説明

白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法

【課題】 カーボン表面に担持した微粒子状の白金の平均粒子径を制御することができる白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】 水とアセトニトリルとの混合溶媒、エタノール、並びに、ブタノール或いはヘキサノールからなる群から選択される1種類の溶媒に、白金化合物を溶解させて試料溶液を作製する試料溶液作製工程と、試料溶液を30℃以上40℃以下で加熱しながら、試料溶液に一酸化炭素をバブリングして、白金カルボニル錯体溶液を作製する白金カルボニル錯体溶液作製工程と、試料溶液作製工程で選択された1種類の溶媒にカーボン粒子を分散させたカーボン粒子分散液に、白金カルボニル錯体溶液を混合する混合工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題が大きくクローズアップされてきている。燃料電池は、高いエネルギー変換効率を有する上に、COの排出削減に寄与するだけでなく、酸性雨の原因や大気汚染の原因となるNOx、SOx、塵埃等の排出がほとんどないクリーンな電池である。さらに、静粛性も高いという利点がある。そのため、燃料電池は、21世紀に最適なエネルギー変換装置として一部実用化されつつある。特に、燃料電池の中でも固体高分子形燃料電池(PEFC)は、作動温度が低くかつ出力密度が高いため、小型化が可能であるという長所を持っている。
【0003】
図13は、固体高分子形燃料電池の一例を示す断面図である。
固体高分子形燃料電池は、高分子固体電解質膜1を中心として酸素極2と水素極3とで挟んだ構成を有する。高分子固体電解質膜1は、例えば、炭素繊維性の多孔性クロス基材上に、高分子固体電解質を含むスラリーを塗布し、次いで焼成することにより得られたイオン交換膜である。
そして、酸素極2の外側の中央部は、集電体6に担持されるとともに、水素極3の外側の中央部は、集電体7に担持されている。集電体6は、良電導性かつ耐食性を有する材料からなり、通常、黒鉛、チタン、ステンレス等で形成されている。
【0004】
酸素極2の外側の周縁部には、枠形状のガスケット4の内側が接触し、さらにガスケット4の外側には、複数の凹部を内側の中央部に有するフレーム8の内側の突出周縁部が接触している。これにより、フレーム8の内側と酸素極2の外側との間に、複数の凹部に対応するように複数の酸素極室9が形成されている。また、フレーム8は、内側と外側とを貫通するように酸素極室9に連結する酸素ガス供給口12と、内側と外側とを貫通するように酸素極室9に連結する未反応酸素ガス及び生成水取出口13とを有する。
一方、水素極3の外側の周縁部には、枠形状のガスケット5の内側が接触し、さらにガスケット5の外側には、複数の凹部を内側の中央部に有するフレーム10の内側の突出周縁部が接触している。これにより、フレーム10の内側と水素極3の外側との間に、複数の凹部に対応するように複数の水素極室11が形成されている。また、フレーム10は、内側と外側とを貫通するように水素極室11に連結する水素ガス供給口14と、内側と外側とを貫通するように水素極室11に連結する未反応水素ガス取出口15とを有する。
【0005】
このような酸素極2と水素極3とには、高い触媒活性を示す白金微粒子を担体に担持した触媒が通常使用される。そして、白金微粒子の製造方法としては、例えば、電着法、スパッタ法、白金錯体含浸−還元熱分解法、アルコール還元法、ホウ化水素還元法、酸化物気相還元法等の種々の方法が挙げられる。
ところで、このような固体高分子形燃料電池の普及を妨げる一因として、価格が高いことが挙げられている。特に、酸素極2と水素極3とに使用される白金は、極めて高価である。
【0006】
そこで、固体高分子形燃料電池の酸素極2と水素極3とにおいて、平均粒径3nmの白金微粒子が使用されているが、反応に寄与する白金は、表面層のみであることが知られているので、粒径を小さくすることにより比表面積を増大させることが行われている。また、基体上に数原子層分の白金薄膜を形成することにより、白金の持つ触媒活性を維持したまま白金の低減を目指した触媒設計が行われている。
具体的には、膜厚が薄い白金薄膜の製造方法として、白金カルボニル錯体を有機溶媒に溶解させて白金カルボニル錯体溶液を得る調整工程と、白金カルボニル錯体溶液をイオン化傾向の大きな金属基体上に塗布した後、有機溶媒を除去することで白金薄膜が形成された金属基体を得る工程とを含む(例えば、特許文献1参照)。
なお、白金カルボニル錯体の製造方法としては、水溶液に、化学式(1)又は化学式(2)で示す白金化合物を溶解させて試料溶液を作製した後、試料溶液にCOをバブリング(泡入)して、白金カルボニル錯体溶液を作製している。
PtX・・・(1)
PtX・・・(2)
ここで、Mはアルカリ金属、アンモニウム基又は水素であり、Xはハロゲン原子である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−10366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような膜厚が薄い白金薄膜の製造方法では、電着法、スパッタ法、白金錯体含浸−還元熱分解法、アルコール還元法、ホウ化水素還元法、酸化物気相還元法等の種々の方法より膜厚が薄い白金薄膜を得ることができるが、白金薄膜の膜厚を制御することができないという問題点があった。
一方、ケッチェンブラック表面に微粒子状の白金を担持している白金粒子担持カーボンブラック触媒も製造されている。このような白金粒子担持カーボンブラック触媒を基体上に塗布することにより、露出しない白金をできるだけ少なくすることも行われている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本件発明者らは、上述したような白金カルボニル錯体溶液を用いることにより、ケッチェンブラック表面に粒子径が小さくかつ分布幅が狭い微粒子状の白金化合物を担持させることが可能である製造方法を見出した。
しかし、ケッチェンブラック表面に担持される白金化合物の平均粒子径を制御することができなかった。そのため、基体上に白金粒子を担持しても、膜厚が薄い白金薄膜を得ることができるが、白金薄膜の膜厚を制御することができなかった。
【0010】
そこで、本件発明者らは、上記課題を解決するために、カーボン表面に担持した微粒子状の白金の平均粒子径を制御することができる白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法について検討を行った。まず、上述したような製造方法では、水溶液に、化学式(1)又は化学式(2)で示される化合物を溶解させて試料溶液を作製していたが、水溶液に代えて、水とアセトニトリルとの混合溶媒や、エタノールや、ブタノールや、ヘキサノールを用いて試料溶液をそれぞれ作製した。そして、このようにして作製した各試料溶液を用いると、カーボン表面に担持した微粒子状の白金の平均粒子径がそれぞれ異なることがわかった。
図2〜図4は、白金粒子担持カーボンブラック触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)写真と粒度分布のグラフとを示す図である。図2は、エタノールを用い、図3は、ブタノールを用い、図4は、ヘキサノールを用いたときのものである。なお、黒い円状のものがPt粒子であり、薄いグレーのものがカーボンブラック(KB)である。
図2に示すように、エタノールを選択すると、微粒子状の白金の平均粒子径が2.02±0.35nmとなり、図3に示すように、ブタノールを選択すると、微粒子状の白金の平均粒子径が2.28±0.31nmとなり、図4に示すように、ヘキサノールを選択すると、微粒子状の白金の平均粒子径が2.24±0.25nmとなった。
これにより、試料溶液を作製する際に、溶媒を選択することによって、カーボン表面に担持した微粒子状の白金の平均粒子径を制御することができることを見出した。
【0011】
また、上述したような製造方法では、所定の温度で試料溶液を加熱しながら、試料溶液にCOをバブリングして、白金カルボニル錯体溶液を作製していたが、所定の温度を30℃や、50℃や、70℃で白金カルボニル錯体溶液をそれぞれ作製した。そして、このようにして作製した各白金カルボニル錯体溶液を用いると、カーボン表面に担持した微粒子状の白金の平均粒子径がそれぞれ異なることがわかった。
図6〜図8は、白金粒子担持カーボンブラック触媒の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。図6は、30℃で行い、図7は、50℃で行い、図8は、70℃で行ったときのものである。
図6に示すように、30℃を選択すると、微粒子状の白金の平均粒子径が1.81±0.30nmとなり、図7に示すように、50℃を選択すると、微粒子状の白金の平均粒子径が2.30±0.36nmとなり、図8に示すように、70℃を選択すると、微粒子状の白金の凝集体が形成された。
これにより、白金カルボニル錯体溶液を作製する際に、温度を選択することによって、カーボン表面に担持した微粒子状の白金の平均粒子径を制御することができることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法は、水とアセトニトリルとの混合溶媒、エタノール、並びに、ブタノール或いはヘキサノールからなる群から選択される1種類の溶媒に、化学式(1)又は化学式(2)で示す白金化合物を溶解させて試料溶液を作製する試料溶液作製工程と、前記試料溶液を30℃以上40℃以下で加熱しながら、前記試料溶液に一酸化炭素をバブリングして、白金カルボニル錯体溶液を作製する白金カルボニル錯体溶液作製工程と、前記試料溶液作製工程で選択された1種類の溶媒にカーボン粒子を分散させたカーボン粒子分散液に、前記白金カルボニル錯体溶液を混合する混合工程とを含むようにしている。
PtX・・・(1)
PtX・・・(2)
ここで、Mはアルカリ金属、アンモニウム基又は水素であり、Xはハロゲン原子である。
【0013】
本発明の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法によれば、試料溶液を作製する際に、エタノールを選択すると、平均粒子径が2.00±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができ、ブタノール或いはヘキサノールを選択すると、平均粒子径が2.30±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができ、水とアセトニトリルとの混合溶媒を選択すると、平均粒子径が1.80±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法によれば、カーボン表面に担持した微粒子状の白金の平均粒子径を制御することができる。
【0015】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法は、水とアセトニトリルとの混合溶媒に、化学式(1)又は化学式(2)で示す白金化合物を溶解させて試料溶液を作製する試料溶液作製工程と、25℃以上65℃以下の温度範囲から選択される所定の温度で試料溶液を加熱しながら、前記試料溶液に一酸化炭素をバブリングして、白金カルボニル錯体溶液を作製する白金カルボニル錯体溶液作製工程と、水とアセトニトリルとの1:1の混合溶媒にカーボン粒子を分散させたカーボン粒子分散液に、前記白金カルボニル錯体溶液を混合する混合工程とを含むようにしている。
【0016】
ここで、「所定の温度」とは、任意の温度T℃のことをいい、選択される温度範囲T±2℃となってもよい。
本発明の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法によれば、白金カルボニル錯体溶液を作製する際に、30℃を選択すると、平均粒子径が1.80±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができ、50℃を選択すると、平均粒子径が2.30±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができる。
以上のように、本発明の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法によれば、カーボン表面に担持した微粒子状の白金の平均粒子径を制御することができる。
【0017】
また、本発明の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法においては、前記カーボン粒子は、ケッチェンブラックであるようにしてもよい。
さらに、本発明の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法においては、前記混合工程において、前記カーボン粒子分散液に、前記白金カルボニル錯体溶液を超音波処理を行いながら混合するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一の実施形態で得られる白金カルボニル錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】白金粒子担持カーボンブラック触媒「Pt−et/CB」の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
【図3】白金粒子担持カーボンブラック触媒「Pt−but/CB」の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
【図4】白金粒子担持カーボンブラック触媒「Pt−hex/CB」の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
【図5】第二の実施形態で得られる白金カルボニル錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6】白金粒子担持カーボンブラック触媒「Pt−30/CB」の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
【図7】白金粒子担持カーボンブラック触媒「Pt−50/CB」の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
【図8】白金粒子担持カーボンブラック触媒「Pt−70/CB」の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
【図9】白金粒子担持カーボンブラック触媒「Pt/CB−TKK」の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
【図10】回転電極用測定セルを示す図である。
【図11】Tafelプロットを示す図である。
【図12】Tafelプロットを示す図である。
【図13】固体高分子形燃料電池の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0020】
<第一の実施形態>
第一の実施形態に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法は、試料溶液を作製する試料溶液作製工程(A)と、白金カルボニル錯体溶液を作製する白金カルボニル錯体溶液作製工程(B)と、カーボン粒子分散液に白金カルボニル錯体溶液を混合してPt/CB溶液を得る混合工程(C)と、白金粒子担持カーボンブラック触媒を得る濾過工程(D)と、白金粒子担持カーボンブラック触媒を基体上に塗布する電極作製工程(E)とを含む。
【0021】
(A)試料溶液作製工程
水とアセトニトリルとの混合溶媒、エタノール、並びに、ブタノール或いはヘキサノールからなる群から選択される1種類の溶媒に、化学式(1)又は化学式(2)で示す白金化合物を溶解させて試料溶液を作製する。
PtX・・・(1)
PtX・・・(2)
ここで、Mはアルカリ金属、アンモニウム基又は水素であり、Xはハロゲン原子である。
【0022】
化学式(1)で示す白金化合物としては、例えば、H2PtCl6、K2PtCl6、Na2PtCl6、K2PtBr6、K2PtBr6、(NH42PtCl6、(NH42PtBr6等が挙げられる。
化学式(2)で示す白金化合物としては、例えば、H2PtCl4、K2PtCl4、Na2PtCl4、K2PtBr4、K2PtBr4、(NH42PtCl4、(NH42PtBr4等が挙げられる。
【0023】
水とアセトニトリルとの混合溶媒は、体積比で水:アセトニトリル=1:1であることが好ましい。
ブタノールは、1−ブタノールであることが好ましく、ヘキサノールは、1−ヘキサノールであることが好ましい。
そして、試料溶液作製工程で作製される試料溶液における白金化合物の濃度は、特に限定されず、0.1mmol/L以上10mmol/L以下であることが好ましい。
【0024】
(B)白金カルボニル錯体溶液作製工程
試料溶液を30℃以上40℃以下で加熱しながら、試料溶液にCOをバブリングして、その後、攪拌することにより、白金カルボニル錯体溶液を作製する。
COをバブリングする時間は、1時間以上5時間以下であることが好ましい。
攪拌する時間は、30分以上50時間以下であることが好ましい。
なお、白金カルボニル錯体は、化学式(3)で示す化合物であることが好ましい。
[Pt3(CO)3(μ-CO)3]2- ・・・(3)
【0025】
ここで、図1は、反応前と反応後との白金カルボニル錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。
図1(a)に示すように、エタノールを選択したときには、反応後の紫外可視吸収スペクトルにおけるピーク値が420、795nmであり、すなわち文献等(420、820nm)により化学式(3)中のnが6である白金カルボニル錯体が形成されている。そして、図1(b)に示すように、ブタノールを選択したときには、反応後の紫外可視吸収スペクトルにおけるピーク値が423、824nmであり、すなわち文献等(421、825nm)により化学式(3)中のnが7以上である白金カルボニル錯体が形成されている。さらに、図1(c)に示すように、ヘキサノールを選択したときには、反応後の紫外可視吸収スペクトルにおけるピーク値が425、840nmであり、すなわち文献等(423、845nm)により化学式(3)中のnが8以上である白金カルボニル錯体が形成されている。
【0026】
(C)混合工程
試料溶液作製工程で選択された1種類の溶媒にカーボン粒子を分散させたカーボン粒子分散液に、白金カルボニル錯体溶液を混合して、Pt/CB溶液を得る。
このとき、カーボン粒子分散液と白金カルボニル錯体溶液とを超音波処理を行いながら混合することが好ましい。そして、カーボン粒子分散液と白金カルボニル錯体溶液とを混合する時間は、30分以上90分以下であることが好ましい。
カーボン粒子としては、例えば、ケッチェンブラック等が挙げられる。
そして、カーボン粒子分散液におけるカーボン粒子の濃度は、特に限定されず、0.1mmol/L以上10mmol/L以下であることが好ましい。
ここで、図2〜図4は、白金粒子担持カーボンブラック触媒の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
図2に示すように、エタノールを選択すると、平均粒子径が2.00±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができ、図3及び図4に示すように、ブタノール或いはヘキサノールを選択すると、平均粒子径が2.30±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができるようになる。
【0027】
(D)濾過工程
Pt/CB溶液を濾過することにより、白金粒子担持カーボンブラック触媒を得る。
(E)電極作製工程
白金粒子担持カーボンブラック触媒をエタノール中に分散して、懸濁液を得て、懸濁液を基体に塗布して、乾燥させることにより電極を得る。
【0028】
<第二の実施形態>
第二の実施形態に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法は、試料溶液を作製する試料溶液作製工程(A)と、白金カルボニル錯体溶液を作製する白金カルボニル錯体溶液作製工程(B)と、カーボン粒子分散液に白金カルボニル錯体溶液を混合してPt/CB溶液を得る混合工程(C)と、白金粒子担持カーボンブラック触媒を得る濾過工程(D)と、白金粒子担持カーボンブラック触媒を基体上に塗布する電極作製工程(E)とを含む。なお、上述した第一の実施形態と同様のものについては、説明を省略する。
【0029】
(A)試料溶液作製工程
水とアセトニトリルとの混合溶媒に、化学式(1)又は化学式(2)で示す白金化合物を溶解させて試料溶液を作製する。
水とアセトニトリルとの混合溶媒は、体積比で水:アセトニトリル=1:1であることが好ましい。
そして、試料溶液作製工程で作製される試料溶液における白金化合物の濃度は、特に限定されず、0.1mmol/L以上10mmol/L以下であることが好ましい。
【0030】
(B)白金カルボニル錯体溶液作製工程
25℃以上65℃以下の温度範囲から選択される所定の温度で試料溶液を加熱しながら、試料溶液にCOをバブリングして、その後、攪拌することにより、白金カルボニル錯体溶液を作製する。
所定の温度は、30℃や40℃や50℃や60℃であることが好ましい。
COをバブリングする時間は、1時間以上5時間以下であることが好ましい。
攪拌する時間は、30分以上50時間以下であることが好ましい。
なお、白金カルボニル錯体は、化学式(3)で示す化合物であることが好ましい。
【0031】
ここで、図5は、第二の実施形態で得られる白金カルボニル錯体溶液の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。
図5(a)に示すように、30℃を選択したときには、反応後の紫外可視吸収スペクトルにおけるピーク値が540nmであり、すなわち文献等(365、545nm)により化学式(3)中のnが3である白金カルボニル錯体が形成されている。また、図5(b)に示すように、40℃を選択したときには、反応後の紫外可視吸収スペクトルにおけるピーク値が490nmであり、図5(c)に示すように、50℃を選択したときには、反応後の紫外可視吸収スペクトルにおけるピーク値が470nmであり、図5(d)に示すように、60℃を選択したときには、反応後の紫外可視吸収スペクトルにおけるピーク値が420、700nmであり、図5(e)に示すように、70℃を選択したときには、反応後の紫外可視吸収スペクトルにおけるピーク値が405、700nmである。
【0032】
ここで、図6〜図8は、白金粒子担持カーボンブラック触媒の透過型電子顕微鏡写真と粒度分布のグラフとを示す図である。
これにより、図6に示すように、30℃を選択すると、平均粒子径が1.80±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができ、図7に示すように、50℃を選択すると、平均粒子径が2.30±0.35nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持することができるようになる。なお、図8に示すように、70℃を選択すると、微粒子状の白金の凝集体が形成された。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
<実施例1>
(A)試料溶液作製工程
エタノールに、0.5mmol/LのH2PtCl6・6H2Oを溶解させた試料溶液を作製した。
(B)白金カルボニル錯体溶液作製工程
試料溶液を35℃で加熱しながら、試料溶液にArガスを20分間バブリングした後、COを4時間バブリングして、その後、32時間攪拌することにより、白金カルボニル錯体溶液を作製した。
【0034】
(C)混合工程
エタノール4mlにケッチェンブラック0.39mgを分散させたカーボン粒子分散液と、白金カルボニル錯体溶液とを、超音波処理を1時間行いながら混合して、Pt/CB溶液を得た。
(D)濾過工程
Pt/CB溶液を濾過することにより、実施例1に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒(以下、「Pt−et/CB」ともいう)を得た。
(E)電極作製工程
実施例1に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒をエタノール1.1ml中に分散して、懸濁液を得て、懸濁液20μlをマイクロピペットで直径5mmのグラッシーカーボン製円柱体の上面に滴下して、乾燥させることにより、実施例1に係る電極を得た。
【0035】
<実施例2>
試料溶液作製工程と白金カルボニル錯体溶液作製工程とで、エタノールの代わりに、ブタノールを使用し、白金カルボニル錯体溶液作製工程において攪拌する時間を42時間としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒(以下、「Pt−but/CB」ともいう)と電極とを得た。
<実施例3>
試料溶液作製工程と白金カルボニル錯体溶液作製工程とで、エタノールの代わりに、ヘキサノールを使用し、白金カルボニル錯体溶液作製工程において攪拌する時間を40時間としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒(以下、「Pt−hex/CB」ともいう)と電極とを得た。
【0036】
<実施例4>
(A)試料溶液作製工程
水とアセトニトリルとの1:1の混合溶媒に、0.5mmol/LのH2PtCl6・6H2Oを溶解させた試料溶液を作製した。
(B)白金カルボニル錯体溶液作製工程
試料溶液を30℃で加熱しながら、試料溶液にArガスを20分間バブリングした後、COを4時間バブリングして、その後、4時間攪拌することにより、白金カルボニル錯体溶液を作製した。
【0037】
(C)混合工程
水とアセトニトリルとの1:1の混合溶媒4mlにケッチェンブラック0.39mgを分散させたカーボン粒子分散液と、白金カルボニル錯体溶液とを、超音波処理を1時間行いながら混合して、Pt/CB溶液を得た。
(D)濾過工程
Pt/CB溶液を濾過することにより、実施例4に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒(以下、「Pt−30/CB」ともいう)を得た。
(E)電極作製工程
実施例4に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒をエタノール1.1ml中に分散して、懸濁液を得て、懸濁液20μlをマイクロピペットで直径5mmのグラッシーカーボン製円柱体の上面に滴下して、乾燥させることにより、実施例4に係る電極を得た。
【0038】
<実施例5>
白金カルボニル錯体溶液作製工程において50℃で加熱しながら、その後、90分攪拌したこと以外は実施例4と同様にして、実施例5に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒(以下、「Pt−50/CB」ともいう)と電極とを得た。
【0039】
<比較例1>
Pt/CB触媒(田中貴金属製、商品名「TEC10E50E」)を比較例1に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒(以下、「Pt/CB−TKK」ともいう)とした。また、比較例1に係る電極を得た。
<比較例2>
白金カルボニル錯体溶液作製工程において70℃で加熱しながら、その後、1時間攪拌したこと以外は実施例4と同様にして、比較例2に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒(以下、「Pt−70/CB」ともいう)と電極とを得た。
【0040】
<物性評価>
(1)電解放射型透過電子顕微鏡写真
電解放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)(日立製作所社製、「HF-2000」、加速電圧200 kV)を用いて、TEM写真を撮影した。
図2〜図4、図6〜図9に、実施例1〜5及び比較例1〜2に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒のTEM写真と、粒度分布のグラフとを示す。
その結果、比較例1に係る白金粒子担持カーボンブラック触媒は、平均粒子径が3.19±0.68nmの微粒子状の白金をカーボン表面に担持していた。つまり、粒子径が大きくかつ分布幅が広い微粒子状の白金を担持している。
【0041】
<性能評価>
(2)Tafelプロット
Tafelプロットを算出するための対流ボルタモグラムを測定するのに、回転電極用測定セルを使用した。ここで、図10は、回転電極用測定セルを示す図である。
回転電極用測定セルは、第一貯水槽31と、第二貯水槽32と、第一貯水槽31内の上部に配置される作用極21と、第一貯水槽31内の下部に配置される対極22と、第二貯水槽32内の上部に配置される参照極(RHE)23と、第一貯水槽31内と第二貯水槽32内とを連結するキャピラリー24と、第一貯水槽31内に連結される酸素ガス供給口25及び酸素ガス排出口26と、作用極21が下部に取り付けられる電極支持体30と、電極支持体30を回転させるモータ27と、回転電極用測定セルを制御するポテンシオスタット28とを備える。
【0042】
ポテンシオスタット28は、例えば、コンピュータ制御のポテンシオスタット「BASCV−50W」等である。
作用極21には、実施例1〜5及び比較例1〜2に係る電極を用いた。このとき、作用極21を、熱収縮チューブと銀ペーストとを用いて、グラッシーカーボン製円柱体の上面が下側となるように、電極支持体30の下部に取り付けた。さらに、メタクリル酸メチルポリマー(和光純薬工業社製、「138−02735」)のアセトン溶液を作用極21の側面に塗布した後、アセトンを除去することにより、作用極21の側面をメタクリル酸メチルポリマーで被覆した。
【0043】
なお、対極22は円形状の白金板で形成し、参照極23はHg/Hg2SO4電極で形成した。第一貯水槽31内と第二貯水槽32内とには、0.1mol/LのHClO4を電解液29として入れた。
また、測定中には、電解液29を25℃に保ち、酸素ガス供給口25から酸素ガスを流速20ml/minで導入しながら、0.05〜1.0V(vs.RHE)まで正電位方向に走査して行った。
そして、モータ27を各回転数(0、1600rpm)で回転させた際に得られる測定電流i及び電極電位Eを5回ずつ測定した。
【0044】
その結果、1600rpmの結果の平均値から0rpmの結果の平均値を差し引くことで、対流ボルタモグラムを得た。そして、式(1)を用いてPt実面積Sptを算出した。さらに、対流ボルタモグラムから式(2)を用いて活性化支配電流iを算出し、活性化支配電流iと電極電位Eとの関係からTafelプロットを描いた。図11及び図12に、実施例1〜5及び比較例1に係る電極のTafelプロットを示す。
pt=Q/210・・・・・・(1)
k=il×i/(il−i)・・・(2)
ここで、Qは水素の脱着電気量であり、ilは拡散限界電流であり、iは測定電流である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造等に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 高分子固体電解質膜
2 酸素極
3 水素極
4、5 ガスケット
6、7 集電体
8、10 フレーム
9 酸素極室
11 水素極室
12 酸素ガス供給口
13 未反応酸素ガス及び生成水取出口
14 水素ガス供給口
15 未反応水素ガス取出口
21 作用極
22 対極
23 参照極
24 キャピラリー
25 酸素ガス供給口
26 酸素ガス排出口
27 モータ
28 ポテンシオスタット
30 電極支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とアセトニトリルとの混合溶媒、エタノール、並びに、ブタノール或いはヘキサノールからなる群から選択される1種類の溶媒に、化学式(1)又は化学式(2)で示す白金化合物を溶解させて試料溶液を作製する試料溶液作製工程と、
前記試料溶液を30℃以上40℃以下で加熱しながら、前記試料溶液に一酸化炭素をバブリングして、白金カルボニル錯体溶液を作製する白金カルボニル錯体溶液作製工程と、
前記試料溶液作製工程で選択された1種類の溶媒にカーボン粒子を分散させたカーボン粒子分散液に、前記白金カルボニル錯体溶液を混合する混合工程とを含むことを特徴とする白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法。
PtX・・・(1)
PtX・・・(2)
ここで、Mはアルカリ金属、アンモニウム基又は水素であり、Xはハロゲン原子である。
【請求項2】
水とアセトニトリルとの混合溶媒に、化学式(1)又は化学式(2)で示す白金化合物を溶解させて試料溶液を作製する試料溶液作製工程と、
25℃以上65℃以下の温度範囲から選択される所定の温度で試料溶液を加熱しながら、前記試料溶液に一酸化炭素をバブリングして、白金カルボニル錯体溶液を作製する白金カルボニル錯体溶液作製工程と、
水とアセトニトリルとの混合溶媒にカーボン粒子を分散させたカーボン粒子分散液に、前記白金カルボニル錯体溶液を混合する混合工程とを含むことを特徴とする白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法。
【請求項3】
前記カーボン粒子は、ケッチェンブラックであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程において、前記カーボン粒子分散液に、前記白金カルボニル錯体溶液を超音波処理を行いながら混合することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の白金粒子担持カーボンブラック触媒の製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−284577(P2010−284577A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139062(P2009−139062)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物に発表 発行者名 社団法人電気化学会 刊行物名 「電気化学会第76回大会 講演要旨集」 発行年月日 平成21年 3月29日 2.刊行物に発表 発行者名 社団法人電気化学会 刊行物名 「電気化学会第76回大会 講演要旨集」 発行年月日 平成21年 3月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20〜21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/低白金化技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】