説明

発色成分でコーティングされる一次粒子

【課題】特にRPプロセスによって、着色セラミック成形物の調製ための改良された技術を提供すること。
【解決手段】本発明にしたがって、10nm〜1000nmの範囲の平均粒子サイズを有し、発色成分を含む懸濁液中で処理される酸化物−セラミック材料の一次粒子により達成される。より具体的には、酸化物−セラミック材料の一次粒子であって、該一次粒子は、10nm〜1000nmの範囲の平均粒子径を有し、発色成分でコーティングされている、一次粒子を提供することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色成分でコーティングされる一次粒子、その調製プロセス、およびその使用、特に、セラミック成形物および歯の修復物の調製における使用に関する。本発明は、酸化物−セラミック材料に基づく、一次粒子を含有する懸濁液、および、セラミック成形物の調製プロセスにさらに関する。
【背景技術】
【0002】
修復歯科学において、高性能セラミック(例えば、Alおよび正方晶系ZrO)は、ワイドスパンブリッジおよび高耐荷重性クラウン(high−load−bearing crown)の製造において非常に重要になってきている。ZrO材料の加工が以下で強調される。これらの歯の修復物は、好ましくは、プレスし、続いて、多くの場合において熱処理することによって、粒状化されたZrO粉末から製造されるZrO素材片(blank)の機械加工により調製される。
【0003】
酸化物−セラミック粉末を着色し、その結果、それから調製される成形物が所望される色を有する様々な方法が、現状技術から公知である。
【0004】
最も良く知られる方法は、着色した酸化物を酸化物セラミックの粒状物質に混合することである。それがプレスされ、加工され、熱処理された後、次いで仕上げられた着色成形物が形成する。熱処理の結果として、着色イオンは、格子部位または格子間部位を覆う。このことに対する最も重要な文書は、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5である。
【0005】
さらなるアプローチが、着色セラミック成形物、特に、歯科用成形物の調製に対して提案されてきた。歯科用成形物の色は、自然の歯の色に可能な限り近くなってきている。したがって、加工は現状技術から公知であり、着色素材片、または歯科用修復物部分もまた、現状技術に従って、予備焼結された成形物に液体を浸透させることによって得られる(それぞれ特許文献6および特許文献7)。しかし、これらの加工は、着色が予備焼結プロセス後に実施され、それゆえ、液体が開放細孔性(open−pored)セラミック本体内に導入されるという不便な点を有する。したがって、着色は完全に均一ではなく、多色性(polychromatism)もまた達成され得ない。特に、後の部分的な素材片または成形加工された歯科用生成物を着色することによって、出発粉末の部分的に共焼結された(cosintered)粒子間の空洞(細孔)だけが着色物質により覆われることがあり得る。したがって、上記粒子の表面の別々の領域だけがまた、着色酸化物の層で着色されるが、出発粉末の粒子の表面の連続的被覆は、可能ではない。浸透に伴うさらに大きく不利な点は、外側から内側への着色の濃度勾配である。多孔性本体が着色溶液へ導入される場合、出発溶液は、上記本体を入れる際に、溶解した着色イオンの一部を開放し、それゆえに、外側から内側へ着色物質が「使い果たされる」。その結果として、成形物の内側より外側の着色イオンおよび酸化物の濃度が高い。さらには、特定の浸透の深さのみが浸透技術によって達成され得る。
【0006】
特許文献8は、着色素材片および歯科用成形物の調製プロセスを記載する。粒状形態の酸化物−セラミック粉末が、流動層反応器中の水溶液中において発色物質でコーティングされる。そうして得られるコーティングされた粒状物質は、次いで、プレスされ、成形物を形成する。成形物は、されに加工され得、粉砕またはすりつぶすことにより予備焼結した後に、歯科用スペーサー(spacer)を形成し得る。
【0007】
圧縮プロセスにより調製される成形物は、通常、ブロック本体の形態で得られ、そのブロック本体から所望される修復物が粉砕され得る(例えば、CAD/CAMを用いて)。そのようなブロック本体は、連続的着色までも共に、例えば、特許文献9に記載される。この技術の不利な点は、特に、粉砕プロセスに伴う貴重な焼結セラミックの多量の損失である。
【0008】
乾燥プレスプロセスに加えて、懸濁液中、特にいわゆるスリップの形態でのセラミック粒子の使用もまた、現状技術において公知である。ここで、例えば加工助剤として使用し得るコーティングをセラミック粒子に塗布することは有利であり得る。それゆえ、特許文献10は、歯科用粉末を、無機物質(例えば、ブレンステッド酸もしくは塩基、またはルイス酸または塩基)あるいは有機物質、特に特定のポリマーを用いてコーティングするプロセスを記載する。上記コーティングは、粉末を水性媒体中へ直接的に導入するか、流動層プロセスのいずれかによってコーティング成分の水溶液を用いて、それぞれの場合において実施される。
【0009】
さらには、あるプロセスが特許文献11から公知である。特許文献11によると、着色素材片が部分的に安定化された二酸化ジルコニウムから調製され、その結果、出発物質をその溶解する塩化物の形態で水(着色物質を含む)に溶解し、共沈が実行され、沈殿生成物が約700℃でか焼される。か焼物をすりつぶし、噴霧乾燥した後、そうして得られた粒状物質は等方加圧され、次いで、熱処理(脱結合すること(debinding)および予備焼結すること)される。
【0010】
歯科理工学において、現在までのところ最も一般的な方法は、ブロック、プレート、または円柱(cylinder)をすりつぶすことまたは粉砕することである。どのタイプの機械処理が選択されるかについての決定はそれぞれの機械に依存するが、また、酸化物セラミックの状態(理論的に達成可能な密度に対する、加工される部分の密度の比)にも依存する。
【0011】
いわゆる建設的または生産的な製造プロセスは、酸化物−セラミック成形物の形成へのさらなるアプローチを表す。用語「ラピッドプロトタイピング」(RP)は、3次元モデルまたは構成要素がコンピュータ支援デザインデータ(CADデータ)から準備される生産的製造プロセスを包含する(非特許文献1)。これらは、例えば、立体リトグラフ(SL)、選択的レーザー焼結法(selective laser sintering)(SLS)、3D印刷、溶融物堆積法(fused deposition modelling)(FDM)、インクジェット印刷(IJP)、3−Dプロッティング、マルチジェットモデリング(multi−jet modelling)(MJM)、自由形状造形法(solid freeform fabrication)(SFF)、薄膜積層法(laminated object manufacturing)(LOM)、レーザー粉末形成法(laser powder forming)(LPF)、および直接セラミックジェット印刷(direct ceramic jet printing)(DCJP)のようなプロセスであり、これらのプロセスを用いるモデル、構成成分、または成形物は、小規模であっても安価に調製される(非特許文献2以下参照)。立体リトグラフはRPプロセス(非特許文献3以下参照)を含み、RPプロセスにおける成形は、CADデータに基づいて液状および硬化可能モノマー樹脂から層状に構築される。
【0012】
歯科用成形物(例えば、インレー、クラウン、またはブリッジ)の調製のためのRPプロセスは、特にセラミック材料の場合に非常に有利である。なぜなら、印象を採り鋳造するプロセス、およびすりつぶし粉砕する操作(歯科理工学実験室において相当量の労力分の経費を含む)はそれぞれ、それゆえに大いに単純化され、同時に非生産的プロセスに伴って生じる材料の損失を避けられ得るからである。一連の完全なデジタルプロセスは今日実施されているので、例えば複数単位のブリッジの枠組み(咬合器における調節、ワックス調整、埋め込みおよび鋳造)の調製のための標準的加工段階は、上記設計図のデジタル化、歯科用成形物の仮想デザイン、およびその生産的立体リトグラフ製造により、置き換えられ得る。
【0013】
立体リトグラフおよび3D印刷の両方が、酸化物−セラミック材料からの歯科用成形物を調製するための重要な方法であることを証明してきている。酸化物−セラミック粒子を架橋可能な溶媒中に含有する噴霧可能なセラミックインクが3D印刷に使用され得る。ある層が堆積された後、硬化が高エネルギー放射により実施される。対照的に、立体リトグラフにおいて、架橋可能なスリップの層は目標の照度で硬化される。
【0014】
スリップおよびセラミックインクの組成物は、少なくとも使用される成分の点で実質的に同じである。これらは、両方の場合において、酸化物−セラミック粒子、架橋可能モノマーまたは架橋可能モノマー混合物、開始剤または開始剤系、および、必要に応じて、さらなる補助物質(例えば、溶媒など)である。
【0015】
セラミック成形物の調製(例えば、立体リトグラフによる)において、セラミック圧粉体は最初に、自由自在に流れるセラミックスリップの層状硬化により調製され、次いで、上記セラミックスリップは脱結合後に焼結され、高密度のセラミック成形物を形成する。圧粉体はまた、未焼結体とも呼ばれる。用語、脱結合は結合剤の除去を記載するために使用される。ここで、使用される結合剤は、通常、圧粉体を約90℃〜600℃の温度に加熱することによって除去される。ひび割れおよび歪みの形成は十分に避けることが重要である。圧粉体は、脱結合の結果としていわゆる前焼結体(white body)になる。
【0016】
脱結合において、単に熱プロセスおよび熱化学プロセスが実施される。水、溶媒、ポリマー、ワックス、または油の混合物は、通常、セラミック粉末のプレスにおいて結合剤として使用される。ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、またはポリエチルメタクリレートが、ポリマーとして主に使用される(非特許文献4を参照)。これらは直鎖状ポリマーであり、上昇した温度での脱重合または鎖の分解により、容易に揮発成分へ多かれ少なかれ分解する。
【0017】
架橋モノマー混合物に基づいてRPプロセスにより産生される未焼結体の場合、ポリマー網目構造が存在する。架橋モノマーの使用を通して、安定な固体を得るために必要とされる硬化時間は、著しく短くなり得るが、同時に、形成するポリマー網目構造はまた、直鎖状ポリマーと比較してはるかに高い熱安定性を示す。このはるかに高い熱安定性は脱結合プロセスに不利に影響する。
【0018】
前焼結体の焼結は、高温焼成中に焼結炉にて実施される。細かく分散したセラミック粉末は、主成分の融点温度以下の温度に暴露することにより圧縮成形され、固められる。その暴露の結果として、多孔性成分はより少なくなり、そしてその強度は増加する。
【0019】
特許文献12は、立体リトグラフによる3次元体の調製のための光硬化組成物を開示する。上記光硬化組成物は、セラミック粒子または金属粒子を40容量%〜70容量%、モノマーを10容量%〜35容量%、光開始剤(photoinitiator)を1容量%〜10容量%、分散剤を1容量%〜10容量%、そして好ましくは、溶媒、可塑剤、およびカップリング剤もまた含む。
【0020】
特許文献13は、インクジェットプリンターの援助を伴う、懸濁液の層状転写(layered imprinting)による三次元セラミック成形物の調製ためのプロセスを記載する。上記懸濁液は、水性ベーマイト溶液を基とする分散媒体中にセラミック粒子を含む。
【0021】
特許文献14は、焼結セラミックまたは金属部品の立体リトグラフによる調製のための樹脂を開示する。上記樹脂は、3000mPa・s未満の粘度を有する。それらの調製のために、低粘度のモノマーが使用され、好ましくは、水溶液中で使用される。高固形成分および低粘度は、分散剤の使用を通して達成されることが言われる。
【0022】
特許文献15は、重合可能なモノマーまたはオリゴマーを基とした可視光で硬化する組成物、および、RPプロセスでプラスチック材料から作られる歯科用修復物の調製のためのその使用を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第5,219,805号明細書
【特許文献2】米国特許第5,263,858号明細書
【特許文献3】米国特許第5,656,564号明細書
【特許文献4】米国特許第5,059,562号明細書
【特許文献5】米国特許第5,118,457号明細書
【特許文献6】米国特許第6,709,694号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1486476号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1859757A2号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1859758A1号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第102005003755A1号明細書
【特許文献11】欧州特許出願公開第1210054号明細書
【特許文献12】米国特許第5,496,682号明細書
【特許文献13】独国特許出願公開第102006015014A1号明細書
【特許文献14】米国特許第6,117,612号明細書
【特許文献15】独国特許出願公開第19950284A1明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】A. Gebhardt, Vision of Rapid Prototyping, Ber. DGK 83 (2006) 7−12
【非特許文献2】A. Gebhardt, Generative Fertigungsverfahren,第3編.,Carl Hanser Verlag,Munich 2007,77
【非特許文献3】A. Beil, Fertigung von Mikro−Bauteilen mittels Stereolithographie, Duesseldorf 2002, VDI−Verlag 3
【非特許文献4】R.Moreno,Amer.Cer.Soc.Bull. 71 (1992) 1647−1657
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
RPプロセスによるセラミックスペーサーの調製における特定の問題は、使用される着色剤が脱結合プロセスおよび焼結プロセスを耐えなければならないので、セラミックの着色である。さらに、顔料(すなわち、主に結晶性無機物質)を用いてセラミックを着色する場合、顔料のまばらな堆積がしばしばセラミック中で発生することが示されている。顔料のこの不均一な分布の結果として、1つには、所望される色効果が達成されず、加えて、セラミックの半透明さもまた損なわれる。さらに、セラミック中の異物の局所的な高濃度がしばしば強度の減少をもたらす。
【0026】
上記のプロセスは、歯科用材料についてなされる要求を満たす着色セラミック成形物を、生産的プロセスを用いて構築するのに、特に十分に適してはいない。したがって、本発明の目的は、特にRPプロセスによって、着色セラミック成形物の調製ための改良された技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この目的は、本発明にしたがって、10nm〜1000nmの範囲の平均粒子サイズを有し、発色成分を含む懸濁液中で処理される酸化物−セラミック材料の一次粒子により達成される。用語、平均粒子サイズは、ここでは数平均を指す。
【0028】
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) 酸化物−セラミック材料の一次粒子であって、該一次粒子は、10nm〜1000nmの範囲の平均粒子径を有し、発色成分でコーティングされている、一次粒子。
(項目2) 酸化物−セラミック材料としてZrOをベースとした酸化物−セラミック材料を含む、項目1に記載の一次粒子。
(項目3) 酸化物−セラミック材料として、Yで安定化されたZrO、特に、3Y−TZPをベースとした酸化物−セラミック材料を含む、項目1または2に記載の一次粒子。
(項目4) 発色成分として、遷移金属化合物、特に、有機遷移金属化合物を含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の一次粒子。
(項目5) 発色成分として、元素である鉄、セリウム、プラセオジム、テルビウム、ランタン、タングステン、オスミウム、テルビウム、およびマンガンのアセチルアセトネート、または、カルボン酸塩、特に、酢酸鉄(III)もしくは鉄(III)アセチルアセトネート、酢酸マンガン(III)もしくはマンガン(III)アセチルアセトネート、酢酸プラセオジム(III)、もしくはプラセオジム(III)アセチルアセトネート、または酢酸テルビウム(III)もしくはテルビウム(III)アセチルアセトネートを含む、項目1〜4のいずれか1項に記載の一次粒子。
(項目6) 前記一次粒子の総質量に対して、0.000001重量%〜0.4重量%の発色成分を含む、項目1〜5のいずれか1項に記載の一次粒子。
(項目7) 10nm〜500nmの範囲の平均一次粒子径を有する、項目1〜6のいずれか1項に記載の一次粒子。
(項目8) 項目1〜7のいずれか1項に記載の一次粒子の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)酸化物−セラミック材料が溶媒中に分散され、そして
(b)発色成分が、(a)において得られた懸濁液に加えられる、
プロセス。
(項目9) セラミック成形物の調製のための、項目1〜7のいずれか1項に記載の一次粒子の使用。
(項目10) 項目1〜7のいずれか1項に記載の一次粒子を含む、酸化物−セラミック材料をベースとした粒状物質。
(項目11) 項目10に記載の粒状物質の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)酸化物−セラミック材料が溶媒中に分散され、
(b)発色成分が、(a)において得られた懸濁液に加えられ、そして、
(c)該懸濁液が乾燥され、そして、該プロセスにおいて粒状化される、
プロセス。
(項目12) 以下:
10重量%〜95重量%の項目1〜7のいずれか1項に記載の一次粒子、および
5重量%〜90重量%の有機成分
を含む酸化物−セラミック材料をベースとした懸濁液であって、
該重量%は、いずれの場合にも、該懸濁液の総質量に対するものである、懸濁液。
(項目13) 以下:
(A)10重量%〜95重量%の、本願発明に従う一次粒子、
(B)3重量%〜85重量%の多反応性結合剤、および
(C)1重量%〜80重量%の有機溶媒、および
(D)1重量%〜30重量%のさらなる添加物
を含む、項目12に記載の懸濁液であって、
該重量%は、いずれの場合にも、該懸濁液の総質量に対するものである、懸濁液。
(項目14) 200Pas〜2000Pasの範囲の粘度を有する、項目12または13に記載の懸濁液。
(項目15) セラミック成形物の調製のための、項目12〜14のいずれか1項に記載の懸濁液の使用。
(項目16) 前記セラミック成形物が、例えば、インレー、アンレー、前装、クラウン、ブリッジまたはフレーム枠のような歯科用修復物である、項目15に記載の使用。
(項目17) セラミック成形物の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)局所的に放射線エネルギーを導入することにより項目12〜14のいずれか1項に記載の懸濁液を硬化することによって、未焼結体の幾何学形状を形成しつつ、未焼結体が調製され、
(b)前焼結体を得るために、該未焼結体が、結合剤を除去するための熱処理に供され、そして、
(c)該前焼結体が焼結される、
プロセス。
(項目18) 前記発色成分が、酢酸鉄(III)もしくは鉄(III)アセチルアセトネート、酢酸マンガン(III)もしくはマンガン(III)アセチルアセトネート、酢酸プラセオジム(III)、もしくはプラセオジム(III)アセチルアセトネート、または酢酸テルビウム(III)もしくはテルビウム(III)アセチルアセトネートを含む、項目1〜7のいずれかに記載の一次粒子。
(項目19) 前記平均一次粒子径が、10nm〜200nmの範囲である、項目1〜7のいずれかに記載の一次粒子。
(項目20) 200mPas〜2000Pasの範囲の粘度を有する、項目12〜14のいずれかに記載の懸濁液。
【0029】
(摘要)
本発明は、酸化物−セラミック材料の一次粒子(この一次粒子は、10nm〜1000nmの範囲の平均粒子径を有し、発色成分でコーティングされている)と、その調製のためのプロセス、そして、特に、セラミック成形物および歯科用修復物の調製におけるその使用に関する。本発明はさらに、一次粒子を含む酸化物−セラミック材料をベースとした懸濁液と、セラミック成形物の調製のためのプロセスに関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明にしたがって処理される一次粒子は、セラミック成形物の調製に使用される場合、得られる成形物の最適で均一な着色を達成するのに驚くほどに適する。このことは、現状技術で使用されるセラミック材料と比較して、実質的な利点を表す。そうして得られた色の均一性は、発色成分でコーティングされる塊および粒状物質を使用することにより得られる色の均一性よりさらに良い。着色の高い均一性に起因して、最適な色の作用は、ほんのわずかな量の発色成分を用いて達成される。特に、余剰の発色イオンを用いて操作する必要が無い。現状技術と比較して必要とされる少量の発色化合物は、これらの化合物の高いコストという点で、本発明のさらなる利点を表す。加えて、より優れた均一性の結果として、セラミックの欠陥の数が減少し、このことはその強度に正の影響を有する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明によれば、一次粒子は、10nm〜1000nm(d50=10nm〜1000nm)の範囲の平均粒子サイズを有する酸化物−セラミック粒子を意味する。平均粒子サイズは、好ましくは10nm〜500nmの範囲であり、最も好ましくは10nm〜200nmの範囲である。これらの粒子は、発色成分でコーティングされる。
【0032】
使用される酸化物−セラミック粉末の化学組成物は、好ましくは、ZrO粉末もしくはAl粉末、または両方の酸化物の混合物を含む。ZrO、Al、CaO、CeO、および/または、MgO安定化ZrO、特に、イットリウム安定化酸化ジルコニウムが特に好まれて使用される。3Y−TZP(イットリウム−安定化正方晶系二酸化ジルコニウム多結晶)、すなわち3mol%のYで安定化されたZrOはとても特に好ましい。
【0033】
一次粒子をコーティングするために、一次粒子は最初に懸濁剤中で分散され、発色成分と混合される。この発色成分は、この懸濁剤中で溶解しなければならない。
【0034】
酸化物−セラミック一次粒子は、有機懸濁液媒体中か水性懸濁液媒体中のいずれかに分散され得、さらに加工され得る。そうして得られる有機懸濁液または水性懸濁液中の発色成分の均一な分布の結果として、一次粒子の表面上の発色イオンの均一な分布を達成し、そのことが焼結後にセラミックの均一な着色を最終的にもたらすことを可能にする。
【0035】
有機懸濁液の場合、好ましくは、有機金属化合物(例えば、使用される有機懸濁媒体に溶解するアセチルアセトネート、またはカルボン酸塩)が発色成分として使用される。
【0036】
これらの有機金属化合物中の金属イオンは、遷移金属のグループに属する。鉄、セリウム、プラセオジム、テルビウム、またはマンガンといった元素の化合物が好まれる。
【0037】
単一の有機金属化合物および数個の化合物の組み合わせの両方が発色成分として使用され得、その結果として、1つだけの遷移金属か、数個の金属の組み合わせのいずれかが酸化物セラミックの特定の着色を引き起こす。
【0038】
酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−エチルヘキシルカルボン酸、ステアリン酸、およびパルミチン酸といったカルボン酸の塩が、有機懸濁液に対して好ましい。対応するFe、Pr、Mn、およびTb化合物(例えば、酢酸鉄(III)もしくは鉄(III)アセチルアセトネート、酢酸プラセオジム(III)、もしくはプラセオジム(III)アセチルアセトネート、または酢酸テルビウム(III)もしくはテルビウム(III)アセチルアセトネート、および対応するカルボン酸塩もまた)は特に好ましい。
【0039】
有機を基としたセラミック懸濁液は、好ましくは、建設的なRPプロセス(例えば、立体リトグラフ、または3D印刷)によりさらに加工される。これらのプロセスにおいて、セラミック成形物は、層状に構築される。
【0040】
水性懸濁液において、有機性懸濁液と同様に、水性懸濁媒体に溶解する遷移金属の化合物は、着色のために使用される。しかし、ここで、好ましくは、無機塩(例えば、水溶性ニトレートおよび水溶性塩化物)が使用される。同じ金属イオン(Fe、Pr、Tb、Mn、Ce)が、着色のために使用される。
【0041】
一次粒子のコーティングは、例えば、欧州特許出願公開第1859757A2号明細書中に記載される方法で実行される。しかし、ここで、一次粒子のコーティングは存在しないが、前もって準備された、プレス可能な粒状物質のコーティングが存在する。
【0042】
本発明に従ってコーティングされた一次粒子は、完成した懸濁液から、例えば、蒸発によって懸濁剤を注意深く除去することにより産生され得る。コーティングされた一次粒子が、凝集体または集塊の形態で最初に沈殿するとしても、これらは、それにより得られるコーティングされた一次粒子を得る目的で、慣例の粉砕プロセスにより破壊され得ることを意味する。しかし、完成した懸濁液は、好ましくは、以下に記載されるようなさらなる加工手順において、直接使用され得る。
【0043】
記載される懸濁液は、一次粒子と同時に発色成分を含有しており、さらに加工され(例えば、噴霧粒状化により)、プレス可能な粒状物質を形成する。粒状化段階の前に、発色成分で一次粒子をすでに処理することにより、一次粒子の表面上に着色イオンの均一な分布が達成される。一次粒子の集塊プロセスを表す粒状化の後、発色イオンは、個々の粒状粒子において前回より均一に分布される。このことは、現状技術と比較して、実質的な改善を表す。
【0044】
水性セラミック懸濁液は、好ましくは、噴霧粒状化プロセスに使用される。発色成分および懸濁剤の水分に加えて、それらはまた、好ましくは、少量の有機成分(例えば、仮結合剤、プレス補助剤、分散剤、および可塑剤(例えば、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン))を含有する。これらの有機成分は、一方では、粒子サイズを最適化するのに役立ち、他方では、さらなる加工手順において一次粒子のプレス性(pressability)の改善に役立つ。これらの有機成分は、好ましくは、最大6重量%の量(懸濁液の固体部分と比較して)で使用され、水中の金属塩(色成分)の溶解性を減少させない。これらの少量の有機部分の結果として、安定な懸濁液は、すでに述べられた通り、さらに加工され得、セラミック成形物をスプレー粒状化により形成し得るが、例えば、鋳造プロセス(スリップ鋳造)においてもまた形成し得る。
【0045】
粒状化後、一次粒子はさらに加工され得、成形物(特にブロック)を、好ましくは、乾燥プレス加工により形成し得る。これらの酸化物−セラミックスペーサーの予備焼結後、それらは、さらに加工され得、歯科用クラウンおよび歯科用ブリッジ枠組みをCAD/CAMにより形成し得る。
【0046】
コーティンク後、本発明に従う粒子は、好ましくは、粒子の総質量と比較して約0.000001重量%〜0.4重量%、特に0.0001重量%〜0.3重量%、特に好ましくは0.01重量%〜0.2重量%の発色成分を含有する。これらの値は、使用される遷移金属化合物の型(有機または無機)に関係なく、対応する遷移金属酸化物に関する。例えば、発色成分として酢酸鉄(III)または鉄(III)アセチルアセトネートを用いる場合、対応するFeの数学的重量パーセントが与えられる。
【0047】
発色成分は、好ましくは、焼結プロセス後に歯の色のセラミック成形物が得られるように選択される。このため、特に2つ以上の、上で名前を挙げた遷移金属化合物は、組み合わされ得、特定の色調を達成し得る。
【0048】
有機懸濁液は、好ましくは、ラピッドプロトタイピングプロセス(例えば、立体リトグラフ、3D印刷、または選択的レーザー焼結法)による酸化物−セラミック成形物の調製のために使用される。切断技術と比較して、これらの構築プロセスの利点は、使用される貴重な酸化物−セラミック材料をより減らすことである。RPプロセスにおいて、特定のセラミックスペーサーのために必要とされるのと同量の材料だけが使用される。対照的に、切断技術では、材料消費はより多い。なぜなら、歯科用成分の特定の形状はセラミックの基本体(ブロック、プレート、円柱)から機械で製作されるからである。それゆえ、はるかに多量に材料が消費される。
【0049】
RPプロセスにより調製されるセラミック成形物は、酸化物−セラミック一次粒子が均一に分布され、はめ込まれる(embed)安定な有機マトリクスから構成される。有機マトリクスは、最小限の強度を有しており、その結果、成分の必要とされる寸法安定性は、さらなる加工の間に保証される。
【0050】
水性懸濁液は、好ましくは噴霧乾燥により加工され、粒状物質を調製する。この加工において、懸濁剤中の水分を蒸発させ、それにより着色成分を用いる一次粒子のコーティングを達成する。一次粒子の集塊が噴霧粒状化プロセスにおいて同時に起こり、その結果として、噴霧乾燥は、発色イオンでコーティングされた一次粒子からなる粒状物質をもたらす。この粒状物質は、次いで、乾式成形され得、セラミックブロックを形成し得、そして、CAD/CAMを持ちいてさらに加工され得る。
【0051】
水性懸濁液が、セラミック鋳造部分の調製のためのスリップ鋳造プロセスにおいて使用される場合、懸濁液は鋳型へ注がれ、次いで、鋳物は乾燥され、焼結される。水分は、乾燥プロセスにおいて蒸発させ、発色成分でコーティングされた一次粒子は多孔性成形物を形成する。
【0052】
焼結する間でのみ、遷移金属イオンは結晶格子(例えば、ZrOセラミック)へ組み込まれる。セラミックの着色は、この結果として生じる。これは、懸濁液のタイプ(有機または無機)、および、使用される技術的プロセス(RPプロセス、噴霧粒状化、鋳造プロセス)にかかわらず、すべてのプロセスに使用する。
【0053】
支持体中に粒子を均一に分布させることを達成するために、および、粒子凝集体および集塊を破壊するために、酸化物−セラミック粉末は、好ましくは、発色成分を用いて処理する前に、均一化プロセスおよび粉砕プロセスに晒される。これは、セラミック粉末に対する慣例のミル中ですりつぶすプロセス、または、超音波を用いて分散させるプロセスであり得る。このプロセスにおいて、例えばミル(特にアトライター(attritor))、溶解機、または超音波分散機が使用される。
【0054】
均質化または粉末化のプロセスは、好ましくは、所望の懸濁液媒体の存在下で行われる。このプロセスの間、発色成分および任意の安定化成分がこの懸濁液に加えられ、そして、この混合物が、プロセスの過程で粉末化および均質化される。次いで、仕上がった懸濁液は、上述のように、さらなる加工処理(RPプロセス、噴霧−造粒)において使用される。
【0055】
本発明はまた、本発明に従って処理された一次粒子の使用にも関する。一次粒子は、一般に、例えば、乾燥プレス加工およびその後の焼結による、セラミック成形物(特に、例えば、インレー、アンレー、前装(veneer)、クラウン、ブリッジまたはフレーム枠のような歯科用修復物)の調製のための多種多様なプロセスにおいて使用するために適している。これらのプロセスにおいて、処理された一次粒子は、好ましくは、本発明の一次粒子を含む粒状物質の形成において使用される。適切な粒状物質は、特に、上述された噴霧乾燥によって得られ得る。
【0056】
さらに好ましいプロセスの例は、立体リトグラフ、3D印刷または選択的レーザー焼結法のようなラピッドプロトタイピング(RP)プロセスである。これらのプロセスは、特に望ましい。というのも、これらは、非切断技術であるので、切断技術に伴う材料のロスを回避する。これらの技術において使用するために、本発明に従う一次粒子は、代表的には、液体懸濁液の形態、特に、液体有機スリップまたはセラミックインクの形態で使用される。
【0057】
各々懸濁液の総質量に対して、10重量%〜95重量%、好ましくは40重量%〜90重量%、特に好ましくは70重量%〜85重量%の本発明に従う一次粒子と、5重量%〜90重量%、好ましくは7重量%〜80重量%、最も好ましくは10重量%〜20重量%の有機成分とを含む、酸化物−セラミック材料をベースとした懸濁液が好ましい。
【0058】
いずれの場合にも、懸濁液の総質量に対して、
(A)10重量%〜95重量%、好ましくは40重量%〜90重量%、特に好ましくは70重量%〜85重量%の本発明に従う一次粒子と、
(B)3重量%〜85重量%、好ましくは5重量%〜40重量%、特に好ましくは7重量%〜15重量%の多反応性結合剤(polyreactive binder)と、
(C)1重量%〜80重量%、好ましくは1.5重量%〜20重量%、特に好ましくは2重量%〜10重量%の有機溶媒と、
(D)1重量%〜30重量%のさらなる補助物質(auxiliaries)および添加物
を含む懸濁液が、特に好ましい。
【0059】
本発明に従う一次粒子の異なる発色成分との混合物が、必要に応じて、一次粒子(A)として使用され得る。
【0060】
特に、概して、1以上の多反応性基を含む低分子量もしくはオリゴマー性のモノマーの混合物から構成される重合樹脂および重付加(polyaddition)樹脂が、多反応性結合剤(B)として使用され得る。
【0061】
重合樹脂の場合、好ましくは、ラジカルおよびカチオンにより重合可能な樹脂およびモノマーが、開環メタセシス重合のために使用される。重付加樹脂の場合、とりわけ、マイケル反応樹脂が適切である。
【0062】
特に、単官能性もしくは多官能性の(メタ)アクリレート、モノおよびビス(メタ)アクリルアミド、または、これらの混合物が、特に、ラジカル重合樹脂として使用され得る。二官能性もしくは多官能性のアクリレートは、好ましくは、モノアクリレートとの混合物で、有機懸濁液中で使用される。
【0063】
少なくとも約120℃、好ましくは150℃〜250℃、特に好ましくは180℃〜230℃の沸点を持つ成分が、好ましくは、有機溶媒(C)として使用され、その結果、懸濁液の立体リトグラフプロセスが、早期の蒸発を生じない。150℃と250℃との間の温度範囲で段階的に蒸発され得る溶媒の混合物が特に好ましい。きわめて特に適切なのは、オクタノール、トリエチレングリコールジビニルエーテル、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、クエン酸三塩基アンモニウム(固体)、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、アセト酢酸エチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シュウ酸ジブチル、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール300、1−ノナノールもしくは2−ノナノール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、シュウ酸ジブチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、アセト酢酸エチル、およびこれらの混合物である。
【0064】
上記溶媒の蒸発は、未焼結体中の微孔の形成をもたらし、これがその後、焼結の際に再度閉じるが、また、脱結合化の工程においてガスの排出を可能にしかつ促進し、したがって、応力および裂け目の形成を防ぐことが分かった。さらに、立体リトグラフにより生成された層が分離する危険性が低下され、そして、有機成分が完全に除去されることが好都合である。
【0065】
あるいは、未焼結体の有孔性はまた、熱処理の前に、抽出によって溶出可能な部分を除去することによっても達成され得る。適切な抽出可能成分は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレングリコールのような水溶性ポリマーである。さらに、ベンジン溶解性物質(例えば、パラフィンまたは蝋)および長鎖脂肪酸エステルが使用され得る。樹脂マトリクス中の抽出可能成分の好ましい量は、成分(B)に対して、0重量%と40重量%との間、特に好ましくは、0.1重量%と30重量%との間である。
【0066】
成分(A)〜(C)に加えて、本発明に従う懸濁液は、さらに、成分(D)を添加物として含み得る。
【0067】
本発明に従う懸濁液は、通常、開始剤、特に、光開始剤を含む。光開始剤の選択は、使用されるモノマーのタイプに依存する。ラジカル重合可能な樹脂をベースとした懸濁液は、例えば、アシルもしくはビスアシルホスフィン酸化物、好ましくはα−ジケトンを持つもの(例えば、9,10−フェナントラキノン、ジアセチル、フリル、アニシル、4,4’−ジクロロベンジルおよび4,4’−ジアルコキシベンジル)、そして、特に好ましくは、樟脳キノン(camphorquinone)のような可視範囲の公知のラジカル光開始剤を用いて重合され得る(例えば、J.P.Fouassier,J.F.Rabek(編),Radiation Curing in Polymer Science and Technology,Vol.II,Elsevier Applied Science,London and New York 1993を参照のこと)。開始を加速するために、α−ジケトンは、好ましくは芳香族アミンと組み合わせて使用される。特に有用であることが分かっている酸化還元系は、樟脳キノンと、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、4−ジメチルアミノ安息香酸のようなアミンとの組み合わせ、または構造的に関連する系である。開始剤は、好ましくは、各場合に懸濁液の総質量に対して、0.001重量%〜1.0重量%、特に0.01重量%〜1.0重量%、特に好ましくは0.1重量%〜1.0重量%の量で使用される。
【0068】
さらに、懸濁液はまた、同時の多反応を防止するために、安定化剤として阻害剤を含み得る。阻害剤すなわち安定化剤は、懸濁液の貯蔵安定性を改善し、そしてまた、立体リトグラフの場合には、立体リトグラフタンク内での制御不能な多反応を防止する。阻害剤は、好ましくは、懸濁液が、約2〜3年の期間にわたり貯蔵に安定となるような量で加えられる。阻害剤は、特に好ましくは、各場合に懸濁液の総質量に対して、0.001重量%〜1.0重量%、きわめて特に好ましくは0.001重量%〜0.50重量%の量で使用される。
【0069】
さらに好ましい実施形態によれば、懸濁液は、いわゆる脱結合加速剤を含む。後者は好ましくは、各場合に懸濁液の総質量に対して、0重量%〜20重量%、特に好ましくは0.01重量%〜10重量%の量で使用される。脱結合加速剤とは、脱結合プロセスの間に結合剤の除去を促進する物質を意味する。
【0070】
本発明によれば、ポリマー網目構造の熱安定性の低下をもたらすコモノマーもまた、脱結合加速剤として有益に使用され得る。立体リトグラフプロセスの間にポリマー網目構造中に組み込まれ、その後、熱による脱結合においてポリマー網目構造の分解を加速する、例えば、ペルオキシド基、アゾ基またはウレタン基のような熱に不安定な基を含むコモノマーは、この目的に適している。重合可能な過酸化物の好ましい例は、4,4’−ジビニルベンゾイル過酸化物である。重合可能なアゾ化合物の好ましい例は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートと4,4’−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)のエステルである。さらに、その多反応生成物が容易に熱により分解可能なコモノマーは、脱結合加速剤として適切である。ラジカル重合可能な樹脂には、α−メチルスチレンのように低い天井温度Tを持つコモノマーが好ましい。天井温度は、重合が脱重合と平衡状態にある限界温度であり、そして、重合のエンタルピーと重合のエントロピーの商から計算され得る(例えば、H.−G.Elias,Makromolekuele,Vol.1,第6版Wiley−VCH,Weinheim etc.1999,193以下を参照)。
【0071】
本発明に従う懸濁液はまた、凝塊の形成およびセラミック粒子の沈殿を防止する1以上の分散剤を含み得る。好ましい分散剤は、上述の全ポリマー、特に、高分子電解質(例えば、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸塩)または、非イオン性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコールまたはカルボキシメチルセルロース)である。例えば、ポリカルボン酸アンモニウムのように、イオン性の基を有し、それゆえに、比較的容易に固体(例えば、セラミック粒子)の表面上に吸着する高分子電解質は、分散剤として適している。高分子電解質イオンは、次いで、粒子に電荷を与え得、これはまた、電気立体効果(electrosteric effect)と呼ばれる。分散剤の好ましい量は、各場合に成分(A)の質量に対して、0.1重量%〜5重量%である。
【0072】
本発明に従う懸濁液は、さらなる成分として1以上の可塑剤を含み得る。可塑剤は、必要に応じて、光化学硬化およびおそらくは乾燥の後に、セラミックの未焼結体が砕けやすくなることを防止し得る。可塑剤はまた、立体リトグラフにより生成された未焼結体の十分な柔軟性を保証する。好ましい可塑剤は、例えば、フタル酸ジブチルもしくはフタル酸ジヘキシルのようなフタル酸、例えば、リン酸トリブチルもしくはリン酸トリクレシルのような非酸性ホスフェート(non−acid phosphate)、n−オクタノール、グリセロール、またはポリエチレングリコールである。可塑剤は、好ましくは、成分(B)の質量に対して、0重量%〜15重量%、そして特に好ましくは0.1重量%〜5重量%の量で使用される。
【0073】
さらに、本発明に従う懸濁液は、例えば、室温で安定な過酸化物の場合などに、脱結合プロセスの間にポリマーマトリックスの酸化的分解を促進する成分を、また、触媒による脱結合の可能性を生じる触媒成分を含み得る。過酸化物に加え、例えば、硝酸のような酸化作用を持つ他の物質、または、酸化剤を分割もしくは形成する他の物質もまた適切である。
【0074】
本発明に従う懸濁液のレオロジー特性は、好ましくは、その粘度が、200mPas〜2000Pas、好ましくは500mPas〜500Pas、より好ましくは500mPas〜50Pas、最も好ましくは200mPas〜20000mPas、そして特に好ましくは500mPas〜5000mPasの範囲になるように設定される。可能ならば、降伏点が存在しないことも有益である。粘度は、23℃でプレート−プレート粘度計(plate−plate viscometer)を用いて決定される。
【0075】
本発明はまた、セラミック成形物(特に、例えば、インレー、アンレー、前装、クラウン、ブリッジまたはフレーム枠のような歯科用修復物)の調製のための、本発明に従う懸濁液の使用にも関する。
【0076】
最後に、本発明はまた、セラミック成形物の調製のためのプロセスにも関し、このプロセスにおいては、
(a)局所的に放射線エネルギーを導入することにより本発明に従う懸濁液を硬化することによって、未焼結体の幾何学形状を形成しつつ、未焼結体が調製され、
(b)前焼結体を得るために、未焼結体が、結合剤を除去するための熱処理に供され(脱結合)、そして、
(c)前焼結体が焼結される。
【0077】
工程(a)における未焼結体の調製は、ラピッドプロトタイピング、好ましくは、立体リトグラフによって行われる。セラミックの未焼結体は、工程(b)において脱結合された本発明に従う懸濁液、特に、自由自在に流れるセラミックスリップの層状放射線硬化によって調製される。使用される結合剤は、未焼結体を、好ましくは90℃〜600℃の温度に加熱することによって除去され、そして、いわゆる前焼結体が得られる。前焼結体は、工程(c)において、歯科用セラミック成形物を形成するために焼結される。前焼結体の焼結は、二酸化ジルコニウムについては、好ましくは、1100℃〜1600℃、好ましくは1400℃〜1500℃の温度、酸化アルミニウムについては、1400℃〜1800℃、好ましくは1600℃〜1700℃の温度、そして、セラミックガラスについては、650℃〜1100℃、好ましくは700℃〜900℃の温度、の焼結炉において行われる。本発明に従うプロセスに従って調製されたセラミック成形物は、高い強度および優れた細部の精度によって特徴付けられる。ISO 6872に従う曲げ強さは、ZrOから作製される成形物については、500MPaより大きく、特に、800MPa〜1100MPaの範囲である。Alから作製される成形物は、好ましくは、300MPaより大きい、特に、500MPa〜700MPaの範囲の曲げ強さを有し、そして、セラミックガラスから作製される成形物は、好ましくは、100MPaを超え、特に、150MPa〜500MPaの範囲の曲げ強さを有する。
【実施例】
【0078】
本発明は、実施例によって、以下により詳細に説明される。
【0079】
実施例1
【0080】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物−セラミック材料の一次粒子であって、該一次粒子は、10nm〜1000nmの範囲の平均粒子径を有し、発色成分でコーティングされている、一次粒子。
【請求項2】
酸化物−セラミック材料としてZrOをベースとした酸化物−セラミック材料を含む、請求項1に記載の一次粒子。
【請求項3】
酸化物−セラミック材料として、Yで安定化されたZrO、特に、3Y−TZPをベースとした酸化物−セラミック材料を含む、請求項1または2に記載の一次粒子。
【請求項4】
発色成分として、遷移金属化合物、特に、有機遷移金属化合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の一次粒子。
【請求項5】
発色成分として、元素である鉄、セリウム、プラセオジム、テルビウム、ランタン、タングステン、オスミウム、テルビウム、およびマンガンのアセチルアセトネート、または、カルボン酸塩、特に、酢酸鉄(III)もしくは鉄(III)アセチルアセトネート、酢酸マンガン(III)もしくはマンガン(III)アセチルアセトネート、酢酸プラセオジム(III)、もしくはプラセオジム(III)アセチルアセトネート、または酢酸テルビウム(III)もしくはテルビウム(III)アセチルアセトネートを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の一次粒子。
【請求項6】
前記一次粒子の総質量に対して、0.000001重量%〜0.4重量%の発色成分を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の一次粒子。
【請求項7】
10nm〜500nmの範囲の平均一次粒子径を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の一次粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の一次粒子の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)酸化物−セラミック材料が溶媒中に分散され、そして
(b)発色成分が、(a)において得られた懸濁液に加えられる、
プロセス。
【請求項9】
セラミック成形物の調製のための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の一次粒子の使用。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の一次粒子を含む、酸化物−セラミック材料をベースとした粒状物質。
【請求項11】
請求項10に記載の粒状物質の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)酸化物−セラミック材料が溶媒中に分散され、
(b)発色成分が、(a)において得られた懸濁液に加えられ、そして、
(c)該懸濁液が乾燥され、そして、該プロセスにおいて粒状化される、
プロセス。
【請求項12】
以下:
10重量%〜95重量%の請求項1〜7のいずれか1項に記載の一次粒子、および
5重量%〜90重量%の有機成分
を含む酸化物−セラミック材料をベースとした懸濁液であって、
該重量%は、いずれの場合にも、該懸濁液の総質量に対するものである、懸濁液。
【請求項13】
以下:
(A)10重量%〜95重量%の、請求項1〜7のいずれかに記載の一次粒子、
(B)3重量%〜85重量%の多反応性結合剤、および
(C)1重量%〜80重量%の有機溶媒、および
(D)1重量%〜30重量%のさらなる添加物
を含む、請求項12に記載の懸濁液であって、
該重量%は、いずれの場合にも、該懸濁液の総質量に対するものである、懸濁液。
【請求項14】
200Pas〜2000Pasの範囲の粘度を有する、請求項12または13に記載の懸濁液。
【請求項15】
セラミック成形物の調製のための、請求項12〜14のいずれか1項に記載の懸濁液の使用。
【請求項16】
前記セラミック成形物が、例えば、インレー、アンレー、前装、クラウン、ブリッジまたはフレーム枠のような歯科用修復物である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
セラミック成形物の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)局所的に放射線エネルギーを導入することにより請求項12〜14のいずれか1項に記載の懸濁液を硬化することによって、未焼結体の幾何学形状を形成しつつ、未焼結体が調製され、
(b)前焼結体を得るために、該未焼結体が、結合剤を除去するための熱処理に供され、そして、
(c)該前焼結体が焼結される、
プロセス。
【請求項18】
前記発色成分が、酢酸鉄(III)もしくは鉄(III)アセチルアセトネート、酢酸マンガン(III)もしくはマンガン(III)アセチルアセトネート、酢酸プラセオジム(III)、もしくはプラセオジム(III)アセチルアセトネート、または酢酸テルビウム(III)もしくはテルビウム(III)アセチルアセトネートを含む、請求項5に記載の一次粒子。
【請求項19】
前記平均一次粒子径が、10nm〜200nmの範囲である、請求項7に記載の一次粒子。
【請求項20】
200mPas〜2000Pasの範囲の粘度を有する、請求項14に記載の懸濁液。

【公開番号】特開2010−31011(P2010−31011A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176957(P2009−176957)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】