説明

発電設備

【課題】実質的にCOガスを含有した石炭ガス化燃料を用いることができるMCFC2を備えた発電設備とする。
【解決手段】石炭を石炭ガス化炉22で反応させることで石炭ガス化炉を得て、ガス冷却器23で石炭ガス化ガスを冷却すると共にポーラスフィルタ24を通して脱硫装置25で脱硫処理してCOガス含有ガスをアノードガスとして生成し、COガス含有ガスをシフト反応器26で発熱反応によりHとCOに反応させ、Hを含むアノードガスをMCFC2のアノード7に供給し、余分な熱源及び熱交換源をなくした状態で、石炭ガス化ガスから所望のアノードガスを得て、MCFC2の発熱を抑制して性能を維持した状態でCOの削減を考慮し、実質的にCOガスを含有した石炭ガス化燃料を用いることができるMCFC2を備えた発電設備とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素との電気化学反応により電力を得る溶融炭酸塩形燃料電池を備えた発電設備に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応により電力を得る溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)は、例えば、ニッケル多孔質体の燃料極(アノード)と、例えば、酸化ニッケル多孔質体の空気極(カソード)との間に、電解質(炭酸塩)が挟まれて構成されている。そして、天然ガス等の燃料から得られた水素(H)をアノードに供給すると共に、空気(O)と二酸化炭素(CO)をカソードに供給することで、HとOの電気化学反応により発電が行われる。MCFCは高温で作動するため高効率で、COを回収分離できるため環境への影響が少ない等の特徴を有している。このため、近年は、水力、火力、原子力に続く発電システムとして注目されてきている。
【0003】
また、MCFCは高温で作動するため、排気をガスタービンの燃焼器に供給するように構成して、MCFCとガスタービンとを組み合わせた発電設備(複合発電設備)も従来から提案されてきている(例えば、特許文献1参照)。MCFCとガスタービンとを組み合わせた複合発電設備とすることにより、MCFCとガスタービンとで発電を行うことができる。
【0004】
水素と酸素との電気化学反応により電力を得るMCFCでは、燃料としての水素を得るために、天然ガス等の燃料ガスを改質して水素ガスを得ることが考えられる。一方、供給安定性が高く、発熱量あたりの価格が低廉である石炭をガス化して燃料電池の燃料とする技術が種々提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、石炭をガス化して燃料とする燃料電池は作動温度が高い固体電解質型燃料電池(SOFC)が主であり、高効率で運転が可能なMCFCの分野では石炭をガス化して燃料とする技術は構築されていないのが実情である。そして、石炭は発熱量あたりのCOの排出量が天然ガスより多いため、COの削減を考慮した設備を構築する必要があるのが現状であり、MCFCの性能を維持しつつCOの削減を考慮した石炭ガス化燃料を用いた設備の実現が求められているのが実情である。
【0006】
また、石炭に拘わらず、天然ガス以外で、バイオマス等の固体燃料を燃焼したガス化ガスや、ガソリン、軽油等の液体燃料を燃焼したガス化ガス等、即ち、実質的にCOガス含有ガスを用いる場合でも、MCFCの性能を維持しつつCOの削減を考慮した設備の実現が求められているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−135139号公報
【特許文献2】特開2000−48844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)の発熱を抑制して性能を維持した状態でCO排出量の削減を考慮し、実質的にCOガスを含有するCOガス含有ガス、特に、石炭ガス化燃料を用いることができる溶融炭酸塩形燃料電池を備えた発電設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発電設備は、実質的にCOガスを含有するCOガス含有ガスをアノードガスとして生成するアノードガス生成手段と、純酸素及びCOガスをカソードガスとして生成するカソードガス生成手段と、アノードガス生成手段で生成されたアノードガスがアノードに供給されると共にカソードガスがカソードに供給され、アノードガス及びカソードガスの電気化学反応により発電を行う溶融炭酸塩形燃料電池と、溶融炭酸塩形燃料電池での発熱反応を抑制するためにアノードの入口側に備えられ、COガス含有ガスからHリッチガスを得る冷却機能手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
このため、溶融炭酸塩形燃料電池の排気のCOガスを回収することを可能にしてカソードガスとして生成することができ、最小限のカソードガスを用いた場合でも、MCFCの発熱を抑制して性能に影響を与えることなくCOの循環を図って実質的にCOガス含有ガスを用いることができる溶融炭酸塩形燃料電池を備えた発電設備となる。
【0011】
そして、冷却機能手段は、化学反応によりCOガス含有ガスをHとCOに反応させるシフト反応機器であり、溶融炭酸塩形燃料電池の外部に発熱反応が生じるシフト反応機器を備えて相対的な冷却を行なうことを特徴とする。
【0012】
このため、シフト反応機器を設けたことにより、溶融炭酸塩形燃料電池の内部でのシフト反応による発熱反応を無くして相対的な冷却を行い、シフト反応機器により、COガス含有ガスを発熱反応によりHとCOに反応させ、余分な熱源及び熱交換源をなくした状態で所望のアノードガスを得ることができる。また、シフト反応機器によりCOガス含有ガスに含まれる未除去の異物のトラップが可能になる。
【0013】
また、カソードガス生成手段で生成されるCOガスは、溶融炭酸塩形燃料電池で仕事を終えた排気ガスを冷却して水分が分離されて回収されたCOガスであることを特徴とする。
【0014】
このため、溶融炭酸塩形燃料電池の排気のCOガスを回収してカソードガスとして生成することができる。
【0015】
また、アノードガス生成手段は、COガス含有ガスをアノードガスとして生成するガス化設備であることを特徴とする。
【0016】
このため、ガス化設備で生成されたCOガス含有ガスをアノードガスとして生成することができる。
【0017】
また、ガス化設備は、固体燃料を燃焼させてCOガス含有ガスをアノードガスとして生成する設備であることを特徴とする。
【0018】
このため、固体燃料、例えば、石炭やバイオマスをガス化設備で燃焼させてCOガス含有ガスをアノードガスとして生成することができる。
【0019】
また、ガス化設備で燃焼させる固体燃料は、石炭であることを特徴とする。
【0020】
このため、石炭をガス化設備(ガス化炉)で石炭を燃焼させてCOガス含有ガスをアノードガスとして生成することができる。
【0021】
また、カソードのカソード排気及びアノードのアノード排気を燃焼する燃焼器と、燃焼器からの燃焼ガスを膨張して動力を得るタービンと、タービンの排気の熱回収を行って蒸気を発生させ、蒸気を膨張させてタービンを駆動し動力を得ると共に、熱回収された排気を冷却して水及びCOガスに分離する排熱回収設備と、排熱回収設備で分離されたCOガスを圧縮してカソードに圧送するCO圧縮機とを備えたことを特徴とする。
【0022】
このため、溶融炭酸塩形燃料電池の排気を燃焼してタービンで膨張することで動力を得ることができ、タービンの排ガスを排熱回収設備で熱回収してCOを分離回収し、CO圧縮機で昇圧してカソードガスとして用いることができる。
【0023】
また、カソードガス生成手段は、所定圧力の純酸素を供給する酸素供給系を含み、COと酸素の比が所定の量論比率で供給されて溶融炭酸塩形燃料電池が運転されることを特徴とする。
【0024】
このため、所望量の酸素を供給して、COに対する酸素の比を所望の比率で運転することができる溶融炭酸塩形燃料電池を備えた発電設備とすることができる。
【0025】
また、酸素供給系で供給される所定圧力の純酸素は、圧力スウィング吸着により窒素ガスが濃縮されて空気から除去されて製造された酸素、並びに深冷分離方式により得られた酸素であることを特徴とする。
【0026】
このため、加圧状態の酸素を容易に得ることができ、酸素を加圧する設備を備える必要がない溶融炭酸塩形燃料電池を備えた発電設備とすることができる。
【0027】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の発電設備は、石炭を燃焼して燃料ガスを得る石炭ガス化炉と、石炭ガス化炉で得られた燃料ガスを所望のCOガス含有ガスとするガス処理手段と、ガス処理手段で得られたCOガス含有ガスを化学反応によりHとCOに反応させるシフト反応手段と、シフト反応手段で得られたHを含むアノードガスがアノードに供給されると共に純酸素及びCOガスを含むカソードガスがカソードに供給され、アノードガス及びカソードガスの電気化学反応により発電を行う溶融炭酸塩形燃料電池と、カソードのカソード排気及びアノードのアノード排気を燃焼する燃焼器と、燃焼器からの燃焼ガスを膨張して動力を得るタービンと、タービンの排気の熱回収を行って蒸気を発生させ、蒸気タービンを駆動することにより動力を得ると共に、熱回収された排気を冷却して水及びCOガスに分離する排熱回収設備と、排熱回収設備で分離されたCOガスを圧縮してカソードに圧送するCO圧縮機と、所定圧力の純酸素をCO圧縮器で圧縮されたCOガスに供給する酸素供給系とを備え、ガス処理手段は、石炭ガス化炉で得られた燃料ガスを排熱回収設備で分離された水で冷却するガス冷却手段と、ガス冷却手段で冷却された燃料ガスを脱硫して所望のCOガス含有ガスとする脱硫手段と、ガス冷却手段でガスを冷却することで得られた蒸気を脱硫手段で脱硫されたCOガス含有ガスに供給する蒸気供給系とを備え、更に、カソード排気をカソードの入口側の純酸素及びCOガスを含むカソードガスに供給して昇温させる昇温手段とを備えたことを特徴とする。
【0028】
このため、石炭を石炭ガス化炉で反応させてCOガス含有ガスをアノードガスとして生成し、シフト反応手段によりCOガス含有ガスを発熱反応によりHとCOに反応させ、溶融炭酸塩形燃料電池の発熱を抑制(相対的な冷却)すると共に、余分な熱源及び熱交換源をなくした状態で所望のアノードガスを得て、シフト反応手段で得られたHを含むアノードガスと純酸素及びCOガスを含むカソードガスとの電気化学反応により溶融炭酸塩形燃料電池で発電を行い、溶融炭酸塩形燃料電池の排気を燃焼器で燃焼させて燃焼ガスをタービンで膨張させて発電を行い、タービンの排気を排熱回収設備で熱回収すると共に冷却してCOガスを分離し、分離されたCOガスをCO圧縮機で圧縮し、所定圧力の純酸素と共にカソードに圧送する。
【0029】
COガス含有ガスをアノードガスとして生成するに際し、燃料ガスを排熱回収設備で分離された水で冷却し(ガス冷却手段)、脱硫手段で所望のCOガス含有ガスとし、蒸気供給系で蒸気を供給してシフト反応手段で反応させる。また、カソード排気をカソードの入口側で純酸素及びCOガスを含むカソードガスに供給して昇温させる(昇温手段)。
【0030】
シフト反応手段を溶融炭酸塩形燃料電池の外部に設けて発熱反応を行い、溶融炭酸塩形燃料電池の発熱を抑制しているので(相対的に冷却しているので)、溶融炭酸塩形燃料電池の冷却のために使用するカソードガスの量を減らす(場合によっては無くす)ことができ、発電反応に必要な最小限の量の純酸素及びCOガスにより発電設備を運転することができる。
【0031】
これにより、MCFCの発熱を抑制して性能を維持した状態でCOの削減を考慮し、実質的にCOガスを含有した石炭ガス化燃料を用いることができる溶融炭酸塩形燃料電池を備えた発電設備となる。
【0032】
そして、請求項2に係る本発明の発電設備は、請求項1に記載の発電設備において、蒸気供給系の後流側にシフト反応手段を並列に複数系統備えたことを特徴とする。
【0033】
このため、複数系統のシフト反応手段を交代で運転することにより、連続運転を継続したままメンテナンスを行うことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の発電設備は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)の性能を維持した状態でCOの削減を考慮し、実質的にCOガスを含有するCOガス含有ガス、特に、石炭ガス化燃料を用いることができる溶融炭酸塩形燃料電池を備えた発電設備とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態例に係る発電設備の概略系統図である。
【図2】各機器の出力状況の一例を示す表図である。
【図3】発熱量の内訳の一例を示す表図である。
【図4】損失熱量の内訳の一例を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施形態例の発電設備は、石炭ガス化炉で石炭を燃焼して得られた石炭ガス化燃料ガスを脱硫して実質的にCOガスを含有するCOガス含有ガスとし、シフト反応手段での化学反応によりCOガス含有ガスをHとCOに反応させ、発熱反応により所望の温度に昇温されたアノードガスを得て溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)のアノードに供給する。MCFCのカソードには純酸素及びCOガスをカソードガスとして供給する。
【0037】
カソードに供給されるカソードガスは、純酸素及びCOガスを含むガスであり、最小限の使用量(発電反応に必要な最小限の量)で運用することが、酸素製造動力等での損失を抑制するため、ならびにカソード循環ブロワの動力を抑制するため、ならびにカソードガスの圧力損失を低く維持することによるガスリーク抑制に好ましい。シフト反応手段を溶融炭酸塩形燃料電池の外部に設けて発熱反応を行い(冷却機能手段)、溶融炭酸塩形燃料電池の発熱を抑制している(相対的に冷却している)。これにより、溶融炭酸塩形燃料電池の冷却のために使用するカソードガスの量を減らす(場合によっては無くす)ことができ、発電反応に必要な最小限の量の純酸素及びCOガスにより、即ち、酸素製造動力等での損失を抑制した状態で、発電設備を運転することができる。
【0038】
これにより、MCFCの排気ガスを凝縮して得られたCOガスを回収してアノードガスとすることができ、COの循環を考慮した設備となる。そして、シフト反応手段による発熱反応により所望の温度に昇温されたアノードガスを得ることで、シフト反応手段での発熱反応を燃料の加熱手段として利用することができ、加熱用の熱源を必要とするガス/ガス熱交換器を持たない簡素なシステムを構成でき、加熱のための動力を用いずに、しかもアノードガスを冷却するために排ガスを循環させる等をすることなく、MCFCの性能を維持することができる。
【0039】
また、シフト反応手段を用いて水素を発生させることは、従来まで溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)内部でシフト反応を起こさせていた場合と比較して、シフト反応による発熱量分だけ電池での冷却が不要となる。更に、シフト反応手段は、配管内に触媒物質を置くだけの簡素な設備で構築が可能で、上流側で脱硫等が不十分となった場合でもシフト反応手段の内部の触媒である程度異物を吸着することができるので、この点においてもMCFCの性能悪化要因を回避して性能を維持することができる。
【0040】
第1実施形態例を具体的に説明する。
【0041】
図1には本発明の一実施形態例に係る発電設備の概略系統を示してある。
【0042】
図に示すように、本実施形態例の発電設備には、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)2が備えられ、MCFC2の出口ガス(排気ガス)が導入されて燃焼が行われる燃焼器3が設けられている。燃焼器3からの燃焼ガスを膨張して駆動するタービン4が備えられ、タービン4には発電機5が同軸上に設けられている。タービン4の駆動により発電機5が作動して発電が行われる。
【0043】
MCFC2は、例えば、ニッケル多孔質体の燃料極(アノード)7と、例えば、酸化ニッケル多孔質体の空気極(カソード)8との間に、電解質(炭酸塩)が挟まれて構成されている。そして、石炭ガス化ガスから得られた水素(H)をアノード7に供給すると共に、空気(O)とCOをカソード8に供給することで、HとOの電気化学反応により発電が行われる。
【0044】
タービン4の下流にはタービン4で仕事を終えた排気(排気ガス)の熱回収を行う排熱回収手段(排熱回収ボイラ)9が備えられ、排熱回収手段9は蒸気発生器11及び凝縮器12を備えている。排熱回収手段9の凝縮器12には蒸気発電設備41からの給水、例えば、蒸気タービンで仕事を終えた蒸気を凝縮した復水が冷却媒体(給水加熱用)として送られ、蒸気発生器11で熱回収された排気ガスは凝縮器12で凝縮されて水(HO)と非凝縮ガス(CO)に分離される。蒸気発生器11で発生した蒸気は蒸気発電設備41に送られ、蒸気タービンを駆動することにより動力が得られる。
【0045】
凝縮器12で分離されたCOはCO圧縮機13で圧縮され、CO圧縮機13で圧縮されたCOに所定の圧力の純Oを供給する酸素供給系として酸素製造装置14が備えられている。CO圧縮機13で圧縮されたCOに所定の圧力の純Oが供給されてカソードガスが生成され(カソードガス生成手段)、カソードガスはMCFC2のカソード8に供給される。
【0046】
酸素製造装置14は、圧力スウィング吸着により窒素ガスが濃縮されて空気から除去されてOを製造する構成とされている(PSA方式)。酸素供給系としては深冷設備からの純Oを所定圧力に加圧して供給する手段とすることも可能である。酸素製造装置14からOを所望量のOを供給することで、COに対するOの比を所望の比率で運転することができるMCFC2を備えた発電設備となる。
【0047】
一方、実質的にCOガスを含有するCOガス含有ガスをアノードガスとして生成するアノードガス生成手段21が備えられ、アノードガス生成手段21で生成されたアノードガスがMCFC2のアノード7に供給される。
【0048】
アノードガス生成手段21は、酸素製造装置14で得られた純Oと共に固体燃料としての石炭を燃焼して燃料ガスを得るガス化設備としての石炭ガス化炉22を備え、石炭ガス化炉22で得られた石炭ガス化ガスは、ガス冷却器23で冷却された後、ポーラスフィルタ24を通って脱硫装置25で脱硫される(ガス処理手段)。脱硫装置25で脱硫された石炭ガス化ガス(COガス含有ガス:COリッチガス)は、シフト反応手段としてのシフト反応器26(シフト反応機器)で化学反応(発熱反応)によりHとCOに反応され、所望のアノードガスを得てMCFC2のアノード7に供給される。
【0049】
つまり、シフト反応器26をMCFC2の外部に設けて発熱反応を行い、MCFC2の発熱を抑制している(相対的に冷却している:冷却機能手段)。脱硫後の石炭ガス化ガス(COガス含有ガス)に異物が残留した場合、異物をシフト反応器26でトラップすることができる。
【0050】
シフト反応器26は石炭ガス化ガス(COガス含有ガス)が流通する配管内に所望の触媒が配されたもので、COガス含有ガスを発熱反応によりHとCOに反応させて電気化学反応に用いられるHを含むアノードガス(所望のアノードガス)とされる。即ち、シフト反応器26では、
CO+HO→H+COの発熱反応が行なわれる。
【0051】
シフト反応器26は、配管内に所望の触媒を直接配したり、配管内に網部材を設けて網部材に所望の触媒を配する構成とすることができる。
【0052】
発熱反応によりHを得ているので、アノードガスを所望の温度に昇温させるための熱交換器(ガス/ガス熱交換器)を用いることなく、即ち、他の機器からの熱を必要とせずにHを含むアノードガスをMCFC2のアノード7に供給することができる。
【0053】
このため、発熱量を維持することでアノードガスの温度を所望温度に維持することができ、アノードガスの温度を調整するための余分な熱交換用の熱源や冷却源(アノード排ガスの循環等)をなくした状態で、放射熱が生じない状態でアノードガスを得ることができる。
【0054】
また、従来までMCFC2の内部で起こっていたシフト反応による発熱をMCFC2の外部で行うため、シフト反応による発熱分だけ、MCFC2での冷却が不要となり、カソードガスによる電池の冷却動力が削減される。つまり、カソード8に供給されるカソードガスは、純酸素及びCOガスを含むガスであり、最小限の使用量(発電反応に必要な最小限の量)で運用することが、酸素製造装置14での損失を抑制するために好ましい。また、カソードガスを循環させる必要がある場合でも、ブロワ動力32を抑制するために好ましい。シフト反応による発熱をMCFC2の外部で行うことで、MCFC2の発熱が抑制され(相対的に冷却され)、MCFC2の冷却のために使用するカソードガスの量を減らすことができ、発電反応に必要な最小限の量の純酸素及びCOガスにより、即ち、酸素製造装置14での損失を抑制することができる。
【0055】
アノードガス生成手段21の脱硫装置25は湿式の装置で、前述した排熱回収手段9の凝縮器12で凝縮された凝縮水(回収水)の一部が導入される。また、凝縮器12で凝縮された凝縮水(回収水)はポンプ27によりガス冷却器23に送られ、石炭ガス化ガスの冷却用の媒体とされる。凝縮水(回収水)はガス冷却器23で熱交換により加熱されて蒸気とされ、脱硫装置25で脱硫された石炭ガス化ガス(COガス含有ガス)に供給される(蒸気供給系)。排熱回収手段9の凝縮器12で分離されたCOのうち余剰の部分は外部に回収される。
【0056】
燃焼器3に送られるMCFC2のカソード排気の一部を冷却する冷却器31が備えられ、冷却器31で冷却されたカソード排気は昇温手段としてのブロア32でカソード8の入口側のカソードガス(純OとCOガスを含むカソードガス)に供給され、カソードガスが所望の温度に昇温される。ブロア32に代えてエジェクタを設けることも可能である。このため、カソードガスを所望の温度に昇温させるための熱交換器(ガス/ガス熱交換器)を用いることなくカソードガスをMCFC2のカソード8に供給することができる。
【0057】
アノードガスはシフト反応器26で昇温され、カソードガスはカソード排気の循環により昇温されているので、MCFC2に熱交換器(ガス/ガス熱交換器)を備える必要がなく、機器の設置スペースを省略して設計の自由度が増すと共にコンパクト化を図ることが可能になる。
【0058】
この結果、COとOをカソードガスとして供給しカソードガスの量を最小限に抑制しているMCFC2であっても、冷却に必要な熱量が抑制された設備となり、MCFC2の能力や性能に影響を及ぼすことなくアノードガス及びカソードガスを得ることができる。
【0059】
上述した発電設備では、石炭を石炭ガス化炉22で反応させて石炭ガス化ガスを生成し、ガス冷却器23で石炭ガス化ガスが冷却されると共にポーラスフィルタ24を通って脱硫装置25で脱硫処理されてCOガス含有ガスをアノードガスとして生成される。COガス含有ガスはシフト反応器26で発熱反応によりHとCOに反応され、Hを含むアノードガスがMCFC2のアノード7に供給される。MCFC2では、Hを含むアノードガスと純酸素及びCOガスを含むカソードガスとの電気化学反応により発電が行なわれる。
【0060】
このため、余分な熱源及び熱交換源をなくした状態で、石炭ガス化ガスから所望のアノードガスを得ることができる。
【0061】
MCFC2の排気は燃焼器3で燃焼されてタービン4で膨張され、発電機5で発電が行なわれる。タービン4の排気は排熱回収手段9の蒸気発生器11で熱回収され、凝縮器12で冷却されてCOガスと水に分離される。分離されたCOガスはCO圧縮機13で圧縮され、酸素製造装置14からの純Oと共にカソードガスとしてカソード8に圧送される。カソードガスにはカソード側の排気が冷却されてブロア32で循環供給され、カソードガスが所望の温度に維持される。
【0062】
カソードガスはCOガスと純Oであるため流量が限られ、MCFC2の性能を維持するためにアノードガスの冷却等、他の冷却に用いることを避ける必要がある。上述した発電設備では、アノードガスをシフト反応器26で発熱反応させているので、他の機器からの熱源がないため冷却の必要がない。このため、COガスと純Oからなるカソードガスを適用している場合でも(限られた流量のカソードガスを用いている場合でも)、MCFC2の発熱を抑制して性能を維持した状態でCOの削減を考慮した設備とすることができる。
【0063】
つまり、シフト反応による発熱をMCFC2の外部で行うことで、MCFC2の発熱が抑制され(相対的に冷却され)、MCFC2の冷却のために使用するカソードガスの量を減らすことができ、発電反応に必要な最小限の量の純酸素及びCOガスにより、即ち、酸素製造装置14での損失を抑制した状態で、MCFC2の運転を行うことができる。また、カソードガスの循環32が必要な場合でもその動力を抑制した状態で、MCFC2の運転を行うことができる。
【0064】
COガス含有ガスをアノードガスとして生成するに際し、燃料ガスを排熱回収手段9の凝縮器12で分離された水(回収水)がポンプ27によりガス冷却器23に送られて石炭ガス化ガスが冷却され、脱硫装置25で所望のCOガス含有ガス(COリッチガス)とされる。COリッチガスにはガス冷却器23で得られた蒸気が供給されシフト反応器26に送られる。
【0065】
これにより、MCFCの性能を維持した状態で、新たに動力を必要とせずにCOを全量回収してCOの循環を考慮し、実質的にCOガスを含有した石炭ガス化燃料を用いることができるMCFC2を備えた発電設備となる。
【0066】
上述した発電設備では、55%〜60%の送電端効率での運転が可能である。図2〜図4に基づいて発電効率の導出例を具体的に説明する。図2には各機器の出力状況の一例、図3には発熱量の内訳の一例、図4には損失熱量の内訳の一例を示してある。図に示した数値の一例は実際の設備に適用したと仮定した時の試算値であり、本願発明の発電設備の効率を定量的に説明したものである。このため、実際の設備とした場合には、機器の配置や適用種類により数値は変化するものであるが、全体の傾向は(概略)同程度であり、トータルでの効率である55%〜60%の送電端効率は確保できるものである。
【0067】
図1及び図2〜図4に示すように、投入石炭の発熱量を100%とし、カソードガスにCOとOを用いているため、カソード8での反応抵抗は少なく、運転電流密度を2000A/mに設定したときに、セル電圧が920mVを示す。セル電圧が高いため、MCFC2での出力は44.75%(図3参照)となる。MCFC2のアノード排ガスとカソード排ガスは燃焼器3で混合された後に燃焼し、900℃程度の燃焼ガスが生成されてタービン4を駆動する。
【0068】
このタービン4での出力は9.54%(図3参照)となり、タービン4の出力は、タービン4での出力から圧縮機13の動力を差し引いた後に発電機5の効率を掛け合わせた数値である。タービン4から排気された排気ガスは500℃程度の温度を維持し、排気ガスの熱源とカソードの循環流路に設けた蒸気発生器(ガス冷却器)11、及び、石炭ガス化ガスのガス冷却器23を熱源として生成された蒸気により、蒸気発電設備41の蒸気タービンが駆動される。蒸気タービンの出力は12.24%(図3参照)となり、以上が石炭から動力に変わった割合(gross)の変換効率を示し、合計で66.53%となる。
【0069】
石炭から生成された電気は、ガス化用酸素製造動力として3.59%(図4参照)が消費され、カソードガスの酸素製造動力(酸素製造装置14の動力)として5.57%(図4参照)が消費される。また、蒸気タービン用のポンプに0.28%(図4参照)、その他プラント全体補機動力として2%(図4参照)が消費される。尚、図4に示したその他の損失はMCFC2の放散熱やインバータロス、発電機ロス、復水損失等であり、熱として外気に廃棄されるものである。
【0070】
損失熱量(動力損失)の数値は全て投入石炭の熱量に対する割合であり、MCFC2、タービン4、蒸気タービンの出力合計からこれらの動力損失を差し引くと、55%となる。55%を算出するにあたり用いた数値は、既存の機器による運転により過去に得られた既知の数値であるので、技術は日々進歩しているものであり、運転条件の最適化も日々向上していることにより、55%は最低限の値であるといえる。このため、MCFC2、タービン4、蒸気タービンの運転条件を変更することなく高い側の数値の発電効率(例えば、60%)を達成することが可能である。
【0071】
上述した発電設備において、シフト反応器26を脱硫装置25の後流側に並列に複数系統備え、バルブによりCOリッチガスの切換えを行なうようにすることも可能である。これにより、複数系統のシフト反応器26を交代で運転することができ、コストを上げることなく、連続運転を継続したまま運転を停止したシフト反応器26のメンテナンスを行うことができる。
【0072】
上述した実施形態例では、実質的にCOガスを含有するCOガス含有ガスをアノードガスとして生成するアノードガス生成手段21として、石炭を燃焼して石炭ガス化燃料をアノードガスとして用いる場合を例に挙げて説明したが、アノードガス生成手段としては、固体燃料として生物資源(バイオマス)を燃焼させてガス化ガスを得るガス化設備を用いることも可能である。また、固体燃料の他に、実質的にCOガスを含有するCOガス含有ガスを得る燃料としては、軽油やガソリン、メタノール、エタノール等のアルコール類等の液体燃料を用いることが可能である。
【0073】
また、MCFC2の排気ガスでタービン4を駆動し、タービン4の排気ガスを冷却してCOガスを分離回収し、分離回収したCOガスをカソードガスとして用いて閉サイクルの設備としているが、MCFC2の排気ガスを別途回収すると共に、他の設備からのCOガスをカソードガスとして用いる設備を構築することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、水素と酸素との電気化学反応により電力を得る溶融炭酸塩形燃料電池を備えた発電設備の産業分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を燃焼して燃料ガスを得る石炭ガス化炉と、
石炭ガス化炉で得られた燃料ガスを所望のCOガス含有ガスとするガス処理手段と、
ガス処理手段で得られたCOガス含有ガスを化学反応によりHとCOに反応させるシフト反応手段と、
シフト反応手段で得られたHを含むアノードガスがアノードに供給されると共に純酸素及びCOガスを含むカソードガスがカソードに供給され、アノードガス及びカソードガスの電気化学反応により発電を行う溶融炭酸塩形燃料電池と、
カソードのカソード排気及びアノードのアノード排気を燃焼する燃焼器と、
燃焼器からの燃焼ガスを膨張して動力を得るタービンと、
タービンの排気の熱回収を行って蒸気を発生させ、蒸気タービンを駆動することにより動力を得ると共に、熱回収された排気を冷却して水及びCOガスに分離する排熱回収設備と、
排熱回収設備で分離されたCOガスを圧縮してカソードに圧送するCO圧縮機と、
所定圧力の純酸素をCO圧縮器で圧縮されたCOガスに供給する酸素供給系と
を備え、
ガス処理手段は、
石炭ガス化炉で得られた燃料ガスを排熱回収設備で分離された水で冷却するガス冷却手段と、
ガス冷却手段で冷却された燃料ガスを脱硫して所望のCOガス含有ガスとする脱硫手段と、
ガス冷却手段でガスを冷却することで得られた蒸気を脱硫手段で脱硫されたCOガス含有ガスに供給する蒸気供給系と
を備え、
更に、カソード排気をカソードの入口側の純酸素及びCOガスを含むカソードガスに供給して昇温させる昇温手段と
を備えたことを特徴とする発電設備。
【請求項2】
請求項1に記載の発電設備において、
蒸気供給系の後流側にシフト反応手段を並列に複数系統備えたことを特徴とする発電設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−62261(P2013−62261A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−721(P2013−721)
【出願日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【分割の表示】特願2008−557064(P2008−557064)の分割
【原出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】