説明

目標物質検出用の架橋型要素部品

鋳型分子と目標分子とが絡まる現象に起因して生じる様々な物理的変化が同鋳型分子に生じる様々な変化を観察することで検出される。ここで言う変化の典型的なものには、鋳型分子の物理的寸法や剛直性における変化、鋳型分子の電気伝導度における変化、目標分子と鋳型分子の絡まりを開放するのに必要なエネルギーの変化がある。変化量の大きさが目標分子の種類の識別情報となる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願に関する参照情報】
【0001】
本文書に関しては、米国特許法第119条(e)項に基づき、2003年8月6日にFred G.Albertらにより出願された、米国仮特許出願、シリアル番号60/493,142、発明の名称「生物学的物質成分などの目標物質を迅速に検出するための方法およびバイオエレクトロニックデバイス」(“METHOD AND BIO−ELECTRONIC DEVICE FOR RAPID DETECTION OF ANALYTES SUCH AS BIOLOGICAL AGENTS”)を基礎出願とする優先権が認められるべきことを主張する。また、この基礎出願は参照により本願に組み込まれるものとする。
【技術分野】
【0002】
本文書は、広くは様々な方式のセンサー・デバイスに関するものであり、関係範囲を限定する趣旨ではないが、より具体的には、目標物質の検出と分析に関する。
【背景技術】
【0003】
種々の生物学的物質成分、種々の病原体、種々のバクテリア、種々のウイルス、種々の真菌、種々の分子、および種々の毒素といった検出・同定目標物質を検出する作業は、従来法にあっては、比較的面倒で、時間がかかるものであり、また、これを実施するには相当量の技術的専門的知識・経験が必要とされる。例えばある技術処方にあっては、多くの場合数日間にも及ぶ期間に渡って試料をペトリ皿上で培養することが必要になる。また別の技術手法にあっては、何らかの病原性バクテリアの存在を検出するのに当該バクテリアの検出を目的として選定された抗体に染料の標識を付与しての使用することが必要になる。
【0004】
更に、システムによっては目標物質である生物学的物質成分に増幅操作を加えることが必要となるが、この増幅操作は失敗しやすく、高レベルの技術的作業能力が必要とされる。更に、増幅操作を加えることで目標物質である生物学的物質成分の濃度が特定できなくなる場合があり、このような理由で本文書が関わる分野においてはこのようなシステムの採用が不可能となることもある。
【0005】
システムによっては生物学的物質に生じた自然の変化または人工的な変化の介在を見逃すことがあり、すなわち、いわゆる偽の陽性反応を結果することがあり、また、テスト条件の影響を受けやすい。(DNA配列やタンパク質といった類の)生物化学的成分分子を検出するためのデバイスによっては、当該デバイスが有効に機能するために、検出対象である分子を大量に必要とする。このために目標分子の増幅が必要となる。またある場合には目標分子への標識付けが必要になるがこのために鋳型分子はそれ以降の繰り返し使用が不可能になる。
【発明の開示】
【0006】
添付図面の図は実寸の比率を必ずしもそのまま反映するものではない。同じ参照番号で示された部材は異なる図面であっても実質的に同一の部材を示す。異なる添え字を付けられた同じ参照番号は実質的に同一の部材の異なる例を表す。図面は一般に本文書に記載される種々の実施形態を模式的に表現するものであり、概略的に示すものであるが、これらを例示するためのものであっても、限定するためのものではない。
【0007】
以下の詳細な説明においては必要な添付図面への参照情報を示し、それら図面を利用して説明を行う。したがってこれらの図面はこの詳細な説明の一部を成すものである。これらの図面は本発明の具体的な実施例を模式的に示すものである。本文書には単に「例」とも呼ばれる本発明のこれら実施例について、本分野に精通した技術者が本発明を実施するに当たり必要かつ十分な詳細が記載される。これらの実施例は組み合わせることが可能であり、他の実施例の一部を活用することも可能であり、また、これら実施例に構造的、論理的なあるいは電気的な変更を加えることも含めて、このようにしたとしても必ずしも本発明の範囲から離脱することにはならない。それゆえ、以下の詳細な説明は限定的な意味を持つものとして解釈されるべきではなく、本発明の範囲はあくまでも別掲の特許請求の範囲およびその均等物に従うものである。
【0008】
本文書では、「1つの」(英単語の“a”や“an”)という単語は、一般の特許文書の場合と同様に、一つに留まらずそれ以上の数のものも指す。本文書では、「または」(英単語の“or”)という単語は、別段の記載がない限り非排他的な「または」(“or”)として使用されている。更に、本文書において参照資料として記載される全ての刊行物、特許、および特許関連文書は、それぞれを記載するごとにその旨を表記しなくとも、その全体が本文書に組み込まれるものとする。本文書と、このような参照資料として記載することで本文書に組み込まれた文書との間に言葉の使い方の点で一貫性がない場合には、参照資料における記載は本文書を補足するに留まるものとし、それらの間に相容れない矛盾がある場合には本文書の記載を優先するものとする。
【0009】
本文書の一部を成す添付図面は、本発明に具体的実施例を模式的に説明しようとするものであって、本発明の範囲を示すものではない。これら図面においては、本発明の実施例について、本分野に精通した技術者をして、当該技術的思想の実施を可能とするに十分な詳細を記載する。ここに開示される以外の実施例を適用したり、それらから連想できる技術に基づくことで、ここに説明する本発明の実施例に関しその構成ならびに論理について差し替えを行ったり、これら実施例に変更を加えたりすることが可能であろうが、それによってここに開示した本発明の範囲から離脱できるとは限らない。すなわち本明細書の記載は限定的な意味を持つものとして解釈されるべきではない。種々の実施例の基礎となる本発明の範囲はあくまでも別掲の特許請求の範囲にある記載、ならびに特許請求の範囲にある記載と等価とされるものすべてによってのみ規定されるものである。
【0010】
本文書においては、発明の主題のこのような実施例の一つあるいは複数個を便宜上「発明」という語で呼ぶ場合があるが、これによって本発明の範囲をそこで言及する一つまたは複数個の実施例に自発的に限定するものではない。同様に、本文書において具体的に提示され説明が加えられる実施例は、それぞれが提供しようとする発明の効果に変化を起こすことなく採用できると予測がつくような変更・調整の可能性を残しているものである。この意味で本文書は、そこに記載する特定に実施例のみに留まらず、それらに適応化のための変更を加えた実施例、それらの変異型実施例、あるいはそれら記載された実施例同士を混合してなる実施例のすべてに言及しようとするものである。本文書に記載される本発明の実施例同士に組み合わせを実現したり、それら実施例と、本文書には記載されないものの本発明の実施例と考えられるものとの組み合わせを実現したりする方法は本文書を読んだ本分野の技術者には自明である。
【0011】
〔序文〕
分子はそれが置かれた環境の変化の影響を受ける。例えば、一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)はそれと相補的なssDNAの存在に反応を示す。1本の一本鎖DNAがそれに相補的な一本鎖とハイブリダイゼーションを起こす(会合する)とその外観形状全体としての長さは短くなり、同時にDNAとしての電気伝導度も変化する。これら変化の大きさはこのときの2本の一本鎖DNA間の相補的正確度と直接的に関係しており、ヌクレオチド一箇所のみの相違であっても、これら変化は測定可能な大きさとなる。これら変化を分析することで、種々の病原性微生物の同定し、あるいは同微生物をそれらが属する株ごとに分類・識別できる。
【0012】
一例では、ハイブリダイゼーション(会合)に伴う分子レベルの変化を測定するために微小電気機械システム(MEMS)に採用されるのと同じ構造が利用される。例えば、MEMSを構成するチップ内に配された動作型の要素部品が所定の一本鎖DNA断片の1本によって架橋される。ハイブリダイゼーションが起こった状態において同要素部品に生起する変形の測定値や同状態にあるときの電気伝導度の測定値に基づいて相補鎖断片が検出・同定される。一例にあっては、このような検出・同定のために生起したハイブリダイゼーションの詳細な解析が必要で、その解析に信号処理の技術が用いられる。長さや伝導度の変化量と一本鎖DNA同士の相補的マッチングの度合いとの間には相互関係があり、この関係に基づき既知病原性微生物とそれから変異した病原性微生物とを区別したり良性の株と悪性の株とを区別したりできる。
【0013】
加えて、ハイブリダイゼーション後にあっては、一定の電圧を印加することによって、病原性微生物由来のDNA断片、すなわち目標分子を当該鋳型分子から離脱させることが可能である。更にこの目標分子の離脱が起こる時点における電流値は目標分子を同定するための情報となる。更に加えて、目標分子を離脱させることは、当該検出用部品が次の検出行為のための体制にはいる準備をすることでもある。また、検出事象が発生する前の時点で低レベルの電流を当該鋳型分子に流し、同分子に断裂が生じていないことを確認できれば、当該検出用部品の健全性を試験・確認することにもなる。一例にあっては、その各々がDNAに架橋されるものであると共に微小電気機械システム(MEMS)の部品である検知用部品を複数個列状に配置することによって、多種類のウイルス性ないし細菌性の病原体を同時に検出したり、あるいは、一種類の病原体についてその濃度を測定したりできる。
【0014】
加えて、鋳型分子の共鳴振動に関わる変化は鋳型分子に捕捉される試料を同定するために用いられる。一例にあっては、鋳型分子を使用してカンチレバーの自由端から一定の構造体部分に架橋が形成される。(鋳型分子により橋架けされた)カンチレバー・システムの共鳴周波数は試料が鋳型分子とハイブリダイゼーション(会合)すると変化する。相補的関係の信頼性の度合いはこの共鳴振動の振幅や周波数におけるズレの大きさと同ズレの方向によって判定できる。
【0015】
〔典型的な方法〕
図1は何らかの目標物質を検出、同定するための典型的な操作方法100を示すものである。一例にあっては、一種類の一本鎖DNA断片などが当該目標物質として特定される。
【0016】
目標分子と鋳型分子なる用語はいずれも本文書において定める呼び名であり、これら分子の双方はそれらが有する相互関係に応じた様式によって互いに相手側分子を捕捉する。したがって、あるセンサーが鋳型分子としての第1のssDNA鎖を採用し、第2のssDNA鎖を目標分子とする一方、別のセンサーがこの第1のssDNA鎖を目標分子とし鋳型分子としてこの第2のssDNA鎖を採用することがある。
【0017】
上記以外にも捕捉する相手を様々に変更した組み合わせが考えられる。例えば、鋳型分子と目標分子のいずれでも、それを様々な核酸分子(具体的には種々のオリゴヌクレオチド、すなわちss−DNA、あるいはss−RNAと呼ばれるRNAがこれに相当する)から選定することができる他、様々な蛋白質分子や、様々な炭水化物分子から選定できる。DNAの一本鎖などを鋳型分子とすると、同鋳型分子は、それと相補的な一本鎖DNAとハイブリダイズ(会合)して二本鎖DNA(ds−DNA)を形成する。タンパク質分子などを鋳型分子とすると、同鋳型分子は(タンパク分子対タンパク分子の相互認識に基づき)タンパク質分子など、(タンパク分子対核酸分子の相互認識に基づき)核酸分子など、または(タンパク分子対炭水化物分子の相互認識に基づき)炭水化物分子などのいずれのグループから選ばれた目標分子でもそれを捕捉できことになる。更に、核酸分子などである鋳型分子は(核酸分子対核酸分子の相互認識に基づき)DNAである拡散分子を、または(核酸分子対炭水化物分子の相互認識に基づき)炭水化物分子を捕捉できる。更に、炭水化物分子などである鋳型分子は(炭水化物分子と炭水化物分子の相互認識に基づき)炭水化物分子などの目標分子を捕捉できる。一般に、鋳型分子と目標分子との組み合わせは、特定の分子同士の対においてのみ互いに相手分子を捕捉することが可能で、それらに間の関係は鍵と鍵穴のメカニズムに相当するといえる。
【0018】
工程105において、分析対象の試料が採取される。試料は、目標分子を含む可能性を有するものであって、気体、液体または固体のいずれであっても良い。工程110で、試料が分析のために調整され、一例ではこの調整工程に試料のフィルタリングが含まれる。工程115で、試料が分析のためにセンサーに配送される。一例では、試料の配送にはマイクロ流体ポンプ、バルブ、配送溝、貯留部、またはその他のストラクチャを併用して実現されるなどの輸送形態が採用される。工程120で、試料は1個以上のセンサーに接触し当該目標分子の有無判定・同定が行われる。多くのの例にあっては、それぞれに異なる方法で検出および同定が行われるものであって、これら方法には、長さ、または位置の変化、応力の変化、電気伝導度または電気抵抗値の変化をモニタするものや、試料を鋳型分子から分離するために必要な信号レベルを測定するもの、更には共鳴特性の変化量を測定するものなど様々な方法がある。工程125では、入手したデータが当該試料の検出・同定のためのデータ処理に附される。種々の例におけるデータ処理にあっては、出力された信号が保存データと比較されることになり、このような目的に使用されるタイプの保存データには、個々の鋳型分子と個々の目標分子を関連付けるルックアップ・テーブルがある。
【0019】
上記した以外の目的で行う操作も考えられる。例えば、センサーを試料に暴露する前に種々のパラメータに関する値を観察することで同センサーに関わる故障の有無判定試験(センサーのインテグリティ試験)ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔典型的なカンチレバー型センサー〕
図2には、一例におけるセンサー200を示す。基板215は、構造体部分、すなわち対照の役目を果たす基盤(対照基盤)であり、その上にカンチレバーが配置・固定される。固定台210はカンチレバー205Aの一端に結合されその端部を固定すると同時に、同カンチレバー205Aが上記基板215の上方に突き出した空間位置まで持ち上げ支える。一例では、カンチレバー205Aは約200μmの長さ、約20μmの幅、および約1μmの厚さを有する。鋳型分子220の一部分がカンチレバー205Aの自由端に取り付けられる。
【0021】
同図にあっては鋳型分子220はその一端がカンチレバー205Aの自由端に接合され、もう一方の端が基板215の一定部分に接合される線状の要素部品として示されている。カンチレバー205Aと基板215との間の空隙は鋳型分子220によって橋架けされている。
【0022】
同図において、鋳型分子220は、相補的な捕捉相手が絡み付いていない状態にあり、カンチレバー205Aはリラックスしたすなわち無負荷の状態にある。別の様々な状態にあるカンチレバー205Aは点線で示されている。例えば、カンチレバー205Bは、捕捉相手が鋳型220に絡まっている時のものである。カンチレバー205Bは、カンチレバー205Aの位置から下方に距離D1だけ移動している。鋳型分子220は弱い親和力しか持たない捕捉相手と絡み合っている。カンチレバー205Cは、異なるタイプの捕捉相手が鋳型220に絡まっている時のものである。カンチレバー205Cはカンチレバー205Aの位置から下方に距離D2だけ移動している。カンチレバー205Cは鋳型分子220が、カンチレバー220Bに対応するケースの捕捉相手よりも高い親和力を持つタイプの捕捉相手と絡み合っているケースに対応する。
【0023】
カンチレバー205Aの位置移動は、一例では、光学的検知システムで検出される。この図では、光源230がカンチレバー205Aの表面に投射する光ビームが光線245Aとして示されるように反射され、光学センサー235のセル240Aによって検知される。カンチレバー205Bは光線245Bとして示されるように光を反射し、これがセル240Bによって検知され、カンチレバー205Cは光線245Cとして示されるように光を反射し、これがセル240Cによって検知される。センサー235は3つのセルを有するものとして例示されるが、これよりも多くのまたはこれよりも少数の場合も考えられる。一例にあって、光源230は、レーザー光源または他の平行光の光源であって良い。
【0024】
カンチレバー205Aの位置移動あるいは共鳴振動を検出するための様々な手段が上記以外にも考えられる。一例にあっては、ある種の圧電素子が、カンチレバー205Aの位置移動量の関数としての電気信号を発生・提供する。この種の圧電素子には、カンチレバー205A、固定台210または他の構造体部分のいずれかの表面に接着ないし同表面と一体化させた一定の圧電材料を用いて構成されるものなどがある。
【0025】
一例では、キャパシタンス(電気容量)の測定によって前記した位置移動ないしは共鳴振動の測定が行われる。例えば、カンチレバーを導電体の層を含む構成とするとその導電体層がキャパシタ(コンデンサ)の一方のプレートとして機能する。カンチレバーの導電体のこの層と別の導電体との間のキャパシタンスはこれら導電体同士の間の距離と共に変化する。すなわちキャパシタンスを測定することで位置移動ならびに共鳴振動のデータが得られる。種々の例にあっては、カンチレバー内にこのような導電体で形成される層はカンチレバーの他の導電体層から電気的に絶縁されている。
【0026】
一例では、カンチレバーを構成する一定部位の位置移動または共鳴振動を測定するために、磁界または電界が用いられる。磁石と導電体との間の相対的な動きにより生じる信号は、位置移動ないしは共鳴振動を測定するために利用できる。このほか、ストレイン・ゲージをカンチレバーに取り付けると同ゲージから位置移動ならびに共鳴振動に関わる情報を入手できる。
【0027】
〔カンチレバーの典型的な構成〕
図3には、ダイレクテッド・テンプレート回路(DiTC)の構造を採用して作製されたセンサーの構成を示す。ダイレクテッド・テンプレート回路は、微小電気機械の様々なシステム、複数の自己組織化単分子膜(SAMs)、DNAハイブリダイゼーションのそれぞれを利用する様に構成される。リソグラフィー手法を用いて、それぞれが銀(Ag),クロム(Cr)、金(Au)および炭素といった金属などのいずれかを材料とし、ミクロン単位の寸法の種々なパターン形状を有する複数枚の薄膜が形成される。形成する自己組織化単分子膜の種類を選択することでMEMSの表面に固定する鋳型分子を選択することが可能となる。SAMs(複数の自己組織化単分子膜)を使うことで、金などの表面にタンパク質や他の生物学的成分分子を固定化することが可能となる。加えて電流測定的手法と電極上に配置されたSAMs(複数の自己組織化単分子膜)を利用して目標検体分子を検出することが可能である。
【0028】
前記ダイレクティド・テンプレート回路の一実現例にあってはクロムの表面に形成された金の層の上面にSAMsの技法によってタンパク質ストレプタビジンの単層膜が形成される。金の表面に形成されたビオチン化ジスルデ(disulde)の単分子膜にタンパク質が捕捉・固定される現象に基づき当該ストレプタビジンはこの金の電極面に固定されるものである。
【0029】
続いて、架橋形成に採用される一本鎖DNAである鋳型分子とハイブリダイゼーションを起こす(会合する)ように特別に設計・合成された約20ないし100の塩基長のオリゴヌクレオチド・プライマー分子同士を、前記したビオチンの化学的特性に依存した処方で、図8に示す様に接続する。これら相互に接続されたダイレクティド・テンプレート回路プライマーが架橋を形成するssDNA鋳型分子の方向ならびに位置取りを決定する。すなわちこれらは左手プライマーである。
【0030】
一つの例にあっては複数個のオリゴヌクレオチド・プライマー分子によって鋳型一本鎖DNA(ssDNA)分子が補足され、同鋳型一本鎖DNA分子がMEMSで構成される電子回路を架橋接続する。この一本鎖DNAは、存在の有無の判定を目指す微生物に由来する目標DNAと会合するとカンチレバーの腕同士の間の距離が縮められることになる。
【0031】
MEMSのマイクロチップ素子を作製するのにダイレクティド・テンプレート回路を採用すると、手短に表現するならば、疎水性のガラス表面で区分けされたポリアクリルアミド・ゲルで形成される複数の区画域の微細マトリックスを形成するためにゲル・フォトポリメリゼーション技法が必要となる。一例にあっては、DNAのオリゴヌクレオチド分子について、その複数個分子が前記ゲルで形成された区画域に塗布され、蛍光顕微鏡観察技法やエキソヌクレアーゼ消化技法によって、その正しい位置取りや方向付けの確認試験が実施される。
【0032】
上記した処方以外の処方によっても、目標分子の検出および同定のために採用する特定の鋳型分子を所定の接合部位に、所定の方向に配置固定することが可能である。例えば、金−ストレプタビジン、ないしは硫化物類/ビオチンを使用して固定することも考えられる。
【0033】
一例にあっては、プライマーが、一本鎖DNA分子からなる鋳型分子とハイブリダイズ(会合)する様に設計され合成される。これら合成されたプライマーはこのほか鋳型分子を所定の方向に配向し、所定の位置に固定するように調整され、そのために必要な方向に配置される。より具体的には、これらプライマー分子の作用によって鋳型分子の選択された部分(第一端部分または第一端に近接した部分)がカンチレバーの一方の表面に接合固定され、同鋳型分子の選択された箇所(第二端部分または第二端に近接した部分)が同カンチレバーの別の表面に接続固定されることになる。様々な例にあっては、前記鋳型分子の端部それぞれが当該カンチレバーの構造中の特定の一箇所に接合される場合(一方向配置)と、そのようにはなっていない場合(二方向配置)がある。
【0034】
〔パフォーマンス−位置移動〕
一例にあっては、一本鎖DNAの強度およびその長さはそれを構成する塩基の種類、配列並びに環境条件によって変化する。すなわちDNAの一本鎖がそれに相補的な一本鎖断片との間で相互作用を起こすとそれに伴って測定可能な生物物理学的な現象が生起する。具体的な数値を示すと、DNA一本鎖がその相補的一本鎖とハイブリダイズ(会合)するのに伴う長さ方向の自由収縮の平均的割合は約40%である。
DNAを構成するヌクレオチド配列ならびにその組成の異同はその構造的ないしは上記以外の生物物理学的パラメータにも影響を及ぼす。
【0035】
図4は、力の大きさとカンチレバー205Aの表面の位置移動との関係を示すものである。個々のカンチレバーに関して、そのパフォーマンスを測定することで、相補的捕捉相手の識別が可能となる。もし、カンチレバーが不完全な相補性を有する試料分子に暴露される場合には測定結果は違ったものになる。
【0036】
図4には一例における生物学的成分分子の強度をグラフにして示す。ここに示されたデータは、一つの分子がカンチレバーの先端と基板との間が橋架けされているケースに関わるものである。ここでは、何らかの官能基が鋳型ssDNAの末端部分に導入されることで当該ssDNA分子の一端をカンチレバーに、もう一方の端を前記基板に接合できるようになり、その結果としてこの橋架けが完成される。ここで採用される相互に接合する対の典型的なものは金−チオール間の接合およびビオチン−ストレプタビジン間の接合である。
【0037】
この図は分子の張力を算出するためのデータ分析を説明するものである。一実施例では、センサーの構造体は、鋳型分子に僅かな張力が加わる様に作製されるがこの張力については丁度ゼロとしても実質的にはゼロであるという様にしても良い。このような状態に維持された鋳型分子に会合の相手が接近することになる。ssDNAの鋳型分子に適した会合相手の一つは当該鋳型分子の相補型ssDNA鎖である。同鋳型分子が接近してくる目標分子と会合(ハイブリダイゼーション)すると何らかの物理パラメータまたは特性において測定可能な変化が生起する。カンチレバーの位置変動は検出(およびその大きさの測定)が可能であり、その結果、会合に原因する当該分子の長さの変化を検出(およびその大きさを測定)できることになる。
【0038】
この図は鋳型ssDNAと目標ssDNAとのハイブリダイゼーションとカンチレバーの位置移動の関係を示すものである。図から解かるとおりカンチレバーは、当該鋳型ssDNAが遺伝子学的にマッチングした(つまりは相補的な)目標ssDNAに暴露された後、約10.2nmだけたわんでいる。この手法による実験は既に100種類を超えるバライエティの生物学的成分分子を対象に繰り返されている。
【0039】
この図では、目標分子の基準として100%の信頼性で鋳型分子(鎖)に相補的なssDNAを採用している。これ以外の目標分子として100%の信頼性を有する相補的ssDNAの鎖に比べて2%、19%、38%の非相補的塩基を含む分子(バリアント)が示されている。本文書で用いられる場合、バリアントという語は100%の信頼性を有する相補的ssDNAの鎖に比べて複数個所でランダムな非相補的塩基対置換が生起しているssDNAを指す。この図において種々のバリアント間で段階的にその位置移動距離が変化することから解かるとおりバリアントであるssDNA分子もまた本願のシステムを用いて検出および同定が可能であることを示している。
【0040】
〔典型的な並置型カンチレバー検出器〕
図5Aおよび図5Bはカンチレバー型センサー500の概略図である。図5Aには、鋳型分子545が並置型カンチレバー505Aの双方の自由端を架橋ないし接続している状態が示されている。カンチレバー505Aのそれぞれは導電体550と双方のカンチレバー505Aの固定端に配置された接続板535を経由して検出器回路530と電気的に接続されている。接続板535は二種類の層、レイヤ515およびレイヤ520の上に形成されたレイヤ510に接着されている。一実施例では、レイヤ510、515、520はそれぞれSi、Si、Siから成り、それぞれの厚さは約50nm、150nm、250nmである。カンチレバー505Aのそれぞれはレイヤ515の内部に形成される試料配送路540の上方に配され支持されていることになる。カンチレバー505Aのそれぞれは、一実施例では、2種類の層、レイヤ555(金)とレイヤ560(クロム)とからなり、その厚さはそれぞれ約40nm、約5nmである。
【0041】
図5Aで、カンチレバー505Aの双方はssDNAの鋳型分子545によって、ただし同架橋分子には殆どあるいは全く張力がかかっていない状態において、架橋されている。一実施例にあっては、検出器回路530は導電率の大きさを検出するために電流を供給する。導電率は抵抗値の逆数であり抵抗値が算出される場合もあるものと理解されるべきである。一実施例では、インピーダンス値が算出される。図5Bにあっては、図示された架橋565は鋳型分子(ssDNA)と目標分子(ssDNA)との組み合わせがハイブリダイズ(会合)し形成dsDNAをあらわす。図5Bに示されるように、カンチレバー505Aの双方は、互いに近づく方向に変形する。検出器回路530は伝導度を導出するものであり、導出した値はハイブリダイゼーション(会合)によるdsDNA鎖の形成があるとそれに伴う伝導度の上昇を反映する。
【0042】
種々の実施例にあっては、テスト回路と、リセット回路が検出器回路530に具備されている。テスト回路は鋳型分子がカンチレバーのアームに適切に接合されていることを確認するために鋳型分子545の方に電流を流すべく構成される。例えば、電流源とセンサーと抵抗器とを直列に接続すると、同センサーと当該鋳型分子が適切に構成されている場合には、所定の電流が流れる。所定の電流値レベルからのズレがある場合は、当該鋳型分子もしくは同センサーが試料のテスト実施が可能な状態に構成されていない可能性がある。
【0043】
検出器回路のリセット回路は、次の検出および同定の準備として鋳型分子から目標分子を分離するためのドライブ回路を具備する。一実施例では、当該鋳型分子へ徐々に高くなる方向に変化する電圧を加えその間に生じるピーク電流をモニタするようになっている。一実施例では、当該鋳型分子に徐々に高くなる方向に変化する電流を流しこの間に生じるピーク電圧をモニタするようになっている。ピーク電圧もしくはピーク電流は当該鋳型分子とそれに会合した目標分子に関して分子の高次構造の破壊が生起するか、あるいは当該分子間が分離するのに対応するもので、これらへの変化と同時に起こる。
【0044】
図6には、架橋を形成するDNA鎖の高次構造を破壊するに必要な電流の測定値を例示する。リセット回路に拠るにしろその他の高次構造の破壊用電流供給手段に拠るにしろ、センサー部分から相補的な分子鎖を分離することが可能であり、これにより同センサーを次の検出・同定試験に供する体制が整うことになる。一例にあっては、センサーを流体試料の流れに差し込み暴露し、互いに独立した検出・同定作業を一定間隔で繰り返し行うことが可能であり、すなわち当該センサー一ユニットを連続的に運用することが可能である。
【0045】
この図では高次構造の破壊を誘起する電流を縦座標に、印加電圧を横座標に表している。図から解かるとおり電流の大きさの違いに基づいて相補的な目標分子との異同の大きさを推定できることになる。
【0046】
この図からは高次構造の破壊を誘起するのに必要な電流値電流と鋳型ssDNA鎖と目標ssDNA鎖との間の二存在するミスマッチの度合いとが優れて正比例関係にあること、またこの正比例関係に対して当該バリエーションが遺伝子的配列の特定箇所においてのみ発生するのか同バリエーションが当該目標分子の配列中に広く分散した複数個所に散らばって発生するのかといった違いが関係しないことも理解できる。
【0047】
図7Aと図7Bには、高次構造の破壊を引き起こすために電圧を上げ、その後に、次のハイブリダイゼーション工程に入るために当該電圧を検出時用のレベルにまで低下させるという手動の処理を示す。図7Aに示されるように、複数回の検出工程が実行されている。リセット信号が、上記検出工程の各々と対応する形で図7Bに示されている。高次構造の破壊を誘起するレベルの電流がセンサーのリセット手段となっている。同高次構造の破壊を誘起するに必要な電流のレベルはssDNA状態においてもハイブリダイゼーション後の状態(dsDNA)においても変わらず一定であることが解かる。
【0048】
この図では、ある一本の相補的な分子鎖が、データの収集を開始してから約15秒の時点で導入され、その直後にその成分の存在を検出している。その数秒後、電圧が手動で約4ボルトに上げられ当該二本鎖のDNAの高次構造の破壊が起こっている。次に電圧は手動で3ボルトに下げられ、これによって当該システムは次の検出工程に入るためにリセットが完了している。
【0049】
〔共鳴の実施例〕
図8には、鋳型分子が形成する架橋を用いて目標分子を検出し同定を行うのにどのように共鳴現象を利用するのかを示すグラフがある。
【0050】
この図では、周波数が横座標に、振幅が縦座標に示される。カンチレバー機構、あるいはこれ以外の方法を採用する宙吊り型の機構に、励起信号を加えて同機構を振動させる。種々の実施例にあっては、励起信号の発生には磁気部材、圧電部材または音響学的部材をこれら動作型機構部分の近くに配置する方法が採用される。この図にある曲線805は、鋳型分子が初期周波数Fおよび初期振幅Aにて共振することを示す。この鋳型分子を目標分子に暴露した後に、当該機構は周波数F・振幅Aにて共振している。周波数の差Δおよび振幅の差Δは相補性の信頼度を表すものであり、目標分子の検出および同定を可能とする。例えば、鋳型分子と目標分子間の相補的配列の信頼度が高いほど、それらが会合することで、振幅と周波数のどちらか又は双方においてより大きい変化を与えると考えられる。
【0051】
この図は、振幅と周波数との両方において低下するケースの実施例である。しかし、他の実施例では、振幅および周波数のどちらか又は両方が上昇し、あるいはそれらのどちらかまたは両方が低下することになる。
【0052】
一例にあっては、MEMSデバイスの動作部分の共鳴振動によって検出・同定が実施される。一例にあっては、カンチレバーの端部が磁気材料を含み、カンチレバーの下に配されたコイルを流れる交流電流は同カンチレバーをその交流電流の周波数で振動させる。一例では、カンチレバーの寸法と交流電流は、それらによる出力が最大となるように選択される。例えば、交流電流が、カンチレバーの固有周波数に近い場合、当該機構は最も大きく振動するであろう。当該機構に固有の剛直性は、ssDNA、または他の鋳型分子が、カンチレバーの端部と基板ベースとの間を架橋すると変化する。すなわち、振動システムの振動に伴う変位の大きさと同振動の周波数とのどちらか又は両方は、カンチレバーの端部が自由になっているシステムのそれらとは異なるものになる。目標分子(検体試料または鋳型ssDNAに相補的なssDNA)の導入によって、振動システムの振動の変位の大きさと同振動の周波数は変化するであろう。dsDNA鎖の剛性が、二本別々のssDNAの剛性の合計よりも大きいことから、変化の量は鋳型分子と目標分子との間の相補的関係の信頼度に比例するであろう。したがって、検体の存在を検出することに加え、相補的な配列にマッチングする分子との類似性の度合いを推定するのに振幅と周波数の変化を用いることができることになる。
【0053】
〔典型的な作製処方〕
図9には、一例における作製処方900をフロー・チャートにして示す。この図では、操作905にてカンチレバーがベース上に形成される。例えば一端が固定されもう一端が自由になった環状または螺旋状の構造体も含めて、前記カンチレバーとは異なる機構を採用することも考えられる。加えて、ドラム楽器のヘッドのように、中央部が可動し周縁部が固定台ストラクチャに固定された円盤状または長方形状の機構も考えうる。一実施例では、固定台上にカンチレバーを形成するために半導体部品の製造技術が使用される。
【0054】
操作910では、何らかの接着材料、あるいはプライマーがカンチレバーとベース機構材、すなわち基板に塗布される。塗布するプライマーは、鋳型分子が正しい位置で正しい方向に接合されるように個々に違ったタイプのものが選択される。種々の実施例にあっては、採用されるプライマーは金やストレプタビジンのものとされる。
【0055】
操作915にて、当該鋳型分子で基板とカンチレバーの間が架橋される。
一実施例にあってはでは、処方900の実行は、特定された用途のセンサーを専門に作製するする製造業者によって行われるものである。
【0056】
〔典型的な検出および同定〕
図10および図11には、試験の実施処方1000および試験の実施処方1100を示す。これらの実施処方は、他の実施処方と同様に、センサーに接続されたコンピュータまたは他の制御回路を用いて、実施できるものである。一例では、センサーを手動で制御してこの実施処方が実行される。
【0057】
図10は操作1005における試料の調整を示す。種々の実施例にあっては試料の調製にはフィルタリング工程、精製工程、増幅工程、その他の工程が含まれ、当該試料を分析工程に適した状態のものに調製するものである。
【0058】
操作1010で、一つまたはそれ以上個のベース・ライン値を得るために当該鋳型分子の分析が進められる。一実施例にあっては、この操作には鋳型分子に流れる電流のレベルを確認することで当該鋳型分子が正しい方向に正しく配置されているか否かが確認され、更には当該鋳型分子だけの状態での伝導度、抵抗率、共鳴時の振幅、共鳴周波数が測定される。一例にあっては、当該鋳型分子の物理的な位置が測定される。
【0059】
操作1015で、試料が鋳型分子に暴露。一例にあっては、この操作において当該目標分子を含む可能性のある試料を当該試験装置の試料搬送用の溝部分あるいは試料の貯留部分に注入されるものである。搬送用の溝部分や貯留部分は当該鋳型分子と連通している。
【0060】
操作1020では、試料に暴露された状態における鋳型分子の物理パラメータを得るために鋳型分子の分析が実施される。暴露された状態におけるパラメータは、種々の実施例にあっては、何らかの位置の変化すなわち位置移動を測定するものであったり、整列方向の変化を測定するものであったり、導電率や抵抗率を測定するものであったり、分子の高次構造の破壊を誘引するに要する電流値を特定するものであったり、共鳴特性における種々の変化を測定するものであったりする。ここに示したものとは異なる物理的パラメータも考え得るものであり、例えば、鋳型分子と目的分子が会合することで生起する色やその他の光学的変化が考えられる。
【0061】
操作1025では、前記ベース・ライン値とセンサーを目標分子に暴露した状態で得たこれらパラメータ値との間に差異があるかを判定するため照会が行われる。これら物理パラメータに関し変化が生じ、差異が認められる場合にあっては、操作1030において当該試料の識別・同定が行われる。何らかの差異があることは鋳型分子が何かを捉えたことを意味する。
【0062】
本文書の他の箇所に記載されるように、相補的である度合いとは鋳型分子と目標分子との相補的なマッチングの信頼度をいうものである。相互に会合する分子間の組み合わせとしては様々なものが考えられ、相補的な意味で完全にマッチングする場合からのズレの程度が前記物理パラメータにおける差異として現れる。
【0063】
一実施例では、本願発明に係る事項を処理する処理装置に接続されたメモリが保有するデータにはルックアップ・テーブル型のデータが含まれている。この種の保有データによって物理パラメータに関して認められた差異または変化と相補的なマッチングの信頼度との関連が判定される。
【0064】
操作1025での照会が、否定的なものである場合には、操作1035に進み、そこでは出力信号が生成される。この出力信号は種々の実施例によって異なるもので、認められた差異や変化の大きさを示すものであったり、相補的なマッチングの信頼度を示すものであったり、当該目標物質を示すものであったりする。
【0065】
操作1040では、鋳型分子に電気的刺激を加え同分子に高次構造の破壊を起こさせたりあるいは会合を開放させたりし、すなわち同鋳型分子から目標分子や試料物質を離脱させ、同分子のリセットを行う。
【0066】
一実施例では、操作1040の完了後、当該処方は次の試料の検出および同定を実施するため操作1005に戻る。
図11には、一試料に関して複数種の項目の試験を順次実施する場合を想定した処方1100を示す。これら対象とする項目の試験をパラレルに実施するほかここに示したものとは異なる順序にて実施することも十分考えうるものである。例えば、共鳴周波数、共鳴振幅および導電率の変化の測定は、同時に実施可能である。処方1100にあっては、初期条件、すなわちベース・ライン値は操作1105にて確定される。
【0067】
鋳型分子が目標分子と会合することで生じるセンサーの位置移動が操作1110において求められる。操作1115においては、共鳴特性における変動が求められる。ここで求められる変動は、共鳴周波数または共鳴振幅における変動であって良い。操作1120で、目標分子と会合した状態の鋳型分子の導電率が求められる。操作1125では、会合を解き離すに必要な電流値ないしそうするのに必要となる熱レベルを特定するためにピーク信号がモニタされる。
【0068】
図12は、基板1205上に整列配置された複数個の作られたカンチレバー型センサーを示すもので同複数のカンチレバーはそれらに共通の基盤(固定台)1210上に形成されている。その一部には1240A、1240B、1240C、1240Dと符号をつけて示されたカンチレバーは、それぞれの一端が基盤(固定台)1210に固定されると共にそれぞれ鋳型分子によって基板1205の表面に配された接触点1245A、1245B、1245C、1245Dにつながれている。一実施例にあっては各カンチレバーをつなぐこれら鋳型分子は互いに同一の組成のものであって一定の冗長性を意味するにすぎない。しかし、別の実施例にあっては少なくとも一組の互いに組成を異にする鋳型分子が採用されそれぞれが互いに異なる目標分子を検出・同定する。
【0069】
例えば、1240Aといった符号で特定される、各カンチレバーの各々は導電体1235Aならびに導電体1235Bと共にマルチプレクサ1220を使用してコントローラ1215に接続されている。コントローラ1215はテスト電流、テスト電圧、テスト駆動用の種々信号あるいはテストのための他の種類の信号を必要に応じて選択し、個々のカンチレバーに選択的に印加し、カンチレバーそれぞれが目標分子の検出・同定を実行するように制御する。コントローラ1215の制御に基づき電源1225は定電圧/定電流またはランプ電圧/ランプ電流を励起のために供給する。一実施例では、電源1225は、分子にその高次構造の破壊を生起させるための電流または電圧を供給する。別の一実施例では、電源1225は各カンチレバーにそれが共鳴振動を起こすような駆動信号を供給する。
【0070】
インターフェース1230はコントローラ1215に接続され、データ入力とデータ出力をつかさどる。種々の実施例あっては、インターフェース1230はディスプレイ、タッチセンサー・スクリーン、キーボード、キーパッド、マウスあるいはその他のポインタ制御装置、オーディオ変換機、ストレージ装置、プリンタ、ネットワーク接続(例えば、インタネットといった広範囲に及ぶネットワーク、もしくはイントラネットといったローカルな範囲に収まるネットワーク)、電気的接続子、または無線送受信機のいずれであっても良い。
【0071】
図13には、一実施形態にしたがって典型的な可搬型装置1300を例を示す。この図では、ディスプレイ1305には視覚的なプロンプトと、目標分子の分析および当該装置の状態に対応するデータが表示される。ユーザーが操作できる種類のコントロールとデータ入力にための操作箇所としては、電源ボタン1310、試薬切断1315、試料入力1320、コントロール1325などがある。他の制御装置およびデータ入力装置も考えられる。一実施例では、装置1300の透過性のある表面によって、シリンジあるいは他のインジェクション装置を用いて試料を供給することができる。一例にあっては、装置1300の表面のポートに試料を受け取るための貯留部が設けられている。
【0072】
装置1300は、可搬型でバッテリ駆動できる装置として示されているが、本願発明の実施形態である装置としてはこれ以外の形態をとることも可能で、例えば試料を受け取り、あるいは出力を行うための部分装置をも有するデスクトップ型の装置であって良い。
【0073】
〔実施例〕
架橋部分分子の長さやそれに加わる力の変化については測定が可能であるがそれらに加えて当該DNAの分子が構成する構造自身が導電体でありその導電特性が同分子の構造体の内容、配列順、長さ、ならびに当該架橋構造部分を含んでなる回路の化学的環境に依存して定まる種類のものである。一例にあっては、測定した導電度から当該分子構造中のグアニン/シトシンの含有割合を算出するものである。
【0074】
一例にあっては、121塩基対からなるバシルス属のゲノムDNAの塩基配列がゲノム、プラスミドならびにラムダ・ビールスのDNAから単離されている。得られたデータは、DNAの性状(長さ、配列組成)、分析条件(レドックス、pH、塩、高次構造破壊剤、会合促進に関わる個々の制御条件)、タイプの異なるDNA(一本鎖と二本鎖)分子、ならびにバシルス属あるいは大腸菌のDNAから取り出した遺伝子的変異種に関する違いにもかかわらず互いに一致する結果を示している。
【0075】
ここで主題とする断片はバシルス属のゲノムDNAから制限エンドヌクレアーゼ消化の手法によって取り出したもので、その親株としての大腸菌ホストに導入された一定のpUC13プラスミド・クローニング・ベクトルにライゲーションされます。ランダムでスポット的な遺伝子的変異のライブラリーがプラスミドへ挿入される断片の全長に作られ、親株からそれぞれ2%、19%、35%だけ異なった挿入断片部分はその配列が調べられると共に更なる分析に供せられます。親株ならびに変種の双方の挿入断片はともにホスト・プラスミドから除去され、その5’ならびに3’末端はチオールとビオチン基による高次構造の化学的破壊をうけます。一本鎖DNA類似性クロマトグラフィー(ビオチン変性に基づくタイプのもの)により分離されストレプタビジンと金が塗布された導電性・原子スケール的微細試片(AFM試片)と基盤(ステージ)の間に接合されます。ここでAFM試片は最初の段階では変形されていないものです。一実施例にあっては一本鎖DNAのそれがそれと相補的な一本鎖と会合することで結果する実質的な長さの変化は40%もの短縮になるものである。
【0076】
相補的DNA(ハイプルダイゼーション用試料溶液)ないしは遺伝子的変種の架橋形状に接合したDNA鋳型分子へ導入するとそれに遅れること数秒以内にしてAFM試片の位置移動は発現した。この試験結果は鋳型分子と相補的分子間のミスマッチングの存在率はそれに対応して実測された当該試片の移動距離との間に高い精度の関係(<0.5%COV)があること示した。ここで対象としている塩基対のミスマッチングにあっては、それが分子鎖全体のらせん形状に影響を及ぼさない種のものであることを前提とし、したがってここでいうミスマッチングは分子鎖の長さの短縮作用に悪影響を及ぼさないことを前提とする。
【0077】
導電性であるAFM試片を利用してその導電率を測定した。前記と同様の121塩基対断片をAFM紙片と基盤(ステージ)の間に橋架け接合し、そこに相補的DNAを導入した。印加する電圧を一定として電流(ナノ・アンペア単位の電流)の時刻的変化を測定した。
【0078】
前記相補的DNAの導入を開始するに先立って、印加する一定電圧に対して当該橋架け接合された一本鎖DNAを通り流れる電流がコンスタントな値、ベース・ライン値(約0.3nA)を示すことを確認した。DNAヌクレアーゼでこの一本鎖DNAを事前処理するとこの電流が流れなくなること、一方このDNAヌクレアーゼを熱処理後に同一本鎖DNAの事前処理に使うと熱処理していないDNAヌクリアーゼの場合と異なり電流が流れなくはならないことを確認した。
【0079】
ssDNAが当該MEMSを構成する動作型要素部品につながっている限りは電流が流れるため、センサーに電流が流れていることを測定により確認できればそれがセンサーが機能することの確証となる(センサーの自己試験)。つながれたssDNAおよびその相補鎖との間のハイブリダイゼーションが起こると、この図に示した様な電流の上昇が現れる。この図は、これに加えて当該測定された電流値と当該分子鎖同士間の相補的マッチングの信頼度との間に存在する関係をも示すことになる。ハイブリダイゼーションが完了した後は、センサーの当該部分に当該電圧が印加されている限り流れる電流は比較的一定した値を示す。
【0080】
ハイブリダイゼーションが完了した後に、印加電圧を高くしそれに対応して流れる電流も上昇させると電流値曲線は一定のピーク・レベルに達する。前記した特定の121塩基対断片を用いている場合にあっては、つながれたssDNAとその相補的な分子鎖は、この電圧が約4.1ボルトとなった時点で高次構造破壊を起こした。高次構造破壊が生起する時点の電流値はつながれたssDNAとその相補的な分子鎖の間のマッチングの信頼度に応じて変化した。当該ピーク・レベルに達した後、電流が低下するのと同時に、AFMの先端部は位置変動を起こしていない位置に戻った。この現象の説明として上記のようにして大きな電流が流れると当該ハイブリダイズした状態にある一対の分子鎖には大きなエネルギーが加わり、ハイブリダイズした状態に留まれなくなることが考えられますが、これ以外のメカニズムや要素が作用していることを否定するものではありません。種々の変種に存在するそれぞれに応じた塩基対ミスマッチング部位は当該分子鎖中にあって導電性を有しない部位であり、それに応じて当該分子鎖の導電性を低下させるとみえる。
【0081】
一例にあっては、どのような鋳型分子、すなわちいずれのDNA、を当該回路ないしはカンチレバー機構の橋架け材として選ぶかによってDNA特定に関わる厳密性、同DNAの長さ、配列、組成、および電気伝導度のいずれもが影響される。ある例にあっては架橋部分としての接合用に病原体微生物の複数の遺伝子領域部分から選んだssDNAを採用することで検出・同定の厳密性を高くしており、別の例にあっては採用するDNA鎖のセグメント長を長くすることでDNA特定(当該生物学的目標成分に特有のDNA配列)の厳格性を高くし、更に別の例にあっては採用するDNA鎖セグメントを短くすることでグアニン(G)とシトシン(C)の構成比率が高い領域部分のみを選び出すことが可能となる。G、Cが全域に広く分布する組成・配列にあってはアデニン(A)やチミン(T)の位置が分断されることになる。DNA中にA、Tの割合が高いとそのDNAは形状の自由度が低下し、その分子全体の外観形体がA、Tに富んだ領域の相対的な存在箇所により限定されるようになる(すなわち、ヘリカルな構造に沿う回転に伴って外観形体が決まる)。多くの実施例にあっては、選択されるDNA断片(セグメント)は40%以上がG、Cであり、あるいは60%以上がG、Cであった。この様な背景からDNA断片の長さは500塩基対(bp)以下、典型的には150〜200塩基対(bp)程度以下であった。PubMed BLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/)など市販され一般の者でも入手が可能なソフトウェア・プログラムを使用しDNA中のG、C組成、配列、ならびにそうであることの信頼度の算定を行った。分子の一時構造に係る種々パラメータと分子がとる様々な高次元構造(すなわち、形状の自由度や外観形体)との相互関係の算出には前記とは別のソフトウェア・プログラムが市販されている。ある例にあっては鋳型分子の選定にある種のソフトウェア・プログラム化されたアルゴリズムが使用された。
【0082】
〔別の実施例〕
一例にあっては、センサーは、その一例がカンチレバーであるが、一端で保持された動作型部材を有する。ここで使用される鋳型分子は接触点に接合されており、この接触点は同稼動部材上にすくなくとも一つ存在する。カンチレバーが採用された実例にあっては、カンチレバーは曲線形であったり、環形状をしていたり、網目構造に形成されていたりと様々である。一例では、この可動部材が一定の軸を有し回転する部材となっている。回転する部材にあっては、当該鋳型分子と目標分子との会合が起こると前記接触点は弧を描いてその位置を移動させる。一例にあっては、回転する部材の一端のみが回転移動しもう一方の端が一定位置に留まる構成、あるいは一端が一定方向に回転移動しもう一方の端が前記一端とは反対方向に回転移動をする、もしくは前記一端より小さい移動範囲で回転移動をする構成としこれら両端の回転運動に関わる位相間のズレに基づくズレ信号によって当該目標分子の種別を推定している。
【0083】
ある例にあっては当該鋳型分子がその複数箇所に特定の目標分子との会合用部位を有している。ある例にあっては前記目標分子が複数の会合用部位を有し、これら会合用部位のそれぞれが互いに異なる構造を有する目標分子に固有のものと同一になっている。ある例にあっては前記目標分子が複数の会合用部位を有し、これら会合用部位のそれぞれが互いに同一の構造を有する目標分子に固有のものと同一になっている。
【0084】
一例にあっては、一ユニットのセンサーの複数箇所に接触点が配置されそのそれぞれに鋳型分子が一つずつ接合されている。例えば、一対の端を有する同一種の一本鎖の鋳型分子が一ユニットのセンサーが有する二箇所、三箇所あるいはそれ以上数の位置にある接触点に接合することになる。別の例にあっては、各分子がその三箇所に分子端を有する構造のものを当該鋳型分子とし、同構造の鋳型分子が一ユニットのセンサーが有する二箇所、三箇所、四箇所あるいはそれ以上数の位置にある接触点に接合している。
【0085】
一例にあっては、何らかの物理パラメータの測定値に生じる変化の関数として出力信号が生成される。ここで採用される物理パラメータには、構造的な特性に係るパラメータと電気的な特性に係るパラメータが含まれる。典型的な構造的特性パラメータには物理的位置の変化をその例とする位置移動量、共鳴周波数値、共鳴振幅値、接触点ならびに参照点の物理的な並び角度または並び方向、軸に加えられる力、発生する熱および、色変化を含む光学的な変化などがある。これら例示したもの以外にも、様々な物理的パラメータが考えられる。
【0086】
一例では、何らかの電気的な特性に係るパラメータの測定値における変化の関数として出力信号が生成される。典型的な電気的特性パラメータには、インピーダンス、導電率、抵抗率、インダクタンス、キャパシタンスなどがある。この様な説明に加えて電気的特性に係るパラメータとは、入力信号があることではじめて生成されるのが出力信号であるとも説明できる。例えば、鋳型分子に流れる電流の変化は電圧の変化を引き起こす。更に、鋳型分子に加わる電圧の変化は電流の変化を引き起こす。他の駆動信号を当該鋳型分子に供給することも可能であり、加えた駆動信号に対する反応を測定し得られる測定値に基づいて出力信号を生成することができる。これら以外にも様々な電気的特性に係るパラメータを考えることができる。
【0087】
一例では、物理的特性パラメータとして例えば導電率の測定値が採用される。導電率とは、物質中の電子の流れに係る測定値である。導電率は抵抗率あるいは抵抗値の逆数であり一例にあっては、モニタする対象の物理的特性パラメータとして抵抗値が採用されることがある。
【0088】
一例にあっては、一本のssDNA分子鎖である鋳型分子がオリゴヌクレオタイド・プライマー分子によって接合されMEMESである電子回路の架橋部分を構成する。同鋳型分子は同定対象である微生物などに由来するDNAなどである目標分子と会合するとカンチレバー部位の開き距離を狭めるような変化を起こす。
【0089】
種々の実施形態においては、比較器またはホイートストン・ブリッジが、電圧レベル、電流レベル、導電性またはこれら以外のパラメータを検出、測定ならびに比較するために適宜使用される。
【0090】
一例にあっては、鋳型分子の高次構造破壊を鋳型分子と目標分子の双方の分子に熱を加えることで生起させる。同高次構造破壊を生起させるに必要であった熱量のレベルは、電流値、電圧値または電力値を測定することで算定される。一例では、必要とした熱量のレベルの差に基づいて、目標分子間の識別がなされる。
【0091】
一例にあっては、センサー内の一箇所にマイクロ電子機械(MEMS)チップ上の動作型要素部品を架橋する一本鎖DNA(ssDNA)が配置されそこに接合されている一本鎖DNA(ssDNA)を有する。一例では、数百または数千のこのような箇所が一つのチップ上に配置・形成されている。接合されるssDNAとしては各々特定のものが選ばれており、それぞれ必要とされる生体物質から抽出された相補的配列を有する分子鎖断片とハイプリダイズ(会合)する。この様にして生起したハイブリダイゼーション(会合)は、接合された分子鎖の物理的長さと導電率の両方を変化させる。これら変化に係る物理量は、高いSN比が得られル条件領域において当該MEMSシステムによって測定される。これら物理量の変化の大きさは、接合された当該DNA鎖と生体物質由来DNA鎖の間のマッチングの度合いに依存して定まる。したがって、生体物質の他との違いの程度(すなわち特異度)の測定が可能となる。当該検出、同定ならびに識別の目的が達せられた暁には、高い電流値の電流を分子に流す手法で、前記生体物質由来のDNAは前記接合された側の分子鎖から追い出され、その結果、当該センサーは次なる検出。同定試験に入るためのリセットが行われたことになる。接合された当該ssDNAが(それに相補的である分子鎖が絡まっていない状態で)正しく接合されていると小さいながらも測定可能な大きさの電流を流すことができるため、自己試験という形で同センサーが正常に機能する状態にあることの確認が可能である。
【0092】
物理的特性に係るパラメータの変化量は鋳型分子と目的分子と(あるいはDNA分子鎖同士)の間の相補的マッチングの信頼度に比例する。一つのヌクレオタイドがミスマッチしている場合にはそれに応じた大きさの、かつ測定可能な大きさの変化が生起されることから、様々な病原微生物の同定や特定の微生物株間に存在する僅かな違いをも識別できるようになる。
【0093】
ある例にあっては当該鋳型分子が何らかのssDNAとされ、別の例にあってはB.anthracisの特定DNA部分増幅しこの目的に使用される。当該センサーにおいてその架橋の形成にはDNAを用いることができ,それがどのような微生物に由来する生体物質のDNAであってもよい。
【0094】
ある例にあっては、DNAで形成する鋳型分子架橋の形成に四種類のそれぞれが150〜200個の塩基対からなる、バシルス・アントラシス(エイムス)(Bacillus anthracis(Ames))に由来する分子断片が採用される。当該システムによって微生物株間の違いを区別できるか否かを確認するために、ある例にあっては、一つ特定の鋳型分子に関してその配列変更分子を作成した。変更分子のにあっては当該親となる分子にランダムなヌクレオタイド交換操作が加えられ、それぞれのヌクレオタイドの2%、10%、20%がランダム位置で変更されている。ここで採用する鋳型分子は計算上の特異度、導電率特性に係る各種パラメータ、ならびに自由度を基準に選択される。それぞれのrRNA(リボソームRNA)の16Sにあるフィンガープリントとして利用できる遺伝子や伝染性に関わる遺伝子から、種特異的な断片部分ならびに株特異的な断片部分を選択して取り出した。
【0095】
ある例にあっては、前記した四種類類のそれぞれが150〜200個の塩基対からなる鋳型分子鎖ならびにそれらの配列を変更した分子鎖(変更分子鎖)を市販されている型式のDNA合成設備を利用して合成された。これら、各々が150〜200個の塩基対からなる鋳型分子鎖ならびにそれらの変更分子鎖は、当初50塩基対以下の長さのssDNA分子鎖断片として作成され、ハイブリダイゼーション(会合)やライゲーションのステップを経ることで最終的な150〜200塩基対の長さの鋳型分子にされた。この様にして完成した種々の鋳型分子は適当なプラスミド・クローニング・ベクトル内にライゲーションされ、今後架橋の作成に採用できる様々な配列のDNA鋳型分子のライブラリーを作り上げた。これらに基づくことで、必要な配列を有する当該分子鎖をプラスミドを利用した大スケールで生成することが可能になる。また、これら様々な150〜200個の塩基対からなる鋳型分子鎖の候補を、必要によってはバシルス・アントラシス(エイムス)(Bacillus anthracis(Ames))のDNAから制限エンドヌクレアーゼ消化にて切り出したり、あるいは逆にPCR増幅しサブクローニングしたりして作成した。
【0096】
ある例にあっては架橋部分を構成する鋳型DNA分子がビオチン−ステプタビジンならびにチオール−金結合を通してAFMならびにMEMSとの双方の表面に共有結合によって接合された。前記プラスミドによって生産された鋳型分子は制限エンドヌクレアーゼを使用して当該領域を切り出し、市販されている本工程用のキットを使って5’(5ダッシュ)/3’(3ダッシュ)末端のビオチン/チオール修飾を施した。一例にあっては、同鋳型分子はビオチンとチオールのそれぞれで標識されたそれぞれのタイプのプライマーを使用したPCR処方によって増幅されたものであった。
【0097】
ある例にあっては、DNA鋳型分子とその変更分子はその配列の正確度に関する確認は、商業的に運営されている種類のDNA配列確認サービスに頼った。これら分子の分子構成の特異度はバシルス・アントラシス株(すなわちAmes,Sterne,A2012,1055、Vollum,Kruger)ならびにアントラックス類似体(Antrax simulants(すなわち、バシルス・グロビギイ(B.globigii)、バシスル・セレウス(B.cereus)、バシルス・サブチリス(B.subtlis)、バシルス・チュリンギエンシス(B.thuringiensis))の遺伝子DNAを対象に標準的なサウザン・スクリーニングを実施し確認した。ここで記載した各種微生物の株類についてはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)社から市販されているものを購入したり、物質委譲契約に基づき入手したり、これら以外の協力者たちから入手したりした。
【0098】
ある例にあっては、原子間力顕微鏡(AFM)を使用してバシルス・アントラシスのssDNA鎖断片ならびにその変更分子鎖の断片のそれぞれに固有の物理特性(すなわち、位置移動ならびに伝導度)の測定を行った。AFMの先端とステージとの双方表面は金とストレプタビジンでコーティングが施されているもので、そこにチオール/ビオチンが末端に標識として接合された架橋形成用DNA分子が接合された。AFM先端の位置移動と同先端部材の電気的特性について、当該相補的分子鎖、ならびに種々の配列変更ssDNA分子鎖のそれぞれとのハイブリダイゼーション(会合)の生起前、同会合プロセスの進行中、ならびに同会合の完成後のそれぞれのタイミングにおいて測定し、それらの値をMEMSの設計用データとして利用した。ある例にあっては、しかるべく選択された試薬を加えてハイブリダイゼーション(pH緩衝、塩類試薬)、高次構造破壊、加水分解、およびヌクレオタイドの酸化の進行をコントロールした。ある例にあっては、MEMSの作製技術を利用してセンサー用のチップの生成を行った。一例にあっては、基板表面に何らかの物質の薄膜形成をすること、同物質の薄膜上にフォトリソグラフの技術を使って一定形状のマスクを形成すること、完成したこのマスクを利用して前記薄膜の特定の箇所にエッチングを加えることが求められる。前記物質を基板(シリコン・ウェファー)表面に沈着するにあっては化学反応を利用した手法(化学蒸着、エピタキシ、エレクトロデポジション、または加熱酸化)または物理的現象を利用した手法(蒸散、スパッタリング、あるいはキャスティング)を使う。物質の除去にはエッチング技法が採用される。すなわち、デバイスに必要で、フォトリソグラフによるマスクを利用するタイプの回路が、絶縁性物質ならびに導電性物質のそれぞれからなるいくつもの層を適宜配置することによって形成されることになる。また作製設備においては、当該チップはパッケージング材中に封入される。ある例にあっては、この様な封入にセラミック材容器あるいはプラスチック材容器が採用され封入されたチップとのピン形状のインターフェースが設けられ、これによって同封入されたチップ部品がプリント回路板(PCB)に固定される。
【0099】
ある例にあっては、MEMSの作製技術を利用してセンサー用のチップを作製した。一例にあっては、基板表面に、何らかの物質の薄膜形成をすること、同物質の薄膜上にフォトリソグラフの技術を使って一定形状のマスクを形成すること、同薄膜に関して特定の箇所にその後完成した前記マスクを利用してエッチングを加えることが求められる。前記物質を基板(シリコン・ウェハ)表面に沈着するにあっては化学反応を利用した手法(化学蒸着、エピタキシ、エレクトロデポジション、または加熱酸化)または物理的現象を利用した手法(蒸散、スパッタリング、あるいはキャスティング)を使う。物質の除去にはエッチング技法が採用される。すなわち、デバイスに必要で、フォトリソグラフによるマスクを利用するタイプの回路が、絶縁性物質ならびに導電性物質のそれぞれからなるいくつもの層を適宜配置することによって形成されることになる。また当該作製設備においてチップはパッケージング材中に封入される。ある例にあっては、この様な封入にセラミック材容器あるいはプラスチック材容器が採用され封入されたチップとのピン形状のインターフェースが同封入容器に設けられ、これらのピン形状部材によって同封入されたチップ部品がプリント回路板(PCB)に固定される。
【0100】
ある例にあっては、MEMSであるチップの作製が終わると、それにDNA鋳型分子で架橋が形成されその完成試験が実行される。一例にあっては、当該MEMSチップ中の可動部材(カンチレバー端)においてチオールと金との間ならびにビオチンとストレプタビジンとの間が、それぞれ共有結合にて接合されている。静電気的な結合力によって単一分子の接合が完成された。一例にあっては、当該デバイスは前記MEMSの可動部材に存在設けられた、すなわちここにssDNAの架橋が形成されることになるギャップに、それと直列に配した10MUの抵抗を介して5ボルトの電圧を加える。このssDNA分子にはこれによって生じる電界の影響下に置かれることになる。お互いが近接しあうことで、ビオチンとストレプタビジンとの間の結合が基板上に形成され、金とチオールとの間の結合がカンチレバーの自由端上に形成される。一つの分子がこのようにして接合されると、当該回路に直列に配された抵抗に応じて、当該ギャップの両側間に作用する電圧は低くなる。この結果、それぞれ一つの接触点には一つのssDNA分子のみが接合することになる。当該MEMS回路部分間に架橋を完成するに至らない過剰のDNA分子鎖はDNAエクソヌクリアーゼ消化によって除去される。こ子で記載されたような回路はDNA分子の安定化が図れるような緩衝液(すなわち、300mMの食塩、10mMのクエン酸ナトリウムおよび5mMのEDTAの混合水溶液)中に保持して保存される。
【0101】
一例にあっては、種々の集積回路増幅器を使って、ナノアンペア領域の電流の電流値測定が行われる。当該検出作業で捕らえた変化から導かれる結果は、複数の集積回路(IC)で構成した増幅器と増幅器以外の種々電子機器ならびにデータ処理を駆使することでビジュアルな形式で表示できるものとなる。MEMSチップから受け取るアナログ信号は増幅され、デジタル信号に変換される。
【0102】
一例にあっては、各プリント回路基板には、前記MEMSチップと前記ICチップを取り付けるため装置が配備されている。プリント回路基板には、その他専用の基本プロセッサ・チップが備えられており、当該PCB(プリント回路基板)内で必要な計算処理が行われ、また必要な電気的操作の制御が実行される。このPCBはメニュー・ボタン装置との電気的接続のほか、表示装置やバッテリとの電気的接続のためのインターフェースも備えている。一施例にあっては、この基本プロセッサ・チップが当該プログラムに従って動作し、前記ICから受け取ったデジタル信号に係る表示を行う。ユーザー・インターフェースには、種々の表示に関わる動作のコントロールが配備されており、表示特性を特定するパラメータを設定したり、検出判断に関わる閾値を設定したり、バッテリ・レベルを指定したり、オン/オフを切り替えたり、病原体に関する分子を放出したりできる。
【0103】
一例にあっては、プラスチック製のハウジングにはプリント回路基板(および、それにつながるバイオチップとICチップ)、試料液体の通路、LCD表示装置と制御用のボタン群が備えられている。一例にあっては、当該ハウジングの内側の壁面に堤と溝とかを配置し、収容した種々の電子部品がハウジング内で動きまわらないようにしている。一例にあっては、当該ハウジングは、一つないしそれ以上数の液体用通路が設けられており、そのそれぞれが当該試料液体のほか、互いに異なる種々の試薬の受け入れ路並びに排出路となっている。
【0104】
一例にあっては、センサー部分間に流れる電流はAFMに関わる電子技術を利用することで0.2nAを越えるレベルのものとなる。一例にあっては、集積回路によるアナログ信号の増幅後の振幅として、ピーク・ツー・ピークで10mVよりも高い値が得られる。
【0105】
一例にあっては、当該センサーは一定の調製工程を経たバシルス・アントラシス株類の菌やアントラックス(炭素病源菌)の類似菌(すなわち、バシルス・グロビギイイ(B.globigii)、バシスル・セレウス(B.cereus)、バシルス・サブチリス(B.subtlis)、バシルス・チュリンギエンシス(B.thuringiensis))の遺伝子由来DNA,すなわち、化学的あるいは機械的(超音波による)分解工程を経て破壊された結果不活性となった、これらアントラックス(炭素病源菌)の株類やその類似菌の全細胞と胞子類、更にはこれら全細胞/胞子類混合物によくある種類の成分物質の混入や同成分物質による分析妨害が発生している状態のものを検出・同定の対象試料としています。ここでいうよくある種類の成分物質とは包装材を起源とする異物や土壌に含まれる成分物質、その他の混合化学物質、更には様々な種類の組み合わせからなる微生物群があります
一例では、当該システムには、目標分子の検出・同定に必要な信号の増幅、信号処理および、処理結果の表示の工程が含まれる。一例にあっては電子的な制御には、オン/オフの切り替え、モードの設定、表示の制御設定、バッテリ寿命に関わる設定、自己試験の実施およびリセットの実行などの様々な機能がある。一例にあっては、当該システムには一つないしはそれ以上数の液体用通路が備わっており、その各々が調製された試料液を各々のセンサーの表面に配送する。ここで各センサーには、それぞれに対してその検出・同定の目標とする病原体、その類似微生物あるいはこれらに関連した様々な変種である目標DNA分子があらかじめ定められており、また目標とする様々な成分分子は破壊済み溶液である当該試料液中に存在する。
【0106】
一例にあっては、試料は、当該システムとは離れた場所において、表面からの拭き取り採取や生成容器内上面からの気相採取器によって採取される。
本願発明に係るシステムは、生物学的ないし化学的分析に関係するものであり、目標物質の存在の有無の判定、同定および定量を行う方法および装置の双方を含むものである。一例にあっては、受けた圧力に応じて変形するアームを少なくとも一つ、生物学的で電子機器的でもあるカンチレバーにて、一定の電子回路の一部分として作製し、同アームに一定の表面処理を施し、その表面に一定の鋳型高分子を接合できるようにする。この鋳型高分子には、検出することが求められる物質に関わる何らかの目標分子の出現といった、それを取巻く環境の変化に応じて何らかの物理特性に係るパラメータにおいて測定可能な大きさの変化を来たす性質のものを採用する。例えば、当該鋳型分子の物理的形状または種々の部分の寸法が変化するとそれに応じてカンチレバーのアームが湾曲することになる。一例にあっては、一本鎖DNAで構成される一本の架橋を構成する鋳型分子にそれと相補的な分子鎖がハイブリダイズ(会合)する時に、当該鋳型分子をはさんで観測される電気特性に生じる変化が、検出される。物理特性あるいは物理特性に係るパラメータ生じるこのような変化を測定することで、問題とする物質の存在の有無や同定に有用な情報を獲得できる。一例では、様々なしかしある面で同様な鋳型分子の一つずつを用いてそれぞれが形成された複数本の架橋を一本ずつ有する複数個の回路が構成されており、これによると問題とする物質の濃度あるいは絶対量に関する情報が得られる。
【0107】
一例にあっては、本目的に専用のものとして設計した配置形状を有するマイクロ回路を用いて、生物学的物質成分の検出デバイスを構成し、目標物質の存在を検出し、ひいてはこれに関係する生物学的物質成分あるいは生物学的物質の存在を検出する。
【0108】
本願文書において用いられる用語に関して、鋳型分子とはそれが何らかの生物学的成分ないしは同成分の一部分と何らかの形態によってつながるか、あるいは何らかの生物学的成分ないしはその一部分の存在に反応を示す可能性をもつ限り、如何なる分子であっても良い。したがって、鋳型分子とはそれが天然に存在するか人工的に合成されたかを問わず広く生物学的物質を対象とするもので、検出しようとする特定の物質に関わる目標分子の存在に選択性をもって反応を示すかあるいは同目標分子に選択性をもって何らかの形態にてつながるあるいはつながることができる分子である。一例にあっては、本鋳型分子が一定の抗体、一定のタンパク質分子、一定の核酸類分子、一定の炭水化物分子、一定の糖タンパク質分子、あるいは一定の高分子のいずれであっても良い。一例にあっては、ある種特定された目標分子(または同目標分子と関連した種や属)の存在を検出するための特定の鋳型分子が選定され、その結果、同鋳型分子は唯一当該特定された目標分子の存在にのみ反応を示すか、同特定された目標分子とのみ何らかの形態のつながりを達成する。一例にあっては、鋳型分子と目標分子間のそれぞれのペアに存在する生化学的分子対生化学的分子として捉えられる関係に対応してそれぞれ異なった大きさの電流や物理的な位置移動が発生する。したがって、特定の鋳型分子と特定の目標分子のペアに存在する関係は核酸類の分子に特有の相補的配列の分子鎖ペアの関係であって良い。ここで核酸類の分子とはリボ核酸である分子(RNA)、デオキシリボ核酸である分子(DNA)あるいはこれらから誘導された分子であって良い。以上の関係の他にも本願鋳型分子と本願目標分子との間の関係として考えられるものに核酸類分子対核酸類分子間に存在する相関関係、タンパク質分子対タンパク質分子間に存在する相関関係、タンパク質分子対核酸類分子間に存在する相関関係、タンパク質分子対炭水化物分子間に存在する相関関係、核酸類分子対炭水化物分子間に存在する相関関係、更には炭水化物分子対炭水化物分子間に存在する相関関係が挙げられます。
【0109】
一例にあっては、当該二つの表面の間にあるギャップに鋳型分子により形成された架橋を含んでなる前記した形態の回路を有する生物学的な検出用デバイスが作製される。一例にあっては、ここでいう二表面のそれぞれはその相手側に対する相対的位置を変えることが可能である。この鋳型分子が当該目標分子に暴露される、あるいは何らかの形態によりつながると同鋳型分子は寸法変化を起こし、これら二表面間の距離は変化する。本願発明のこのような実施例である生物学的な検出用デバイスは、この様な仕組みによって、これら二表面間の距離の変化を感知し目標分子、あるいは目標分子に関係した物質成分ないし物質が存在することを知らせることが可能となる。
【0110】
一例にあっては、前記した二表面間の距離の変化の大きさの如何が、そのとき鋳型分子が暴露されている、あるいは何らかの形態によってつながっている相手の分子がいかなるものであるかを示す。この鋳型分子が前記の二表面に接合している接合位置の間の距離に関して、例えば、この分子が当該鋳型分子と完全に相補的マッチングした目標分子である場合には、同鋳型分子がそれと一定の相補的関係を持つものの完全に相補的マッチングするものではない分子に何らかの形態にてつながっている場合に生じる収縮量よりも大きな収縮を起こす。したがって、前記した二表面の間の距離の変化量を測定することで当該鋳型分子につながることになった分子の同定に有用な情報が得られる。
【0111】
一例にあっては、前記した形態の回路であって、当該鋳型分子に流れる電気の導電率の測定が可能であることを特徴とする回路を有する生物学的な検出用デバイスが作製される。具体的には、当該鋳型分子が第一・第二の電極の双方に接合されて、その結果同鋳型分子がこれら二つの電極間の架橋を形成している。この鋳型分子が何らかの形態で目標分子につながると同電極間の電気伝導度が変化する。したがって、これら二つの電極間の電気伝導度の変化を検出することで目標分子ないしはそれに関係した分子の存在が確認できる。更には、これら電極間の電気伝導度の変化量が当該鋳型分子に何らかの形態でつながった分子が如何なる分子であるかを示す。例えば、完全に相補的である目標分子は当該鋳型分子が何らかの形態にてつながる相手である目標分子が同鋳型分子と相補的関係にあるものの完全に相補的ではない分子である場合と比べて、これら二つの電極間で測定される電気伝導度において、より大きな電気伝導度変化を引き起こす。
【0112】
本願発明の一実施例にあっては、当該実施例を構成する検出用デパイスが、その再使用にあたり、いずれの構成部品についてもその交換を必要としない。具体的には、当該鋳型分子を加熱することでその鋳型分子から目標分子ないしはそれに関連を有する構造の分子を遊離・放出できる。本願発明の一実施例にあっては、当該鋳型分子(ならびに何らかの形態でそれにつながった分子)に電流を流すことでその分子を加熱する。更には、当該目標分子の同定に有用な情報をこのつながった目標分子を鋳型分子から分離・放出する工程において獲得することが可能である。具体的には、前記鋳型分子(ならびに目標分子)に流す電流を段階的にかつ規則正しい形態で大きく、あるいは、小さくし、その間に電気伝導度に関して突然生起する変化を捉える。同変化は当該目標分子がこの鋳型分子から離脱したことを示す。この目標分子を遊離・放出させるのに必要な電流すなわち熱の量は同目標分子が当該鋳型分子との相補的マッチングに関してどれほど高い信頼度を有しているかということに関係しているから、目標分子を遊離・放出させるのに必要な電流の大きさが当該目標分子とそれにつながった鋳型分子間の相補的マッチングの信頼度を示すことになる。例えば、完全に相補的マッチングする目標分子を当該鋳型分子からの遊離・放出のためには、完全には相補的マッチングしていない分子をそうするよりも大きなエネルギーを必要とする。
【0113】
一例にあっては、前記した形態の回路であって、複数個の検出用機構を組み込んでいる、あるいは複数種類の技術に基づいていることを特徴とする回路を有する生物学的な物質成分の検出用デバイスが作製される。具体的には、当該検出用デバイスの各ユニットが当該鋳型分子の寸法変化を検出するか、当該鋳型分子を流れる電気に係る電気伝導度の変化を検出するか、あるいは当該鋳型分子がそれにつながる目標分子を遊離・放出させるのに必要な電流の大きさを測定するかのいずれの方法によっても当該目標分子の存在を検出できる。更には、この様な機構ないしはそれぞれの機構の元にある種々の技術によることで当該目標分子の同定・識別ができる。
【0114】
本願発明の一実施例によると、鋳型分子の物理的寸法変化を検出することで検出対象である物質ないしは分析目標物質を検出するという方法が提供される。この方法にあっては、当該目標分子に何らかの形態のつながりを持つと物理的寸法変化を生じる類の鋳型分子が検出対象の生物学的物質成分であることあるいは目標物質であることが疑われるもの(すなわち、目標分子を含有すると疑われるにたる物質)に暴露する。その有無が問題とされる生物学的物質成分を含む媒体物質はガス状体、液状体、あるいは固状体のいずれであって良い。目標分子に完全に一致するものであるにしろ、目標分子と類似性を有するタイプの分子であるにしろ、それが何らかの形態で当該鋳型分子につながるに至った場合には、それに伴う同鋳型分子の寸法変化の生起を感知し、寸法変化の発生を感知したことを報告する。更なる実施例にあっては、同方法は当該鋳型分子に生じた寸法変化の大きさを測定することも含むものである。
【0115】
一例によると。分析対象成分の存在する環境にある鋳型分子の電気伝導度に生じる変化を検出することで目標物質の存在を検出するという方法が提供される。この方法にあっては、完全に相補的である目標分子ないしはそのような目標分子への類似性を持つタイプの分子に何らかの形態のつながりを形成する性質を有する鋳型分子がその様な分子のいずれかである可能性が疑われている生物学的成分に暴露される。この方法においては、当該鋳型分子を流れる電流に関わる電気伝導度が問題とされる。この鋳型分子を流れる電流に関わる電気伝導度に係るものであって、同鋳型分子が目標分子に何らかの形態でつながった状態になるときに生ずるものである変化が検出され、その変化の検出が報告される。一例にあっては、この電気伝導度における変化の大きさが測定される。
【0116】
一例によると、鋳型分子が同分子から目標分子を遊離・放出させる(結合を解く)に必要なエネルギーの大きさを測定することで存在が疑われる生物学的成分の存否確認をするという方法が提供される。一定の電流が鋳型分子とそれに何らかの形態でつながれた目標分子との対に流れるように通電される。更には、鋳型分子の両端間の電気伝導度に突然の変化がおこるまで当該電流の強度を増加する。ここでいう電気伝導度の突然の変化は前記目標分子が前記鋳型分子から遊離・放出されたことを示すものである。これらに加えて、目標分子が鋳型分子から遊離・放出されるに至ったときの電流値に基づいてその時点まで鋳型分子につながっていた目標分子の特性調査ないしは同目標分子の同定を行う。
【0117】
本システムは分析対象の生物学的物質成分の検出・同定に関するものである。本発明によれば、生物学的物質成分である種々の目標分子はそれぞれ、生物学的物質成分である何らかの鋳型分子に生起する何らかの変化を感知することで検出される。生化学的物質成分である鋳型分子に生起する変化には、鋳型分子の物理寸法上の変化、鋳型分子の両端間に観測される電気伝導度に係る変化、および/または目標分子を鋳型分子から遊離・放出するのに必要なエネルギーが含まれる。物理寸法上の変化の大きさ、電気伝導度の変化の大きさあるいは、目標分子を鋳型分子から遊離・放出するのに必要なエネルギーの大きさを測定し、得られた大きさに基づいて、目標分子と鋳型分子との相補的マッチングの信頼度を推定しても良い。更なる局面にあっては、本願発明は新たな検出操作を行うに当たって、如何なる構成部品についてもそれを交換することが必要にならないタイプの検出用の方法・装置を提供する。
【0118】
一例にあっては、一定の回路の一部に、種々の生物学的成分ないしは様々な生物学的成分に相当する種々の成分を含んでなる物質群から選ばれたいずれか1種類である鋳型分子の1本によって、架橋が形成される。一例にあっては、この回路は、基本的にはMEMSとして構成され、同構造内に、DNAである1分子あるいは1本の一本鎖DNA分子と物理的にも科学的にも同等である1分子をその例とする核酸類分子の1本によって架橋が形成されていることを特徴とする。一例にあっては、このMEMS構成の回路が同回路内の架橋を形成しているDNA分子に発生する動きあるいは同DNA分子が示す電気伝導度を検出したりあるいはそれらの変化に応じた反応を起こしたりする。ここでこの架橋として存在するDNA分子の動きや電気伝導度は当該DNA分子がその相補的DNA分子の一本鎖ないしは概ね相補的であるDNA分子の一本鎖と会合(ハイブリダイズ)する時点におけるものである。
【0119】
ここで言う生物学的−電子的回路の様々な生物学的構成部品の採用に係る選択ならびに同構成部品の設計事項に関しては次に記述する通りである。
ここで言う場合にあっては、生物学的な検出・同定用のデバイスなる表現は、生物学的な目標物質成分に関わる科、種、および株を特定的にかつ正確に識別するシステム機能に関係したものに対して限定的に使用される。DNAを利用した生物学的検出・同定用の治具に関係する場合においては、前記表現は前記システムを構成するDNA部品のものであって生物学的物質成分由来のDNAと特異的な相補関係を有し、特異的に同DNAと会合(ハイブリダイゼーション)できる能力に関わって使用されることもある。検出工程において陽性反応をする物質成分ならびに識別される物質成分の特異性を高めるため、本願発明にあっては採用する生物学的物質成分であるDNAの断片の種類を複数種(一例にあっては3種類を超える種類)とする。この際のDNA断片としてどこの領域部分を採用するかについてはその部分に係る分子鎖の算定長、分子鎖の特異性、分子鎖の電気伝導特性に関わるパラメータの種類、更にはMEMSである回路内の架橋を構成できるために必要な要素である分子鎖外観形状の自由度を考慮して決定する。種々のDNA断片長については、それが大きいことはその特異性(検出目標とする生物学的物質成分の各々に特有なDNA配列)が大きくなる方向に作用するものの、それが小さくなるとグアニン(G)とシトシン(C)の含有率が高い領域を選択的に採用することがし易くなる。
【0120】
全体の大部分をG、Cが占めるような組成・配列にあってはアデニン(A)ないしチミン(T)が連続することを妨害する効果が発現する。加えて、DNA中におけるA、T含有率が高くなると分子鎖外観形状の自由度が低下し、外観形状(すなわち、ラセン構造の回転の次元における形状)が、当該分子鎖中で、A、T含有密度が高くなった複数の箇所がどのような相対的位置関係を持つかに依存して決定される様になる。この様な理由から、本願発明に実施においてはG、Cの含有率が40%以上である領域、更に特定するならばG、C含有率が60%以上である領域をこれらDNA断片として選択することになる。一例にあっては、選択されるDNA断片長は500塩基対(bp)以内とされ、更に特定するならば150〜200塩基対(bp)以下とされる。DNAに関わる特性、すなわち、G、C組成、配列、外観形状の自由度、物理的外観形状、ならびに特異性に関わるデータは私的機関の所有物、市販品、あるいは一般公開品であるソフトウェア・プログラム、例えばPubMed BLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/)を利用して測定・算出される。一例にあっては4種類のDNA鋳型断片が採用され、その各々がバシルス・アントラシス(Ames)のものと100%マッチングし、それ以外のバシルス種・バシルス株類とはそれ以下のレベルのマッチング率となる。rRNAの16Sにあるフィンガープリントとして利用できる遺伝子および病原性の遺伝子から種特異的である断片および株特異的である断片を何種類か選びだした。この実施例においては、このようにして構成される厳格な検出・同定用の陽性・陰性判定境界によってバシルス科以外のものである多様な微生物はすべて排除されることになる。一例にあっては、それぞれがDNAで構成された架橋を有する複数の部分を集めたMEMSのマトリクスが形成され、これらのDNA部品がお互いに異なる生物学的物質成分に関する特異性を有している。この例にあっては、当該検査・同定用のデバイスが複数種の物質成分の存在を平行して継続的に監視し続けることができるものもある。
【0121】
ここでは生物学的‐電子回路の生物学的構成部品の作製について記載する。
一例にあっては、検出・同定の対象とする生物学的物質成分であるDNAから特定のDNA領域を複数箇所選び出し、選び出した部分を形成し、選び出した部分を大量に作製し、次にそれら作製されたものに備わった高次構造を化学的に破壊する。同高次構造の化学的破壊はMEMSである当該回路の特定部分への接合を達成するために必要となるものである。以上に加えて、前記選択したDNA領域部分の変種が幾種類か形成され、そしてそれらDNA領域部分の変種が大量に生産され、前記した手順で作製される回路が然るべき排他的識別能力を発揮するか否かの試験に使用される。一例にあっては、ヌクレオチド組成・配列に関して2%〜30%相当部分が当該採用される鋳型DNA鎖のものとマッチングしないものを前記した変種として作製される。一例にあっては、検出・同定の対象である生物学的物質成分そのものから形成したり、同生物学的物質成分そのものをPCR法によって増幅したり、あるいはサブクローンイングしたりして4種類の150〜200塩基対断片が調製される。高い信頼度の有するDNAの形成となると形成できるssDNA断片はその長さが概ね50塩基対程度以下のものに限定されるため、目指す150〜200塩基対の長さを有する鋳型DNA鎖を得るにはハイブリダイゼーション(会合)やライゲーションの工程が必要になる。このように前記50塩基対以下程度の長さの断片を構成単位として形成される鋳型DNA鎖は、その5’(5ダッシュ)/3’(3ダッシュ)末端においてそれぞれ必要とされる特異性を持った接合用配位子で修飾されているものであった場合にあっては、MEMSの該当する接続用先端表面にそのまま接合される。これと別の方法にあっては、この様にして完成された150〜200塩基対の鋳型分子鎖がプラスミド・クローンイング・ベクトルにライゲーションされ、その後においてそれぞれ必要とされる種類のものを大量に作製するのに備えて、様々な種類を有する架橋形成用鋳型DNA鎖のライプラリーが構築される。一例にあっては、前記MEMSの該当する一対の接続用先端部の間を架橋するために、それぞれに選定された前記DNA領域に対応するものとして選ばれた分子鎖は制限エンドヌクレオターゼ消化工程によって当該検出・同定の対象とされる生物学的物質成分そのものから切り出したり、同生物学的物質成分からPCR法で増幅したり、同生物学的物質成分からサブクローニングしたりして調製される。
【0122】
生物学的構成部品の信頼度の評価について以下に記述する。
一例にあっては、回路の架橋部分を構成する種々のDNA鎖、種々の変種DNA鎖のそれぞれの配列の信頼度が評価される。配列の信頼度とは実際に与えられたヌクレオチド配列そのものがそうあるべきとされる配列とどれだけ正確に一致するかをいうものである。DNA配列については様々な配列確認方法があり。それらを駆使することにより、その末端に修飾を施しMEMSの先端部表面に接合しようとする分子のいずれについてもそれを構成するヌクレオチド配列を正確に捉えることができる。本発明に係る事項は、塩基対の一つずつにおけるミスマッチングにも敏感に反応できるレベルのものであり、したがって塩基対配列一つひとつ相違までが検出・確認の対象になる。
【0123】
以下においては、生物学的構成成分の生化学的ないしは物理的特性の測定・分析方法について記述する。
一例にあっては、特定のssDNA分子が複数種選定され、大量に作製され、そしてMEMSである回路の動作型構成要素部品の間に架橋を形成するのに使用される。これら特定のssDNA分子の選定にあっては、いくつもの生物学的でかつ物理的な特性が勘案され、同勘案の対象となる特性の例としては、分子長、分子のヌクレオチド組成、同分子のヌクレオチド配列、分子の変形し易さと機械的動き、ならびに電気伝導度に係る各種パラメータがある。想定された動きや電気伝導度に係る種々のパラメータが取る値は分子間力顕微鏡(atomic force microscopy:AFM)によって算定される。ここで用いる分子間力顕微鏡(AFM)は架橋を構成する鋳型ssDNA分子と種々の変種ssDNA断片の各々に排他的な特有性をもって関係付けられる物理的特性(すなわち、先端の位置移動として捉えられる分子の動きおよび電気伝導度)を測定できるものである。分子間力顕微鏡の先端側部品の各々とステージ側部品の各々は既刊の文献に公開されている処方によって金およびストレプタビジンで塗工されており、それぞれの対を形成する先端側部品とステージ側部品の間にはその両端の一方をチオール、他方をビオチンで修飾された架橋用鋳型DNA分子鎖で架橋が形成される。当該MEMSデバイスの構造の然るべき箇所に相補的ssDNA分子や種々の変種ssDNA分子が送入される直前、送入されている間、更に送入されたssDNA分子とのハイブリダイゼーション(会合)工程の完了時点において原子間力顕微鏡の先端部分の位置移動および結果する種々の電気的特性値が測定される。
【0124】
採用する架橋形成用の鋳型ssDNAの各々に応じて当該デバイスを使用するときの操作環境、化学的環境条件、温度環境を最適化されるような配慮が必要な場合もある。例えば、ユーザーの選択になる操作環境や操作温度、個々のDNA構造に依存するハイプリダイゼーション(会合)(その時使用するpH緩衝剤や塩類化合物)、個々のDNA構造に依存する高次構造破壊、個々のDNA構造に依存する加水分解、個々のDNA構造に依存するヌクレオチドの酸化反応を調整するために使用する試薬類も影響力を持つものであり配慮が必要である。一例にあっては、操作時に使用する試薬類化合物には次のようなものがある。
【0125】
a) システム内に存在する塩類化合物、同システム内のpH,同システム内の温度。
b) 加水分解反応の制御: 水系環境の媒体自身を流れる電流が加水分解を誘発し、誘発された加水分解が当該環境媒体を流れる電流の大きさをかえることがある。この様な作用を適当な試薬を使用して調整する必要性がある。
c) 酸化反応の制御: DNAに電流をながすとその電流によってDNAに酸化反応を誘発しその構成、特にグアニン残基を酸化・破損することがある。適当な酸化防止剤(すなわちアスコルビン酸やクエン酸)を添加し酸化的破損の発生を防止することが必要となる。
d) DNAの熱安定性確保に必要な要因の充足。(すなわち、0.5〜3モル濃度のベタイン(N,N,N−トリメチルグリシン);(Rees et al., Biochem., (1993) 32:137-144参照))
e) 高次構造破壊誘引剤の使用。(すなわち、2〜4モル濃度の酢酸四エチル、尿素、カオトロピック塩(トリクロロアセテート、パークロレート、チオシアネート類化合物、およびフロロアセテート類化合物の混合体)あるいはグリセロール、ホルムアルデヒド、およびジメチルスルフォオキシド(DMSO)の混合体)
f) 分子間の相違識別除外現象を利用しDNAとDNAとの会合を活発化するようなハイブリダイゼーション(会合)促進剤の使用。典型的な促進剤としては酢酸塩類とアルコール類化合物の混合体、一定の分子構造を有するアミン類化合物(スペルミン、スペルミジン、ポリリシン)、0.1〜0.5モル濃度の分散剤化合物(ドデシルトリメチルアンモニウム・ブロマイド、およびセチルトリメチルアンモニウム・ブロマイド)および一本鎖の形状を有し、会合能を有するものであって更に特定の特徴を有する低分子量タンパク質分子がある。
【0126】
以下には、DNAの特異性の認識について記述する。
一例にあっては、回路内の架橋を構成する鋳型DNA分子の個別的に識別すること、および種々の変種分子を個別的に認識することが実行される。ここでいう個別的な認識とは当該分子の塩基配列の特異性に基づく個々の分子の識別をいう。ソフトウェア・プログラムを利用した分析を行うことで検出対象とされる何らかの生物学的物質成分が生体物質成分特異性スクリーニングの実施が可能なタイプのものであって、かつある株に由来する一特定領域に相当するDNA断片であるものについてはその特異性を明らかにすることができる。
【0127】
サウザン・スクリーニング法がこの種の方法の一例であって、本方法にあっては検出対象であり生物学的物質成分でもあるゲノム(あるいは、これに類したもので検出対象を含む可能性があると疑われるもの)から制限酵素による消化切断をへて様々な分子断片が取り出され、取り出された分子断片は電気泳動法によって分離され固体物質(すなわち、ナイロンまたはニトロセルローズ)の表面に保持・固定される。この様にして固定されたゲノム由来のDNA分子断片は架橋を構成するものであると同時に標識付けされたもの(すなわち、蛍光あるいは放射線を発するもの)でもある鋳型DNA分子と一緒にインキュベーションされる。適当な環境条件(すなわち、温度、pH、塩類化合物濃度に係る条件)におかれることでこの鋳型DNA分子は何らかの一本鎖分子断片とハイプリダイゼーション(会合)を起こす(但しここではゲノムDNAを切断した制限酵素消化作用によってここで言う一本鎖分子断片はその途中で切断されなかったものとする)。鋳型DNA分子の内にあって、ゲノム由来DNAとの間でハイブリダイゼーション(会合)を起こす領域・部位の組み合わせによっては生物学的な当該検出用デバイスが提供する条件内容の変更が必要となったり、あるいは別の種類の鋳型DNA分子が必要となったりすることもある。
【0128】
以下には、架橋を形成する鋳型DNA分子の末端修飾について記述する。
一例にあっては、DNAを有機物表面あるいは無機物表面に接合する様々な既知の方法を採用してDNA分子断片(MEMSで構成される回路の接続用先端部の対に橋を架ける目的で選ばれた分子断片)をMEMSの特定部位表面に接合する。ここで用いるDNA分子断片は特定の配列形成により獲得した分子断片、PCR法により増幅し獲得した分子断片、あるいはクローニングにより獲得した分子断片である。一例にあっては、架橋形成用の当該鋳型DNA分子の修飾された両端にある特異な化学的構造部分のそれぞれとMEMSの接続用先端部表面とに架橋反応が生じて、分子鎖配置方向について特定的な形でこの鋳型DNA分子の接合・固定が実現される。特定部位の化学構造に関して特異的に機能を発揮するクロスリンカーで市販されているタイプのものは一般に親核置換型の化学反応を利用するものである。この型の化学反応は一般的に言って、離脱する側の官能基が接近してくる親核型官能基に直接的に置換されることで完結する。一例にあっては、前記MEMSで構成される回路の接続用先端部位の対が金で塗工された先端部とストレプタビジンで塗工された先端部の対となっている。一例にあっては、架橋形成用の鋳型ssDNA分子がビオチンとストレプタビジンの間、ならびにチオールと金の間にそれぞれ生じる共有結合によって原子間力顕微鏡を構成する部位であり同時にMEMSの部位である部位表面対の双方それぞれに接合・固定される。
【0129】
このDNA分子断片は5’(5ダッシュ)/3’(3ダッシュ)でありその両端はそれぞれビオチンとチオールで末端修飾されている。またこの末端修飾とはそれを目的とする市販キットを利用し、または市販キットによることなく何らかの方法により、DNA分子の5’と3’の両末端の各々を標識付けする、ないしは官能基付けすることをいう。接合を完了するために利用される化学構造には、これらに限定する意味でなく、アミノ基類(N−ヒドロキシサクシンイミジルエステル類など)、ポリエチレングリコール類、カルボジイミド、チオールのものである官能基類(マレイミドやα−ハロアセチルなど)、オルガノシラン基類、あるいはビオチン−ストレプタビジンのものがある。一例にあっては、遺伝子に関わったものあるいはプラスミドで生成されたたものであって検出対象とされる種々のDNA分子鎖を基本分子鎖として用い、その5’と3’の両末端がビオチンかストレプタビジンで変性されたヌクレオタイドとなる様に形成することで種々のDNA分子断片が獲得されるか、あるいは同様の種々DNA分子鎖を基本としビオチンで末端修飾されたプライマーとストレプタビジンで末端修飾されたプライマーの双方を用いてPCR法による増幅によって種々のDNA分子断片が獲得される。
【0130】
以下に、MEMS作製の一例を記述する。
一例にあっては、微小電子機械機構システム(MEMS)は、100万分の1メートル(ミクロン)のオーダーの寸法にて構成される微小な動作型部位を有する様々な機構を利用する技術に関わるものである。これらの機構は、集積回路(IC)の製造に関わるものと同様の様々な治具・手法を駆使して作製される。一例にあっては、MEMSであるデバイスは、機械的な素子部品と電気的な素子部品との様々な組み合わせで構成されておりその作製が完了するとピンを有する封止容器内に収められ、封止容器と一体のものとしてプリント回路板(PCB)上に配されたソケットに挿し込まれることで同PCBに装着される。
【0131】
以下に、MEMSである積層構造について記述する。
一般に、MEMSであるデバイスの作製には、基板に何らかの物質の薄膜形成をすること、同物質の薄膜上にフォトリソグラフの技術を使って一定形状のマスクを形成すること、完成したこのマスクを利用して前記薄膜の特定の箇所にエッチングを加えることが求められる。前記物質を基板(シリコン・ウェファー)表面に沈着するにあっては化学反応を利用した手法(化学蒸着、エピタキシ、エレクトロデポジション、または加熱酸化)または物理的現象を利用した手法(蒸散、スパッタリング、あるいはキャスティング)を使う。これらの手法は当該工程のスピード、精密さ、工程費用の点でそれぞれに異なるものの、いずれの手法による場合にも完成される薄膜の厚さは2〜3ナノメーターから約100ミクロンまでと様々に調製できる。一定の形状のパターンを形成する作業は、感光性材料を基板表面に塗工する工程、その表面上に当該パターンが形成されたマスクを所定の位置に置く工程(当該表面とマスクの双方に然るべく配された位置決めマークを利用するのが典型的な手法である)、そしてこの感光性材料の塗工膜に光を照射する工程で構成される。採用される工程に応じて前記露光工程を終えた塗工膜の光の照射を受けた部分または照射の影となった部分のどちらかが除去され、当該基板材には所定のパターンが形成されることになる。MEMSであるデバイスの作製には、以上の外、基板表面の生成、感光性塗工膜の現像、作製品の洗浄などの工程が必要である。
【0132】
MEMSに採用される要素部品は、マイクロ・ファブリケーション技術を用いて作製されて良い。一例では、様々なリソグラフィー技術が駆使される。ここで言うリソグラフィー技術とは半導体の生産処方に基づく作製工程において利用される様々な技術のことであり、これにはガラス製、石英製、またはシリコン製の基板上に加えるフォトリソグラフィック・エッチング、プラズマ・エッチングまたは湿式の手法である化学エッチングなどがある。
【0133】
材料除去の典型的処方に湿式エッチングと乾式エッチングがある。前者はワークを化学薬品液に浸漬することで当該材料を溶解除去するものであり、後者は物理反応による沈着工程と実質的に丁度反対の反応を起こし当該材料の除去を達成するものである。前記した沈着工程に係る様々な処方と同様に、材料除去のこれら処方についても工程のスピード、達せられる精密さ、工程費用はそれぞれに異なるものとなる。一例にあっては、アスペクト比(縦横比)が50:1である側壁を持つ「深い」ポケットが基板に形成される。
【0134】
MEMSであるデバイスは、一つまたはそれ以上数の動作型要素部品を保有するように構成されて良く、同動作型要素部品の各々には鋳型ssDNA分子が接合される。動作型要素部品、例えばカンチレバーの腕は、同腕と基板の内の腕の自由端の下方に位置する部分の双方それぞれが少なくと連続した一層の導電性素材を有する構造を持つように構成にされて良い。したがって、パターンに形成されたマスクを用いるフォトリソグラフィー法によることで、適切に配された絶縁性材料の層と導電性材料の層からなるデバイスの回路を構成・形成するが可能になる。一例にあっては、試料液の流れが、DNAの架橋を有する一組のMEMSを通り、別の一組のMEMSに流れ、更には前記のMEMSの組それぞれに再循環してくるような配置・構成が採られており、接触の可能性が上がり、必要な試料液の量が減少する様になる。一実施例にあっては、これらに限定されるわけではないが、ガラス、石英、シリコン、および、何らかのプラスチック材をその例とする様々な重合体物質などのいずれかを担体としその上に形成した電子回路を採用している。
【0135】
一例にあっては、基板上に種々の絶縁層が形成される。一例にあっては、当該デバイスの作製には、前記した分子の特性の発現(すなわち、電気伝導度と位置移動)を許容し、かつ同特性の発現に応答して反応するような固体材料を選択し採用している。本願文書の添付図にあっては当該回路が同要素部品平面状に配置して構成されているように表現されているが、他の実施例にあっては同要素部品を違った方向(すなわち、上下方向)に配置し構成されている。
【0136】
一例にあっては、検出・同定用デバイスには平面形状をした要素部品が追加的に具備され、同要素部品が前記試料液配送路や試料液の貯留部の上側に蓋をするように配置され当該配送路や貯留部がその上部まで覆われた配送路・貯留配管になっている。この平面形状を有する上面板は接着剤を使用して接着されていたり、熱融着されていたり、あるいは同上面板の素材内に帯電性物質または親水性物質が含まれ当該上面板自身が発現する親和力によってデバイス本体に付着するものであったりする。
【0137】
一例では、検体試料の採取・調整は当該デバイスとは離れた場所で行われる。検体試料は、試料源の表面から綿棒または綿パッドによって採取する。あるいは、試料源である空気や液体をフィルター、液体トラップ、あるいはクロマトグラフ用樹脂を通して吸引して採取する。試料の調整工程においては、このようにして採取した試料に種々の試薬が加えられ、試料中に混在する当該生物学的物質成分は適宜分解され、所定構成部分は当該目標分子にまで変化し、後の検出・同定の段階において捕捉されることになる。このような調整を受けた検体試料は、注射器、ピペット、点眼容器、あるいはこれらと同様の主導型ないし自動型の容器・用具により本願発明になるデバイスの上部開放型の流体配送路、上部開放型の貯留部あるいは上部覆蓋型の配送路・貯留部に送入される。
【0138】
一例にあっては、デバイス内に搭載されたファン吸引システムによって自動的に同デバイス自身に吸い込む空気と一緒に検体試料を採りこみ同デバイス内で試料の調整も行う。一例にあっては、液体である検体試料が自動的にデバイス内に採りこまれ同試料の調整もデバイス内で自動的に実行される。これらの例にあっては、超音波破壊の技法などの機械的な方法によって前記のようにして採りこんだ試料が破壊・分解される。
【0139】
一例にあっては、採りこんだ検体試料は、当該デバイスに具備された配送路を通ってバイオ・チップ(生物学的チップ)の表面に達する。デバイスには複数の貯留部が備えられており、試料の調整に必要な試薬類の他、システムの洗浄や当該デバイスのキャリブレーションに必要な試薬類、更には使用済み物質の貯蔵に充てられる。一例にあっては、当該デバイスにはその貯留部から物質・薬剤類を送出したりも同貯留部に送入したりもできる様に装備されている。一例にあっては、デバイスは一度システム内に送出された試薬類化合物でも、その循環時の検出操作が陰性であって当該試薬類化合物が再使用可能な純度を維持しているときには、同試薬類化合物を繰り返しシステム内に送出する。
【0140】
一例にあっては、接続用先端部にオリゴヌクレオチド配列の層を形成しこれらオリゴヌクレオチドの配列の働きで鋳型DNA分子の架橋形成のための接合位置ならびに接合方向が決定付けられる。一般的には、一本鎖の鋳型DNA(ssDNA)分子で回路内に架橋を形成するにあたり当該接合に関わる同鋳型DNA分子の接合位置と接合方向をオリゴヌクレオチドがハイプリダイゼイション(会合)の相手を規定する現象を利用して制御するという手法が採用される。一例にあってはこの架橋用の鋳型ssDNA分子はMEMS内に配された接続用先端部に接合するのにチオールを仲立ちとする方法、ビオチンを仲立ちとする方法などの内のいずれかが採用される。
【0141】
1検体試料中の複数種類の病原性微生物を同時に検出・同定するには、そのそれぞれがDNA架橋を有するそれぞれがMEMSである複数の回路を1ユニットのデバイスにマトリックス状または一列に配置すれば良い。一例にあっては、前記マトリックスには、そのそれぞれが同一配列の架橋DNA分子を有する、互いに均等なMEMSである複数の回路を配置し、一定量の試料当たりいくつの回路が所定の反応を示したかによって当該試料中の目標DNA分子の濃度を算出する。
【0142】
MEMSの動作型要素部品内に形成する生物学的架橋について記述する。
動作型要素部品がその複数箇所に配置された回路で構成されたMEMSであるデバイスの物理的な作製が完了した後に、必要なタイプのssDNA分子(鋳型分子)の一本一本がデバイスに導入・接合される。カンチレバーの腕が形成されてなる一例にあってはカンチレバーの自由端からカンチレバーの下方対面にある基板側の接触点までをssDNAが架橋を形成する様に接合される。一例にあっては、これら接合相手の表面それぞれは、同表面それぞれに当該鋳型ssDNAの両端の各々に付与された所定の機能性に従って同両端のそれぞれが接合を完了できる様な特定の表面調整が加えられている。
【0143】
このssDNAの一端はチオール基で修飾されており(この結果、金表面と高い親和性を持つ)、もう一方の端はビオチンで修飾されている(この結果、ストレプタビジンで塗工された表面と高い親和性を持つ)。したがって、カンチレバーの下側に形成された導電体の層の表面が金で仕上げられていると前記ssDNAのチオールで修飾された方の端がこの金の表面に接合することになる。カンチレバーの自由端の下方にある基板側の金表面も同時に当該鋳型ssDNAに暴露されることとなるため、接合する同鋳型ssDNAを導入する前の段階において、この基板側の金表面にはビオチンを静電気的手法により沈積させておくことが必要である。MEMSである本願デバイスのこれら問題となる表面については、以上記述したような事前調整が加えられることで鋳型ssDNA分子を受付けそれと接合する様になる。
【0144】
架橋を形成することになる鋳型分子の静電気的力による捕捉について以下に記述・説明する。ここで言う鋳型分子の捕捉とは、一例にあっては、何らかの種類のssDNA分子の1本を前記したようなカンチレバーの自由端とその下方にある基板上に位置する、事前に完了することが必要な表面調整を終えた接合点部位との間の空隙に橋架け・接合するなどの行為を指す。一例にあっては、この空隙部分にそれと直列に配した大きな抵抗を介して一定の電圧を印加する。このようにして形成された電場に当該ssDNA分子が引寄せられることになる。当該ssDNA分子の末端部が十分に接近すると、基板側接合部位にあってはビオチンとストレプタビジンとの接合が完成し、カンチレバーの自由端側には金とチオールとの接合が完成する。一つの分子がこのようにして接合を完了すると、当該空隙を挟む両側間に印加されていた電圧は、この空隙と直列配置に接続されている前記抵抗の存在故に、大幅に低下する。この現象故に、接続用の部位の各一箇所にはssDNA分子が一本しか接合しないことになる。電場が接続用先端部を持つMEMSである腕へssDNA分子を引き寄せる機序は、あるいはそのような機序で機能するデバイスは当該接合を達成する分子を1分子のみに限定する作用を果たす(静電気効果による、ナノ・スケール電極対間へのナノ・スケールの導電体粒子の捕捉、 Appl.Phys.Lett.71(9)参照)。
【0145】
以下においては、過剰数の鋳型分子の除去について説明する。
いくつかのケースにあっては、分子鎖1本のみが当該空隙を架橋する形で接合を完了したときにはそれ以外の幾本ものssDNA鎖が金で塗工された表面のみに接合しており、また、更に別のいくほんものssDNA鎖がビオチン化された表面のみに接合している。このような分子鎖、いわば「はずれもの分子鎖」、は検出対象である病原体由来の種々配列を有するssDNA鎖と何らかの形態でつながり、本来の検出・同定の実行に悪影響を及ぼす可能性がある。一例にあっては、所定のセンサー部位以外においてつながり現象が生起しないように、その両端において接合を達成できていないssDNA分子をすべて除去するために当該デバイスをエクソヌクリアーゼで処理する。
【0146】
一例にあっては、当該システムに追加的な動作型要素部品が備えられる。同部品はそれぞれ人工的に構成したあるいは生物由来の分子鎖による架橋を有するものであり、参照用ないしは比較基準の提供用として利用される。すなわち、当該測定で獲得するデータから機械的要因、電気的要因あるいは化学的要因による背景ノイズを除去しようとするもので、この背景ノイズは温度、圧力、位置移動、迷走電圧、誘導電界および・あるいは試料中に混入した不純物成分に起因するものである。一例にあっては、一ユニットのデバイスに具備される一個のチップが、MEMSの構成を内包するものであり、同チップ内部の数千箇所に各々が独立したセンサー機能や参照用機能を発揮する部分構成を持っている。センサー機能を有する構成の部分は、そのすべてが同一の生物学的物質成分の存在を検出しようとするものでその目的に沿った生物学的要素部品で構成されていても良く、あるいは、一つのチップにより同時に多種類の生物学的成分を検出する目的で多種類の生物学的要素部品で構成されていても良い。
【0147】
以下には、上記したようなMEMSである回路を信号増幅/処理/表示システムへ組み込む技術について説明する。ナノアンペアの領域の電流の測定には、集積回路として構成された増幅器を用いる。一例にあっては、検出・同定の結果を表示するために複数の増幅器ユニットを含んで構成された増幅器集積回路(IC)、ならびにこれ以外の様々な電子部品や電子的処理が利用される。利用される集積回路の一つは、MEMSであるチップが送出するアナログ信号を増幅するのに加えて、それをデジタル信号に変換するものである。一例にあっては、ICの封止容器としてピンを有するタイプのものを使用し、同ICチップはプリント回路基板(PCB)にピンで固定できるものとなる。プリント回路基板(PCB)には前記したようなMEMSとIC双方を擁する種々のチップのほか、演算や電気的制御動作を実行する基本プロセッサをも搭載する。PCBはメニュー・ボタンを操作するための入出力用であるほか、表示装置用ならびに電源用の電気的接続をなすためのインターフェースを有する。一例にあっては、このプロセッサは、前記ICが送出するデジタル信号に基づいて表示を実現するようにプログラムされている。ユーザー・インターフェースを介することで、ユーザーは表示の直接的な制御のほか、表示特性の設定、検出閾値の設定、電源レベルの設定、オン/オフの切り替えおよび生物学的分子の排出工程制御に係るパラメータの設定が可能となる。一例にあっては、これらPCB、表示装置、ユーザー・インターフェース、電源、および入力/出力は、プラスチック製または金属製の収納容器にまとめて組み込まれている。
【0148】
以下には、本願発明になるシステムの典型的な例に基づきそこで実行される試験・分析について説明する。一例にあっては、本システムにおいて試料の採取、事前調整および当該電子回路への送出が以下の通り実行される。
【0149】
a) 試料の採取: それが気体、液体、固体のいずれの形状であっても、当該目標分子が含まれている試料源ならびに使用する器具が必要とする条件にしたがって試料採取の手法が決定される。例えば、フィルタリング処理の処方やマススペクトル分析の処方を駆使することで適当な粒子サイズ、量、あるいは投入量の粒子を採取することができる。化学的ないしは生物学的成分がフィルターによって捕捉された場合には同成分を試料の事前調整用の試薬で溶出し当該測定機器部分に送出する。一例にあっては、機器で吸引する処方が採用され、気体状である試料は当該試料の事前調整用の試薬層を通過して吸い込まれるように(強制的に)集められ、当該試薬に曝露されるのに続いて検出用チップ部に送入される。
【0150】
b) 試料の事前調整: 一例にあっては、気体状、液体状、あるいは固体状のいずれであるに関係なく試料は検出用デバイスとは分離された場所にて事前に試料調整をうけるが、別の一例にあっては、自動的に事前の調整を加える処理技術の採用とあいまって当該デバイス内において事前の試料調整をうける。試料の事前調整に関わる工程やそこで使用される試薬類については個々のケースごとに決定されるもので、検出・同定に係る目標分子やそれが含まれている試料の試料源に応じて異なったものとなる。細胞内に存在する生物学的な物質成分を破壊し種々の目標分子を分離し採取する目的にあっては化学薬品、熱、あるいは機械的な力といった手段を用いる。これらと同様の方法によって目標分子の供給源にはそれが予備調整を受け、有機化合物として存在しようが無機化合物として存在しようが調整を加える。一般にいって、生物学的物質である細胞の破壊にはリピッドの膜に溶解性を付与する分散剤、細胞膜を構成するタンパク質または目標分子の酵素消化、ならびに種々の高次構造破壊剤が必要となる。ここに言う高次構造破壊剤には様々なものがあるがこれらは目標分子にその検出・同定に必要な変更を加え、あるいは事前の調整を加えるものである。機械的な力を加える手段としては超音波の利用や攪拌、あるいはこれら手段を粉砕用ビーズと併用する手法がある。一例にあっては、目標分子のサイズ、親水性の度合い、荷電の程度、官能基部分間の親和性などの特性に応じて、適したフィルターやクロマトグラフ処方を用いて当該目標分子の純度が高められる。
【0151】
一例にあっては、当該システムが当該目標分子に並存する種々の成分、その存在する箇所の環境が原因で混入した不純物(種々の塩類化合物、埃、種々の溶剤、さらには検出・同定の妨害を目的に加えられた試薬類化合物)の存在にも抵抗力を発揮する。一例にあっては、当該システムが分析対象の試料中に存在する目標分子の量が極端に微量であっても検出可能である。一例にあっては、当該システムが所定のDNA分子断片がその由来する元のDNAに中に、同DNAの表面に、あるいはそうではなくて、このDNA分子断片が同DNA自身の由来元につながって所在していた場合(すなわち、由来元の微生物、動物の細胞、ビールスの一部をなしている場合)であっても、このDNA分子断片を検出できる。一例にあっては、会合した二本鎖DNAの配列が切断・変更の対象にされる。
【0152】
c) マイクロチップ部への試料の搬送
d) 検出、同定、および識別の達成
e) デバイスの表示部上への結果の表示
本願発明の実施例であるシステムにおいて採用される典型的な構成にあっては、これらに限定するものではないが、土壌、水、あるいは空気中に存在する種々の動物、細菌、ビールス、カビ、植物、古細菌に由来する種々の成分をリアル・タイムで検出、同定、識別、更には濃度測定する。ここで言う種々の成分の内典型的なものに、これらに限定するものでなく、ヒト、植物、動物の病気の原因となる病原体に関係した有機成分(核酸類、アミノ酸類、各種炭水化物などの化合物)、無機成分(すなわち、金属類、無機のリン酸塩類化合物など)があり、食品の安全性上の問題成分とそれを含有する物質、治療対象の病気に関する問題成分とそれを含有する物質、疾病素因である遺伝子配列に関する問題成分とそれを含有する物質、植物や動物の病気の発症前診断に関する問題成分とそれを含有する物質、診断用の道具として特定された成分とそれを含有する物質、特定のRNAの遺伝子発現を検査する試験道具としての成分とそれを含有する物質、多型識別法によるヒトや動物の個体識別を実施するため成分とそれを含有する物質が挙げられる。
【0153】
DNA対DNAの相互作用以外にも本願発明の実施には次のような成分間に発現する相互作用を利用できる。
【0154】
「タンパク質分子対タンパク質分子」
1) プリオン分子が他の構造のプリオン分子との間に示すタンパク質分子間相互作用を利用することが考えられる。牛海綿状脳症(BSEと略される。狂牛病とも呼ばれる)は牛の神経細胞において細胞変性が進行する病気であり、その病気に罹患した牛の肉を使用した肉製品を食したヒトにクロイツフェルト・ヤコブ病(CJDおよびvCJD)を発症させる。牛以外のいくつかの種の動物が罹患するBSEに近似した種々の病気の存在が確認されており、これら近似の病気は伝播性海綿脳症類の病気(TSE類の病気)として区別される。牛におけるBSEあるいはヒトにおけるCJDはプリオンと呼ばれる神経タンパク質分子が正常な折りたたみ形状から伝染性の不正な折りたたみ形状に変化することで発症する。不正な折りたたみが起こったプリオン分子のそれぞれはその周りのプリオン・タンパク質分子にも不正な折りたたみを誘発する。本願発明になるシステムは正常なプリオンが有する物理的形状をそれが病変して生じる伝染性の形状とは区別された形で検出できる。一例にあっては、正常なプリオン・タンパク質分子では当該分子の立体構造の外側表面に露出される位置にシステインやヒスチジン残基を有しているがこれらシステインやヒスチジン残基によって正常なプリオン・タンパク質分子がMEMS中の金、ニッケル、あるいは白金でその表面を塗工された部位に捕捉されることになる。
【0155】
2) 抗体の抗原との相互作用を利用することが考えられる。一例にあっては、MEMSである回路内に配置された動作型要素部品の各々は自然の抗体物質から取得したものであり同抗体物質に存在するものである抗原捕捉部位、あるいは人工的に形成したそれに相当する部位によって架橋されている。同捕捉部位に捕捉される抗原は当該抗体に特異的に捕捉されるものであり、また同抗原は特定の生物学的あるいは無機物である物質に由来するものである。一例にあっては、自身が前記抗原捕捉部位であるアミノ酸分子がMEMSの動作型要素部品の表面に既にプリオンの場合で説明したと同等の化学的機序によって接合される。生物学的物質成分である種々の抗原と架橋中に存在する抗原捕捉部位との間に相互作用が発生すると、当該架橋部分の要素部品が測定可能な強さの信号を発することになる。
【0156】
「タンパク質分子対炭水化物分子(糖タンパクの生成)」
1) 細胞外炭水化物の抗原部位(エピトープ)と受容体タンパク質との間に発現する相互作用の検出・分析ができる。このような生物学的現象の具体例にビールスやバクテリアへの感染がある。これらに該当する典型的な相互作用がタチナタ豆(Jack bean/Canavalia ensiformis)のタンパク質分子、コンカナバリンA(con.A)とマンノース糖類化合物との間に発現するものである(Acta Crystallogr., Sect. D 50 pp. 847 (1994) 参照)。一例にあっては、MEMSとして構成された回路に配置されたそれぞれの動作性要素部品がヒスチジン残基あるいはシステイン残基を間に介してCon.Aで架橋される。グルコースを含有する種々の試料はこれに何らかの形態でつながりCon.Aタンパク質分子の形状・寸法に変化をもたらし、その結果システム側に信号を送出する。本願発明になるシステムはこの種の回路を保有するものにあっては残存するグルコースの有無ならびに残存濃度を確認できるものであり、糖尿病のコントロールを実施に利用できる。
【0157】
2) 腎臓細胞の表面で発現する糖脂質、グロボトリアオシル・セラミドはタンパク質分子である五量体型‘B’捕捉サブユニトと相互反応を起こすものであり、シガ型トキシン1(Shiga-like toxin 1:SLT1/二成分型細菌毒類)の受容体として機能する。
【0158】
「炭水化物分子対炭水化物分子」
二つの細胞間に発現する相互作用、すなわち細胞と細胞とを結合する力は多かれ少なかれ炭水化物分子がほかの炭水化物分子あるいは糖質タンパク分子との間に発現する相互作用によって生じる(J Cell Biol. 2004 May 24; 165(4):529-37. 2004 May 17 参照)。スフィンゴ糖脂質(GSL)間の相互作用はマウス・メラノーマ細胞における細胞間力に関与しているようである。典型的な一例にあってはがんの細胞増殖観察に利用するために、GSLをその結合形成部位として糖タンパク質分子が結合してなる様々な構造が作製される。
【0159】
一例にあっては、試料の採取、試料の事前調整とシステム内搬送、試料の分析技術、信号処理と信号の送信の工程あるいは技術を併せて、生化学的検出・同定用の当該システムが構成される。
【0160】
DNA一本鎖の耐切断強度および長さはその塩基組成、塩基配列、同一本鎖分子が置かれている環境によって様々に変化する。平均的には、dsDNA(会合した二本鎖DNA)の直径は20オングストローム(Å)であり、隣り合った二つのヌクレオタイド間の距離は3.4Å、言い換えればラセン状に一回転分離れたヌクレオタイド間には約34Åの距離がある。このdsDNAのラセン構造には2種類の溝が形成されており、細い方は12オングストローム、太い方は22オングストロームの幅に収まる程度のものである。一方、ssDNAにあってはその隣り合う二つのヌクレオタイド間の距離は5.84Å程度である。
【0161】
[分子間に働く吸引力]
最初に触れる現象は物理的なもので、二本鎖DNA(dsDNA)のラセン形状に関わる。一本鎖DNA(ssDNA)は一般に1本の線のような形状の構造を有しそのヌクレオチド1塩基当たりの長さは5.84Å程度である(DNA鎖を形成するブロックともいうべき塩基の一つひとつはグアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)、およびシトシン(C)の内のいずれかである)。1本のDNA鎖がそれと相補的なもう1本のDNAと並びあいつながりを持つ(この工程をハイブリダイゼーション(会合)と呼ぶ)ことでdsDNAに特有のラセン形状の構造が形成される。この構造をとることで隣り合うヌクレオチド塩基間の距離が3.4Åとなる。したがって、50塩基のssDNAの長さが292Å程度であるのにdsDNAにおける同じ数のヌクレオチドの長さは175Å(17.5nm)にしか過ぎない。すなわち約40%もの短縮化が起こっている(各鎖の詳細な長さについては塩基配合、塩基配列、おかれた環境により多少の違いがおこる)。この長さにおける減少量は当該鎖の各々ごとに一意的に定まるものであり、また物理的に測定・識別できる。
【0162】
加えて、一分子全体の長さの変化量は、第一の(すなわち鋳型分子である)ssDNAとそれにつながる相手である第二の(すなわち相補鎖ないし目標分子である)鎖との間のマッチングの度合いにも関係して決まる事になる。適当な条件下におかれる場合にあっては、相補性マッチングが完全ではない2本のDNA鎖であってもハイブリダイゼーション(会合)は実現するものの、相補性マッチングの度合いが低下するとともに一分子全体の長さの減少量は小さくなる。この結果、同一の分子鎖の長さにおける減少量を測定することで、別途完全な相補性マッチングに対応した最大減少量が既知となっていれば、目標ssDNAとそのとき導入されたssDNAとの間の遺伝子配列上の違いの度合いが算定できることになる。環境条件に関して、塩分含量が低くまた環境の温度が高いとマッチングが完全なものであることが必要になり、逆に塩分濃度を高くし環境温度を低くするとお互いの相補性マッチングが完全ではないDNA鎖同士でもハイブリダイゼーション(会合)ができるようになる。
【0163】
1本のssDNA分子が外のssDNA分子との間に生起する相互作用とその結果出現する物理的配置形状に係る変化との双方は本願発明の実施にあたり重要な役割を果たす。分子鎖と分子鎖との間で互いに相手側を引寄せようとする力、ならびにサブユニット間に作用するサブユニット同士が互いに引寄せあう力の双方が当該二つの分子間に作用する。これらの引き合う力は水素結合、相互の重なりあう塩基間に発生する相互作用、ならびに疎水性に起因する塩基部分を内側に、リン酸基部分を外側に移動させようとする相互作用によってもたらされるものである。加えてこれらの引き合う作用のエネルギーの正確な値は隣り合う塩基間の関係や環境条件(pH、温度、イオン強度など)に依存することに留意せねばならない。これらの引き合い力に関して水素結合は4−7kcal/モル、塩基の重なりは3.8−14.6kcal/モルの貢献をする一方リン酸の二価エステルによる結合に係る共有結合のエネルギーは80−100kcal/モルである(文献データによる)。実験的な算出値と理論的な算出値の双方はdsDNAの引っ張り強度が、当該塩基組成ならびに配列について平均化した場合の値として、5x10exp[−12]ニュートン(kg/sec)(文献データによる)であることを示している。この引っ張り強度は概ね最近1体の体重と同じ大きさである。いずれにしろ、上述した種々の技術・技法はこの大きさレベルの力を必要とされる正確さで発生したり負荷したりするに十分な精度を持つものである。
【0164】
[電気伝導性]
二番目に述べる事象は生理的なもので、互いが相補的にマッチングする2本のssDNAが引寄せ会うことで生起する。これは当該ssDNAの電気伝導度がハイブリダイゼーション(会合)に原因して著しく上昇する現象である。ssDNAが電気伝導性を持つことは多くの研究によってこれまでに知られている。これら研究によると、ssDNAが示すこの電気伝導性の大きさは当該ssDNAの遺伝子配列の如何に大きく依存し、グアニンとシトシン(GとC)は導電体として働く傾向にある一方アデニンとチミン(AとT)は相対的には絶縁体として働く傾向にある(文献データに基づく)。
【0165】
ハイブリダイゼーション(会合)を原因とした電気伝導度の上昇は、当該DNA鎖が十分高いG,C含有率のものである限りにおいて、ssDNAのそれの100倍にまで上昇するといったものである。
が、ハイブリダイゼーション(会合)後のそれがハイブリダイゼーション(会合)前のssDNAのそれの100倍にも及ぶものである。このような著しい上昇をもたらす機序に関しては今なお文献上で議論されている所である。議論の対象である機序、塩基対が整列する領域に電子トンネルが形成されるとするものと糖リン酸骨格内に電子ホッピングが起こるとするもののどちらが正しいものであるにしろ、伝導度の上昇幅は大きく、またそれに伴うシグナル/ノイズ比は十分に大きくなるため、その上昇量を測定することは可能である。
【0166】
分子の長さの変化量と同様に電気伝導度の上昇幅も当該目標ssDNAとそれにマッチングしていることが期待されるssDNAとの間のマッチングの度合いに比例する。これら2本のssDNA間のミスマッチング箇所が多いほどハイブリダイゼーション(会合)に伴う電気伝導度の上昇幅は小さくなる。
[印加された電圧による分子の高次構造破壊]
三番目の事象は生理的なもので、互いに引寄せ会い1本となったdsDNAが2本の互いの相補的なssDNAに分離する現象に関わる。DNA分子のハイブリダイゼーション(会合)とそれに伴う分子の高次構造破壊の現象を実験室で再現・制御する手法として良く知られているものにサウザン・ハイブリダイゼーションがある(文献データによる)。塩類の種類・濃度や温度条件などの環境条件値を調節することでDNA分子のハイブリダイゼーションや高次構造破壊の進行を制御することができる。分子の高次構造破壊にあっては当該dsDNAに十分な大きさの電流を流すことで生起させることも可能である。その機序については、ここでも十分に解ってはいないものの、現実にこのような現象の進行制御が数多く報告されている(文献データによる)。
【0167】
分子の長さや電気伝導度の変化量と同様にdsDNAの高次構造を破壊し、2本のssDNA部分に強制的に分離するのに必要となる電流の大きさもこれら2本のssDNA部分間の相補的マッチングの度合いに比例する。マッチングの度合いが高いほど高次構造を破壊するに必要な電流は大きいものとなる。
【0168】
[鋳型DNAの作製]
「バシルス・サブチリス菌の遺伝子DNAの調製」: バシルス・サブチリス菌(エーレンベルグ)コーン168株(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション社 27370番(American Type Culture Collection (ATCC) #27370))を滅菌後のATCC社製培地#265、100ml中で培養した。同培地は1リットル当たり12.5gのハート・インフージョン・ブロス(BD#238400),5.4gのニュトリエント・ブロス(BD#234000)、および2.5gのイースト・イクストラクト(BD#212730)を含む。菌株の培養は30℃で15時間とし、この間140rpmで振とうした。このようにして得られた菌株から遺伝子を分離するにあたっては一定の調整を加えたもののそのための標準的とされる方法を採用した(Marmur,J.1961.A procedure for the isolation of deoxyribonucleic acid from microorganisms. J.Mol.Biol.3:208−218)。この方法の概略は、当該バシルスの菌株を含む培地100mlを10分間、重力の4000倍の加速度の遠心分離機にかけ、集積したペレット状物体を再度培地に分散して培養室に戻し37℃で一時間培養した。このときの培地は9.5mlのTE、0.5mlのSDS10%液、および50マイクロリットルの濃度が20mg/mlであるプロテイナーゼK酵素の液の混合物であった。ここでTEはトリス、すなわち、トリスヒドロキシ−アミノメタン(EM社#9210)の濃度が10mMでEDTA(エチレンジアミン四酢酸、EM社#4010)の濃度が1mMである水溶液、SDSはドデシルスルホン酸ナトリウム(EM社#DX2490−2)であり、プロテイナーゼK酵素はEM#24568−3であった。
【0169】
この培養のあと、培養混合物にNaCl(食塩、VWR社#6430−1)5Mの水溶液を1.8ml追加し十分に攪拌したあとCTAB/NaCl液を1.5ml加えて20分間65℃で培養した。ここでCTAB/NaCl液とは0.7Mの濃度のNaCl水溶液中に10%のCTAB(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、VWR社80501−950)を溶解した水溶液である。培養後の液はクロロホルム(EM社#CX1054−6)とイソアミルアルコール(Calbiochem社#80055−544)の同量混合液で抽出操作し22℃で10分間、6000Gの加速度で遠心分離機にかけた。こうして得られた水層部分に対してフェノール(EM社#PX0511−1)/クロロホルム/イソアミルによる抽出操作を行ったあと同液を22℃、6000Gで10分間遠心分離した。
【0170】
得られた水層部分に保持されているDNAを沈殿分離するために同水性液容積の0.6倍の容積のイソプロピルアルコール(VWR社3424−7)を追加し4℃、6000Gで10分間遠心分離した。得られた沈殿成分を70%(v/v)エタノール液で洗浄しTE4ml中に投入浮遊させた。分光光度計による260nm光の吸光度測定によりTE中の濃度を測定し、同濃度が100μg/mlになるよう調節した。DNA4ml当たり200μlの臭化エチジウム(EM社#4310)、4.3gのCsCl(セシウム クロライド、EM社#3030)を加えた。同溶液を15℃、300,000Gで4時間遠心分離した。遺伝子DNAが分離してできた帯状部分をUV光の照射により視認できるようにし、シリンジ・注射針にて取り出した。DNAに付着し残っている臭化エチジウムを飽和量のCsClを溶解したプロピルアルコールで抽出し、続いて2リットルのTEを使って、一晩4℃でダイアリシスしてこのCsClを除去した。問題のDNAはそれに対する容積比で0.6倍の量のプロピルアルコール中に沈殿させ、その状態で−70℃に保ち保存した。
【0171】
「バシルス・サブチリスのrRNAの16SのPCR法による増幅」: B・サブチリス菌のrRNAの16S遺伝子をPCR法で増幅した。増幅の元とした遺伝子DNAは上述の手順で調製したものであるがその詳細方法は既刊の刊行物にある通りである(H.−J.Bach,1,D.Errampalli,K.T.,Leung,H.,Lee,A,.Hartmann,J.,T.Trevors,and J.C.Munch.1999.Specific Detection of the Gene for the Extracellular Netral Protease of Bacillus cereus by PCR and Blot Hybridization. Applied and Environmental Microbiology,P.3226−3228,Vol.65,No.7)。DNAの増幅はGeneAmp・PCR・System9600(Parkin−Elmer,Norwalk,Conn.)を用いて実行した。試料液50μlはB.サブチリス菌の鋳型遺伝子DNAを50ng、2種のプライマー(フォーワード方向: 5’-gggtttgatcctggctcag-3’、リバース方向: 5’-acggttaccttgttacgactt-3’)それぞれを25ピコモル、デオキシヌクレオチド三リン酸(Boeringer社、Mannheim、ドイツ)を0.2mMの濃度で、Taq/AmpliTaq(R)DNAポリメラーゼ(Promega社)を2単位、10倍濃度反応緩衝液(EM社)を5μl、およびMgCl(EM社)を3mMの濃度で含むものとした。
【0172】
PCRの実行手順は次の通りであった。94℃で5分間と80℃で4分間キープするホット・スタートの1サイクル。94℃で2分間と64℃で1分間、そして72℃で2分間キープする1サイクル。94℃で30秒間と64℃で30秒間、そして72℃で45秒間キープするサイクルの繰り返しの30サイクル。そして最後に72℃で10分間キープするエクステンション用のサイクルを実行した。増幅され作られたPCRの産物はゲル電気泳動法で分離した。その時のゲル組成物はTAE緩衝液(トリス−アセテート濃度が40mM[pH7.6]、NaEDTA濃度が1mM)中に0.8%のアガロース(Promega社LMP#V2831)を混合したものであった。AgarACE(R)(Promega社)消化法によって、約1500塩基対でなるPCR産物をアガロースから切り出した(注記: 前記した2種のプライマーは様々な細菌類に由来するrRNAの16S遺伝子内のヌクレオチド配列をPCR法で増幅するためにAlbert博士によって特別に設計されたものである)。
【0173】
「バシルス・サブチリスのrRNAの16Sのクローニング」: 上記手順によって作製されたrRNAの16SのPCR産物をプラスミド・クローニング・ベクター、pGem(R)‐T・Easy(Promega社)に当該サプライヤーの推奨手法に従ってライゲーションした。この手法とは概ね次の通りであった。PCR産物の75ngを5μlの2倍速ライゲーション緩衝液(Promega社)、1μl(50ng)のベクター・DNA、および1μl(3ヴァイス単位)のT4DNAリガーゼの混合液に混合し22℃で1時間培養した。得られたライゲーション反応の生成物は次に示す処方でコンピテントな細胞、JM109competent細胞(Promega社)に移植した。すなわち、氷冷した前記コンピテントな細胞50μlが入れられた1.5mlサイズの滅菌済み試験管にこのライゲーション反応混合物の2μlを、それも同様に氷冷して徐々に投入した。続いてこの試験管を氷上で20分間、その後42℃で50秒間、次いで再び氷上で2分間それぞれ培養した。同試験管に22℃の滅菌済みSOC培地950μlを注ぎ込み、その内容物を37℃で1.5時間、150rpmの頻度で振とうしながら培養した。移植した細胞をここでLB/アンピシリン/IPTG/X−Galプレート上に引き伸ばすように塗布した。そして同プレートを37℃で20時間培養した。つぎに、以下に示すプラスミド・ミニプレプ処方にて、出現した複数の白色コロニー中の挿入断片を探査した。
【0174】
「プラスミド・ミニプレプ処方」: B.サブチリスのrRNAの16Sのヌクレオチド配列である挿入断片を保有するプラスミドをJM109、E.コーライ(E.Coli)宿主から手早く分離・精製した。この分離・精製にはNucleic Acids Research 7:1513−1523(1979)に報告されたBlinとDolyによる処方を一部変更して用いた。挿入断片/ベクターで形質転換されたクローンである可能性のある白色のコロニーの20個の各々を滅菌済みピペットの先端で掻き採り、滅菌済み栓付試験管中のLB/アンピシリン・ブロス、2mlに入れて37℃で16時間、200rpmで振とうしながら培養した。その後、当該試験管毎に別々にその培養混合物を1.5mlサイズの微小遠心分離管に移して4℃、4000Gで5分間遠心分離した。集まった沈積粒を180μlの溶液Iと20μlの濃度が5mg/mlであるリゾチーム液の混合液に入れて22℃で5分間培養した。その後、400μlの溶液IIを同培養液に投入、容器を5回にわたり上下逆さにすることで内容物を混合し、同混合液を氷上で5分間培養した。それに300μlの氷の温度に冷やした溶液IIIを加え、その試験管内で内容液が渦を作るように同試験管を回転振動し攪拌を続けながら氷上で10分間培養した。その後同試料を22℃、10000Gで2分間遠心分離し、分離した上部液体層を同層中に含有されるDNAを沈殿させるために500μl(容積で0.6倍量)のイソプロパノールを入れた別の1.5mlサイズ微小遠心分離管に注ぎ込み渦巻き攪拌しその混合液を22℃、10000Gで5分間遠心分離し、集まった沈積粒を今度は200μlのTE中に投入し分散させた。
【0175】
「rRNAの16S遺伝子断片である挿入断片を取り出すために実施する形質転換された菌のスクリーニング」: 前記したプラスミドの調整液の5μlを対象として、NotI(Promega社)を使用しその供給会社の指示書通りの方法で制限酵素消化を実施し、1%アガロース・ゲルでの電気泳動法により切り離された挿入断片をプラスミドから分離した。これは、目的とするpGem−B.サブチリスのrRNAのプラスミド構成体を保有する菌体のコロニーを識別・確認しようとするものである。電気泳動法で目的とするプラスミド構成体を保有することが確認されたクローニングの対象菌体を500mlのLB/アンピシリン培地で培養した。得られた培養液を少量ずつ小型容器に入れ分けてそれぞれをその70%がグリセロールである混合液とし、−70℃で保存した。このように大量のプラスミドの調製液は当該培養液とDNAの十分なストックを持つためのものであった。
【0176】
121塩基対鎖の同様の架橋用鋳型分子ができる2通りの生成方法: どちらによっても121塩基対長の同一のヌクレオチド配列断片が作れる二方法は次のとおりである。
1) B.サブチリスDNAを元にするサブクローニング: 微生物DNAからクローニングで生成される断片は、多くの場合、研究者個人や商業目的の供給者から入手できる。必要な121塩基対長の断片も含めて、B.サブチリスDNAの長い断片を挿入断片として持つ種々のプラスミドは制限酵素、AatIIとSphIを使用することで消化できる。この消化過程からは171塩基対長の断片が得られ、得られた断片から、pGem−T(Promega社)AstIIとSphIサイトなど、その後の目的に沿った如何なるクローニング・ベクターをもクローニング生成することができる。必要な121塩基対長の断片は上述したPCR処方に従うことでこのプラスミドからサブクローニングによって生成できる。
【0177】
必要な架橋用鋳型分子の生成: ABI392DNA合成器などの商業的に供給されているシステムを利用することで架橋用として必要な鋳型オリゴヌクレオチド断片を生成できる。標準的なホスホアミダイト法の化学技術を利用することで、生成した鋳型オリゴヌクレオチド断片の5’末端をジメトキシトリチル基で保護することも可能である。
【0178】
反応性生物の混合液をC18逆相HPLC(25mMのNHOAc、pH7、5〜25%CHCN、30分間)にかけ、その後15分間80%酢酸溶液に入れ当該保護用の末端基を外すことでこの断片分子を単離できる。
【0179】
このようにして生成されたDNA分子の量は、一本鎖DNAに係る次のような吸光係数を利用して、UVないし可視光域の吸光光度法分光分析を実施することで算出できる。260nm光に対する吸光係数は、アデニン(A)=15,000、グアニン(G)=12,300、シトシン(C)=7,400、チミン(T)=6,700(単位をM−1cm−1)である。このような生成法のほとんどにあっては、塩基数70〜90のレベルを越える長さになると配列の信頼度が低下し始めるため、ここで必要としている121塩基対長の架橋用鋳型分子の生成にあっては少なくとも二つの断片に分けて生成することになる。具体的には、リサーチ計画のステップ1に示したように、4〜60の塩基を要する長さの一本鎖ヌクレオチドを何種類か生成し、それらをハイプリダイゼーションやライゲーションにより適宜つなぎ合わせることになる。このようにして生成した産物をクローニング・ベクターにライゲーションする。
【0180】
「PCR法増幅を用いた回路架橋用121塩基対鋳型分子の調製」: pGem−バシルス・サブチリス菌rRNAのプラスミド構成体をPCR増幅することで、バシルス・サブチリス菌のrRNAの16S遺伝子に由来する121塩基対断片を生成した。50μlの各試料はSalI消化によりプラスミドから生成した鋳型DNAが50nm、2種類のプライマーがそれぞれ25ピコモル、デオキシヌクレオチド・三リン酸(Boehringer社、ドイツ、マンハイム)を0.2mMの濃度で、Taq/AmpliTaq(R)DNAポリメラーゼ(Promega社)を2単位、10倍濃度反応緩衝液(EM社)を5μl、およびMgCl(EM社)を3mMの濃度で含むものであった。ここでプライマーの一種類はフォーワード:5’−CGAGCGGCCGCCTGGGCTACACACGTGC−3’でもう一種類はリバース:5’−CGACCGCGGCCAGCTTCACGCAGTCG−3’である。
【0181】
PCRの手順は以下の通りである。最初の1サイクルは94℃で5分間、そして80℃で4分間の高温処理、次の1サイクルは94℃で2分間、64℃で一分間、そして72℃で2分間からなり、次が94℃で30秒間、64℃で30秒間、そして72℃で45秒間の繰り返し30サイクル、そして最後に72℃で10分間のエクステンションを行う。PCR増幅の産生物はTAE緩衝液(40mM濃度のトリス‐アセテート[pH7.6]、1mM濃度のNa2EDTA)中に1.5%のアガロース(Promega社、LMP#V2831)を含むゲルでの電気泳動法で分離された。このPCR産生物中のおよそ121の塩基対でなる断片をAgarACE(R)(Promega社)を使った消化法で切り出し、そしてアガロース・ゲルから取り出した。取り出した断片は精製後pGemベクターのNotI/SacIIサイトにライゲーションし、それによってJM109を形質転換し、そして上記した方法でこの121塩基鎖の挿入断片を有するプラスミドを生成した。
【0182】
「架橋用鋳型DNAの特異性の確認」: 上記した方法でクローン生成したバチルス・サブチリス菌の121塩基断片の配列の一貫性をDNA配列確認サービスの提供業者に依頼して調べた。その結果は、当該121塩基対の挿入ヌクレオチド配列が、5’−ctgggctacacacgtgctacaatggacagaacaaagggcagcgaaaccgcgaggttaagccaatCccacaaatctgttctcagttcggatcgcagtctgcaactcgactgcgtgaagctgg−3’であるとされ、バシルス・サブチリス亜種のサブチリス菌株168(Entrez社、PubMed登録#NC000964)のrRNAの16Sと完全に一致した。
【0183】
この121塩基対の挿入断片に関わる特異性の有無は、標準的なサウザン・スクリーニング法に基づき、それぞれの遺伝子DNAに関してバチルス・サブチリス菌とそれとは異なる菌株、American Type Culture Collection社から商業的に販売されているバチルス種の種々の菌(すなわち、B.グロビギー、B.セレウス、B.サブチリス、B.チュリンギエンシス)とで比較して評価した。サウザン・ハイブリダイゼーション・スクリーニング法は次の通りの手順で構成される。バシルス種の遺伝子由来DNAを上記方法で生成し、当該121塩基対断片を消化しないタイプに属する複数種の制限酵素、すなわちHindIII、EcoRI、およびPstIで消化した。消化工程を経て得られた断片は0.8%濃度のアガロースを含むTAE液系ゲル上で分離し臭化エチジウムで着色した。
【0184】
照射観察箱(トランシイルミネータ)を用いてこのゲルに260nmの紫外線を5分間照射し、続いてそのゲルを7分間0.2MのHCl水溶液に浸漬した。その後、同ゲルを塩基性水溶液(1.5M のNaClと0.5MのNaOHを含有)に45分間浸漬し、次いで中和液(5MのTris‐HClと3MのNaClを含みpHは7.4)に90分間浸漬し、標準的なサウザン法(Southern,E.M.(1975)、Detection of specific sequences among DNA fragments separated by gel electrophoresis.J.Mol.Biol.98,503−517)にしたがって処理した。この工程の概要は次の通りである。すなわち、前記のように処理されたゲルは吸水性を持つWhatman社製紙製フィルター3MMとDNAを固定できるニトロセルローズ(SS)との間にはさみ、20倍濃度のSSPE(3MのNaCl、0.2MのNaHPO,20mMのEDTAから成りpHは7.0である)を紙製フィルターの毛細管作用でゲル側に染み出させゲル上のDNAをそれの固定が可能なメンブレン表面に移行させた。同遺伝子由来DNAを移行に割く時間は室温で16時間とした。
【0185】
このメンブレンを取り外し30分間5倍濃度のSSPEに浸漬した後、80℃の吸引ドラフトを備えたオーブン内で数時間、当該フィルターが乾燥するまで加熱し乾燥した。上述したものであり、かつAlkPhos(R)‐DIRECT(Pharmacia社)にて、同製品の供給者推奨処方に従い標識付けしたものである、クローンニング法で生成した121塩基対長の鋳型分子鎖断片を用いて、同断片とハイブリダイゼーション(会合)する分子鎖断片を検出するべく、このメンブレン上の探索を行った。このメンブレンには着色箇所が現れ、このことから当該プローブがB。サブチリス菌に特異性を持ち、更にはB.サブチリス菌のゲノム中の特定の一箇所のみに特異性を持つことが判明した。
【0186】
「局所的変異部分を有する変異分子鎖の作製」: 当該121塩基対長のヌクレオチド配列であって遺伝子様変異を有するもの、すなわち遺伝子様変異分子鎖は既刊の文献(Molecular Biorogy: Current Innovations and Future Trends, Eds.A.M.Griffin and H.G.Griffin.ISBN 1−898486−01−8. 1995 Horizon Scienific Press,PO Box 1, Wymondham,Norfork UK)にしたがって作成した。具体的には、0.5ピコモルのpGem−B.サブチリス菌プラスミド化鋳型DNAをPCRカクテル(PCR増幅反応用混合液)に投入した。同PCRカクテルの組成は25μlの変異分子鎖生成緩衝液(Tris・HCl濃度が20mM(pH7.5)、MgCl濃度が8mM、そしてBSA濃度が40μg/mlである緩衝液)中に2種類のプライマー、T7とSP6(Promeg社)、をそれぞれ20ピコモル、それぞれが250μMのdNTP、2.5ユニットのTaq・DNAポリメラーゼ、と2.5ユニットのTaq・Extender(Stratagene社)を含むものである。
【0187】
このときのPCRサイクルは94℃で4分間、50℃で2分間、72℃で2分間のサイクルを1サイクル、その後94℃で1分間、54℃で2分間、72℃で1分間のサイクルを5〜10サイクルするものであった。親である鋳型DNAと線形状であり、変異形成用プライマーを擁する新たに形成したDNAをDpnI(10ユニット)とPfu・DNAポリメラーゼ(2.5ユニット)で処理した。この処理によって生体内で(in vivoで)メチル化された親である鋳型DNAとそれにハイブリッド(会合)したDNAの双方のDpnIによる消化が実現された。Taq・DNAポリメラーゼにより線形状のPCR産物上に配列延長された塩基列がPfu・DNAポリメラーゼにより除去された。
【0188】
この反応は37℃で30分間の培養とそれに続く72℃で30分間の培養によって進行させた。同培養混合物にATPを0.5nMの濃度で含有する変異分子鎖生成用緩衝液の115μlを追加し攪拌した。この液10μlを新しい微小遠心分離管に分取し、それに4ユニットのT4・DNAリガーゼを投入し37℃で90分間培養した。上述した通りの処方でこの液によりコンピテントJM109のE.コーライ菌を形質転換しLB/アンピシリン培地上にて37℃で16時間培養した。個々の分離株からプラスミドDNAを産生し、そのヌクレオチド配列を前述した方法で調査した。2%、19%、35%の塩基変異を有する分離菌それぞれをその後の作業に供するべく保存した。
【0189】
「121塩基対の鋳型分子の末端修飾」: ビオチン−ストレプタビジン間の結合やチオール−金間の結合を採用することで、鋳型分子で形成する橋は共有結合によって当該AFMやMEMSの接合部位に固定されることになる。B.サブチリス菌のrRNAの16Sに由来する121塩基対長断片を保有するプラスミドはNotIとSacIIなる制限酵素による消化によって当該挿入断片を遊離する。同断片は、上述したように、TAE緩衝液を使用した0.8%濃度のLMPアガロースのゲル上で分離された。同分子の5’末端と3’末端は商業的に販売されている末端修飾用キット(Pierce社、#89818)を使用し既刊の文献に記載されている処方(B.A.Connolly and P.Rider、Nucleic Acids Res.13、4485(1985)およびA.Kumar、S.Dawar、G.P.Talwar、同上タイトルの雑誌、19、4561(1991))に従って、チオールとビオチンでそれぞれ修飾した。
【0190】
「DNAの物理特性の調査・測定」: 原子間力顕微鏡(AFM)による観察の典型的な対象物は物体表面の分子レベルの大きさの凹凸である。同AFMにはカンチレバーである腕が具備されており、同腕にはその腕が伸びる縦方向に対し直角に突き出た先端に同直角方向を向いた面がある。この腕は観察対象の表面に接触するまで押し下げられ、それに引き続いて同表面上をなぞるように移動させられ、これにより表面形状の変化を測定するものである。カンチレバー先端面の動きが測定対象になるのである。この操作は観察が必要な当該表面部分全域で実行され同部分の凹凸状況が解明される。最も一般的な同先端面の動きの測定法は反射レーザー光から同先端面の動きを知るというものである。
【0191】
上記とは異なり本発明の実施にあってはAMFが一本鎖や二本鎖をその軸方向に連なる結合を切断するのに要する力を測定したり、DNA分子が相互に絡みあうことに原因した動きによって引き起こされるAFM先端部の位置移動を検出・測定したりするのに使用された。
【0192】
AFMの先端部と基盤部分との双方にその両端を接合された分子が発生する力に抵抗する力の実測:通常のAMFにおける通常の動作と同様に、その先端部を最初は、先端部と祈願部分とに接合されているものの弛緩した状態にある分子を圧縮する方向に動かす。先端部に正の抵抗力が検知されるとその位置、すなわち基板表面から同先端部を離す方向に持ち上げる。すると今度はその分子が引っ張られ緊張した状態になり、同先端部には負の方向の力が検知されるようになり、やがて同分子がそれ以上に長くなれない時点で破断され、この力も検知されなくなる。
【0193】
本発明の実施にあっては、原子間力顕微鏡がB.サブチリス菌由来の121塩基対長の挿入DNA断片や同121塩基対長の変異DNA断片の特異的物理特性(すなわち、位置移動や電気伝導度)を正確に測定するために利用される。AFMはその供給者の推奨通りの化学技術や取り扱い処方に従って操作された。AFMの先端部分や基盤部分は既刊の文献に示された方法によって金ならびにストレプタビジンで塗工し、両端を上述した方法でチオールとビオチンでそれぞれ修飾された鋳型DNA分子を、それら塗工部分に接合した(AM Zimmermann and EC Cox.1994、DNA Stretching on functionalized goldsurfaces.Nucleic Acids Research、Vol 22、Issue 3 492−497)。
【0194】
接合に先立って、末端修飾されたDNAのチオール基の保護を取り除くため同分子を0.04MのDTT、0.17Mのリン酸基からなる緩衝液(pH8.0)に混合し、一晩保放置した。同分子を10mMのHEPESと5mMのEDTAからなる緩衝液(pH6.6)の中で接合反応させるのに先立って、その直前に酢酸エチルによる抽出操作を繰り返し同DNAに混在するDTTを洗浄・除去した。この様にして準備したDNAの液にAFMの金の塗工を施した先端部分を室温で2時間浸漬し、その後、それを窒素気流によって乾燥した。DNAが接合されたAFMの先端部分をAFMに搭載し、反応容器内にSPE(0.1Mのリン酸ナトリウム(pH6.6)、1mMのEDTA、および1mMの食塩でなる液)を満たしビオチン−ストレプタビジン間の共有結合反応を進めた。
【0195】
AFMの当該先端部の位置移動および当該物質の電気特性の測定は相補的配列、あるいは変異部分を有する配列のssDNA分子とのハイブリダイゼーション(会合)工程の開始前、その進行中、ならびにその完了後のすべての期間に渡って実施した。ハイブリダイゼーション(会合)の進行に影響を与える試薬類(pH緩衝剤や塩類化合物)、高次構造の破壊、加水分解、およびヌクレオチドの酸化に関する調査も実施した。
【0196】
先端部の初期据付位置から移動に関する実験: 接合された一本鎖DNA分子の長さはそれがその相補的配列の分子鎖とハイブリダイゼーションすることで短縮するものであるが、ここで採用された上述の通りの実験条件にあっては、この接合された一本鎖DNA分子の長さの短縮現象がAFMの先端部分の基盤部方向への移動を引き起こし、この移動が当該AFMで観測されることになる。
【0197】
[結果]
以上述べてきた作業は83塩基対長ないし2854塩基対長におよぶ約80種類の分子を使用して実施された分子とAFMに関する検討作業である。DNAはプラスミド・ベクター、ラムダ・ビールス、E.コーライ菌のゲノム、およびB.サブチリス菌のゲノムそれぞれのDNAに由来するものであった。上述した121塩基対長の分子鎖断片を検討作業に最も頻繁に利用したが、検討作業で使用したすべての分子に関し同様の結果が得られた。本検討で最初に行った作業は、上述の通りの方法でAFMの先端部分と基盤部分との双方にその両端をそれぞれ接合された121塩基対の一本鎖断片の長さ方向の収縮の測定であった。この測定は、121塩基対長の一本鎖断片あるいは121塩基対の挿入分子鎖を保有する変性プラスミドの低濃度液(1〜2分子/μl)の4−5μlをピペットにて供給し、供給後数秒以内に発生するAFMの先端部分の位置移動を観測するというものである。図4には121塩基対長の分子鎖断片にどのようにして約10nmの長さ方向の収縮が発生するかが示されている。
【0198】
DNA分子鎖の詳細な長さは塩基の組成、配列、ならびにそれがおかれた環境条件に依存して定まる。しかし、dsDNA鎖に係る平均的な値は、その太さの直径が20オングストローム(Å)、互いに隣り合うヌクレオチド間の距離が3.4Åそして当該ラセン形状に沿って一回転する間の距離がおよそ34Åである。dsDNAのラセンには2本の溝が形成されており、その深さは細い方で12オングストローム以下程度、太い方で22オングストローム以下程度である。一方ssDNA鎖にあっては、隣り合うヌクレオチド間の距離が約5.84オングストロームである。したがって、121塩基長のssDNA分子鎖は約701オングストロームとなり、dsDNAにおけるこれと同数のヌクレオチド単位に対応する長さが411オングストロームとなる。これはDNAが40%の収縮率で収縮することを期待させる。AFMに接合された121塩基対長のssDNA分子鎖が自由に捻じり回転できると仮定して、すなわちこの収縮率の値が適用できると仮定すると、前記先端部分の位置移動の大きさは29nmにもなる。
【0199】
元となったヌクレオチド配列から2%、19%、および35%の変異部分を有するDNA分子鎖それぞれ(変異分子鎖)を別々に導入する実験から、これら変異分子鎖によって引き起こされる先端部分の位置移動に関し、それらに伴う変異の割合応じて変異分子鎖を区別するに十分な大きさの差が生じることが分かった。これらの検討作業において観測された先端部分の位置移動が二本鎖のらせん状DNAの生成、すなわちそれ以前の一本鎖DNAのそれよりも短い分子鎖の生成に起因するものであると想定すると、ハイブリダイズ(会合)する相手分子が相補的マッチングの程度の低い分子鎖の場合には当該先端部分の位置移動の距離が小さくなるはずである。
【0200】
図4は121塩基対長の架橋用鋳型DNA分子鎖が、既に記載した処方に従って弛みを生じない最低レベルの張力でAFMの先端部分と基盤部分間に接合され、最初の約15秒間はその状態に維持されていることを示す。この先端部分は当初、その定常状態位置であるおよそ71nmと定義される位置にあり、当該鋳型分子鎖と相補関係にあるDNA分子鎖断片が導入されると、当初の位置から約10nmだけ移動すること、更には、それぞれこれとは別に行った試験を実施し基準となる分子鎖から変異した部分の割合が2%、19%、35%である変異分子鎖を導入すると、それぞれに違がった距離の位置移動が生じることをも示している。図4に示したグラフの線はそこに示された5種類の条件下のいずれにおける測定値も同じ条件下にある限り0.3%以内の違いしか生じていないことを示している。
【0201】
観察対象の分子に通電できるように、AFMのカンチレバー表面は金で塗工される。このカンチレバーとそれに対峙する基盤間に電圧を印加しこのとき当該121塩基対長のものであって架橋を形成している鋳型ssDNA分子に流れる電流の大きさを測定した。印加した電圧が約1ボルトであるとき、この鋳型ssDNA分子を通過する電流はおよそ0.3nAであった。完全に相補的である目標ssDNA分子を導入したときには、この電流が、同じ印加電圧において、約2.1nAにまで大きくなった。
【0202】
これらの結果はすてに記載したssDNA/dsDNAの電気伝導度に関わる特性とよく符合するものである。DNA分子の導電体的性質については更に個々の分子の組成と配列に影響されることもこの検討において再確認できた。より具体的には、アデニン(A)ヌクレオチドとチミン(T)ヌクレオチドが絶縁体、グアニン(G)ヌクレオチドとシトシン(C)ヌクレオチドがそれよりも高い伝導性をもつ導体である。
【0203】
組み替えを行って形成した変異分子鎖であり、当該鋳型分子の相補性配列に比べて変異している部分の割合が既知である目標ssDNA分子鎖を導入したときも同様な反応が生じる。カンチレバーのたわみの観察のときに使用したのとおなじセットの変異分子鎖分子を導入して、それらに対するレスポンスを電気伝導度についても観察した。それによって判明したことで重要な点はハイブリダイゼンション(会合)が生起したときの伝導度上昇幅と鋳型分子と変異分子鎖間に存在するミスマッチング率に顕著な比例関係があることであり、これがその概略を既に記した特異性に関わる現象の実証証拠となる。またここで言う実証作業の結果は当該変異が遺伝子的配列のどこか特定位置に偏在しているか、目標分子の配列中に広く広がって分布する多数の部分に点在しているかの違いには依存しなかった。
【0204】
dsDNAに流れる電流の測定後、当該AFMのカンチレバーと基板間に印加する電圧を手動で高くするとそれに対応して同dsDNAに流れる電流も上昇した。更に同電圧を上げることでこのdsDNAに高次構造の破壊が発生した。このような実験で得られたデータをプロットしたものが図6に示したグラフである。高次構造の破壊が発生した時点以降、同電流値はssDNAに対応する電流レベルまで低下した。
【0205】
図6をみると高次構造の破壊を起こすのに必要な電流値と鋳型分子と目標分子それぞれのssDNA間のミスマッチの度合いに高い比例関係があることが分かる。前述した検討作業の場合と同様に、当該変異が遺伝子的配列のどこか特定位置に偏在しているか、目標分子の配列中に広く広がって分布する多数の部分に点在しているかの違いには依存しなかった。
【0206】
このAFMを用いて実施した別の実験では、高次構造の破壊が発生するまで一旦電圧を上げ、その後、検出・同定を実行するときの電圧レベルまで低下させ、新たなハイブリダイゼーション(会合)の発生を待った。図7からAFMは何回も繰り返し成功裏に検出・同定に使えると共に、ハイブリダイゼーションの進行を電流の測定で検出すること、ならびに当該バイオセンサーのリセット手段として、流れる電流を大きくし高次構造を破壊することが有効であること示している。図7にあっては、ssDNAであるときの測定値にしろ、dsDNAを形成した後の測定値にしろ、更にはこれら測定値が繰り返し同じセンサーユニットで測定されたものであっても、これら電流値が互いに一貫性を持ったものとなっていることに注目しなければならない。図7には、それぞれ別個に実施した4回の実験の結果が示されているのみであるが、実際には幾種類もの実験が実施されており、その間には数百回の検出・同定がなされ、得られる信号に問題にすべき劣化が生じたり、当該検出・同定作業の実行前後で測定される電流値に問題となる不一致が発生したりはしなかった。
【0207】
これまでの段落において説明してきた現象にかかわる調査・検証はAFMを使用することで実施できる。ここで行う検出・同定はそれ専用に設計された生物学的検出デバイスに備わった特定の機能を選択的に利用するものである。例えば、AFMのカンチレバー先端部分は従来から知られたデバイス作製の処方や技術を駆使して形成されるものであるが、検出・同定用のデバイスはそのようにして形成されたAFMを使用するに留まらず、検出・同定に関わる作用点としてssDNAを採用している。
【0208】
[架橋用の121塩基対長鋳型DNA分子を生成するための検討手順]:
ステップ1‐ リンカー(小文字で示す)を持つ様々な分子断片(A+、A−、B+、B−)の生成
(A+) =5'-CTGGGCTACACACGTGCTACAATGGACAGAACAAAGGGCAGCGAAACCGCGAGGTTAAGCCAATCC
(B+) =5'-CACAAATCTGTTCTCAGTTCGGATCGCAGTCTGCAACTCGACTGCGTGAAGCTGGgcatg
(A-) =3'-tgcaGACCCGATGTGTGCACGATGTTACCTGTCTTGTTTCCCGTCGCTTTGGCGCT
(B-) =3'-CCAATTCGGTTAGGGTGTTTAGACAAGAGTCAAGCCTAGCGTCAGACGTTGAGCTGACGCACTTCGACC

ステップ2− 分子断片のハイブリダイゼーション(会合)(A+をA−と、そしてB+をB−と)

(A+/A−)‐ 95℃に加熱後室温まで徐々に冷却
CTGGGCTACACACGTGCTACAATGGACAGAACAAAGGGCAGCGAAACCGCGAGGTTAAGCCAATCC
tgcaGACCCGATGTGTGCACGATGTTACCTGTCTTGTTTCCCGTCGCTTTGGCGCT


(B+/B−)‐ 95℃に加熱後室温まで徐々に冷却
CACAAATCTGTTCTCAGTTCGGATCGCAGTCTGCAACTCGACTGCGTGAAGCTGGgcatg
CCAATTCGGTTAGGGTGTTTAGACAAGAGTCAAGCCTAGCGTCAGACGTTGAGCTGACGCACTTCGACC

ステップ3‐ 分子断片をライゲーションする(A+/A−をB+/B−に)
(A+/A−)‐ T4・DNAリガーゼを加えた1倍濃度ライゲーション緩衝液を室温で使用
CTGGGCTACA----ACCGCGAGGTTAAGCCAATCCCACAAATCTGTT---GTGAAGCTGGgcatg
tgcaGACCCGATGT----TGGCGCTCCAATTCGGTTAGGGTGTTTAGACAA---CACTTCGACC
生成される121塩基対分子はpGem−TのAatII/SphIのクローンニング・サイトにらいゲートできるものとなる。

溶液類:
溶液I: 50mMのグルコース溶液(0.9%w/v)、25mMのTris pH8、10mMのEDTA pH7.5
溶液II: 0.2NのNaOH、1%のSDS
溶液III: 2.7Mの酢酸カリウムに氷酢酸をいれてpH4.8に調整

SOC培地=(100ml当たり、Bacto(R)‐tryptone(BD社)を2グラム、イースト抽出液(BD社)を0.5グラム、1Mの濃度の食塩水を1ml、1M濃度の塩化カリ溶液を0.25ml、2モル濃度のMg2+ストック液を1ml、2モル濃度のグルコース液を1ml含有する)

Mg2+ストック液=MgClを1モル濃度で、かつMgSOを1モル濃度で含有する溶液

LB/アンピシリン/IPTG/X−Galプレート=培地1リットル当たり15グラムの寒天(BD社)、10グラムのBacto(R)‐tryptone(BD社)、5グラムのイースト抽出物(BD社)、および5グラムの食塩を含む。更にそのpHhaNaOHで調整した後、オートクレーブし、50℃まで冷却。その後アンピシリンを1mlあたり100マイクログラム、IPTGを0.5ミリモル濃度になる量、そしてX−Galを1ミリリットル当たり80マイクログラムとなる量を追加する。85mmのプレートの各々にこの培地30〜35ml注入し、寒天が固まるまで22℃で維持しその後4℃にて保存する。

[省略表現]:
ml:ミリリットル、 μl:マイクロリットル、 g:グラム、 mg:ミリグラム、ng:ナノグラム、 M:モル濃度またはモル/リットル、mM:ミリモル濃度。
(BD=Becton、Dickinson and Company, Franklin Lakes,NJ)
(EM=EMD Chemical Inc.、 Gibbstown、 NJ)
(VWR=VWR International, West Chester, PA)
(Calbiochem/Novabiochm Corp. San Diego, CA)
(Promega=Promega Corporation Madison、 WI)
(Pierce=Pierce Botechnology Inc.、Rockford,IL)
化学的ないしは生物学的検出・同定システムはいずれにしろ(A)試料の採取、(B)試料の調製と輸送、(C)試料の分析技術、および(D)信号処理と結果の出力(図1参照)の機能を持つことが必要である。一例にあっては、それが有するマイクロチップ(複数のマイクロチップのこともある)が微小電気機械システム(MEMSと略称される)である数千個ものDNA感応型カンチレバーを備えており、またこれらカンチレバーはそのために必要な位置に配置されていることもあって、当該システムによって複数種類(それがマルチプレックス型であれば)の病原体の検出・同定・濃度測定が可能となる。
【0209】
一つのマイクロチップのしかるべき液溜め穴の中にカンチレバー機構を採用する回路を1〜数百セット形成される。これらの回路の各々には望ましくは生物学的分子の架橋を有するなんらかの動作型要素部品が備えられていてその分子とそれ以外の分子との間に何らかの相互作用が生じるとその相互作用に伴う分子の物理的動きがカンチレバーを動かすことになる。この様な動作型要素部品の形態としては、図示したAFMにあるような単独のカンチレバーを各々の基盤部位の上方に突き出るように配置したり、単独の回転動作型ディスクを用いたり、回転動作型であってもディスクとは異なる形状の動作体を用いたり、図10に示すように向かい会う2本のカンチレバーの腕が相対的な意味で動作するようにしたりなど、多くの配置構成が考えられる。多数の架橋されたカンチレバー、あるいはそれぞれがカンチレバーを収容する多数の液溜め穴をマトリックス状に配置し、一列分の互いに等価で冗長な回路部分によって一つ特定の生物学的物質成分の濃度を測定するようにしても良い。マトリックスのそれぞれの列を構成するカンチレバーを、あるいはそれぞれの列を構成する液溜め穴(そのそれぞれがカンチレバーを収容する)を一単位として列ごとにそれが対象とする生物学的物質成分を変えても良い。マイクロチップの各々が上記した目的のカンチレバーに加えて相当数の対照用カンチレバーを備え、それらカンチレバーが化学的要因、機械的要因、更にこれら以外の環境要因に原因する背景信号のレベル、すなわち環境ノイズのレベルを反映するように構成しても良い。生物学的な検出・同定用デバイスは一定の特性について共通性を有する一定の生物学的物質成分グループのみを検出・同定対象とするチップを搭載するものであっても良い。例えば、一つのデバイスが国や地域の安全に関わる物質成分のみとの反応を念頭に選択した分子で当該カンチレバーの架橋を形成した構成のチップを持つものでも良い。あるいは一つのデバイスが食品の安全性に関わる物質成分との反応のみを念頭に構成した架橋済みカンチレバーを備えているものであっても良く、更には医療分野あるいは農業分野の産業に重要性を持つ物質成分との反応を念頭に構成した架橋済みカンチレバーを備えているものであっても良い。
【0210】
ここで採用されるような生物学的分子はそれが置かれる環境の変化に対応した変化を起こすもので、この現象を原因として動作型の要素部品が変形しその変形が感知され測定される。機械的な動きをMEMSで構成されるデバイスが測定する機序については多くの既刊文献に解説がある。そのように既刊の文献に報告されている変形測定の方法の一つはレーザー光線を変形がおこる要素部品の特定部分表面に照射し、そこで同光線を反射させようとするものである。当該分子が反応動作を起こすとこの要素部品が動き、同要素部品からの反射レーザー光線は受光部品の以前とは異なった部位に照射されることになる。反射光線におけるこのときの変化は同光線を受光した受光部品の位置が以前とは異なることに基づき認知・測定され、その測定データから前記分子に起こった物理的変化の量が算出される。
【0211】
ここでの対象に関わるシステムの感度は、位置移動に関して言えば10オングストローム前後のものであり、力の大きさで言えば5ピコニュートン程度のものである。しかしながら当該デバイスの大きさをもっと小さくできればもっと細かい変化量をも対象にできると考えられる。現実に存在する最小のトランジスタ−プローブとしては3ミクロンx2ミクロンx140nmのものがある。スタンフォード大学のトマス・ケニー(Thomas Kenny)氏は原子間力顕微鏡に細身のカンチレバーを形成しアトニュートン(10−18ニュートン)のレベルの力の測定が可能なことを報告している。
【0212】
MEMSの動作型要素部品に発生した変形を測定する方法は外にもいくつか存在する。その一つは動作型要素部品そのものにピエゾ・エレクトリックな(圧電体)物質の層を付与するものである。もう一つ別の方法はMEMSの動作型要素部品の先端に一定量の磁性体物質を保持するもので、前記した生物学的組成成分が反応動作する時その動きによって動作型要素部品が動かされ、その時生じる磁場の変化が測定される。更に異なる方法にあっては生物学的組成成分で架橋された空隙が同成分によって動かされた時、同空隙部分の両側間の電気容量に生じる変化が測定される。
【0213】
MEMSであるデバイスに備わった動作性要素部品は鋳型分子を備えた電気回路で構成されるものである。したがって、同動作性要素部品にはその両端間に電圧を印加することが可能で、印加された電圧に応じた電流が当該ssDNAに流れる。同ssDNAがハイプリダイゼイション(会合)を起こすと当該部分の導電性は大きくなる。導電性が上昇したことはそこに流れる電流の増加を検出することで認識され、検出で得た信号は増幅され、デジタル信号へ変換されて更なるデータ処理を受けることになる。
【0214】
通常の目的で操作される場合、当該検出用部分が検出体制に入った時点(検出事態が未発生の期間)、では検出体制時用レベルの電圧が当該動作型要素部品に印加される。この電圧レベルは測定が可能な程度に大きい電流を生じるものの高次構造の破壊するに必要なレベルよりも大幅に低いものである。このレベルの大きさの電流は目標ssDNAを分子をその検出用部分に引寄せる効果を持つという付加的効果を発揮する。定かではないがこの効果の原因は電気泳動の現象と関係があると考えられる。
【0215】
この段階でこのようにssDNAに電流が流されることはもう一つの観点からも有利なものである。すなわち、ssDNA(ハイブリダイゼーションを起こす前の状態にある)はそれ自身がごく低いレベルの電流を通せるものであり、この電流の有無が図らずも当該デバイスの正常性試験の役目を果たすことになる。もしこの鋳型ssDNA分子が損傷されていたり、破壊されていたり、あるいは当該動作性要素部品から分離していたりすれば、当該回路はもはや健全でないのである。このようにして検出用部分各々についてそれが正常で検出体制が整った状態にあることを個別に確認できることになる。もしいずれか特定の検出用部分が機能しないと判断されれば、ソフトウェア的に、それ以降はその部分から送出される信号を病原体の存在やその濃度算出のための計算から排除できることになる。
【0216】
当該回路が鋳型ssDNA分子を含んで構成・完成されることから当該回路にあっては前述した第三の現象の測定も可能となる。すなわち、高次構造の破壊の工程を完遂できることである。当該回路は印加する電圧をdsDNAの高次構造を破壊するに必要な電流が流れるまでに大きくができる。この機能によって、検出用部分はそれ自身をリセットでき、すなわち、一度検出事象を経験した後においてその時当該デバイスの鋳型部分に絡まった病原体を振り放つことができる。振り放たれた目標ssDNA分子は当該デバイス内を移動・通過する混合体物質と共にその近辺から除去される。その後、電圧は検出体制にある時の所定電圧まで下げられ、当該検出用部分は新たな検出事象の発生を待つことになる。
【0217】
これら要素部品の大きさは非常に小さく、一ペンス硬貨の大きさのMEMSチップ内に必要とあらば数千もの検出用部分を形成できる位の大きさである。したがって、一つのチップ内に特定の病原体の病毒性の根源となる遺伝子中の複数の領域を配備することが可能であり、更には一つのチップ内に複数種の病原体の病毒性の根源となる遺伝子中の複数の領域を配備することも可能である。
【0218】
いくつかの例にあっては、本発明の主体である検出用部分が検出器に接続されている。一例にあっては、この検出器には検出器回路と呼ばれる電気回路が具備されている。一例にあっては、この検出器は非電気的手段によって物理的な位置移動ないしは共鳴現象の状況を把握する。検出器なる表現は、それが限定的修飾語を伴わない限り電気的な検出器と非電気的な検出器の双方を意味する。
【0219】
以上記述してきた内容のすべては実例を示すことで本発明を説明しようとするものであって本発明を限定しようとするものでない旨、十分理解されねばならない。例えば、上述した種々の実施例あるいはそれに関わる様々な形態はそのまま実施する外、適宜組み合わせて実施することも可能である。また上記した内容に基づくことで、本文書に記載されたものとは異なる様々な実施例が当該分野の技術者には自明なものとなる。したがって、本発明の範囲は別掲する請求項における記載により示される範囲に同請求項により示される範囲と同等であると判断される範囲のすべてを加えてなるものとする。別掲の同請求項にあっては「含んだ(including)」および「そこにおいて(in which)」の二つの用語はそれぞれ「含んだ(comprising)」および「そこにおいて(wherein)」と等価な意味で用いられる平易な英語表現である。また、これら請求項において用いられる限りにおいて「含んだ(including)」および「含んだ(comprising)」は非限定的単語であって、これらの内のいずれであっても、それに関わって列記される事項のみならず同列記事項以外の事項をも含んでなるシステム、デバイス、作製品、または工程も当該請求項が規定する範囲に含まれるものとする。更に加えて、これら請求項において用いた「第一の(first)」、「第二の(second)」、「第三の(third)」などの用語は単に標識として用いたものであって、同用語の修飾相手に数字的意味合いを付与する必要があって用いたものではない。
【図面の簡単な説明】
【0220】
【図1】目標分子を検出する手順のフロー・チャートである。
【図2】カンチレバー式検出用部品を示す図である。
【図3】カンチレバー構造の一部分を示す図である。
【図4】位置移動の状態を時刻の関数として示すグラフである。
【図5A】カンチレバー式検出システムを示す図である。
【図5B】カンチレバー式検出システムを示す図である。
【図6】電流を電圧の関数として示すグラフである。
【図7A】各種パラメータに関する測定値の時間変化を示す図である。
【図7B】各種パラメータに関する測定値の時間変化を示す図である。
【図8】共鳴周波数のシフトを示す図である。
【図9】鋳型分子を生成する手順のフロー・チャートである。
【図10】目標分子を検出する手順のフロー・チャートである。
【図11】目標分子を検出する手順のフロー・チャートである。
【図12】一列に並べて配置されたカンチレバーの模式図である。
【図13】携帯型の検出用具の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の表面に設けられた第一の接合点と第二の表面に設けられた第二の接合点とを含む少なくとも二箇所の接合点の間に繋ぎつけられた鋳型分子と、
前記第一の接合点に接続された検出器とを含んで構成されるデバイスであって、
前記第一の表面は前記第二の表面から独立したものであること、前記鋳型分子は目標分子を捕捉するための部位を少なくとも一箇所に有するものであること、前記第一の接合点が第一物理パラメータを有し、前記検出器が同第一物理パラメータの変化に基づき出力信号を生成するよう構成されていること、ならびに、同第一物理パラメータの変化が前記目標分子と前記鋳型分子との絡みあいに対応するものであることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記鋳型分子が核酸であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記鋳型分子がssDNAまたはssRNAであることを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記目標分子が核酸であり、同核酸の塩基配列が前記鋳型分子の塩基配列に対して、同目標分子が同鋳型分子とハイブリダイゼーションできるに十分な程度に相補的であることを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記鋳型分子が核酸であり、同核酸分子は、同核酸分子の3’末端位置で前記第一の接合点に接合され、5’末端位置で前記第二の接合点に接合されていることを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【請求項6】
前記鋳型分子はポリペプチドを有することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記ポリペプチドは、同ポリペプチド分子のカルボキシル基を有する末端位置で前記第一の接合点に接合され、同ポリペプチドのアミノ基を有する末端位置で前記第二の接合点に接合されていることを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記ポリペプチドが、抗体である目標分子を捕捉相手とする捕捉用領域を有することを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
前記ポリペプチドが抗体に由来する捕捉用部位を有し、同抗体に関わる抗原部位を含む目標分子を捕捉することを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ポリペプチドが目標分子を受容する受容部位を有することを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項11】
前記目標分子が前記受容部位を有するポリペプチドの拮抗物質あるいは作動物質であることを特徴とする請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記目標分子が前記鋳型分子の少なくとも一部分を受容する受容部位を有するポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記目標分子が金属イオンであるか、あるいは金属イオンを含んでいることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記鋳型分子がポリサッカライドであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記鋳型分子が核酸分子断片の合成類似物であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
前記鋳型分子がポリペプチドの合成類似物であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
前記鋳型分子がポリサッカライドの合成類似物であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項18】
前記第一物理パラメータは、
或る対照部位を基準とする前記第一の接合点の共鳴振動の周波数、
前記対照部位を基準とする前記第一の接合点の共鳴振動の振幅、
前記対照部位と前記第一の接合点との間の距離、および
前記第一の接合点と前記対照部位との間の配列関係、
の内の少なくとも一つを含んでいることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項19】
前記対照部位は前記第二の接合点を含むことを特徴とする請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記第一の表面は中空に突き出すように支えられた構造体を含み、前記出力信号が同構造体の位置移動量の関数であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
前記中空に突き出すように支えられた構造体がカンチレバーを含むことを特徴とする請求項19に記載のデバイス。
【請求項22】
前記第一の表面が圧電素子を含み、前記出力信号が同圧電素子に加わる力の関数であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項23】
前記第一の表面が可動面を含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項24】
前記検出器が少なくとも光学的センサー、磁場センサー、電場センサー、電気容量センサー、電気抵抗センサー、ならびに応力センサーの内の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項25】
前記検出器が比較器とブリッジ回路の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項26】
前記検出器が前記第一の表面に通じた共鳴振動発生器を含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項27】
前記第一接合点が第二物理パラメータを有し、前記検出器が同第二物理パラメータの変化に基づき出力信号を生成するように構成されること、ならびに第二物理パラメータの変化が前記目標分子と前記鋳型分子との絡みあいに対応するものであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項28】
前記検出器が前記第二の接合点と接続されており、前記第一物理パラメータを有する前記第一の接合点が、第一電気パラメータを有する前記第一の接合点および前記第二の接合点を含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項29】
前記検出器が前記第一の接合点ならびに前記第二の接合点に接続された電圧供給源を含み、前記第一電気パラメータが電流値を含むことを特徴とする請求項28に記載のデバイス。
【請求項30】
前記電圧供給源が徐々に上昇する電圧を供給するように構成されていることを特徴とする請求項29に記載のデバイス。
【請求項31】
前記検出器が前記第一の接合点ならびに前記第二の接合点に接続された電流源を含み、前記第一電気パラメータが電圧値であることを特徴とする請求項28に記載のデバイス。
【請求項32】
前記電流源が徐々に上昇する電流を供給するように構成されていることを特徴とする請求項31に記載のデバイス。
共鳴周波数に対して生ずる
【請求項33】
前記検出器が電気信号を配信するべく構成された駆動回路を含み、前記第一物理パラメータに生じる変化が前記目標分子と前記鋳型分子の乖離に対応することを特徴とする請求項28に記載のデバイス。
【請求項34】
前記第一および第二の表面の少なくとも一方がガラス、石英、珪素、およびポリマーの内の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項35】
前記鋳型分子はチオール、金、ビオチン、およびストレプタビジンの内の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項36】
第一の表面に設けられた第一の接合点と第二の表面に設けられた第二の接合点を含む少なくとも二箇所の接合点の間に繋ぎつけられた鋳型分子に目標分子を暴露することと、
対照点と対比する形で前記第一の接合点を利用して測定した第一物理パラメータの変化の関数として出力信号を生成することとを備えた方法であって、
前記鋳型分子は前記目標分子を捕捉するための部位を少なくとも一箇所に有すること、ならびに
前記第一物理パラメータの同変化が前記目標分子と前記鋳型分子との絡み合いに対応するものであることを特徴とする方法。
【請求項37】
前記対照点に対する前記第一の接合点の共鳴振動の周波数を監視すること、
前記対照点に対する前記第一の接合点の共鳴振動の振幅を監視すること、
前記第一の接合点と前記対照点との間の距離を監視すること、および
前記第一の接合点と前記対照点との間の配列関係を監視することを更に含むことを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記対照点が前記第二の接合点を含むことを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記第一の表面を共鳴振動させるべく駆動することを更に含むこと特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記鋳型分子を利用し、同鋳型分子を暴露する前に電流を流すことを更に含むことを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記鋳型分子を利用し、徐々に強くなる電流を流すこと、
前記鋳型分子と前記目標分子の乖離に対応した電圧ピークを監視すること、
前記電圧ピークでの前記電流の関数として出力を生成することを更に含むことを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項42】
前記鋳型分子に、徐々に大きくなる電圧を印加すること、
前記鋳型分子と前記目標分子の乖離に対応した電流ピークを監視すること、
前記電流ピークでの前記電圧の関数として出力を生成することを更に含むことを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記鋳型分子に電気信号を与えて前記目標分子の結合を解くことを更に含むことを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項44】
試料を受け入れるための目標分子導入口、
前記目標分子導入口と連通した位置に配置された鋳型分子を保有しているセンサーであって、該鋳型分子は第一の表面上の第一の接合点と第二の表面上の第二の接合点との間に設置され、かつ目標分子を捕捉するための部位を少なくとも一箇所に有するものであり、前記第一の表面は前記第二の表面から独立したものであるセンサー、
前記第一の接合点に接続されており、前記鋳型分子と前記目標分子間の絡み合いに対応する、前記第一の接合点の測定対象パラメータの変化に基づいて、出力信号を生成するように構成された検出器、および
前記出力信号に基づいた結果を提供する出力回路
を含んで構成されるシステム。
【請求項45】
それぞれがマルチプレクサを経由して前記検出器に接続されている複数のセンサーを更に含むことを特徴とする請求項44に記載のシステム。
【請求項46】
メモリにアクセスできるプロセッサが前記検出器に接続されており、前記メモリが前記測定対象パラメータの変化に基づいて目標分子の同定を実施するためのデータ保存を提供することを特徴とする請求項44に記載のシステム。
【請求項47】
前記出力回路はインターフェース、表示装置、および無線送受信機の内の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項44に記載のシステム。
【請求項48】
前記鋳型分子に接続された、前記鋳型分子の電気伝導度を測定するための試験回路を更に含むことを特徴とする請求項44に記載のシステム。
【請求項49】
前記鋳型分子に接続された、前記鋳型分子から目標分子の結合を解くためのリセット回路を更に含むことを特徴とする請求項44に記載のシステム。
【請求項50】
前記目標分子導入口、前記センサー、前記検出器、および前記出力回路の内の少なくとも一つを収容するためのハウジングを更に有することを特徴とする請求項44に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−501400(P2007−501400A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522797(P2006−522797)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/025708
【国際公開番号】WO2005/038459
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(506040010)ブリッジャー テクノロジーズ,インク. (1)
【氏名又は名称原語表記】BRIDGER TECHNOLOGIES,INC.
【Fターム(参考)】