説明

皮膚放出成分測定方法

【課題】極微量の皮膚放出成分であっても、短時間のサンプリング及び分析で、簡単に測定することのできる皮膚放出成分測定方法を提供する。
【解決手段】皮膚から放出した皮膚放出成分を測定する方法であって、下記(1)〜(4)を順次行うことを特徴とする皮膚放出成分測定方法により達成される。
(1)皮膚から放出した皮膚表出成分を、捕集容器で捕集する工程
(2)上記捕集容器内及び皮膚表面を、親水性溶媒で洗浄する工程
(3)上記(2)で得られた洗浄液を、固相抽出する工程
(4)上記(3)で得られた固相を、ガスクロマトグラフ質量分析する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚から放出した皮膚放出成分を測定する方法であって、極微量の皮膚放出成分であっても、短時間のサンプリング及び分析で、簡単に測定することのできる皮膚放出成分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香成分を摂取することにより、皮膚表面より該成分を放出させ、体臭を改善する目的で、「食べる香水」としてローズオットーの精油を含んだカプセル等が販売されている。
しかし、これらを摂取して、上記精油由来成分が皮膚から放出されているかについて確認されたことがなかった。というのも、該成分は、極微量のため捕集及び分析が困難で、同定及び定量が出来なかったからである。従って、上記精油由来成分を皮膚表面より放出させようとすると、多量に摂取しなければならず、肝臓や腎臓に悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0003】
そこで、皮膚表面より放出した皮膚ガスを測定する方法として、下記のような技術が知られている。
まず、ヒト皮膚より放出される皮膚ガスとして、アセトン、水素、アンモニア、メタン、エタン、エチレンが発見され、報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。これによると、上記皮膚ガスを捕集する方法として、手表面を容器で覆い、容器内に放出された蒸気ガスをガスクロマトグラフィーで分析するというものである。
また、上記文献の発表者は、皮膚表面に10秒間、5%エタノール水溶液を噴霧し、回収したエタノール水溶液を液体クロマトグラフィーで分析する特許(例えば、特許文献1参照。)や、皮膚に密着したカプセル内で、皮膚透過分泌物を除湿空気と拡散混合し、アルコール濃度測定機に注入することで、皮膚透過分泌物中のアルコール濃度を測定する特許(例えば、特許文献2参照)を提案している。
【0004】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献2記載の測定方法では、揮発性の高い化合物の同定及び定量を開示したものであり、また、特許文献1の測定方法では、ほとんど揮発しないグルコースの同定及び定量を開示しているに過ぎず、ローズオットーの精油に含まれるリナロール、シトロネオール、ゲラニオール等といった、揮発性の低い化合物では、その濃度が低すぎて検出が難しい。
また、上記測定方法では、皮膚表面から放出した皮膚ガスのみを測定しているか、皮膚表面のみに存在しているグルコースを測定しているかのどちらかであるので、両方を測定するには、2度のサンプリングが必要になり、煩雑で時間を要した。
【0005】
【非特許文献1】INSTRUMENTATION SCIENCE & TECHNOLOGY Vol.30,No.3,pp.267-280,2002
【特許文献1】特開2003−315340号公報
【特許文献2】特開平10−239309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、極微量の皮膚放出成分であっても、短時間のサンプリング及び分析で、簡単に測定することのできる皮膚放出成分測定方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、皮膚から放出した皮膚放出成分を測定する方法であって、下記(1)〜(4)を順次行うことを特徴とする皮膚放出成分測定方法により達成される。
(1)皮膚から放出した皮膚放出成分を、捕集容器で捕集する工程
(2)上記捕集容器内及び皮膚表面を、親水性溶媒で洗浄する工程
(3)上記(2)で得られた洗浄液を、固相抽出する工程
(4)上記(3)で得られた固相を、ガスクロマトグラフ質量分析する工程
【0008】
また、上記目的は、皮膚から放出した皮膚放出成分を測定する方法であって、下記(1)〜(4)を順次行うことを特徴とする皮膚放出成分測定方法により達成される。
(1)皮膚から放出した皮膚放出成分を、捕集容器で捕集する工程
(2)上記捕集容器内及び皮膚表面を、親水性溶媒で洗浄する工程
(3)上記(2)で得られた洗浄液を、減圧濃縮する工程
(4)上記(3)で得られた濃縮液を、ガスクロマトグラフ質量分析する工程
【0009】
好ましくは、皮膚放出成分が、極性化合物及びテルペン類の少なくとも一方である。
また、固相抽出工程を有する皮膚放出成分測定方法においては、ガスクロマトグラフが熱脱着式であることが好ましい。
【0010】
すなわち、まず、本発明者らは、市販されているローズオットーの精油を含む飲食品に関し、該精油に含まれる芳香成分が皮膚より放出されているかどうか、またその放出量を検出する方法について、その濃度に着目し鋭意検討した結果、捕集容器を用いて皮膚から放出した成分を捕集し、該捕集容器内及び皮膚表面を親水性溶媒で洗浄して洗浄液回収した後、該洗浄液をそのまま分析するのではなく固相抽出または減圧濃縮により濃縮してからガスクロマトグラフ質量分析することで、ナノグラムレベルの極微量の成分でも、短時間で簡単且つ確実に同定及び定量可能なことを見出した。
更に、上記ローズオットーの精油に含まれる成分のみならず、一般食品に使用される食品香料で多用される成分等の皮膚からの放出有無についても本発明の方法を用いると、短時間で簡単且つ確実に測定できることを確認し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮膚放出成分測定方法を用いると、ナノグラムレベルの極微量の皮膚放出成分の同定及び定量が確実に実施できる。
また、極微量の皮膚放出成分にもかかわらず、短時間でサンプリングが可能である。よって、皮膚放出成分を繰返し捕集・測定でき、該成分がどのように放出されているか、時間の経過と共に確認することを容易に行うことができる。
更には、本発明によれば、1回の皮膚放出成分の捕集で、複数成分を同定及び定量できるとともに、洗浄液の処理方法の選択により測定可能な皮膚放出成分の範囲が広がるので、固相抽出と減圧濃縮を選択さえすれば、殆どの皮膚放出成分を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を詳しく説明する。
【0013】
まず、本発明における皮膚放出成分とは、皮膚を介して放出した成分であれば、特に限定するものではないが、本発明では、特に従来測定が困難であるとされていた極性化合物やテルペン類等の揮発性の低い化合物であっても好適に測定し得る。
なお、放出とは、皮膚を介して体外に表出していればよく、表出後に皮膚表面上に付着していたり、皮膚から離れて空気中に飛散している等を問わない。これらの例としては、経口及び/又は経皮摂取物由来の皮膚ガスや体内からの分泌物、これらの酸化物、他の皮膚付着物との反応物等が挙げられる。
上記極性化合物、テルペン類の具体的成分としては、例えば芳香族アルデヒド類、テルペン系アルコール類、ラクトン類、アルデヒド類、ケトン類、リモネン等が挙げられる。中でも芳香族アルデヒド類やテルペン系アルコール類が、効率よく測定できる点で好ましい。更に好ましくは、ゲラニオール、リナロール、シトロネオール、バニリン、ι-メントールであることがより効率的に測定できる点で好ましい。これらは、単独でも、複数含有されていてもよい。
【0014】
では、次に、本発明の測定方法を説明する。
まず、皮膚から放出した皮膚放出成分を、捕集容器で捕集する。すなわち、皮膚放出成分には、皮膚から表出後に皮膚表面上に付着する成分や、空気中に飛散する成分が存在することは上述の通りであり、当該工程では、両方の成分を同時に捕集する。
上記捕集容器とは、皮膚放出成分を採取する皮膚の一部を覆うことができ、皮膚から放出した皮膚放出成分を捕集できるものであれば、特に限定するものではないが、捕集した皮膚放出成分を確実に捕集容器内に留めておく点で略密閉容器であることが好ましい。更に好ましくは、後述する親水性溶媒による洗浄の点から、親水性溶媒を注入できる開閉自在のコックが設けられていることが望ましい。
その材質は、親水性溶媒により捕集容器の構成成分が溶出したり、捕集した皮膚放出成分が該構成成分に吸着したりする等の問題が生じなければ、特に限定するものではない。好適には、略密閉状態に維持する観点から、柔軟性を有する材質であることが好ましい。例えば、フッ素系樹脂等が挙げられる。具体的製品例としては、ポリフッ化ビニル製のデュポン社製のテドラーバッグ等が挙げられる。
【0015】
上記捕集容器を用いて、皮膚放出成分を捕集する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、捕集容器で皮膚の一部を覆い、約30分間略密閉状態を維持して、皮膚から飛散する皮膚放出成分を、捕集容器内に留める等が挙げられる。皮膚から表出後に皮膚表面上に付着している成分の捕集は、例えば、捕集容器を覆っている部位を振動させる等で皮膚表面から捕集容器に脱落させればよい。なお、振動等でも皮膚表面から脱落しない皮膚放出成分は、後の洗浄工程で直接洗浄すればよい。この時、より高い密閉性を得るために、捕集容器の開口縁部をパラフィルム等で密閉させる等、捕集容器の開口部における気相の出入りを完全に閉鎖した状態にすることが好適である。
【0016】
皮膚放出成分を捕集する皮膚の部位は、限定されるものではないが、好ましくは手首から指の末端までの手のひら部分、足のうら、わき等の汗腺の集中している部分、更に好ましくは手のひら部分は、効率良く皮膚放出成分を捕集し得る点で望ましい。
【0017】
次に、上記のようにして皮膚放出成分を捕集した捕集容器内と、皮膚放出成分を捕集した部分の皮膚表面を、親水性溶媒で洗浄する。
上記親水性溶媒とは、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ブタノール、酢酸エチル、アセトニトリル、ジエチルエーテル等が挙げられる。この中でも、エタノールは、皮膚放出成分を確実に溶解する一方、体に悪影響を与えない点で好ましい。また、上記親水性溶媒は、単独でも、複数組合せて用いてもよい。
また、上記親水性溶媒を組合せて水溶液として用いる場合の濃度は、溶媒の種類や、測定する皮膚放出成分の特性にあわせて調整すればよい。例えば、エタノール水溶液を用い、後の工程で固相抽出を実施する場合は、1〜50容量%エタノール水溶液を用いることが、効率よく固相抽出を行えるので、皮膚放出成分の回収を高められる点で好適である。また、エタノール水溶液を用い、後の工程で減圧濃縮を実施する場合は、80〜100容量%エタノール水溶液を用いることが、短時間で減圧濃縮を実施できる点及び皮膚放出成分の留去が抑えられる点で好適である。
【0018】
上記親水性溶媒の総使用量は、後の濃縮工程において支障がなく、洗浄時に皮膚放出成
分を1ng以上溶解し得る量とすることが好適である。具体的には、3〜8ml程度が好ましい。なお、上記総使用量とは、捕集容器と皮膚表面の洗浄を別々に行った際に両者で用いた溶媒の合計量を指し、それぞれの洗浄に使用する量は問わない。
【0019】
上記親水性溶媒で洗浄する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、次のように行えばよい。
すなわち、まず、捕集終了後、捕集容器のコックを開いて親水性溶媒を注入し、コックを閉じた後、該容器をまんべんなく振る等することにより、容器内で飛散していたり、容器内壁に付着している皮膚放出成分を洗浄する。
次に、捕集容器を皮膚表面から外し、該捕集容器が覆っていた皮膚表面に親水性溶媒を適当量噴霧し、該皮膚表面に付着している皮膚放出成分を洗浄する。
その後、それぞれで得られた洗浄液を回収し、合わせる。
なお、上記のように、2段階に分けずに、捕集容器内で容器と皮膚表面の両者の洗浄を行ってもよい。
【0020】
次に、上記のようにして得られた洗浄液を、固相抽出あるいは減圧濃縮で濃縮する。
上記濃縮方法のうち、固相抽出と減圧濃縮のどちらを用いるかは、測定する皮膚放出成分の性質に合わせて選択すればよい。すなわち、固相抽出で固相に吸着し難い皮膚放出成分の場合は、減圧濃縮を用いる等適宜選択すればよい。例えば、ゲラニオール、リナロール、シトロネオール、ι-メントール等は固相抽出が適しており、バニリン等の比較的水溶性の高い化合物は減圧濃縮が適している。
なお、必要であれば、洗浄液を分割し、固相抽出と減圧濃縮のそれぞれを行ってもよい。
【0021】
上記固相抽出とは、化学結合型シリカゲル・ポーラスポリマー・アルミナ・活性炭等の固定相(固相)を用いながら、複雑な組成を示す試料中から特定の目的成分のみを選択的に抽出し、分離・精製を行う手法のことである。
本発明で使用する固相は特に限定しないが、後工程のガスクロマトグラフ質量分析で、熱脱着式ガスクロマトグラフを用いる場合には、特にポリジメチルシロキサン等が好ましい。製品例としては、例えばGerstel社製の固相抽出用攪拌子Twister等が挙げられる。
【0022】
上記固相抽出の条件は、上記洗浄液に蒸留水と塩化ナトリウムを加え適当量にした後、固相抽出用攪拌子で、約1時間攪拌して、攪拌子表面に洗浄液中に含まれる皮膚放出成分を吸着させればよい。また、固相抽出の回収率は20%以上であることが、定量性の点で望ましい。
【0023】
また、上記減圧濃縮とは、減圧下で、皮膚放出成分よりも沸点の低い溶媒を留去することである。
その減圧条件は、目的とする皮膚放出成分及び溶媒の沸点を考慮して決定すればよい。好ましくは、減圧時の試料の品温が常温(10〜30℃)程度であるのが、効率性の点からよい。また、濃縮倍率は、好適には3倍〜5倍であることが、定量性の点で望ましい。
【0024】
次に、上記のようにして得られた固相又は濃縮液を、ガスクロマトグラフ質量分析計で分析する。
その分析方法は、特に限定するものではないが、例えば固相を使用する場合は、熱脱着式ガスクロマトグラフを用いてもよく、固相を再度適当な溶媒中に戻して濃縮液を得た後、ガスクロマトグラフにかけてもよい。好適には、熱脱着式ガスクロマトグラフを用いることが、検出感度が高くなる点でよい。
【0025】
ガスクロマトグラフ質量分析計における測定条件は、測定する皮膚放出成分の科学的性
質及び、装置の特性を考慮し、適宜設定すればよい。
【0026】
以上の測定方法により、皮膚放出成分を測定することができるが、例えば、実際に摂取した成分が皮膚表面から放出しているかの測定を行う場合には、測定する成分を摂取することで皮膚表面から放出させればよい。すなわち、皮膚放出成分を含む剤又は飲食品等を、経口及び/又は経皮摂取等により、腸管、口腔粘膜、皮膚等から体内へ吸収すると、該成分は皮膚上の汗腺または細胞間隙より、汗や水蒸気等と共に表出するというメカニズムを利用し、測定する成分を摂取し、放出させるのである。
【0027】
上記飲食品としては、具体的には、例えば、飲料(スープ、コーヒー、茶類、ジュース、ココア、酒類等)や、冷菓や、菓子類(錠菓、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミ、ゼリー、チューインガム、チョコレート等)や、ベーカリー食品(パン、クッキー等)や、麺類を始めとする澱粉系食品や、粉末食品や、健康食品等が挙げられる。この中でもチューインガム、ソフトキャンディは、口腔内の滞留時間が長いため、粘膜から、測定する成分が効率よく吸収される点、及び該成分の放出持続性の点で好適である。
なお、チューインガムの場合は、各種成分がガムベースに吸着されやすい傾向にあるので、上記成分を閉じ込めたカプセルを使用することが好ましい。カプセルが使用できない場合には、チューインガム全体重量中ガムベース含量を好ましくは40重量%以下、更に好ましくは20重量%以下に設定した外殻層を設けた形態にし、該成分が外殻層より口腔粘膜から吸収されやすくする設計とすることが好ましい。
【0028】
なお、本発明における皮膚放出成分の測定には、目的とする成分が確実に放出するよう、強い香料を含む飲食品を摂取するのは控え、更に白湯等を摂取したり、軽い運動を実施する等して、発汗が促進される状態とし、成分が皮膚から放出されやすい状態にするのが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例を用いて例示する。
【0030】
まず、極性化合物及びテルペン類を経口摂取した後の皮膚放出について、最適な測定方法を試験した。
≪実施例1〜4及び比較例1≫
<チューインガムの調製>
皮膚放出成分検出用に、ローズオットーの精油に含まれるゲラニオール、リナロール、シトロネオール、及び、食品香料で多用されるι−メントール、バニリンの合計5成分について、これら単独もしくは複数含有するチューインガムを、表1の組成に従い、原料を加熱混合し、均質化した後、縦20mm×横13.5mm×厚み10.5mm、1粒当り3.1gとなるように成型した。
【0031】
【表1】

【0032】
<皮膚放出成分の測定>
上記チューインガムを用いて、下記のように測定を実施した。
【0033】
≪ブランクの皮膚放出成分の測定≫
<被験者の条件>
被験者は、測定前日の入浴後より、香粧品を使用せず、また、測定試験開始前2時間程度は、香料の強い飲食品を喫食しないようにした。
【0034】
<ブランクの皮膚放出成分の捕集及び洗浄液の回収>
被験者の手を無香料の石鹸で良く洗浄し、良く濯いだのち、清浄な状態で自然乾燥させ、フッ素系樹脂製のテドラーバッグを左の手首より先全体に装着し、テドラーバッグの開口縁部を手首部分でパラフィルムで密閉し、30分間そのままで保持した。
30分後、25容量%エタノールをテドラーバッグのコックから注入し、テドラーバッグ内及び左の手首より先を洗浄した。次に、テドラーバッグから左手を取出し、左の手首より先の全体に25容量%エタノールを噴霧し、洗浄して、先の洗浄液と合わせた。結果、洗浄液を約2.5ml回収した。
【0035】
<固相抽出による熱脱着式ガスクロマトグラフ質量分析>
次いで、得られた洗浄液を25容量%エタノール水溶液で、5mlにメスアップした。このうち、2mlを取り、蒸留水8ml、塩化ナトリウム2.0gを、バイアル瓶に入れ、固相としてポリジメチルシロキサンを用いた固相抽出用攪拌子(Gerstel社製Twister)を入れ、1時間攪拌した。この時のゲラニオール回収率は50%であった。
【0036】
次いで、TDS-GC/MS(熱脱着式ガスクロマトグラフ質量分析計)測定を行った。測定条件は以下の通りであった。
すなわち、測定装置は、GERSTEL TDS2 AGILENT6890N 5973N、使用したカラムは、DB
-5ms、0.25mm×30m、オーブン温度は、50℃(1分)→5℃/分→180℃→20℃/分→300℃(Hold)、CIS条件は、−120℃→340分(3分)、TDS条件が20℃→60℃/分→300℃(3分)であった。
【0037】
<減圧濃縮によるガスクロマトグラフ質量分析>
上記と同様にしてブランクの皮膚放出成分を捕集してから、洗浄液を回収した。なお、今回の洗浄液は、100容量%エタノールを用いた。
得られた洗浄液3mlをミニバイアル瓶に移し、品温25〜30℃で減圧下で約2時間1mlになるまで濃縮した。
次いで、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)測定を行った。測定条件は以下の通りであった。
すなわち、測定装置はGERSTEL TDS2 AGILENT6890N 5973Nで、使用したカラムはDB-5ms、0.25mm×30m、オーブン温度は50℃(1分)→5℃/分→180℃→20℃/分→300℃(Hold)、GC注入口温度が340℃であった。
【0038】
≪チューインガム摂取後の皮膚放出成分の測定≫
上記ブランクを測定後、被験者は、直ちに実施例1〜4及び比較例1のチューインガムを、表1に記載の皮膚放出成分摂取量となるよう喫食した。なお、被験者はサンプリング終了まで白湯しか喫食しなかった。
摂取後1時間目に、ブランクの測定と同様に、皮膚放出成分の測定を行った。各皮膚放出成分における測定方法は、表1に記載の通りである。上記分析結果を、表1にあわせて示す。
【0039】
測定の結果、実施例1〜4は、ピークの増加が認められた。この中でも実施例1〜3は、その増加が明らかで、測定方法が適していた。一方実施例4では、実施例3と比較してピークの増加が分かり難くかったものの、ある程度は増加が見られた。すなわち、バニリンの場合は、実施例4の固相抽出よりも実施例3の減圧濃縮による濃縮方法の方が適していた。
これに対し、比較例1では、固相抽出または減圧濃縮を行わなかったため、検出限界外となり、検出できなかった。
【0040】
以上の結果より、本発明の測定方法が有効であることが確認できたので、より食品として適当な風味・食感に調整したチューインガム及びソフトキャンディを体臭改善食品として調製し、摂取した皮膚放出成分が検出されるかどうか確認した。検出する成分は、表1でピークの増加が認められた皮膚放出成分のうち、食品として良好な風味であるゲラニオールとバニリンで行った。
【0041】
≪実施例5≫
<ローズ風味ゲラニオール含有チューインガムの調製>
表2の組成に従い、ローズ風味のゲラニオール含有チューインガムを調製した。すなわち、原料を加熱混合し、均質化した後、縦20mm×横13.5mm×厚み10.5mm、1粒当り3.1gとなるよう成型することによりチューインガムを得た。
【0042】
≪実施例6≫
<ローズ風味バニリン含有ソフトキャンディの調製>
表2の組成に従い、ローズ風味のバニリン含有ソフトキャンディを調製した。すなわち、各原料を40℃程度で混合し、エクストルーダーで更に均質化したのち、スタンピング成型して、1粒2.6gの球状ソフトキャンディを得た。
【0043】
【表2】

【0044】
<皮膚放出成分の測定>
実施例1と同様に被験者のブランクの皮膚放出成分を測定した後、被験者は直ちに表2に記載のゲラニオール摂取量となるように実施例5のチューインガムを摂取した。その後、摂取後1時間ごとに、5時間まで略連続で、実施例1と同様にゲラニオール放出量の測定を行った。その結果を図1に示す。
【0045】
また、実施例6についても、実施例3と同様に被験者のブランクの皮膚放出成分を測定した後、被験者は直ちに表2に記載のバニリン摂取量となるように実施例6のソフトキャンディを摂取した。その後、摂取3時間後でのバニリン放出量を測定した結果を図2に示す。
【0046】
図1によると、実施例5のチューインガムを摂取すると、摂取後1時間から5時間まで、ゲラニオールが放出された。特に摂取後1〜2時間での放出が顕著に見られた。また、摂取後3〜5時間でも、摂取前(0時間)の放出量より、ピークの増加が見られる傾向にあり、放出が継続的に行われていた。
【0047】
図2によると、実施例6のソフトキャンディを摂取すると、摂取3時間後には、ブランク(摂取前)と比較して2倍量以上のバニリンの放出が有意に見られた。
【0048】
以上のように、ゲラニオール及びバニリンの放出は測定できたのであるが、上記実施例5及び6について、実際にゲラニオール、バニリンが放出されていることを官能的に体感できるかについても、併せて確認した。
【0049】
≪体感試験≫
<ブランクの体感試験>
4名の被験者は、測定前日の入浴後より、香粧品を使用せず、測定試験開始前2時間は、香料の強い飲食品を喫食せず、水または白湯のみ摂取した。
次に、被験者らは、無香料の石鹸で、手を良く洗浄し、上水道水で良く濯いだのち、清浄な状態で30分程度自然乾燥させた。
その後、専門パネラー2名が、手表面の体臭を確認し、ゲラニオール、バニリンが放出していないことを確認した。
【0050】
<体臭改善食品の摂取>
被験者らは、実施例5についてはゲラニオール摂取量が0.8mgとなるよう、また実施例6についてはバニリン摂取量が52mgとなるように摂取した。
【0051】
<実施例及びブランクの体感試験>
摂取1時間後に、被験者らは、手を無香料の石鹸で良く洗浄し、上水道水で良く濯いだのち、清浄な状態で30分程度自然乾燥させた。
その後、専門パネラー2名が、被験者が何れのチューインガム、ソフトキャンディを食べたか分からない(ブラインド)状態で、各被験者の手のひらの匂いを確認し、++;明らかに香りがする、+;香りがする、−;ブランクと変化なし、の3点で評価した。
【0052】
この結果、4名の被験者のうち、実施例5では、バラ様の香りが漂っているとして++を選択されたのが2名、特定は出来ないが甘い芳香が漂っているとして+を選択されたのが1名、−が1名であった。
また、実施例6では、バラ様の香りが漂っているとして++を選択されたのが1名、特定は出来ないが甘い芳香が漂っているとして+とされたのが2名、−が1名であった。
以上より、実施例5及び6では、皮膚放出成分の放出が測定できる摂取量またはそれ以下の摂取量で、芳香が漂っていると体感できた。従って、本発明の測定方法と体感試験との相関性が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ローズ風味ゲラニオール含有チューインガムの摂取5時間後までのゲラニオール放出量
【図2】ローズ風味バニリン含有ソフトキャンディの摂取3時間後のバニリン放出量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚から放出した皮膚放出成分を測定する方法であって、下記(1)〜(4)を順次行うことを特徴とする皮膚放出成分測定方法。
(1)皮膚から放出した皮膚放出成分を、捕集容器で捕集する工程
(2)上記捕集容器内及び皮膚表面を、親水性溶媒で洗浄する工程
(3)上記(2)で得られた洗浄液を、固相抽出する工程
(4)上記(3)で得られた固相を、ガスクロマトグラフ質量分析する工程
【請求項2】
皮膚から放出した皮膚放出成分を測定する方法であって、下記(1)〜(4)を順次行うことを特徴とする皮膚放出成分測定方法。
(1)皮膚から放出した皮膚放出成分を、捕集容器で捕集する工程
(2)上記捕集容器内及び皮膚表面を、親水性溶媒で洗浄する工程
(3)上記(2)で得られた洗浄液を、減圧濃縮する工程
(4)上記(3)で得られた濃縮液を、ガスクロマトグラフ質量分析する工程
【請求項3】
上記皮膚放出成分が、極性化合物及びテルペン類の少なくとも一方である請求項1又は2記載の皮膚放出成分測定方法。
【請求項4】
上記ガスクロマトグラフが熱脱着式である請求項1記載の皮膚放出成分測定方法。






【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−343258(P2006−343258A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170471(P2005−170471)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(393029974)カネボウフーズ株式会社 (64)
【Fターム(参考)】