説明

皮膚用粘着剤及びそれを用いた粘着シート

【課題】 抗炎症作用と共に抗菌作用を有する皮膚用粘着剤およびそれを用いた絆創膏やサージカルテープ等の粘着シートを得る。さらに詳しくは、抗菌作用によって、皮膚に貼付した部分において細菌類が繁殖しにくく、絆創膏などを使用した際に感じる不快な臭いも低減可能であり、抗炎症作用によって、貼付した部分の皮膚が発赤しにくく、かぶれにくいという効果を有する粘着シートを得る。
【解決手段】 ユーカリエキスを含有することを特徴とする皮膚用粘着剤。前項記載の皮膚用粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接肌に用いることの出来る皮膚用粘着剤、および該粘着剤を使用した絆創膏、サージカルテープ等の皮膚に直接用いる粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絆創膏等に用いられる皮膚への直接貼付に適する粘着剤としては、皮膚刺激性の少ない天然ゴム系、アクリル系、ポリイソブチレン系の粘着剤が使用されている。
しかし、絆創膏やサージカルテープ等の粘着シートを貼付された部分の皮膚は、皮膚呼吸や代謝が妨げられ、また、汗の蒸散が阻害されることから、水分過多となって細菌の繁殖しやすくなり、また、表皮細胞がふやけてしまう。表皮細胞は外界からのバリヤ機能を担っているが、ふやけることでバリヤ機能は低下し、粘着剤等に含まれるモノマー成分などが皮膚中へ入り込むことや、繁殖した細菌による刺激などにより、皮膚に炎症やかゆみが起こりやすくなる。
従って、どのような粘着剤を使用しても、粘着シートの貼付によって貼付部分の皮膚の状態が悪化することは避けられない。
【0003】
さらに、創傷を絆創膏で覆う場合などは、ガーゼやテープ部材は、湿ると細菌が繁殖しやすくなるので、貼ったまま放置すれば却って衛生状態が悪化し、傷の治りが遅くなるため、頻繁に取り替える必要があった。シートの通気性を良くして汗を蒸散させるため、通常、絆創膏の粘着シート部分には、通気孔が設けられているが、上記の問題を解決できるほど十分な通気性が確保できるものではなかった。
【0004】
皮膚に貼付した絆創膏などの細菌の繁殖を防止するため、粘着剤層に抗菌剤を含有させる試みは既になされてきた。例えば特許文献1には、抗菌剤としてポリリジン及びその塩などが例示されている。しかしポリリジン類は、抗炎症作用を有するものではない。また、特許文献2には、銀、亜鉛、銅などの金属コロイド無機系の抗菌剤が例示されている。しかし、これらの金属コロイド無機系の抗菌剤にも抗炎症作用は認められない。特許文献3には、酸化チタンなどの光触媒による殺菌効果を有する物質を粘着剤に含有させる方法が示されている。しかし、光触媒による効果は紫外光又は可視光が必要であり、光のない場所では効果が発揮されない欠点がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−49540号公報
【特許文献2】特開2006−68335号公報
【特許文献3】特開2000−237230号公報
【特許文献4】特開2003−221333号公報
【非特許文献1】Letters in Applied Microbiology 39,60-64(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来絆創膏やサージカルテープ等に用いる粘着剤に抗菌作用を付与するものは存在するが、皮膚の炎症を直接抑える抗炎症効果を有するものは存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段をとる。
即ち、本発明の第1は、ユーカリエキスを含有することを特徴とする皮膚用粘着剤である。
【0008】
また、本発明の第2は、本発明の第1に記載の皮膚用粘着剤層を有する粘着シートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚用粘着剤、及び、該粘着剤を使用した粘着シートには、抗炎症作用と共に抗菌作用を有する。抗菌作用によって、皮膚に貼付した部分において細菌類が繁殖しにくく、絆創膏を使用した際に感じる不快な臭いも低減可能である。また、抗炎症作用によって、貼付した部分の皮膚が発赤しにくく、かぶれにくいという効果を有する。このことは粘着シートを貼付した部分の患部、創傷の早期治癒にも効果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について詳述する。
本発明者らは、抗菌作用(非特許文献1)と抗炎症作用(特許文献4)を同時に有する物質としてユーカリから抽出されたユーカリエキスに着目し、ユーカリエキスを粘着剤に配合することで、長期間、皮膚に貼付しても炎症を起こしにくい皮膚用粘着剤が得られるという知見を得て本発明を達成した。
本発明においてユーカリとはEucalyptus属に属する植物を意味する。例えば、代表的な植林ユーカリであるEucalyptus globulus、Eucalyptus maidenii、Eucalyptus bicostata等が該等する。またユーカリエキスとは、前記ユーカリから各種溶媒を用いて抽出した抽出物、もしくはその精製物又は部分精製物である。被抽出体となるユーカリは、葉、枝、樹皮、果実又は根など、ユーカリの任意の部分が使用可能である。
【0011】
ユーカリエキスの抽出に用いる溶媒としては、極性溶媒、非極性溶媒のいずれも使用することができる。
例えば、水、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等の低級脂肪酸エステル類、メチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素類を任意に用いることが出来る。また、これら溶媒のうち、均一に混合可能な複数を任意に組み合わせた混合溶媒を用いることもできる。
【0012】
これらの溶媒を用いて抽出物を得るには、公知の方法に従えばよく、例えば前記のユーカリを溶媒中に長く浸漬する方法、また、ユーカリを浸漬した溶媒を沸点以下の温度で加温、撹拌しながら、抽出、ろ過して抽出物を得る方法等がある。ソックスレー抽出機など、公知の抽出器具を任意に用いることも可能である。
【0013】
上記のごとくして得られた各種溶媒抽出液、その希釈液、濃縮液をユーカリエキスとして使用することが可能である。また、有機溶媒を通常の方法、例えばロータリエバポレーターなどを使用して除去したものが使用できる。更に、凍結乾燥や加熱乾燥処理を施したものが使用できる。
【0014】
前記により得たユーカリエキスを、従来皮膚用粘着剤として用いられる粘着剤に添加することで、本発明の粘着剤を得ることができる。
粘着剤としては、天然ゴム系、スチレン-ブタジエンゴム系、イソブチレンゴム系、イソプレンゴム系、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アクリル系、アクリル系エマルジョン、ポリイソブチレン系、シリコーン系等が任意に使用できる。
なお、ユーカリエキスの添加量は、粘着剤に対し、固形分濃度として、0.0001〜5%配合することが好適である。
なお、本発明においては、ユーカリエキスの他に、キトサンや界面活性剤なども含むその他公知の抗菌剤など任意の成分を添加することも可能である。
【0015】
本発明の粘着剤を、任意の支持体上に積層して粘着剤層を設けることにより、本発明の粘着シートを得る事ができる。支持体としては、クラフト紙、クレープ紙等の紙類、不織布、綿布、また、レーヨン、アセテート、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリイミド、セロハン、ポリ塩化ビニル等からなるフィルム、また、これらの素材を適宜組み合わせてなる積層シートを使用することが可能である。
なお、本発明における粘着シートは、皮膚に直接貼付して、創傷の保護、薬剤や各種医療器具の人体への固定等に用いられる、絆創膏、サージカルテープ等が含まれる。
【0016】
<製造例1>
1:ユーカリエキスの抽出
乾燥させて裁断したユーカリ葉(Eucalyptus globulus)100gに対し、99.5%エタノール1Lを注ぎ、50℃で3時間静置抽出した。次いでブフナー漏斗で固液分離し、1μmのフィルターで濾過して得た抽出液をユーカリエキスとした。なお、この抽出液の固形分濃度は1.6%であった。
【0017】
2:粘着剤の製造
天然ゴム100質量部、ポリイソブチレン20質量部、ポリブテン20質量部、水添ロジン100質量部、ラノリン10質量部、酸化亜鉛100質量部、酸化防止剤1.5質量部を混合して粘着剤を得た。この粘着剤100質量部に対し、前述のユーカリエキスを0.5質量部(固形分濃度0.0075%)、1質量部(固形分濃度0.015%)、2質量部(固形分濃度0.030%)を添加して混合し、ユーカリエキス濃度が異なる本発明の皮膚用粘着剤を得た。
なお、ユーカリエキスを混合しない粘着剤をブランクとした。
【0018】
<製造例2>
1:ユーカリエキスの抽出
乾燥させて裁断したユーカリ葉(Eucalyptus globulus)100gに対し、50%エタノール1Lを注ぎ、50℃で3時間静置抽出した。次いで、ブフナー漏斗で固液分離し、1μmのフィルターで濾過した抽出液をユーカリエキスとした。この液体の固形分濃度は1.6%であった。
【0019】
2:粘着剤の製造
撹拌翼、還流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えたセパラブルフラスコにおいて、イオン交換水250質量部とヒドロキシエチルセルロースの8%水溶液31.2質量部、アルキルアリルポリエーテルアルコール5.0質量部、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム1.25質量部、ホウ酸ナトリウム1.7質量部、過硫酸カリウム1.0質量部を混合した。次にこの水溶液を68℃まで昇温し、撹拌しつつ酢酸ビニル75質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル170質量部、N−ブトキシメチロールアクリルアミド5.0質量部を混合したものを、滴下ロートにて反応容器内に3時間かけて連続滴下した。滴下終了後、更に3時間70℃に保って撹拌し、熟成反応を行うことによって、エマルジョン粘着剤を得た。
このエマルジョン粘着剤100質量部に対し、上記ユーカリエキス(50%エタノールエキス)を0.5質量部(固形分濃度0.008%)、1質量部(固形分濃度0.016%)、2質量部(固形分濃度0.032%)を添加して混合し、ユーカリエキス濃度が異なる本発明の皮膚用粘着剤を得た。
なお、ユーカリエキスを混合しない粘着剤をブランクとした。
【0020】
製造例1及び2で製造した各粘着剤を、ポリエチレンフィルム(50μm、MDPE)上に20g/m塗工して粘着剤層を設け、中央に脱脂綿を配置して絆創膏(絆創膏サイズ:22mm×72mm,脱脂綿サイズ:18mm×30mm)を製造した。
なお、中央の脱脂綿には、脱脂綿質量に対して上記と同じ質量部となるようにユーカリエキスのみを含浸させた。
【0021】
[抗炎症作用に関する評価]
製造例2で得た皮膚用粘着剤及びブランクを使用して製造した絆創膏を、健常成人10名の上腕裏側に貼付して24時間後に剥がし、皮膚の状態を観察した。
皮膚の状態についての一覧を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1より、ブランクでは10名中7名の皮膚で発赤や湿疹が見られたが、ユーカリエキスを0.5〜2質量部以上配合した場合、湿疹は全く発生せず、発赤がわずかに見られたのみであった。
これらの結果より、ユーカリエキスを配合した絆創膏には優れた炎症防止効果があることが判明した。
【0024】
[抗菌性作用に関する評価]
製造例1で得た粘着剤及びブランクを使用した絆創膏について、JIS L1902の手法に従い、黄色ブドウ球菌(NBRC19732)を用いたハローテストを実施した。
即ち、前記の絆創膏の脱脂綿が積層されていない部分を直径10mmの円形に切り出し、オートクレーブで滅菌して試験片を得た。
次いで、普通寒天培地(肉エキス0.5%、ペプトン1%、塩化ナトリウム0.5%、寒天1.5%)を加温溶解後、40℃まで冷却したものに、予め液体培地で前培養を行った黄色ブドウ球菌液を、10個/mlとなるように混合し、シャーレに注入して固めて混釈平板培地を作製した。
上記の平板培地上に、ピンセットを用いて、試験片を粘着剤層が下になるように培地中央に置いて密着させた。その後37℃のインキュベーターにて24時間培養し、試験片周囲に形成されたハローの大きさを測定した。
【0025】
【表2】

【0026】
ハローの大きさより、抗菌作用はユーカリエキスの配合量に比例して大きくなることが判明した。
【0027】
[創傷の治癒効果に関する評価]
飼育用ケージ(日本クレア製、ディスポケージ175×245×125mm)にBALB/cヌードマウス(日本チャールスリバー社)を10匹入れて、過密状態として一晩飼育した。翌日、ほぼ全部のマウスの背中にひっかき傷が生じていた。
上記のヌードマウスを、傷の状態が平均になるようにA〜EとF〜Jの2群に分け、A〜Eのマウスの背中には製造例1で得た、粘着剤中にユーカリエキスが1質量部配合された絆創膏を貼り、F〜Jには製造例1で得たブランクの粘着剤を用いた絆創膏を貼った状態で、2匹ずつ飼育ケージにいれて飼育した。
【0028】
48時間後に絆創膏を取り除き、傷の状態を5段階で評価し、治癒の状況を判定した。
【0029】
【表3】

【0030】
48時間後の傷の状態は、第1群ではほぼ治癒している状態であったが、第2群にではまだ完全に治癒しているといえる状態ではなかった。
これらの結果より、本発明の絆創膏は傷の治癒を早めることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーカリエキスを含有することを特徴とする皮膚用粘着剤。
【請求項2】
請求項1記載の皮膚用粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。

【公開番号】特開2009−297152(P2009−297152A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153209(P2008−153209)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】