(styryl dye)、オキソノール色素(oxonol dye)、BODIPY色素(すなわち、二フッ化ホウ素ジピロメタン発蛍光団、例えば、C.S.Chenら,J.Org.Chem.,2000,65:2900−2906;C.S.Chenら,J.Biochem.Biophys.Methods,2000,42:137−151;米国特許第4,774,339号;同第5,187,288号;同第5,227,487号;同第5,248,782号;同第5,614,386号;同第5,994,063号;および同第6,060,324号を参照のこと)、ならびに、これらの分子の等価物、アナログ、誘導体もしくは組み合わせ。同様に、蛍光色素を、核酸のような生体分子に連結もしくは組み込むための方法および物質は公知である(例えば、R.P.Haugland,「Molecular Probes:Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992−1994」,第5版,1994,Molecular Probes,Inc.を参照のこと)。蛍光標識色素ならびに標識キットは、例えば、Amersham Biosciences,Inc.(Piscataway,NJ)、Molecular Probes,Inc.(Eugene,OR)およびNew England Biolabs,Inc.(Berverly,MA)から市販されている。
【0119】
本発明の実施において使用される蛍光標識試薬の好ましい特性としては、高いモル吸光係数、高い蛍光量子収量、および光安定性が挙げられる。好ましい標識発蛍光団は、スペクトルの紫外範囲(すなわち、400nm未満)ではなく、可視範囲(すなわち、400nmと750nmとの間)における吸収および発光波長を示す。
【0120】
他の実施形態において、羊水の胎児RNA(例えば、増幅後、またはcDNAもしくはcRNAへの変換後)は、当該分野で周知の、ビオチン−アビジン系の多くのバリエーションのうちの1つにより検出可能にされる。ビオチンRNA標識キットは、例えば、Roche Applied Science(Indianapolis,IN)およびPerkin Elmer(Boston,MA)から市販されている。
【0121】
検出可能な部分はまた、分子ビーコンおよびアプタマービーコンのような生物学的分子であり得る。分子ビーコンは、その5’末端および3’末端に発蛍光団および非蛍光性のクエンチャーを保有する核酸分子である。相補的な核酸鎖の非存在下で、分子ビーコンは、ステム−ループ(すなわちヘアピン)立体配座を採り、この立体配座において、発蛍光団およびクエンチャーは、互いに近接しており、発蛍光団の蛍光を、FRET(すなわち、蛍光共鳴エネルギー転移)により効率的にクエンチさせる。分子ビーコンへの相補配列の結合は、ステム−ループ構造の開放を生じ、これは、発蛍光団とクエンチャーとの間の物理的距離を増加させ、それによって、FRET効率を減少させ、蛍光シグナルを放出させる。検出可能な部分としての分子ビーコンの使用は、当該分野で周知である(例えば、D.L.Sokolら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1998,95:11538−11543;ならびに米国特許第6,277,581号および同第6,235,504号を参照のこと)。アプタマービーコンは、2つ以上の立体配座を採り得るという点を除いて、分子ビーコンと同じである(例えば、O.K.Kaboevら,Nucleic Acids Res.,2000,28:E94;R.Yamamotoら,Genes Cells,2000,5:389−396;N.Hamaguchiら,Anal.Biochem.,2001,294:126−131;S.K.PoddarおよびC.T.Le,Mol.Cell.Probes,2001,15:161−167を参照のこと)。
【0122】
正常もしくは改変されたヌクレオチドの「テイル」は、検出性の目的のために、核酸フラグメントに追加され得る。テイルに相補的であり、かつ、検出可能な標識(例えば、発蛍光団、酵素または放射標識された塩基)を含む核酸との第2のハイブリダイゼーションは、アレイに結合した核酸フラグメントの可視化を可能にする(例えば、Enzo Biochem Inc.,New York,NYから市販されている系)。
【0123】
特定の核酸標識技術の選択は、状況に依存し、そして、いくつかの因子(例えば、標識法の容易さおよび費用、所望されるサンプル標識の質、ハイブリダイゼーション反応に対する検出可能な部分の効果(例えば、ハイブリダイゼーションプロセスの速度および/または効率)、使用される検出系の性質、検出可能な標識により生じるシグナルの性質および強度など)により支配される。
【0124】
(II.羊水に由来する胎児RNAの分析)
本発明の方法の実施は、胎児RNAに関する情報を得るための、羊水の胎児RNAを分析する工程を包含する。特定の実施形態において、羊水の胎児RNAを分析する工程は、胎児RNAの量、濃度または配列組成を決定する工程を包含する。
【0125】
羊水の胎児RNAは、任意の種々の方法によって分析され得る。RNAの分析方法は、当該分野で周知である(例えば、J.Sambrookら,「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York,NY;および「Short Protocols in Molecular Biology」,2002,F.M.Ausubel(編),第5版,John Wiley & Sonsを参照のこと)。
【0126】
例えば、羊水から抽出された胎児RNAの量および濃度は、UV分光法により評価され得、この方法において、希釈されたRNAサンプルの吸光度が、260nmおよび280nmにおいて測定される(W.W.Wilfingerら,Biotechniques,1997,22:474−481)。定量的測定はまた、例えば、核酸に結合すると大きな蛍光増強を示す、RiboGreen(登録商標)(Molecular Probes,Eugene,ORから市販されている)のような特定の蛍光色素を使用して実施され得る。これらの蛍光色素で標識されたRNAは、標準的な蛍光光度計、蛍光マイクロプレートリーダーまたはフィルター蛍光光度計を使用して検出され得る。
【0127】
羊水の胎児RNAはまた、配列決定により分析され得る。例えば、RNase T1(2段階機構においてグアノシン残基の3’側で一本鎖RNAを特異的に切断する)が、変性したRNAを消化するために使用され得る。従って、3’もしくは5’が標識されたRNAの、この酵素による部分的な消化は、G残基のラダーを生じる。切断は、放射活性の検出系(M.Ikeharaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1986,83:4695−4699)、もしくは光度計測の検出系(H.P.Grunertら,Protein Eng.,1993,6:739−744)によってか、ザイモグラムアッセイ(J.Bravoら,Anal.Biochem.,1994,219:82−86)、寒天拡散法(R.Quaasら,Nucl.Acids Res.,1989,17:3318)、ランタンアッセイ(lanthan assay)(C.B.Anfinsenら,J.Biol.Chem.,1954,207:201−210)、またはメチレンブルー試験(T.Greiner−Stoeffeleら,Anal.Biochem.,1996,240:24−28)によってか、あるいは、蛍光相関分光法(K.Kornら,Biol.Chem.,2000,381:259−263)によってモニタリングされ得る。
【0128】
RNA分子の特性および生化学的な役割は、RNAの配列によってだけではなく、その折り畳まれた構造によっても決定されるので、羊水の胎児RNAの分析はまた、RNA構造の決定も含み得る。RNAの構造分析の方法は、当該分野で公知である(例えば、J.N.Vournakisら,Gene Amplif.Anal.,1981,2:267−298;G.Knapp,Methods Enzymol.,1989,180:192−212;A.E.Walterら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91:9218−9222を参照のこと)。このような分析は、配列選択的なリボヌクレアーゼ(例えば、RNase A(一本鎖C残基およびU残基の3’を切断する)、RNase V1(RNAの二本鎖領域内のヌクレオチド間を優先的に切断する)、およびRNase T1を使用して実施され得る。
【0129】
羊水の胎児RNAを分析するための他の方法としては、ノーザンブロット(この方法において、分析されるRNAサンプルの成分は、検出前にサイズにより分離され、それによって、1つ以上の種を同時に同定することを可能にする)、およびスロット/ドットブロット(slot/dot blots)(この方法において、分離されていない混合物が使用される)が挙げられる。
【0130】
特定の実施形態において、羊水の胎児RNAを分析する工程は、遺伝子発現分析に抽出されたRNAを供する工程を包含する。好ましくは、これは、複数の遺伝子の同時分析を含む。
【0131】
例えば、羊水の胎児RNA分析は、Y染色体から転写される胎児RNAの存在、父親もしくは母親のいずれかから遺伝される、遺伝子もしくは他のDNA配列から転写される、胎児RNAの存在、または、臨床状態に関連することが公知の遺伝子から転写される胎児RNAの存在の検出を含み得る。
【0132】
例えば、羊水の胎児RNA分析は、Y染色体特異的なジンクフィンガータンパク質(ZFY)mRNAの検出を含み得る(例えば、D.C.Pageら,Cell,1987,51:1091−1104;およびM.S.Palmerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1990,87:1681−1685を参照のこと)。このような分析の結果は、胎児の性別の識別をもたらす。
【0133】
羊水の胎児RNA分析は、第6染色体上の遺伝子から転写されるRNAの存在の検出を含み得る。ヒト第6染色体は、免疫応答に必須の主要組織適合複合体(MHC)をコードすることが知られている。特に、この分析は、母性−胎児界面において、胎児組織で主に発現する非古典的なヒト白血病抗原である、HLA−Gから転写されるRNAの存在の検出を含み得る(A.IshitaniおよびD.E.Geraghty,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89:3947−3951;S.E.Hibyら,Tissue Antigens,1999,53:1−13)。いくつかの研究は、HLA−Gが妊娠の確立および/または維持において決定的な相互作用に関与し得ることを示唆している。(N.Haraら,Am.J.Reprod.Immunol.,1996,36:349−358;K.H.Limら,Am.J.Pathol.,1997,151:1809−1818;K.A.Pfeifferら,Mol.Hum.Reprod.,2001,7:373−378)。HLA−Gから転写されるRNAの存在の検出は、例えば、保健提供者に流産に対する予防を進言させ得る。
【0134】
羊水の胎児RNA分析は、胎児肺発生のモニタリング様式としての界面活性剤遺伝子の発現レベルの検出および決定を包含し得る。
【0135】
疾患または状態と関連することが公知の遺伝子から転写されるRNAの存在の検出は、出生前診断を提供するために使用され得る。
【0136】
特定の遺伝子から転写されるRNAの存在または非存在を検出するために行われる分析において、その検出は、種々の物理的方法、免疫学的方法および生化学的方法のいずれかにより行われ得る。このような方法は、当該分野で周知であり、例えば、S1分析およびRNase保護アッセイのような酵素分解からの保護が挙げられ、これらの方法において、標識核酸プローブに対するハイブリダイゼーションの次に、プローブの一本鎖領域の酵素的分解、ならびに分解から保護されるプローブの量および長さの分析が行われる。TaqManアッセイ(クエンチされる蛍光色素系)はまた、標的化mRNAレベルを定量するために使用され得る(例えば、K.J.Livakら、PCR Methods Appl.,1995,4:357−362を参照のこと)。
【0137】
他の方法は、mRNAに由来するcDNAの分析に基づき、その方法は、RNA以外の分解に対して高感度でなく、従って、取り扱いやすい。これらの方法は、発現された配列タグ(EST)クローンライブラリーのcDNA挿入物の配列決定(例えば、M.D.Adamsら,Science,1991,252:1651−1656を参照のこと)および遺伝子発現の連続分析(serial analysis of gene expression)(またはSAGE)(この分析は、多量の転写物の定量かつ同時の分析を可能にする)(例えば、米国特許第5,866,330号;V.E.Velculescuら,Science,1995,270:484−487;およびZhangら,Science,1997,276:1268−1272を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。これら2つの方法は、所定のセットに焦点を当てるというよりも、むしろサンプル中のmRNAの全範囲を精査する。
【0138】
mRNAに由来するcDNAの分析の他の方法としては、逆転写酵素媒介PCR(RT−PCR)遺伝子発現アッセイが挙げられる。これらの方法は、特定の標的遺伝子生成物に指向され、非常に少量の転写物の定性的(非定量的)検出を可能にする(例えば、S.Suら,BioTechniques,1997,22:1107−1113を参照のこと)。これらの方法の変形例(競合的RT−PCRといわれ、この方法において、既知量の外因テンプレートが内部コントロールとして添加される)は、定量的測定を可能にするように開発された(例えば、M.Beker−AndreおよびK.Hahlbrock,Nucl.Acids Res.,1989,17:9437−9346;A.M.Wangら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86:9717−9721;G.Gillilandら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1990,87:2725−2729を参照のこと)。
【0139】
mRNA分析はまた、ディファレンシャルディスプレイ逆転写酵素PCR(DDRT−PCR;例えば、P.LiangおよびA.B.Pardee,Science,1992,257:967−971を参照のこと)またはRNA任意プライムPCR(RNA arbitrarily primed PCR)(RAP−CPR;例えば、J.Welshら,Nucl.Acids Res.,1992,20:4965−4970を参照のこと)により行われ得る。これらの方法において、転写物のRT−PCRフィンガープリントプロフィールは、ランダムプライミングによって生成され、差次的に発現される遺伝子は、2つのサンプル間のフィンガープリントプロフィールにおける変化として現れる。差次的に発現される遺伝子の同定は、さらなる操作を要する(すなわち、ゲルの適切なバンドを切り出し、サブクローニングし、配列決定し、配列データベース中の遺伝子に適合させなければならない)。
【0140】
(III.羊水の胎児RNAのアレイベースの遺伝子発現分析)
特定の実施形態において、本発明の方法は、羊水の胎児RNAをアレイベースの遺伝子発現分析に供する工程を包含する。
【0141】
(アレイベースの遺伝子発現分析)
伝統的な分子生物学法(例えば、上記の方法の大部分)は、代表的には、1回の実験あたり1つの遺伝子を評価し、これらの実験により、全体のスループットが有意に制限され、遺伝子機能の広いイメージを得ることが妨げられる。DNAアレイまたはマイクロアレイ(遺伝子発現マイクロアレイともいわれる)に基づく技術(これは、より最近になって開発された)は、配列(遺伝子/遺伝子変異)の同定および遺伝子の遺伝子発現レベル(量)の決定を介して、数千もの遺伝子を同時にモニターすることが可能になるという利点を提供する(例えば、A.MarshallおよびJ.Hodgson,Nature Biotech.,1998,16:27−31;G.Ramsay,Nature Biotech.,1998,16:40−44;R.EkinsおよびR.W.Chu,Trends in Biotech.,1999,17:217−218;ならびにD.J.LockhartおよびE.A.Winzeler,Nature,2000,405:827〜836を参照のこと)。
【0142】
遺伝子発現実験の原理は、単純である:実験サンプルのmRNAに由来する標識cDNAまたはcRNAの標的を、固体支持体に固定化された核酸にハイブリダイズさせる。各DNA位置と関連づけられた標識の量をモニターすることによって、示される各mRNA種の量を推論することが可能である。
【0143】
アレイにされたDNA配列の性質に関して、DNAマイクロアレイ技術の2つの標準的な型が存在する。第1の形式において、プローブcDNA配列(代表的には、500〜5,000塩基長)は、固体表面に固定化され、別個にまたは混合物中で複数の標的に曝される。第2の形式においては、オリゴヌクレオチド(代表的には、20〜80マーのオリゴ)またはペプチド核酸(PNA)プローブが、インサイチュで(すなわち、チップ上で直接)または従来の合成後に、チップへの結合されるかのいずれかで合成され、次いで、核酸の標識サンプルに曝される。
【0144】
本発明の方法における分析工程は、アレイベースの遺伝子発現分析を行うために、種々の方法、手段およびこれらの変形例のいずれかを使用して行われ得る。アレイベースの遺伝子発現方法は、当該分野で公知であり、多くの科学刊行物ならびに特許において記載されてきた(例えば、M.Schenaら,Science,1995,270:467−470;M.Schenaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996,93:10614−10619;J.J.Chenら,Genomics,1998,51:313−324;米国特許第5,143,854号;同第5,445,934号;同第5,807,522号;同第5,837,832号;同第6,040,138号;同第6,045,996号;同第6,284,460号;および同第6,607,885号を参照のこと)。
【0145】
アレイベースの遺伝子発現方法が開発され、医学研究および臨床研究において使用されてきた(例えば、癌において(例えば、J.DeRisiら,Nat.Genet.,1996,14:457−460;S.Mohrら,J.Clin.Oncol.,2002,20:3165−3175を参照のこと);乳癌研究において(例えば、C.S.Cooper,Breast Cancer Res.,2001,3:158−175による総説を参照のこと);脳腫瘍において(例えば、S.B.HunterおよびC.S.Moreno,Front Biosci.,2002,7:c74−c82を参照のこと);口部癌において(例えば、R.ToddおよびD.T.Wong,J.Dent.Res.,2002,81:89−97を参照のこと);島の生物学および糖尿病研究において(例えば、E.Bernal−Mizrachiら,Dabetes Metab.Res.Rev.,2003,19:32−42を参照のこと);肺線維症、喘息、急性肺傷害および肺気腫の研究において(例えば、M.W.Geraciら,Respir.Res.,2001,2:210−215;およびD.Sheppard,Chest,2002,121:21S−25Sを参照のこと);耳鼻咽喉−頭部および頸部の外科手術において(例えば、M.E.WhippleおよびW.P.Kuo,Otolaryngol.Head Neck Surg.,2002,127:196−204を参照のこと);脳障害において(例えば、P.D.ShillingおよびJ.R.Kelsoe,Pharmacogenomics,2002,3:31−45を参照のこと);腎臓生物学および医療において(例えば、M.Eikmansら,Kidney Int.,2002,62:1125−1135;C.D.CohenおよびM.Kretzler,Nephron.,2002,92:522−528;ならびにE.P.Bottingerら,Exp.Nephrol.,2002,10:93−101を参照のこと);血液病学において(例えば、J.Walkerら,Curr.Opin.Hematol.,2002,9:23−29を参照のこと);薬理ゲノム学的研究において(例えば、M.Srivastavaら,Mol.Med.,1999,5:753−767;およびP.E.Blowerら,Pharmacogen.J.,2002,2:259−271を参照のこと);創薬において(例えば、C.DeboukおよびP.N.Goodfellow,Nat.Genet.,1999,21:48−50;ならびにA.Butte,Nat.Rev.Drug Discov.,2002,1:951−960を参照のこと);精神障害に関与する新規遺伝子発見のためのツールとして(例えば、A.B.NiculescuおよびJ.R.Kelsoe,Ann.Med.,2001,33:263−271を参照のこと);ウイルスに感染した宿主細胞における遺伝子発現を研究するため(例えば、J.H.Namら,Acta Virol.,2002,46:141−146を参照のこと);神経系における遺伝子発現を研究するため(例えば、T.J.Senderaら,Neurochem.Res.,2002,27:1005−1026;R.S.Griffinら,Genome Biol.,2003,4:105を参照のこと)、ならびに感染性疾患の病因における遺伝子の機構的役割を解明および解釈するため(例えば、M.Kato−Maedaら,Cell Microbiol.,2001,3:713〜719を参照のこと)。
【0146】
本発明の実施において、これらの方法ならびにアレイベースの遺伝子発現分析を行うために当該分野で公知の他の方法は、これらの方法が、遺伝子発現の胎児mRNAレベルを評価することを可能にするように、記載されるように使用されるか、または改変され得る。
【0147】
胎児において遺伝子発現を確立するための本発明の他の方法は、以下の工程を包含する:羊水の胎児RNAの試験サンプルを提供する工程であって、ここでその胎児RNAは、妊婦から得られた羊水のサンプルに由来し、その試験サンプルは、検出可能な薬剤で標識された複数の核酸セグメントを含む、工程;複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイを提供する工程であって、ここで各遺伝子プローブは、基材表面上の別個のスポットに固定化されて、アレイを形成する、工程;そのアレイと、その試験サンプルとを、そのサンプル中の核酸セグメントがそのアレイ上の遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で接触させる工程;その試験サンプルの個々の核酸セグメントが、そのアレイ上に固定化された個々の遺伝子プローブに結合したことを決定して、結合パターンを得る工程;ならびにその得られた結合パターンに基づいて、その胎児についての遺伝子発現パターンを確立する工程。
【0148】
(試験サンプル)
好ましくは、アレイベースの遺伝子分析方法によって分析される羊水の胎児RNAは、上記のように、羊水のサンプルから単離される。本発明の方法において使用される、羊水の胎児RNAの試験サンプルは、検出可能な薬剤で標識された複数の核酸フラグメントを含む。
【0149】
抽出された胎児RNAは、増幅され得、逆転写され得、標識され得、フラグメント化され得、精製され得、濃縮され得、そして/または遺伝子発現分析の前に、別な方法で改変され得る。核酸の操作のための技術は、当該分野で周知であり、例えば、J.Sambrookら,「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York,NY;「PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications」,1990,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;P.Tijssen「Hybridization with Nucleic Acid Probes−Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology(Parts I and II)」,1993,Elsevier Science;「PCR Strategies」,1995,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;ならびに「Short Protocols in Molecular Biology」,2002,F.M.Ausubel(編),第5版,John Wiley&Sonsを参照のこと。
【0150】
特定の好ましい実施形態において、アレイベースの遺伝子発現分析の分離能を改善するために、その試験サンプルの核酸フラグメントは、約500塩基長未満、好ましくは、約200塩基長未満である。小さなフラグメントを使用することによって、小さな差異の検出または独特の配列の検出の信頼性が有意に増す。
【0151】
RNAフラグメント化の方法は、当該分野で公知であり、以下が挙げられる:リボヌクレアーゼ(例えば、RNase T1、RNase V1およびRNase A)での処理、超音波処理(例えば、P.L.Deininger,Anal.Biochem.,1983,129:216−223を参照のこと)、機械的剪断など(例えば、J.Sambrookら,「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York;P.Tijssen「Hybridization with Nucleic Acid Probes−Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology (Parts I and II)」,1993,Elsevier Science;C.P.Ordahlら,Nucleic Acids Res.1976,3:2985−2999;P.J.Oefnerら,Nucleic Acids Res.,1996,24:3879−3886;Y.R.Thorstensonら,Genome Res.,1998,8:848−855を参照のこと)が挙げられる。そのRNAのランダム酵素消化により、25〜30塩基低五の長さを含むフラグメントがもたらされる。
【0152】
その試験サンプル中の核酸セグメントのフラグメントサイズは、種々の技術(例えば、電気泳動(例えば、B.A.SilesおよびG.B.Collier,J.Chromatogr.A,1997,771:319−329を参照のこと)またはマトリクス補助レーザー脱離/イオン化飛行時間質量分析(例えば、N.H.Chiuら,Nucl.Acids,Res.,2000,28:E31を参照のこと))のいずれかにより評価され得る。
【0153】
本発明の方法の実施において、羊水の胎児RNAの試験サンプルは、分析前に標識される。検出可能な薬剤で核酸を標識する適切な方法は、上記で詳細に記載されている。
【0154】
ハイブリダイゼーション前に、その試験サンプルの標識核酸フラグメントは、ハイブリダイゼーション緩衝液中で再懸濁する前に、精製かつ濃縮され得る。Microcon 30カラムを使用して、一工程でサンプルを精製かつ濃縮し得る。あるいは、核酸は、膜カラム(例えば、Qiagenカラム)またはセファデックスG50を使用して精製され得、エタノールの存在下で沈殿され得る。
【0155】
遺伝子発現アレイハイブリダイゼーション実験のための核酸サンプルの調製方法は、当業者によって容易に実行および/または改変され得る。
【0156】
(遺伝子発現ハイブリダイゼーションアレイ)
種々のアレイのうちのいずれかが、本発明の実施において使用され得る。研究者らは、市販のアレイに頼るかまたは彼ら自身で作製するかのいずれかであり得る。アレイを作製および使用する方法は、当該分野で周知である(例えば、S.KernおよびG.M.Hampton,Biotechniques,1997,23:120−124;M.Schummerら,Biotechniques,1997,23:1087−1092;S.Solinas−Toldoら,Genes,Chromosomes&Cancer,1997,20:399−407;M.Johnston,Curr.Biol.,1998,8:R171−R174;D.D.Bowtell,Nature Gen.,1999,Supp.21:25−32;S.J.WatsonおよびH.Akil,Biol Psychiatry.,1999,45:533−543;W.M.Freemanら,Biotechniques,2000,29:1042−1046および1048−1055;D.J.LockhartおよびE.A.Winzeler,Nature,2000,405:827−836;M.Cuzin,Transfus.Clin.Biol.,2001,8:291−296;P.P.Zarrinkarら,Genome Res.,2001,11:1256−1261;M.GabigおよびG.Wegrzyn,Acta Biochim.Pol.,2001,48:615−622;ならびにV.G.Cheungら,Nature,2001,40:953−958を参照のこと;例えば、米国特許第5,143,854号;同第5,434,049号;同第5,556,752号;同第5,632,957号;同第5,700,637号;同第5,744,305号;同第5,770,456号;同第5,800,992号;同第5,807,522号;同第5,830,645号;同第5,856,174号;同第5,959,098号;同第5,965,452号;同第6,013,440号;同第6,022,963号;同第6,045,996号;同第6,048,695号;同第6,054,270号;同第6,258,606号;同第6,261,776号;同第6,277,489号;同第6,277,628号;同第6,365,349号;同第6,387,626号;同第6,458,584号;同第6,503,711号;同第6,516,276号;同第6,521,465号;同第6,558,907号;同第6,562,565号;同第6,576,424号;同第6,587,579号;同第6,589,726号;同第6,594,432号;同第6,599,693号;同第6,600,031号;および同第6,613,893号もまた参照のこと)。
【0157】
アレイは、基材表面上の個々のスポット(すなわち、規定された位置または割り当てられた位置)に固定化された複数の遺伝子プローブを含む。本発明において使用するための基材表面は、基材表面への遺伝子プローブの直接的または間接的結合(すなわち、固定化)を可能にする、種々の剛性、半剛性、または可撓性の材料のいずれかから作製され得る。適切な材料としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:セルロース(例えば、米国特許第5,068,269号を参照のこと)、セルロースアセテート(例えば、米国特許第6,048,457号を参照のこと)、ニトロセルロース、ガラス(例えば、米国特許第5,843,767号を参照のこと)、石英または他の結晶性基材(例えば、砒化ガリウム、シリコーン(例えば、米国特許第6,096,817号を参照のこと))、種々のプラスチックおよびプラスチックコポリマー(例えば、米国特許第4,355,153号;同第4,652,613号;同第6,024,872号を参照のこと)、種々の膜およびゲル(例えば、米国特許第5,795,557号を参照のこと)、ならびに常磁性微粒子もしくは超磁性微粒子(例えば、米国特許第5,939,261号を参照のこと)。蛍光が検出されるべき場合、シクロ−オレフィンポリマーを含むアレイが、好ましくは使用され得る(例えば、米国特許第6,063,338号を参照のこと)。
【0158】
その材料上の反応性官能性化学基(例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基など)の存在は、その基材表面に遺伝子プローブを直接的または間接的に結合するために利用され得る。基材表面に遺伝子プローブを固定化してアレイを形成するための方法は、当該分野で周知である。
【0159】
各遺伝子プローブの1つより多くのコピーが、そのアレイ上にスポットされ得る(例えば、二連または三連で)。この配置は、例えば、得られる結果の再現性の評価を可能にし得る。関連した遺伝子プローブはまた、アレイ上のプローブエレメントに分類され得る。例えば、プローブエレメントは、異なる長さであるが、実質的に同じ配列を含む複数の関連した遺伝子プローブを含み得る。あるいは、プローブエレメントは、クローニングされた一片のDNAの1つを超えるコピーを消化することで得られた、異なる長さのフラグメントである複数の関連した遺伝子プローブを含み得る。プローブエレメントはまた、一塩基対ミスマッチの存在を除いて、同一のフラグメントである、複数の関連した遺伝子プローブを含み得る。アレイは、複数のプローブエレメントを含み得る。アレイ上のプローブエレメントは、異なる密度でその基材表面上に配置され得る。
【0160】
アレイに固定化された遺伝子プローブは、例えば、実質的に完全なゲノムまたはゲノムサブセットをまとめて網羅する配列を含む、遺伝子(例えば、ゲノムライブラリー由来)由来の配列を含む核酸であり得る(例えば、そのアレイは、開発全体を通して発現されるヒト遺伝子のみを含み得る)。遺伝子プローブは、長いcDNA配列(500〜5,000塩基長)であってもよいし、より短い配列(例えば、20〜80マーオリゴヌクレオチド)であってもよい。その遺伝子プローブの配列は、遺伝子発現レベル情報が望まれるものである。さらにまたは代わりに、そのアレイは、未知の意味または位置の核酸配列を含み得る。遺伝子プローブは、ポジティブコントロールまたはネガティブコントロールとして使用され得る(例えば、その核酸配列は、核型として通常のゲノムに由来してもよいし、1以上の染色体異常を含むゲノムに由来してもよい;代わりにまたはさらに、そのアレイは、非特異的ハイブリダイゼーションを調節するために、完全にマッチする配列および一塩基対ミスマッチの配列を含み得る)。
【0161】
遺伝子プローブの調製および操作のための技術は、当該分野で周知である(例えば、J.Sambrookら,「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York,NY;「PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications」,1990,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;P.Tijssen「Hybridization with Nucleic Acid Probes−Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology(Parts I and II)」,1993,Elsevier Science;「PCR Strategies」,1995,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;ならびに「Short Protocols in Molecular Biology」,2002,F.M.Ausubel(編),第5版,John Wiley&Sons)。
【0162】
長いcDNA配列は、種々のビヒクルにクローニングすることによって得られ、操作され得る。それらは、スクリーニングされ得、ゲノムDNAの任意の供給源から再クローニングまたは増幅され得る。遺伝子プローブは、ゲノムクローンから得られ得、これらのクローンとしては、哺乳動物およびヒトの人工染色体(それぞれ、MACおよびHACであり、これらは、約5〜約400キロベース(kb)の挿入物を含み得る)、サテライト人工染色体またはサテライトDNAベースの人工染色体(SATAC)、酵母人工染色体(YAC;0.2〜1Mbサイズ)、細菌人工染色体(BAC;300kbまで);P1人工染色体(PAC;約70〜100kb)などが挙げられる。
【0163】
遺伝子プローブはまた、他のクローニングビヒクル(例えば、組換えウイルス、コスミド、またはプラスミド(例えば、米国特許第5,266,489号;同第5,288,641号および同第5,501,979号を参照のこと))にクローニングすることによって、得られ、操作され得る。
【0164】
あるいは、遺伝子プローブ(特に、オリゴヌクレオチドのような短い配列を含むもの)は、当該分野で周知の化学技術によってインビトロで合成され、次いで、アレイに固定化され得る。このような方法は、科学文献および特許において記載されている(例えば、S.A.Narangら,Meth.Enzymol.,1979,68:90−98;E.L.Brownら,Meth.Enzymol.,1979,68:109−151;E.S.Belousovら,Nucleic Acids Res.,1997,25:3440−3444;D.Guschinら,Anal.Biochem.,1997,250:203−211;M.J.Blommersら,Biochemistry,1994,33:7886−7896;ならびにK.Frenkelら,Free Radic.Biol.Med.,1995,19:373−380を参照のこと;例えば、米国特許第4,458,066号もまた参照のこと)。
【0165】
例えば、オリゴヌクレオチドは、ホスホルアミダイトアプローチに基づいた自動化固相手順を使用して調製され得る。このような方法において、各ヌクレオチドは、伸長しているオリゴヌクレオチド鎖の5’末端に個々に付加され、次いで、これは、固体支持体に対して3’末端で結合される。その付加されたヌクレオチドは、ジメトキシトリチル(またはDMT)基によって、5位で重合から保護される3価の3’−ホスホルアミダイトの形態で存在する。塩基誘導性ホスホルアミダイトカップリングの後、穏和な酸化によって、5価のホスホトリエステル中間体が得られ、DMTが除去されて、オリゴヌクレオチド伸長のための新たな部位が提供される。そのオリゴヌクレオチドは、次いで、固体支持体から切断され、そのホスホジエステルおよび環外アミノ基は、水酸化アンモニウムで脱保護される。これらの合成は、市販のオリゴ合成器(例えば、Perkin Elmer/Applied Biosystems Division DNA合成器)で行われ得る。
【0166】
基材支持体に対するオリゴヌクレオチドの結合方法(または固定化方法)が、記載されている(例えば、U.MaskosおよびE.M.Southern,Nucleic Acids Res.,1992,20:1679−1684;R.S.Matsonら,Anal.Biochem.,1995,224;110−116;R.J.Lipshutzら,Nat.Genet.,1999,21:20−24;Y.H.Rogersら,Anal.Biochem.,1999,266:23−30;M.A.Podyminoginら,Nucleic Acids Res.,2001,29:5090−5098;Y.Belosludtsevら,Anal.Biochem.,2001,292:250−256を参照のこと)。
【0167】
オリゴヌクレオチドベースのアレイはまた、光リソグラフィーおよびオリゴヌクレオチド化学の組み合わせを用いて、インサイチュ合成によって調製されている(例えば、A.C.Peaseら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91:5022−5026;D.J.Lockhartら,Nature Biotech.,1996,14:1675−1680;S.Singh−Gassonら,Nat.Biotechn.,1999,17:974−978;M.C.Pirrungら,Org.Lett.,2001,3:1105−1108;G.H.McGallら,Methods Mol.Biol.,2001,170;71−101;A.D.Baroneら,Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids,2001,20:525−531;J.H.Butlerら,J.Am.Chem.Soc.,2001,123:8887−8894;E.F.Nuwaysirら,Genome Res.,2002,12:1749〜1755を参照のこと)。感光性の保護された2’−デオキシヌクレオシドホスホラミト(phosphoramite)を使用する光指向性オリゴヌクレオチド合成のための化学は、Affymetrix Inc.(Santa Clara,CA)により開発されており、当該分野で周知である(例えば、米国特許第5,424,186号および同第6,582,908号を参照のこと)。
【0168】
遺伝子プローブの特注アレイ形成の代替方法は、市販のアレイおよびマイクロアレイに頼ることである。このようなアレイは、例えば、Affymetrix Inc.(Santa Clara,CA)、Illumina,Inc.(San Diego,CA)、Spectral Genomics,Inc.(Houston,TX)、およびVysis Corporation(Downers Grove,IL)によって開発されている。
【0169】
実施例の節において記載されるように、出願人らは、2つの異なる遺伝子発現アレイを使用した。第1のものは、GeneChip Test3アレイ(Affymetrixにより開発され、市販されている)であり、これは、発生中ずっと発現される24個のヒト遺伝子のサブセットを含む。このアレイは、ヒト遺伝子の大きなセットをマイクロアレイへ後で適用するために、cRNAの性質および量を評価するために使用される。第2のアレイは、Affymetrix遺伝子発現マイクロアレイHG−U133Aであり、これは、14,239個の特有の遺伝子を示す22,283個のプローブエレメントを含む。ここでいくつかの場合、1つを超えるプローブエレメントは、1つのmRNA転写物を示す。これらのプローブセットが由来した配列を、GenBank(登録商標)、dbEST、およびRefSeqから選択した。各プローブエレメントは、少なくとも22個の25マーオリゴヌクレオチド配列からなり;非特異的ハイブリダイゼーションを調節するために、これらの半分は、完全マッチ配列であり、他方の半分は、一塩基対ミスマッチ配列である。このアレイにおいて、そのcRNA 対 その完全配列/ミスマッチ配列のハイブリダイゼーション比により、各特有の遺伝子の存在または非存在に関する定量的データが得られる。
【0170】
(ハイブリダイゼーション)
本発明の方法において、遺伝子発現アレイは、その試験サンプルと、そのサンプル中の核酸フラグメントがそのアレイに固定化された遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で接触される。
【0171】
ハイブリダイゼーション反応および洗浄工程は、あるとすれば、種々の実験条件のいずれかの下で行われ得る。多くのハイブリダイゼーションプロトコルおよび洗浄プロトコルが記載されてきており、当該分野で周知である(例えば、J.Sambrookら,「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,1989,第2版,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York;P.Tijssen「Hybridization with Nucleic Acid Probes−Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology(Part II)」,Elsevier Science,1993;ならびに「Nucleic Acid Hybridization」,M.L.M.Anderson(編),1999,Springer Verlag:New York,NYを参照のこと)。本発明の方法は、公知のハイブリダイゼーションプロトコルに従うことによって、改変されたかもしくは最適な変形例の公知のハイブリダイゼーションプロトコルまたは新たに開発されたハイブリダイゼーションプロトコルを使用することによって、これらのプロトコルが特異的ハイブリダイゼーションが起こることを可能にする限りにおいて、行われ得る。
【0172】
用語「特異的ハイブリダイゼーション」とは、核酸分子が、特定の核酸配列にストリンジェントな条件下で、優先的に結合するか、二重鎖を形成するかまたはハイブリダイズするプロセスをいう。本発明の文脈において、この用語は、より具体的には、試験サンプル由来の核酸フラグメントが、そのアレイ上に固定化された特定の遺伝子プローブに優先的に結合し(すなわち、ハイブリダイズし)、かつそのアレイの他の固定化遺伝子プローブには、より少ない程度または全くハイブリダイズしないプロセスをいう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、配列依存性である。ハイブリダイゼーションの特異性は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーとともに増大する;ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーが減少すると、より高いミスマッチが許容される結果になる。
【0173】
ハイブリダイゼーション条件および/または洗浄条件は、異なる要因(例えば、ハイブリダイゼーション反応時間、洗浄工程の時間、ハイブリダイゼーション反応および/または洗浄プロセスの温度、ハイブリダイゼーション緩衝液および/または洗浄緩衝液の成分、これらの成分の濃度、ならびにそのハイブリダイゼーション緩衝液および/または洗浄緩衝液のpHおよびイオン強度)を変化させることによって調節され得る。
【0174】
特定の実施形態において、そのハイブリダイゼーション工程および/または洗浄工程は、非常にストリンジェントな条件下で行われる。他の実施形態において、そのハイブリダイゼーション工程および/または洗浄工程は、中程度からストリンジェントな条件下で行われる。なお他の実施形態においては、1回より多くの洗浄工程が好ましい。例えば、バックグラウンドシグナルを減少させるために、中程度から低いストリンジェンシー洗浄の次に、非常にストリンジェントな条件下での洗浄が行われる。
【0175】
当該分野で周知のように、そのハイブリダイゼーションプロセスは、他の反応条件を改変することにより増強され得る。例えば、ハイブリダイゼーション効率(すなわち、平衡に達するまでの時間)は、温度変動(すなわち、2℃より高い温度差)を含む反応条件を使用することで高められ得る。温度変化をもたらし得るオーブンまたは他のデバイスは、ハイブリダイゼーションプロセスの間に温度変動条件を得るために、本発明の方法の実施において使用され得る。
【0176】
ハイブリダイゼーション効率は、その反応が、その水分が飽和されない環境下で起こる場合に有意に改善されることが、当該分野で公知である。ハイブリダイゼーションプロセスの間の水分の制御は、ハイブリダイゼーション感度を増すために別の手段を提供する。アレイベースの機器は、通常、実験の異なる段階全ての間に(すなわち、プレハイブリダイゼーション工程、ハイブリダイゼーション工程、洗浄工程および検出工程)水分の制御を可能にするハウジングを備える。
【0177】
さらに、または代替的に、浸透圧の揺らぎを含むハイブリダイゼーション環境を使用して、ハイブリダイゼーション効率を増加し得る。ハイブリダイゼーション反応混合物の高張性/低張性が変動するこのような環境は、ハイブリダイゼーションチャンバにおいて溶質勾配を作り出すことによって(例えば、チャンバの1つの側に低塩濃度を含むハイブリダイゼーション緩衝液を配置し、そしてチャンバの他の側に高塩濃度を含むハイブリダイゼーション緩衝液を配置することによって)得られ得る。
【0178】
(高度に反復した配列)
本発明の方法の実施において、アレイを、試験サンプルと、サンプル中の核酸セグメントがアレイの遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で接触させる。上記のように、適切なハイブリダイゼーション条件の選択によって、特異的なハイブリダイゼーションが行われ得る。特定の場合において、ハイブリダイゼーションの特異性は、反復配列を阻害することによってさらに増強され得る。
【0179】
特定の好ましい実施形態において、核酸フラグメントに存在する反復配列は、除去されるかまたはそれらのハイブリダイゼーション能力が不可能にされる。ハイブリダイゼーション反応から反復配列を除くことまたはそれらのハイブリダイゼーション能力を抑制することによって、ハイブリダイズされる核酸からのシグナルが、これらの反復型配列に由来するシグナルによって支配されることを妨げる(これらの反復型配列は、統計的に、よりハイブリダイゼーションを受けそうである)。ハイブリダイゼーションから反復配列を除けないことまたはそれらのハイブリダイゼーション能力を抑制しないことによって、非特異的ハイブリダイゼーションが生じ、バックグラウンドノイズからシグナルを区別することが困難になる。
【0180】
混合物から反復配列を除くかまたはそれらのハイブリダイゼーション能力を不可能にすることは、当業者に周知の種々の方法のいずれかを使用して達成され得る。これらの方法としては、固体支持体に固定された特異的核酸配列へのハイブリダイゼーションによって反復配列を除くこと(例えば、O.Brisonら、Mol.Cell.Biol.,1982,2:578−587を参照のこと);適切なPCRプライマーを使用してPCR増幅によって反復配列の産生を抑制すること;または自己再会合によって高度に反復した配列のハイブリダイゼーション能力を阻害すること(例えば、R.J.Brittenら、Methods of Enzymol.,1974,29:363−418を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0181】
好ましくは、高度に反復した配列のハイブリダイゼーション能力は、ハイブリダイゼーション混合物中に、非標識遮断(blocking)核酸を含むことによって競合的に阻害される。非標識遮断核酸(これは、接触工程の前に試験サンプルに混合される)は、競合因子として作用し、そして標識された反復配列が遺伝子プローブの高度に反復した配列に結合することを妨げ、従って、ハイブリダイゼーションバックグラウンドを減少させる。特定の実施形態(例えば、胎児mRNA由来のcDNAが分析される場合)において、非標識遮断核酸は、ヒトCot−1 DNAである。ヒトCot−1 DNAは、例えば、Gibco/BRL Life Technologies(Gaithersburg,MD)から市販されている。
【0182】
(結合検出およびデータ分析)
本発明の方法は、結合パターンを得るために、試験サンプルの個々の核酸フラグメントの、アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブへの結合を決定することを包含する。アレイベースの遺伝子発現において、結合パターンの決定を、固定された遺伝子プローブへの標識核酸セグメントのハイブリダイゼーションから生じる標識アレイを分析することによって実施される。
【0183】
特定の実施形態において、結合の決定は、アレイ上の各個々のスポットにおいて、検出可能な薬剤によって生成されるシグナルの強度を測定することを包含する。
【0184】
標識されたアレイの分析は、種々の手段および方法のいずれかを使用して実施され得、その選択は、検出可能な薬剤の性質および使用されるアレイベースの機器の検出システムに依存する。
【0185】
特定の実施形態において、検出可能な薬剤は、蛍光色素を含み、そしてその結合は、蛍光によって検出される。他の実施形態において、羊水胎児RNAのサンプルはビオチン標識され、固定された遺伝子プローブへのハイブリダイゼーションの後に、ハイブリダイゼーション産物は、ストレプトアビジン−フィコエリトリン結合体で染色され、蛍光によって可視化される。蛍光標識されたアレイの分析は、通常、以下を含む:アレイ全体の蛍光の検出、画像獲得、画像化アレイからの蛍光強度の定量、およびデータ分析。
【0186】
蛍光標識の検出および蛍光画像の作成のための方法は、当該分野において周知であり、電荷結合素子(すなわち、CCD)のような「アレイ読み取り」または「走査」システムの使用を含む。任意の公知のデバイスもしくは方法、またはそれらの改変が、本発明の方法を実施するために使用され得るか適合され得る(例えば、Y.Hiraokaら,Science,1987,238:36−41;R.S.Aikensら,Meth.Cell Biol.,1989,29:291−313;A.Divaneら,Prenat.Diagn.,1994,14:1061−1069;S.M.Jalalら,Mayo Clin.Proc.,1998,73:132−137;V.G.Cheungら,Nature Genet.,1999,21:15−19を参照のこと;例えば、米国特許第5,539,517号;同第5,790,727号;同第5,846,708号;同第5,880,473号;同第5,922,617号;同第5,943,129号;同第6,049,380号;同第6,054,279号;同第6,055,325号;同第6,066,459号;同第6,140,044号;同第6,143,495号;同第6,191,425号;同第6,252,664号;同第6,261,776号;および同第6,294,331号もまた参照のこと)。
【0187】
市販のマイクロアレイスキャナは、代表的に、1つ(またはそれ以上)の蛍光画像を獲得し得るレーザーベースの走査システムである(例えば、この機器は、PerkinElmer Life and Analytical Sciences.Inc.,(Boston,MA)、Virtek Vision,Inc.(Ontario,Canada)およびAxon Instruments,Inc.(Union City,CA)から市販される)。アレイは、弱い蛍光シグナルの検出およびアレイ上の各スポットにおけるシグナル応答の線形性を確実にするために、異なるレーザー強度を使用して走査され得る。蛍光色素特異的光学フィルターは、蛍光画像の獲得の間、使用され得る。最初のセットは、例えば、Chroma Technology Corp.(Rockingham,VT)から市販される。
【0188】
好ましくは、上記のようなアレイから蛍光画像を生成しそして獲得し得るコンピューター支援画像化システムは、本発明の方法の実施において使用される。ハイブリダイゼーション後に標識アレイの1つ以上の蛍光画像を獲得し、そして保存し得る。
【0189】
好ましくは、コンピューター支援画像システムは、獲得された蛍光画像を分析するために使用される。このようなシステムは、強度の差異の正確な定量化および結果のより容易な解釈を可能にする。アレイ上の異なるスポットでの蛍光の定量および蛍光比の決定のためのソフトウェアは、通常、スキャナハードウェアに含まれる。ソフトウェアおよび/またはハードウェアは、市販され、例えば、BioDiscovery(El Segundo,CA),Imaging Research(Ontario,Canada),Affymetrix,Inc.(Santa Clara,CA),Applied Spectral Imaging Inc.(Carlsbad,CA);Chroma Technology Corp.(Brattleboro,VT);Leica Microsystems,(Bannockburn,IL);およびVysis Inc.(Downers Grove,IL)から得られ得る。他のソフトウェアは、公に入手可能である(例えば、MicroArray Image Analysis,and Combined Expression Data and Sequence Analysis(http://rana.lbl.gov);D.Y.Chiangら,Bioinformatics,2001,17:49−55;Rで書かれ、Bioconductorプロジェクトから入手可能なシステム(http://www.bioconductor.org);Institute for Genomic Researchから入手可能なJava(登録商標)ベースのTM4ソフトウェアシステム(http://www.tigr.org/software);およびLund Universityで開発されたウェブベースのシステム(http://base.thep.lu.se))である。
【0190】
実施例のセクションに記載されるように、本出願人は、Affymetrixマイクロアレイを分析するために必要なソフトウェアを使用した。
【0191】
蛍光強度の正確な決定は、蛍光比ベースラインの正規化および決定を必要とする(A.BrazmaおよびJ.Vilo,FEBS lett.,2000,480:17−24)。遺伝子プローブが二連でまたは三連でスポットされたアレイを使用することによって、データ再現性が評価され得る。ベースライン閾値はまた、全体的な正規化アプローチを使用して決定され得る(M.K.Kerrら、J.Comput.Biol.,2000,7:819−837)。他のアレイは、幅広い種々の組織にわたって一定レベルの発現を示し、そしてアレイ実験の正規化およびスケーリングを可能にする一組の維持遺伝子を含む。
【0192】
本発明の方法の実施において、任意の多くの種々のバイオインフォマティクスおよび統計的方法が、アレイベースの遺伝子発現分析によって得られるデータを分析するために使用され得る。このような方法は、当該分野において周知である(データ獲得、データ処理、データ分析、データマイニング(data mining)、ならびに異なるバイオインフォマティクスおよび統計的方法によって抽出される情報の品質、関連性および確認の必須の要素についての総説について、例えば、A.Watsonら,Curr.Opin.Biotechnol.,1998,9:609−614;D.J.Dugganら,Nat.Genet.,1999,21:10−14;D.E.Bassettら,Nat.Genet.,1999,21:51−55;K.R.Hessら,Trends Biotechnol.,2001,19:463−468;E.Marcotte and S.Date,Brief Bioinform.,2001,2:363−374;J.N.Weinsteinら,Cytometry,2002,47:46−49;T.G.Dewey,Drug Discov.Today,2002,7:S170−S175;A Butte,Nat.Rev.Drug Discov.,2002,1:951−960;J.Tamamesら,J.Biotechnol.,2002,98:269−283;Z Xiangら,Curr.Opin.Drug Discov.Devel.,2003,6:384−395を参照のこと)。
【0193】
AffymetrixソフトウェアData Mining ToolおよびインターネットベースのプログラムNetAffxTMを使用することを含む、得られたデータから遺伝子発現情報を抽出するために本出願人が従った手順は、実施例のセクションに記載される。
【0194】
(IV.遺伝子発現パターンおよび胎児期診断)
上記本発明の方法は、胎児の遺伝子発現パターンを確立するために使用され得、それによって、胎児期診断の従来通りの方法を使用しては入手できない情報を提供し得る。
【0195】
異なる在胎齢の胎児における遺伝子発現プロフィールの知識は、子宮内での正常な発生プロセスおよび異常な発生プロセスのもとにある基礎的な遺伝子機構のより良い理解を提供し、そして特定の出産時欠損、発生異常、および他の臨床的状態を担う遺伝子の同定およびマッピングを可能にする(G.C.Westonら、Austr.and New Zeal.J.Obst.Gyn.,2003,43;264−272)。さらに、このような知識は、より正確な胎児期診断を提供するために使用され得、そして胎児期の生理学的状態および病理学的状態の予防および/または処置のための新規な戦略の開発を可能にし得る。
【0196】
ヒトの胚についての研究に固有の困難性に起因して、ヒトについて直接的に研究されたヒト初期発生において活性な遺伝子についてほとんど知られていない。伝統的に、異なるヒトの胚段階および胎児段階における発生遺伝子発現パターンに深い洞察を得るための研究は、モデル系の使用に依存している。このアプローチは、動物界にわたる遺伝子、遺伝子ネットワークおよび発生経路の保存によって正当化される。多くの研究(下等生物(特に、ショウジョウバエDrosophila)に焦点が当てられている)は、多用な範囲の多細胞生物における初期発生事象を制御する遺伝子のファミリーを同定している。これらの遺伝子は、正常な哺乳動物の発生に重要であることが見出されており、いくつかは、ヒトの出産時欠損を担うことが公知である。他の研究は、ゼブラフィッシュ、ツメガエル、およびマウスの発生において遺伝子発現パターンを確立した(T.S.Tanakaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2000,97:9127−9132)。発生生物学において使用される主要なモデルの胚についての多くの量の遺伝子発現データは、ここで、データベース以外の任意の形式で保存するには広範すぎる(例えば、J.B.L.Bard,Sem.Cell.Develop.Biol.,1997,8:455−458;R.A.Baldockら,Sem.Cell.Develop.Biol.,1997,8:499−507;D.Davidsonら,Sem.Cel.Develop.Biol.,1997,8:509−511;J.B.Bardら,Genome Res.,1998,8:859−863;F.J.Verbeekら,Int.J.Dev.Biol.,1999,43:761−771;J.Streicherら,Nat.Genet.,2000,25:147−152;D.Davidson and R.Baldock,Nat.Rev.Genet.,2001,2:409−418;J.Sharpeら,Science,2002,296:541−545)。
【0197】
胚遺伝子の発現についての情報はまた、着床前発生の異なる段階でヒトの個々の着床前の胚を使用して得られた(例えば、Y.Verlinskyら、Mol.Hum.Reprod.,1998,4;571−575;D.M.Gouら、Gene,2001,278:141−147を参照のこと)。この戦略は、未受精の卵母細胞から胚盤胞段階へのヒト着床前発生の異なる段階で特異的に発現されるヒト遺伝子の同定および単離を可能にした(J.Adjayeら、J.Assist.Reprod.Genet.,1998,15:344−348;C.Holdingら、Mol.Hum.Reprod.2000,6:801−809;M.Monkら、Reprod.Fertil.Dev.,2001,13:51−57)。
【0198】
本発明の方法は、生きたヒトの胎児からのRNAの直接的分析に基づくという利点を有する。特に、本発明の方法は、異なる在胎齢の核型的および発生的に正常な男の胎児および正常な女の胎児におけるmRNA遺伝子発現のベースラインレベルを確立するために使用され得る。本発明において使用される胎児RNAが羊水から抽出されるので、遺伝子発現パターンが確立され得る妊娠期間は、羊水穿刺が「安全」であることが決定されている期間に対応する。
【0199】
本発明の方法はまた、異なる在胎齢(ここで、遺伝子発現パターンの一つ以上の特徴が、胎児の発生における時間または事象と相関する)の核型的および発生的に正常な男の胎児および正常な女の胎児について発生遺伝子発現パターンを確立するために使用され得る。
【0200】
異なる在胎齢の胎児の遺伝子発現パターンについての知識は、子宮内の正常な発生プロセスのもとにある基礎的な遺伝子機構のより良い理解を提供するはずである。一旦この知識が本発明に従って得られると、特定の出産時欠損、発生異常、および他の臨床的状態を担う遺伝子が同定されそしてマッピングされ得、これは次いで、子宮内での異常な発生プロセスのもとにある基礎的な遺伝子機構のより良い理解を導く。
【0201】
例えば、ヒト腎臓炎の間、本発明の方法を使用して得られる遺伝子発現プロフィールは、正常な腎臓の発生、ならびに腎異形成または小児腎臓悪性疾患(ウィルムス腫瘍)を生じ得る、この正常なプロセスの異常への洞察を提供し得る。
【0202】
同様に、在胎齢が小さい(SGA)胎児および在胎齢が適切な(AGA)胎児の遺伝子発現パターンは、本発明の方法を使用して比較され得る。在胎齢が小さい赤ん坊は、通常、同じ在胎齢の赤ん坊に対して、100分位数の10番目未満の出産時の体重を有する。SGAはまた、低血糖症、低体温症、および赤血球増加症を含む特定の代謝異常を包含し得る。出産時低体重の赤ん坊は、周産期の罹患率および死亡率に対する不均衡な寄与をもたらす。さらに、乏しい認知発達、神経学的欠陥、心血管疾患の発生、高血圧、閉塞性肺疾患、糖尿病、高コレステロール濃度および腎臓損傷のような出生後および後の人生において生じる問題は、出産時低体重と関連していることが報告されている(C.H.D.Fallら、J.Nutr.,2003,133,1747S−1756S)。
【0203】
同様に、本発明の方法は、正常な肺遺伝子発現または遅延した肺遺伝子発現のプロフィールが確立され得るか否かを決定するために、肺成熟試験を受ける胎児からの羊水から抽出された胎児RNAを分析するために使用され得る。
【0204】
次いで、本発明の方法によって得られる情報は、胎児期診断を提供するために使用され得る。より詳細には、胎児の遺伝子発現パターンと、異なる在胎齢の核型的および発生的に正常な胎児について確立されたmRNA遺伝子の発現のベースラインレベルとの比較は、胎児において異常に発現される遺伝子の検出および同定を可能にする。従って、羊水穿刺と対にされる場合、本発明の胎児期診断の方法は、標準的技術を使用して現在利用可能でない胎児についての多くの情報を導く。
【0205】
さらに、特定の出産時欠損、発生異常、または他の臨床状態において異常に発現されることが本発明の方法によって示される新規遺伝子はまた、母の血液中の増幅に対する将来の標的として潜在的に役立つ(それによって、妊娠した女性が羊水穿刺を受ける必要性を排除する)。
【0206】
(V−キット)
別の局面において、本発明は、本発明の方法を実行するために有用な材料を含むキットを提供する。
【0207】
本発明のキットは、以下の成分のうちのいくらかまたは全てを含む:妊娠した女性から得られた羊水のサンプルから無細胞胎児RNAを抽出するための材料;複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイであって、ここで、各遺伝子プローブがアレイを形成するために基材表面に異なるスポットに固定される、遺伝子発現アレイ;異なる在胎齢の核型的および発生的に正常な男の胎児および正常な女の胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルを含むデータベース;異なる在胎齢の核型的および発生的に正常な男の胎児および正常な女の胎児について確立された発生遺伝子発現パターンを含むデータベース;ならびに本発明の方法に従って材料、データベースおよび遺伝子発現アレイを使用するための説明書。
【0208】
本発明のキットはまた、検出可能剤を用いて核酸のサンプルを標識するための材料を含み得る。検出可能剤は、蛍光標識、例えば、蛍光色素(例えば、Cy−3TM、Cy−5TM、Texas Red、FITC、フィコエリトリン、ローダミン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、カルボシアニン、メロシアニン、スチリル色素、オキソノール色素、BODIPY色素、ならびにこれらの化合物の等価物、アナログ、誘導体、および組み合わせ)を含み得る。あるいは、検出可能剤は、ハプテン、例えば、ビオチン/アビジン系を含み得る。
【0209】
本発明のキットはまた、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液、RNaseインヒビター、キャリアRNAおよび/またはHuman Cot−1 DNAを含み得る。
【0210】
本発明のキットは、必要に応じて、各個々の試薬のための異なる容器を含む。各成分は、そのそれぞれの容器においてアリコートにされることが適切である。キットの容器は、必要に応じて、少なくとも1つのバイアル、アンプル、試験管、フラスコ、またはボトルを含む。キットの個々の容器は、好ましくは、商業的な販売のためにしっかり拘束して保持される。
【実施例】
【0211】
以下の実施例は、本発明を作製しそして実施する様式を記載する。しかし、これらの実施例が説明の目的だけであり、本発明の範囲を制限することを意図しないことが理解されるべきである。さらに、実施例の記載が過去時制で提示されない場合、明細書の残りと同様に、テキストは、実験が実際に実行されたかまたはデータが実際に得られたことを示唆することを意図しない。
【0212】
このセクションで提示される結果の大部分は、最近の科学的刊行物(P.B.Larrabbeeら、J.Am.Med.Assoc.,Feb.2005、刊行中)(これは、その全体が、本明細書中において参考として援用される)において本出願人によって記載されている。
【0213】
(材料および方法)
(羊水収集物)
本明細書中に報告される研究についての羊水上清サンプルを得るために、Tufts−New England Medical Center(Boston,MA)およびWomen and Infants’Hospital(Providence,RI)Institutional Review Boardsから許可を得た。
【0214】
(症例)健常な妊娠において、10mLと30mLとの間の羊水を、胎嚢から安全に取り出すが、臨床試験(核型分析およびα−フェトプロテイン測定を含む)に続いて、約8〜15mLのみの上清を残す。予備的実験は、正常な単生児由来のこの残りの容量の羊水が、マイクロアレイ分析のための十分な量のmRNAを含まないかもしれないことを示した。従って、5個の大容量の羊水サンプルを、羊水過多症に対する治療的羊水減少を受ける4人の女性から得た。これらの女性の内の二人が、水症を有する胎児(29 4/7週の在胎齢(水症1)および32週(水症2))を有し、一人が、双胎児輸血(TTT)症候群を有する胎児(20週の在胎齢(TTT2))を有し、そして別の女性が、2つの異なる妊娠期間で羊水減少を受けた胎児TTT(21 6/7週(TTT3)および24 3/7週(TTT1))を有し、従って、2つのサンプルを提供した。無細胞上清を、10分間、少なくとも350×gの遠心分離によって得た。
【0215】
(コントロール)比較のための健常な胎児から十分なRNAを得るために、凍結され保管された羊水上清の複数の10mLサンプルを、大きなプールを形成するために組み合わせた。これらのサンプルは、母が高齢のため慣用的な遺伝子羊水穿刺を受けた17週と18週との間の在胎齢の妊娠女性から得た。男の胎児由来の6個のサンプルおよび女の胎児由来の6個のサンプルを、公知の正常な核型および類似の在胎齢に基づいて選択した。これらのコントロールサンプルを、性別によって組み合わせ、各60mLのプールは、平均17週の胎児の羊水上清を表す。無細胞上清を、10分間、350×gの遠心分離によって得た。
【0216】
(オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション)
遠心分離後、全RNAを、QIAamp Viral RNA Vacuum Protocol for Large Sample Volumes(Qiagen,Inc.,Valencia、CA)を、改変して使用して、全てのサンプルから抽出した。このプロトコルの改変は、以下を含んだ:(1)カラム当たりの各5mLの羊水について20mLへの、緩衝液ウイルス溶解緩衝液(AVL)およびエタノールの量の増加、ならびに(2)60mLシリンジ(これは、大きなサンプル容量に適合するためにカラムを回転させるために装着される)の使用。簡単に述べると、5mLの羊水上清を20mLのQiagen緩衝液AVLと組み合わせ、そして徹底的に混合した。この混合物に、20mLの100%エタノールを添加し、そしてサンプルを再び徹底的に混合した。次いで、この溶液を減圧マニホルドおよびシリンジアタッチメントによって、複数のQiaAmpに適用した。結合した核酸を、緩衝液AW1を用いて洗浄し、次いで、Qiagen RNAseインヒビターを含まないDNaseキットとともにカラムで消化し、続いて、緩衝液AW1およびAW2を用いてさらなる洗浄を行った。RNAを、カラム当たり、50μLのRNAseインヒビターを含まない水を用いて溶出した。溶出剤をプールし、そして3μlのアリコートを12倍に希釈し、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)転写物のRT−PCR定量のために使用した以外、エタノール沈殿(2.5容量の100%EtOH、3M NaAc、グリコーゲン)に供した。
【0217】
mRNAを2回増幅し、GenChip(登録商標)Eukaryotic Small Sample Target Labeling Techical Note(Affymetrix,Inc.,Santa Clara,CA)に記載されるように、ビオチン化ヌクレオシドトリホスフェートの存在下でインビトロ転写によってcRNAに変換した。このプロトコルは、www.affymetrix.com.に詳細に記載される。簡単に述べると、T7−オリゴdTプライマーを使用して、全RNAをcDNAに転写し、ポリA mRNAのみが標的化されることを確実にした。次いで、cDNAの第2の鎖を最初の鎖から合成した。二本鎖cDNAを、相ロック(phase lock)ゲル−フェノール/クロロホルム抽出を使用して精製した。二本鎖cDNAから、インビトロ転写を、Ambion MEGAscriptプロトコルを用いて実施した。インビトロ転写物を、製造業者のプロトコルに従って、RNAeasyカラム(Qiagen)を使用して精製した。次いで、cRNAをランダムヘキサマーを使用して、別の回のcDNA合成に供した。このプロトコルからの二本鎖cDNAを、第2のインビトロ転写反応に使用し、この回は、ビオチン化リボヌクレオチドを使用して、Enzo BioArray転写標識キットを用いた。サンプルを、Phase Lock Gels(Eppendorf AG,Hamburg,Germany)を用いてフェノール−クロロホルム抽出によってさらに精製した。ビオチン化cRNAの量および質を確認するために、Affymetrix GeneChip(登録商標)Expression Analysis Techical Manual(r3)に従って、Affymetrix Test3オリゴヌクレオチドアレイへハイブリダイゼーションする前に、ゲル電気泳動を使用して分析し、そしてフラグメント化した。
【0218】
引き続いて、15〜75μgのビオチン化cRNAを、Affymetrix HG−U133Aアレイにハイブリダイズした。上で既に述べたように、これらのアレイは、22,283個のプローブセットおよび500,000を超える異なるオリゴヌクレオチド特徴から構成され、14,239個の最も良く特徴付けられたヒト遺伝子(Affymetrix,Inc.)を表す。
【0219】
(マイクロアレイデータ分析および統計的分析)
各アレイを、3μm/画素の解像度を有する共焦点スキャナ(Agilent,Palo Alto,CA)を使用して、570nmで走査した。画素強度を測定し、そしてMicroarray suite 5.0(Affymetrix)を使用して発現シグナルを抽出および分析した。全てのマイクロアレイを、全ての実験からの発現を直接比較し得るように、「All Probe Sets」スケーリング選択肢を使用して、50の同じ標的シグナルにスケールを合わせた。
【0220】
TTTまたは水症の症例のそれぞれとプールされた男性のコントロールとの間で、Microarray Suite 5.0 ソフトウェアによって、Wilcoxonサインランク検定を使用して、比較分析を行った。21 6/7週のTTT3サンプルおよびプールされた女性サンプルからのデータは、ノイズの多いデータ(以下を参照のこと)に起因して使用しなかった。データをExcelフィールド(Microsoft,v.97 SR−2)にコピーし、そして症例またはコントロールのいずれかにおいて「存在する」と呼ばれるプローブセットから選別した。各症例についてのデータは、プールした男性コントロールと比較して、二倍またはそれ以上の差異で、増加するかまたは減少した転写物に狭められた。次いで、2つの残りのTTTデータセットを、互いに比較して(2つの水症データセットも同様にした)、プールされたコントロールと比較して同じ疾患を有する両方の症例において一貫して増加または減少した遺伝子を検出した。最後に、目的の選択した遺伝子(例えば、Y染色体遺伝子、界面活性因子、ムチン、ケラチン、アクアポリン、および胎盤遺伝子)の発現レベルを、プールされた男性コントロールと比較して、全ての症例において再調査した。
【0221】
(実施例1:予備的試験−羊水からの胎児mRNA抽出)
無細胞胎児mRNAを、新鮮な残留羊水サンプルおよび凍結された残留羊水サンプルの両方から首尾良く抽出および増幅させた。羊水サンプルを、最初に、慣用的な診断目的で収集した;上清は、通常、核型分析後に捨てられるが、治療的羊水穿刺において、全サンプルを捨てる。細胞遺伝学実験室において、サンプルを10分間、350×gで遠心分離して、培養のための細胞を取り出した。サンプルを、新鮮なサンプルの場合は受け取ったときに、または凍結したサンプルの場合は解凍直後にのいずれかで、13,000×gで再び遠心分離した。これは、抽出されたRNAが本当に細胞外であったことを確実にした。
【0222】
RNAを、Qiagen Viral RNAミニキットを使用して、上記のような減圧プロトコルに従って、抽出した。サンプルの開始体積は、代表的に、420μLであった。合成ポリA RNA(15〜25μg)を、キャリアとして、抽出の間、このサンプルに添加した。RNAを、60μLの最終体積まで濃縮した。
【0223】
最初に、mRNAを、凍結したサンプルから抽出し、そしてこのmRNAは、500pg/mLと1000pg/mLとの間の濃度で存在した。RNAが凍結/解凍プロセスおよび/またはサンプルの取り出しと凍結との間の時間経過によって分解するか否かを試験するために、凍結したサンプルを解凍し、そして420μLの2つのアリコートを取り出した;一方のアリコートは、即時のプロセシングのためであり、そして一方は、4℃で3時間保持し、その後、RNA抽出に供したものであった。全ての場合において、3時間の期間にわたる増幅可能なRNAが、かなり損失された。しかし、羊水が入手の直後に凍結される場合、新鮮なサンプルと比較して、より多くのRNAが、凍結したサンプルから回収された。
【0224】
これらの予備的な実験から、サンプル獲得の時点で羊水中に存在する細胞外RNAが、経時的に分解することが明らかである。しかし、羊膜細胞の溶解および分解から生じる細胞外RNAもまた、経時的にか、またはサンプルの凍結および解凍からのいずれかで、増加する。細胞外RNAの最も正確な評価を得るために、サンプルは、取り出された後に、可能な限り早く、すべての細胞を除去される必要がある。次いで、サンプルは、即座にプロセシングされるか、またはRNAseインヒビターの添加に供され、そして−80℃で凍結される必要がある。
【0225】
(実施例2:大きい体積の羊水サンプル−プロセシングおよび貯蔵)
いくつかの例において、大きい体積(1Lより大きい)の羊水が、治療の理由(すなわち、羊水過多症)により取り出される。これらのサンプル(これらは、通常、処分される)は、大きい開始量の胎児無細胞RNAを提供する。このような高体積のサンプルのうち、9個が現在までに収集され、そして現在貯蔵されている。代表的に、羊水を、1Lの減圧シールされた容器内に、滅菌様式で取り出した。受容の際に、この流体を50mLのアリコートに分割し、そして800×gで15分間遠心分離し、あらゆる細胞物質を除去した。これらのサンプルからの上清(45mL)を、−80℃での貯蔵のために、225mLの容器内にプールした。
【0226】
(実施例3:大きい体積の羊水サンプル−マイクロアレイのためのRNAの抽出および調製)
2つの大きい体積の羊水サンプルを得、そして上記のようにプロセシングした。一方は、妊娠24と3/7週間の双子の女性胎児を保有する妊婦由来であった(TTT1で示される)。他方のサンプルを、男性胎児が未知の病因のハイドロープ(hydrop)を有する、妊娠29と4/7週間の妊婦から採取した(Hydrops1で示される)。さらに、30mLの各サンプルを(5mLのアリコートで)採取し、そして上記のようなQIAamp Viral RNA Vacuum Protocol for Large Volumes(Qiagen,Inc.,Valencia,CA)の改変を使用してアリコートを凍結させる代わりに、RNAを抽出した。2つの30mLのサンプルは、それぞれ7.2ngおよび12.7ngを与えた。より多量のRNAを得る目的で、上記サンプル由来の予め凍結させた60mLの羊水上清を、さらなる抽出のために使用した。これらのサンプルをプールし、沈殿させ、そしてRNAseインヒビターを含まない水10μLに再懸濁させ、17ng(サンプルTTT1)および36ng(サンプルHydrops1)の最終的な全収量を得た(表1を参照のこと)。
【0227】
サンプルを、上記のように、Affymetrixウェブサイトから入手可能なGeneChip(登録商標) Eukaryotic Small Sample Target Labeling Technical Noteからの方法を使用して、転写および標識した。標識されたcRNAを、ハイブリダイゼーションのための調製における化学的断片化に供した(図1を参照のこと)。増幅に続いて、UV分光光度計分析は、標識されたcRNAの61.3μg(サンプルTTT1)および24.9μg(サンプルHydrops1)の収量を示した。これは、マイクロアレイへのハイブリダイゼーションのために充分であるよりも多かった。
【0228】
(実施例4:遺伝子発現マイクロアレイへのハイブリダイゼーション)
最初に、5μgの各サンプルを、GeneChip(登録商標) Test3アレイにハイブリダイズさせ、続いてシグナルの抗体増幅を行った。このTest3アレイは、発育の間中発現される24のヒト遺伝子のサブセットを含む。得られたデータの分析により、cRNAは、より大きいセットのヒト遺伝子を含むマイクロアレイへの引き続く増幅のために充分な質および量であることが示唆された。
【0229】
次いで、ハイブリダイゼーションプロセスを、15μgの標識されたcRNAをAffymetrix遺伝子発現マイクロアレイHG−U133A上に上記のようにロードすることによって、繰り返した。女性サンプルにおいて、マイクロアレイ上の22,283のプローブセットのうちの8,097(36.3%)が存在し、13,762(61.8%)が存在せず、そして424(1.9%)がわずかに発現された。男性サンプルにおいて、9,864(44.1%)が存在し、11,992(53.8%)が存在せず、そして457(2.1%)がわずかに発現された。両方のサンプルにおける発現の最も高いレベルは、多くのリボソームタンパク質転写産物について見出されたが、これらの2つのサンプルの間で、これらの遺伝子の大部分の発現において、有意な差はなかった。各プローブセットについての2つのサンプル、またはサンプルの群の間での発現の増加または減少もまた、Wilcoxonの符号つき順位検定(定量的な確率値)およびTukeyのBiweight法(底が2の対数での定量的な変化の程度)によって決定した。
【0230】
次いで、これらの2つのサンプルのハイブリダイゼーション結果を、互いに比較した。22,283のプローブセットのうちで、これらのうちの18,266(82%)の発現のレベルにおいて、2つのサンプル間で差はなかった。重要なことに、遺伝子の数は、2つのサンプル間で有意に異なるレベルで表現された。これには、女性サンプルと比較した男性羊水サンプルにおいて、それぞれ有意に減少した1,480のプローブセット、または有意に増加した2,258のプローブセットが含まれた。さらに、これらの2つのサンプルの間で、それぞれ121のプローブセットがわずかに減少し、そして158のプローブセットがわずかに増加した。
【0231】
異なるレベルで発現される遺伝子のサブセットが、図2に与えられる表に示される。これらの羊水サンプルは、男性胎児および女性胎児由来であるので、このことは、Y染色体特異的転写産物の存在または非存在に基づく、マイクロアレイの成功の確認を可能にした。Y染色体上に見出される遺伝子のうちの2つが、この表に示されており、これらの両方が、予測されるように、男性サンプルにおいて発現され、そして女性サンプルにおいては発現されなかった。また、図2の表に示されるように、2つのサンプルの間で異なるレベルで発現される遺伝子のいくつかは、分化プロセスおよび発育プロセスに関与する遺伝子を表す。これらの発現の差はまた、多くの組織特異的遺伝子、および遺伝子のファミリー(例えば、コラーゲン)において観察された。これらの予備的な結果は、TTT症候群およびハイドロープの基底にある生物学についての、興味深い手がかりを提供する。さらなる実験のために、異なる在胎齢におけるmRNA発現のベースラインレベルを確立する。
【0232】
全体的に、これらのデータは、mRNAが、羊水から首尾よく抽出され得、増幅され得、そしてヒト遺伝子発現マイクロアレイにハイブリダイズされ得ることを示唆する。このことは、羊水中の裸のmRNAが、全て分解するわけではないことを示唆する。さらに、使用される分析方法は、効果的であり、そして多量のデータの収集が可能である。得られた結果は、男性および女性の胎児における遺伝子発現の明確な差を示した。男性胎児におけるY染色体遺伝子のアップレギュレーションは、非常に確実である。他方で、ハイドロープを有する胎児における、サーファクタントに関連する遺伝子のアップレギュレーションは、魅力的であり、そしてさらなる調査の価値がある。得られた予備的データは、このアプローチが、有意かつ新たな知見を非常に導きやすいことを示す。
【0233】
(実施例5:遺伝子発現実験およびデータの分析)
実施例3および実施例4に記載される2つに加えて、サンプルからデータを得るために、3つの多量の羊水サンプルを、羊水過多症のための治療的羊水減少を受けている妊婦から、第二トリメスターまたは第三トリメスターのいずれかの間に得た。1人の女性は、ハイドロープを有する胎児を有し、そして2人の女性は、双胎児輸血(TTT)症候群を有する胎児を有した。1人の女性は、胎児TTTを有し、この女性は、先にサンプルTTT1を与えられ、2つの異なる在胎齢において羊水減少を受け、そして2つのサンプルを提供した。
【0234】
正常な胎児由来の羊水サンプルもまた、上記のように、比較の目的で使用した。
【0235】
羊水サンプルを、−80℃で凍結させた。800×gで10分間、4℃で遠心分離することによって、細胞を除去し、その後、抽出または凍結させた。RNAを、上記のように抽出した。合計90〜180mLの羊水を、TTTまたはハイドロープを有する患者から抽出し、そして57〜62mLを、正常な妊婦由来の2つのプールされたサンプル(1つの男性、1つの女性)について抽出した。次に、RNAを2倍に増幅させ、そして上記のように、cRNAに転換した。これによって、抽出されたRNAの8000倍までの増幅を得、このことは、より少ない出発体積の羊水材料が使用され得ることを示唆する。これらのサンプルを、フェノール−クロロホルム抽出によってさらに精製し、そして上記のように、cRNAサンプルを断片化し(図3を参照のこと)、ハイブリダイズし、染色し、そして走査した。
【0236】
【表1】

次いで、5μgのビオチン化cRNAを、Affymetrix Test3オリゴヌクレオチドアレイにハイブリダイズさせて、標識されたRNAの質を決定した。cRNAの質および量が十分であることが決定されたら、15〜75μgのサンプルを、Affymetrix U133Aアレイにハイブリダイズした。
【0237】
アレイの走査を、上記のように実施し、そして比較分析を、Wilcoxon符号つき順位検定を使用して、Microarray Suite 5.0ソフトウェアによって、「症例」としてTTTサンプルまたはハイドロープサンプルの各々について実施し、そして正常な核型男性サンプルを、「コントロール」としてプールした。
【0238】
マイクロアレイへのハイブリダイゼーション。試験したサンプルのうちの5つ(実施例3および実施例4において先に記載された2つ、ならびに3つのさらなるサンプルTTT2、Hydrops2、およびプールされた男性コントロール)は、尺度因子によって測定される場合に、アレイに良好にハイブリダイズした。この尺度因子は、製造業者による推奨どおりに、互いの2倍以内であった。これらのアレイのうちの2つ(サンプルTTT3およびプールされた女性コントロールを用いて得られた)を、分析から排除した。これは、高い尺度因子および「存在」と称される少ない転写産物(サンプルの分解を示唆する)に起因する。残りの5つのサンプル(2つのTTTサンプル、2つのハイドロープ、およびプールされた男性コントロール)については、画像の全体の平均バックグラウンド(55.37単位、範囲49.64〜61.50)は、全てのアレイにわたって非常に類似していた(代表的な値は、1つのAffymetrixあたり20〜100の範囲)。雑音(Q)(サンプルの質およびGeneArrayTMスキャナの電気的雑音の尺度)もまた、アレイにわたって匹敵していた(中央値2.21単位、範囲2.06〜2.37)。アレイの変動性を最小にするために、目標値を50に設定した。
【0239】
RNA一体性。分析された5つのサンプルについて、マイクロアレイ上に現れる転写産物の36%の中央値(範囲11〜44%)を、「存在する」として検出し、62%(範囲54〜88%)は、検出不可能(すなわち、「非存在」)であり、そして2%(範囲1〜2%)は、「わずか」であった。ランダムに分布する転写産物の存在に基づく、低レベルの偽ハイブリダイゼーションまたは相互ハイブリダイゼーションの証拠が存在した;これらの結果は、統計学的に有意ではなく、従って、分析に含めなかった。3つのサンプル(Hydrops1、TTT1およびプールされた男性コントロール)は、アレイシグナルの輝度、尺度因子、およびいくつかのハウスキーピング遺伝子転写産物のレベルに基づいて、これらのアレイに非常に良好にハイブリダイズし、組織供給源から抽出されたmRNAに匹敵するデータを提供した。これらの3つのサンプルのうちの2つは、新鮮な羊水から即座に抽出されたmRNAの少なくとも一部分を含有した。プールされた男性コントロールは、凍結された、アーカイブされた羊水材料全体から構成された。
【0240】
個々のサンプル中で、内部コントロール遺伝子(GAPDHおよびアクチン)の3’/5’比がいくらか変動しており、これを使用して、RNAサンプルおよびアッセイの質を評価した。これらのコントロール遺伝子が全てのサンプルにわたって比較される場合、特定のコントロール遺伝子は、全てのサンプルにおいて正常な(すなわち、3未満の)3’/5’比を一貫して有し、一方で、他のコントロール遺伝子は、常に、高い3’/5’比(10〜100)を有した。
【0241】
ハイブリダイゼーションが、試験された7つのサンプルのうちの5つにおいて十分に良好に働くことを決定した後に、これらのアレイに含まれる遺伝子転写産物のレベルを試験して、観察されたパターンが、症例とコントロールとの間の既知の変数(性、在胎齢および疾患状態)と相関するか否かを調査した。
【0242】
サンプル間での遺伝子発現の差。マイクロアレイ上に存在する22,283の転写産物のうちの、20%の中央値(範囲15〜29%)が、症例とプールされた男性コントロールとを比較する場合に、それらの発現レベルに有意な差を有した。図4および図5に提供される表は、それぞれ、両方のTTT胎児および両方のハイドロープ胎児における、プールされたコントロールと比較して統計学的に最も有意に異なる発現レベル(4倍より大きい)を有する遺伝子の選択を示す。
【0243】
Y染色体遺伝子:1つのY染色体転写産物(リボソームタンパク質S4、登録番号NM_001008)は、男性胎児由来の4つ全てのサンプル(プールされたコントロールを含む)によって発現されたが、女性胎児由来のサンプルによっては発現されなかった。さらなるY染色体転写産物は、2つの最も成功した男性サンプル(プールされた男性コントロールおよびHydrops1。以下の表2を参照のこと)に存在した。Y染色体転写産物が、4つ全ての男性サンプルに存在するが女性サンプルには存在しないことは、マイクロアレイデータについての確証を提供した。
【0244】
【表2】

データセットを、胎児の発育に関連する遺伝子ファミリーについてスクリーニングして、増加する在胎齢に伴うハイブリダイゼーションパターンの変化を見出した。興味深い差が、肺、腸および皮膚上皮細胞(これらは全て、羊水と接触する)において発現されるいくつかの遺伝子において見出された。例えば、スタセリン(Statherin)(登録番号NM_003154)(唾液分泌および骨形成に関与する遺伝子)は、17週のプールされたコントロールと比較して、より古い在胎齢の胎児において、28倍まで濃厚であった。発現レベルの変化が胎児の発育と一致する遺伝子の他の例としては、以下が挙げられる:
サーファクタント:サーファクタント遺伝子(表3を参照のこと)(これらは、胎児の肺の発育のために重要である)は、在胎齢とともに増加することが見出された。プールされた17週のコントロール(この一連の実験において試験された、最も未熟な胎児サンプル)は、サーファクタントタンパク質Bについての3つのみの転写産物、およびサーファクタントタンパク質Cについての5つの転写産物のうちの1つのみを示した。それと比較して、Hydrops1の患者(在胎齢29と4/7週)は、全てのサーファクタント遺伝子A、B、CおよびD(合計9の転写産物)を発現した。これらの知見は、公開されたデータと一致した。ヒト胎児肺において発現されるサーファクタント遺伝子の型および量は、発育の間に増加することが周知である。サーファクタントタンパク質BおよびCに対するmRNAは、13週齢まで早期に検出可能であり、そして24週齢まで、そのレベルは、それぞれ、成人レベルの50%および15%である;サーファクタントタンパク質Aの発現は、約30週間後のみに開始し、そして期間の近くに最大に達する;そしてサーファクタントタンパク質D mRNAは、第二トリメスターにおいて最初に検出可能であり、発現は、胎児の間および生後の発育の間中増加する(C.R.Mendelson,Ann.Rev.Physiol.,2000,62:875−915)。本研究の知見は、公開されたデータと一致する。24週齢より古い胎児の全ては、17週齢のコントロールと比較して、サーファクタントタンパク質BおよびCの増加した量を産生し、そしてサーファクタントタンパク質AおよびDは、29週間後のみに観察された。20週齢の胎児および32週齢の胎児が、より未熟な胎児のいくらかよりも少ないサーファクタント転写産物を産生したという事実は、それらの重篤な疾病によって説明され得るか、またはこれらの2つのマイクロアレイが、他のものと同様にハイブリダイズしなかったことに起因し得る。
【0245】
【表3】

ムチン:ムチン遺伝子ファミリーにおける発現の区別されるパターンが観察された(表4を参照のこと)。U133Aアレイ上に存在する11の型のムチンを表す、22の異なる転写産物が存在し、そしてこれらの転写産物の大部分は、試験したサンプルのいずれにも存在しなかった。しかし、ほとんどの成熟胎児は、いくつかの重要なムチン遺伝子を発現した。ムチンは、上皮の界面、ならびに胃腸管、肺、または尿生殖管における細胞外環境に存在する、線維状の糖タンパク質である(J.Dekkerら、Trends Biochem.Sci.,2002,27:126−131)。胎児が成熟するにつれて、これらの胎児は、漸増量のムチンを産生して、子宮の外側での生存のための準備において、上皮を保護する。この概念は、羊水サンプルの進行した在胎齢を用いて観察される、いくつかのムチンの増加した発現と一致する。例えば、気管気管支/胃ムチン5、サブタイプAおよびCは、29週齢を超えた2人の胎児においてのみ見出された。唾液ムチン7は、5人の胎児のうちの4人において見出され、そしてより未熟な胎児と比較して、より古い胎児において、有意に増加した濃度であった。この転写産物の発現レベルは、在胎齢が上がるにつれて増加することが見出され、そして32週間の在胎齢までに、産生は、17週齢のコントロールと比較して、64倍高かった。
【0246】
【表4】

ケラチン:遺伝子ファミリーケラチンは、試験した胎児の全てにおいて、強く発現されることが見出された(表5を参照のこと)。19の異なる型のケラチン遺伝子(28の転写産物)が、U113Aアレイ上に現れた。コントロールサンプルは、正常な型のケラチンについては、1つの転写産物を除いて全ての転写産物を発現し、そして異常な形態のケラチンについては、代謝産物の大部分を発現しなかった。より進行した在胎齢の胎児はまた、正常な転写産物の大部分を発現したが、有意に減少した量であった。実際に、ほとんどの成熟胎児(32週齢のHydrops2)は、17週齢のコントロールと比較して、いくつかのケラチン代謝産物の4倍の減少を有した。
【0247】
【表5】

ケラチンは、腎臓、腸および皮膚によって産生される。皮膚において、ケラチンタンパク質は、ヒト胎児の発育の11週間目の間に、中間層において最初に作製される。5ヶ月目の間に、この層は、ケラチノサイトの確定した層に発達し、そして細胞が幹細胞の基底層から外側の角質層に進行するにつれて、この層は、ケラチンを産生することをやめ、次いで、これらのケラチンは、束になり、そして架橋する。頂部層に達すると、細胞の代謝活性が止まり、うろこ様の最終的に分化したケラチノサイトが、角質保護層を形成する(「Human embryology」,W.J.Larsen,1993(第1版),Churchill Livingstone:New York,NY)。
【0248】
ケラチン発現の、在胎齢に関連する観察された減少の理由は、胎児の皮膚が成熟するにつれて、より少ないケラチン産生細胞が羊水に直接接触し、そしてそれらのmRNAを無細胞画分に放出しないかもしれないことであり得る。むしろ、硬い架橋したケラチンの層自体は、隠れたケラチン産生細胞を、それらのmRNAを羊水中に放出することから保護し得る。
【0249】
他の遺伝子が、胎児の病理学または母体−胎盤−胎児の無細胞核酸の伝達の文脈で、概説された。これらとしては、以下が挙げられる:
アクアポリン:アクアポリン遺伝子は、水輸送体であり、したがって、羊水過多症において役割を果たすと予測され得る。実際に、アクアポリン1の16倍の上昇が、コントロールと比較して、2人のTTT胎児由来の転写産物において観察された(表6を参照のこと)。アクアポリン1は、以前の研究において、胚膜において発現されることが示された。ハイドロープの胎児は、この同じ増加を示さなかった。ここで試験された胎児において、アクアポリン3についての3つの転写産物のうちの1つ(アクアポリン1と同じ研究においては胚膜において見出されなかった遺伝子)のみの低レベルの発現。コントロールと比較して、症例のいずれか(TTTまたはハイドロープ)のうちのいずれかの間で、アクアポリン3の発現の最小の差が存在した。
【0250】
【表6】

アクアポリン1が、絨毛膜板羊膜の先端の面に存在するが、アクアポリン3は、胚膜において活性ではないことの、何らかの証拠が存在する。アクアポリン1は、羊膜空洞から胎盤を横切って胎児の循環への水の移動において役割を果たし得ることが、仮定されている(S.E.Mannら,Am.J.Obstet.Gynecol.,2002,187:902−907)。本発明者らの知見は、羊水中でのアクアポリン1の存在およびアクアポリン3の相対的欠乏を支持する。TTT患者におけるアクアポリン1の有意な増加は、アクアポリン1が、TTTに関連する羊水過多症において役割を果たし得るが、ハイドロープにおいては果たさないことを示唆する。
【0251】
胎盤遺伝子:胎盤に特異的な遺伝子(コルチコトロピン関連ホルモン、絨毛膜体乳腺発育ホルモン1(胎盤ラクトゲン)、およびヒト絨毛膜性腺刺激ホルモンのβサブユニットが挙げられる)を、羊水中で試験した。なぜなら、妊婦の胎盤におけるこれらの遺伝子の存在は、無細胞RNAの胎児−母体輸送の証拠を提供するからである(E.K.Ngら,Proc.Nat.Acad.Sci.,2003,100:4748−4753およびE.K.Ngら,Clin.Chem.,2003,49:727−731)。これらの遺伝子(合計8)に対する転写産物は、試験されたサンプルのいずれにおいても発現されなかった。羊水中の胎盤特異的遺伝子の非存在は、核酸の胎児−母体の経胎盤輸送が、主として一方向(母親に向かって)であるという概念を支持する。以前の研究は、母体の血漿中の無細胞胎児DNAが、胎児の血漿中の無細胞母体DNAと比較して、有意により濃厚であることを示した(A.Sekizawaら,Hum.Gen.,2003:113:307−310)。
【0252】
(考察)
本願は、本出願人が知る限り、無細胞羊水から単離された胎児mRNAのオリゴヌクレオチドマイクロアレイ分析による、生存ヒト胎児における全体的な遺伝子発現の最初のインビボ研究である。無細胞胎児RNAが、この代表的には処分される羊水の成分から首尾よく抽出され、増幅され、標識され、そしてオリゴヌクレオチドマイクロアレイにハイブリダイズされた。
【0253】
この研究において実施された分析は、生存ヒト胎児における遺伝子発現の存在およびレベルに関する重要な情報を明らかにした。さらに、この予備的なデータは、観察された遺伝子発現パターンが、症例とコントロールと間の既知の変数(性、在胎齢および疾患状態)に相関することを示すようである。リアルタイム定量逆転写PCRを使用して得られる結果を確証するためには最適であったが、このことは、制限されたサンプルテンプレートに起因して、可能ではなかった。しかし、1つのY染色体転写産物が、4つ全ての男性サンプルに存在するが、女性サンプルには存在しないことは、このデータの生理学的確証を提供した。次いで、在胎齢に伴う変化を探すために、発現の差が、胎児の発育において重要であることが公知である遺伝子ファミリーにおいて評価された。有意な差が、肺、腸、および皮膚上皮細胞(これらは全て、羊水と接触する)において発現されるいくつかの遺伝子において観察された。
【0254】
本研究は、サンプルの大部分について、羊水由来の無細胞RNAが、マイクロアレイに首尾よくハイブリダイズすることを示した。しかし、いくつかのサンプルは、さほど良好にはハイブリダイズしなかった。このことはおそらく、RNAが分解したからである。RNAの分解は、サンプルのプロセシングまたは凍結/解凍サイクルの導入の前の遅延から生じる。しかし、凍結および解凍は、男性コントロールに対して有害ではないようであり、これは、−80℃で貯蔵されたアーカイブされた羊水サンプルの組成物にもかかわらず、良好にハイブリダイズした。さらに、単一の凍結/解凍サイクルは、血漿においても血清においても、無細胞RNA濃度に対して有意な影響を生じないことが示された(N.B.Tsuiら,Clin.Chem.,2002,48:1647−1653)。無細胞RNAが、固有に分解し、従って、全細胞から抽出されたRNAとは異なる特性を有することが、可能である。RNAは、分解しやすく、従って、羊水中のあらゆる無細胞RNAが、抽出まで生存することは、驚くべきことである。血漿中の循環RNAが、安定化粒子と会合することの証拠が存在する(E.K.Ngら,Clin.Chem.,2002,48:1212−1217)。本研究において、特定の腸コントロール遺伝子は、全てのサンプルにおいて、正常な3’/5’比を有し、一方で、特定の他の遺伝子の比は、常に高かった。この食い違いは、特定のRNA転写産物の保存のパターンを示唆し、これは、アポトーシスの間のmRNAの変化およびパッケージングに関連し得る。ハウスキーピング遺伝子は、種々の組織および生物の間で、その発現パターンが有意に変化し(L.L.Hsiaoら,Physiol.Genomics,2001,7:97−104)、そして羊水中の無細胞RNAのこれらのパターンは、未知である。さらに、羊水中の無細胞RNAの動力学は、まだ調査されていない。
【0255】
本研究において観察された、低レベルの有意でない偽陽性は、アレイ上の短いオリゴヌクレオチドプローブの、共通して短い配列を有する異なるmRNAとの交差ハイブリダイゼーションに起因し得る。しかし、Affymetrixアルゴリズムは、これを考慮に入れており、そしてこの誤差の源を大部分は排除している(J.Liら,Toxicol.Sci.,2002,69:383−390)。さらに、症例およびコントロールは、異なる遺伝背景および他の変数(在胎齢および疾患状態)を有した。なぜなら、羊水穿刺は、一般に、19〜20週齢より大きい健常な胎児において実施されないからである。さらに、少量の材料汚染が、おそらく、結果を混乱させ得る。従って、胎児の遺伝子発現の多様性に関するデータは、調査のこの段階において注意深く解釈されなければならず、そして確実な結論が導き出され得る前に、さらなる研究が必要である。
【0256】
この予備的研究のために、大きい体積のサンプルが、実施可能性を示すために使用された。しかし、健常な胎児由来の羊水サンプルは、羊水過多症を有する胎児由来の羊水サンプルよりも高濃度の無細胞mRNAを含有するようである(表1を参照のこと)。技術的改善は、慣用的に収集される羊水サンプル(30mL未満)からのmRNAの抽出を改善し、それによって、将来には、個々の胎児が研究され得ることに方向付けられる。
【0257】
要約として、本研究は、無細胞胎児mRNAが、羊水から単離され得、そしてオリゴヌクレオチドマイクロアレイを使用して、首尾よく検出され得ることを示す。予備的な遺伝子発現分析は、異なる性、在胎齢、および疾患状態の胎児の間で変動する遺伝子発現パターンを示すようである。この研究全体は、代表的には処分される羊水の一部分を使用して実施され、従って、将来の研究における使用のために容易に利用可能である。観察された興味深い遺伝子発現の差は、この技術が、ヒト発育研究の進歩を容易にし得、そして生存胎児の評価のための新たなバイオマーカーを養うことを示唆する。
【0258】
将来の研究は、特定の遺伝子がアップレギュレートされているかダウンレギュレートされているかを示すための、健常な胎児および異常な胎児における羊水からの遺伝子発現プロフィールの比較を包含する。この様式で、新規のパターンの遺伝子発現が、異常な胎児(例えば、異数体の胎児)において検出され得、このことは、潜在的に、母体の血液中での増幅のための将来の標的として働き得る。肺成熟試験を受けている胎児由来の羊水もまた、正常な肺遺伝子発現または遅延した肺遺伝子発現のプロフィールが確立されているか否かを決定するために、試験される。羊水は、種々の異なる臨床適応症について得られるので、本アプローチは、胎内にいる間の成長または発育の問題を有する胎児を評価するための、新たな様式を構築し得る。
【0259】
さらに、実施例5において報告された予備的実験は、在胎齢に伴う異なる遺伝子の発現のバリエーションを明らかにする、興味深い結果を提供した。これらのバリエーション(例えば、サーファクタント遺伝子およびムチンファミリーの遺伝子について観察されたバリエーション)は、さらに調査される予定であり、その最終目的は、各在胎週における健常な胎児についての正常な遺伝子発現プロフィールを確立し、これによって、問題を有する胎児が比較され得ることである。
【図面の簡単な説明】
【0260】
【図1】図1は、アガロースゲル(染色した1%アガロース/臭化エチジウム)の図であり、分子量マーカー(レーン1)と比較した、フラグメント化された羊水RNAのサンプル(レーン2におけるサンプルTTT1;およびレーン3におけるHydrops1)を示す。
【図2】図2は、サンプルTTT1(女性)からのmRNA発現レベルと比較した、サンプルHydrops1(男性)からのmRNA発現レベルをまとめた図である。
【図3】図3は、アガロースゲル(染色した1%アガロース/臭化エチジウム)の図であり、それぞれ、フラグメント化の前後における、サンプルTTT3をレーン2およびレーン3において示し、サンプルTTT2をレーン4およびレーン5において示し、サンプルHydrops2をレーン6およびレーン7において示し、プールされた男性コントロールサンプルをレーン8およびレーン9において示し、プールされた女性コントロールサンプルをレーン10およびレーン11において示す。レーン1および12は、比較のために分子量マーカーを充填した。
【図4】図4は、17週齢男性コントロールと比較して、TTT胎児(TTT1およびTTT2)における発現の最も統計的に有意に異なる(>4倍の差異)レベルを示すことが見出された遺伝子を列挙する表である。
【図5】17週齢男性コントロールと比較して、水頭症胎児(Hydrops1およびHydrops2)における発現の最も統計的に有意に異なる(>4倍の差異)レベルを示すことが見出された遺伝子を列挙する表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された羊水胎児RNA。
【請求項2】
妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて、羊水胎児RNAが得られる工程
を包含するプロセスによって得られる、請求項1に記載の胎児RNA。
【請求項3】
前記羊水サンプルを処理する前に、細胞集団が該サンプルから取り出される、請求項2に記載の胎児RNA。
【請求項4】
前記羊水サンプルを処理する工程が、
前記羊水中に存在する細胞集団を単離する工程;
該単離された細胞を必要に応じて培養する工程;および
該単離された細胞から胎児RNAを抽出する工程
を包含する、請求項2に記載の胎児RNA。
【請求項5】
前記羊水胎児RNAが、胎児メッセンジャーRNA(mRNA)である、請求項1に記載の胎児RNA。
【請求項6】
出生前診断の方法であって、以下:
羊水胎児RNAのサンプルを提供する工程;
該羊水胎児RNAを分析して、胎児RNAに関する情報を得る工程;および
該得られた情報に基づいて、出生前診断を提供する工程を包含する、方法。
【請求項7】
前記羊水胎児RNAが、妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になり、羊水胎児RNAが得られることによって得られる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記処理する工程の前に、該羊水サンプルから細胞集団を除去して、残りの羊水物質を得る工程をさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記羊水胎児RNAが、以下:
妊婦から得られた羊水サンプルから細胞集団を取り出して、単離された細胞を得る工程;
必要に応じて、該単離された細胞を培養する工程;および
該単離された細胞を処理し、その結果、該細胞中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になり、羊水胎児RNAが得られる工程
によって得られる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記分析する工程の前に、以下:
(a)前記羊水胎児RNAを増幅して増幅された胎児RNAを得て、そして該増幅された胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(b)該羊水胎児RNAを断片化して、断片化した胎児RNAを得て、そして該断片化した胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(c)該羊水胎児RNAを相補的DNA(cDNA)に変換して胎児cDNAを得て、そして該胎児cDNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、または(d)該羊水胎児RNAを相補的RNA(cRNA)に変換して胎児cRNAを得て、そして該胎児cRNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程
をさらに包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記検出可能な薬剤が、蛍光標識、比色分析標識、化学発光標識、放射性核種、磁気標識、ハプテン、微粒子、酵素、検出可能な生物学的分子およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記羊水胎児RNAを分析する工程が、羊水胎児RNAの量を決定する工程、羊水胎児RNAの濃度を決定する工程、羊水胎児RNAの配列組成を決定する工程、該羊水胎児RNAを遺伝子分析に提出する工程、およびアレイを用いて該羊水胎児RNAを分析する工程のうちの1以上を包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記羊水胎児RNAを分析する工程から得られた情報が、胎児RNAの量、胎児RNAの濃度、胎児RNAの配列組成、定性的胎児遺伝子発現、定量的胎児遺伝子発現、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
出生前診断を提供する工程が、胎児の性別を決定する工程、胎児の発生の進行を決定する工程、および該胎児が罹患している疾患または状態を同定する工程のうちの1以上を包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記出生前診断が、疾患または状態を有する疑いのある胎児について実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
胎児における遺伝子発現を確立するための方法であって、該方法は、以下の工程:
羊水胎児RNAの試験サンプルを提供する工程であって、該胎児RNAは、妊婦から得られた羊水のサンプルに由来し、該試験サンプルは、検出可能な薬剤を用いて標識された複数の核酸セグメントを含む、工程;
複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイを提供する工程であって、各遺伝子プローブは、基板表面上の別々のスポットに固定されて、該アレイを形成する、工程;
該サンプル中の該核酸セグメントが該アレイ上の該遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で、該アレイを該試験サンプルと接触させる工程;
該アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する該試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程;および
該得られた結合パターンに基づいて、該胎児について遺伝子発現パターンを確立する工程
を包含する、方法。
【請求項17】
前記遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、胎児の性別と相関付ける工程、または該遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、在胎齢と相関付ける工程をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記胎児が、核型および発生に関して正常であるか、核型に関して異常であるか、発生に関して異常であるか、または臨床状態に罹患している、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
異なる在胎齢の核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;ならびに
前記得られた遺伝子発現パターンに基づいて、核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児における異なる在胎齢でのmRNA発現のベースラインレベルを確立する工程
をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記分析した羊水胎児RNAが雄性胎児に由来する場合、前記遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、核型および発生に関して正常な雄性胎児の胎児発生の時間もしくは事象と相関させる工程、または
前記分析した羊水胎児RNAが雌性胎児に由来する場合、前記遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、核型および発生に関して正常な雌性胎児の胎児発生の時間もしくは事象と相関させる工程、
をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
異なる在胎齢の核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;
該得られた遺伝子発現パターンの1以上の特徴を、核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児の胎児発生の時間または事象と相関させる工程;ならびに
該相関に基づいて、核型および発生に関して正常な雄性胎児または雌性胎児についての、異なる在胎齢での発生遺伝子発現パターンを確立する工程
をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
同一の染色体異常を有する、核型に関して異常な胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;
各得られた遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型および発生に関して正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;
該比較に基づいて、該核型に関して異常な胎児において異常に発現され、該染色体異常と関連する1以上の遺伝子を同定する工程;ならびに
必要に応じて、染色体異常と相関するものとして同定された該1以上の遺伝子の目録を作る工程
をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
同一の発生疾患または発生状態を有する、発生に関して異常な胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;
各得られた遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型および発生に関して正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;
該比較に基づいて、該発生に関して異常な胎児において異常に発現され、該発生疾患または発生状態と関連する1以上の遺伝子を同定する工程;ならびに
必要に応じて、発生疾患または発生状態と相関するものとして同定された該1以上の遺伝子の目録を作る工程
をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
同一の臨床状態に罹患した罹病胎児由来の統計学的に有意な数の羊水胎児RNAサンプルに関して、前記工程の全てを繰り返す工程;
各得られた遺伝子発現パターンを、類似の在胎齢および性別の核型および発生に関して正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルと比較する工程;
該比較に基づいて、該罹病胎児において異常に発現され、該臨床状態と関連する1以上の遺伝子を同定する工程;ならびに
必要に応じて、臨床状態と相関するものとして同定された該1以上の遺伝子の目録を作る工程
をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記羊水胎児RNAが、妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になり、羊水胎児RNAが得られることによって得られる、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
前記処理する工程の前に、前記羊水サンプルから細胞集団を除去して、残りの羊水物質を得る工程をさらに包含する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記羊水胎児RNAが、以下:
妊婦から得られた羊水サンプルから細胞集団を取り出して、単離された細胞を得る工程;
必要に応じて、該単離された細胞を培養する工程;および
該単離された細胞を処理し、その結果、該細胞中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になる工程
によって得られる、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
前記接触させる工程の前に、以下:
(a)前記羊水胎児RNAを増幅して増幅された胎児RNAを得て、そして該増幅された胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(b)該羊水胎児RNAを断片化して、断片化した胎児RNAを得て、そして該断片化した胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(c)該羊水胎児RNAを相補的DNA(cDNA)に変換して胎児cDNAを得て、そして該胎児cDNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、または(d)該羊水胎児RNAを相補的RNA(cRNA)に変換して胎児cRNAを得て、そして該胎児cRNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程
をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
前記検出可能な薬剤が、蛍光標識、比色分析標識、化学発光標識、放射性核種、磁気標識、ハプテン、微粒子、酵素、検出可能な生物学的分子およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する前記試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程が、該アレイ上の各別個のスポットにおける前記検出可能な薬剤によって生成されたシグナルの強度を測定する工程を包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項31】
前記アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する前記試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程が、以下の工程:
コンピュータ支援画像化システムを用いて、ハイブリダイゼーション後の該アレイの蛍光画像を得る工程;および
コンピュータ支援画像解析システムを用いて、該得られた蛍光画像を分析して、該アレイから画像化されたデータを解釈して、ゲノム遺伝子座に相関するものとして、蛍光強度として結果を表示する工程
を包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項32】
アレイベースの遺伝子発現分析に羊水胎児RNAを提出することによって行われる出生前診断の方法であって、該方法は、以下の工程:
羊水胎児RNAの試験サンプルを提供する工程であって、該胎児RNAは、既知の性別および在胎齢の胎児を有する妊婦から得られた羊水サンプルに由来し、該試験サンプルは、検出可能な薬剤で標識された複数の核酸セグメントを含む、工程;
複数の遺伝子プローブを備える遺伝子発現アレイを提供する工程であって、各遺伝子プローブは、基板表面上の別々のスポットに固定されて、該アレイを形成する、工程;
該サンプル中の該核酸セグメントが該アレイ上の該遺伝子プローブに特異的にハイブリダイズする条件下で、該アレイを該試験サンプルと接触させる工程;
該アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する該試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程;
該得られた結合パターンに基づいて、該胎児について遺伝子発現パターンを確立する工程;
該遺伝子発現パターンを分析する工程;および
該分析に基づいて、出生前診断を提供する工程
を包含する、方法。
【請求項33】
前記遺伝子発現パターンを分析する工程が、以下:
前記胎児の該遺伝子発現パターンを、同一の性別および在胎齢の核型および発生に関して正常な胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルに対して比較するか、または同一の性別および在胎齢の核型および発生に関して正常な胎児について確立された発生遺伝子発現パターンに対して比較する工程を包含する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記遺伝子発現パターンを分析する工程が、1以上の異常に発現される遺伝子を検出する工程を包含する、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記異常に発現される1以上の遺伝子が、染色体異常、発生異常および/または臨床状態と関連する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
出生前診断を提供する工程が、前記胎児の発生の進行を決定する工程および/または該胎児が罹患している疾患もしくは状態を同定する工程を包含する、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記胎児が、染色体異常に関連した疾患または状態、発生異常に関連した疾患または状態、臨床状態、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される疾患または状態を有する疑いがある、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記羊水胎児RNAが、妊婦から得られた羊水サンプルを処理し、その結果、該羊水中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に利用可能になり、羊水胎児RNAが得られることによって得られる、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記を
処理する工程の前に、前記羊水サンプルから細胞集団が取り出されて、残りの羊水物質が得られる工程をさらに包含する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記羊水胎児RNAが、以下:
妊婦から得られた羊水サンプルから細胞集団を取り出して、単離された細胞を得る工程;
該単離された細胞を必要に応じて培養する工程;および
該単離された細胞を処理し、その結果、該細胞中に存在する胎児RNAが抽出されて分析に入手可能になる工程
によって得られる、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記分析する工程の前に、以下:
(a)前記羊水胎児RNAを増幅して増幅された胎児RNAを得て、そして該増幅された胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(b)該羊水胎児RNAを断片化して、断片化した胎児RNAを得て、そして該断片化した胎児RNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、(c)該羊水胎児RNAを相補的DNA(cDNA)に変換して胎児cDNAを得て、そして該胎児cDNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程、または(d)該羊水胎児RNAを相補的RNA(cRNA)に変換して胎児cRNAを得て、そして該胎児cRNAを、検出可能な薬剤を用いて必要に応じて標識する工程
をさらに包含する、請求項32に記載の方法。
【請求項42】
前記検出可能な薬剤が、蛍光標識、比色分析標識、化学発光標識、放射性核種、磁気標識、ハプテン、微粒子、酵素、検出可能な生物学的分子およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記アレイ上に固定された個々の遺伝子プローブに対する前記試験サンプルの個々の核酸セグメントの結合を決定して、結合パターンを得る工程が、以下の工程:
コンピュータ支援画像化システムを用いて、ハイブリダイゼーション後の該アレイの蛍光画像を得る工程;および
コンピュータ支援画像解析システムを用いて、該得られた蛍光画像を分析して、該アレイから画像化されたデータを解釈して、ゲノム遺伝子座に相関するものとして、蛍光強度として結果を表示する工程
を包含する、請求項32に記載の方法。
【請求項44】
キットであって、以下の構成要素:
妊婦から得られた羊水サンプルから無細胞胎児RNAを抽出するための材料;
複数の遺伝子プローブを含む遺伝子発現アレイであって、各遺伝子プローブは、基板表面上の別個の点に固定化されて該アレイを形成している、アレイ;
異なる在胎齢での、核型および発生に関して正常な雄性胎児および正常な雌性胎児について確立されたmRNA発現のベースラインレベルを含むデータベース;
異なる在胎齢での、核型および発生に関して正常な雄性胎児および正常な雌性胎児について確立された発生遺伝子発現パターンを含むデータベース;ならびに
該材料および請求項32に記載のアレイを使用することについての指示書
を備える、キット。
【請求項45】
検出可能な薬剤を用いて核酸サンプルを標識するための材料、ハイブリダイゼーション緩衝液、洗浄緩衝液、RNaseインヒビター、キャリアRNA、およびヒトCot−1 DNAからなる群のうちの1以上の構成要素をさらに備える、請求項44に記載のキット。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−28985(P2007−28985A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−216565(P2005−216565)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(505281171)タフツ−ニュー イングランド メディカル センター (2)
【Fターム(参考)】