説明

発酵乳製品の生成方法

本発明は、増強されたゲル剛性を有する発酵乳製品の生成方法に関し、ここで多糖生成ラクトバチルス株が使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増強されたゲル剛性を有する発酵乳製品の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は発酵食品の製造のために広く使用され、そしてそれらは、それらの製品の風味、きめ及び全体的特徴に強く寄与する。古くて周知の例は、たぶん中東に起因し、そして発酵製品の半分以上、又は2008年において約1900万トン(起源:Euromonltor)を製造するヨーグルトである。例えばヨーグルトのような発酵乳は、健康イメージ及び快い感覚的性質のために人気の製品である。
【0003】
世界の多くの部分においては、低脂肪発酵乳製品への高まる興味が見られる。これは、感覚的品質の低下なしでは、低脂肪発酵乳製品を生成するのは困難であるので、乳酸菌培養及び製造方法についての有意な挑戦を引起す。
【0004】
ヨーグルトは、脂肪及びタンパク質含有率に関して標準化され、均質化され、そして熱処理された乳から製造される。この後、乳はストレプトコーカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及びラクトバチルス・デルブルエキ亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. Bulgaricus)の培養物により接種され、そして続いて、約4.5のpHまで発酵される。従来のヨーグルト培養物の他に、例えばビフィズス菌のようなプロバイオティック培養物が特別な健康有益性を付加するために適用され得る。
【0005】
きめは、発酵乳についての非常に重要な品質パラメーターである。高い食感及び口当りを伴っての滑らかな稠度が消費者により必要とされる。高められた食感(粘度)及び口当りが、低脂肪発酵乳製品においてさえ要求されることが傾向である。高い粘度は、エキソポリサッカライド生成乳酸菌培養物の使用により発酵乳製品において得られる。同時に、製品は高いレベルのゲル剛度を有することがまた要求される。高レベルのゲル剛度は、多くの消費者により十分に好まれる、製品の濃厚な外観、及び食べる前、撹拌する場合、スプーンに対する抵抗性を与える。
【0006】
発酵乳製品におけるゲル剛度は、乳の酸性化の間に形成されるタンパク質網の強度/密度により主に支配される。エキソポリサッカライド及びタンパク質網の両者は、貯蔵の間、通常の欠陥性離奨(製品の上部上でのホエー分離)に対する保護を確保することが知られている。しかしながら、高い粘度(エキソポリサッカライド)及び高いゲル剛度の組合せは、エキソポリサッカライドの存在が強いタンパク質網の形成を物理的に阻害すると思われるので、(添加剤フリー)ヨーグルトにおいて得ることは困難である。
【0007】
多くの地域における傾向は、香りの高い特徴を有するマイルド風味(低い後酸性化)が好ましい風味プロフィールであることである。しかしながら、世界のヨーグルト製造の大部分は、風味剤及び/又は果物調製物を添加する。
【0008】
新規培養物配合技法、例えばヨーグルト製造のために従来適用されない種の使用及び/又は細菌種間の相互作用が、それらの標準物を得るために興味の対象である。
従って、改良された発酵乳製品及びそれらの製品の製造のための乳酸菌培養についての必要性がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明者は、一定グループの乳酸菌が乳を発酵する能力を有し、高い粘度、高いゲル剛度、高い口当たり、快い風味及び低い後酸性化を、従来のヨーグルトに比較して、もたらすことを驚くべきことには見出した。
【0010】
従って、重度な観点においては、本発明は、高い粘度を維持するか又は増強しながら、発酵乳製品におけるゲル剛度及び口当たりを増強するために、ヨーグルト培養物におけるラクトバチルス・デルブルエキ亜種ブルガリカス(また、ラクトバチルス・ブルガリカスとも呼ばれる)株を置換する(完全に又は一部)ためへのラクトバチルス・ジョンソンニ種の株の使用に関する。
【0011】
この種は、多糖類(EPS)、特にホモ多糖類及びヘテロ多糖類の生成をたぶん可能にするグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシル又はグルコシル)遺伝子の存在によりヨーグルト製造のために使用される他のラクトバチルス種から逸脱することが示唆されている。
さらなる観点においては、本発明は、乳酸菌を含んで成る開始培養物、及び本発明の開始培養物による乳の発酵により製造される発酵製品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、発酵乳サンプル108 (Lb. ジョンソニCHCC5774 + ST (CHCC6008 + CHCC7018)、116 (Lb. ブルガリカスCHCC7159 + ST (CHCC6008 + CHCC7018)及び120 (Lb. ブルガリカスCHCC4351 + ST (CHCC6008 + CHCC7018)について、剪断速度の関数としての剪断応力を測定する、発酵乳についての流動曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な開示:
第1の観点においては、本発明は、多糖及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ酵素を生成できるラクトバチルス種に属する菌株、及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成るラクトバチルス種に属する菌株;及び/又はラクトバチルス・ジョンソニ種に属する菌株と共に乳基質を発酵することを含んで成る、発酵乳製品の製造方法に関する。本発明における好ましいグリコシルトランスフェラーゼは、フルクトシルトランスフェラーゼ及びグルコシルトランスフェラーゼである。トランスフェラーゼは、酵素分類システムのグループEC2.4に属する。本発明の好ましい多糖類は、エキソサッカライド、ホモ多糖及びヘテロ多糖である。
【0014】
1つの態様においては、前記方法はまた、種:ストレプトコーカス・サーモフィルスに属する菌株、例えば多糖生成株、及び/又はDSM22592、DSM22585、DSM18111、DSM21408、DSM22587、DSM22884、CNCM I-3617(WO2008/040734)、DSM18344(WO2007/144770)、及びCNCM I-2980(US2006/0240539)から成る群から選択された菌株、及びそれらのいずれかの菌株の変異株及び変異体と共に乳基質を発酵することをさらに含んで成る。
【0015】
乳基質は、ラクトバチルス種に属する菌株との発酵の前、間、又は後、ストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株と共に発酵される。現在好ましくは、乳基質は、ラクトバチルス種に属する菌株との発酵の間、ストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株と共に発酵される。
【0016】
興味ある態様においては、本発明の方法は、発酵の前、間及び/又は後、酵素、例えばタンパク質を架橋できる酵素、トランスグルタミナーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、キモシン及びレネットから成る群から選択された酵素を、前記乳基質に添加することを含んで成る。
【0017】
現在好ましくは、ラクトバチルス種はラクトバチルス・ジョンソニである。多糖及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ酵素を生成するラクトバチルス種に属する菌株、及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成る菌株がより好ましい。最も好ましくは、ラクトバチルス・ジョンソニDSM22591、及びこの菌種株の変異株及び変異体から成る群から選択された菌株である。
【0018】
さらなる観点においては、本発明は、多糖(例えば、ホモ多糖又はヘテロ多糖)生成ラクトバチルス種に属する菌株、例えばグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成る菌株及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素を生成する菌株、及び多糖(例えば、ホモ多糖又はヘテロ多糖)生成ラクトバチルス種に属する菌株に関し、ここで前記菌株はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成り、そして/又は前記菌株はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素を生成する。重要な態様においては、細菌株は、ラクトバチルス・ジョンソニDSM22591、及びこの菌種株の変異株及び変異体から成る群から選択される。
【0019】
もう1つの観点においては、本発明は、DSM22592、DSM22585、DSM18111、DSM21408、DSM22587、DSM 22884、及びそれらのいずれかの変異株及び変異体から成る群から選択された、ストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する細菌株に関する。
【0020】
さらにもう1つの観点においては、本発明は、
−多糖(例えば、ホモ多糖又はヘテロ多糖)及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素生成及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグリコシルトランスフェラーゼ)遺伝子含有ラクトバチルス種に属する菌株;及び
−ストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株(例えば、多糖生成菌株)を、混合物として又はキット−オブ−パーツとして含んで成る組成物に関する。
【0021】
重要な態様においては、本発明の生成物は、少なくとも107のCFU/g(1g当たりの細胞形成単位)の多糖及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ酵素生成及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ遺伝子含有ラクトバチルス種に属する菌株;及び少なくとも108のCFU/gのCFU/gのストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株を含んで成る。
【0022】
本発明の組成物は、開始培養物として使用でき、そして凍結、凍結乾燥、又は液体形で存在することができる。
【0023】
現在好ましい態様は、ラクトバチルス種に属する菌株が、ラクトバチルス・ジョンソニDSM22591及びこの株の変異株又は変異体から成る群から選択され;そしてストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株が、DSM22592、DSM22585、DSM18111、DSM21408、DSM22587、DSM 22884、CNCM I-3617(WO2008/040734)、DSM18344(WO2007/144770)、CNCM I-2980(US2006/0240539)、及びこれらのいずれかの菌株の変異株及び変異体から成る群から選択される、本発明の組成物である。
【0024】
最後の観点においては、本発明は、本発明の方法により得られる発酵乳製品に関する。
興味ある態様においては、本発明の発酵乳製品は、果物濃縮物、シロップ、プロバイオティック細菌培養物(例えば、ビフィズス菌の培養物;例えば、BB-12 (商標))、プレバイオティック剤、着色剤、増粘剤、風味剤及び保存剤から成る群から選択された成分を含んで成る。本発明の発酵乳製品は、撹拌されたタイプの製品、セットタイプの製品又は飲用製品の形で任意には存在する。本発明の発酵乳製品はまた、チーズ、例えばフロマージュ・フレの形でも存在することができる。
【0025】
定義
本明細書において、用語“乳基質”とは、本発明の方法に従って発酵にゆだねられ得る、いずれかの生及び/又は加工乳素材であり得る。従って有用な乳基質は、次のものを包含するが、但しそれらだけには限定されない:タンパク質を含んで成るいずれかの乳又は乳様製品、例えば完全又は低脂肪乳、スキムミルク、バターミルク、還元乳粉末、練乳、ドライミルク、ホエー、ホエー透過物、乳糖、乳糖の結晶化からの母液、ホエータンパク質濃縮物、又はクリームの溶液/懸濁液。明らかに、乳基質、例えば実質的に純粋な哺乳類乳又は還元乳粉末は、いずれかの哺乳類に起因することができる。
【0026】
好ましくは、乳基質における少なくとも一部のタンパク質は、乳において天然に存在するタンパク質、例えばカゼイン又はホエータンパク質である。しかしながら、タンパク質の一部は、乳において天然に存在しないタンパク質であり得る。
【0027】
用語“”とは、いずれかの哺乳類、例えば乳牛、羊、ヤギ、バッファロー又はラクダを搾乳することにより得られる乳状分泌物として理解されるべきである。
発酵の前、乳基質は、周知方法に従って均質され、そして殺菌され得る。
【0028】
均質化”とは、本明細書において使用される場合、可溶性懸濁液又はエマルジョンを得るための十分な混合を意味する。均質化が発酵の前、実施される場合、乳脂肪を、より小さなサイズに分解し、その結果、乳からもはや分離されなくなることが好ましい。これは、小さな口を通して高圧で乳を押出すことにより達成され得る。
【0029】
低温殺菌”とは、本明細書において使用される場合、生存する生物、例えば微生物の存在を低めるか又は排除するために乳基質の処理を意味する。好ましくは、低温殺菌は、特定の期間、特定の温度を維持することにより達成される。特定の温度は通常、加熱により達成される。温度及び持続期間が、一定の細菌、例えば有害な細菌を殺害するか又は不活性化するために選択され得る。急速な冷却段階が続く。
【0030】
本発明の方法における“発酵”とは、微生物(例えば、ラクトバチルス種及びストレプトコーカス・サーモフィルス種の乳酸菌)の使用を通しての炭水化物のアルコール又は酸への転換を意味する。好ましくは、本発明の方法における発酵は、ラクトースの乳酸への転換を包含する。
【0031】
乳酸菌、例えばラクトバチルス種及びストレプトコーカス・サーモフィルス種の細菌は、乳製品、例えば発酵乳製品の生成のための発酵容器又はタンクへの直接的接種のために意図された、大量開始剤増殖のための凍結又は凍結乾燥培養物として又はいわゆる“直接的タンクセット(Direct vat Set)”(DVS)培養物として、酪農産業に通常、適用される。そのような培養物は一般的に、“開始剤培養物”又は“開始剤”として言及される。本発明においては、“発酵乳製品”又は“発酵乳”とは、ラクトバチルス種(特に、ラクトバチルス・ジョンソニ)種の細菌、及び任意には、ストレプトコーカス・サーモフィルス種の細菌による発酵にゆだねられる乳基質として理解されるべきである。
【0032】
任意には、発酵乳(製品)は、微生物を不活性化するために熱処理にゆだねられ得る。
発酵乳製品の製造に使用される発酵工程は良く知られており、そして当業者は、適切な工程条件、例えば温度、酸素、炭水化物の添加、微生物の量及び特徴、及び工程時間をいかにして選択するかを知っているであろう。明らかに、発酵条件は、本発明の達成を支持するために、すなわち発酵乳製品を得るために選択される。
【0033】
用語“撹拌されたタイプの製品”とは、発酵段階下で形成される凝固物の破壊及び溶解をもたらす、発酵の後の機能的処理を耐える発酵乳製品を特に言及する。機能的処理は典型的には、ゲルの撹拌、ポンピング、濾過又は均質化により、又はそれと他の成分との混合により得られるが、但しそれらだけには限定されない。撹拌されたタイプの製品は典型的には、9〜15%の乳固形非脂肪含有率を有するが、但しそれらだけには限定されない。
【0034】
用語“セットタイプの製品”とは、開始剤培養物により接種され、そしてその接種段階に続いてパッケージされ、そして次に、そのパッケージにおいて発酵された乳に基づく製品を包含する。
【0035】
用語“飲用製品”とは、飲料、例えば“飲用ヨーグルト”及び類似物を包含する。用語“飲用ヨーグルト”とは典型的には、ラクトバチルス種及びストレプトコーカス:サーモフィルスの組合せによる発酵により生成される乳製品を包含する。飲用ヨーグルトは典型的には、8%又はそれ以上の乳固形物非脂肪含有率を有する。さらに、飲用ヨーグルトドリンクについての生存培養物計数は典型的には、1L当たり少なくとも106個の細胞形成単位(DFU)である。
【0036】
本明細書においては、用語“変異株”(mutant)とは、例えば、遺伝子工学、放射線及び/又は化学的処理により本発明の菌株に由来する菌株として理解されるべきである。好ましくは、変異株は、機能的に同等の変異株、例えば母菌株と実質的に同じか、又は改良された性質(例えば、粘度、ゲル剛度、口当たり、風味及び/又は後酸性化に関する)を有する変異株である。そのような変異株は、本発明の一部である。特に、用語“変異株”とは、いずれかの従来使用される突然変異誘発処理、例えば化学的変異原、例えばエタンメタンスルホネート(EMS)又はN−メチルーN’−ニトロ−N−ニトログアニジン(NTG)、UV光による処理又は自発的発生変異株に本発明の菌株をゆだねることにより得られる菌株を言及する。
【0037】
本明細書においては、用語“変異体”(variant)とは、例えば実質的に同じか、又は改良された性質(例えば、粘度、ゲル剛度、口当たり、風味及び/又は後酸性化に関する)を有する、本発明の菌株と機能的に同等である菌株として理解されるべきである。適切なスクリーニング技法を用いて同定され得る。そのような変異体は、本発明の一部である。
【0038】
本発明の記載における(特に、続く請求項における)用語“不定冠詞(a及びan)”及び“定冠詞(the)”、及び類似する指示対象の使用は、特にことわらない限り、単数及び複数の両者を包含するよう解釈されるか、又は前後関係により明白に否定されるべきである。用語“含んで成る”、“有する”、“包含する”及び“含む”とは、特にことわらない限り、制限のない用語として解釈されるべきである(すなわち“包含するが、但しそれらだけには限定されない”ことを意味する)。本明細書における値の範囲の言及は、特にことわらない限り、範囲内にある個々の別々の値を個々に言及する速記方法として単に作用することを意図され、そして個々の別々の値は、それが本明細書に個々に引用されるかのように、明細書に組込まれる。
【0039】
本明細書に記載されるすべての方法は、特にことわらない限り、いずれかの適切な順序で実施されるか、又は他方では、前後関係により明白に否定される。本明細書において提供されるいずれかの及びすべての例は、又は典型的な用語(例えば、“例えば”)の使用は、本発明を良好に解明することを単に意図され、そして特にことわらない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書における用語は、本発明の実施に不可欠ないずれかの請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0040】
例1ストレプトコーカス・サーモフィルス+ラクトバチルス・デルブルエキ亜種ブルガリカスにより製造される従来のヨーグルトと、ストレプトコーカス・サーモフィルス+ラクトバチルス・ジョンソニ種により製造された発酵乳との比較
ストレプトコーカス・サーモフィルスの4種の異なった菌株を、ストレプトコーカス・サーモフィルス株(この後、ST−株と称する)の選択に関係なく、ラクトバチルス性質の一般的観点を得るために適用した(順に)。
【0041】
12種の発酵乳を、200mlの規模で二通り製造した。ラクトバチルス・ジョンソニ株(n=1)及びデルブルエキ亜種ブルガリカス(n=2)を、4種の異なったST−株とそれぞれ組合して順に試験した。5%のST−株CHCC7018(DSM21408)を個々の培養物に添加し、十分な酸性化速度を確保した。
【0042】
乳基材は、1.5%脂肪、添加された2%脱脂乳粉末及び5%スクロースを含む乳から構成された。乳基材を90℃で20分間、熱処理し、そして40℃の発酵温度に冷却した。この後、それを、0.02%乳酸菌培養物(F- DVS = Frozen Direct Vat Set 培養物)により接種した。その培養組成は表1に見られる。pH4.55への発酵の後、ヨーグルトを標準手段により撹拌し、水浴において25℃に冷却し、そして分析をそれぞれ1日目及び7日目で実施するまで、8℃で貯蔵した。
【0043】
【表1】

【0044】
pHを、それぞれ1日目及び7日目の貯蔵の後、測定した。すべての製品は同じ最終pH(4.55)まで発酵されるので、貯蔵後のpHは、貯蔵の間に起こった後酸性化のレベルに影響を及ぼす。流動学的分析を、Rheologica Instruments, Lund, SwedenからのStressTechレオメーターを用いて実施した。分析を、13℃で実施した。最初にゲル剛度に影響を及ぼすG*を、1ヘルツでの振動により測定した。続いて、0 1/s〜300 1/s〜0 1/s(アップ及びダウンスィープで)の、剪断速度の関数として剪断応力を測定する流動曲線を記録した。上部及び下部曲線間のヒステリシス曲線領域を計算し、そして上部曲線下の領域により割算し、相対的ループ領域を得た。剪断速度300 1/ sで測定される剪断応力を選択し、サンプルの見掛け粘度を提供した(データは表2に記載される)。流動曲線の例については、図1を参照のこと。
【0045】
【表2】

【0046】
ラクトバチルス・ジョンソニ種による発酵乳は、LB.デルブルエキ亜種ブルガリカスによる製品に比較して、貯蔵の第1及び第7日目の後、より高いpH値を有する。これは、低レベルの後酸性化が、Lb. デルブルエキ亜種ブルガリカス(また、Lb.ブルガリカスとも呼ばれる)による従来のヨーグルトに比較して、それらの発酵乳において生じることを意味する。低い後酸性化は、それがほとんどの消費者により要求されるマイルド発酵乳製品の製造を可能にするので、非常に価値ある性質である。
【0047】
高い粘度(剪断応力)は、Lb.ブルガリカスに比較して、Lb.ジョンソニにより生成された発酵乳において得られた。図1は、Lb.ジンソニ及び2種の異なったブルガリカス株により製造された(すべて同じバックグラウンドにおいて(CHCC6008及びCHCC7018との組合せ))発酵乳についての流動曲線を示す。見掛け粘度(剪断応力レベル)は、ブルガリカスによる2種の製品に比較して、ジョンソニによる製品に関しては明白に高い。これは、50 1/s〜300 1/sまでのすべての剪断速度で適用される。
【0048】
非常に興味あることには、Lb. ジョンソニによる製品はまた、Lb. ブルガリカスによる2種の製品よりも高いゲル剛度レベルを得た。乳酸菌培養物に起因するこの組合わされた効果(高い粘度及び高いゲル剛度)を見出すことは通常ではない。しばしば、改良された粘度が低められたゲル剛度をもたらす。しかしながら、高い粘度及び高いゲル剛度の組合せは、背景技術のセクションに記載されるように、商業的に非常に魅力あるものである。
【0049】
最後のレオロジーパラメーター“ループ領域”は、ラクトバチルス種の選択により影響されるとは思われない。
【0050】
結論においては、この研究は、ラクトバチルス・ジョンソニ種の適用が、同じ培養バックグラウンド(4種の異なったバックグラウンド培養が試験された)において、Lb. ブルガリカスにより製造された製品に比較して、よりマイルドであり(低い後酸性化)、そして高い粘度及び高いゲル剛度を有する発酵乳製品の製造を可能にすることを示す。
【0051】
例2低脂肪ヨーグルトにおけるラクトバチルス・ジョンソニDSM22591の効果
2種の発酵乳を、3Lの規模で製造した。ラクトバチルス・ジョンソニDSM22591を、2種の異なったストレプトコーカス・サーモフィルス株(DSM22587及びDSM22884)のブレンドと組合して、及びラクトバチルス・デルブルエキ亜種ブルガリカス株DSM19252の存在下で試験した。対照培養物は、同じ2種のST株のみ及びラクトバチルス・デルブルエキ亜種ブルガリカス株DSM19252を含んだ(表3を参照のこと)。
【0052】
乳基材は、脱脂乳添加の2%脱脂乳粉末から成った。乳基材を、95℃で6分間、加熱処理し、そして42℃の発酵温度に冷却した。この後、それに、0.018%乳酸菌培養物(F-DVS=Frozen Direct Vat Set培養物)を接種した。この培養組成は表3に見られる。pH4.55への発酵の後、機械的後処理を、1分間、適用し(42℃/2バール/45L/時の流速)、そしてヨーグルトを5℃に冷却し、そしてそれぞれ、4日及び35日目で分析が実施されるまで、5℃で貯蔵した。
【0053】
【表3】

【0054】
pHを35日の貯蔵の後、測定した。すべての製品は同じ最終pH(4.55)に発酵されたので、貯蔵後のpHは、貯蔵の間に生じた後酸性化のレベルに影響を及ぼす。定量的感覚評価を、製造の4日後、5人の専門家により行った。レオロジー分析を例1におけるようにして実施した。
【0055】
【表4】

【0056】
ヨーグルトへのラクトバチルス・ジョンソニ種の使用は、後酸性化を低めた。“ループ領域”は、培養物選択により影響されなかった。
【0057】
見掛け粘度(剪断応力レベル)は、対照製品におけるように高く維持された。驚くべきことには、Lb. ジョンソニによる製品は、単一のラクトバチルス種としてのLb.ブルガリカスによる対照製品よりも有意に高いゲル剛度レベルを得た。乳酸菌培養物に起因するこの組合された効果(高い粘度及び高いゲル剛度)を見出すことは通常ではない。しばしば、高い粘度が低められたゲル剛度をもたらす。しかしながら、高い粘度及び高いゲル剛度の組合せは、背景技術セクションに記載されるように、商業的に非常に魅力的である。Lb.ジョンソニを含む製品の感覚的分析は、単一のラクトバチルスとしてのLb.ブルガリカスにより製造された製品には見出されない明白な“オレンジ/柑橘果物風味特性の添加である明白な風味改良を表した。
【0058】
結論においては、この研究は、ラクトバチルス・ジョンソニ種の適用が、同じストレプトコーカス・サーモフィルス株と組合して、単一のラクトバチルス種としてのLb.ブルガリカスにより製造された製品と比較して、高い粘度及び同時に、有意に高い剛度を示す、マイルドである(低い後酸性化)発酵乳製品の製造を可能にすることを示す。
【0059】
本発明の好ましい態様、例えば本発明を実施するための発明者に知られている最良の態様が本明細書に記載される。それらの好ましい態様の変動は、前述の記載の読解に基づいて、当業者に明らかに成る。本発明者は、当業者が適切な、そのような変動を用いることを予測し、そして本発明者は、本明細書に特別に記載されるよりも本発明を実施することを意図する。従って、本発明は、請求項に引用される主題のすべての修飾及び同等物を包含する。さらに、そのすべての可能な変動における上記要素のいずれかの組合せは、特にことわらない限り、本発明により包含され、又は他方では、前後関係により否定される。
【0060】
寄託物及びエキスパートソリューション
出願人は、下記に言及される寄託された微生物のサンプルが出願人により許可された専門家のみに利用可能にされ得ることを求める。
ラクトバチルス及びストレプトコーカス株は、2009年5月19日に、Deutsche
Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124
Braunschweig (DSMZ)で寄託され、そして下記受託番号を与えられた:
【0061】
Lb. ジョンソニ CHCC5774: DSM22591
Lb. デルブルエキ亜種ブルガリカス CHCC4351 : DSM22586
ストレプトコーカス・サーモフィルス CHCC10655: DSM22592
ストレプトコーカス・サーモフィルス CHCC4239: DSM22585
ストレプトコーカス・サーモフィルス CHCC5086: DSM22587 (寄託の日: 2009年5月19日)
【0062】
DSMZでのさらなる寄託物:
Lb. ブルガリカス CHCC7159: DSM17959 (寄託の日: 2006年2月8日)
ストレプトコーカス・サーモフィルス CHCC6008: DSM18111 (寄託の日: 2006年3月23日)
ストレプトコーカス・サーモフィルス CHCC7018: DSM21408 (寄託の日: 2008年4月23日)
ストレプトコーカス・サーモフィルス CHCCl1379: DSM22884 (寄託の日:2009年8月26日)
Lb. デルブルエキ亜種ブルガリカスCHCC10019: DSM 19252 (寄託の日:2007年4月3日)
寄託は、特許手続きのために微生物の寄託の国際的認識に基づいてブダペスト条約に従って行われた。
【0063】
参照:
WO2008/040734号
WO2007/144770号
US2006/0240539号
WO2007/147890号
本特許書類に引用されるすべての文献は、引用によりそれらのすべてを本明細書に組込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖(例えば、ホモ多糖又はヘテロ多糖)及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素を生成でき、そして/又はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成る、ラクトバチルス(Lactobacillus)種に属する菌株と共に乳基質を発酵することを含んで成る、発酵乳製品の生成方法。
【請求項2】
ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)種に属する菌株と共に乳基質を発酵することを含んで成る、発酵乳製品の生成方法。
【請求項3】
種:ストレプトコーカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)に属する菌株、例えば多糖生成株、及び/又はDSM22592、DSM22585、DSM18111、DSM21408、CNCM I-3617、 DSM18344、 DSM22587、 DSM22884及びCNCM I-2980から成る群から選択された菌株、及びそれらのいずれかの菌株の変異株及び変異体と共に乳基質を発酵することをさらに含んで成る、請求項1〜2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
前記乳基質が、多糖生成ラクトバチルス種に属する菌株との発酵の前、間、又は後、ストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株と共に発酵される、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記乳基質が、多糖生成ラクトバチルス種に属する菌株との発酵の間、ストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株と共に発酵される、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記発酵の前、間及び/又は後、酵素、例えばタンパク質を架橋できる酵素、トランスグルタミナーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、キモシン及びレネットから成る群から選択された酵素を、前記乳基質に添加することを含んで成る、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ラクトバチルス種がラクトバチルス・ジョンソニである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ラクトバチルス種に属する菌株が、ラクトバチルス・ジョンソニDSM22591、及びこの菌種株の変異株及び変異体から成る群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記乳基質が、多糖及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ酵素を生成でき、そして/又はグリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成る、ラクトバチルス種に属する菌株、及び/又はラクトバチルス・ジョンソニ種に属する菌株の他に、種ラクトバチルス・デルブルエキ(Lactobacillus delbrueckii)亜種ブルガリカス(bulgaricus)又はラクティス(lactis)に属する菌株と共に発酵される、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
a)種ラクトバチルス・ブルガリカス又はラクトバチルス・ラクティスに属する菌株、及び
b)多糖及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ酵素を生成でき;そして/又はグリコシルトランスフェラーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成る、ラクトバチルス種に属する菌株、及び/又はラクトバチルス・ジョンソニ種に属する菌株が、1/100〜100/1(a/b)の範囲の比率(CFU/g乳基質で測定される)で添加される、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ラクトバチルス種に属する細菌とストレプトコーカス種に属する細菌との間の比率(CFU/g乳基質で測定される)が1/100〜100/1の範囲内である、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
グルコース又はスクロースが、例えば1L当たり少なくとも1gの量で、前記乳基質(そして/又は塩基乳基質はグルコース又はスクロースを含んで成る)に添加される、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項記載の方法により得ることができる発酵乳製品。
【請求項14】
果物濃縮物、シロップ、プロバイオティック細菌培養物、プレバイオティック剤、着色剤、増粘剤、風味剤及び保存剤から成る群から選択された成分を含んで成る、請求項13記載の発酵乳製品。
【請求項15】
撹拌されたタイプの製品、セットタイプの製品又は飲用製品の形で存在する、請求項13又は14記載の発酵乳製品。
【請求項16】
グリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成り、そして/又はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素を生成する、多糖(例えば、ホモ多糖又はヘテロ多糖)生成ラクトバチルス種に属する菌株。
【請求項17】
ラクトバチルス・ジョンソニDSM22591、及びこの菌種株の変異株及び変異体から選択された細菌株。
【請求項18】
DSM22592、DSM22585、DSM18111、DSM21408、DSM22587、DSM 22884、及びそれらのいずれかの変異株及び変異体から成る群から選択された、ストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する細菌株。
【請求項19】
−多糖(例えば、ホモ多糖又はヘテロ多糖)及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素生成ラクトバチルス種、及び/又はグリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フルクトシルトランスフェラーゼ又はグルコシルトランスフェラーゼ)酵素をコードするヌクレオチド配列を含んで成るラクトバチルス種に属する菌株、及び/又はラクトバチルス・ジョンソニ株(例えば、DSM22591又はこの株の変異株又は変異体);及び
−ストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株(例えば、多糖生成菌株)を、混合物として又はキット−オブ−パーツとして含んで成る組成物。
【請求項20】
少なくとも107のCFU/g(1g当たりの細胞形成単位)、例えば少なくとも108又は1010のCFU/gの多糖及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ酵素生成ラクトバチルス種に属する菌株;及び少なくとも107のCFU/g、例えば少なくとも108又は1010のCFU/gのストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株を含んで成る、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
開始培養物として使用でき、そして凍結、凍結乾燥、又は液体形で存在する、請求項19〜20のいずれか1項記載の組成物。
【請求項22】
ラクトバチルス種に属する菌株が、ラクトバチルス・ジョンソニDSM22591及びこの株の変異株又は変異体から成る群から選択され;そしてストレプトコーカス・サーモフィルス種に属する菌株が、DSM22592、DSM22585、DSM18111、DSM21408、DSM22587、DSM 22884、CNCM I-3617、DSM18344、 DSM22587、DSM 22884、CNCM I-2980、及びこれらのいずれかの菌株の変異株及び変異体から成る群から選択される、請求項19〜21のいずれか1項記載の組成物。
【請求項23】
請求項17記載の細菌株及び請求項18記載の細菌株を、混合物そして又はキット−オブ−パートとして含んで成る組成物。
【請求項24】
請求項19〜23のいずれか1項記載の組成物、又は請求項17〜18のいずれか1項記載の細菌株を、乳基質に添加することにより得られる発酵乳製品。
【請求項25】
果物濃縮物、シロップ、プロバイオティック細菌培養物、プレバイオティック剤、着色剤、増粘剤、風味剤及び保存剤から成る群から選択された成分を任意には含んで成り;そして/又は撹拌されたタイプの製品、セットタイプの製品又は飲用製品の形で任意には存在する、請求項24記載の発酵乳製品。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−531190(P2012−531190A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516789(P2012−516789)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059307
【国際公開番号】WO2011/000883
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(503260310)セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ (23)
【Fターム(参考)】