説明

発電機ロータのき裂進展予測システムと運転条件決定支援システム、方法およびプログラム、並びに運転制御システム

【課題】シャフトダブテールのき裂進展を高精度で予測するか、または、き裂進展を生じない運転条件を決定することで、き裂進展をコントロール可能とする。
【解決手段】き裂進展予測システム1は、演算部10、インタフェース部20、記憶部30等から構成される。演算部10は、シャフトダブテールに生じる平均応力を計算する応力計算部11、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算する係数範囲計算部12、得られた平均応力および応力拡大係数範囲と、運転パターン、運転時間、およびき裂に関するデータから、任意の時間におけるシャフトダブテールのき裂進展量を計算するき裂進展量計算部13を備える。応力計算部11は、異なる種類の平均応力を個別に計算する個別計算部として、接触面圧応力計算部111、熱応力計算部112、残留応力計算部113を有すると共に、平均応力を合計する平均応力計算部114を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギープラントに使用される発電機ロータのき裂進展を予測して運転条件を決定し、運転制御を行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エネルギープラントに使用される発電機ロータでは、軸方向にスロットが切られ、スロット内にコイルが挿入されている。コイルが遠心力により飛び出すことを防ぐため、シャフト外周側にはダブテールが設けられ、楔が挿入されている。
【0003】
このような嵌合構造を有する発電機ロータでは、運転中は、遠心力により楔がシャフトダブテールに押付けられると同時に、ロータが自重により繰返し曲げられ、シャフトダブテールと楔間の接触端部では、微小相対すべりが繰返し生じ、いわゆる、フレッティングと呼ばれる現象が起こる。フレッティングによる損傷が激しい場合、フレッティング疲労に至ることがあり、発電機シャフトでも楔との接触部でのフレッティング疲労き裂発生を防ぐための方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、楔の継ぎ目に相当するシャフト接触部に応力緩和溝を設けることにより、接触端部の接線応力を低減している。また、例えば、特許文献2においては、端部の剛性を低下するよう、楔形状を変更することにより、接触端部の面圧集中を緩和している。これらのような施策によりカバー端部の応力を低減できる場合には、フレッティング疲労き裂発生の可能性を小さくすることができる。
【0005】
一方、十分な対策を取っていないために、シャフトダブテールと楔との接触部にき裂が発生していることが点検などにより判明する場合がある。回転機器においては、疲労き裂は停留することなく、回転に伴う高サイクル疲労で速やかに進展すると考えられていることから、回転体に生じた欠陥については、発生部位、形状、寸法によらず、ハツリ除去することが基本である。
【0006】
発電機ロータのシャフトダブテールのフレッティング疲労き裂についても、一般の回転体と同様に、定検時に判明した欠陥は、ハツリ除去されている。しかしながら、定検時に判明したき裂は、表面層付近の短いき裂の状態で見つかることが多いこと、および、最終的にロータの破断に至ったようなケースがまれであることなどから、必ずしも速やかにき裂が進展しているとは考えられない。
【0007】
シャフトダブテールのフレッティング疲労き裂現象では、摩擦力による高い接線応力振幅は、接触端表面の極めて浅い部分に集中しており、内面に進むにつれて応力が急激に減少すること、および、高い接触面圧により圧縮の平均応力が作用していることなどから、停留しやすいことが知られている。
【0008】
また、シャフトダブテールのフレッティング疲労の発生メカニズムは、自重によるロータたわみにより、楔と繰返し相対すべりが生じ、それに伴って繰返し摩擦力が生じる結果、表面層に繰返し応力振幅が発生することによって起こるものと理解されている。このような発生メカニズムの場合、同一機種において、適正な組み立てが行われていれば、摩擦により生じる繰返し応力振幅の値と、楔がシャフトに押付けられた面圧によるシャフトダブテールの圧縮平均応力の値には、差異がないはずである。
【0009】
しかしながら、発電機ロータのシャフトダブテールにおいて実際に見つかるき裂のサイズは様々であり、同一の機種でも、必ずしも同じき裂サイズを示していないため、上記のようなフレッティング疲労の発生メカニズムでは、実際に観察される現象を十分に説明できない。
【0010】
このように、現状ではシャフトダブテールのフレッティング疲労き裂メカニズムが定量的に必ずしも説明できないため、発電機ロータのシャフトダブテールのフレッティング疲労き裂についても停留するかどうか判定できず、判明した欠陥はハツリ除去することになる。接触部の力学的状態を変更するような設計変更によって対応することも可能であるが、この場合でも、楔をシャフトダブテールから一旦取り外す必要があるため、き裂をハツリ除去する以上に工数がかかる。
【0011】
【特許文献1】特公平4−29304
【特許文献2】特開平6−197485
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発電機ロータのシャフトダブテールのフレッティング疲労き裂が次回定検までにどの程度の大きさまで進展するかどうかの判断を行うことができれば、定検時に見つかったき裂の発生部位、形状、寸法に応じた対策を講じることが可能となり、発電機の運用効率を上昇させ、機器の信頼性を高めることができる。
【0013】
しかし、発電機ロータのシャフトダブテールのフレッティング疲労においては、前述したように、き裂が進展するのかどうかの判定が困難であり、接触部の形状やロータなどに変更を行うことなしに、き裂進展をコントロールする有効な方法がないことが、点検時に判明したき裂の対策を決定する上で課題となっていた。
【0014】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、シャフトダブテールのき裂進展を高精度で予測するか、または、き裂進展を生じない運転条件を決定することで、き裂進展をコントロール可能な発電機ロータのき裂進展予測システムと運転条件決定支援システム、方法およびプログラム、並びに運転制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の目的を達成するために、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算し、この応力拡大係数範囲とシャフトダブテールに生じる平均応力を用いて、シャフトダブテールのき裂進展量、または、き裂進展を生じない運転制限値を計算することにより、シャフトダブテールのき裂進展を高精度で予測可能とするか、または、き裂進展を生じない運転条件を決定可能としたものである。
【0016】
本発明における発電機ロータのき裂進展予測システムは、記憶手段、インタフェース手段、応力計算手段、係数範囲計算手段、き裂進展量計算手段を有することを特徴としている。ここで、インタフェース手段は、データの入力および結果の出力を行う手段である。応力計算手段は、発電機ロータのシャフトダブテールに生じる平均応力を計算し前記記憶手段に格納する手段である。係数範囲計算手段は、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算し前記記憶手段に格納する手段である。き裂進展量計算手段は、前記記憶手段に格納された平均応力および応力拡大係数範囲と、き裂に関するデータから、シャフトダブテールのき裂進展量を計算する手段である。
【0017】
本発明における発電機ロータの運転条件決定支援システムは、記憶手段、インタフェース手段、係数範囲計算手段、運転制限値計算手段、運転パターン決定手段を有することを特徴としている。ここで、インタフェース手段は、データの入力および結果の出力を行う手段である。係数範囲計算手段は、シャフトダブテールに発生したき裂のサイズ、位置、形状に基づき、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算して前記記憶手段に格納する手段である。運転制限値計算手段は、材料の下限界応力拡大係数範囲のデータに基づき、前記記憶手段に格納された応力拡大係数範囲に対応するき裂が進展しない平均応力を、運転条件を決定する運転制限値として計算して前記記憶手段に格納する手段である。運転パターン決定手段は、各種の運転パターンから作成した平均応力データを用いて、前記記憶手段に格納された運転制限値に基づき、き裂が進展しない運転パターンを決定する手段である。
【0018】
本発明における発電機ロータのき裂進展予測方法や運転条件決定支援方法、およびプログラムは、上記システムの特徴を、方法およびコンピュータプログラムの観点からそれぞれ把握したものである。また、本発明における発電機ロータの運転制御システムは、上記の運転条件決定支援システムを、発電機ロータの運転制御に利用した技術である。
【0019】
以上のような本発明は、発明者等が、運転中にシャフトダブテールに作用する平均応力、特に、停止時の熱応力について調べた結果、機器の運転パターンによってはき裂が進展するのに必要な応力状態となりうるというメカニズムを見出した結果として得られたものである。すなわち、同一機種においても、各々の発電所における運転パターンの差から、多様なき裂が発生しうることになる。このメカニズムによれば、実機における現象をうまく説明できる。また、シャフトダブテールにおける平均応力の運転中の変化によりき裂進展が支配されているというメカニズムに基づいた応力評価手法を確立できるため、接触部の形状やロータなどに変更を行うことなしに、運転制御により、き裂進展をコントロールすることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シャフトダブテールのき裂進展を高精度で予測するか、または、き裂進展を生じない運転条件を決定することができるため、き裂進展をコントロール可能な発電機ロータのき裂進展予測システムと運転条件決定支援システム、方法およびプログラム、並びに運転制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下には、本発明を適用した複数の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0022】
[第1の実施形態]
[構成]
図1は、本発明を適用した第1の実施形態に係る発電機ロータのき裂進展予測システムを示すブロック図である。この図1に示すように、き裂進展予測システム1は、演算部10、インタフェース部20、記憶部30等から構成されている。このき裂進展予測システム1の各部の詳細は次の通りである。
【0023】
インタフェース部20は、データ入力部21とデータ出力部2を備えている。ここで、データ入力部21は、操作者の操作に応じた信号をコンピュータに入力するマウスやキーボード等の入力装置であり、データ出力部22は、データ入力部21で入力されたデータ、およびシステム内で処理された処理結果を操作者に対して表示または出力するディスプレイ、プリンタ等の出力装置である。
【0024】
演算部10は、シャフトダブテールに生じる平均応力を計算する応力計算部11、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算する係数範囲計算部12、得られた平均応力および応力拡大係数範囲と、運転パターン、運転時間、およびき裂に関するデータから、任意の時間におけるシャフトダブテールのき裂進展量を計算するき裂進展量計算部13を備えている。
【0025】
応力計算部11は、異なる種類の平均応力を個別に計算する個別計算部として、接触面圧応力計算部111、熱応力計算部112、残留応力計算部113を有すると共に、平均応力を合計する平均応力計算部114を有する。ここで、接触面圧応力計算部111は、シャフトダブテールと楔との接触面圧によりシャフトダブテールに生じる平均応力を計算する部分である。熱応力計算部112は、シャフトダブテールの熱応力によりシャフトダブテールに生じる平均応力を計算する部分である。残留応力計算部113は、残留応力によりシャフトダブテールに生じる平均応力を計算する部分である。平均応力計算部114は、これらの個別計算部111〜113により得られた平均応力を合計してシャフトダブテールに生じる平均応力を計算する。
【0026】
さらに、熱応力計算部112は、段階的な解析部として、流体温度解析部1121、非定常温度分布解析部1122、非定常接触応力解析部1123を有する。ここで、流体温度解析部1121は、発電機ロータおよび発電機コイル近傍の冷却媒体の流体温度解析を行う部分である。非定常温度分布解析部1122は、流体温度解析により得られた冷却媒体の熱伝達率と温度のデータを温度境界条件として用いて、楔とロータの非定常温度分布解析を行う部分である。非定常接触応力解析部1123は、非定常温度分布解析により得られた温度分布を用いて、ロータと楔の非定常接触応力解析を行う部分である。
【0027】
係数範囲計算部12は、段階的な解析部として、線形応力解析部121、ズームアップ接触応力解析部122、応力拡大係数計算部123、応力拡大係数範囲計算部124を有する。ここで、線形応力解析部121は、発電機ロータ全体モデルの線形応力解析を行う部分である。ズームアップ接触応力解析部122は、線形応力解析により得られたロータの一部分の変形、応力データを用いて、シャフトダブテールのズームアップ接触応力解析を行う部分である。応力拡大係数計算部123は、ズームアップ接触応力解析により得られた応力分布または変位分布を用いて、シャフトダブテールのき裂の応力拡大係数を計算する部分である。応力拡大係数範囲計算部124は、応力拡大係数を用いて応力拡大係数範囲を計算する部分である。
【0028】
なお、このような演算部10は、コンピュータのメインメモリとそれに記憶されたき裂進展予測用として特化されたプログラム、そのプログラムによって制御されるCPU、等の組み合わせにより実現可能である。
【0029】
記憶部30は、演算部10における計算に使用するための計算条件や各種データを保存するとともに、演算部10で得られた計算結果を保存する部分である。このような記憶部30は、コンピュータの有するメモリや補助記憶装置により実現可能である。
【0030】
[動作]
図2は、以上のような第1の実施形態に係るき裂進展予測システム1の動作概略を示すフローチャートである。
【0031】
この図2に示すように、き裂進展予測システム1はまず、応力計算部11の接触面圧応力計算部111、熱応力計算部112、残留応力計算部113による接触面圧応力計算処理(S210)、熱応力計算処理(S220)、残留応力計算処理(S230)を並行的または所定の順序で行うことにより、楔との接触面圧により生じる平均応力Sm1、熱応力により生じる平均応力Sm2、残留応力により生じる平均応力Sm3を算出する。
【0032】
このうち、熱応力計算部112による熱応力計算処理(S220)においては、さらに、熱応力計算部112の流体温度解析部1121、非定常温度分布解析部1122、非定常応力分布解析部1123による流体温度解析処理(S221)、非定常温度分布解析処理(S222)、非定常応力分布解析処理(S223)が、この順序で段階的に行われることにより、熱応力により生じる平均応力Sm2が算出される。
【0033】
そして、以上の処理(S210,S220,S230)によって、楔との接触面圧により生じる平均応力Sm1、熱応力により生じる平均応力Sm2、残留応力により生じる平均応力Sm3が、それぞれ算出されると、応力計算部11の平均応力計算部114により平均応力計算処理(S223)を行うことにより、平均応力Sm1〜Sm3を合計してシャフトダブテールに生じる平均応力Smを計算し、記憶部30に保存する。
【0034】
その一方で、き裂進展予測システム1は、係数範囲計算部12による係数範囲計算処理(S250)を開始する。この係数範囲計算処理(S250)においては、さらに、係数範囲計算部12の線形応力解析部121、ズームアップ接触応力解析部122、応力拡大係数計算部123、応力拡大係数範囲計算部124による線形応力解析処理(S251)、ズームアップ接触応力解析処理(S252)、応力拡大係数計算処理(S253)、応力拡大係数範囲計算処理(S254)が、この順序で段階的に行われることにより、応力拡大係数範囲ΔKが算出される。この場合、応力拡大係数範囲計算処理(S254)においては、前段の応力拡大係数計算処理(S253)で算出された応力拡大係数Kと、平均応力計算処理(S240)で算出された平均応力Smを用いて応力拡大係数範囲ΔKが算出され、記憶部30に保存される。
【0035】
最終的に、き裂進展予測システム1は、き裂進展量計算部13によるき裂進展量計算処理(S260)を行うことにより、前段の処理(S240,S250)で得られた平均応力Smおよび応力拡大係数範囲ΔKと、予め保存または入力された運転パターン、運転時間、およびき裂に関するデータから、任意の時間におけるシャフトダブテール部のき裂進展量を計算し、計算結果を記憶部30に保存する。き裂進展予測システム1はまた、き裂進展量の計算結果をインタフェース部20のデータ出力部22により表示する結果表示処理(S270)を行う。
【0036】
[き裂進展のメカニズム]
第1の実施形態に係るき裂進展予測システム1の構成および動作概略は、発明者等が見出したき裂進展のメカニズムに基づくものである。図3は、このメカニズムを説明するために、ロータ材のき裂進展カーブを模式的に示す図である。この図3において、横軸は、応力拡大係数範囲△K、縦軸は、き裂進展速度da/dNを表している。図中では、平均応力がき裂進展速度に及ぼす影響を表すため、複数の曲線がプロットされている。
【0037】
この図3に示すように、平均応力が高い場合には、き裂進展速度が速くなる。また、き裂が停留するとされる下限界応力拡大係数範囲△Kthを比べてみると、平均応力が高い場合には、下限界応力拡大係数範囲△Kthが小さくなり、小さい応力振幅でもき裂が進展する。このように、発電機ロータにおいても、一般の高サイクル疲労現象と同様に、疲労き裂進展に及ぼす平均応力の影響が大きく、き裂進展挙動を評価するためには、応力拡大係数範囲△Kと平均応力を正確に求めることが重要であると言える。
【0038】
[処理の詳細]
以下には、図2に示したような第1の実施形態に係るき裂進展予測システム1の動作のうち、以上のようなき裂進展のメカニズムを前提とした、本発明における特徴的な処理の詳細について順次説明する。
【0039】
[接触面圧応力計算処理]
接触面圧によりき裂の周囲に生じる圧縮応力場は、楔がシャフトダブテールに遠心力により押付けられることにより起こる。したがって、応力計算部11の接触面圧応力計算部111による接触面圧応力計算処理(S210)においては、楔、シャフトダブテール間の接触問題を解くことで接触面圧により生じる平均応力を求めることができる。これには、接触部をモデル化した簡易式や有限要素法解析などを用いることができる。また、数値実験計画法などにより作成したデータベースを用いてもよい。
【0040】
図4は、接触面圧応力計算部111による接触面圧応力計算処理(S210)の一例として、有限要素法解析により求めた平均応力の例を示す。シャフトダブテール接触部には、ほぼ、回転数の2乗、すなわち、遠心力に比例した圧縮応力が平均応力として作用している。このことから、接触面圧による平均応力Sm1を、以下の式(1)に示すように仮定することにより、運転中の任意の状態における平均応力が計算できる。
【0041】
Sm1=Sm10×(ω/ω02 … 式(1)
ここで、Sm10は定格回転数における面圧による平均応力、ωは回転数、ω0は定格回転数である。
【0042】
[熱応力計算処理]
図2に示したように、熱応力計算部112による熱応力計算処理(S220)においては、熱応力計算部112の流体温度解析部1121、非定常温度分布解析部1122、非定常応力分布解析部1123による流体温度解析処理(S221)、非定常温度分布解析処理(S222)、非定常応力分布解析処理(S223)が、この順序で段階的に行われることにより、熱応力により生じる平均応力Sm2が算出される。
【0043】
ここで、熱応力計算処理(S220)における最初の処理であるところの、流体温度解析部1121による流体温度解析処理(S221)においては、冷却流体の発電機ロータおよび発電機コイル近傍の流れをモデル化した有限要素解析を行う。具体的には、ロータ、コイル、クリページブロック、楔、絶縁体、空気層などの構成要素の形状データと物性値データ、および、コイル温度、コイル界磁電流、冷却流体の流量、入口温度、出口温度、回転数などの運転条件から、冷却流体とコイルやロータ間の熱伝達率や冷却流体の温度、ロータ、コイルの温度、コイルの発熱量を求めることができる。
【0044】
熱応力計算処理(S220)における2番目の処理であるところの、非定常温度分布解析部1122による非定常温度分布解析処理(S222)においては、後段の非定常応力分布解析処理(S223)で用いるデータとして、ロータ、コイル、クリページブロック、楔の温度分布を求める。この非定常温度分布解析処理(S222)においては、ロータ、コイル、クリページブロック、楔などの構成要素の形状データと物性値データ、および、流体温度解析処理(S221)で求めた、コイル発熱量、冷却流体の温度、熱伝達率などの温度境界条件を用いて、有限要素法による非定常温度分布解析を行い、ロータ、楔、コイル、クリページブロックなどの温度を求める。
【0045】
なお、上記のような流体温度解析処理(S221)と、非定常温度分布解析処理(S222)は、共通の解析モデルが利用できる場合には、1つの有限要素解析処理として行うことも可能であり、その場合には、流体温度解析部1121と非定常温度分布解析部1122を統合して単一の解析部とすることが可能である。
【0046】
熱応力計算処理(S220)における3番目の処理であるところの、非定常応力分布解析部1123による非定常応力分布解析処理(S223)においては、前段の非定常温度分布解析処理(S222)で得られた温度分布を用いて、有限要素法による応力解析を行い、ロータ、楔、コイル、クリページブロックなどの応力分布を求める。シャフトダブテールに発生する熱応力としては、シャフト全体の温度分布に起因する熱応力と、シャフトダブテールと楔間の接触部の特異性に起因する熱応力があるため、この非定常応力分布解析処理(S223)においては、シャフトダブテールと楔の接触をモデル化することが必要である。
【0047】
そして、この非定常応力分布解析処理(S223)において求めた応力分布データを用いると、図5に示すように、疲労き裂進展を評価するシャフトダブテールの熱応力が、運転中にどのように時間変化するかを示すことができる。
【0048】
[残留応力計算処理]
面圧による応力や熱応力と異なり、残留応力は、ロータの製鋼、スロット、シャフトダブテール加工、熱処理によって生じるが、運転中は変化しない。そのため、残留応力計算部113による残留応力計算処理(S230)においては、予め用意した残留応力データベースを用いて、材料、製造時期、SRなどの熱処理方法を入力することにより、残留応力Sm3を求める。
【0049】
[平均応力計算処理]
図6は、平均応力計算部114による平均応力計算処理(S240)において、楔との接触面圧により生じる応力Sm1、シャフトダブテールの熱応力Sm2、残留応力Sm3を合わせて、平均応力Smを計算した例を示す。この例では、熱応力Sm2に比べて接触面圧による圧縮応力が大きく定格回転数に近いときには、平均応力Smは圧縮側の平均応力となる。なお、残留応力Sm3は他の応力に比べて小さく、平均応力Smへ及ぼす影響はわずかである。熱応力Sm2は、起動時には圧縮側であるため、停止運転中の界磁電流遮断直後に平均応力Smが引張り側の最大位置となることがわかる。
【0050】
[係数範囲計算処理]
図2に示したように、係数範囲計算部12による係数範囲計算処理(S250)においては、係数範囲計算部12の線形応力解析部121、ズームアップ接触応力解析部122、応力拡大係数計算部123、応力拡大係数範囲計算部124による線形応力解析処理(S251)、ズームアップ接触応力解析処理(S252)、応力拡大係数計算処理(S253)、応力拡大係数範囲計算処理(S254)が、この順序で段階的に行われることにより、応力拡大係数範囲ΔKが算出される。
【0051】
ここで、線形応力解析部121による線形応力解析処理(S251)においては、ロータの形状、寸法、材料データと、スロット内部構造物の形状、寸法、材料データと、楔の形状、寸法、材料データから、回転に伴うロータのたわみを線形有限要素解析により求め、シャフトダブテール部に生じる繰返しひずみ、応力振幅を求める。
【0052】
線形応力解析処理(S251)により、シャフトダブテール部に生じる繰返しひずみ、応力振幅が求まったら、シャフトダブテールのき裂まわりの応力、変位を詳細に求めるために、ズームアップ接触応力解析部122によるズームアップ接触応力解析処理(S252)として、ズームアップ有限要素法解析を行う。このズームアップ有限要素法解析では、シャフトダブテールと楔の接触の影響も加味するため、接触解析を行う。
【0053】
応力拡大係数計算部123による応力拡大係数計算処理(S253)においては、検査などで得られたき裂データに基づき、シャフトダブテールのき裂の位置、形状、寸法を決定することにより、き裂の応力拡大係数Kとして、き裂先端の最大応力拡大係数Kmaxと最小応力拡大係数Kminを求める。ここで、応力拡大係数の計算法としては、き裂部分をモデル化したズームアップ解析を用いて、変位法により求める方法が適切であるが、影響関数法などの簡便法も使用できる。
【0054】
応力拡大係数範囲計算部124による応力拡大係数範囲計算処理(S254)においては、応力拡大係数範囲ΔKとして、KmaxからKminを引いた値を求める。ただし、平均応力計算処理(S240)で求めた平均応力Smが圧縮側にあり、最小応力拡大係数Kminが負となる場合には、き裂の閉口を考慮して最小応力拡大係数Kminをゼロとして、応力拡大係数範囲△Kを計算する。
【0055】
[効果]
以上のような第1の実施形態によれば、シャフトダブテールのき裂進展に影響を及ぼすシャフトダブテールの平均応力を正確に把握できるため、定検などで得られたシャフトダブテールのき裂について、次の定検までの運転パターンや期間を計算条件として、次の定検までにき裂がどれだけ進展するかを定量的に計算することができる。また、シャフトダブテールにおける平均応力の運転中の変化によりき裂進展が支配されているというメカニズムに基づいた応力評価手法を確立できるため、接触部の形状やロータなどに変更を行うことなしに、運転制御により、き裂進展をコントロールすることが可能となる。
【0056】
したがって、シャフトダブテールのき裂進展を高精度で予測することができ、き裂進展をコントロール可能な発電機ロータのき裂進展予測システムと方法およびプログラムを提供することができる。
【0057】
[第2の実施形態]
[構成]
図7は、本発明を適用した第2の実施形態に係る発電機ロータの運転条件決定支援システムを示すブロック図である。この図7に示す運転条件決定支援システム2は、シャフトダブテールに発生したき裂サイズに応じて、き裂が進展しない運転パターンを決定するシステムであり、そのために、第1の実施形態に係るき裂進展予測システム1の演算部10におけるき裂進展量計算部13に代えて、運転制限値計算部14と運転パターン決定部15を設けたものである。
【0058】
本実施形態において、係数範囲計算部12は、シャフトダブテールに発生したき裂のサイズ、位置、形状に基づき、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算するようになっている。そして、運転制限値計算部14は、材料の下限界応力拡大係数範囲のデータに基づき、得られた応力拡大係数範囲に対応するき裂が進展しない平均応力を、運転条件を決定する運転制限値として計算する部分である。また、運転パターン決定部15は、各種の運転パターンから作成した平均応力データを用いて、得られた運転制限値に基づき、き裂が進展しない運転パターンを決定する部分である。なお、他の部分の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0059】
[動作]
図8は、以上のような第2の実施形態に係る運転条件決定支援システム2の動作概略を示すフローチャートである。
【0060】
この図8において、図2と同じ符号で示す処理は、図2に示した処理と基本的に同様の処理である。すなわち、運転条件決定支援システム2は、ループ処理(LOOP)として、運転パターン毎に、応力計算部11による接触面圧応力計算処理(S210)、熱応力計算処理(S220)、残留応力計算処理(S230)、平均応力計算処理(S240)を行うことにより、運転パターン毎の平均応力データをそれぞれ求める。
【0061】
運転条件決定支援システム2は、その一方で、発生したき裂のサイズ、位置、形状に応じて、係数範囲計算部12による係数範囲計算処理(S250)を行い、応力拡大係数範囲ΔKを計算して、記憶部30に保存する。この場合、き裂サイズ、位置、形状のき裂情報が決まれば、き裂先端の応力拡大係数範囲ΔKは、第1の実施形態において説明した係数範囲計算処理と同様に計算することができる。
【0062】
運転条件決定支援システム2は、次に、運転制限値計算部14による運転制限値計算処理(S310)として、材料の下限界応力拡大係数範囲ΔKthのデータに基づき、係数範囲計算処理(S250)で得られた応力拡大係数範囲ΔKに対応するき裂が進展しない平均応力を、運転条件を決定する運転制限値として計算し、記憶部30に保存する。ここで、材料の下限界応力拡大係数範囲ΔKthのデータは、図3で示したようなデータであり、記憶部30に予め保存されているか、あるいは、インタフェース部20により入力されることで用意される。
【0063】
この場合、図3で示した通り、材料のき裂進展に関するデータにおいて、き裂が進展しない下限界応力拡大係数範囲ΔKthは、平均応力の影響を受けるので、得られた応力拡大係数範囲ΔKと材料の下限界応力拡大係数範囲ΔKthから、逆にき裂が進展しない平均応力Smthを決定することができる。なお、運転中は、面圧と熱応力の影響により平均応力は時間の関数となる。
【0064】
最終的に、運転条件決定支援システム2は、運転パターン決定部15による運転パターン決定処理(S320)として、運転パターン毎の平均応力データを用いて、得られた運転制限値に基づき、き裂が進展しない運転パターンを決定する。すなわち、運転パターン毎の平均応力データを用いることにより、平均応力の制限値Smthが決まれば、き裂が進展しない運転パターンを決定することができる。決定した運転パターンは、計算結果として記憶部30に保存される。運転条件決定支援システム2はまた、決定した運転パターンをインタフェース部20のデータ出力部22により表示する結果表示処理(S270)を行う。
【0065】
図9は、発電機ロータの停止時のパターンを変えた場合の平均応力の違いについて模式的に示したグラフを示している。ここで、パターンBは通常行われている停止パターン、パターンAは通常より急激に停止を行う停止パターン、パターンCは通常より緩やかに停止を行うパターンを示している。パターンCのように緩やかに停止を行うと、熱応力が小さくなり、運転中の平均応力を、き裂が進展しない平均応力Smthまで下げることができる場合があることがわかる。
【0066】
特に発電機ロータの停止時には、図6の記載からも明らかなとおり、発電機ロータに発生する熱応力が平均応力の増大へ寄与するため、停止パターンを緩やかなものに変更することでシャフトダブテールのき裂の進展を次の定検まで抑制することが可能となる。
【0067】
[効果]
以上のような第2の実施形態によれば、き裂進展を生じない運転条件を決定することができるため、き裂進展をコントロール可能な発電機ロータの運転条件決定支援システムと方法およびプログラムを提供することができる。
【0068】
また、第2の実施形態に係る運転条件決定支援システムの具体的な運用としては、定検などで見つかったシャフトダブテールのき裂が次の定検まで進展しないような運転パターンを決定して発電機ロータの運転を制限することにより、発見したき裂のハツリ除去を行わなくても運転を行うことができるため、保守性を向上することができる。
【0069】
[第3の実施形態]
[構成]
図10は、本発明を適用した第3の実施形態に係る発電機ロータの運転条件決定支援システムを示すブロック図である。この図10に示す運転条件決定支援システム3は、第2の実施形態に係る運転条件決定支援システム2と同様の手法で、き裂が進展しない運転パターンにより発電機ロータを運転している際に、何らかの事情で運転制限値を超えた運転を余儀なくされた場合に、き裂の進展量に応じて新しい運転制限値を計算して運転パターンを変更するシステムである。そのために、本実施形態においては、第1の実施形態に係るき裂進展予測システム1の演算部10に、き裂サイズ計算部16を追加するとともに、第2の実施形態と同様の運転制限値計算部14と運転パターン決定部15を設けている。
【0070】
本実施形態において、係数範囲計算部12は、第2の実施形態における係数範囲計算部12と同様に、シャフトダブテールに発生したき裂のサイズ、位置、形状に基づき、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算するようになっている。また、き裂進展量計算部13は、得られた応力拡大係数範囲および平均応力と、材料き裂進展データから、運転中のき裂進展量を計算するようになっている。
【0071】
また、き裂サイズ計算部16は、得られたき裂進展量を用いて、現在のき裂サイズを逐一計算する部分である。さらに、運転制限値計算部14は、得られたき裂サイズを用いて、新しい運転条件を決定する運転制限値を計算するようになっている。また、運転パターン決定部15は、第2の実施形態における運転パターン決定部15と同様に、得られた運転制限値に基づき、き裂が進展しない運転パターンを決定するようになっている。なお、他の部分の構成は、第1、第2の実施形態と同様である。
【0072】
[動作]
図11は、以上のような第3の実施形態に係る運転条件決定支援システム3の動作概略を示すフローチャートである。
【0073】
この図11において、図2、図8と同じ符号で示す処理は、図2、図8に示した処理と基本的に同様の処理である。すなわち、運転条件決定支援システム3は、一般的に発電機に設けられているモニタ装置から運転パターン情報を逐一入手して(S410)、応力計算部11による接触面圧応力計算処理(S210)、熱応力計算処理(S220)、残留応力計算処理(S230)、平均応力計算処理(S240)を行うことにより、運転中の平均応力と繰り返し回数データを求め、記憶部30に保存する。
【0074】
すなわち、発電機の運転情報をモニタするモニタ装置から、運転パターン情報を逐一入手し、第1の実施形態と同様の接触面圧応力計算処理(S210)、熱応力計算処理(S220)により、接触面圧による平均応力、熱応力による平均応力が計算できる。そして、これらの平均応力と、残留応力計算処理(S230)で計算された残留応力データを合計することにより、運転中の平均応力と、ある平均応力で繰り返し負荷された繰返し回数データを得ることができる。
【0075】
その一方で、運転条件決定支援システム3は、第2の実施形態と同様に、シャフトダブテールに発生したき裂のサイズ、位置、形状に応じて、係数範囲計算部12による係数範囲計算処理(S250)を行い、応力拡大係数範囲ΔKを計算し、記憶部30に保存する。
【0076】
運転条件決定支援システム3は、次に、き裂進展量計算部13によるき裂進展量計算処理(S260)として、得られた応力拡大係数範囲ΔKおよび平均応力と繰り返し回数、および、材料のき裂進展速度データを用いて、き裂進展量を逐一計算する。ここで、材料のき裂進展速度データは、図3で示したようなデータであり、記憶部30に予め保存されているか、あるいは、インタフェース部20により入力されることで用意される。
【0077】
運転条件決定支援システム3は、続いて、き裂サイズ計算部16によるき裂サイズ計算処理(S420)として、得られたき裂進展量を用いて、現在のき裂サイズを逐一計算し、記憶部30に保存する。すなわち、元のき裂サイズにき裂進展量を加えたものが、現在のき裂サイズである。き裂サイズ計算部16は、き裂サイズ表示処理(S430)として、このように計算したき裂サイズの計算値をインタフェース部20のデータ出力部22により常時表示していくことで、き裂情報を運転に反映させることが可能となる。さらに、図11に示すように、計算したき裂サイズを実際に発生したき裂サイズと同様に用いて、新たなき裂サイズを計算してもよい。
【0078】
運転条件決定支援システム3は、次に、得られたき裂サイズを用いて、運転制限値計算部14による運転制限値計算処理(S310)を行うことにより、新しい運転条件を決定する運転制限値を計算し、記憶部30に保存する。この後、運転パターン決定部15による運転パターン決定処理(S320)として、第2の実施形態と同様に、得られた運転制限値に基づき、き裂が進展しない運転パターンを決定する。決定した運転パターンは、計算結果として記憶部30に保存される。運転条件決定支援システム3はまた、決定した運転パターンをインタフェース部20のデータ出力部22により表示する結果表示処理(S270)を行う。すなわち、第2の実施形態と同様の運転制限値計算手法により、新しく計算されたき裂サイズに応じた運転パターンを表示することができる。
【0079】
[効果]
以上のような第3の実施形態によれば、定検などで発見されたシャフトダブテールのき裂情報を元に、運転中のき裂進展量を逐一予測し、現在のき裂長さや運転制限を運転者が容易に確認できるため、発見したき裂のハツリ除去を行わなくても、発電機ロータの信頼性を維持したまま運転を継続することができる。
【0080】
[第4の実施形態]
図12は、本発明を適用した第4の実施形態に係る発電機ロータの運転制御システムを示すブロック図である。この図12に示す運転制御システム4は、第2の実施形態に係る運転条件決定支援システム2に、発電機ロータの運転を制御する運転制御装置40を組み込んだものである。
【0081】
以上のような第4の実施形態によれば、第2の実施形態の効果に加えて、運転制御装置40により、き裂進展を生じない運転条件に基づいて発電機ロータの運転を制御できるという効果が得られる。
【0082】
[他の実施形態]
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他にも多種多様な変形例が実施可能である。まず、図面に示したシステム構成やフローチャートは、一例にすぎず、具体的な構成、動作手順や各処理の詳細などは適宜選択可能である。例えば、第4の実施形態においては、第2の実施形態に係る運転条件決定支援システムと運転制御手段を組み合わせたが、第3の実施形態に係る運転条件決定支援システムと運転制御手段を組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明を適用した第1の実施形態に係る発電機ロータのき裂進展予測システムを示すブロック図。
【図2】第1の実施形態に係るき裂進展予測システムの動作概略を示すフローチャート。
【図3】ロータ材のき裂進展のメカニズムを説明するためのロータ材のき裂進展カーブを模式的に示す図。
【図4】第1の実施形態における接触面圧応力計算部による接触面圧応力計算処理の一例として、有限要素法解析により求めた平均応力の例を示す図。
【図5】シャフトダブテールの熱応力が、運転中にどのように時間変化するかを示す図。
【図6】第1の実施形態における平均応力計算部による平均応力計算処理において、楔との接触面圧により生じる応力、シャフトダブテールの熱応力、残留応力を合わせて、平均応力を計算した例を示す図。
【図7】本発明を適用した第2の実施形態に係る発電機ロータの運転条件決定支援システムを示すブロック図。
【図8】第2の実施形態に係る運転条件決定支援システムの動作概略を示すフローチャート。
【図9】発電機ロータの停止時のパターンを変えた場合の平均応力の違いについて模式的に示したグラフ。
【図10】本発明を適用した第3の実施形態に係る発電機ロータの運転条件決定支援システムを示すブロック図。
【図11】第3の実施形態に係る運転条件決定支援システムの動作概略を示すフローチャート。
【図12】本発明を適用した第4の実施形態に係る発電機ロータの運転制御システムを示すブロック図。
【符号の説明】
【0084】
1…き裂進展予測システム
2,3…運転条件決定支援システム
4…運転制御システム
10…演算部
11…応力計算部
111…接触面圧応力計算部
112…熱応力計算部
1121…流体温度解析部
1122…非定常温度分布解析部
1123…非定常応力分布解析部
113…残留応力計算部
114…平均応力計算部
12…係数範囲計算部
121…線形応力解析部
122…ズームアップ接触応力解析部
123…応力拡大係数計算部
124…応力拡大係数範囲計算部
13…き裂進展量計算部
14…運転制限値計算部
15…運転パターン決定部
16…き裂サイズ計算部
20…インタフェース部
21…データ入力部
22…データ出力部
30…記憶部
40…運転制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶手段と、
データの入力および結果の出力を行うインタフェース手段と、
発電機ロータのシャフトダブテールに生じる平均応力を計算し前記記憶手段に格納する応力計算手段と、
シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算し前記記憶手段に格納する係数範囲計算手段と、
前記記憶手段に格納された平均応力および応力拡大係数範囲と、き裂に関するデータから、シャフトダブテールのき裂進展量を計算するき裂進展量計算手段を有する
ことを特徴とする発電機ロータのき裂進展予測システム。
【請求項2】
前記応力計算手段は、シャフトダブテールと楔との接触面圧によりシャフトダブテールに生じる平均応力と、シャフトダブテールの熱応力によりシャフトダブテールに生じる平均応力と、残留応力によりシャフトダブテールに生じる平均応力を合計して、シャフトダブテールに生じる平均応力を計算するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の発電機ロータのき裂進展予測システム。
【請求項3】
前記き裂進展量計算手段は、得られた平均応力および応力拡大係数範囲と、運転パターン、運転時間、およびき裂に関するデータから、任意の時間におけるシャフトダブテールのき裂進展量を計算するように構成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発電機ロータのき裂進展予測システム。
【請求項4】
前記応力計算手段は、シャフトダブテールの熱応力を計算するための手段として、
発電機ロータおよび発電機コイル近傍の冷却媒体の流体温度解析を行う手段と、
流体温度解析により得られた冷却媒体の熱伝達率と温度のデータを温度境界条件として用いて、楔とロータの非定常温度分布解析を行う手段と、
非定常温度分布解析により得られた温度分布を用いて、ロータと楔の非定常接触応力解析を行う手段を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発電機ロータのき裂進展予測システム。
【請求項5】
前記係数範囲計算手段は、
発電機ロータ全体モデルの線形応力解析を行う手段と、
線形応力解析により得られたロータの一部分の変形、応力データを用いて、シャフトダブテールのズームアップ接触応力解析を行う手段と、
ズームアップ接触応力解析により得られた応力分布または変位分布を用いて、シャフトダブテールのき裂の応力拡大係数を計算する手段を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の発電機ロータのき裂進展予測システム。
【請求項6】
前記応力計算手段は、発電機のモニタリング運転情報から、シャフトダブテールに生じる平均応力を計算するように構成され、
前記係数範囲計算手段は、シャフトダブテールに発生したき裂のサイズ、位置、形状に基づき、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算するように構成され、
前記き裂進展量計算手段は、得られた応力拡大係数範囲および平均応力と、材料き裂進展データから、運転中のき裂進展量を計算するように構成され、
前記演算手段は、
得られたき裂進展量を用いて、現在のき裂サイズを逐一計算するき裂サイズ計算手段を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の発電機ロータのき裂進展予測システム。
【請求項7】
発電機ロータのシャフトダブテールのき裂進展を抑制するための発電機の運転条件を決定する発電機ロータの運転条件決定支援システムにおいて、
請求項6のき裂進展予測システムにより実現されるき裂進展予測手段と、
得られたき裂サイズを用いて、新しい運転条件を決定する運転制限値を計算する運転制限値計算手段
を備えたことを特徴とする発電機ロータの運転条件決定支援システム。
【請求項8】
記憶手段と、
データの入力および結果の出力を行うインタフェース手段と、
シャフトダブテールに発生したき裂のサイズ、位置、形状に基づき、シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算して前記記憶手段に格納する係数範囲計算手段と、
材料の下限界応力拡大係数範囲のデータに基づき、前記記憶手段に格納された応力拡大係数範囲に対応するき裂が進展しない平均応力を、運転条件を決定する運転制限値として計算して前記記憶手段に格納する運転制限値計算手段と、
各種の運転パターンから作成した平均応力データを用いて、前記記憶手段に格納された運転制限値に基づき、き裂が進展しない運転パターンを決定する運転パターン決定手段を有する
ことを特徴とする発電機ロータの運転条件決定支援システム。
【請求項9】
前記平均応力データは、シャフトダブテールと楔との接触面圧によりシャフトダブテールに生じる平均応力と、シャフトダブテールの熱応力によりシャフトダブテールに生じる平均応力と、残留応力によりシャフトダブテールに生じる平均応力を合計して、運転パターンごとに作成されている
ことを特徴とする請求項8に記載の発電機ロータの運転条件決定支援システム。
【請求項10】
発電機ロータのシャフトダブテールのき裂進展を抑制するための発電機の運転条件を決定する発電機ロータの運転条件決定支援システムにおいて、
請求項6のき裂進展予測システムにより実現されるき裂進展予測手段と、
得られたき裂サイズを用いて、新しい運転条件を決定する運転制限値を計算する運転制限値計算手段を備え、
前記運転制限値計算手段は、請求項7または請求項8の運転条件決定支援システムにより実現される
ことを特徴とする発電機ロータの運転条件決定支援システム。
【請求項11】
発電機ロータのシャフトダブテールのき裂進展を抑制するように発電機の運転を制御する発電機ロータの運転制御システムにおいて、
請求項7乃至請求項10のいずれかの運転条件決定支援システムにより実現されて、運転条件を決定する運転条件決定支援手段と、
決定された運転条件により発電機ロータの運転を制御する運転制御手段
を備えたことを特徴とする発電機ロータの運転制御システム。
【請求項12】
発電機ロータのシャフトダブテールのき裂進展を予測する発電機ロータのき裂進展予測方法において、
き裂進展を予測するための計算を行う演算手段と、計算結果を保存する記憶手段と、データの入力を受付け結果の出力を行うインタフェース手段を用いて、
前記演算手段により、
シャフトダブテールに生じる平均応力を計算する応力計算ステップと、
シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算する係数範囲計算ステップと、
得られた平均応力および応力拡大係数範囲と、き裂に関するデータから、シャフトダブテールのき裂進展量を計算して前記記憶手段に保存するき裂進展量計算ステップを行い、
前記インタフェース手段により、得られた計算結果を表示する結果表示ステップを行う
ことを特徴とする発電機ロータのき裂進展予測方法。
【請求項13】
発電機ロータのシャフトダブテールのき裂進展を抑制するための発電機の運転条件を決定する発電機ロータの運転条件決定支援方法において、
運転条件決定用の計算を行う演算手段と、計算結果を保存する記憶手段と、データの入力を受付け結果の出力を行うインタフェース手段を用いて、
前記演算手段により、
シャフトダブテールに発生したき裂のサイズ、位置、形状に基づき、シャフトダブテールのき裂の応力拡大係数範囲を計算する係数範囲計算ステップと、
材料の下限界応力拡大係数範囲のデータに基づき、得られた応力拡大係数範囲に対応するき裂が進展しない平均応力を、運転条件を決定する運転制限値として計算する運転制限値計算ステップと、
各種の運転パターンから作成した平均応力データを用いて、得られた運転制限値に基づき、き裂が進展しない運転パターンを決定し、前記記憶手段に保存する運転パターン決定ステップを行い、
前記インタフェース手段により、得られた計算結果を表示する結果表示ステップを行う
ことを特徴とする発電機ロータの運転条件決定支援方法。
【請求項14】
コンピュータを利用して、発電機ロータのシャフトダブテールのき裂進展を予測する発電機ロータのき裂進展予測プログラムにおいて、
前記コンピュータに、
シャフトダブテールに生じる平均応力を計算する応力計算機能と、
シャフトダブテールに発生したき裂の応力拡大係数範囲を計算する係数範囲計算機能と、
得られた平均応力および応力拡大係数範囲と、き裂に関するデータから、シャフトダブテールのき裂進展量を計算するき裂進展量計算機能
を実現させることを特徴とする発電機ロータのき裂進展予測プログラム。
【請求項15】
コンピュータを利用して、発電機ロータのシャフトダブテールのき裂進展を抑制するための発電機の運転条件を決定する発電機ロータの運転条件決定支援プログラムにおいて、
前記コンピュータに、
シャフトダブテールに発生したき裂のサイズ、位置、形状に基づき、シャフトダブテールのき裂の応力拡大係数範囲を計算する係数範囲計算機能と、
材料の下限界応力拡大係数範囲のデータに基づき、得られた応力拡大係数範囲に対応するき裂が進展しない平均応力を、運転条件を決定する運転制限値として計算する運転制限値計算機能と、
各種の運転パターンから作成した平均応力データを用いて、得られた運転制限値に基づき、き裂が進展しない運転パターンを決定する運転パターン決定機能
を実現させることを特徴とする発電機ロータの運転条件決定支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−178397(P2007−178397A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380253(P2005−380253)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】