目標検出装置
【課題】高速目標が小目標であっても、その小目標を確実に検出し、目標検出性能を向上させることができる目標検出装置。
【解決手段】入力された受信信号を短時間フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換する短時間フーリエ変換部1と、短時間フーリエ変換部で変換された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出する極大値抽出部2と、極大値抽出部で抽出された極大値に対し、極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号を加算することにより該極大値を強調する積分部3と、積分部において強調された極大値の時間軸方向および周波数軸方向の所定範囲に存在するセルの信号に基づいて算出されたスレッショルドまたは予め決定された固定のスレッショルドを超えたかどうかを判断する判断手段4と、判断手段による判断結果に基づき目標を検出する検出部5を備える。
【解決手段】入力された受信信号を短時間フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換する短時間フーリエ変換部1と、短時間フーリエ変換部で変換された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出する極大値抽出部2と、極大値抽出部で抽出された極大値に対し、極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号を加算することにより該極大値を強調する積分部3と、積分部において強調された極大値の時間軸方向および周波数軸方向の所定範囲に存在するセルの信号に基づいて算出されたスレッショルドまたは予め決定された固定のスレッショルドを超えたかどうかを判断する判断手段4と、判断手段による判断結果に基づき目標を検出する検出部5を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーダ装置に適用され、受信信号から目標を検出する目標検出装置に関し、特に時間−周波数軸上で目標を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば目標を検出して追尾するレーダ装置に適用され、送信したパルス信号が目標で反射された反射波を受信し、受信した反射波を電気信号に変換して受信信号を生成し、受信信号に信号処理を施すことにより目標を検出する目標検出装置が知られている。このような目標検出装置では、複数の反射波(ヒット)を受信することにより得られた受信信号を積分することによりSN比(信号対熱雑音電力比)を向上させることが行われている。
【0003】
しかしながら、高速で動く目標(以下、「高速目標」という)や、距離分解能に対して速度が早い目標(換言すれば、高レンジ分解能の目標検出装置)に対しては、複数ヒットを送受信することにより得られた信号は、目標のレンジ方向のずれを含み、積分できるヒット数に上限がある。すなわち、レンジウォークによる積分損失が発生する。従って、積分によるSN比の向上にも限界があり、目標の検出性能が劣るという問題があった。
【0004】
このような問題に対処するために、目標のレンジ方向のずれが発生した場合のような短時間しか出現しない目標を、短時間フーリエ変換(以下、「STFT:Short Time Fourier Transform」という)を用いて検出する目標検出装置が開発されている。
【0005】
図9は、このような従来の目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、STFT部1、一定誤警報率(以下、「CFAR:Constant False Alarm Rate」という)部4、検出部5および距離演算部6から構成されている。
【0006】
この目標検出装置は、以下のように動作する。すなわち、反射波をアンテナ(図示しない)で受信することにより得られた受信信号は、STFT部1に送られる。STFT部1は、受信信号を短時間フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換する。短時間フーリエ変換については、例えば非特許文献1に説明されている。このSTFT部1における短時間フーリエ変換によって得られた時間−周波数軸上の信号は、CFAR部4に送られる。
【0007】
CFAR部4は、STFT部1から送られてくる時間−周波数軸上の信号の中の注目信号の周辺の信号レベルからスレッショルドレベルを算出し、算出したスレッショルドレベルと注目信号とを比較して目標の有無を判断し、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成する。CFAR処理については、例えば非特許文献2に詳細に説明されているが、以下において、簡単に説明する。
【0008】
図10は、CFAR部4の一例として、相加平均で規格化を行うリニアCFAR部の構成を示すブロック図である。このCFAR部4は、遅延回路41、加算部42、平均化処理部43および除算部44から構成されている。
【0009】
遅延回路41は、入力された信号xiを遅延させた後、加算部42および除算部44に送る。加算部42は、一定期間に遅延回路41から送られてくるN個のデータを加算し、平均化処理部43に送る。平均化処理部43は、加算部42から送られてくるN個のデータの平均値を算出し、除算部44に送る。除算部44は、遅延回路41から送られてくるデータを平均値で除算して出力する。この除算部44の出力が、CFAR部4の出力として検出部5に送られる。なお、CFAR部4は、相乗平均で規格化を行う対数CFAR部によって実現される場合もある。
【0010】
検出部5は、CFAR部4から送られてくる信号に基づいて目標を検出する。この検出部5において検出された目標を表す信号は、距離演算部6に送られる。距離演算部6は、検出部5から送られてくる目標を表す信号に基づき目標までの距離を算出する。この距離演算部6において算出された目標までの距離を表す信号が、目標検出装置の出力として、外部に出力される。
【非特許文献1】榊原、“ウェーブレットビギナーズガイド”、東京電機大学出版局、pp.23−24(1995)
【非特許文献2】関根、“レーダ信号処理技術”、電子情報通信学会、pp.96−106(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来の短時間フーリエ変換を用いた目標検出装置では、高速目標が小目標である場合は、SN比が小さくて、目標を検出できない場合があるという問題がある。
【0012】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、高速目標が小目標であっても、その小目標を確実に検出し、目標検出性能を向上させることができる目標検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、上述した課題を達成するために、入力された受信信号を短時間フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換する短時間フーリエ変換部と、短時間フーリエ変換部により変換された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出する極大値抽出部と、極大値抽出部で抽出された極大値に対し、該極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号を加算することにより該極大値を強調する積分部と、積分部において強調された極大値の時間軸方向および周波数軸方向の所定範囲に存在するセルの信号に基づいて算出されたスレッショルドまたは予め決定された固定のスレッショルドを超えたかどうかを判断する判断手段と、判断手段による判断結果に基づき目標を検出する検出部を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、短時間フーリエ変換部により変換された時間−周波数軸上の信号を合成することにより強調された時間−周波数軸上の信号を生成する強調部を備え、極大値抽出部は、強調部において強調された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、検出部で検出された目標に対して、極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号、または、極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号のうちの所定のスレッショルドを超えている信号を用いて重心距離演算を実施することにより目標までの距離を算出する距離算出部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、短時間フーリエ変換により得られる信号の極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号が、周波数軸上でほぼ同じ周波数になって時間軸上に並ぶため、時間軸上の信号を積分して強調することにより、レンジウォークによる積分損失を低減し、高速目標が小目標であっても、その小目標を確実に検出し、目標検出性能を向上させることができる。
【0017】
また、請求項2記載の発明によれば、短時間フーリエ変換部における変換によって得られた時間−周波数軸上の信号を合成することにより強調された時間−周波数軸上の信号を生成して極大値抽出部に与えるので、請求項1記載の発明よりさらに目標検出性能を向上させることができる。
【0018】
また、請求項3記載の発明によれば、極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号、または、極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号のうちの所定のスレッショルドを超えている信号を用いて重心距離演算を実施するので、目標の距離精度を上げることができ、レンジ分解能より高い精度で、目標までの距離を算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、背景技術の欄で説明した従来の目標検出装置の構成要素と同じ構成要素には、従来の目標検出装置の構成要素に付した符号と同一の符号を付して説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、STFT部1、極大値抽出部2、積分部3、CFAR部4および検出部5から構成されている。
【0021】
STFT部1は、外部から送られてくる受信信号(時間領域の信号)を、短時間フーリエ変換によって時間−周波数軸上の信号に変換する。このSTFT部1における短時間フーリエ変換によって得られた時間−周波数軸上の信号は、極大値抽出部2に送られる。
【0022】
極大値抽出部2は、STFT部1から送られてくる時間−周波数軸上の信号から、最大値からP番目(Pは正の整数)までのP個の極大値を抽出する。この極大値抽出部2で抽出されたP個の極大値は、積分部3に送られる。
【0023】
積分部3は、極大値抽出部2から送られてくる時間−周波数軸上のP個の極大値の各々について、極大値の時間軸方向の前方に存在するM個(Mは正の整数)および後方に存在するM個のセルの信号を極大値に加算して積分を行うことにより強調された極大値を生成する。この積分部3で生成された強調された極大値は、CFAR部4に送られる。
【0024】
CFAR部4は、本発明の判断手段に対応する。このCFAR部4は、背景技術の欄で詳細を説明したように、積分部3から送られてくる時間−周波数軸上の信号の中の注目信号の周辺の信号レベルからスレッショルドレベルを算出し、算出したスレッショルドレベルと注目信号とを比較して目標の有無を判断し、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成する。CFAR部4で生成された信号は、検出部5に送られる。
【0025】
検出部5は、CFAR部4から送られてくる信号に基づいて目標を検出する。この検出部5において検出された目標を表す信号は、目標検出装置で検出された目標信号として、外部に出力される。
【0026】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る目標検出装置の動作を説明する。STFT部1へ入力される受信信号は、図2(a)に示すような、レンジセルデータから構成されている。距離分解能に比べて高速で移動する目標の場合には、各レンジセルのデータを積分しようとすると、図2(a)に示すように、レンジセルから少しずつずれるため、PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し周期)毎に得られるPRIデータは、図2(b)に示すように、短時間しか出現しないことになる。
【0027】
この受信信号に基づく目標の動きをPRI−レンジ軸上で表現すると、図3(a)に示すような斜めのデータTになる。このデータTの傾きは、目標速度やPRIにより決まる。STFT部1は、このような受信信号に対してレンジセル毎に短時間フーリエ変換を施す。これにより、入力された受信信号が、図3(b)〜図3(d)に示すように、時間−周波数軸上の信号に変換され、極大値抽出部2に送られる。
【0028】
受信信号に目標が含まれる場合は、数レンジセルにわたってその目標を表す信号が検出される。この場合、目標の速度がほぼ一定とすると、図3(b)〜図3(d)に示すように、周波数(速度)軸上の値は同じになり、時間軸(PRI軸)の異なる位置に目標を表す信号が出現する。
【0029】
受信信号に複数の目標が含まれる場合は、その目標を表す信号が複数出現するので、極大値抽出部2は、STFT部1から送られてくる時間−周波数軸上の信号から極大値を抽出し、積分部3に送る。
【0030】
積分部3は、最大値からP番目までの極大値の各々について、時間−周波数軸上の極大値の周りの時間軸方向の所定範囲のセルの信号、具体的には極大値の前方のM個のセルの信号および後方のM個のセルの信号を極大値に加算して積分し、図3(e)に示すように、極大値の信号を強調する。この積分部3で実行される処理の様子を図4に示す。積分部3で算出された、時間−周波数軸上の強調された信号は、CFAR部4に送られる。
【0031】
CFAR部4は、積分部3から送られてくる強調された時間−周波数軸上の信号に対して、図5に示すように、強調された極大値の周りのNt×Nfセル(本発明の「時間軸方向および周波数軸方向の所定範囲に存在するセル」に対応する)で、CFAR処理を実行し、このCFAR処理によってスレッショルドを越えた場合に、その強調された極大値を検出部5に送る。
【0032】
検出部5は、CFAR部4から送られてきた強調された極大値を目標として検出する。そして、以上の処理をP個の極大値について実施することにより、単数または複数の目標を検出し、目標信号として出力する。
【0033】
なお、極大値の周りの時間軸方向の所定範囲のセルの信号を該極大値に加算して積分する場合、検波した後に積分する手法が基本となるが、位相を含めたコヒーレント積分であるために、フーリエ変換を用いて、周波数バンクの最大値を用いるように構成することができる。
【0034】
また、本発明の判断手段としてCFAR部4を用い、目標を検出するために、CFAR処理によって決定されるスレッショルドを用いたが、スレッショルドを決める際は、CFAR処理の代わりに、Nt×Nfセルの熱雑音の平均値や固定のスレッショルド等を用いるように構成することもできる。
【0035】
さらに、実施例1に係る目標検出装置は、図6に示すように、STFT部1と極大値抽出部2との間に強調部8を追加するように変形することもできる。強調部8は、上述した積分部3と同様に、STFT部1から送られてくる時間−周波数軸上の信号を積分によって合成することにより強調された時間−周波数軸上の信号を生成し、極大値抽出部2に送る。この構成によれば、さらに目標検出性能を向上させることができる。
【実施例2】
【0036】
本発明の実施例2に係る目標検出装置は、実施例1に係る目標検出装置で検出された目標信号に対して、目標までの距離を高い精度で算出するようにしたものである。
【0037】
図7は、本発明の実施例2に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、実施例1に係る目標検出装置に、重心距離演算部7が追加されて構成されている。
【0038】
重心距離演算部7は、極大値毎に複数レンジで出現した信号、つまり時間−周波数軸上の極大値の周りの時間軸方向の所定範囲のセルの信号(極大値の前方のM個のセルの信号および後方のM個のセルの信号)について、下記(1)式により、距離を算出する。この重心距離演算により、レンジセル単位に求められる距離以上に、距離精度を高めることができる。この重心距離演算の様子を図8に示す。
【数1】
【0039】
ここで、
Rm; mセルの距離(m=1〜M)
Am; mセルの振幅(m=1〜M)
なお、重心距離演算部7においては、極大値の周りの時間軸方向の2M+1個の信号すべてを用いなくても、例えば、2M+1個のうち、所定のスレッショルドを越えた信号のみを用いて、重心距離演算を行うように構成することもできる。この構成によれば、ノイズなどを排除して距離を計算できるので、より正確な距離を求めることができる。
【0040】
また、本発明に係る目標検出装置は、実施例1または実施例2に係る目標検出装置に、MTI(移動目標検出;Moving Target Indicator)やパルス圧縮等の技術を組み合わせて構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る目標検出装置は、目標を検出および/または追尾するレーダ装置や受信装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る目標検出装置に入力される受信信号を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係る目標検出装置で実行されるSTFT処理を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1に係る目標検出装置で実行される積分処理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1に係る目標検出装置で実行される極大値抽出処理を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係る目標検出装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例2に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例2に係る目標検出装置で行われる重心距離演算処理を説明するための図である。
【図9】従来の目標検出装置の構成を説明するための図である。
【図10】図9に示すCFAR部の詳細な構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0043】
1 STFT部
2 極大値抽出部
3 積分部
4 CFAR部
5 検出部
7 重心距離演算部
8 強調部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーダ装置に適用され、受信信号から目標を検出する目標検出装置に関し、特に時間−周波数軸上で目標を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば目標を検出して追尾するレーダ装置に適用され、送信したパルス信号が目標で反射された反射波を受信し、受信した反射波を電気信号に変換して受信信号を生成し、受信信号に信号処理を施すことにより目標を検出する目標検出装置が知られている。このような目標検出装置では、複数の反射波(ヒット)を受信することにより得られた受信信号を積分することによりSN比(信号対熱雑音電力比)を向上させることが行われている。
【0003】
しかしながら、高速で動く目標(以下、「高速目標」という)や、距離分解能に対して速度が早い目標(換言すれば、高レンジ分解能の目標検出装置)に対しては、複数ヒットを送受信することにより得られた信号は、目標のレンジ方向のずれを含み、積分できるヒット数に上限がある。すなわち、レンジウォークによる積分損失が発生する。従って、積分によるSN比の向上にも限界があり、目標の検出性能が劣るという問題があった。
【0004】
このような問題に対処するために、目標のレンジ方向のずれが発生した場合のような短時間しか出現しない目標を、短時間フーリエ変換(以下、「STFT:Short Time Fourier Transform」という)を用いて検出する目標検出装置が開発されている。
【0005】
図9は、このような従来の目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、STFT部1、一定誤警報率(以下、「CFAR:Constant False Alarm Rate」という)部4、検出部5および距離演算部6から構成されている。
【0006】
この目標検出装置は、以下のように動作する。すなわち、反射波をアンテナ(図示しない)で受信することにより得られた受信信号は、STFT部1に送られる。STFT部1は、受信信号を短時間フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換する。短時間フーリエ変換については、例えば非特許文献1に説明されている。このSTFT部1における短時間フーリエ変換によって得られた時間−周波数軸上の信号は、CFAR部4に送られる。
【0007】
CFAR部4は、STFT部1から送られてくる時間−周波数軸上の信号の中の注目信号の周辺の信号レベルからスレッショルドレベルを算出し、算出したスレッショルドレベルと注目信号とを比較して目標の有無を判断し、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成する。CFAR処理については、例えば非特許文献2に詳細に説明されているが、以下において、簡単に説明する。
【0008】
図10は、CFAR部4の一例として、相加平均で規格化を行うリニアCFAR部の構成を示すブロック図である。このCFAR部4は、遅延回路41、加算部42、平均化処理部43および除算部44から構成されている。
【0009】
遅延回路41は、入力された信号xiを遅延させた後、加算部42および除算部44に送る。加算部42は、一定期間に遅延回路41から送られてくるN個のデータを加算し、平均化処理部43に送る。平均化処理部43は、加算部42から送られてくるN個のデータの平均値を算出し、除算部44に送る。除算部44は、遅延回路41から送られてくるデータを平均値で除算して出力する。この除算部44の出力が、CFAR部4の出力として検出部5に送られる。なお、CFAR部4は、相乗平均で規格化を行う対数CFAR部によって実現される場合もある。
【0010】
検出部5は、CFAR部4から送られてくる信号に基づいて目標を検出する。この検出部5において検出された目標を表す信号は、距離演算部6に送られる。距離演算部6は、検出部5から送られてくる目標を表す信号に基づき目標までの距離を算出する。この距離演算部6において算出された目標までの距離を表す信号が、目標検出装置の出力として、外部に出力される。
【非特許文献1】榊原、“ウェーブレットビギナーズガイド”、東京電機大学出版局、pp.23−24(1995)
【非特許文献2】関根、“レーダ信号処理技術”、電子情報通信学会、pp.96−106(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来の短時間フーリエ変換を用いた目標検出装置では、高速目標が小目標である場合は、SN比が小さくて、目標を検出できない場合があるという問題がある。
【0012】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、高速目標が小目標であっても、その小目標を確実に検出し、目標検出性能を向上させることができる目標検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、上述した課題を達成するために、入力された受信信号を短時間フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換する短時間フーリエ変換部と、短時間フーリエ変換部により変換された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出する極大値抽出部と、極大値抽出部で抽出された極大値に対し、該極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号を加算することにより該極大値を強調する積分部と、積分部において強調された極大値の時間軸方向および周波数軸方向の所定範囲に存在するセルの信号に基づいて算出されたスレッショルドまたは予め決定された固定のスレッショルドを超えたかどうかを判断する判断手段と、判断手段による判断結果に基づき目標を検出する検出部を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、短時間フーリエ変換部により変換された時間−周波数軸上の信号を合成することにより強調された時間−周波数軸上の信号を生成する強調部を備え、極大値抽出部は、強調部において強調された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、検出部で検出された目標に対して、極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号、または、極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号のうちの所定のスレッショルドを超えている信号を用いて重心距離演算を実施することにより目標までの距離を算出する距離算出部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、短時間フーリエ変換により得られる信号の極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号が、周波数軸上でほぼ同じ周波数になって時間軸上に並ぶため、時間軸上の信号を積分して強調することにより、レンジウォークによる積分損失を低減し、高速目標が小目標であっても、その小目標を確実に検出し、目標検出性能を向上させることができる。
【0017】
また、請求項2記載の発明によれば、短時間フーリエ変換部における変換によって得られた時間−周波数軸上の信号を合成することにより強調された時間−周波数軸上の信号を生成して極大値抽出部に与えるので、請求項1記載の発明よりさらに目標検出性能を向上させることができる。
【0018】
また、請求項3記載の発明によれば、極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号、または、極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号のうちの所定のスレッショルドを超えている信号を用いて重心距離演算を実施するので、目標の距離精度を上げることができ、レンジ分解能より高い精度で、目標までの距離を算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、背景技術の欄で説明した従来の目標検出装置の構成要素と同じ構成要素には、従来の目標検出装置の構成要素に付した符号と同一の符号を付して説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、STFT部1、極大値抽出部2、積分部3、CFAR部4および検出部5から構成されている。
【0021】
STFT部1は、外部から送られてくる受信信号(時間領域の信号)を、短時間フーリエ変換によって時間−周波数軸上の信号に変換する。このSTFT部1における短時間フーリエ変換によって得られた時間−周波数軸上の信号は、極大値抽出部2に送られる。
【0022】
極大値抽出部2は、STFT部1から送られてくる時間−周波数軸上の信号から、最大値からP番目(Pは正の整数)までのP個の極大値を抽出する。この極大値抽出部2で抽出されたP個の極大値は、積分部3に送られる。
【0023】
積分部3は、極大値抽出部2から送られてくる時間−周波数軸上のP個の極大値の各々について、極大値の時間軸方向の前方に存在するM個(Mは正の整数)および後方に存在するM個のセルの信号を極大値に加算して積分を行うことにより強調された極大値を生成する。この積分部3で生成された強調された極大値は、CFAR部4に送られる。
【0024】
CFAR部4は、本発明の判断手段に対応する。このCFAR部4は、背景技術の欄で詳細を説明したように、積分部3から送られてくる時間−周波数軸上の信号の中の注目信号の周辺の信号レベルからスレッショルドレベルを算出し、算出したスレッショルドレベルと注目信号とを比較して目標の有無を判断し、誤警報確率を一定の低さに抑えた信号を生成する。CFAR部4で生成された信号は、検出部5に送られる。
【0025】
検出部5は、CFAR部4から送られてくる信号に基づいて目標を検出する。この検出部5において検出された目標を表す信号は、目標検出装置で検出された目標信号として、外部に出力される。
【0026】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る目標検出装置の動作を説明する。STFT部1へ入力される受信信号は、図2(a)に示すような、レンジセルデータから構成されている。距離分解能に比べて高速で移動する目標の場合には、各レンジセルのデータを積分しようとすると、図2(a)に示すように、レンジセルから少しずつずれるため、PRI(Pulse Repetition Interval;パルス繰り返し周期)毎に得られるPRIデータは、図2(b)に示すように、短時間しか出現しないことになる。
【0027】
この受信信号に基づく目標の動きをPRI−レンジ軸上で表現すると、図3(a)に示すような斜めのデータTになる。このデータTの傾きは、目標速度やPRIにより決まる。STFT部1は、このような受信信号に対してレンジセル毎に短時間フーリエ変換を施す。これにより、入力された受信信号が、図3(b)〜図3(d)に示すように、時間−周波数軸上の信号に変換され、極大値抽出部2に送られる。
【0028】
受信信号に目標が含まれる場合は、数レンジセルにわたってその目標を表す信号が検出される。この場合、目標の速度がほぼ一定とすると、図3(b)〜図3(d)に示すように、周波数(速度)軸上の値は同じになり、時間軸(PRI軸)の異なる位置に目標を表す信号が出現する。
【0029】
受信信号に複数の目標が含まれる場合は、その目標を表す信号が複数出現するので、極大値抽出部2は、STFT部1から送られてくる時間−周波数軸上の信号から極大値を抽出し、積分部3に送る。
【0030】
積分部3は、最大値からP番目までの極大値の各々について、時間−周波数軸上の極大値の周りの時間軸方向の所定範囲のセルの信号、具体的には極大値の前方のM個のセルの信号および後方のM個のセルの信号を極大値に加算して積分し、図3(e)に示すように、極大値の信号を強調する。この積分部3で実行される処理の様子を図4に示す。積分部3で算出された、時間−周波数軸上の強調された信号は、CFAR部4に送られる。
【0031】
CFAR部4は、積分部3から送られてくる強調された時間−周波数軸上の信号に対して、図5に示すように、強調された極大値の周りのNt×Nfセル(本発明の「時間軸方向および周波数軸方向の所定範囲に存在するセル」に対応する)で、CFAR処理を実行し、このCFAR処理によってスレッショルドを越えた場合に、その強調された極大値を検出部5に送る。
【0032】
検出部5は、CFAR部4から送られてきた強調された極大値を目標として検出する。そして、以上の処理をP個の極大値について実施することにより、単数または複数の目標を検出し、目標信号として出力する。
【0033】
なお、極大値の周りの時間軸方向の所定範囲のセルの信号を該極大値に加算して積分する場合、検波した後に積分する手法が基本となるが、位相を含めたコヒーレント積分であるために、フーリエ変換を用いて、周波数バンクの最大値を用いるように構成することができる。
【0034】
また、本発明の判断手段としてCFAR部4を用い、目標を検出するために、CFAR処理によって決定されるスレッショルドを用いたが、スレッショルドを決める際は、CFAR処理の代わりに、Nt×Nfセルの熱雑音の平均値や固定のスレッショルド等を用いるように構成することもできる。
【0035】
さらに、実施例1に係る目標検出装置は、図6に示すように、STFT部1と極大値抽出部2との間に強調部8を追加するように変形することもできる。強調部8は、上述した積分部3と同様に、STFT部1から送られてくる時間−周波数軸上の信号を積分によって合成することにより強調された時間−周波数軸上の信号を生成し、極大値抽出部2に送る。この構成によれば、さらに目標検出性能を向上させることができる。
【実施例2】
【0036】
本発明の実施例2に係る目標検出装置は、実施例1に係る目標検出装置で検出された目標信号に対して、目標までの距離を高い精度で算出するようにしたものである。
【0037】
図7は、本発明の実施例2に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。この目標検出装置は、実施例1に係る目標検出装置に、重心距離演算部7が追加されて構成されている。
【0038】
重心距離演算部7は、極大値毎に複数レンジで出現した信号、つまり時間−周波数軸上の極大値の周りの時間軸方向の所定範囲のセルの信号(極大値の前方のM個のセルの信号および後方のM個のセルの信号)について、下記(1)式により、距離を算出する。この重心距離演算により、レンジセル単位に求められる距離以上に、距離精度を高めることができる。この重心距離演算の様子を図8に示す。
【数1】
【0039】
ここで、
Rm; mセルの距離(m=1〜M)
Am; mセルの振幅(m=1〜M)
なお、重心距離演算部7においては、極大値の周りの時間軸方向の2M+1個の信号すべてを用いなくても、例えば、2M+1個のうち、所定のスレッショルドを越えた信号のみを用いて、重心距離演算を行うように構成することもできる。この構成によれば、ノイズなどを排除して距離を計算できるので、より正確な距離を求めることができる。
【0040】
また、本発明に係る目標検出装置は、実施例1または実施例2に係る目標検出装置に、MTI(移動目標検出;Moving Target Indicator)やパルス圧縮等の技術を組み合わせて構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る目標検出装置は、目標を検出および/または追尾するレーダ装置や受信装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る目標検出装置に入力される受信信号を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係る目標検出装置で実行されるSTFT処理を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1に係る目標検出装置で実行される積分処理を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1に係る目標検出装置で実行される極大値抽出処理を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係る目標検出装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例2に係る目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例2に係る目標検出装置で行われる重心距離演算処理を説明するための図である。
【図9】従来の目標検出装置の構成を説明するための図である。
【図10】図9に示すCFAR部の詳細な構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0043】
1 STFT部
2 極大値抽出部
3 積分部
4 CFAR部
5 検出部
7 重心距離演算部
8 強調部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された受信信号を短時間フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換する短時間フーリエ変換部と、
前記短時間フーリエ変換部により変換された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出する極大値抽出部と、
前記極大値抽出部で抽出された極大値に対し、該極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号を加算することにより該極大値を強調する積分部と、
前記積分部において強調された極大値の時間軸方向および周波数軸方向の所定範囲に存在するセルの信号に基づいて算出されたスレッショルドまたは予め決定された固定のスレッショルドを超えたかどうかを判断する判断手段と、
前記判断手段による判断結果に基づき目標を検出する検出部と、
を備えたことを特徴とする目標検出装置。
【請求項2】
前記短時間フーリエ変換部により変換された時間−周波数軸上の信号を合成することにより強調された時間−周波数軸上の信号を生成する強調部を備え、
前記極大値抽出部は、前記強調部において強調された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出することを特徴とする請求項1記載の目標検出装置。
【請求項3】
前記検出部で検出された目標に対して、前記極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号、または、前記極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号のうちの所定のスレッショルドを超えている信号を用いて重心距離演算を実施することにより目標までの距離を算出する距離算出部
を備えたことを特徴とする請求項1記載の目標検出装置。
【請求項1】
入力された受信信号を短時間フーリエ変換により時間−周波数軸上の信号に変換する短時間フーリエ変換部と、
前記短時間フーリエ変換部により変換された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出する極大値抽出部と、
前記極大値抽出部で抽出された極大値に対し、該極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号を加算することにより該極大値を強調する積分部と、
前記積分部において強調された極大値の時間軸方向および周波数軸方向の所定範囲に存在するセルの信号に基づいて算出されたスレッショルドまたは予め決定された固定のスレッショルドを超えたかどうかを判断する判断手段と、
前記判断手段による判断結果に基づき目標を検出する検出部と、
を備えたことを特徴とする目標検出装置。
【請求項2】
前記短時間フーリエ変換部により変換された時間−周波数軸上の信号を合成することにより強調された時間−周波数軸上の信号を生成する強調部を備え、
前記極大値抽出部は、前記強調部において強調された時間−周波数軸上の信号の極大値を抽出することを特徴とする請求項1記載の目標検出装置。
【請求項3】
前記検出部で検出された目標に対して、前記極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号、または、前記極大値抽出部で抽出された極大値の時間軸方向の所定範囲に存在するセルの信号のうちの所定のスレッショルドを超えている信号を用いて重心距離演算を実施することにより目標までの距離を算出する距離算出部
を備えたことを特徴とする請求項1記載の目標検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−256409(P2008−256409A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96625(P2007−96625)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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