説明

皮膚外用剤の鑑別法

【課題】
角層細胞の厚み、経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値の変化を指標とする皮膚外用剤用の油性成分を鑑別する方法を提供する。
【解決手段】
1)ヒトの皮膚に被験油性成分を閉塞貼付し、該部位の角層細胞を採取し、コントロールとして閉塞貼付のみを行った皮膚における角層細胞の表面積あたりの厚さの割合の比を求め、第一指標とし、2)別途求めた、油性成分閉塞貼付部位の経表皮水分蒸散量(TEWL)に対する閉塞貼付のみを行った部位のTEWL比を求め、第二指標とし、3)別途求めた、油性成分閉塞貼付部位の電気抵抗値に対する閉塞貼付のみを行った部位の電気抵抗値比を求め、第三指標とし、第一指標及び第二指標が1前後であり、第三指標が1より大きい場合に、皮膚の柔軟性を付与する作用を有すると鑑別する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性成分の鑑別法に関し、更に詳細には、角層細胞の厚みの変化、経表皮水分蒸散量(TEWL)の変化及び電気抵抗値の変化を指標とする皮膚外用剤用の油性成分の鑑別法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品の販売現場では、長い間専門の美容販売員が顧客の肌を視覚的、触覚的に判断し、肌に最適と考えられる化粧品を提供してきた。しかしながら、顧客の肌に対する販売員の判断のバラツキが認められるため、客観的な評価方法が望まれ、肌の客観的な評価方法として角層を用いる種々の方法が検討された。角層は容易かつ非侵襲的に採取が可能であり、皮膚の内部の状態も反映していると考えられるため、テープなどにより角層細胞を採取し、その形態的特徴から肌の状態を評価する方法が知られている。例えば、採取した角層細胞の面積や体積を測定し、角層細胞の面積が大きい皮膚のバリア能力が高く、体積が同じでも皮膚の厚みが大きくなるとバリア能力が低下すると評価する皮膚の状態に関する鑑別法が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
一方、皮膚の弾力、柔軟性と角層との関連性については、皮膚から採取した角層中の酸化タンパク質中のカルボニル基を特異的に蛍光標識し、その蛍光を検出することで角層中の酸化タンパク質を把握し、酸化タンパク質を減少させることにより肌の柔軟性・弾力性の保持、向上が図れることが知られている(特許文献3)。また、角層細胞に紫外線を照射し、紫外線による蛍光(発光)強度が皮膚柔軟性、及び角層細胞におけるβシート型のケラチンの存在割合と相関し、角層細胞の状態から皮膚の柔軟性の予測が可能であることも知られている(特許文献4)
【0004】
しかしながら、皮膚の状態に関する鑑別法で非侵襲的かつ容易に皮膚外用剤の効果を鑑別する方法及び皮膚外用剤に含有される成分の角層に対する効果を容易に鑑別する方法は全く知られていない。さらに、皮膚の柔軟性を向上する皮膚外用剤を容易に選択できる評価法は、ほとんど検討されておらず十分ではない。美容に対する皮膚外用剤の効果が期待される中、老化とともに低下する皮膚の柔軟性を改善する皮膚外用剤を容易に選択できる方法、特に柔軟性を改善する成分の解明及び該成分を含有する皮膚外用剤の開発が望まれていた。従って、皮膚外用剤用の油性成分によって、角層細胞の厚みの変化といった角層形態が変化し、皮膚のバリアー能や皮膚の水分量に関連する角層採取部位の経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値が変化するといったことは知られておらず、このような油性成分の皮膚の状態への影響を把握することにより、皮膚中の水分量や柔軟性を改善する皮膚外用剤の検討はされてこなかった。又、この様に複数の因子を油性成分の投与が動かすことから、油性成分の皮膚状態への影響は因子の複合的な解析が必要であることも全く知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2004-105700号公報
【特許文献2】特許3554642号公報
【特許文献3】特開2006-349372号公報
【特許文献4】特開2005-348991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、角層細胞の厚み、経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値の変化を指標として、皮膚外用剤用の油性成分を鑑別する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、皮膚の状態に有用な皮膚外用剤用の油性成分を鑑別する方法を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、皮膚外用剤用の油性成分をパッチ絆に塗布し、被験部位に貼布することにより閉塞状態とし、一定時間後パッチ絆を剥がし油性成分を除去し、角層細胞の厚み、経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値を測定する。また、コントロールとして油性成分を塗布せず同様に角層細胞の厚み、経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値を測定し、油性成分の有無による各測定値の変化を測定した結果、油性成分により角層細胞の形態が変化し、角層細胞の厚みが変化し、角層細胞の厚みが増加することにより柔軟性が低下すること、並びに油性成分により適用した皮膚の水分量及び経表皮水分蒸散量が増加することを見出した。
この知見を基に、本発明者らは、皮膚外用剤用の油性成分について、角層細胞の厚み、経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値を指標として、鑑別することが可能であることを見いだし発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示す通りである。
【0008】
(1)皮膚外用剤用の油性成分の鑑別法であって、ヒトの皮膚に被験油性成分を閉塞貼付した部位とコントロールとして何も塗布せず閉塞貼付のみを行った部位とを比較する方法で、角層細胞の厚みの変化、経表皮水分蒸散量(TEWL)の変化及び電気抵抗値の変化を指標とする、皮膚外用剤用の油性成分の鑑別方法。

(2)皮膚外用剤の油性成分の鑑別方法であって、1)ヒトの皮膚に被験油性成分を閉塞貼付し、該部位の角層細胞を採取し、コントロールとして閉塞貼付のみを行った皮膚における角層細胞の表面積あたりの厚さの割合の比を求め、第一指標とし、2)別途求めた、油性成分閉塞貼付部位の経表皮水分蒸散量(TEWL)に対する閉塞貼付のみを行った部位のTEWL比を求め、第二指標とし、3)別途求めた、油性成分閉塞貼付部位の電気抵抗値に対する閉塞貼付のみを行った部位の電気抵抗値比を求め、第三指標とし、第一指標及び第二指標が1前後であり、第三指標が1より大きい場合に、皮膚の柔軟性を付与する作用を有すると鑑別することを特徴とする、(1)に記載の皮膚外用剤用の油性成分の鑑別法。

【発明の効果】
【0009】
本発明により、角層細胞の厚み、経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値の変化を指標として、皮膚外用剤用の油性成分を鑑別する手段を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)本発明の皮膚外用剤用の油性成分
本発明の鑑別法に用いることが出来る皮膚外用剤用の油性成分としては、液体脂、半固形脂、固体脂が例示出来、液体脂、半固形脂がより好ましい。液体脂としては、炭化水素、極性油、シリコーンが例示でき、スクワラン(スクワラン;岸本製あるいは岸本特殊肝油工業製)、流動パラフィン(流パラ70;CK Witco corporation製)、トリエチルヘキサノイン(ノムコートTIO;日清オイリオ製)、ジメチコン(シリコーンKF96A−10;信越化学製)が好適に例示できる。半固体脂としては、炭化水素、極性油、シリコーンが例示でき、ワセリン(Petrolatum‘Prfct;CK Witco corporation製)、ラノリン(CRODALAN SWL;クローダジャパン製)、菜種硬化油(菜種硬化油HR−35;横関油脂工業製)、高重合メチルポリシロキサン(シリコーンKF96H50000;信越化学製)がより好適に例示できる。固体脂としては、炭化水素、極性油が例示でき、マイクロクリスタリンワックス(MICROCRYSTALLINE WAX; CK Witco corporation製)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・2−オクチルドデシル(エルデュウPS304;味の素製)がより好適に例示できる。液体脂の粘度としては、1から15000mPa・sのものが例示でき、4から6000mPa・sがより好ましい。半固形脂の粘度としては、30000から100000mPa・sのものが例示でき、40000から90000mPa・sがより好ましい。固体脂の粘度としては、100000mPa・s以上のものが例示でき、100000から500000mPa・sがより好ましい。これらは何れも化粧料の汎用原料であり、かかる汎用原料からそれぞれの皮膚性状に適した油性成分の選択がなしうることは産業上意義深い。
【0011】
(2)本発明の測定法
前記の皮膚に塗布する皮膚外用剤用の油性成分の量としては、0.001から0.5mLが好ましく、さらに0.01から0.1mLが好ましく、該油性成分を前記の量の範囲で絆創膏に塗布し、前腕内側に貼付する。さらにその上からテープを巻いて固定する。しかる後、8から24時間放置した後、テープ及び絆創膏を剥がし、油性成分を石けんで洗い流し取り除く。10から30分安静にした後、経表皮水分蒸散測定装置(TEWAmeter−TM300:Courage+Khazaka electronic GmbH製)、皮表角層水分量測定装置(インピーダンスメーター(SKICON−200EX;アイ・ビイ・エス(株)製))、柔軟性測定機器(Venustron;(株)アクシム製)を用いて皮膚の水分蒸散量、皮膚内水分量、皮膚の柔軟性を測定する。しかる後、油性成分を適用した皮膚の角層をセロハンテープなどの粘着テープで剥離して採取し、ガラス板に角層細胞を転写後、原子間力顕微鏡(SPM−9500:(株)島津製作所製)を用いてコンタクトモードにて角層の投影面積・厚み・体積を測定する。また、コントロールとして、同様に油性成分を塗布せず、皮膚の水分蒸散量、皮膚内水分量、柔軟性、角層の厚みを測定し、油性成分の有無による各測定値の変化から適用した油剤による皮膚の状態への影響について鑑別する。
【0012】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0013】
以下の試験条件で角層細胞の投影面積・厚み、経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値を測定した。測定の手順は、まず被験者が測定室に入室後、前腕屈側部を石鹸にて洗浄し、15分間環境にならすために安静状態で座る。前腕屈側部に肘から5cm離して直径1.5cmを2部位設定する。被験部位間は1cm離し、左右2部位ずつ被験部位を設定する。被験部位の隣接部位をコントロール部位としてセロハンテープで一回テープストリッピングする。被験油剤を絆創膏(パッチ)に塗布し、被験部位に貼付し24時間放置した。しかる後、絆創膏を除去してクレンジングオイル及び石鹸にて塗布部位を洗浄し、測定室にて15分間座って安静とした。安静後、被験部位を下記の測定機器を用いてTEWL、電気抵抗値、皮膚の柔軟性を測定した。さらに、粘着テープにて角層細胞をストリッピングし、ストリッピングした角層細胞をガラス板に転写後、原子間力顕微鏡(SPM−9500:(株)島津製作所製)を用いてコンタクトモードにて角層の厚みを測定し、角層細胞の投影面積と厚みとを用い、投影面積を厚みで割った値を扁平指数とした。各測定値及び算出値を図1−図4に示した。又、試験条件は表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
図1の結果から、液体脂、半固形脂を皮膚に塗布することにより、角層細胞の厚みが液体脂であるノムコートTIOにより有意に角層細胞を膨張し、シリコーンKF96A−10は有意に角層細胞を扁平化させ、半固形脂ではすべて角層細胞は有意に収縮し、扁平化することが明らかとなった。図2に経表皮水分蒸散量の結果を示すが、油性成分のパッチ前後変化(Δ値)は液体脂であるノムコートTIOにおいて、コントロール(空パッチ)部位に比べてTEWLを有意に抑制し、その他の液体脂、半固形脂ではTEWLが上昇した。角層水分量を示す電気抵抗値の測定の結果、図3に示すようにコントロールと比べて有意な差はないものの、シリコーンKF96A−10で電気抵抗値は減少し、ワセリンで上昇するなど油性成分による電気抵抗値の変化に違いが認められた。また、皮膚の柔軟性をコントロール(空パッチ)と比較した結果、図4に示すように柔軟性測定は、液体脂であるスクワラン、流動パラフィンは皮膚の柔軟性を向上し、ノムコートTIOは有意に低下させた。半固形脂であるワセリンは有意に柔軟性を低下させた。さらに、図3と図4のデータから電気抵抗値が上昇すると柔軟性が低下する傾向がノムコートTIOで認められており、電気抵抗値がコントロールに比べて上昇した場合に、皮膚の柔軟性を付与する作用を有する可能性が示された。
【0016】
以上のように皮膚外用剤に使用される油性成分により、角層の厚み、経表皮水分蒸散量、電気抵抗値及び皮膚の柔軟性が変化し、電気抵抗値と柔軟性との間に相関が示唆されたことから、本発明により油性成分の皮膚への影響を因子毎に鑑別できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、角層細胞の厚み、経表皮水分蒸散量(TEWL)及び電気抵抗値の変化を指標として、皮膚外用剤用の油性成分を鑑別する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】皮膚外用剤用油性成分による扁平指数の変化
【図2】皮膚外用剤用油性成分による経表皮水分蒸散量(TEWL)の変化
【図3】皮膚外用剤用油性成分による角層水分量(電気抵抗値)の変化
【図4】皮膚外用剤用油性成分による皮膚柔軟性の変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚外用剤用の油性成分の鑑別法であって、ヒトの皮膚に被験油性成分を閉塞貼付した部位とコントロールとして何も塗布せず閉塞貼付のみを行った部位とを比較する方法であって、角層細胞の厚みの変化、経表皮水分蒸散量(TEWL)の変化及び電気抵抗値の変化を指標とする、皮膚外用剤用の油性成分の鑑別方法。
【請求項2】
皮膚外用剤の油性成分の鑑別方法であって、1)ヒトの皮膚に被験油性成分を閉塞貼付し、該部位の角層細胞を採取し、コントロールとして閉塞貼付のみを行った皮膚における角層細胞の表面積あたりの厚さの割合の比を求め、第一指標とし、2)別途求めた、油性成分閉塞貼付部位の経表皮水分蒸散量(TEWL)に対する閉塞貼付のみを行った部位のTEWL比を求め、第二指標とし、3)別途求めた、油性成分閉塞貼付部位の電気抵抗値に対する閉塞貼付のみを行った部位の電気抵抗値比を求め、第三指標とし、第一指標及び第二指標が1前後であり、第三指標が1より大きい場合に、皮膚の柔軟性を付与する作用を有すると鑑別することを特徴とする、請求項1に記載の皮膚外用剤用の油性成分の鑑別法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−280265(P2008−280265A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124214(P2007−124214)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】