説明

発電機能を有する調理器具

【課題】電源を利用できない各種の状況下において電源供給手段として有効に利用できる機器であって、発電効率が良好で耐久性にも優れ、更に、電源供給手段以外に調理器具としても使用可能な新規な機器を提供する。
【解決手段】上部が開口した容器本体と、該容器本体の底部に取り付けられた熱電変換モジュールとを有する発電機能を有する調理器具であって、
該熱電変換モジュールが、金属酸化物を熱電変換材料とするモジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とするモジュールからなる高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とするモジュールからなる低温部用モジュールとを積層した構造の積層型熱電変換モジュールである、発電機能を有する調理器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機能を有する調理器具に関する。
【背景技術】
【0002】
大地震、台風など天災による電気、ガス、水道などライフラインの切断は生命維持に関わる大きな問題である。このような状況下では、電気を得るために様々な発電機器が利用されている。例えば、エンジンを用いた発電機や太陽光発電による小型発電器が用いられている。しかしながら、エンジンを用いた発電機は高出力であるが、重量が重く、輸送手段が途切れてしまった災害現場に持ち込むことは容易ではなく、また太陽光発電による小型発電器は晴天の日中でしか用いることはできない等の欠点がある。
【0003】
携帯電話が広く普及した今日、災害現場に残された被災者が最も切実に感じることは外部との連絡であり、そのための電源確保が災害後短時間で行われる必要がある。被災地では、がれきや紙くずなどでたき火を行うことや、カセットボンベを用いた小型コンロの確保は比較的容易であり、この貴重な熱源を調理や湯沸かしだけでなく、発電にも利用することができれば、携帯電話の充電や、ラジオ、テレビ等の視聴のための電源として使用することができ、外部との情報交換が可能となり、結果として災害被害の拡大を抑制することにもつながる。
【0004】
このような用途に使用可能な装置として、各種の熱源により加熱されても使用可能な鍋釜などの各種容器と、該容器の着火源に対応する面に絶縁性部材を介して配設された熱電変換素子とを備えた熱電発電装置が知られている(特許文献1)。このような構造の熱電発電装置によれば、各種の熱源を利用して発電が可能となるが、実用性の高い装置とするためには、発電効率や耐久性の更なる向上が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−272584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電源を利用できない各種の状況下において電源供給手段として有効に利用できる機器であって、発電効率が良好で耐久性にも優れ、更に、電源供給手段以外に調理器具としても使用可能な新規な機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、高温において優れた熱電変換性能を有する特定の熱電変換モジュールと、比較的低い温度雰囲気で優れた熱電変換性能を有する特定の熱電変換モジュールとを積層した構造の積層型熱電変換モジュールを、調理器具として使用可能な容器の底面に取り付けた構造の調理器具によれば、各種の熱源を用いて調理を行う際に、積層型熱電変換モジュールの熱源に対向する面が熱源により適度な温度に加熱され、一方、調理用容器に対向する面については、調理器具の底面を介した熱交換によって冷却されて、効率の良い発電が可能となることを見出した。更に、該積層型熱電変換モジュールの各モジュール間に柔軟性を有する伝熱材料を配置することによって、伝熱性能が向上すると共に、変形による破損を防止して耐久性も向上し、良好な熱電発電効率と優れた耐久性を兼ね備えた調理器具が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0008】
即ち、本発明は、以下の発電機能を有する調理器具を提供するものである。
項1. 上部が開口した容器本体と、該容器本体の底部に取り付けられた熱電変換モジュールとを有する発電機能を有する調理器具であって、
該熱電変換モジュールが、金属酸化物を熱電変換材料とするモジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とするモジュールからなる高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とするモジュールからなる低温部用モジュールとを積層した構造の積層型熱電変換モジュールである、発電機能を有する調理器具。
項2. 容器本体の底部に取り付けられた熱電変換モジュールが、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料が配置されたものである、上記項1に記載の発電機能を有する調理器具。
項3. 高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に、更に、金属板が配置されている上記項2に記載の発電機能を有する調理器具。
項4. 容器本体と熱電変換モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料が配置されている、上記項1〜3のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
項5. 更に、電力調整部を有する上記項1〜4のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
項6. 高温部用モジュールと低温部用モジュールが、それぞれ、p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端とを電気的に接続してなる熱電変換素子を複数個用い、該熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の一端を、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部に電気的に接続する方法で複数の熱電変換素子を直列に接続してなる構造のモジュールであり、
(i)高温部用モジュールを構成する熱電変換素子が、
一般式:CaaMbCo4Oc (式中、Mは、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Bi、Yおよびランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、2.2≦a≦3.6;0≦b≦0.8;8≦c≦10である。)で表される複合酸化物からなるp型熱電変換材料と、一般式:Ca1-xM1xMn1-yM2yOz(式中、Mは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Ba、Al、Bi、Y及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、M2 は、Ta、Nb、W及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。また、x、y及びzはそれぞれ次の範囲である: 0≦x≦0.5、0≦y≦0.2、2.7≦z≦3.3)で表される複合酸化物からなるn型熱電変換材料を用いた素子、又は
一般式:Mn1-xMaxSi1.6〜1.8(式中、Maは、Ti、V、Cr、Fe、Ni、Cuからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、0≦x≦0.5である。)で表される合金からなるシリコン系合金からなるp型熱電変換材料と、一般式:Mn3-xMxSiyAlzMa (式中、Mは、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、Mは、B、P、Ga、Ge、Sn、及びBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0≦x≦3.0、3.5≦y≦4.5、2.5≦z≦3.5、0≦a≦1である)で表されるシリコン系合金からなるn型熱電変換材料を用いた素子であり、
(ii)低温部用モジュールを構成する熱電変換素子が、 一般式:Bi2-xSbxTe3(式中、0.5≦x≦1.8である。)で表されるビスマス・テルル系合金をp型熱電変換材料として用い、一般式:Bi2Te3-xSex(式中、0.01≦x≦0.3である。)で表されるビスマス・テルル系合金をn型熱電変換材料として用いた素子である、
上記項1〜5のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
項7. 柔軟性を有する伝熱材料が、1mK/W程度以下の熱抵抗率を有する樹脂製ペースト材料又は樹脂製シート材料である、上記項1〜6のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
項8. 金属板がアルミニウム板である上記項3〜7のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
【0009】
上記した通り、本発明の調理器具は、上部が開口した容器本体と、該容器本体の底部に取り付けられた熱電変換モジュールとを有するものである。以下、本発明の調理器具について具体的に説明する。
【0010】
容器本体
本発明の調理器具では、容器本体としては、上部が開口した容器であって、使用時に、加熱によって変質が生じないものであれば特に限定はなく使用できる。容器の形状については、円筒形、四角筒形など一般的に鍋として使用可能な形状であれば良く、底面と上部口の大きさや形状が異なっても良い。容器の底面は、モジュールを配することが可能な形状であれば良く、曲面でもくぼみがあっても良いが、熱電モジュールとの熱接触を容易にするためには、平滑な平面状であることが好ましい。また、容器本体の上部開口部は、必要に応じて、使用時に蓋をしてもよい。
【0011】
容器本体の材質は、調理器具として使用可能であれば特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス、銅、琺瑯等を例示できる。容器本体の底の厚さは特に限定されないが、熱電モジュールを効率よく冷却するためには薄い方が望ましく、一般には0.1〜3cm、より好ましくは0.5〜1cm程度である。
【0012】
また誘導(IH)加熱が可能な素材を熱電変換モジュールの高温に加熱される面に取り付けて、誘導加熱によって、熱電変換モジュールを加熱することも可能である。この場合には、容器本体としては、電磁誘導によって発熱しない材料からなるものを用いることが必要である。
【0013】
容器本体の大きさについても特に限定はないが、調理器具としての実用性を考慮すれば、例えば、底面寸法は円形の場合直径5cm程度以上、四角形の場合一辺5cm程度以上とすることが好ましい。最大寸法についても特に限定されないが、円形の場合直径50cm程度以下、四角形の場合も一辺50cm程度以下が使用しやすく、各々30cm以下がより使用しやすい。容器の深さについても特に限定はなく、調理が容易な深さであれば良く、一般には5cm〜15cm程度である。
【0014】
容器には、必要に応じて、取っ手等を設けることができる。取っ手の数についても限定はなく、取っ手を一個有する片手鍋としてもよく、取っ手を二個有する両手鍋としてもよい。取っ手の形状についても限定はない。取っ手は容器に固定された据え付け式であってもよく、また、使用時のみ取り付ける着脱式でもよい
取っ手を取り付ける場合には、容器の底部に取り付けた熱電変換モジュールに接続した電線を取っ手を経由して外部に取り出する構造とすることによって、電線を固定することができ、安全に使用することが可能となる。また電線とコネクターを取っ手に取り付け、電気機器をそのコネクターと接続できるようにすれば、調理器具の外部へ電線がでることはなく、より使用しやすくなる。取っ手が着脱式の場合は、容器に取り付けた電線と取っ手に取り付けた電線をコネクター等を用いて接続し、取っ手の電線と電気機器をさらにコネクターで接続することで電気機器を使用することが可能となる。
【0015】
熱電変換モジュール
本発明の調理器具は、上記した容器本体の底部に熱電変換モジュールが取り付けられたものである。図1は、本発明の調理器具の一例を示す概略図である。図1に示す調理器具では、鍋型の容器本体の底部に、固定用部材を用いて熱電変換モジュールが取り付けられている。該調理器具を構成する各要素及び固定方法などの詳細については後述する。
【0016】
本発明では、熱電変換モジュールとして、金属酸化物を熱電変換材料とするモジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とするモジュールからなる高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とするモジュールからなる低温部用モジュールとを積層した構造の積層型熱電変換モジュールを用いる。この様な構造の積層型熱電変換モジュールは、高温域で良好な熱電変換効率を有する金属酸化物又はシリコン系合金を熱電変換材料とする高温部用モジュールと、室温から200℃程度で高い変換効率を有するビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする低温部用モジュールを積層したものであり、たき火、ガス火、太陽集光熱等の400℃以上の高温熱源を利用する場合に、高温部用モジュールが効率良い発電ができる適度な温度に加熱され、また、低温部用モジュールについては、調理器具の容器本体及びその内容物により適度な温度に冷却され、その結果、効率の良い発電が可能となる。更に、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料を配置する場合には、モジュール間に生じる隙間を埋めて伝熱性能を向上させることができ、更に、変形による破損を防止して、耐久性も向上させることができる。このため、上記した構造の積層型熱電変換モジュールを、容器本体の底部に配置することによって、発電効率が良好で、耐久性にも優れた調理器具とすることができる。
【0017】
熱電変換モジュールの形状については、特に限定はないが、容器本体との熱交換を効率良く行うことができるように、容器本体の底部に密着して取り付けることが好ましく、このため、容器底部の形状に対応した形状であることが好ましい。例えば、容器本体の底部が平面状の場合には、平面状のモジュールを用いればよく、容器本体の底部が曲面の場合には、底部の曲面形状に対応する曲面形状のモジュールを用いることが好ましい。
【0018】
以下、積層型熱電変換モジュールの各構成要素について具体的に説明する。
【0019】
(I)高温部用モジュール用熱電変換材料
高温部用モジュールとしては、金属酸化物を熱電変換材とする熱電変換モジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールを用いる。これらの熱電変換材料は、高温において優れた熱電変換性能を有すると共に、安定性の高い材料であり、たき火やガス火、太陽集光熱等の400℃以上の高温の熱源を利用する場合にも、長期間安定に利用できる。以下、金属酸化物からなる熱電変換材料とシリコン系合金からなる熱電変換材料について具体的に説明する。
【0020】
(i)金属酸化物からなる熱電変換材料
高温部用モジュールにおいて熱電変換材料として用いる金属酸化物については特に限定的ではなく、目的とする高温の温度域において、p型熱電変換材料又はn型熱電変換材料として良好な性能を発揮できる金属酸化物であればよい。
【0021】
特に、p型熱電変換材料として、一般式:CaaMbCo4Oc (式中、Mは、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Bi、Yおよびランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、2.2≦a≦3.6;0≦b≦0.8;8≦c≦10である。)で表される複合酸化物を用い、n型熱電変換材料として、一般式:Ca1-xM1xMn1-yM2yOz(式中、Mは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Ba、Al、Bi、Y及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、M2 は、Ta、Nb、W及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。また、x、y及びzはそれぞれ次の範囲である: 0≦x≦0.5、0≦y≦0.2、2.7≦z≦3.3)で表される複合酸化物を用いる場合には、これらの材料を組み合わせて用いる熱電変換素子は、700〜900℃程度という高温の熱源を利用する場合に、効率のよい熱電発電が可能となり、1100℃程度の高温の熱源も使用可能である。
【0022】
これらの熱電変換材料の内で、p型熱電変換材料として用いる一般式:CaaMbCo4Ocで表される複合酸化物は、Ca、M、Co及びOにより構成される(Ca,M)CoOという組成比の岩塩型構造を有する層と、六つのOが一つのCoに八面体配位し、その八面体がお互いに辺を共有するように二次元的に配列したCoO2層が交互に積層した構造を有するものであり、p型熱電変換材料として高いゼーベック係数を有し、且つ電気伝導性も良好である。
【0023】
n型熱電変換材料として用いる一般式:Ca1-xM1xMn1-yM2yOz(式中、Mは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Ba、Al、Bi、Y及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、M2 は、Ta、Nb、W及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。また、x、y及びzはそれぞれ次の範囲である: 0≦x≦0.5、0≦y≦0.2、2.7≦z≦3.3)で表される複合酸化物は、優れたn型熱電特性を有し、耐久性に優れた熱電変換材料である。特に、該焼結体を構成する結晶粒子の50%以上が1μm未満の粒径を有するものが好ましい。この様な焼結体は、100℃以上の温度で負のゼーベック係数を有し、且つ100℃以上の温度で50mΩcm以下という電気抵抗率を有するものであり、n型熱電変換材料として優れた熱電変換性能を発揮でき、高い破壊強度を有するものである。
【0024】
(ii)シリコン系合金からなる熱電変換材料
シリコン系合金からなる熱電変換材料では、p型熱電変換材料としては、一般式:Mn1-xMaxSi1.6〜1.8(式中、Maは、Ti、V、Cr、Fe、Ni、Cuからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、0≦x≦0.5である。)で表されるシリコン系合金を用い、n型熱電変換材料としては、一般式:Mn3-xMxSiyAlzMa (式中、Mは、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、Mは、B、P、Ga、Ge、Sn、及びBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0≦x≦3.0、3.5≦y≦4.5、2.5≦z≦3.5、0≦a≦1である)で表されるシリコン系合金を用いることが好ましい。これらのシリコン系合金を組み合わせて用いる熱電変換素子は、特に、熱源の温度が300〜600℃程度の場合に、高い熱電変換効率を発揮できる。
【0025】
これらの材料の内で、p型熱電変換材料として用いる一般式:Mn1-xMaxSi1.6〜1.8(式中、Maは、Ti、V、Cr、Fe、Ni、Cuからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、0≦x≦0.5である。)で表される合金は、公知の材料である。
【0026】
n型熱電変換材料として用いる一般式:Mn3-xMxSiyAlzMa (式中、Mは、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、Mは、B、P、Ga、Ge、Sn、及びBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0≦x≦3.0、3.5≦y≦4.5、2.5≦z≦3.5、0≦a≦1である)で表される合金は、n型熱電変換材料として新規な金属材料であり、25℃〜700℃の温度範囲において負のゼーベック係数を有し、600℃以下の温度範囲、特に300℃〜500℃程度の温度範囲において、負の大きいゼーベック係数を有するものである。また、該金属材料は、25℃〜700℃の温度範囲において1mΩ・cm以下という非常に低い電気抵抗率を有するものである。従って、該金属材料は、上記温度範囲においてn型熱電変換材料として優れた熱電変換性能を発揮できる。更に、該金属材料は、耐熱性、耐酸化性等が良好であり、例えば、25℃〜700℃程度の温度範囲で長期間使用した場合であっても、熱電変換性能の劣化は殆ど生じない。
【0027】
上記合金の製造方法について特に限定は無いが、例えば、先ず、目的とする合金の元素比と同一の元素比となるように原料を配合し、これを高温の下で熔融した後、冷却する。原料としては、金属単体の他、複数の成分元素より構成される金属間化合物や固溶体、更にはその複合体(合金等)を使用できる。原料の熔融方法についても特に限定は無いが、例えば、アーク熔解などの方法を適用して、原料相や生成相の融点を上回る温度まで加熱すればよい。熔融時の雰囲気については、原料の酸化を避けるために、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス雰囲気、あるいは減圧雰囲気などの非酸化性雰囲気とすることが好ましい。上記した方法で形成される金属の熔融体を冷却することによって、上記した組成式で表される合金を得ることができる。また、必要に応じて、得られた合金に対して熱処理を施すことによって、より均質な合金とすることができ、熱電変換材料としての性能を向上させることができる。この際の熱処理条件については特に限定はなく、含まれる金属元素の種類、量などによって異なるが、例えば、1450〜1900℃程度の温度で熱処理することが好ましい。この際の雰囲気については、金属材料の酸化を避けるために、熔融時と同様に非酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0028】
(II)低温部用モジュール用熱電変換材料
低温雰囲気に接触する熱電変換モジュールでは、熱電変換材料として、ビスマス・テルル系合金を用いる。具体的には、p型熱電変換材料として一般式:Bi2-xSbxTe3(式中、0.5≦x≦1.8である。)で表されるビスマス・テルル系合金を用い、n型熱電変換材料として、一般式:Bi2Te3-xSex(式中、0.01≦x≦0.3である。)で表されるビスマス・テルル系合金を用いる。これらのビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換素子は、高温部分は最高で200℃程度まで加熱でき、低温部分の温度が20〜100℃程度において、良好な熱電変換性能を発揮できる。
【0029】
(III)熱電変換モジュールの構造
積層型熱電変換モジュールを構成する高温部用モジュールと低温部用モジュールの構造については特に限定的ではなく、それぞれのモジュールとして、p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端とを電気的に接続してなる熱電変換素子を複数個用い、このような熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の一端を、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部に電気的に接続する方法で複数の熱電変換素子を直列に接続してなる構造のモジュールを用いることができる。以下、該熱電変換モジュールについて具体的に説明する。
【0030】
(i)熱電変換素子
熱電変換モジュールの構成要素となる各熱電変換素子は、上記したp型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端とを電気的に接続したものである。
【0031】
使用するp型熱電変換材料及びn型熱電変換材料の形状、大きさ等については、特に限定されるものではなく、目的とする熱電発電モジュールの発電性能、大きさ、形状等に応じて、必要な熱電性能を発揮できるように適宜決めればよい。
【0032】
p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端を電気的に接続するための具体的な方法については特に限定はないが、接合した際に良好な熱起電力を得ることができ、且つ電気抵抗が低いことが好ましい。具体的な接続方法としては、例えば、接合剤を用いてp型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端を導電性材料(電極)に接着する方法、p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端を直接又は導電性材料を介して圧着又は焼結させる方法、導体材料を用いてp型熱電変換材料とn型熱電変換材料を電気的に接触させる方法等を例示できる。図2は、p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端を導電性材料(電極)に接着して得られた熱変換素子の一例を模式的に示す図面である。
【0033】
(ii)熱電変換モジュール
積層型熱電変換モジュールで用いる高温部用モジュールと低温部用モジュールは、それぞれ上記した熱電変換素子を複数個用い、該熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の端部を、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部に電気的に接続する方法で複数の熱電変換素子を直列に接続したものである。
【0034】
通常は、接合剤を用いて熱電変換素子の未接合の端部を絶縁性を有する基板上に接着する方法で、p型熱電変換材料の端部と、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の端部とを基板上において電気的に接続すればよい。
【0035】
モジュールの具体的な形状については、特に限定的ではないが、モジュールを取り付ける容器本体の底部が平面の場合には、積層型のモジュールを構成する各モジュールは、全体として平板状であることが好ましい。また、効率のよい発電を可能とするためには熱電変換材料を接合した基板面の面積が大きいことが好ましく、製造の簡便さを考慮すれば正方形あるいは長方形の平面形状が好ましい。またモジュールの寸法についても特に限定されないが、低温部用モジュールは効率的な冷却を維持するため接触する容器底面からはみ出さないことが好ましい。
【0036】
各モジュールの寸法についても特に限定されないが、熱応力などによる変形、破損を考慮し、受熱面の縦横の長さは100mm以下が好ましく、65mm以下がより好ましく、熱源や冷却部の温度条件などにより発電能力を最適にする寸法を決定すればよい。厚さに関しても特に限定されないが、高温側の熱源温度に合わせ、最適な厚さを選べばよい。熱源温度が1100℃程度までの場合、一般には3mm〜20mmが適当である。
【0037】
図3に、接合剤を用いて基板上に複数の熱電変換素子を接続した構造の熱電変換モジュールの概略図を示す。
【0038】
図3の熱電発電モジュールは、熱電変換素子として、図2に記載した構造の素子を用い、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料の未接合の端部が基板に接するようにして素子を配置し、接合剤を用いて、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料が直列に接続されるように、該基板上に熱電変換材素子を接着して得られたものである。
【0039】
基板は、主として、均熱性や機械強度の向上、電気的絶縁性の保持等の目的で用いられるものである。基板の材質は特に限定されないが、高温熱源の温度において、溶融、破損等を生じることが無く、化学的に安定であり、しかも熱電変換材料、接合剤等と反応しない絶縁体であって熱伝導性がよい材料を用いることが好ましい。熱伝導性が高い基板を用いることによって、素子の高温部分の温度を高温熱源の温度に近づけることができ、発生電圧値を高くすることが可能となる。また、本発明で用いる熱電変換材料が酸化物である場合には、熱膨張率などを考慮すると、基板材料としては、アルミナ等の酸化物セラミックスを用いることが好ましい。
【0040】
熱電変換素子を基板に接着する場合には、低抵抗で接続可能な接合剤を用いることが好ましい。例えば、銀、金、白金等の貴金属ペースト、はんだ、白金線等を好適に用いることができる。
【0041】
一つのモジュールに用いる熱電変換素子の数は限定されず、必要とする電力により任意に選択することができる。
【0042】
基板上に接合した各熱電変換素子の基板との接合部分と反対面については、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料の接続部分(電極)が露出した状態であってもよく、或いは、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料の接続部分上に、絶縁性を有する基板が配置されていてもよい。この場合、絶縁性を有する基板を配置することによって、各モジュールの強度を維持することができ、また、他のモジュールや部材と接触する際の熱接触も良好となる。基板については、熱抵抗をできるだけ小さくするために、上記した目的の範囲内においてできるだけ薄いことが好ましい。
【0043】
(iii)積層型熱電変換モジュール
本発明の積層型熱電変換モジュールは、上記した高温部用モジュールと低温部用モジュールを積層した構造を有するものである。
【0044】
また、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に柔軟性を有する伝熱材料を配置する場合には、例えば、高温部用モジュールの基板面と低温部用モジュールの基板面が重なるように積層し、これらの基板間に柔軟性伝熱材料を設置すればよい。また、高温部用モジュールと低温部用モジュールの少なくとも一方に基板を設けていない面が存在する場合には、基板を設けていない面、即ち、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料の接続部分(電極)が露出している面を、他方のモジュールと接触させた状態として積層してもよい。この場合には、互いのモジュール同士が接触する範囲に柔軟性伝熱材料を設置すればよく、これにより、モジュール同士の電気的な絶縁も確保できる。
【0045】
柔軟性を有する伝熱材料としては、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に生じる隙間を埋めることができる柔軟性を有し、且つ、空気より低い熱抵抗率を有する材料を用いればよい。この様な伝熱材料を高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に設置する場合には、高温部用モジュールと低温部用モジュールの間に生じる隙間を埋めることができ、高温部用モジュールから低温部用モジュールへの熱伝達性能を改善して、熱電変換効率を向上させることができる。更に、熱電発電の際に生じる熱変形にも追随でき、熱変形によるモジュールの破損も防止することができる。
【0046】
柔軟性を有する伝熱材料としては、具体的には、ペースト状、シート状などの形態の材料であって、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に生じる隙間を埋めることが可能な柔軟性を有する材料を用いればよい。伝熱性能としては、空気の熱抵抗率である40mK(メートルケルビン)/Wを下回る熱抵抗率であることが必要であり、特に、熱電発電を効率よく行うためには、通常、二種類のモジュールの熱抵抗率の和として考えられる1mK/W程度以下の熱抵抗率であることが好ましく、特に、0.6mK/W程度以下の熱抵抗率であることが好ましい。
【0047】
これらの柔軟性を有する伝熱材料としては、樹脂製ペースト材料や樹脂製シート材料を用いることができる。ペースト状の材料については、モジュールや冷却部材表面に塗布することで、微細な空孔等を埋めることができ、伝熱性能を向上させることができるので、特に、高温部用モジュールと低温部用モジュールの接合面に空孔や変形部分が存在する場合に適するものである。また、シート状の伝熱材料は、熱変形にも追随し易く、発電時に生じる隙間を埋め、変形による破損を防ぐことができるので、特に、使用時に変形が生じ易いモジュールへの使用に適するものである。
【0048】
この様な柔軟性を有する伝熱材料の内で、例えば、ペースト状の伝熱材料については、具体的に使用する積層型熱電変換モジュールの使用環境を考慮して、基材成分として、該伝熱材料を配置する部分の使用時の温度に対して十分な耐熱性を有する液状の樹脂成分、例えば、シリコーンオイル、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等を用い、これにアルミナ、ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素等の無機粉末をフィラーとして混合して伝熱性を向上させたペースト状の材料を例示できる。この様なペースト状伝熱材料におけるフィラーの添加量については特に限定的ではないが、十分な伝熱性能を発揮するためには、例えば、該ペースト状伝熱材料から形成される皮膜の熱抵抗率が1mK/W程度以下となる量とすればよい。また、該ペースト状伝熱材料は、高温部用モジュールと低温部用モジュールの接合面の微細な空孔や凹凸を埋めるためには、適度な硬度と柔軟性を有することが重要であり、JIS K 2220に規定されるグリースのちょう度測定法に従って測定したちょう度に基づくちょう度番号が0〜4号程度であることが好ましく、0〜2号程度であることがより好ましく、1号であることが更に好ましい。尚、ちょう度番号1号は、ちょう度310〜340の範囲に相当するものである。この様なペースト状伝熱材料の具体例としては、シリコーンオイルにアルミナなどフィラーを混合した市販のシリコーンペースト材料(商品名:放熱性コンパウンドSH340など(東レダウコーニング社))等を挙げることができる。
【0049】
樹脂製のシート状伝熱材料としても、積層型熱電変換モジュールの使用環境を考慮して、バインダー成分として該伝熱材料を配置する部分の使用時の温度に対して十分な耐熱性を有する樹脂、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等を用い、これに伝熱性を有するフィラーとして、アルミナ、ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素等の無機粉末を配合したシート状の材料を用いることができる。この場合の無機粉末の配合量についても、上記したペースト状材料の場合と同様に、十分な伝熱性能を付与するために、例えば、熱抵抗率が1mK/W程度以下となる量とすることが好ましい。該シート状材料は、高温部用モジュールと低温部用モジュールの接合面の隙間を緻密に埋めることができ、更に、積層型熱電変換モジュールの熱変形などの各種の変形に追随できるためには、適度な軟らかさと弾性の両方の特性を兼ね備える必要があり、軟らかさを示す針入度(JIS K2207)が30〜100程度であることが好ましく、40〜90程度であることがより好ましい。また、弾性を示す圧縮永久歪率(JIS K 6249に準じた方法で測定)については、30〜80%程度であることが好ましく、45〜70%程度であることがより好ましい。この様な樹脂製シート状材料としては、シリコーンを主原料とし、伝熱性フィラーを加えた市販のシート材料(商品名:ラムダゲルCOH4000など(株式会社タイカ))等を例示できる。
【0050】
柔軟性を有する伝熱材料から形成される層の厚さについては、特に限定的ではなく、モジュール間に生じる隙間を埋めることができる厚さであればよいが、通常、0.5〜2mm程度とすればよい。
【0051】
尚、二種類のモジュールの接触面のサイズが異なる場合、大きい方のモジュールの素子の一部は宙に浮いた状態になり、同一モジュール内に温度ムラを発生する原因となって、発電効率が低下する。この問題を解消するためにモジュールの全面を覆うことができる金属板、例えば、アルミニウム板、銅板、ステンレス板等を伝熱材料と共にモジュール間に挿入することが好ましい。これにより温度ムラを解消して、発電効率を向上させることができる。
【0052】
金属板を設置する位置は、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間であればよく、高温部用モジュールと接する部分、低温部用モジュールと接する部分等任意の位置とすることができる。また、金属板を柔軟性を有する伝熱材料で挟み込んで、モジュール間に設置することによって、金属板とモジュール間に生じる隙間を埋める構造としてもよい。図4は、柔軟性を有する伝熱材料を用いた積層型熱電変換モジュールの概略の構成図である。図4において、(a)は、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に、柔軟性伝熱材料を配置したモジュール、(b)及び(c)は、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に、柔軟性伝熱材料と金属板を配置したモジュール、(d)は、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に、柔軟性伝熱材料、金属板及び柔軟性伝熱材料の積層体を配置したモジュールを示す図面である
金属板(アルミニウム板)の厚さについては、薄すぎると反りが生じ、厚すぎると熱伝達率が低減する。積層体構造によって異なるが、通常、0.5〜2mm程度が最も好ましい。
【0053】
調理器具の構造
本発明の調理器具は、上記した容器本体の底部に熱電変換モジュールが取り付けられたものである。
【0054】
熱電変換モジュールを取り付ける方法については特に限定はないが、容器本体の底部と熱電変換モジュールとの間で効率よく熱交換ができるように、熱電変換モジュールの片面が容器本体の底部にできるだけ密着するように取り付けることが好ましい。
【0055】
熱電変換モジュールの取り付け方法は、固定式又は着脱式のいずれであってもよい。容器本体の底面の大きさ、必要な電力に応じて、複数の積層型熱電変換モジュールを用いることもできる。
【0056】
具体的な取り付け方法の一例を図5に示す。図5は、容器本体の底部を二重底として、この部分に熱電変換モジュールを固定した構造の調理器具を示す概略図である。二重底の構造については限定はなく、高温側モジュールの高温側面が露出するよう窓が開いた形状であってもよく、二重底で高温側面全体を覆う形状でも良い。熱電変換モジュールは二重底の内部に収容すればよい。
【0057】
図6は、固定板を用いて容器本体の底面に熱電変換モジュールを固定した調理器具を示す概略図である。固定板の形状は特に限定されず、四角板状、四角柱、円筒状、半円筒状など、容器底部の形状と熱電変換モジュールの形状に応じて適宜決めればよい。固定板を配置する位置についても特に限定はなく、熱電変換モジュールの形状に応じて、容器の底部に安定に固定できるように配置すればよい。例えば、モジュールの高温側の基板上から固定しても良く、低温側の基板を固定しても良い。固定板を固定する方法についても特に限定はなく、例えば、ねじ留め、溶接等の方法を採用できる。
【0058】
図7は、容器本体の底部に熱電変換モジュールを直接ネジ止めした調理器具を示す概略図である。ねじ留めをする場合には、例えば、モジュールの高温側基板、低温側基板、又はその両方に孔を開け、容器底面にねじ穴を設け、ねじによりモジュールを固定すればよい。ねじの寸法や材質は限定されないが、加熱により容易に破損ぜず、熱膨張による固定のゆるみが生じないことが好ましい。そのためねじ部の直径は0.1〜1cm程度が好ましく、できるだけ多くの積層型モジュールを搭載するためには0.3〜0.8cm程度のねじを用いればよい。
【0059】
図8は、容器本体の底面にレールを設け、そこにスライド方式で熱電変換モジュールを取り付けた調理器具を示す概略図である。レールの設置方法については特に限定的ではなく、使用する熱電変換モジュールの基板形状に合わせて、熱電変換モジュールが挿入可能となるように設置すればよく、低温側モジュールの基板をレールに挿入しても良いし、積層型モジュール全体をレールに挿入してもよい。レールの幅などはモジュールを固定する方法に応じて適宜決めればよい。レールの材質については、耐熱性や熱膨張などを考慮して選択すればよく、ステンレスが望ましいが、鉄、アルミニウム、銅、真鍮などを使用することも可能である。レールの容器底面への固定はねじ留めや溶接を行えばよい。
【0060】
図9は、容器本体の底部を二重底として、この部分に熱電変換モジュールを配置し、更に、固定板で固定した構造の調理器具を示す概略図である。この方法は、上記した容器底部を二重底にする方法と、固定板で固定する方法を組み合わせたものであり、熱電変換モジュールを安定性よく固定することが可能となる。
【0061】
図10は、容器本体の底部に、固定用部材を用いて熱電変換モジュールを取り付けた構造の調理器具において、容器本体底部と積層型熱電変換モジュールの低温部用モジュールとの間に柔軟性を有する伝熱材料を配置した構造の調理器具の概略図である。この調理器具では、低温部用モジュールと容器本体底部との間に伝熱材料を配置することによって、この間に生じる隙間を埋めることができ、低温部用モジュールから容器本体への熱伝達性能が改善され、低温部用モジュールと高温部用モジュール間に大きな温度差がついて、熱電変換効率を向上させることができる。更に、熱電発電の際に生じる熱変形にも追随でき、熱変形によるモジュールの破損も防止することができる。
【0062】
柔軟性を有する伝熱部材としては、上記した高温部用モジュールの基板面と低温部用モジュールとの間に配置する柔軟性を有する伝熱部材と同様の材料を用いることができる。
【0063】
電力調整部
本発明の調理器具には、更に、電力調整部を設置することができる。電力調整部を設置することによって、熱電変換モジュールによって得られる直流電流を、使用する機器に適合した電力に変換することができる。
【0064】
電力調整部の構造、仕様等は特に限定されず、公知の電気回路により構成することができる。電力調整部は、例えば、取っ手の部分に設置することによって、調理器具と一体化して使用し易くなる。一般には直流で使用する機器の電圧は1.5〜48V程度であり、熱電モジュールの発電性能、接続する電気機器の仕様等により適当な電力調整部を接続すれば良い。例えば、携帯電話やLED電灯、小型ラジオは、USBコネクターによる接続が可能であり、その出力は5V、0.5A程度である。
【0065】
温度警告部
低温側モジュールとして、ビスマス・テルルを熱電変換材料とするモジュールを用いる場合には、その耐久性を考慮すると、高温側面の温度を220℃以下に保つことが好ましい。このため、必要に応じて、低温側モジュールの高温側面の温度を計測して、過昇温の場合に警告を発する温度警告部を設けることができる。温度警告部の構造については特に限定はないが、例えば、温度計測センサーとしてサーミスターや熱電対を用い、一定の温度や起電力になるとLEDによる警告灯や電子ブザーで過昇温を知らせる構造の温度警告部を利用できる。
【0066】
また、熱電変換モジュールの起電力は温度差が大きくなることで増加し、高温側の温度が高くなるほど、電圧も増加する。このため、低温側モジュールの起電力が予め設定した過昇温時の規定値を超過した場合に、警報を出す仕組みの温度警告部を設けてもよい。
【0067】
発電方法
上記した構造を有する本発明の調理機器は、通常、容器本体の内部に調理すべき食材や水などを入れ、容器本体の底部から加熱することによって、高温部用モジュール一方の面が加熱されて高温部となり、一方、容器本体の底部側に設置された低温部用モジュールの一方の面が容器本体及びその内容物との熱交換によって冷却されて低温部となり、この際に生じる温度差によって電力を得ることができる。
【0068】
加熱方法は任意であり、通常の調理に利用可能な各種の熱源を利用できる。例えば、木、木炭、石炭、がれき、紙などの燃焼や天然ガス、プロパンガス、灯油、固形燃料に用いられているアルコール類など燃料の燃焼、太陽集光熱、誘導加熱等を熱源として利用できる。
【発明の効果】
【0069】
本発明の調理器具によれば、調理と同時に発電を行うことができる。このため、本発明の調理器具を用いることによって、被災地などの他、キャンプなどのアウトドア活動時や電力供給の設備が整っていない僻地等において、がれきや紙くずなどを用いたたき火やカセットボンベを用いた小型コンロ等の各種の熱源を利用して調理を行う際に、調理と同時に電力を供給することができる。この様にして発生させた電力を用いて、例えば、携帯電話やラジオを充電することによって、情報の送信及び受信出段として利用することが可能となり、更に、LED照明などの照明装置の電源としても利用することができる。
【0070】
特に、熱電変換モジュールとして、金属酸化物又はシリコン系合金を熱電変換材料とする高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする低温部用モジュールを積層した構造であって、該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間、又は、容器本体と低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料が配置され構造の積層型熱電変換モジュールを用いる場合には、各種の熱源を利用して効率の良い発電が可能となると共に、耐久性に優れた発電機能を有する調理器具とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の調理器具の一例を示す概略図。
【図2】熱電変換素子の一例を模式的に示す図面。
【図3】、接合剤を用いて基板上に複数の熱電変換素子を接続した構造の熱電変換モジュールの概略図。
【図4】柔軟性を有する伝熱材料を用いた積層型熱電変換モジュールの概略の構成図。
【図5】二重底を有する容器本体の底部に熱電変換モジュールを固定した構造の調理器具を示す概略図。
【図6】固定板を用いて容器本体の底面に熱電変換モジュールを固定した調理器具を示す概略図で
【図7】容器本体の底部に熱電変換モジュールを直接ネジ止めした調理器具を示す概略図。
【図8】容器本体の底面にレールを設け、スライド方式で熱電変換モジュールを取り付けた調理器具を示す概略図。
【図9】容器本体の底部を二重底として、この部分に熱電変換モジュールを配置し、更に、固定板で固定した構造の調理器具を示す概略図。
【図10】容器本体底部と積層型熱電変換モジュールの低温部用モジュールとの間に柔軟性を有する伝熱材料を配置した構造の調理器具の概略図。
【図11】実施例1で用いた高温部用モジュールの概略の構成図。
【図12】実施例1で用いた低温部用モジュールの概略の構成図。
【図13】実施例1で用いた積層型熱電変換モジュールの電気配線の状態を示す概略図。
【図14】実施例1で作製した発電機能を有する調理器具(片手鍋)の概略図。
【図15】実施例11〜14で用いた高温部用モジュールの概略の構成図。
【図16】参考例1〜3で得られた金属材料の焼結成型体について、空気中、25〜700℃におけるゼーベック係数の温度依存性を示すグラフ。
【図17】参考例1〜3で得られた金属材料の焼結成型体について、空気中、25〜700℃における電気抵抗率の温度依存性を示すグラフ。
【図18】参考例1で得られた金属材料の焼結成型体について、空気中、25〜700℃における熱伝導度の温度依存性を示すグラフ。
【図19】参考例1で得られた金属材料の焼結成型体について、空気中、25〜700℃における無次元性能指数(ZT)の温度依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0073】
実施例1
(1)高温部用モジュールの作製
断面7.0×3.5mm、高さ7mmの角柱状のCa2.7Bi0.3Co4O9焼結体からなるp型熱電変換材料と、断面7.0mm×3.5mm、高さ7mmの角柱状のCaMn0.98Mo0.02O3焼結体からなるn型熱電変換材料を、7.1×7.1mm、厚さ0.1mmの銀板(電極)に接続して一対のp型熱電変換材料とn型熱電変換材料からなる熱電変換素子を製造した。
【0074】
一方、大きさ64.5mm×64.5mm、厚さ0.85mmのアルミナ板を基板として用い、上記した熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の端部と、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部とが電気的に接続されるように、熱電変換素子を基板上に接合して直列に接続した。熱電変換素子は合計64対用い、この内32対ずつの熱電変換素子をそれぞれ別個に直列に接続して、2系列のモジュールとした。接合剤としては、銀ペーストを用いた。これを高温部用モジュールとした。この方法で得られた高温部用モジュールの概略図を図11に示す。
【0075】
(2)低温部用モジュールの作製
断面直径1.8mm、長さ1.6mmの円柱状のBi0.5Sb1.5Te3で表されるビスマス・テルル合金からなるp型熱電変換材料と、断面直径1.8mm、長さ1.6mmの円柱状のBi2Te2.85Se0.15で表されるビスマス・テルル合金からなるn型熱電変換材料とを、62×62mm、厚さ0.2mmの銅板にはんだで接続して一対のp型熱電変換材料とn型熱電変換材料からなる熱電変換素子を製造した。
【0076】
一方、大きさ62mm×62mm、厚さ1mmの絶縁被覆を施したアルミニウム板を基板として用い、上記した熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の端部と、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部とが電気的に接続されるように、熱電変換素子を基板上に接合して、311対の熱電変換素子が直列に接続された熱電変換モジュールを得た。接合剤としては、銀ペーストを用いた。また、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料を接合した電極面上には、大きさ62mm×62mm、厚さ0.5mmの絶縁被覆を施した銅基板を配置した。これを低温部用モジュールとした。図12に、この方法で得られた低温部用モジュールの概略図を示す。
【0077】
(3)積層型熱電変換モジュールの作製
上記した高温部用モジュールの銀電極面と、低温部用モジュールのアルミニウム基板面を、シリコーンを主原料とし伝熱性フィラーを加えた伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000、針入度:40〜90、圧縮永久歪率:49〜69%、熱抵抗率:0.15mK/W)(株式会社タイカ)(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ2mm)を介して重ねて、積層型熱電変換モジュールを作製した。
【0078】
図13は、この積層型熱電変換モジュールの電気配線の状態を示す概略図である。高温部用モジュール(酸化物モジュール)については、2系列を並列に接続し、これとビスマス・テルルモジュールを直列に接続した。
【0079】
(4)調理器具の作製
上記の方法で作製した積層型熱電変換モジュールの低温用モジュールの銅基板面に、シリコーンを主原料とし伝熱性フィラーを加えた伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000、針入度:40〜90、圧縮永久歪率:49〜69%、熱抵抗率:0.15mK/W)(株式会社タイカ)(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ1mm)を載せ、さらにその上に底面の直径が14cmで、深さが約8.5cmの上部が開口したステンレス製容器(片手鍋)を載せた。この容器の底面の外部には、径が6mm(M6)、深さ10mmの4個のナットを、一辺が60.8mmの四角形の頂点にくるようねじ受けとして溶接し、積層型熱電変換モジュールをナットが形成する四角形内に収まるように配置した。
【0080】
上記容器の底面には、積層型熱電変換モジュールを覆うように、厚さ0.3mmで中央部分に6.0x6.0cmの窓が開いた鉄製の二重底を設置した。このとき二重底の窓から高温側モジュールのアルミナ基板が覗くように配置した。この二重底を、厚さ4.5mmの鉄製の十字型固定板を用いてねじで留めた。このときねじの締め付け力を約3Nmとした。
【0081】
積層型熱電変換モジュールからの電線は、容器側面、取っ手裏側を通って、取っ手先端に固定したコネクターとつないだ。この方法で得られた発電機能を有する調理器具(片手鍋)の概略図を図14に示す。
【0082】
(5)発電
上記した方法で作製した調理器具について、容器には50cm程度の水を入れ、底面に取り付けた積層型熱電変換モジュールの高温部用モジュールのアルミナ基板面を電気ヒータにより500〜550℃に加熱し、水が沸騰した状態で熱電発電を行った。
【0083】
この積層熱電変換モジュールの高温部用モジュールと低温部用モジュールを直列で接続し、電子負荷装置を用いて外部抵抗を変化させながら、上記方法で発生した出力を測定した。最高の出力値を下記表1に示す。
【0084】
実施例2
実施例1で作製した高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、伝熱シートを介することなく高温部用モジュールと低温部用モジュールを直接重ねて積層型熱電変換モジュールを作製した。このモジュールの低温部用モジュールの銅基板面に、シリコーンを主原料とし伝熱性フィラーを加えた伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000)(株式会社タイカ)(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ1mm)を載せ、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に実施例1と同じ方法で固定した。得られた調理器具の概略の構造は、図10に示す調理器具と同様である。実施例1と同様にして測定した最高出力値を下記表1に示す。
【0085】
実施例3
実施例1で作製した高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、高温部用モジュールの銀電極面と、低温部用モジュールのアルミニウム基板面を、シリコーンを主原料とし、伝熱性フィラーを加えた伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000)(株式会社タイカ)(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ0.5mm)を介して重ね、更に、低温部用モジュールの銅基板面に、上記伝熱シートと同じ伝熱シートを載せ、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に、実施例1と同じ方法で固定した。実施例1と同様にして測定した最高出力値を下記表1に示す。
【0086】
実施例4
実施例1で作製した高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、低温部用モジュールのアルミニウム基板面に、シリコーンオイルにアルミナを混合した市販のシリコーンペースト(商品名:放熱性コンパウンドSH340(東レダウコーニング社)、ちょう度328〜346(ちょう度番号1号)、熱抵抗率:約1mK/W)を厚さ0.5mmとなるように塗布し、これに高温部用モジュールの銀電極面を重ねて積層型熱電変換モジュールを作製した。更に、低温部用モジュールの銅基板面に、上記シリコーンペーストと同じシリコーンペーストを厚さが0.5mmとなるように塗布し、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に、実施例1と同じ方法で固定した。実施例1と同様にして測定した最高出力値を下記表1に示す。
【0087】
実施例5
実施例1で作製した高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、低温部用モジュールと高温用モジュールの間に伝熱材料を配置することなく、両モジュールを直接接触させて、その他は実施例1と同様にして積層型熱電変換モジュールを作製した。この積層型熱電変換モジュールを用い、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に、伝熱シートを用いることなく、実施例1と同じ方法で固定した。実施例1と同様にして測定した最高出力値を下記表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
実施例6
断面7.0×3.5mm、高さ10mmの角柱状のMnSi1.7で表されるシリコン系合金からなるp型熱電変換材料と、断面7.0mm×3.5mm、高さ10mmの角柱状のMn3Si4Al3で表されるシリコン系合金からなるn型熱電変換材料を用いること以外は、実施例1の高温部用モジュールの作製方法と同様にして高温部用モジュールを作製した。
【0090】
高温部用モジュールとして上記したモジュールを用い、低温部用モジュールとして実施例1で作製したモジュールと同一のモジュールを用いて、実施例1と同様にして、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間にシリコーンを主原料とし伝熱性フィラーを加えた伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000)(株式会社タイカ)(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ2mm)を配置した積層型熱電変換モジュールを作製した。この積層型熱電変換モジュールを用い、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に、伝熱シートを用いることなく、実施例1と同じ方法で固定した。
【0091】
高温部用モジュールと低温部用モジュールを直列で接続し、電子負荷装置を用いて外部抵抗を変化させながら、実施例1に示した方法で発生した出力を測定した。最高の出力値を下記表2に示す。
【0092】
実施例7
実施例6と同じ高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、伝熱シートを介することなく、高温部用モジュールの銀電極面と低温部用モジュールのアルミニウム基板面を直接重ねて積層型熱電変換モジュールを作製した。このモジュールの低温部用モジュールの銅基板面に、シリコーンを主原料とし、伝熱性フィラーを加えた厚さ1mmの伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000)(株式会社タイカ)を介して、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に実施例1と同じ方法で固定した。実施例6と同様にして測定した最高出力値を下記表2に示す。
【0093】
実施例8
実施例6と同じ高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、高温部用モジュールの銀電極面と、低温部用モジュールのアルミニウム基板面を、シリコーンを主原料とし、伝熱性フィラーを加えた伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000)(株式会社タイカ)(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ0.5mm)を介して重ね、更に、低温部用モジュールの銅基板面に、上記伝熱シートと同じ伝熱シート(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ0.5mm)を載せ、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に実施例1と同じ方法で固定した。この際の積層型熱電変換モジュールの概略の構造を図 に示す。実施例6と同様にして測定した最高出力値を下記表2に示す。
【0094】
実施例9
実施例6と同じ高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、低温部用モジュールのアルミニウム基板面に、シリコーンオイルにアルミナを混合した市販のシリコーンペースト(商品名:放熱性コンパウンドSH340(東レダウコーニング社))を厚さ0.5mmとなるように塗布し、これに高温部用モジュールの銀電極面を重ねて積層型熱電変換モジュールを作製した。更に、低温部用モジュールの銅基板面に、上記と同じシリコーンペーストを厚さ0.5mmとなるように塗布し、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に、伝熱シートを用いることなく、実施例1と同じ方法で固定した。実施例6と同様にして測定した最高出力値を下記表2に示す。
【0095】
実施例10
実施例6と同じ高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、低温部用モジュールと高温用モジュールの間に伝熱材料を配置することなく直接接触させ、その他は実施例1と同様にして積層型熱電変換モジュールを作製した。この積層型熱電変換モジュールを用い、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に、伝熱シートを用いることなく、実施例1と同じ方法で固定した。実施例6と同様にして測定した最高出力値を下記表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
実施例11
断面7.0×3.5mm、高さ13mmの角柱状のCa2.7Bi0.3Co4O9焼結体からなるp型熱電変換材料と、断面7.0mm×3.5mm、高さ13mmの角柱状のCaMn0.98Mo0.02O3焼結体からなるn型熱電変換材料を、大きさ7.1mm×7.1mm、厚さ0.1mmの銀板(電極)に接続して一対のp型熱電変換材料とn型熱電変換材料からなる熱電変換素子を製造した。
【0098】
一方、大きさ34mm×34mm、厚さ0.85mmのアルミナ板を基板として用い、上記した熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の端部と、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部とが接続されるように、熱電変換素子を基板上に接合して、16対の熱電変換素子が直列に接続された熱電発電モジュールを得た。接合剤としては、銀ペーストを用いた。これを高温部用モジュールとした。図15に、この方法で得られた高温部用モジュールの概略図を示す。
【0099】
低温部用モジュールとして実施例1で作製した低温部用モジュールと同じ構造のモジュールを用い、上記した高温部用モジュールのアルミニウム基板面を、シリコーンを主原料とし、伝熱性フィラーを加えた伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000)(株式会社タイカ)(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ1mm)を介して、低温部用モジュールのアルミニウム基板面に重ねて積層型熱電変換モジュールを作製した。更に、このモジュールの低温部用モジュールの銅基板面に、上記伝熱シートと同じ伝熱シートを介して、実施例1と同じステンレス製容器(片手鍋)に実施例1と同様の方法で固定した。但し、容器の底面には、積層型熱電変換モジュールを覆うように、厚さ0.3mmで中央部分に2.8x2.8cmの窓が開いた鉄製の二重底を設置した。このとき二重底の窓から高温側モジュールのアルミナ基板が覗くように配置した。
【0100】
高温部用モジュールと低温部用モジュールを直列で接続し、電子負荷装置を用いて外部抵抗を変化させながら、実施例1に示した方法で発生した出力を測定した。最高の出力値を下記表3に示す。
【0101】
実施例12
実施例11で作製した積層型熱電変換モジュールにおいて、高温部用モジュールと低温部用モジュールの接続部に配置した伝熱シートに代えて、シリコーンを主原料とし伝熱性フィラーを加えた2枚の伝熱シート(商品名:ラムダゲルCOH4000)(株式会社タイカ)(大きさ64.5mmx64.5mm、厚さ0.5mm)の間に、厚さ0.5mmのアルミニウム板を挟んだ積層体を用い、これ以外は実施例11と同様にして、積層型熱電変換モジュールを作製した。
【0102】
この積層型熱電変換モジュールを用い、実施例11と同じステンレス製容器(片手鍋)に、実施例11と同じ方法で固定して、調理器具を作製した。実施例11と同様にして測定した最高出力値を下記表3に示す。
【0103】
実施例13
実施例11で作製した積層型熱電変換モジュールにおいて、高温部用モジュールと低温部用モジュールの接続部に配置した伝熱シートに代えて、厚さ2mmのアルミニウム板の両面にシリコーンオイルにアルミナを混合した市販のシリコーンペースト(商品名:放熱性コンパウンドSH340(東レダウコーニング社))をそれぞれ厚さ0.5mmとなるように塗布して得られた積層体を用い、これ以外は、実施例11と同様にして、積層型熱電変換モジュールを作製した。
【0104】
この積層型熱電変換モジュールを用い、実施例11と同じステンレス製容器(片手鍋)に、実施例11と同じ方法で固定して、調理器具を作製した。実施例11と同様にして測定した最高出力値を下記表3に示す。
【0105】
実施例14
実施例11と同じ高温部用モジュールと低温部用モジュールを用い、低温部用モジュールと高温部用モジュールの間に伝熱材料を配置することなく直接接触させて、積層型熱電変換モジュールを作製した。
【0106】
この積層型熱電変換モジュールを用い、実施例11と同じステンレス製容器(片手鍋)に、伝熱シートを用いることなく、実施例11と同じ方法で固定した。実施例11と同様にして測定した最高出力値を下記表3に示す。
【0107】
【表3】

【0108】
以下、本発明の調理器具で用いる積層型熱電変換モジュールの内で、高温部用モジュール用のn型熱電変換材料として用いられる一般式:Mn3-xMxSiyAlzMa (式中、Mは、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、Mは、B、P、Ga、Ge、Sn、及びBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0≦x≦3.0、3.5≦y≦4.5、2.5≦z≦3.5、0≦a≦1である)で表されるシリコン系合金について、製造例と試験例を参考例1〜37として示す。
【0109】
参考例1
Mn源としてマンガン(Mn)、Si源としてシリコン(Si)及びAl源としてアルミニウム(Al)を用い、Mn:Si:Al(元素比)=3.0:4.0:3.0となるように原料物質を配合した後、アーク熔解法によりアルゴン雰囲気中で原料を熔融させ、融液を十分に混合した後、室温まで冷却して上記した原料金属成分からなる合金を得た。
【0110】
次いで、得られた合金を、瑪瑙容器と瑪瑙製ボールを用いてボールミル粉砕した後、得られた粉末を直径40 mm、厚さ約4.5 mmの円板状に加圧成形した。これをカーボン製の型に入れ、約2700 Aの直流のパルス電流(パルス幅2.5ミリ秒、周波数29 Hz)を印加して、850℃まで加熱し、その温度で15分間保持して、通電焼結した後、印加電流および加圧を停止し、自然放冷させて、焼結成型体を得た。
【0111】
参考例2〜37
原料の種類又は配合割合を変える以外は参考例1と同様の工程により、下記表4に示す組成の焼結成型体を作製した。各原料としては、それぞれの金属単体を用いた。
【0112】
試験例
参考例1〜37で得られた各焼結成型体について、下記の方法でゼーベック係数、電位抵抗率、熱伝導度、及び無次元性能指数を求めた。
【0113】
以下に熱電特性を評価するための物性値の評価方法を示す。ゼーベック係数、電気抵抗率の測定は空気中で、熱伝導度測定は真空中で行った。
【0114】
・ゼーベック係数
試料を断面が3〜5mm角、長さが3〜8mm程度の矩形に成型し、Rタイプ(白金−白金・ロジウム)熱電対を銀ペーストで両端面に接続した。試料を管状電気炉に入れ、100〜700℃に加熱し、熱電対を設けた片面にエアポンプを用い室温の空気を当てることで温度差を付け、試料両端面で発生した熱起電力を熱電対の白金線を用い測定した。熱起電力と両端面の温度差によりゼーベック係数を算出した。
【0115】
・電気抵抗率
試料を断面が3〜5mm角、長さが3〜8mm程度の矩形に成型し、銀ペーストと白金線を用い両端面に電流端子、側面に電圧端子を設け、直流四端子法により測定した。
【0116】
・熱伝導度
試料を幅約5mm、長さ約8mm、厚さ約1.5mmに成型し、レーザーフラッシュ法により熱拡散率と比熱を測定した。これらの数値とアルキメデス法により測定した密度をかけ合わせることで熱伝導度を算出した。
【0117】
下記表4に、各実施例で得られた合金について、500℃におけるゼーベック係数(μV/K)、電気抵抗率(mΩ・cm)、熱伝導度(W/m・K)及び無次元性能指数を示す。
【0118】
【表4】

【0119】
以上の結果から明らかなように、参考例1〜37で得られた合金の焼結成型体はいずれも、500℃において負のゼーベック係数と低い電気抵抗率を有するものであり、n型熱電変換材料として優れた性能を有するものであった。
【0120】
また、参考例1〜3で得られた合金の焼結成型体について、空気中、25〜700℃におけるゼーベック係数の温度依存性を示すグラフを図16に示し、空気中、25〜700℃における電気抵抗率の温度依存性を示すグラフを図17に示す。
【0121】
また、参考例1で得られた合金の焼結成型体について、空気中、25〜700℃における熱伝導度の温度依存性を示すグラフを図18に示し、空気中、25〜700℃における無次元性能指数(ZT)の温度依存性を示すグラフを図19に示す。
【0122】
以上の結果から明らかなように、参考例1〜3で得られた合金の焼結成型体のゼーベック係数は25〜700℃の温度範囲において負の値であり、高温側が高電位となるn型熱電変換材料であることが確認できた。これら合金は、600℃を下回る温度範囲、特に300℃〜500℃程度の温度範囲でゼーベック係数の絶対値が大きかった。
【0123】
また、空気中における測定でも酸化による性能劣化は認められなかったことから、本発明の金属材料は耐酸化性に優れたものであるといえる。更に、参考例1〜3で得られた合金の焼結成型体は、25〜700℃の温度範囲において、電気抵抗率(r)は1mΩ・cmを下回る値であり、非常に優れた電気伝導性を有するものであった。従って、上記した実施例で得られた合金の焼結成型体は、空気中で600℃程度までの温度範囲、特に300〜500℃程度の温度範囲においてn型熱電変換材料として特に有効に利用できるものといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開口した容器本体と、該容器本体の底部に取り付けられた熱電変換モジュールとを有する発電機能を有する調理器具であって、
該熱電変換モジュールが、金属酸化物を熱電変換材料とするモジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とするモジュールからなる高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とするモジュールからなる低温部用モジュールとを積層した構造の積層型熱電変換モジュールである、発電機能を有する調理器具。
【請求項2】
容器本体の底部に取り付けられた熱電変換モジュールが、高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料が配置されたものである、請求項1に記載の発電機能を有する調理器具。
【請求項3】
高温部用モジュールと低温部用モジュールとの間に、更に、金属板が配置されている請求項2に記載の発電機能を有する調理器具。
【請求項4】
容器本体と熱電変換モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料が配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
【請求項5】
更に、電力調整部を有する請求項1〜4のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
【請求項6】
高温部用モジュールと低温部用モジュールが、それぞれ、p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端とを電気的に接続してなる熱電変換素子を複数個用い、該熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の一端を、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接合の端部に電気的に接続する方法で複数の熱電変換素子を直列に接続してなる構造のモジュールであり、
(i)高温部用モジュールを構成する熱電変換素子が、
一般式:CaaMbCo4Oc (式中、Mは、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Bi、Yおよびランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、2.2≦a≦3.6;0≦b≦0.8;8≦c≦10である。)で表される複合酸化物からなるp型熱電変換材料と、一般式:Ca1-xM1xMn1-yM2yOz(式中、Mは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Ba、Al、Bi、Y及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、M2 は、Ta、Nb、W及びMoからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。また、x、y及びzはそれぞれ次の範囲である: 0≦x≦0.5、0≦y≦0.2、2.7≦z≦3.3)で表される複合酸化物からなるn型熱電変換材料を用いた素子、又は
一般式:Mn1-xMaxSi1.6〜1.8(式中、Maは、Ti、V、Cr、Fe、Ni、Cuからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、0≦x≦0.5である。)で表される合金からなるシリコン系合金からなるp型熱電変換材料と、一般式:Mn3-xMxSiyAlzMa (式中、Mは、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、Mは、B、P、Ga、Ge、Sn、及びBiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0≦x≦3.0、3.5≦y≦4.5、2.5≦z≦3.5、0≦a≦1である)で表されるシリコン系合金からなるn型熱電変換材料を用いた素子であり、
(ii)低温部用モジュールを構成する熱電変換素子が、 一般式:Bi2-xSbxTe3(式中、0.5≦x≦1.8である。)で表されるビスマス・テルル系合金をp型熱電変換材料として用い、一般式:Bi2Te3-xSex(式中、0.01≦x≦0.3である。)で表されるビスマス・テルル系合金をn型熱電変換材料として用いた素子である、
請求項1〜5のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
【請求項7】
柔軟性を有する伝熱材料が、1mK/W程度以下の熱抵抗率を有する樹脂製ペースト材料又は樹脂製シート材料である、請求項1〜6のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。
【請求項8】
金属板がアルミニウム板である請求項3〜7のいずれかに記載の発電機能を有する調理器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−42862(P2013−42862A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181694(P2011−181694)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(711009062)株式会社TESニューエナジー (3)
【Fターム(参考)】