説明

直動案内装置

【課題】案内レールのボルト孔のピッチと、機台の取付穴のピッチとの間に誤差があった場合でも、ボルトの片当りを防ぎ、ボルトによる締着力の低下を防ぐ直動案内装置を提供する。
【解決手段】直動案内装置は、軸方向に延びる案内レール10と、前記軸方向に沿って相対移動可能に案内レール10に跨架されたスライダとを備えている。案内レール10には、案内レール10の上面10aから底面10bに貫通して、案内レール10を機台50に固定するためのボルト60を挿通すると共に、ボルト60の頭部を係止する座ぐり部13を有するボルト孔12が前記軸方向に沿って複数形成されている。そして、円環状をなす第1の座金71及び第2の座金72が、球面凸形状をなす裏面71bと球面凹形状をなす表面72aとを当接させて座ぐり部13とボルト60の頭部との間に挟持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば製造装置や加工機械、測定機器等の各種機械に用いられる直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、製造装置や加工機械、測定機器等の各種機械の一例として、ワークテーブルや各種搬送装置においては、テーブル部材を取り付けた移動部材が案内レールに沿って移動する直動案内装置が用いられている。この種の直動案内装置のうち、並行して配置された複数の案内レールに沿って移動する複数の移動部材にテーブル部材が架設された態様の直動案内装置においては、ボルト等の締結手段により前記移動部材に締結されているため、前記各移動部材を円滑に移動させるために、複数の案内レールの高さ位置及び傾きを精度良く管理する必要があった。
【0003】
しかし、このような直動案内装置においては、前記締結手段が前記テーブル部材に対して斜めに締結された状態において、前記締結手段の前記テーブル部材との締め付け座面における前記締結手段の締結軸力の応用分布に傾きが生じ、締結軸力の向上を図ることが難しくなるという問題が生じることがあった。
そこで、前記締結手段に弾性変形を生じさせることなく、前記移動部材と前記テーブル部材との取付精度を向上させる直動案内装置が特許文献1に開示されている。
【0004】
図4に示すように、特許文献1に開示された直動案内装置100は、1対の案内レール110,110と、各案内レール110,110に沿って移動する1対の移動部材120,120と、移動部材120,120に締結手段130により取り付けられたテーブル140とを備える。そして、テーブル140と移動部材120との間に第1の球面係合手段150を備え、テーブル140と締結手段130との間に第2の球面係合手段160を備える。特許文献1に開示された直動案内装置は、このような構成を有することによって、取付誤差による締結手段の片当り、及び締結手段の弾性変形を防ぐという効果を奏するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−52058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、移動部材120を円滑に移動させるためには、案内レール110と、該案内レール110が設置される機台(図示せず)との固定についても対策を講じる必要があり、特許文献1に開示された直動案内装置においては、何ら示唆されていない。ここで、案内レール110を機台に固定する態様としては、機台に案内レール110を取り付けるためのボルト(図示せず)の本体部を挿通するボルト孔(図示せず)が、案内レール110に上面と底面とを貫通して設けられる構成が挙げられる。このボルト孔は、通常、案内レール110の軸方向に複数列設され、ボルトの頭部はボルト孔内に形成された座ぐり部によって係止される。一方、機台には、これらボルト孔のピッチにあわせて取付穴が複数列設される。このように、機台に案内レール110を固定するために、複数のボルト孔を案内レール110に列設する場合、案内レール110の軸方向の長さが所定以上長くなると、案内レール110のボルト孔の位置と機台の取付穴との長手方向の累積誤差も大きくなる。これは、機台に案内レール110を取付けた際、機台に設けられた取付穴のピッチの間隔とずれが生じ、取付誤差となり得る。そして、このようにして生じる取付誤差は、ボルトの片当りによる締着力の低下を及ぼし、移動部材120の円滑な移動を阻害する。
【0007】
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、案内レールのボルト孔のピッチと、機台の取付穴のピッチとの間に誤差があった場合でも、前記ボルトの片当りを防ぎ、前記ボルトによる締着力の低下を防ぐ直動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明は、軸方向に延びる案内レールと、前記軸方向に沿って相対移動可能に前記案内レールに跨架されたスライダとを備え、前記案内レールがボルトにより機台に固定された直動案内装置であって、
前記案内レールには、前記ボルトが挿通される、前記案内レールの上面から底面に貫通するボルト孔であって、上部には前記ボルトの頭部を係止する座ぐり部が形成され、下部は前記ボルトの本体部が挿通される挿通孔を形成するボルト孔が前記軸方向に沿って複数形成され、
表面が平坦形状で裏面が球面凸形状をなす円環状の第1の座金と、表面が球面凹形状で裏面が平坦形状をなす円環状の第2の座金とを、第1の座金の裏面と第2の座金の表面とを当接させて前記座ぐり部と、前記ボルト孔に挿通された前記ボルトの頭部との間に挟持させたことを特徴としている。
【0009】
請求項1に係る発明によれば、曲率を有する当接面を摺動面として重畳させた第1の座金と第2の座金とを、座ぐり部とボルトの頭部との間に挟持させたので、案内レールのボルト孔のピッチと、機台の取付穴のピッチとの間に誤差があった場合でも、ボルトの片当りを防ぎ、ボルトの締着力の低下を防ぐ直動案内装置を提供することができる。
【0010】
また、上記目的を達成するための請求項2に係る発明は、軸方向に延びる案内レールと、前記軸方向に沿って相対移動可能に前記案内レールに跨架されたスライダとを備え、前記案内レールがボルトにより機台に固定された直動案内装置であって、
前記案内レールには、前記ボルトが挿通される、前記案内レールの上面から底面に貫通するボルト孔であって、上部には前記ボルトの頭部を係止する座ぐり部が形成され、下部は前記ボルトの本体部が挿通される挿通孔を形成するボルト孔が前記軸方向に沿って複数形成され、
前記座ぐり部が球面凹形状をなし、表面が平坦形状で裏面が球面凸形状をなす円環状の第1の座金を、該第1の座金の裏面が前記座ぐり部に当接させて該座ぐり部と、前記ボルト孔に挿通された前記ボルトの頭部との間に挟持させたことを特徴としている。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、球面凹形状をなす座ぐり部に対して第1の座金を摺動可能に前記座ぐり部と前記ボルトの頭部との間に挟持させたので、案内レールのボルト孔のピッチと、機台の取付穴のピッチとの間に誤差があった場合でも、ボルトの片当りを防ぎ、ボルトの締着力の低下を防ぐ直動案内装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、案内レールのボルト孔のピッチと、機台の取付穴のピッチとの間に誤差があった場合でも、ボルトの片当りを防ぎ、ボルトによる締着力の低下を防ぐ直動案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る直動案内装置の一実施形態における構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る直動案内装置の一実施形態における構成を示す図であり、(a)は、ボルトによる締着時の断面図、(b)は第1の座金の構成を示す平面図及び側面図、(c)は第2の座金の構成を示す平面図及び側面図である。
【図3】本発明に係る直動案内装置の他の実施形態における構成を示す図であり、(a)はボルトによる締着時の断面図、(b)は凹部の断面図、(c)は第1の座金の平面図及び側面図である。
【図4】従来の直動案内装置の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る直動案内装置の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る直動案内装置の一実施形態における構成を示す斜視図である。また、図2は、本発明に係る直動案内装置の一実施形態における構成を示す図であり、(a)は、ボルトによる締着時の断面図、(b)は第1の座金の構成を示す平面図及び側面図、(c)は第2の座金の構成を示す平面図及び側面図である。
図1に示すように、直動案内装置1は、軸方向に延びる案内レール10と、該案内レール10上に前記軸方向に相対移動可能に跨架されたスライダ20とを備える。
【0015】
また、図1に示すように、案内レール10には、その上面10aから底面10bに貫通するボルト孔12が前記軸方向に所定間隔で複数形成されている。
ボルト孔12は、図2(a)に示すように、内面12aに段差が座ぐり部13として形成されて、底面10b側の開口径よりも上面10a側の開口径が大となるように形成されている。具体的には、ボルト孔12の上部(案内レール10の上面10a側)には、ボルト60の頭部61を係止する座ぐり部13が形成される。一方、ボルト孔12の下部(案内レール10の底面10b側)は、ボルト60の本体部62が挿通される挿通孔14をなしている。
【0016】
一方、図1に示すように、機台50には、ボルト孔12とほぼ同じ間隔で複数の取付穴51が列設されている。
ここで、本実施形態における案内レール10の機台50への固定は、図2(a)に示すように、ボルト孔12に挿通され、締着力低下防止手段70を介して頭部61が座ぐり部13の上面13aに係止されたボルト60を、機台50の取付穴51にボルト60の本体部62を螺合させることによってなされる。
ここで、締着力低下防止手段70は、図2(b)に示す第1の座金71と、図2(c)に示す第2の座金72とを有してなる。
【0017】
第1の座金71は、図2(b)に示すように、円環形状をなし、表面71aが平坦形状をなし、裏面71bが球面凸形状をなしている。第1の座金71の外周径の寸法は、底面10b側の開口径を超え、上面10a側の開口径以下である。また、第1の座金71の内周径の寸法は、ボルト60の本体部62の径より大である。
第2の座金72は、図2(c)に示すように、円環形状をなし、表面72aが球面凹形状をなし、裏面が平坦形状をなしている。この表面72aの曲率半径は、裏面71bの曲率半径とほぼ同じである。第2の座金72の外周径の寸法も、第1の座金71の外周径の寸法と同様に、底面10b側の開口径を超え、上面10a側の開口径以下である。また、第2の座金72の内周径の寸法も、第1の座金71の内周径の寸法と同様に、ボルト60の本体部62の径より大である。
【0018】
このように形成された第1の座金71及び第2の座金は、締着力低下防止手段70として、第1の座金の裏面71bと、第2の座金72の表面72aとを当接させて、締着力低下防止手段70として座ぐり部13とボルト60の頭部61との間に挟持される。そして、複数のボルト孔12にそれぞれ挿通されたボルト60を締結して、座ぐり部13の底面13aを、締着力低下防止手段70を介してボルト60の頭部61の下面61aで強く押圧することにより、案内レール10は基台50に固定される。
【0019】
ここで、図2(a)に示すように、機台50の上面50aの法線方向Nに対して、ボルト60の締着方向が角度θで傾いた状態では、第1の座金71が、その裏面71bに当接する第2の座金72の表面72aを摺動面として弧状に摺動してボルト60が締結される。また、案内レール10のボルト孔12や、機台50の取付穴51が、それらの形成される面の法線方向から傾いて形成されていても第1の座金71が、その裏面71bに当接する第2の座金72の表面72aを摺動面として弧状に摺動してボルト60が締結される。従って、ボルト60の片当りを防ぎ、ボルト60の締着軸力を損なうことがないので、機台50に対して案内レール10を確実に固定することができる。また、ボルト60の締着軸力を損なうことがないので、ボルト60の弾性変形を防ぐ効果をも奏する。特に、本実施形態で用いられるボルト60としては、JIS規格(JIS B 1180)における「M8」や「M10」等の標準ボルトが用いられ、これに合わせた第1の座金71及び第2の座金72が安価で入手できるため、コストを低減させる効果も奏する。
【0020】
このように、本実施形態では、締着力低下防止手段70として、曲率を有する当接面を摺動面として重畳させた第1の座金71と第2の座金72とを締着力低下防止手段70として座ぐり部13とボルト60の頭部61との間に挟持する構成を採用している。従って、案内レール10のボルト孔12のピッチと、機台50の取付穴51のピッチとの間に誤差があった場合でも、ボルト60の片当りを防ぎ、ボルト60の締着力の低下を防ぐ直動案内装置1を提供することができる。
【0021】
(他の実施形態)
図3は、本発明に係る直動案内装置の他の実施形態における構成を示す図であり、(a)はボルトによる締着時の断面図、(b)は凹部の断面図、(c)は第1の座金の平面図及び側面図である。本実施形態は、締着力低下防止手段70の構成を異ならせた以外は、上述の実施形態と同様の構成であるので、上述の実施形態と同様の構成については説明を省略する。
図3(a),(b)に示すように、本実施形態は、締着力低下防止手段70として、第1の座金71と、座ぐり部13に形成された凹部73とを有してなる。
凹部73は、座ぐり部13の上面13aを、案内レール10の上面10aに向かって球面凹形状をなすように形成してなる。
【0022】
第1の座金71は、図3(c)に示すように、円環形状をなし、表面71aが平坦形状をなし、裏面71bが球面凸形状をなしている。この裏面71bの曲率半径は、凹部73の曲率半径とほぼ同じである。第1の座金71の外周径の寸法は、底面10b側の開口径を超え、上面10a側の開口径以下である。また、第1の座金71の内周径の寸法は、ボルト60の本体部62の径より大である。
【0023】
このように形成された凹部73及び第2の座金は、締着力低下防止手段70として、第1の座金の裏面71bと、第2の座金72の表面72aとを当接させて、締着力低下防止手段70として座ぐり部13とボルト60の頭部61との間に挟持される。そして、複数のボルト孔12にそれぞれ挿通されたボルト60を締結して、座ぐり部13の底面13a(凹部73)及び第1の座金71からなる締着力低下防止手段70を介してボルト60の頭部61の下面61aで強く押圧することにより、案内レール10は基台50に固定される。
【0024】
ここで、図3(a)に示すように、機台50の上面50aの法線方向Nに対して、ボルト60の締着方向が角度θで傾いた状態では、第1の座金71が、その裏面71bに当接する凹部73を摺動面として弧状に摺動してボルト60が締結される。
このように、球面凹形状をなす凹部73が形成された座ぐり部13に対して第1の座金71を摺動可能に座ぐり部13とボルト60の頭部61との間に挟持させたので、案内レール10のボルト孔12のピッチと、機台50の取付穴51のピッチとの間に誤差があった場合でも、ボルト60の片当りを防ぎ、ボルト60の締着力の低下を防ぐ直動案内装置1を提供することができる。
【0025】
また、締着力低下防止手段70の構成要素として、球面凹形状をなす凹部73を座ぐり部13に形成したので、締着力低下防止手段70が占める厚みを上述の実施形態よりも小さくできる。これは、案内レール10の高さ(上面10aから底面10bへの向きの寸法)が低く、ボルト孔12に座ぐり部13を形成するスペースに余裕がない直動案内装置にも適用することができ、省スペース化を実現する直動案内装置を提供することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0026】
1 直動案内装置
10 案内レール
10a 上面
10b 底面
12 ボルト孔
12a 内周面
13 座ぐり部
14 挿通孔
20 スライダ
50 機台
51 取付穴
60 ボルト
61 頭部
61a 下面
70 締着力低下防止手段
71 第1の座金
72 第2の座金
73 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる案内レールと、前記軸方向に沿って相対移動可能に前記案内レールに跨架されたスライダとを備え、前記案内レールがボルトにより機台に固定された直動案内装置であって、
前記案内レールには、前記ボルトが挿通される、前記案内レールの上面から底面に貫通するボルト孔であって、上部には前記ボルトの頭部を係止する座ぐり部が形成され、下部は前記ボルトの本体部が挿通される挿通孔を形成するボルト孔が前記軸方向に沿って複数形成され、
表面が平坦形状で裏面が球面凸形状をなす円環状の第1の座金と、表面が球面凹形状で裏面が平坦形状をなす円環状の第2の座金とを、第1の座金の裏面と第2の座金の表面とを当接させて前記座ぐり部と、前記ボルト孔に挿通された前記ボルトの頭部との間に挟持させたことを特徴とする直動案内装置。
【請求項2】
軸方向に延びる案内レールと、前記軸方向に沿って相対移動可能に前記案内レールに跨架されたスライダとを備え、前記案内レールがボルトにより機台に固定された直動案内装置であって、
前記案内レールには、前記ボルトが挿通される、前記案内レールの上面から底面に貫通するボルト孔であって、上部には前記ボルトの頭部を係止する座ぐり部が形成され、下部は前記ボルトの本体部が挿通される挿通孔を形成するボルト孔が前記軸方向に沿って複数形成され、
前記座ぐり部が球面凹形状をなし、表面が平坦形状で裏面が球面凸形状をなす円環状の第1の座金を、該第1の座金の裏面が前記座ぐり部に当接させて該座ぐり部と、前記ボルト孔に挿通された前記ボルトの頭部との間に挟持させたことを特徴とする直動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−241889(P2012−241889A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116267(P2011−116267)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】