説明

皮革様シート状物およびその製造方法

【課題】表面質感と諸物性を維持しながらも優れた通気性を有する皮革様シート状物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維質基体上に、高分子弾性体からなる表皮層が存在する銀付調の皮革様シート状物であって、該表皮層が表面側の充実皮膜と繊維質基体側の多孔質皮膜とからなり、最表面の充実皮膜の表側には穴の開口部が存在しており、その穴が充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しないものであり、かつ多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通している皮革様シート状物。および繊維質基体上に、高分子弾性体からなる多孔質皮膜と充実皮膜とが繊維質基体側から順に存在し、多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通している皮革様シート状物に、充実皮膜側から赤外線領域のレーザー加工を行い、充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しない穴を穿孔する皮革様シート状物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通気性に優れた皮革様シート状物に関し、さらに詳しくは表面質感を維持しながら優れた通気性を有する皮革様シート状物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮革様シート状物は多岐に渡る用途に使用され、中でも表面に高分子弾性体層を有するいわゆる銀付調人工皮革はその外観表現の多様性および天然皮革類似の高い質感から幅広い分野に使用されている。しかし天然皮革が繊維質のみから形成されているために高い通気、透湿性を有するのに対し、皮革様シート状物、特に銀付調人工皮革はその表面に高分子弾性体のみからなる表面層が存在するために、通気、透湿の面からは十分な物性を得られないという問題があった。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、銀付タイプの皮革様シート状物の表面に機械的に針を用いて穴を開け、通気性や柔軟性を付与する方法が考えられている(例えば特許文献1など)。しかし針穴が大きすぎて着用時に穴の中に汚れが入り込んだり、外観が変化したりする問題があった。また穴が開いているにもかかわらず物理的作用のみによるものなので表面層の高分子弾性体の変形により穴が塞がることも多く、充分な透湿性が得られないことも多かった。またレーザーを照射して皮革様シート状物表面に穴を開ける方法も考えられているが、従来の穴を開ける方法では、通気を重視すれば皮革様シート状物の強度が低下し、強度を重視すれば通気性能が低下し、これらのバランスの取れた皮革様シート状物は得られていないのが実情である。
【0004】
そこで、開放孔を有しない多孔質ポリウレタン層の表面にそのポリウレタンの良溶剤を含む液を点状に塗布して開放孔を有する皮革様シート状物の製造方法が開発されている(特許文献2)。しかしこの方法では、高い通気性と強度に優れた皮革様シート状物は得られるものの、その表面外観が変化してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−192976号公報
【特許文献2】国際公開第94/20665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、表面質感と諸物性を維持しながらも優れた通気性を有する皮革様シート状物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の皮革様シート状物は、繊維質基体上に、高分子弾性体からなる表皮層が存在する銀付調の皮革様シート状物であって、該表皮層が表面側の充実皮膜と繊維質基体側の多孔質皮膜とからなり、最表面の充実皮膜の表側には穴の開口部が存在しており、その穴が充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しないものであり、かつ多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通していることを特徴とする。
【0008】
さらには、穴の開口部の直径が10〜300μmであることや、充実皮膜に存在する開口部が、1〜1000個/cmの密度であること、また、表皮層を構成する高分子弾性体の融点が150〜220℃であることや、多孔高分子弾性体が、ポリウレタンからなるものであることが好ましい。
【0009】
もう一つの本発明の皮革様シート状物の製造方法は、繊維質基体上に、高分子弾性体からなる多孔質皮膜と充実皮膜とが繊維質基体側から順に存在し、多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通している皮革様シート状物に、充実皮膜側から赤外線領域のレーザー加工を行い、充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しない穴を穿孔することを特徴とする。
【0010】
さらには、レーザー加工の焦点を多孔質皮膜内部に設定することや、レーザー加工がCOレーザーであること、穿孔密度が、1〜1000個/cmであることが好ましく、また表皮層を構成する高分子弾性体の融点が150〜220℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い表面質感と諸物性を維持しながらも優れた通気性を有する皮革様シート状物及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の皮革様シート状物は、繊維質基体上に、高分子弾性体からなる表皮層が存在するものである。本発明で用いられる繊維質基体としては、繊維集合体、あるいはこの繊維集合体に高分子弾性体を含浸させた複合繊維集合体が使用でき、従来から人工皮革用として用いられているものが好ましい。厚さとしては0.2〜5mm、さらには0.4〜2.5mmであることが好ましい。繊維集合体としては、不織布や織編物が挙げられ、これらを構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維、または綿、麻、羊毛などの天然繊維、またはレーヨンなどの半合成繊維が挙げられ、また、これらの2種以上の混合であってもよい。
【0013】
そして繊維質基体としては極細繊維を含むものであることが好ましい。このような繊維質基体としては、繊維集合体として単繊維繊度が0.3デシテックス以下、さらには0.1〜0.0001デシテックスの繊維が交絡された不織布を用いたものを好ましく挙げることができる。単繊維繊度が細くなることにより、得られる繊維質基体表面が平滑となり、皮革様シート状物としての品位が向上する。このような単繊維繊度の繊維は、従来から知られている方法によって製造することができ、例えば、合成繊維製造における海島紡糸法、混合紡糸法、分割型複合紡糸法などを挙げることができる。これらの繊維は比較的太い極細化前の親繊維を短繊維となした後、従来から知られているカード機等による開繊、ニードル機等による交絡により不織布とし、後に極細化することによって極細繊維から成る不織布となる。極細化の方法としては、海島紡糸法および混合紡糸法で得られた親繊維から極細繊維となる以外の海成分を抽出または分解除去する方法や、分割型複合紡糸法により得られた親繊維を機械的、または化学的に分割する方法を採用することができる。抽出または分解除去されるポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、あるいはこれらの共重合体が代表例として挙げられ、極細繊維となるポリマー成分としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルや、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミドなどを挙げることができる。また効率的に生産する場合には、分割型複合紡糸を紡糸し直接ウェブ化した後、ニードル機等で交絡し、機械的分割処理するなどして極細不織布とすることが好ましい。
【0014】
繊維質基体としては、上記の繊維集合体と高分子弾性体からなる基体であることが好ましい。このような繊維質基体は、上記の繊維集合体に高分子弾性体を含浸、凝固、乾燥させることにより得ることができる。ここで用いる高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、あるいはポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムなどを挙げることができる。この中では、耐摩耗性、弾性回復性、柔軟性等の面からポリウレタンがもっとも好ましく用いられる。これらの高分子弾性体は有機溶剤で溶解、あるいは分散された溶液、あるいは分散液として含浸に供される。好ましくは、これらの高分子は地球環境保護、および作業環境保護のためにも水溶液、あるいは水分散として含浸に供されることが好ましい。
【0015】
本発明はこの繊維質基体上に高分子弾性体からなる表皮層が存在する銀付調の皮革様シート状物であって、該表皮層が表面側の充実皮膜と繊維質基体側の多孔質皮膜とからなるものである。さらに表面に開口部を形成するためにはこの高分子弾性体の融点が150〜220℃であることが好ましい。
【0016】
本発明の表皮層の一部を構成する多孔質皮膜は、高分子弾性体からなる層であり、その多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通していることが必要である。本発明では、そのように各多孔が繊維質基材と多孔質皮膜との間で連通しており、さらに多孔質皮膜の多孔部分が充実皮膜に存在する表面に開口部を有する穴と連続してつながっていることにより、高い通気性を実現することができたのである。なお、ここで多孔質皮膜に存在している多数の小さい空隙を「孔」と、充実皮膜表面の開口部に続く空隙を「穴」とした。そして例えばこのような開口部を有する穴は、例えばレーザー加工により、その強度、回数を調整することにより任意の深さ、大きさの穴を得ることができる。
【0017】
また、多孔質皮膜の厚みとしては0.05mm〜1.5mmの範囲であることが好ましい。厚みが0.05mm以下であると繊維質層の凹凸が隠蔽しきれず表面の平滑性が得られにくく好ましくない。また、多孔質皮膜層の厚みが1.5mm以上となると皮革様シート状物としての風合いがゴム状となり好ましくない。多孔質皮膜の密度としては0.2〜0.7g/cm、さらには0.3〜0.5g/cmの範囲であることが好ましく、このような範囲とすることにより風合いが向上する。この層を形成する高分子弾性体としては先の複合繊維集合体に用いたものを挙げることができるが、特にはポリウレタンを主成分とするものであることが好ましい。
【0018】
多孔質皮膜に用いることができるポリウレタンとしては、一般的に人工皮革用として使用されるものを挙げることができ、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンを挙げることができる。有機ジイソシアネートとしては分子中にイソシアネート基を2個含有する脂肪族、脂環族または芳香族ジイソシアネート、特に4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、P−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。高分子ジオールとしては例えばグリコールと脂肪族ジカルボン酸の縮合重合で得られたポリエステルグリコール、ラクトンの開環重合で得られたポリラクトングリコール、脂肪族または芳香族ポリカーボネートグリコール、あるいはポリエーテルグリコールの少なくとも1種から選ばれた平均分子量が500〜4000のポリマーグリコールなどが挙げられる。そして鎖伸長剤としてはイソシアネートと反応しうる水素原子を2個含有する分子量500以下のジオール、例えばエチレングリコール、1,4ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0019】
このような高分子弾性体を用いて多孔質皮膜を得る方法としては、従来から知られている方法が採用できる。例えば、ポリウレタンの良溶剤でありかつ水と相溶性の有機溶剤にポリウレタンを溶解させ、このポリウレタン溶液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水浴中に浸漬して多孔凝固させるいわゆる湿式凝固法、またはポリウレタンを、水との相溶性はないがそのポリウレタンを溶解あるいは分散できる有機溶剤に溶解、あるいは分散させた溶液、あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水の蒸発を妨げながら有機溶剤を選択的に蒸発させる乾式多孔成形法などが挙げられる。中でも、本発明の多孔質皮膜を得るためには、湿式凝固法が孔の形状を制御し易く、繊維質基材からの連通孔が得られやすいので特に好ましい。
そして高分子重合体からなるこのような多孔質皮膜は、前述の繊維質基体上に直接、コーティング法などにより形成することができる。
【0020】
また、本発明の表皮層は上記の多孔質皮膜とともに充実皮膜によって構成されている。このような透明、あるいは半透明の保護層となる充実皮膜の存在によって、本発明の皮革様シート状物は、物性や風合い、たとえば表面耐摩耗性等をさらに向上させることができるのである。
【0021】
この充実皮膜に用いられる高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、あるいはポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。さらに開口部を形成するためには充実皮膜を形成する高分子弾性体の融点が150〜220℃であることが好ましい。
【0022】
このような充実皮膜は、すでに多孔質皮膜を有する繊維質基体上の表面に直接、高分子弾性体の有機溶剤溶液、有機溶剤分散液、水溶液、あるいは水分散液をコーティングし次いで乾燥させる方法などで得ることができ、コーティングの方法としては、ナイフコーティング、ロールコーティング、スプレー、あるいはグラビアコーティング等を採用することができる。また離型紙上に高分子弾性体層をいったん形成させて、繊維質基体と接着させても良く、接着剤としては、従来から知られている接着剤が使用でき、その中でもポリウレタン系接着剤(ポリイソシアネート系接着剤)が好ましく、有機溶剤系、あるいは水系のどちらも使用できる。
【0023】
このような充実皮膜の厚みとしては10〜200μmの範囲であることが好ましい。塗布目付けとしては10g/m〜200g/mの範囲であることが好ましい。厚みが薄すぎると平滑性が低下するばかりでなく耐摩耗性等の物性が低下する傾向にある。逆に厚すぎると風合いが低下する傾向にある。
【0024】
本発明の皮革様シート状物は、このような多孔質皮膜と充実皮膜からなる表皮層を有し、最表面の充実皮膜の表側には穴の開口部が存在しており、その穴が充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しないものであることを必須としている。このような穴が表面に開口していることにより通気性等を高いレベルで発揮することが可能となったのである。さらに高分子弾性体からなる多孔質皮膜をこの穴が貫通しないため、表皮層の強度を維持しうるとともに、繊維質基体には穴が存在しないためにこの皮革様シート状物の物理的強度を高く保つことができたのである。
【0025】
また、多孔質皮膜中の表面の充実皮膜から貫通している穴の内壁においては、高分子弾性体が穴の内壁面のみ融着していることが好ましい。多孔質皮膜は内部に表面から貫通した「穴」を有することにより、その皮膜物性や各多孔の隔壁部分の物性が低下しがちであるが、内壁表面にて、多孔質皮膜の各多孔の隔壁部分が融着することにより、皮膜のそれらの物性低下を顕著に抑えることができるのである。さらにこの穴の内壁表面のみ融着とは、穴内壁に観察される大きい多孔の形状は多少変化するものの、多孔は閉塞されない状態でかつ内壁表面の微多孔部分のみが溶融して微多孔が無くなった状態であることが好ましい。皮革様シート状物では、特にその使用中などに曲げなどの反復応力を受けることが多いが、各多孔の穴内壁に露出する隔壁部分のみが融着することにより、高い通気性をそのまま維持することができる。
【0026】
さらには穴の開口部の直径は10〜300μmであることが好ましく、さらには50〜150μmであることが好ましい。また充実皮膜に存在する開口部が1〜100個/cmであることが好ましく、さらには3〜50個/cmであることが好ましい。開口部の直径が小さすぎたり、開口部の密度が低すぎる場合には充分な通気性を得られない傾向にある。逆に開口部の直径が大きすぎたり、開口部の密度が高すぎる場合には充実皮膜の強度が低下し、物性や風合いが低下し、また加工時間や加工コストが増大してしまう傾向にある。さらに表面の投影面積に対する開口部の合計面積は0.01〜0.1%の範囲であることが好ましい。
【0027】
もう一つの本発明である皮革様シート状物の製造方法は、繊維質基体上に、高分子弾性体からなる多孔質皮膜と充実皮膜とが繊維質基体側から順に存在し、多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通している皮革様シート状物に、充実皮膜側から赤外線領域のレーザー加工を行い、充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しない穴を穿孔する方法である。ここで繊維質基材や、高分子弾性体からなる多孔質皮膜、充実皮膜としては先に述べた本発明の皮革様シート状物に用いるものを使用することができる。
【0028】
本発明の皮革様シート状物の製造方法は、繊維質基体上に高分子弾性体からなる多孔質皮膜と充実皮膜とが繊維質基体側から順に存在する皮革様シート状物に、その充実皮膜側から赤外線領域のレーザー加工を行う製造方法である。そして赤外線領域のレーザー加工として、充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しない穴を穿孔する条件を取ることを必須とする。なお、ここで多孔質皮膜に当初から存在している小さい空隙を「孔」と、レーザー加工により形成された表面に開口部を有する空隙を「穴」とした。
【0029】
本発明の製造方法では、赤外線領域のレーザー加工により高分子弾性体からなる表面皮膜側から基材内部に穴を穿孔するが、多孔質皮膜や繊維質基体を貫通しないため、皮革様シート状物の強度を高いまま保持することが可能となる。一方、多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通しているため、皮膜中の穴により多孔質皮膜内の多孔から表面へはレーザー加工による穴を介在して通気性や透湿性が向上する。
【0030】
レーザーにて表面に穴を穿孔する場合には通常レーザー強度とレーザー発振の繰り返しのショット数により穴の深さおよび大きさを決定するが、本発明のレーザー加工を行うためには、レーザー加工の焦点を多孔質内部に設定し、レーザービームの強度を強くショット数は少ない設定にすることが好ましい。このように設定することにより表面の開口部は広く、多孔質内部の穴の直径は小さく円錐形になるにもかかわらす、多孔質内に存在する穴の体積を小さく、逆に表面積を比較的大きく確保することができ、さらに強度と通気性の良いバランスを得ることができるようになる。
【0031】
また赤外線領域のレーザー加工としては、COレーザーやYAGレーザーを挙げることができるが、より高い熱を対象物に与えることが可能なCOレーザー(炭酸ガスレーザー)であることが好ましい。レーザーによりこのような熱を与えることにより、多孔質皮膜中の穴の内壁において、は高分子弾性体が内壁表面のみを融着させることが可能となる。多孔質皮膜は内部に穴を開けると有することにより、その皮膜物性や各多孔の隔壁部分の物性が低下しがちであるが、穴の内壁表面を融着することによりそれらの物性低下を抑えることができるのである。特に皮革様シート状物はその使用中に曲げなどの反復応力を受けることが多いが、各多孔の隔壁部分が融着することにより高い通気性をそのまま維持することができる。
【0032】
さらには穴の開口部の直径は10〜300μmであることが好ましく、さらには50〜150μmであることが好ましい。また充実皮膜に存在する開口部が1〜100個/cmであることが好ましく、さらには3〜50個/cmであることが好ましい。開口部の直径が小さすぎたり、開口部の密度が低すぎる場合には充分な通気性を得られない傾向にある。逆に開口部の直径が大きすぎたり、開口部の密度が高すぎる場合には充実皮膜の強度が低下し、物性や風合いが低下し、また加工時間や加工コストが増大してしまう傾向にある。さらに表面の投影面積に対する開口部の合計面積は0.01〜0.1%の範囲であることが好ましい。
またこのような穴により有効な開口部を形成するためには、表皮層を構成する高分子弾性体の融点が150〜220℃であることが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、具体的に実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、実施例中「部」および「%」とあるのは、いずれも重量基準であり、特性測定値は下記の方法で得られたものである。
【0034】
(1)引張強度
JIS K6505に準じて測定し、単位はN/cmで表した。
【0035】
(2)引裂強力
JIS K6505に準じて測定し、単位はNで表した。
【0036】
(3)通気度
JIS P8117の方法に準じて、ガーレのデンソメータを使用して測定した50cm3の空気が通過するのに要した時間から計算により「リットル/cm・hr」の単位に換算した値である。
【0037】
(4)透湿度
JIS K6549の方法に準じて測定を行った値で「mg/cm・hr」で表した数値である。
【0038】
(5)耐水圧
JIS L1092の耐水度試験に準じて測定し、単位はmmで表した。
【0039】
(6)耐摩耗
JIS L1096 C法(テーバー法)を用いて、荷重H22、500gで、2000回磨耗させて、外観を観察した。
【0040】
(7)汚れテスト
たばこの灰を乳鉢ですりつぶしたものを、直径36mmの大きさで、中指で右回転に25回、左回転で25回こすりつけたのち、脱脂綿で拭き取り、5級を汚れなしとして1〜5級の5段階で表した。
【0041】
[実施例1]
<繊維集合体の作成>
ナイロン6(融点220℃)と低密度ポリエチレンを50/50で混合、エクストルダーで溶融、混合し290℃で混合紡糸し、延伸、油剤を処理しカットし5.5dtex、51mmの繊維を得た。これをカード、クロスラッパー、ニードルロッカー、カレンダーの工程を通し、単位面積あたりの重さ(目付け)450g/m、厚さ1.6mm、見掛け密度0.28g/cmの繊維集合体を得た。
【0042】
<多孔質皮膜層を表面に有する繊維質基体の作成>
上記の繊維集合体を10重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P、融点180℃)−DMF溶液に浸漬させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、基材厚さの90%でスクイズした後、その表面に20重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−DMF溶液(添加剤として東レ・ダウコーニング製SH28PAを溶液100部に対し0.3部を使用)を800g/mの目付けでコーティングし、次いで5%のDMFを含んだ水中に浸漬してポリウレタンを凝固させ、DMFを水で十分に洗浄除去した後120℃で乾燥して、ポリウレタン多孔質層からなる多孔質皮膜層が基体上に形成されたシートを得た。
【0043】
得られたシートを90℃の熱トルエン中で圧縮、緩和を繰り返し、繊維中のポリエチレン成分を抽出除去し、繊維集合体中のナイロン繊維を0.003dtexの極細繊維とした。得られた繊維質基体は、そして極細繊維と高分子弾性体からなる繊維質基体上に、ポリウレタンからなる湿式多孔層である多孔質皮膜の形成されたものであった繊維質基体を作成した。繊維質基体のこのときの単位面積あたりの重さ(目付け)は460g/m、厚さ1.3mm、見掛け密度0.35g/cm、繊維質基体中の高分子弾性体と繊維の比率(R/F)は48%であった。また断面を電子顕微鏡にて観察したところ、極細繊維の周辺に多孔質の高分子弾性体が分散しており、多孔質皮膜の内部に存在するの多孔は繊維質基体内の空隙と連通していた。ただしその多孔質皮膜の表面は開孔しておらず、繊維質基体の表面自体は無孔状態であった。
【0044】
<皮革様シート状物−1(開孔前)の作成>
離型紙(リンテック社製R53)上に、レザミンLU−2109HV(ポリウレタン濃度25%、大日精化社製、融点150℃)100部、DMF15部、およびイソプロピルアルコール15部を混合した溶液を目付け120g/mでコートして温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥して厚さ0.01mmの高分子弾性体からなる最表皮膜(充実層)を形成した。さらにその表面に、ポリウレタン系接着剤100部にレザミンNE架橋剤10部、DMF10部、MEK10部の調合液を目付け180g/mでコートし接着層(充実層)とした。次いで、温度90℃で2分乾燥後、その離型紙上の2種類の高分子弾性体の上に、多孔質皮膜を表面に有する繊維質基体とを重ね合わせ、温度110℃の加熱シリンダー表面上で0.6mmの間隙のロールに通過させ圧着した。その後、温度60℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取り皮革様シート状物−1を得た。このときに充実皮膜を構成する最表皮膜の厚さは0.01mm、接着層の厚さは0.07mmであった。
【0045】
<皮革様シート状物−2(開孔有り)の作成>
上記皮革様シート状物−1の表面にCOレーザー加工機(三菱電機株式会社製、MITSUBISHI MEL LASER 605GTXII)を使用し、レーザーを縦横500μm間隔おきに照射し、その表面に微細孔を開孔させた。得られた皮革様シート状物−2の表面は肉眼では変化は見えないが、表面を電子顕微鏡で観察すると直径100μmの穴の中心が正確に500μm間隔で開孔していた。開孔密度は400個/cmであった。断面を電子顕微鏡で観察すると充実皮膜層を貫通する円錐状の穴が存在し、その穴の先端は充実皮膜層の下の層である基体側の高分子からなる多孔質皮膜内に止まっており、極細繊維と高分子弾性体からなる繊維質基体層には届いていなかった。また円錐状の穴の内部表面には多孔質皮膜に存在する多孔の開口部が存在していたが、その表面は融着し微多孔状のものは無くなっていた。
このものの表面形態は肉眼では開孔前と全く差異がないにもかかわらず、通気性の優れたものであった。表1に物性を示す。
【0046】
[比較例1]
<皮革様シート状物−3(開孔有り)の作成>
上記皮革様シート状物−1の表面にCOレーザー加工機(三菱電機株式会社製、MITSUBISHI MEL LASER 605GTXII)を使用し、レーザーを縦横500μm間隔おきに照射し、充実皮膜層、及び多孔皮膜層の両方の表皮層を貫通し、繊維と高分子弾性体からなる繊維質基体内部に孔の先端が達するように微細孔を開孔させた。
【0047】
得られた皮革様シート状物−3の表面は肉眼では変化は見えないが、表面を電子顕微鏡で観察すると直径100μmの孔の中心が正確に500μm間隔で開孔していた。またその表面にはポリウレタンの盛り上がりが無く、平滑性に優れたものであった。また、存在する孔は充実皮膜層と多孔質皮膜層からなる表皮層を貫通し、その孔の先端は表皮層の下の層である繊維質基体層の表皮層側から50%の深さの部分で止まっており皮革様シート状物の裏面には届いていなかった。
このものの通気性は優れているものの、強度の低下が見られた。表1に物性を示す。
【0048】
[比較例2]
実施例1で得られた開孔前の「皮革様シート状物−1」をそのまま、つまり皮革様シート状物の表面にCOレーザー加工機での開孔処理を実施しない皮革様シート状物を用いて測定した。表1に物性を示す。
【0049】
[比較例3]
<機械的開孔処理した皮革様シート状物−4の作成>
実施例1で得られた開孔前の「皮革様シート状物−1」の表面に、太さ0.5mmのニードル針(バーブ無し)にて、基材厚さの途中までの深さとなるように25パンチ/cmの密度でパンチングを行った。これは縦横2mm間隔でパンチしたものと同等の穿孔密度である。ニードルパンチを行う間隔を制御する精度上の問題から、スピードを上げることができないので実施例1に示した400個/cmまで増やすことはできなかった。孔の状態は貫通孔こそないものの、その孔の終端は繊維と高分子からなる基材層であり、多孔高分子層内にその孔の先端をコントロールすることはできなかった。また、ニードル針による孔および孔周辺のへこみが肉眼でも確認する事ができ、汚れ易く品位が劣るものであった。
表1に物性を示す。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
このようにして得られた本発明の皮革様シート状物は、表面に繊維質基体から連続した孔穴が通じているために通気、透湿に優れたものとなる。また表面に開口した穴は充実皮膜のみ貫通し、多孔質皮膜は貫通していないために強度において優れた皮革様シート状物となっている。このため従来から人工皮革として使用されているスポーツシューズ、一般靴、各種競技用ボール、装丁用途、衣料、および家具・車両用途において適したものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基体上に、高分子弾性体からなる表皮層が存在する皮革様シート状物であって、該表皮層が表面側の充実皮膜と繊維質基体側の多孔質皮膜とからなり、最表面の充実皮膜の表側には穴の開口部が存在しており、その穴が充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しないものであり、かつ多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通していることを特徴とする皮革様シート状物。
【請求項2】
穴の開口部の直径が10〜300μmである請求項1記載の皮革様シート状物。
【請求項3】
充実皮膜に存在する開口部が、1〜1000個/cmの密度である請求項1または2記載の皮革様シート状物。
【請求項4】
表皮層を構成する高分子弾性体の融点が150〜220℃である請求項1〜3のいずれか1項記載の皮革様シート状物。
【請求項5】
多孔高分子弾性体が、ポリウレタンからなるものである請求項1〜4のいずれか1項記載の皮革様シート状物。
【請求項6】
繊維質基体上に、高分子弾性体からなる多孔質皮膜と充実皮膜とが繊維質基体側から順に存在し、多孔質皮膜内の多孔が繊維質基体と連通している皮革様シート状物に、充実皮膜側から赤外線領域のレーザー加工を行い、充実皮膜は貫通するが、多孔質皮膜は貫通しない穴を穿孔することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。
【請求項7】
レーザー加工の焦点を多孔質皮膜内部に設定する請求項6記載の皮革様シート状物の製造方法。
【請求項8】
レーザー加工がCOレーザーである請求項6または7記載の皮革様シート状物の製造方法。
【請求項9】
穿孔密度が、1〜1000個/cmである請求項6〜8のいずれか1項記載の皮革様シート状物の製造方法。
【請求項10】
表皮層を構成する高分子弾性体の融点が150〜220℃である請求項6〜9のいずれか1項記載の皮革様シート状物の製造方法。

【公開番号】特開2010−248643(P2010−248643A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97127(P2009−97127)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】