説明

皮膚消毒効果をもつ局所麻酔液および薬液セット

【課題】 消毒効果を持つとともに、注射時および穿刺時の痛みを軽減する局所麻酔液を提供すること。また、使用者自身が注射や穿刺を行うために携帯に便利な薬液セットを提供すること。
【解決手段】 皮膚麻酔剤、皮膚消毒剤、経皮吸収促進剤、液体皮膜保持剤を液体溶媒に溶解混合することにより、浸透性が高く、消毒の機能を併せ持った局所麻酔液を得る。また、局所麻酔液塗布器を自己注射あるいは自己採血器材と組合わせたので保管や携行に便利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射あるいは穿刺における皮膚の痛み軽減と消毒、とりわけ自己注射あるいは自己穿刺に適した器材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
咋今、生活習慣病が問題となっており、そのひとつである糖尿病は増加の一途をたどっている。一方で糖尿病治療の進歩はめざましく、薬物治療のひとつであるインスリン自己注射は、一般的に行われるようになってきた。インスリン自己注射とは、在宅にて患者自身が皮膚を消毒し皮下に注射するものであり、頻度としては毎日1〜数回行われる。
また糖尿病は自己管理していくことが重要であり、在宅にて自己血糖測定がよく行われる。これは患者自身が自らの手指を穿刺し、血液を採取、簡易血糖測定器にて測定するものである。
【0003】
これらの治療において、注射部位または手指の消毒が行われるが、現在ではアルコール綿による消毒が主な方法である。アルコール綿を携帯用として1回分ごとに分包されたものがあるが、これはあくまで消毒効果のみである。一方で機器においては、痛み軽減のため、注射針や穿刺針を極めて細くするなど改良は日々なされているがいまだ完全な解決には至っていない。インスリン注射や自己血糖測定時の痛みは患者に苦痛や恐怖心を与え、ひいては生活の質の低下をもたらしている。
【0004】
注射の際に皮膚消毒と痛みの軽減を併せて行う従来の技術としては、麻酔入り酒精綿がある。(例えば、特許文献1参照)。しかしながらこの方法では酒精の揮散とともに麻酔薬の浸透が停止するので麻酔はごく表層に限られる。また酒精綿の外面を覆って揮散を抑制しても麻酔薬の浸透にはさほどの効果は無く、注射針の深度までの痛み止め効果は得られない。
【0005】
また痛みの軽減のみを目的としたものには、外用局所麻酔用としてゲル状のものがある。(例えば、特許文献2参照)。また他にも、痛み軽減目的でテープ状のものが、医薬品として開発され使用されている。これらはいずれもその前か後に別途消毒を行う必要があり煩わしいうえに、自己注射をする患者にとっては器材が増えることになって好ましくない。
【特許文献1】特開2001−231814
【特許文献2】特表2001−503035
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、消毒効果を持つとともに、注射時および穿刺時の痛みを軽減する局所麻酔液を提供することを目的とする。また、患者自身が注射や穿刺を行う場合に適合させて携帯に便利な薬液セットを提供することを目的とする。
【課題を解決する手段】
【0007】
上記の問題を解決するため、皮膚麻酔剤と、皮膚消毒剤と、経皮吸収促進剤と、液体皮膜保持剤を液体溶媒に溶解混合することによって、消毒の機能を併せ持った、局所麻酔液を完成させた。
【0008】
また、本発明の局所麻酔液を噴霧容器などの塗布具に充填し、患者自身が行う注射器材あるいは自己採血器材の容器へ添付することによって携帯性の課題を解決した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の局所麻酔液は、注射時または穿刺時に皮膚へ塗布するだけで、皮膚の消毒が行われるとともに充分な深度まで麻酔薬が浸透する。この顕著な痛みの軽減効果により、患者の苦痛を画期的に軽減できるものである。
【0010】
また、本発明の薬液セットは、携帯に便利であるので患者の身辺に保管するのに好都合であり、ことに旅行などにおいては非常に重宝される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
麻酔剤としては汎用の皮膚用(外用)のものが利用できるが、液体溶媒への溶解性と他の成分との親和性、共溶性などによって制限される。好適なものとしてはリドカイン、プロカイン及びそれらの塩が挙げられる。濃度としては薬剤固有の最適値を用いるべきことは当然であるが、上記の好適例の薬品群では10〜33%(重量)が使用可能範囲であり、25〜33%(重量)が最も好ましい範囲である。麻酔効果を上げる為に、麻酔剤濃度は可能な限り高濃度が好ましい。
【0012】
消毒剤としては、汎用の皮膚用(外用)のものが利用できるが、液体溶媒への溶解性と他の成分との親和性、共溶性などによって制限される。好適なものとしては、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウムなどが挙げられる。濃度としては薬剤固有の最適値を用いるべきことは当然であるが、上記の好適例の薬品群のうちグルコン酸クロルヘキシジンでは、0.01〜0.50%(重量)が使用可能範囲であり、0.05〜0.10%(重量)が最も好ましい範囲である。
【0013】
経皮吸収促進剤としては、麻酔剤の経皮吸収を促進するものであれば制限されないが、液体溶媒への溶解性と他の成分との親和性、共溶性、毒性などによって制限される。好適なものとしてはステアリン酸、L−メントールまたはこれを含むハッカ油、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。濃度としては、上記の好適例の薬品群のうち、ステアリン酸では0.1〜0.6%(重量)が使用可能範囲であり、0.3〜0.4%(重量)が最も好ましい範囲である。ハッカ油は、濃度としては、3〜30%(容量)が使用範囲であり、10〜30%(容量)が最も好ましい範囲である。N−メチル−2−ピロリドンは、現在臨床において溶解補助剤として8%(容量)まで添加を認められている化合物である。よって濃度としては、0.1〜8.0%(容量)が使用可能範囲であり0.3〜5.0%(容量)が最も好ましい範囲である。経皮吸収促進剤は単独で使用してもよいが、本発明の目的においては異種のものを混用するほうが浸透効果は高い。
【0014】
液体皮膜保持剤は、溶媒が揮発性の場合、皮膚に薬剤が吸収される前に溶媒が揮発するのを防ぐものであれば制限されない。好適なものとしてはグリセリンが挙げられる。濃度としては、2〜30%(容量)が使用範囲であるが10〜30%(容量)が最もこの好ましい範囲である。
【0015】
溶媒としては、本発明に必要な薬剤を溶解できる液であればとくに制限はしないが、C数2〜3のアルコール水溶液が好ましく、濃度としては30%から50%が使用可能範囲であり30〜40%が最も好ましい範囲である。なお上記の各薬剤成分濃度は、局所麻酔液の保管環境における最低温度においても析出しない程度にそれぞれの飽和濃度に対して余裕を持たせることは勿論である。
【実施例1】
【0016】
本発明の局所麻酔液の処方例を表1に示す。調整方法は、エタノールにステアリン酸を溶解し、リドカイン、ハッカ油、1−メチル−2−ピロリドンを加え、クロルヘキシジン液を加える。ただし、薬剤により調合は限定ざれない。また、調製された液は塗布具に充填後、室温で保管できる。
【0017】
本発明の薬液セットにおける塗布具は、本発明の局所麻酔液を安全に充填できるものであり、皮膚に本発明液を塗布できるものであればとくに限定はしないが、塗布方法としては噴霧が最も好ましい。
【0018】
表1に示す処方で局所麻酔液を調製して効果を調べた。比較例としては麻酔薬入り70%エタノール液を使用した。被験者は健常人10名(男女同数)、糖尿病患者8名(インスリン使用者、自己血糖測定実施者を対象)(男女それぞれ2名)とした。
【0019】
【表1】

【0020】
試験の方法は、本発明の局所麻酔剤と比較例の麻酔薬入り70%エタノール液を目的部位へ噴霧した後、経過時間を変えてインスリン針または、血糖測定用穿刺針を挿入した。試験部位は両手指、手のひら、腹部、大腿、上腕とし、すべての測定部位について上記2種類の麻酔液塗布部を、麻酔薬を含まない酒精綿で払拭した場合と比較して評価してもらった。図1に被験者に痛みの程度を数値にて回答してもらった結果を示す。痛みの軽減度合は麻酔なしの酒精綿で拭く場合と比較して、同等の痛みの場合を0とし、より痛い場合をマイナス(最小2まで)、より痛くない(麻酔効果あり)場合をプラス(最大3まで)とした。グラフは経過時間ごとに被験者全員の回答を平均してプロットしたものである。図1から明らかなように、3分以上の浸透時間をおけば双方ともに痛み軽減効果が表れるが、本発明品は比較例に比して痛みの軽減効果が明瞭に優れている。
【0021】
消毒効果の確認として、塗布部分の皮膚ふきとり検査を行った。本発明液を噴霧し本発明液が乾燥した後の皮膚および、比較例として麻酔薬入り70%エタノール含有酒精綿で皮膚を拭いた皮膚で比較を行った。
まず、消毒効果の評価として、皮膚培養をBTB寒天培地、ヒツジ血液寒天培地、チョコレート寒天培地で18〜20時間培養検査を行った。その結果はいずれも陰性であった。さらに臨床用チオグリコネートを用いて増菌培養を行うと、本発明品では陰性であったが、比較例ではグラム陽性桿菌バチラスが検出されたものもあった。比較例では、拭き方によっては消毒が不十分となる可能性が示唆された。
【実施例2】
【0022】
局所麻酔液を充填した塗布具を添付した薬液セットを、図2に示す。図において、1は塗布具であり、市販の手のひらサイズ以下の噴霧容器を使用できる。11は噴霧ボタン保護キャップ、12は噴霧ボタン、13は噴射口、14は噴霧装置、15には本発明薬液が充填されている。2は携帯用注射器であり、21はキャップ、22は注射針装着部、23には注射溶液が充填されており、24は注射溶液供給部である。1と2は3の連結バンドで固定されている。
【0023】
使用方法は、まず噴霧容器のキャップをとりはずし、注射予定部位に噴霧して溶媒を十分に乾かす。実施例1の組成であれば常温で3〜4分間開放すればよい。次に注射容器に針をとりつけ、噴霧した部位に注射を行う。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【表1】
本発明の具体的な処方例
【図1】
本発明品と麻酔薬入り70%エタノール酒精綿の効果試験結果
【図2】
本発明薬液セットの外観図
【符号の説明】
1 局所麻酔液噴霧器
11噴霧ボタン保護キャップ
12噴霧ボタン
13噴射口
14噴霧装置
15局所麻酔液充填
2 携帯用注射容器
21注射容器キャップ
22注射針装着部
23注射容器
24注射溶液供給部
3 連結バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚麻酔剤と皮膚消毒剤と経皮吸収促進剤と液体皮膜保持剤と液体溶媒からなる皮膚消毒効果をもつ局所麻酔液。
【請求項2】
注射器材または自己採血器材に、請求項1記載の局所麻酔液を充填した塗布具を添付した薬液セット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−137737(P2006−137737A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359069(P2004−359069)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(504454657)
【Fターム(参考)】