説明

皮膚保護剤

【課題】イソプロパノールを使用せず、1)臭いおよび刺激性が少なく、安全性が高い、および2)被膜強度が強靱で、かつ柔軟性があり、皮膚に密着する、被膜形成型の皮膚保護剤を提供する。
【解決手段】a.アクリル系ポリマー、b.セルロース誘導体、c.アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム、およびd.含水エタノールを含んでなる、被膜形成型の皮膚保護剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学薬品やその他の刺激性物質から皮膚を保護するための皮膚保護剤に関する。より詳細には、皮膚表面に塗布することにより被膜を形成せしめ、もって皮膚の保護を図る、皮膚保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食器その他の器具用洗剤には界面活性剤や化学薬品その他の刺激性物質が含まれ、家庭の主婦や、レストラン、病院、美容院等の器具洗浄者は日常的にこれら刺激性物質に晒されている。
このような人々の皮膚を肌荒れや接触性皮膚炎から予防するために、耐水性、かつアルカリ可溶性で被膜強度の優れたアクリル系ポリマーを主体とする皮膚保護剤が提案され(後記特許文献1参照)、その後その改良保護剤も提案されている(後記特許文献2参照)。これら保護剤は皮膚表面に塗布することにより被膜を形成せしめ、もって皮膚の保護を図る被膜形成型の皮膚保護剤であり、溶媒としてイソプロパノールを使用することにより、実用に供することのできる被膜強度を得ている。
【0003】
一方、化粧品の分野では、肌荒れを防止して皮膚に潤いを与える保湿剤としてヒアルロン酸誘導体が用いられる。例えば、低級アルコール、特にエタノールとアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムを組み合わせた速乾性殺菌剤が提案されているが(後記特許文献3参照)、本剤はエタノールによる殺菌効果とヒアルロン酸誘導体による保水・肌荒れ防止効果を目的とするもので、被膜形成型の皮膚保護剤とは異なる。
【特許文献1】特公平2−9006号公報
【特許文献2】特開平5−32535号公報
【特許文献3】特開2006−89388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既に提案されている被膜形成型の皮膚保護剤ではイソプロパノール特有の刺激臭により、使用者が不快に感じる問題が残された。また安全性の点からもイソプロパノールはエタノールに比べて毒性が高く、日常的に使用する場合における問題が危惧される。さらにイソプロパノールは、塗布後乾燥するに至るまでに時間がかかるという不便さがある。
溶媒をエタノールに換えるとこれらの問題は解決されるが、他方、形成される被膜強度が大幅に低下し、実用上十分なものとは言えないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、アクリル系ポリマーに保湿剤として知られているアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムを添加することで、溶媒としてエタノールを使用しても強靱かつ柔軟な被膜を形成する皮膚保護剤となることを見出して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0006】
一般に、被膜形成型の皮膚保護剤に対しては下記のような特性が求められる。
(1) 薄く透明な被膜を形成すること。
(2) 耐水性があり、アルカリ可溶性であること。
(3) 中性洗剤を透過しないこと。
(4) アルコール又は含水アルコールに溶解すること。
(5) 通気性及び透湿性があり、被覆時に蒸れず、べとつかないこと。
(6) 残存モノマーなどの不純物が少ないこと。
(7) 臭い及び刺激性が少なく、安全性が高いこと。
(8) 被膜強度が強靭で、かつ柔軟性があり、皮膚に密着すること。
(9) 塗布後の乾燥時間が短いこと。
【0007】
本発明の皮膚保護剤は、適量を皮膚に塗布することにより、極めて薄い被膜を形成する。形成された被膜は速乾性で十分に耐水性があり、伸びがあってかつ柔軟で皮膚に違和感を与えることなく、よく密着する。そして、各種洗剤に含まれる化学薬品や刺激性物質から皮膚を保護する。さらに、使用時においてイソプロパノール特有の臭いがなく、刺激性もなくて安全性が高い。また、使用後は通常の石鹸等の弱アルカリ性溶液若しくはアルコールで容易に除去することができる。
即ち、本発明は被膜形成型の皮膚保護剤としての上記(1)から(6)の特性を損なうことなく、かつ、(7)から(9)の問題点を改良することに成功した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で使用されるアクリル系ポリマーとしては先の特許公報(特公平2−9006号)に記載されたアクリル酸エチル(EA)およびメタアクリル酸(MAA)とのコポリマーが使用される。当該コポリマーは、酸性及び中性領域で耐水性の高い被膜を形成する一方、アルカリ可溶性を有するので通常の石鹸(弱アルカリ性)で洗うことにより容易に除去することができる利点がある。EAの比率が高いと耐水性に富む被膜が、MAAの比率が高いとアルカリ可溶性に富む被膜がそれぞれ得られるので、EAとMAAの混合比率により耐水性とアルカリ可溶性のバランスを調節でき、本発明ではEAおよびMAAのモノマー比は60/40から95/5の範囲内のコポリマーが好適に使用される。さらに残存モノマーおよび界面活性剤が残存すると皮膚刺激性があったり、被膜が脆弱となったりする問題があるので、残存モノマーは50ppm以下であり、実質的に界面活性剤を含まないコポリマーが好ましい。また、該コポリマーの平均分子量は特に限定されないが、本発明の目的のためには約10万〜200万、好ましくは10万〜130万のものが好適に使用される。
本発明の保護剤中、該コポリマーの含有量は保護剤全体に対する重量比で2%〜10%が好ましい。
【0009】
本発明で使用されるアセチル化ヒアルロン酸ナトリウム(以下、AcHA)は既知物質であって、既知の製法(例えば、特開平6−9707号公報または特開平8−53501号公報参照)で製造することができるが、分子量1万〜100万程度のものが好適に用いられる。また、本発明で使用されるAcHAとしてはヒアルロン酸構成単位当たりのアセチル基の置換数が2〜4のものが好ましい。
本発明の保護剤中、AcHAの含有量は保護剤全体に対する重量比で0.001%〜0.5%が好ましい。
【0010】
本発明で使用されるセルロース誘導体としては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が例示される。中でも、エチルセルロースが最も好適に使用される。これらセルロースの含有量は保護剤全体に対する重量比で0.2〜2%である。セルロース含有量が上限を超えると形成される被膜が脆弱となる。また、下限より低下すると乾燥中にネバネバ感が出現しやはり好ましくない。
【0011】
本発明の皮膚保護剤には、所望に応じて可塑剤を配合してもよい。可塑剤としては、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられ、これらを単独または組み合わせて配合してもよい。
特に好ましくは、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコールで、その配合量は保護剤全体に対する重量比で10%以下、さらに好ましくは、0.1〜5%の範囲である。
【0012】
本発明の皮膚保護剤には、所望に応じて皮膚外用剤に用いられる薬剤若しくは化粧料として有効な成分を配合してもよい。ここで使用される有効成分としては、特に限定はされないが、例えば、美白成分、抗炎症成分、抗菌成分、細胞賦活化成分、抗酸化成分、老化防止成分、血行促進成分、保湿成分等を挙げることができる。
また、本発明の皮膚保護剤を塗布する前に、適当な皮膚外用剤を塗布しておくと液状絆創膏または密封包帯法(ODT)における保護膜として利用可能である。
さらに、本発明の皮膚保護剤は低粘度のローション剤であるが、使用に際しては保存中に液剤が乾燥・蒸発しない程度の密閉型容器または袋状体に封入されておればよく、一般に言うところのローションタイプとして用いる他、例えば、不織布などに含浸させた後、一枚ずつもしくは複数枚を袋状体あるいはボトル容器などに封入してウエットティッシュタイプとして、または噴霧式容器に封入してスプレータイプとするなど、状況に応じて所望の形態を選択することができる。本発明の皮膚保護剤は、適量を皮膚に塗布して薄い皮膜を形成することができれば、その効果を発現することができる。
【実施例】
【0013】
以下の実施例および試験例等により本発明をより詳しく説明する。下記実施例、比較例および対照においては、特に記載しない限り、アクリル系ポリマーとして、上記のEAおよびMAAのコポリマーを使用した。また、該コポリマーの分子量は特に記載したコポリマーを除いて40万〜60万の範囲である。
【0014】
実施例1〜3
室温でアクリル系ポリマーにエタノールを加え、ポリマーが完全に溶解するまで撹拌した。そのポリマー溶液にアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムを徐々に加え、均一な分散液を調製した後、水を加えて全量200gとし、完全に溶解するまで撹拌した。
【0015】
実施例4〜9
室温でアクリル系ポリマーにエタノールを加え、ポリマーが完全に溶解するまで撹拌した。ポリマー溶液にエチルセルロースとアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムを徐々に加え、均一な分散液を調製した後、水を加えて全量200gとし、完全に溶解するまで撹拌した。
【0016】
実施例10
室温でアクリル系ポリマーにエタノールとプロピレングリコールを加え、ポリマーが完全に溶解するまで撹拌した。ポリマー溶液にエチルセルロースとアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムを徐々に加え、均一な分散液を調製した後、水を加えて全量200gとし、完全に溶解するまで撹拌した。
実施例11〜12
上記実施例4〜9と同様にして調製した。
上記各実施例の成分比を以下の表1に示した。
【0017】
【表1】

(表中、「バランス」とは該当成分を加えて全量を調節したことを示す。)
【0018】
比較例1〜3
アクリル系ポリマーにエタノールを加え、ポリマーが完全に溶解するまで撹拌した。ポリマー溶液にエチルセルロースを徐々に加え、均一な分散液を調製した後、水を加えて全量200gとし、完全に溶解するまで撹拌した。
比較例4
アクリル系ポリマーにエタノールとプロピレングリコールを加え、ポリマーが完全に溶解するまで撹拌した。ポリマー溶液にエチルセルロースを徐々に加え、均一な分散液を調製した後、水を加えて全量200gとし、完全に溶解するまで撹拌した。
【0019】
比較例5〜6
上記比較例1〜3と同様にして調製した。
比較例7〜8
エタノールにエチルセルロースを徐々に加え、均一な分散液を調製した後、水を加えて全量200gとし、完全に溶解するまで撹拌した。
対照1〜5
特許文献(特公平2−9006号)の実施例の記載に従って、調製した。
対照6〜7
それぞれ、特許文献(特開平5−32535号)の実施例6および同8の記載に従って調製した。
【0020】
上記比較例1〜8および対照1〜7の成分比を以下の表2〜表4に示した。
【表2】

【0021】
【表3】

(表中、「バランス」は表1と同様。)
【0022】
【表4】

【0023】
表中、「オイドラギット」とは、ドイツのローム・ファーマ社より市販されているアクリル系ポリマーの商品名(登録商標)であって、以下の共重合体を表す。
「オイドラギット」S100;
メタアクリル酸メチル:メタアクリル酸=2:1
「オイドラギット」L100;
メタアクリル酸メチル:メタアクリル酸=1:1
「オイドラギット」RS100;
アクリル酸エチル:メタアクリル酸メチル:メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウム=1:2:0.2
また、「バランス」は表1と同様である。
【0024】
本発明実施例の保護剤並びに比較例および対照について以下の試験を実施した。
試験例1:官能試験
各検体を人の手の甲に塗布し、塗布時の接着性及び粘着性と乾燥後の接着性、透明性、伸び、ツッパリ感を4段階で評価し、採点を実施した。
【表5】

【0025】
試験例2:被膜強度試験
手をよく洗浄した後、水分を完全乾燥させ、各試験検体を用い、使用量(1〜2mL)を手に塗布して、完全に乾燥させた。1)その後、手を濡らし、軽く手を振り余分な水分を除いた後、水分が完全になくなるまで、両手をこすり合わせ、膜の状態を確認した。
膜がとれなかった場合は、上記1)のステップから以降の行為を、膜が剥離するまで繰り返した。判定は、膜が剥離するまでに繰り返した回数とした。試験は10回繰り返してその平均値を計算した。
【0026】
【表6】

【0027】
試験例3:総合評価
以下の基準に従い、上記官能試験および被膜強度試験の総得点結果により4段階評価を行った。
【表7】

【0028】
試験例1〜3の結果をまとめて以下の表8〜10に示した。
【表8】

【0029】
【表9】

【0030】
【表10】

【0031】
比較例1〜6はアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムを無添加、比較例7〜8はアクリル系ポリマーを無添加とし、比較例9〜11はエタノールに換えてイソプロパノールを用いた皮膚保護剤である。いずれも総合判定では9点以下(×)の評価しか得られなかった。
対照1〜5は特許文献(特公平2−9006号)の実施例であって、中には高い評価の皮膚保護剤も認められるがいずれもイソプロパノールを用いているので、特有の臭いその他前記の諸問題は未解決である。対照6〜7は別の特許文献(特開平5−32535号)に記載されたその改良型であるが、評価はむしろ低かった。
一方、本発明の皮膚保護剤はエタノールを用いているのでイソプロパノールの使用に由来する問題もなく、かつ概ね高い評価(◎または○)が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に下記基本成分a〜dからなる皮膚保護剤。
a. アクリル酸エチルとメタアクリル酸とのモノマー比が60/40から95/5の範囲内にあるアクリル系ポリマー 2〜10%、
b. セルロース誘導体 0.2〜2%、
c. アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム 0.001%〜0.5%、および
d. 含水エタノール 残余量
【請求項2】
基本成分aのポリマーの残存モノマーが50ppm以下であり、実質的に界面活性剤を含まない請求項1記載の皮膚保護剤。
【請求項3】
基本成分aのポリマーの平均分子量が10万〜130万である、請求項1〜2のいずれかに記載の皮膚保護剤。
【請求項4】
基本成分bのセルロース誘導体がエチルセルロースである、請求項1〜3のいずれかに記載の皮膚保護剤。
【請求項5】
基本成分cのアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムの平均分子量が10,000〜1,000,000である、請求項1〜4のいずれかに記載の皮膚保護剤。
【請求項6】
基本成分cのアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムのアセチル基置換数がヒアルロン酸構成単位当たり2〜4である、請求項1〜5のいずれかに記載の皮膚保護剤。

【公開番号】特開2008−100966(P2008−100966A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286384(P2006−286384)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000142034)株式会社共和 (12)
【Fターム(参考)】