説明

直動案内装置の仮軸

【課題】長尺のスライダに対しても適用可能な直動案内装置の仮軸を提供する。
【解決手段】直動案内装置のスライダを仮に保持し、他の仮軸と軸方向に連結する連結手段を前記軸方向の少なくとも一方の端部に有する仮軸30である。連結手段は、例えば、前記軸方向に対して直交する方向に延びる蟻溝41又は該蟻溝41に嵌合する形状をなす吸い付き桟42である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直動案内装置の仮軸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の直動案内装置としては、特許文献1に開示されている構成が挙げられる。具体的には、図5に示すように、軸方向に延びる転動体転動溝111を外面に有する案内レール110と、該案内レール110に前記軸方向に移動可能に嵌合されたスライダ120とを有する。スライダ120には転動体転動溝111に対向する転動体転動溝(図示せず)が前記軸方向に沿って形成されている。そして、これら対向する転動体転動溝の間に装填された転動体(図示せず)が転がりながら進むように構成されている。そして、この転動体がスライダ120の本体の一端まで行くと、エンドキャップ130の先端ですくい上げられ、このエンドキャップ130の中に設けられたリターンガイド(図示せず)を通ってスライダ120の本体の中に空けられた循環穴に導かれる。そして、転動体は循環穴を通ってスライダ120の本体の他端に出ると、今度は反対側のエンドキャップ130の中に設けられたリターンガイドを通って案内レール110とスライダ120の本体の相向かう転動体転動溝に戻され、転動体が無限循環を行うことができる。
このように構成された直動案内装置においては、工作機械やロボットなどに取り付けて使用する場合、案内レール110の転動体転動溝やその他の露出面にゴミや塵が堆積して転動体の転動が妨げられることから、エンドキャップ130に防塵用のサイドシール140が取り付けられるのが通例である。
【0003】
ここで、スライダ120を案内レール110に装着する際、スライダ120に設けられた転動体が転動体転動溝から落ちるのを防止するために、案内レール110を模して成型された樹脂製の仮軸150上にスライダ120が保持される。図6は、従来の直動案内装置の仮軸の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。図6(a),(b)に示すように、仮軸150は、製品としての案内レール110とほぼ同一の形状に形成されている。また、図6(c)に示すように、仮軸150の外形形状(軸方向に垂直をなす面で破断した断面形状)は、案内レール110の断面形状とほぼ同一の形状をなしている。
そして、案内レール110の軸方向(長手方向)に仮軸150を配置し、仮軸150上のスライダ120を案内レール110上に乗り移らせることにより、スライダ120を案内レール110に装着することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−62959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、直動案内装置においては、高運動精度、高剛性、及び高負荷容量を実現する製品が増加しており、それに伴い、スライダ全長の長いものが開発されてきている。
図7は、従来の直動案内装置の仮軸の構成を示す図であり、(a)は通常の長さ(従来の標準的な長さ)のスライダを跨設した状態の側面図、(b)は長尺(従来の2〜2.5倍長)のスライダを跨設した状態の側面図である。
【0006】
図7(a)に示すように、通常の長さのスライダ120に対しては、通常の仮軸150が収まるが、図7(b)に示すように、長尺スライダ121に対しては、通常の仮軸150が収まらない。このような場合、例えば、製品としての直動案内装置の案内レール110と同様に、金属製の案内レール110を切削加工して仕上げたものが用いられることが多い。
【0007】
このように、長尺スライダ121に対して、製品として金属製の案内レール110を用いることは、材料費及び加工費等、高コスト化を招くため、長尺スライダ121に対応可能な仮軸を開発する余地があった。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、長尺のスライダに対しても適用可能な直動案内装置の仮軸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明は、軸方向に延びた案内レールと該案内レールに対して前記軸方向に移動可能に設置されたスライダとを有する直動案内装置の前記スライダを仮に保持する直動案内装置の仮軸において、
当該仮軸と他の仮軸とを、前記軸方向と直交する方向に摺接して、前記軸方向に連結する連結手段を前記軸方向の少なくとも一方の端面に有することを特徴としている。
このように、連結手段による複数の仮軸の連結により、スライダの前記軸方向の長さに応じた金属製の製品としての案内レールや、仮軸を作製する必要がなく、コストアップを抑制して、長尺のスライダに対応した仮軸を提供することができる。
【0009】
また、前記連結手段が、前記軸方向と直交する方向に摺接して結合する形状をなすことにより、軸方向への嵌合力が大きくなるので、複数の仮軸の連結力が強固となり、仮軸同士の分離防止の効果を奏する。
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の直動案内装置の仮軸において、前記連結手段が、前記軸方向に対して直交する方向に延びる蟻溝、又は該蟻溝に嵌合する形状をなす吸い付き桟であることを特徴としている。
【0010】
このように、連結手段として、前記軸方向に延びる蟻溝、又は前記軸方向に延びる吸い付き桟を採用することにより、作製が簡単で、複数の仮軸の連結力がより強固となり、仮軸同士の分離防止の効果を奏する。特に、仮軸の一端面に蟻溝が形成され、前記蟻溝に嵌合可能な形状の吸い付き桟が仮軸の他端面に形成されることにより、仮軸の形状を一種類とすることができ、仮軸を作製するための型に要する費用を抑制できる。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、請求項2に記載の直動案内装置の仮軸において、前記吸い付き桟の突出部分の前記軸方向の寸法が、転動体の径よりも小さいことを特徴としている。
このような構成を採用することにより、連結された仮軸間に生じ得る隙間が転動体の径より小さくなり、長尺のスライダと連結された仮軸と間に配設された転動体が前記隙間に嵌る不具合を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長尺のスライダに対しても適用可能な直動案内装置の仮軸を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る直動案内装置の仮軸の一実施形態における構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の1b−1b線に沿う断面図、(c)は側面図、(d)は正面図である。
【図2】本発明に係る直動案内装置の仮軸の一実施形態における2つの仮軸の接続態様を示す正面図である。
【図3】本発明に係る直動案内装置の仮軸の一実施形態における2つの仮軸の接続態様を示す側面図である。
【図4】本発明に係る直動案内装置の仮軸の一実施形態における接続された2つの仮軸の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)はスライダを跨設した状態の側面図である。
【図5】従来の直動案内装置の構成を示す斜視図である。
【図6】従来の直動案内装置の仮軸の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【図7】従来の直動案内装置の仮軸の構成を示す図であり、(a)は通常の長さのスライダを跨設した状態の側面図、(b)は長尺のスライダを跨設した状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る直動案内装置の仮軸の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る直動案内装置の仮軸の一実施形態における構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の1b−1b線に沿う断面図、(c)は側面図、(d)は正面図である。また、図2は、本発明に係る直動案内装置の仮軸の一実施形態における2つの仮軸の接続態様を示す正面図である。また、図3は、本発明に係る直動案内装置の仮軸の一実施形態における2つの仮軸の接続態様を示す側面図である。また、図4は、本発明に係る直動案内装置の仮軸の一実施形態における接続された2つの仮軸の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)はスライダを跨設した状態の側面図である。
【0015】
図1(a),(c),(d)に示すように、本実施形態の直動案内装置の仮軸30は、製品としての案内レール110(図5参照)とほぼ同一の形状に形成されている。すなわち、図1(b)に示すように、仮軸30の軸方向に垂直をなす面で破断した断面形状は、図5に示す案内レール110の断面形状とほぼ同一の形状をなしている。
【0016】
また、仮軸30の軸方向の両端面30a,30bには、他の仮軸(図2参照)と軸方向に連結するための連結手段40,40が設けられている。
これら連結手段40は、前記軸方向と直交する方向に互いに摺接して結合する凸形状又は凹形状をなして端面30a,30bに形成される。連結手段40が前記軸方向と直交する方向に互いに摺接して結合する形状をなすことで、軸方向への嵌合力が大きくなるので、複数の仮軸の連結力が強固となり、仮軸同士の分離防止の効果を奏する。
【0017】
連結手段40の具体的な形状としては、前記軸方向に突出し、前記軸方向と直交する方向に屈曲する鉤状の凸部と、この形状に対して前記軸方向と直交する方向に摺接して結合する形状をなす凹部との組み合わせや、蟻溝と吸い付き桟との組み合わせが挙げられる。これらのうち、連結手段40の組み合わせとしては、加工の容易さから、図1に示す蟻溝41と吸い付き桟42との組み合わせが好ましい。
このように、連結手段40として、蟻溝41と吸い付き桟42との組み合わせを採用することにより、作製が簡単で、複数の仮軸30の連結力がより強固となり、仮軸30,30同士の分離防止の効果を奏する。
【0018】
また、仮軸30の軸方向の両端面30a,30bにそれぞれ連結手段40が形成される場合、各端面30a,30bに形成される連結手段40は異なることが好ましい。両端面30a,30bに同じ形状の連結手段40を設けた場合、例えば、両端面30a,30bに吸い付き桟42を形成した仮軸30には、少なくとも一方の端面30a(30b)に蟻溝41が形成された仮軸30しか前記軸方向に連結することができない。従って、両端面30a,310bに異なる形状の連結手段40を設けることによって、仮軸30の形状を一種類とすることができ、仮軸30を作製するための型に要する費用を抑制できる。ここで、「前記軸方向と直交する方向」は、仮軸30の上面30cから底面30dに延びる方向、及び仮軸30の側面同士30e,30eに延びる方向のいずれでもよい。
【0019】
また、吸い付き桟42の突出部分の前記軸方向の寸法dは、転動体(図示せず)の径よりも小さく設定される。このように寸法dを設定することにより、連結された仮軸30,30間に生じ得る隙間が転動体の径より小さくなり、長尺のスライダ21(図2参照)と連結された仮軸30,30と間に配設された転動体が前記隙間に嵌る不具合を防ぐことができる。
以上のように構成された仮軸は、図2及び図3に示すように、一方の仮軸31の一端面31bに形成された吸い付き桟42と、他方の仮軸32の一端面32aに形成された蟻溝41とを、前記軸方向と直交する方向(当該図では上面31c(32c)から下面31d(32d)に延びる方向)に摺接させて仮軸31と仮軸32とを結合させる。
【0020】
そして、図4(a),(b)に示すように、2つの仮軸31,32が連結された仮軸33は、図4(c)に示すように、長尺のスライダ21を跨設した状態においても、長尺のスライダ21の全長に亘ってスライダ21が収まる。従って、製品としての金属製の案内レール110(図5参照)を切削加工して仕上げたものを用いることなく、転動体と共に長尺のスライダ21を案内レール110上に乗り移らせて、長尺のスライダ21を案内レール110に適正に装着することができる。
【0021】
ここで、本実施形態の仮軸30は、上述したように2つの連結された仮軸31,32に限られず3つ以上の複数の仮軸30を繋ぐことが可能であり、必要に応じて、繋ぐ個数を変更できる。
以上説明したように、本発明によれば、特別な固定部材を一切必要としないで長尺のスライダに対しても適用可能な直動案内装置の仮軸を提供することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0022】
110 案内レール
120、121 スライダ
30 仮軸
40 連結手段
41 蟻溝
42 吸い付き桟

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びた案内レールと該案内レールに対して前記軸方向に移動可能に設置されたスライダとを有する直動案内装置のスライダを仮に保持する直動案内装置の仮軸において、
当該仮軸と他の仮軸とを、前記軸方向と直交する方向に摺接して、前記軸方向に連結する連結手段を前記軸方向の少なくとも一方の端面に有することを特徴とする直動案内装置の仮軸。
【請求項2】
前記連結手段が、前記軸方向に対して直交する方向に延びる蟻溝、又は該蟻溝に嵌合する形状をなす吸い付き桟であることを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置の仮軸。
【請求項3】
前記吸い付き桟の突出部分の前記軸方向の寸法が、転動体の径よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の直動案内装置の仮軸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−246977(P2012−246977A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118091(P2011−118091)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】