説明

直動案内装置

【課題】左右両側の転動体転動路の間に高低差が生じるような傾斜姿勢をとっている場合でも、左右の転動体転動路に供給される潤滑剤量に差が生じにくいことに加えて、潤滑剤量の調節機構が単純で不調が生じにくく、潤滑油及びグリースのいずれも潤滑剤として使用可能である直動案内装置を提供する。
【解決手段】エンドキャップ2Bの裏面の左右方向略中央位置には、表側の給油ニップル22から延びた給油口23が開口しており、給油口23から左右に分岐して延びる給油路21が左右の湾曲路16にそれぞれ通じている。給油路21の途中位置には弁40が設けられている。弁40は弾性材料で構成されており、給油路21のうち給油ニップル22と弁40との間の部分に導入された潤滑剤Lの圧力が所定値以上であると弾性変形して開状態となり、潤滑剤Lを下流側へ通過させるようになっているとともに、前記圧力が高いほど開口度合いが大きくなるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の直動案内装置は、軸方向に延びる転動体転動溝を外面に有する案内レールと、該案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有するとともに軸方向に相対移動可能に案内レールに取り付けられたスライダと、案内レールの転動体転動溝とスライダの転動体転動溝との間に形成される転動体転動路内に転動自在に配された複数の転動体と、を備えており、転動体転動路内の転動体の転動を介してスライダが案内レールに沿って軸方向に移動可能となっている。そして、一般的には、転動体転動路は案内レールを挟んで両側に左右対称に配されている。なお、本発明においては、直動案内装置を軸方向端部側から見た場合に、案内レールの中心軸線を対称中心とした両側を左右とする。
【0003】
転動体転動路内の転動体には、潤滑油,グリース等の潤滑剤が供給され潤滑が行われる。すなわち、スライダの左右方向略中央位置に設けられた給油口から左右に分岐する給油路が左右の転動体転動路に通じており、給油口に導入された潤滑剤が給油路を通って左右の転動体転動路に供給されるようになっている。このような給油路を有する直動案内装置は、水平に設置されている場合には、潤滑剤が左右の転動体転動路にほぼ均等に供給される。
【0004】
ところが、直動案内装置が、左右の転動体転動路の間に高低差が生じるような傾斜姿勢をとって設置されている場合には、潤滑剤は自重により下方へ向かって流動するので、低い側の転動体転動路には通常(水平時)よりも多量の潤滑剤が供給され、高い側の転動体転動路には通常よりも少量の潤滑剤しか供給されず、傾斜角度によっては潤滑剤が殆ど供給されないおそれもある。その結果、高い側の転動体転動路においては潤滑剤不足となり、焼付き等の問題が生じるおそれがあった。
【0005】
そこで、左右の転動体転動路の間に高低差が生じるような傾斜姿勢をとって設置されている場合でも、潤滑剤が左右の転動体転動路にほぼ均等に供給される直動案内装置が提案されている。
例えば、特許文献1には、重力により動作して転動体転動路への潤滑剤の供給量を自動的に調節する潤滑剤供給量調節部を備える直動案内装置が記載されている。すなわち、錘が重力を受けて移動することにより給油路の断面積が変化して、潤滑剤の供給量が調節されるようになっている。そして、傾斜角度の大きさに応じて錘の移動距離(給油路の断面積の大きさ)が変化するように、錘がバネで支持されている。
【0006】
また、特許文献2には、横向きに設置される直動案内装置、すなわち、左右の転動体転動路が上下に配置されるように設置される直動案内装置が記載されている。この直動案内装置においては、上側に配置される転動体転動路に潤滑油が供給されにくいので、上側に配置される転動体転動路に通じる給油路の内部に、潤滑油保持体であるフェルトを配して、フェルトに吸収されている潤滑油が転動体転動路に供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−156376号公報
【特許文献2】特開2007−100896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の直動案内装置では、バネが配置されている部分に潤滑剤が侵入すると、潤滑剤供給量調節部が正常に動作しなくなるおそれがあった。また、潤滑剤供給量調節部の機構が複雑であるため、より単純なものが求められていた。
また、潤滑油であればフェルトに吸収されるが、グリースはフェルトに吸収されにくいので、特許文献2に記載の直動案内装置の潤滑剤としてグリースを適用することは難しかった。
【0009】
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、複数の転動体転動路の間に高低差が生じるような傾斜姿勢をとっている場合でも、各転動体転動路に供給される潤滑剤量に差が生じにくいことに加えて、潤滑剤量の調節機構が単純で不調が生じにくく、潤滑油及びグリースのいずれも潤滑剤として使用可能である直動案内装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の態様は、次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る直動案内装置は、軸方向に延びる転動体軌道面を有する案内レールと、前記案内レールの転動体軌道面に対向する転動体軌道面を有するとともに軸方向に相対移動可能に前記案内レールに取り付けられたスライダと、前記案内レールの転動体軌道面及び前記スライダの転動体軌道面の間に形成される転動体転動路内に転動自在に配された複数の転動体と、前記スライダに設けられた潤滑剤導入口から導入される潤滑剤を前記転動体転動路に供給する給油路と、前記給油路における前記潤滑剤導入口よりも下流側の位置に設けられた弁と、を備え、前記弁は、前記給油路のうち前記潤滑剤導入口と前記弁との間の部分に導入された潤滑剤の圧力が所定値以上であると開状態となり、前記潤滑剤を下流側へ通過させるようになっているとともに、前記圧力が高いほど開口度合いが大きくなるようになっていることを特徴とする。
【0011】
このような本発明の一態様に係る直動案内装置においては、前記弁は弾性材料で構成されており、前記圧力によって前記弁が弾性変形して開状態となるとともに、前記圧力が高いほど前記弁の変形度合いが大きく、前記弁の開口度合いが大きくなるようになっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る直動案内装置は、導入された潤滑剤の圧力が所定値以上であると開状態となる弁を備えているので、複数の転動体転動路の間に高低差が生じるような傾斜姿勢をとっている場合でも、各転動体転動路に供給される潤滑剤量に差が生じにくいことに加えて、潤滑剤量の調節機構が単純で不調が生じにくく、潤滑油及びグリースのいずれも潤滑剤として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る直動案内装置の一実施形態の構造を示す斜視図である。
【図2】図1の直動案内装置を軸方向端部側から見た正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】リターンガイドを省略してエンドキャップの裏面を示した図である。
【図5】リターンガイドの正面図である。
【図6】リターンガイドを装着した状態のエンドキャップの斜視図である。
【図7】弁を装着した状態のエンドキャップの裏面を示した図である。
【図8】弁の斜視図である。
【図9】図7のB−B断面図である。
【図10】弁の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る直動案内装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る直動案内装置の一実施形態の構造を示す斜視図である。また、図2は、図1の直動案内装置を軸方向端部側から見た正面図(ただし、エンドキャップを省略して図示している)である。さらに、図3は、図2のA−A断面図であり、図1の直動案内装置の転動体循環路を示す部分断面図である。
【0015】
なお、これ以降の説明で参照する各図においては、同一又は相当する部分には、同一の符号を付してある。また、これ以降の説明において「断面」と記した場合は、特に断りがない限り、軸方向に直交する平面で切断した場合の断面を意味する。さらに、これ以降の説明における上,下,左,右等の方向を示す用語は、特に断りがない限り、説明の便宜上、図2におけるそれぞれの方向を意味するものである。
【0016】
軸方向に延びる断面形状略角形の案内レール1の上に、断面形状略コ字状のスライダ2が軸方向に移動可能に組み付けられている。この案内レール1は、軸方向両端面の他に、軸方向に延びる4つの外面を有するが、前記4つの外面のうち平行をなす左右両側面1a,1aと上面1bとが交差する稜線部には、軸方向に延びる断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝からなる転動体転動溝10,10(本発明の構成要件である転動体軌道面に相当する)が形成され、また、案内レール1の左右両側面1a,1aの上下方向中央部には、軸方向に延びる断面ほぼ半円形の凹溝からなる転動体転動溝10,10が形成されている。
【0017】
また、スライダ2は、案内レール1が有する前記4つの外面のうち上面1bに沿う平板部7と、平板部7の左右両側部からそれぞれ下方に延び側面1aに沿う2つの腕部6,6と、からなり、平板部7と腕部6,6とのなす角度は直角であるため、スライダ2の断面形状は略コ字状をなしている。そして、スライダ2は、両腕部6,6の間に案内レール1を挟むようにして、案内レール1に移動可能に取り付けられている。
【0018】
このようなスライダ2は、スライダ本体2Aと、その軸方向両端部に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ2B,2Bと、で構成されている。さらに、スライダ2の両端部(各エンドキャップ2Bの端面)には、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口部分のうち軸方向に向く開口部分を密封するサイドシール5,5が装着されており、スライダ2の下部には、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口部分のうち下方を向く開口部分を密封するアンダーシール8,8が装着されている。これらサイドシール5,5及びアンダーシール8,8により、外部から前記隙間への異物の侵入や、前記隙間から外部への潤滑剤の流出が防止されている。
【0019】
さらに、スライダ本体2Aの左右両腕部6,6の内側面の角部及び上下方向中央部には、案内レール1の転動体転動溝10,10,10,10に対向する断面ほぼ半円形の転動体転動溝11,11,11,11(本発明の構成要件である転動体軌道面に相当する)が形成されている。そして、案内レール1の転動体転動溝10,10,10,10とスライダ2の転動体転動溝11,11,11,11との間に、断面ほぼ円形の転動体転動路13,13,13,13がそれぞれ形成されていて、これらの転動体転動路13,13,13,13は軸方向に延びている。
【0020】
これらの転動体転動路13内には複数の転動体3が転動自在に装填されていて、これらの転動体3の転動を介してスライダ2が案内レール1に沿って軸方向に移動するようになっている。なお、転動体3の種類は球に限定されるものではなく、ころであってもよい。また、案内レール1及びスライダ2が備える転動体転動溝10,11の数は片側二列に限らず、例えば片側一列又は三列以上などであってもよい。さらに、転動体転動溝10,11の断面形状は、前述したように単一の円弧からなる円弧状でもよいが、曲率中心の異なる2つの円弧を組合せてなる略V字状(ゴシックアーク形状溝)でもよい。
さらにまた、スライダ2は、スライダ本体2Aの左右両腕部6,6の肉厚部分の上部及び下部に、転動体転動路13,13,13,13と平行をなして軸方向に貫通する断面形状円形の直線孔からなる直線状路14,14,14,14を備えている。
【0021】
一方、エンドキャップ2Bは、例えば樹脂材料の射出成形品からなり、断面形状が略コ字状に形成されている。また、エンドキャップ2Bの裏面(スライダ本体2Aとの当接面)の左右両側には、断面形状円形で半ドーナツ形状の湾曲路16が上下二段に形成されている。このエンドキャップ2Bをスライダ本体2Aに取り付けると、湾曲路16によって転動体転動路13と直線状路14とが連通される。
これら直線状路14と両端の湾曲路16,16とで、転動体3を転動体転動路13の終点から始点へ送る転動体戻し路17が構成され、転動体転動路13と転動体戻し路17とで、略環状の転動体循環路が構成される。そして、この略環状の転動体循環路は、案内レール1を挟んで左右両側に形成される。
【0022】
案内レール1に組みつけられたスライダ2が案内レール1に沿って軸方向に移動すると、転動体転動路13内に装填されている転動体3は、転動体転動路13内を転動しつつ案内レール1に対してスライダ2と同方向に移動する。そして、転動体3が転動体転動路13の終点に達すると、後述する転動体掬いあげ突部39によって転動体転動路13からすくい上げられ湾曲路16へ送られる。湾曲路16に入った転動体3はUターンして直線状路14に導入され、直線状路14を通って反対側の湾曲路16に至る。ここで再びUターンして転動体転動路13の始点に戻り、このような転動体循環路13内の循環を無限に繰り返す。
【0023】
ここで、エンドキャップ2B(特に裏面)について、さらに詳細に説明する。スライダ本体2Aとの当接面(裏面)には、図4に示すように、斜めに傾斜した半円状の上凹部31と下凹部32とが、左右両腕部6,6の上下に対応して形成されるとともに、半円状の両凹部31,32の中心部を横断して半円柱状の凹溝33が設けてある。
そして、その半円柱状の凹溝33には、例えば樹脂材料を射出成形して得た半円筒状のリターンガイド35(図5を参照)が嵌合される。なお、図6は、リターンガイド35が装着されたエンドキャップ2Bの斜視図である。このリターンガイド35の外径面には、転動体3の案内面となる断面円弧状の凹溝36,36が半円状に形成され、また、リターンガイド35の内径側の凹部37は潤滑剤通路であり、その凹部37から外径側の凹溝36に抜ける貫通孔37aが給油孔として形成されている。
【0024】
このようなリターンガイド35を半円柱状の凹溝33に組み込むことにより、エンドキャップ2Bの裏面の左右両側に、断面形状円形で半ドーナツ形状の湾曲路16が上下二段に形成される(図3を参照)。このエンドキャップ2Bをスライダ本体2Aに取り付けると、湾曲路16,16によって、転動体転動路13,13と直線状路14,14とが連通されることとなる。
【0025】
なお、エンドキャップ2Bにおいて、転動体3を案内する湾曲路16の内側端部には半円状に突出させた転動体掬いあげ突部39が形成され、その鋭角の先端が案内レール1の転動体転動溝10の溝底に近接するように配されている。そして、エンドキャップ2B内に備えられた転動体掬いあげ突部39によって、転動体3は転動体転動路13からすくい上げられ湾曲路16へ送られるようになっている。
【0026】
また、スライダ2の例えばエンドキャップ2Bには、潤滑剤導入口として給油ニップル22が設けられている。エンドキャップ2Bの表側の給油ニップル22から注入されたグリース,潤滑油等の潤滑剤が、エンドキャップ2Bの裏面に形成された溝からなる給油路21を通りリターンガイド35の内径側の凹部37から貫通孔37aを経て、左右両側の湾曲路16内へ送り込まれるようになっている。そして、潤滑剤は転動体3により運ばれるなどして湾曲路16から転動体転動路13に至り、転動体3の潤滑が行われるようになっている。
【0027】
このような直動案内装置には、給油路21の途中位置に、潤滑剤供給量を調節する弁40が備えられている。すなわち、図7に示すように、エンドキャップ2Bの裏面の左右方向略中央位置には、表側の給油ニップル22から延びた給油口23が開口しており、この給油口23から左右に分岐して延びる給油路21,21が左右の湾曲路16,16にそれぞれ通じている。そして、左右両給油路21,21のそれぞれの途中位置(給油ニップル22よりも下流側であり、給油口23と湾曲路16との間の位置)には弁40が設けられていて、給油路21を流れる潤滑剤の量が調節されるようになっている。したがって、この弁40によって、湾曲路16を経由して転動体転動路13へ送られる潤滑剤の量が調節される。
【0028】
この弁40の構造及び動作について、図7〜10を参照しながら以下に詳細に説明する。まず、弁40について説明する。弁40は弾性材料で構成されており、弁40に作用する圧力が所定値以上であると弾性変形して開状態となり、前記所定値未満であると閉状態となるようになっている。弁40が開状態となると、給油路21のうち弁40の上流側の部分にある潤滑剤が弁40を通過し、下流側へ流れていくこととなる。そして、前記圧力が高いほど弁40の変形度合いは大きく、弁40の開口度合いが大きくなるようになっている。よって、前記圧力の高さによって、弁40を通過する潤滑剤の量が自動的に調節され、前記圧力が高いほど多量の潤滑剤が弁40を通過することとなる。
【0029】
弁40の形状は、このような機能を有するならば特に限定されるものではないが、例えば図8に示すような形状が好ましい。すなわち、平板状の変形部41の長手方向両端に、フランジ状の固定部42,42が形成された、断面略I字状が好ましい。この断面略I字状の弁40を、図7に示すように、エンドキャップ2Bの裏面に形成された給油路21に固定する。すなわち、弁40の固定部42,42を給油路21の内面に取り付け、弁40の変形部41が給油路21を完全に閉鎖するようにする。
【0030】
よって、図9に示すように、給油ニップル22から潤滑剤Lが矢印で示すように導入されても、導入された潤滑剤Lから受ける圧力が前記所定値未満であれば弁40の変形部41は変形しないので、弁40は閉状態となっている。弁40が閉状態となっていると、潤滑剤Lは弁40によって堰き止められ、給油路21のうち給油ニップル22と弁40との間の部分に充填された状態となる。
【0031】
しかし、図10に示すように、給油ニップル22から多量の潤滑剤Lを導入することによって、導入された潤滑剤Lから受ける圧力が前記所定値以上となった場合は、弁40の変形部41は、潤滑剤Lから受ける圧力の高さに応じて弾性変形するので、弁40は開状態となる。すなわち、平板状の変形部41の両側部41a,41bのうち側部41aは給油路21の内面に固定されており、側部41bは給油路21の内面に固定されていないので、固定されていない側の側部41bは潤滑剤Lの圧力によって下流側に撓んで、変形部41の側部41bと給油路21の内面との間に隙間(すなわち開口)が形成され、図10において矢印で示すように、この開口から潤滑剤Lが下流側に流れ込む。ただし、平板状の変形部41の両側部41a,41bを給油路21の内面に固定せず、両側部41a,41bが潤滑剤Lの圧力によって下流側に撓むような構成としてもよい。
【0032】
開状態の弁40の開口から潤滑剤Lが下流側に流れると、給油路21のうち弁40の上流側の部分にある潤滑剤Lの量が減少し、潤滑剤Lから弁40が受ける圧力は低下する。そして、給油路21のうち弁40の上流側の部分にある潤滑剤Lの圧力が前記所定値未満となった場合は、弁40の変形部41の側部41bの撓みは戻り、弁40の変形部41は元の形状となる。すると、弁40は閉状態となるので、潤滑剤Lの下流側への流れは堰き止められる。
【0033】
前記圧力が高いほど、固定されていない側の側部41bは大きく撓み、開口度合いが大きくなるので、潤滑剤Lが弁40を通過する量も多くなる。前記圧力の高さによって弁40の変形部41の撓み量が決まるから、前記圧力の高さによって、弁40を通過する潤滑剤Lの量が自動的に調節されることとなる。
直動案内装置は、左右両側の転動体転動路13,13の間に高低差が生じるような傾斜姿勢をとって設置される場合があるが、上記のような弁40が各給油路21に設置されていれば、前記高低差に関係なく前記圧力によって自動的に調節される量の潤滑剤Lが各弁40を通過するので、ほぼ同量の潤滑剤Lが左右両側の転動体転動路13,13に供給されることとなる。
【0034】
よって、左右両側の転動体転動路13,13の間に高低差が生じるような傾斜姿勢をとって直動案内装置が設置されている場合であっても、左右両側の転動体転動路13,13に供給される潤滑剤量の差はほとんど生じない。また、案内レール1が鉛直方向に沿うように設置されている場合や、上下逆さ(案内レール1が上側、スライダ2が下側に配されている状態)に設置されている場合であっても、各転動体転動路13への潤滑剤Lの供給が問題なく安定的に行われる。
【0035】
また、このような弁40は、潤滑剤量の調節機構が上記のように単純であるので、低コストで製造できることに加えて、調節機構の不調が発生しにくい。また、このような弁40による潤滑剤量の調節機構は、潤滑剤が潤滑油及びグリースのいずれであっても適用可能である。
なお、前述したように、弁40を通過する潤滑剤Lの量は前記圧力によって自動的に調節されるが、弁40の形状や材質の変更によって、弁40の変形が起こり始める圧力(前記所定値)が変わるし、所定の圧力における弁40の変形量が変わるので、前記所定値が所望の値となるように、また、潤滑剤Lの圧力と弁40を通過する潤滑剤Lの量との相関が所望の相関となるように、弁40の形状や材質を設定するとよい。弁40の材質は、潤滑剤Lの接触によって溶解,膨潤,変形等の劣化,損傷を起こさないものであれば特に限定されるものではないが、樹脂,ゴム,金属等が好適である。
【0036】
また、給油路21の内径は全体にわたって一定でも差し支えないが、図9,10に示すように、給油路21の内径に段差を設け、この段差を形成する端面21aに弁40の変形部41の側部41bが接するように弁40を固定してもよい。このような構成であれば、潤滑剤Lが逆流して、弁40の変形部41に下流側から上流側に向かう圧力が作用したとしても、弁40の変形部41の側部41bが端面21aに当接するので、上流側に撓むことが防止される。よって、逆流した潤滑剤Lが弁40を通過して上流側に流れ込むことがなく、したがって、潤滑剤Lが反対側の転動体転動路13に流れ込むことがない。
【0037】
例えば、左右両側の転動体転動路13,13の間に高低差が生じるような傾斜姿勢で直動案内装置が設置され、左側の転動体転動路13が高く、右側の転動体転動路13が低く配されているとする。すると、高い側の左側の転動体転動路13に供給された潤滑剤が重力により下方に移動してくるおそれがあるが、上記のように、弁40によって逆流が防止されれば、高い側の左側の転動体転動路13から低い側の右側の転動体転動路13に潤滑剤が流れ込むことがない。よって、高い側の転動体転動路13にも安定して潤滑剤が供給されるから、高い側の転動体転動路13において潤滑剤不足が生じて焼付き等の問題が生じるおそれがほとんどないので、直動案内装置は長寿命となる。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、給油路21,弁40等からなる潤滑剤量の調節機構をエンドキャップ2Bに設けたが、スライダ本体2Aに設けてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 案内レール
2 スライダ
2A スライダ本体
2B エンドキャップ
3 転動体
6 腕部
7 平板部
10 転動体転動溝
11 転動体転動溝
13 転動体転動路
14 直線状路
16 湾曲路
17 転動体戻し路
21 給油路
21a 端面
22 給油ニップル
23 給油口
40 弁
41 変形部
41b 側部
L 潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる転動体軌道面を有する案内レールと、前記案内レールの転動体軌道面に対向する転動体軌道面を有するとともに軸方向に相対移動可能に前記案内レールに取り付けられたスライダと、前記案内レールの転動体軌道面及び前記スライダの転動体軌道面の間に形成される転動体転動路内に転動自在に配された複数の転動体と、前記スライダに設けられた潤滑剤導入口から導入される潤滑剤を前記転動体転動路に供給する給油路と、前記給油路における前記潤滑剤導入口よりも下流側の位置に設けられた弁と、を備え、
前記弁は、前記給油路のうち前記潤滑剤導入口と前記弁との間の部分に導入された潤滑剤の圧力が所定値以上であると開状態となり、前記潤滑剤を下流側へ通過させるようになっているとともに、前記圧力が高いほど開口度合いが大きくなるようになっていることを特徴とする直動案内装置。
【請求項2】
前記弁は弾性材料で構成されており、前記圧力によって前記弁が弾性変形して開状態となるとともに、前記圧力が高いほど前記弁の変形度合いが大きく、前記弁の開口度合いが大きくなるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−241753(P2012−241753A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110348(P2011−110348)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】