説明

皮膚外用剤

【課題】保湿性が高く、肌荒れの予防及び改善・修復効果に優れた皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】酪酸菌(Clostridium butyricum)培養液又は酪酸菌培養エキスを有効成分として含有させてなる皮膚外用剤である。また、酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスに、酪酸菌の生菌体及び/又は死菌体を加えてなる皮膚外用剤である。この酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスを用いた皮膚外用剤は、保湿性が高く、肌荒れの予防及び改善・修復効果に優れ、且つ副作用の恐れがなく安全性に優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿性が高く、アトピー性皮膚炎や肌荒れの予防及び改善・修復効果に優れた皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活様式の変化による体調不良などの内的ストレスや、紫外線や住環境の低湿度化などの外的ストレスなどがもたらす影響により、アトピー性皮膚炎や肌荒れといった皮膚疾患が増大している。
【0003】
アトピー性皮膚炎は乳幼児期に発症することが多く、増悪・寛解をくり返しながら長期間続く皮膚炎で、痒みのある湿疹を主な症状とする皮膚疾患である。乳幼児期に発症したアトピー性皮膚炎は、成長と共に治癒することが多かったが、近年は成人期まで続くこともあり、中には成人になってから発症する患者が急増している。そしてこのような現状に対して、種々の抗アレルギー皮膚外用薬が開発され市販されている。
【0004】
また、肌荒れは、皮膚表面の角質層が乾燥し、キメが乱れ、小さくささくれだつ状態のことをいい、この肌荒れを防止するには皮膚表面の乾燥を防止し、保湿する必要がある。この肌荒れの予防・改善、皮膚の保湿等の目的で、種々の植物等の抽出物やグリセリン等を配合した皮膚外用剤が使用されている。
【0005】
一方、酪酸菌(Clostridium butyricum)は、偏性嫌気性の芽胞形成性菌であり、腐敗菌を始めとした種々の消化管病原体に対して拮抗作用を有し、乳酸菌等のいわゆる腸内有益菌と共生することにより、整腸効果を発揮することが知られており、その酪酸菌の培養液、又は当該培養液をろ過して生菌を回収した後に残る酪酸菌培養エキスにも腸内菌叢作用があることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−92862号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように種々の抗アレルギー皮膚外用薬が開発され市販されているが、これらは長期の連用においては、副作用の面で満足のいくものではない。このため、副作用の恐れがなく、優れた抗アレルギー作用を有する皮膚外用薬が望まれている。また、従来の皮膚外用薬の中には、上述のように種々の植物等から抽出された抽出物が含まれているが、これら抽出物はアルコールを含有する溶媒で抽出して得られるため、アルコールに敏感な人は、皮膚外用薬が炎症部位に染み込み、染み込んだ部位を刺激して痛みを発生させ、使用できないといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、保湿性が高く、アトピー性皮膚炎や肌荒れの予防及び改善・修復効果に優れ、且つ副作用の恐れがなく連続的に適用可能な安全性の高い皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスが皮膚保湿作用および皮膚修復作用等を有することを見出し、本発明に想到した。
【0009】
本発明の請求項1の皮膚外用剤は、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養液又は酪酸菌培養エキスを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2の皮膚外用剤は、前記酪酸菌(Clostridium butyricum)培養液又は酪酸菌培養エキスに、酪酸菌(Clostridium butyricum)の生菌体及び/又は死菌体を加えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3の石けんは、請求項1又は2記載の皮膚外用剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1の皮膚外用剤は、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養液又は酪酸菌培養エキスを含有するものである。
【0013】
この請求項1によれば、皮膚の水分が減少して乾燥することにより、カサカサになってひび割れが起こる皮膚を軟化させ治癒させるのに有効であり、またそのひび割れを防止することができるとともにアレルギーや痛みを引起すことなく連続的に適用することができる。さらに、アトピー性皮膚炎の症状や乾燥による皮膚傷害を改善・修復することができる。
【0014】
請求項2の発明の皮膚外用剤は、前記酪酸菌(Clostridium butyricum)培養液又は酪酸菌培養エキスに、酪酸菌(Clostridium butyricum)の生菌体及び/又は死菌体を加えたものである。
【0015】
この請求項2によれば、皮膚の水分が減少して乾燥することにより、カサカサになってひび割れが起こる皮膚を軟化させ治癒させるのに有効であり、またそのひび割れを防止することができるとともにアレルギーや痛みを引起すことなく連続的に適用することができる。さらに、アトピー性皮膚炎の症状や乾燥による皮膚傷害を改善・修復することができる。
【0016】
本発明の請求項3の石けんは、請求項1又は2記載の皮膚外用剤を含有するものである。
【0017】
この請求項3によれば、肌荒れや乾燥等の肌トラブルの防止のみならず、長期的に顕在化する肌の老化の防止など、幅広い効果をもたらすことが期待される。さらに、アトピー性皮膚炎の症状や乾燥による皮膚傷害を改善・修復することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明に用いられる酪酸菌(Clostridium butyricum)は、偏性嫌気菌で芽胞を形成するグラム陽性の桿菌である。芽胞の形成により、耐熱性、耐酸性をもち、生菌としての安定性に富んでいる。
【0020】
本発明において酪酸菌培養液とは、酪酸菌を通常の酪酸菌を培養する培地例えば、アミノ酸,バレイショデンプン,水等を含む培地で20〜42℃、20〜72時間培養して得られる培養液のことをいう。
【0021】
また、本発明において酪酸菌培養エキスとは、上記酪酸菌培養液を遠心分離等により固液分離して、得られる液部のことをいう。
【0022】
なお、酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキス中には、酪酸菌の生菌体の他に、代謝産物である酪酸,酢酸,プロピオン酸等の有機酸、アミラーゼ、各種アミノ酸、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、及び自己融解した菌体成分等が含まれている。また、酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスには有機酸として酪酸や酢酸等を含有しているため、特異臭を有する欠点があるが、この臭いを例えば香料でマスキングしてもよい。香料としては、酪酸菌臭のマスキングに有効なものであれば特に制限されないが、食品添加物として用いられるものが好ましい。
【0023】
さらに、上記のようにして得られた酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスをそのまま用いてもよいが、スプレードライや凍結乾燥などの操作により、エキス粉末として用いることもできる。
【0024】
本発明に用いられる酪酸菌の生菌体は、芽胞形成期のものでも栄養体期のものでも制限はないが、ペプチドグリカンを豊富に含有する栄養体期のものが好ましい。栄養体期を豊富に含有する生菌体は、例えばペプトン,イーストエクストラクト,グルコース,水等を含有するPYG培地などで、20〜42℃、20〜72時間培養し、遠心分離等の方法で集菌して得ることができる。
【0025】
また、本発明に用いられる酪酸菌の死菌体は、生菌体を通常の方法により、例えば空気(酸素)被爆や熱処理を用いて処理することによって得られる。死菌体を製造するための生菌としては芽胞形成期のものでも栄養体期のものでも制限はないが、ペプチドグリカンを豊富に含有する栄養体期のものが好ましい。
【0026】
本発明の皮膚外用剤は、酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスを有効成分として含有するものである。そして、更に酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスに、酪酸菌の生菌体及び/又は死菌体を10個/ml以上含むことが好ましい。
【0027】
本発明の皮膚外用剤を製剤するには、目的、投与形態、投与対象、最終形態等に応じて、上記のようにして得られた酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキス、或いは酪酸菌の生菌体及び/又は死菌体を含有する酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスを加えて、任意成分としてその他の添加剤を配合し、例えばローション状,乳状,ゲル状,クリーム状,軟膏状,粉末状,顆粒状等の任意の形状に調製することができる。これらは当業者の通常の方法に従って調製することができる。また、本実施形態の皮膚外用剤は、そのまま単独で或いは一成分として配合して、化粧水,乳液,クリーム,美容液,パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション,メイクアップベースクリーム等の下地化粧料、乳液状,油性,固形状等の各剤型のファンデーション、アイカラー,チークカラー等のメイクアップ化粧料、クレンジングクリーム,クレンジングローション,クレンジングフォーム等の皮膚洗浄料、ヘアーシャンプー,ヘアーリンス,ヘアートリートメント等の毛髪用化粧料等として使用することができる。なお、本発明における皮膚外用剤中には10個/ml以上の酪酸菌培養液の生菌体及び/又は死菌体が含まれているのが好ましい。また、本発明の皮膚外用剤の皮膚化粧料,下地化粧料,メイクアップ化粧料,皮膚洗浄料,毛髪用化粧料等への配合量は、その目的に応じて任意に調製が可能である。
【0028】
本発明の石けんは、固形状でも液状のものでもどちらの形状でもよく、例えば、固形石けんを製造する場合、まず精製水に苛性ソーダを入れ苛性ソーダが溶解するまで攪拌し、その後オリーブオイルを添加して攪拌し、この中に上述した皮膚外用剤を添加しさらに攪拌後、型に入れて固まらせる製造法などの熱を一切加えず、製造過程で発生する熱のみで製造するコールドプロセス法などの常法で固形石けんを容易に製造することができる。
【0029】
石けん素地としては、上述した精製水,苛性ソーダ及びオリーブオイルの石けん素地以外に、例えば、洗浄の主剤(例えば、植物性の原料であるヤシ油,菜種油など、または獣脂の原料である牛脂や豚脂など),水分調整(水),塩化ナトリウム石けんの生地の粘度調整(食塩),及び粘結剤(ポリエチレングリコールなど)等が挙げられる。また、石けん素地に公知の添加剤として、例えばビタミン類,アミノ酸類,馬油やゴマ油等の動植物油類、皮膚保護剤を適量添加してもよい。なお、本発明の皮膚外用剤の配合量は、特に限定されるものではないが、固形石けんの場合は石けん素地に対して10重量%程度、液状石けんの場合は石けん素地に対して20〜60重量%程度が好ましい。固形石けんの場合、皮膚外用剤の配合量が10重量%を超えると固形化が難しいので好ましくない。
【0030】
以下、本発明の調製例、実験例及び実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
〔製造例〕酪酸菌培養エキスの製造方法例:酪酸菌(Clostridium butyricum)を、バレイショ培地〔(バレイショデンプン1.0重量%,アミノ酸1.0重量%,水98.0重量%)又は(バレイショデンプン0.5重量%,アミノ酸0.5重量%,食塩0.1重量%,水98.9重量%)〕で、20〜42℃、20〜72時間培養し、遠心分離により固液分離を行い、この液部を酪酸菌培養エキス1として使用した。
【0032】
酪酸菌の栄養体死菌体の分取方法例:酪酸菌(Clostridium butyricum)を、グルコース培地(ブドウ糖1.0重量%,アミノ酸1.0重量%,水98.0重量%)で、20〜42℃、20〜72時間培養した。次いで、遠心分離により、固液分離を行い、液部と菌体等を含む固相部に分離し、菌体を回収した。この菌体を、オートクレーブにて100℃以上で15分間以上滅菌し、栄養体死菌体を得た。
【0033】
また、上記酪酸菌培養エキス1に、上述のようにして得られた栄養体死菌体を10個/ml以上添加し、これを酪酸菌培養エキス2とした。
〔試験方法〕アトピー性皮膚炎を強制的に発生させたNC/Ngaマウスに、上述のようにして得られた酪酸菌培養エキス1および酪酸菌培養エキス2の試験液を塗布し、アレルギー抑制効果をみるために以下の試験を行った。なお、NC/Ngaマウスは、通常の環境下で飼育した際に、7〜8週齢を境に痒覚の強い皮膚病変が出現し、この掻痒性皮膚炎が臨床的・病理組織学的にヒトのアトピー性皮膚炎と酷似することが知られているマウスである。
【0034】
まず、NC/Nga TndCrj系雄性4週令マウス(日本チャールズリバー株式会社)に、マウス用固形飼料及び水道水を与え2週間馴化し、一般状態の観察および体重測定を行い、健康と判断したマウスを実験に使用した。5〜6週令に達したNC/Ngaマウスに対して腹部及び後足を毛刈りし、その毛刈りした腹部及び後足に、ピクリルクロライド(2,4,6−Trinitro−chlorobenzene)溶液(150μl/匹)を塗布することにより感作させた。感作後4日目から誘発を開始し、以降週1回、5週間誘発を繰返した。なお、誘発は、毛刈りしたNC/Ngaマウス背部及び左右の耳に誘発用ピクリルクロライド溶液(150μl/匹)を塗布した。
【0035】
誘発4回目に体重、皮膚炎発生程度が均一になるようにこれらのマウスを1群6匹として3群に分け、1日1回、10日間、対照群には水道水を、酪酸菌培養エキス群1には上記酪酸菌培養エキス1を、酪酸菌培養エキス群2には上記酪酸菌培養エキス1に栄養体死菌体を加えたものを皮膚炎症部位に適量塗布した結果で評価した。なお、基本飼料として精製飼料(AIN93G,オリエンタル酵母株式会社製)を使用した。
【0036】
この結果、水道水を塗布した対照群と比較し、酪酸菌培養エキス群1及び酪酸菌培養エキス群2のマウスは、皮膚炎が治癒し、特に副作用が現れることがなく、皮膚炎の部分の皮膚が滑らかになった。
【実施例2】
【0037】
上記実施例1で得られた酪酸菌培養エキス1及び酪酸菌培養エキス2を、カサカサでひび割れが起こった主婦性湿疹の女性10人の被験者を対象に、1日1回3日間、踵に適量塗布した結果で評価した。
【0038】
この結果、被験者全員、特に副作用が現れることがなく、踵の皮膚が滑らかになり、且つ保湿効果もあり皮膚の潤い感やしっとり感が確認できた。
【実施例3】
【0039】
実施例1の製造例で得た酪酸菌培養エキス2を、真空下で遠赤外線を照射して加熱して乾燥した。加熱温度は28〜40℃である。その後、乾燥物を砕機で粉砕し酪酸菌末を石けん生地に対し10重量%添加し、ミキサーで混合したのち、混練押し出し機を使って、混合石けん組成物を押し出しつつ切断・型打ちして石けんを作製した。
【0040】
この石けんを浴用石けんとして、一週間ほど使用したところ、肌もなめらかとなり、肌の健康にも効果のあることが確認できた。また、この石けんを10人のモニターに一ヶ月継続使用してもらったが特に副作用が現れることがなく、余計な脂分を取らず保湿性があり、肌あれが治り、肌が滑らかになるという効果があった。
【実施例4】
【0041】
市販のシャンプー基材に対し、酪酸菌培養エキス2を30〜40重量%添加してシャンプーを作製した。また、同様に、市販のリンス基材に対して、酪酸菌培養エキス2を30〜40重量%添加してリンスを作製した。
【0042】
このシャンプー及びリンスを10人のモニターに一ヶ月継続使用してもらったところ、頭皮の痒みやフケがなくなるという効果があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酪酸菌(Clostridium butyricum)培養液又は酪酸菌培養エキスを含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
前記酪酸菌(Clostridium butyricum)培養液又は酪酸菌培養エキスに、酪酸菌(Clostridium butyricum)の生菌体及び/又は死菌体を加えたことを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の皮膚外用剤を含有することを特徴とする石けん。

【公開番号】特開2006−199608(P2006−199608A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12033(P2005−12033)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(599126110)エースバイオプロダクト株式会社 (7)
【Fターム(参考)】