説明

直動案内装置

【課題】転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤が供給され、特に、直動案内装置が壁掛け姿勢かつ油潤滑の条件で使用した場合であっても、転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤が供給されるようにする。
【解決手段】左右両腕部6L、6Uの転動体転動路13それぞれに対して潤滑剤が導入される二つの潤滑剤導入口21、31を別個の供給ルートで設け、各潤滑剤導入口21、31は、転動体転動路13に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口40、41に、分岐油路24、34を介してそれぞれ連通されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、案内レールと、この案内レールに沿って相対移動可能なスライダとを備える直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の直動案内装置は、軸方向に延びる転動体軌道面を有する横断面形状が略四角形の案内レールと、該案内レールの転動体軌道面に対向する転動体軌道面を有するとともに軸方向に相対移動可能に案内レールに取り付けられた横断面形状が略コ字状のスライダと、を備えている。
すなわち、スライダは、軸方向に延びる平板部と該平板部の左右両側部からそれぞれ同一方向に延びる腕部とからなって横断面形状が略コ字状をなしており、左右両腕部の間に案内レールを挟むように案内レールに取り付けられている。そして、案内レールの左右両側面の転動体軌道面とスライダの左右両腕部の内側面の転動体軌道面との間に形成される転動体転動路内に、複数の転動体が転動自在に配されており、左右の転動体転動路内の転動体の転動を介してスライダが案内レールに沿って軸方向に相対移動可能となっている。
【0003】
転動体転動路内の転動体には、潤滑油,グリース等の潤滑剤が供給され潤滑が行われる。例えば、特許文献1には、スライダの軸方向両端のエンドキャップに潤滑剤を供給する油路を備えた直動案内装置が開示されている。特許文献1に記載の発明は、スライダの平板部に位置する給油路連通部材の横断面方向中央部に油路を設け、スライダ両端のエンドキャップと油路を結び、スライダ上面開設された給油穴から送り込まれた潤滑剤を、給油路連通部材を通してエンドキャップに送る構造になっている。そして、エンドキャップに供給された潤滑剤が、エンドキャップ内の転動体の転動を介して転動体転動路内を広がっていくようになっている。
【0004】
また、スライダの平板部の内面の軸方向中央位置且つ幅方向中央位置に、潤滑剤吐出口を備える直動案内装置も従来から知られている。スライダの平板部の内面は案内レールの上面に対向しているので、潤滑剤吐出口から吐出された潤滑剤は、案内レールの上面の幅方向中央位置に落下し、案内レールの上面を伝わって左右の転動体転動路に供給されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−190363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、スライダの平板部に位置する給油路連通部材の横断面方向中央部に油路を設け、スライダ両端のエンドキャップと油路を結び、スライダ上面開設された給油穴から送り込まれた潤滑剤を、給油路連通部材を通してエンドキャップに送る構造になっており、エンドキャップ付近から潤滑剤を行き渡らせる構造になっている。そのため、スライダの長手方向の任意の位置での転動体転動路に直接給油をすることができない。したがって、仮にスライダが軸方向に長い場合には、スライダ中央部に充分に潤滑剤を行き渡らせることができない。そのため、この状態ではスライダ中央部の潤滑状態が枯渇状態になり、それに起因してスライダが早期破損してしまう可能性がある。
【0007】
また、上記例示した、潤滑剤吐出口を備える従来の直動案内装置では、転動体転動路の軸方向中央部に潤滑剤が供給されるものの、転動体転動路のうち軸方向中央部の近傍部分にしか十分な量の潤滑剤が行き渡らないおそれがある。そのため、スライダの軸方向長さが長い場合には、転動体転動路の軸方向両端部が潤滑剤不足となり、直動案内装置が破損するおそれがあった。
【0008】
さらに、上記いずれの例においても、直動案内装置が水平姿勢の場合には左右の腕部内の転動体転動路それぞれに潤滑剤を供給できるものの、例えば直動案内装置が壁掛け姿勢かつ油潤滑の場合には、重力によって上下方向で下側の転動体転動路に油が偏ってしまい、上側の転動体転動路には潤滑剤が行き渡らないことがある。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤が供給され、特に、直動案内装置が壁掛け姿勢かつ油潤滑の条件で使用した場合であっても、転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤を供給する上で好適な直動案内装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る直動案内装置は、軸方向に延びる転動体軌道面を左右に有する案内レールと、該案内レールに沿って相対移動可能なスライダとを備え、該スライダが、前記軸方向に延びる平板部と該平板部の左右両側部からそれぞれ同一方向に延びる腕部とからなって横断面形状が略コ字状をなし、前記左右両腕部の間に前記案内レールを挟むように前記案内レールに跨設され、前記案内レールの左右の転動体軌道面に対向する転動体軌道面を前記左右両腕部にそれぞれ有するとともに、前記案内レールの左右の転動体軌道面及び前記スライダの左右両腕部の転動体軌道面の間に形成される左右の転動体転動路内に複数の転動体が転動自在にそれぞれ配される直動案内装置であって、前記スライダは、当該スライダの外面に開口して潤滑剤が導入される二つの潤滑剤導入口を備え、第一の潤滑剤導入口は、前記平板部内に形成されるとともに前記案内レール側を向く面に開口する第一の導入油路と連通され、当該第一の導入油路が、前記左右両腕部のうちの一方の腕部側に形成される転動体転動路に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口に第一の分岐油路を介して連通されており、第二の潤滑剤導入口は、前記左右両腕部のうちの他方の腕部内に形成されるとともに当該他方の腕部の端面に開口する第二の導入油路と連通され、当該第二の導入油路が、前記他方の腕部側に形成される転動体転動路に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口に、第二の分岐油路を介して連通されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る直動案内装置によれば、左右両腕部の転動体転動路それぞれに対して潤滑剤が導入される複数の潤滑剤吐出口に、二つの潤滑剤導入口から別個の供給ルートで潤滑剤をそれぞれ導くことができるので、左右両腕部の転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤を供給することができる。
そして、この別個の供給ルートは、第一の潤滑剤導入口が、平板部内に形成されるとともに案内レール側を向く面に開口する第一の導入油路と連通され、当該第一の導入油路が、左右両腕部のうちの一方の腕部側に形成される転動体転動路に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口に第一の分岐油路を介して連通されており、第二の潤滑剤導入口が、左右両腕部のうちの他方の腕部内に形成されるとともに当該他方の腕部の端面に開口する第二の導入油路と連通され、当該第二の導入油路が、他方の腕部側に形成される転動体転動路に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口に、第二の分岐油路を介して連通されているので、スライダを、その左右両腕部を上下方向とする立てた姿勢で使用して、その使用姿勢において、第一の潤滑剤導入口と第一の油路を含む油路が上下方向下側に位置されるとともに、第二の潤滑剤導入口と第二の油路を含む油路が上下方向上側に位置されるようにすることによって、直動案内装置が壁掛け姿勢かつ油潤滑の条件で使用した場合であっても、転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤を供給することができる。
【0011】
ここで、本発明の一態様に係る直動案内装置において、表面に溝を備える二つの油路形成部材を備え、第一の油路形成部材が、前記溝を備える表面を前記平板部の案内レール側を向く面に向けて前記平板部に取り付け、前記平板部と前記第一の油路形成部材との間に前記溝によって前記第一の分岐油路を形成し、第二の油路形成部材が、前記溝を備える表面を前記他方の腕部の端面に向けて当該他方の腕部に取り付け、当該他方の腕部と前記第二の油路形成部材との間に前記溝によって前記第二の分岐油路を形成すれば、二つの潤滑剤導入口から別個の供給ルートで複数の潤滑剤吐出口に潤滑剤を導くことができる分岐油路を容易に形成する上で好適である。
【0012】
また、本発明の一態様に係る直動案内装置において、前記複数の潤滑剤吐出口が、前記軸方向に間隔を空けつつ前記転動体転動路に沿って配置されていれば、転動体転動路の軸方向全域に均一に潤滑剤を供給する上で好適である。
また、本発明の一態様に係る直動案内装置において、前記各分岐油路が、前記第一の導入油路および前記第二の導入油路の下流側の分岐開始点からそれぞれ下流側で枝分かれ状に分岐していて、その枝分かれした各分岐油路の末端が個別に前記複数の潤滑剤吐出口の一つに連通されており、前記分岐開始点と前記潤滑剤吐出口との間の各油路長さと、前記分岐開始点と前記潤滑剤吐出口との間に存在する分岐点の数とが、全ての前記潤滑剤吐出口について同一であれば、転動体転動路の軸方向全域により均一に潤滑剤を供給する上で好適である。
【0013】
また、本発明の一態様に係る直動案内装置において、前記スライダと前記二つの油路形成部材との界面部分の、前記スライダの軸方向中央位置且つ油路形成部材の幅方向中央位置に前記分岐開始点を配するとともに、前記分岐開始点から前記潤滑剤吐出口までの間に、軸方向両端部に向かう方向へ二股に分岐する分岐点を複数段階に配することで、該分岐する油路の枝分かれ形状を、前記分岐開始点から下流側に向かって逐次二股に分岐していく形状であれば、転動体転動路の軸方向全域に均一に潤滑剤を供給する分岐油路を構成する上で好ましい。
【0014】
また、本発明の一態様に係る直動案内装置において、前記スライダがその左右両腕部を上下方向とする立てた姿勢で使用されるものであり、その使用姿勢において、前記第一の潤滑剤導入口と第一の導入油路を含む油路の潤滑剤吐出口が、前記第二の潤滑剤導入口と第二の導入油路を含む油路の潤滑剤吐出口よりも上下方向下側に位置される構成であれば、特に、直動案内装置が壁掛け姿勢かつ油潤滑の条件で使用した場合であっても、左右の転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤を供給する上で好適である。
【発明の効果】
【0015】
上述のように、本発明によれば、転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤が供給され、特に、直動案内装置が壁掛け姿勢かつ油潤滑の条件で使用した場合であっても転動体転動路の軸方向全域に潤滑剤が供給されるようにする上で好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一態様に係る直動案内装置の一実施形態であるリニアガイドの構造を示す斜視図である。
【図2】図1のリニアガイドを軸方向端部側から見た正面図(ただし、エンドキャップを省略して図示している)である。
【図3】図2のA−A断面図であり、図1のリニアガイドの転動体循環路を示す部分断面図である。
【図4】潤滑剤が導入される二つの潤滑剤導入口を別個の供給ルートで設けている点を説明する模式図(図1のリニアガイドを軸方向端部側から見た図)である。
【図5】図4のB矢視図(ただし、案内レールを省略して図示している)であって、同図は、表面に溝を備える二つの油路形成部材の配置および、これによって形成される分岐油路を説明する図である。
【図6】潤滑剤導入口〜油路〜分岐油路〜潤滑剤吐出口の連通配置を説明する図であって、同図(a)は図5のC−C断面図、(b)は図6(a)のD部詳細図、(c)は図6(a)のE部詳細図である。
【図7】第一の油路形成部材の構成を説明する図であり、同図(a)がその平面図、(b)が背面図、(c)が正面図、(d)が図7(a)のF−F断面図、(e)が図7(a)のG−G断面図である。
【図8】第二の油路形成部材の構成を説明する図であり、同図(a)がその平面図、(b)が正面図、(c)が同図(a)でのH−H断面図である。
【図9】図7に示す第一の油路形成部材の表面の溝〜潤滑剤吐出口の変形例(第一変形例)である。
【図10】図7に示す第一の油路形成部材の表面の溝〜潤滑剤吐出口の変形例(第二変形例)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、このリニアガイド(直動案内装置)は、横断面が略四角形をなして軸方向に延びる案内レール1の上に、横断面が略コ字状のスライダ2が軸方向に沿って相対移動可能に跨設されている。案内レール1は、その高さ方向に貫通するボルト挿通孔1cがその長さ方向に所定の間隔を隔てて複数形成されている。そして、この案内レール1は、これら各ボルト挿通孔1cに挿通される固定ボルト(不図示)によって機械の基台(不図示)等に固定される。一方、スライダ2の上面には、止めネジ(不図示)によりこのスライダ2を直動テーブル(不図示)などの直動体に固定するためのネジ穴2aが複数箇所に設けられている。
【0018】
案内レール1の左右両側面1aと上面1bとが交差する稜部には、軸方向に延びる断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝からなる転動体転動溝10(本発明の構成要件である転動体軌道面に相当する)が形成され、また、案内レール1の左右両側面1aの上下方向中央部には、軸方向に延びる断面ほぼ半円形の凹溝からなる転動体転動溝10が形成されている。
また、スライダ2は、案内レール1の上面1bに沿う平板部7と、この平板部7の左右両側部からそれぞれ下方に延び側面1aに沿う2つの腕部6L、6Uとからなり、平板部7と左右の腕部6L、6Uとのなす角度は略直角であるため、スライダ2の横断面形状は略コ字状をなしている。そして、スライダ2は、両腕部6L、6Uの間に案内レール1を挟むようにして、案内レール1に移動可能に取り付けられている。
【0019】
このようなスライダ2は、スライダ本体2Aと、その軸方向両端部に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ2Bとを有する。さらに、スライダ2の軸方向両端部(各エンドキャップ2Bの軸方向外端面)には、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口のうち軸方向端面側に面する部分を密封するサイドシール5が装着されている。なお、スライダ2の下部に、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口のうちスライダ2の下面側に面する部分を密封するアンダーシールを装着してもよい。これらシールを装着することにより、外部から前記隙間への異物の侵入や、前記隙間から外部への潤滑剤の漏出が防止される。
【0020】
さらに、スライダ本体2Aの左右両腕部6L、6Uの内側面の角部及び上下方向中央部には、案内レール1の各転動体転動溝10に対向する断面ほぼ半円形の転動体転動溝11(本発明の構成要件である転動体軌道面に相当する)が形成されている。これにより、案内レール1の転動体転動溝10とスライダ2の転動体転動溝11との間に、断面ほぼ円形の転動体転動路13がそれぞれ形成され、これらの転動体転動路13が軸方向に延びている。
【0021】
そして、各転動体転動路13内には複数の転動体3(例えば鋼、セラミックからなるボール)が転動自在に装填され、これら転動体3の転動を介してスライダ2が案内レール1に沿って軸方向に相対移動するようになっている。なお、転動体3の種類はボールに限定されるものではなく、ころであってもよい。また、案内レール1及びスライダ2が備える転動体転動溝10,11の数は片側二列に限らず、例えば片側一列又は三列以上であってもよい。さらに、転動体転動溝10,11の横断面形状は、前述したように単一の円弧からなる円弧状でもよいが、曲率中心の異なる2つの円弧を組合せてなる略V字状(ゴシックアーク形状溝)でもよい。
【0022】
さらに、スライダ2は、スライダ本体2Aの左右両腕部6L、6Uの肉厚部分の上部及び下部に、転動体転動路13と平行をなして軸方向に貫通する断面形状円形の直線孔からなる戻し通路14を備えている。一方、エンドキャップ2Bは、例えば樹脂材料の成形品からなり、横断面形状が略コ字状に形成されている。
そして、エンドキャップ2Bの裏面(スライダ本体2Aとの当接面)の左右両側には、断面形状円形で半円環状の湾曲路16が上下二段に形成されている。このエンドキャップ2Bをスライダ本体2Aに取り付けると、湾曲路16によって転動体転動路13と戻し通路14とが連通される。これら戻し通路14と両端の湾曲路16とで、転動体3を転動体転動路13の終点から始点へ送る転動体循環路17が構成され(転動体循環路17は転動体転動路13と同数設けられている)、転動体転動路13と転動体循環路17とで、略環状の無限循環路が案内レール1を挟んで左右両側に構成される。
【0023】
このような構成により、案内レール1に組みつけられたスライダ2が案内レール1に沿って軸方向に移動すると、転動体転動路13内に装填されている転動体3は、転動体転動路13内を転動しつつ案内レール1に対してスライダ2と同方向に移動する。そして、転動体3が転動体転動路13の終点に達すると、転動体転動路13から掬い上げられて湾曲路16に導かれる。湾曲路16に入った転動体3はUターンして戻し通路14に導入され、戻し通路14を通って反対側の湾曲路16に至る。ここで再びUターンして転動体転動路13の始点に戻り、このような転動体循環路内の循環を無限に繰り返す。
【0024】
ここで、このような構成の直動案内装置には、潤滑油,グリース等の潤滑剤を転動体転動路13に供給して転動体転動路13内の転動体3及び転動体転動溝10,11を潤滑する潤滑剤供給機構が二回路備えられている。本実施形態の二回路の潤滑剤供給機構は、図4〜図6に示すように、潤滑剤をスライダ2の内部に導入するための二つの潤滑剤導入口21、31と、この二つの潤滑剤導入口21、31から導入された潤滑剤を、左右の転動体転動路13に供給する複数の潤滑剤吐出口40、41(図5参照)と、潤滑剤導入口21、31と複数の潤滑剤吐出口40、41とを連通する油路とで構成されている。
【0025】
詳しくは、上記スライダ2は、スライダ本体2Aの外面に開口して潤滑剤が導入される二つの潤滑剤導入口21、31を備えている。本実施形態の例では、図4に示すように、スライダ本体2Aの同図右側の腕部6U外側面の上部に設けられるとともに、図5に示すように、二つの潤滑剤導入口21、31相互は、軸方向に離隔した位置にそれぞれ形成されている。
二つの潤滑剤導入口21、31のうち、第一の潤滑剤導入口21は、第一の導入油路22と連通されている。この第一の導入油路22は、第一の潤滑剤導入口21に連続する横穴22Aと、この横穴22Aの途中部分に連通して平板部7内に形成されるとともに案内レール1側を向く面に開口する縦穴22Bとから構成されている。
【0026】
そして、この第一の導入油路22が、第一の分岐油路24を介して複数の潤滑剤吐出口40に連通されており、これにより、第一の潤滑剤導入口21から左右両腕部6L、6Uのうちの同図左側の腕部6L(以下、一方の腕部6Lともいう)側に形成される転動体転動路13に潤滑剤吐出口40から潤滑剤を供給可能になっている。なお、複数(この例では4箇所)の潤滑剤吐出口40は、図5に示すように、軸方向に間隔を空けつつ転動体転動路13に沿ってほぼ均等に配置されている。
【0027】
ここで、第一の分岐油路24は、第一の油路形成部材23により構成される。つまり、第一の油路形成部材23は、図5および図7に示すように、表面に溝25を備える平面視が矩形状の板部材であり、溝25と干渉しない位置に複数の取付孔28が形成されている。そして、スライダ本体2Aの平板部7には不図示の雌ねじが形成されており、この溝25を備える表面を、図4に示すように平板部7の案内レール1側を向く面に向けて平板部7に取付ねじ29で取り付けるようになっている。これにより、平板部7と第一の油路形成部材24との間に溝25によって第一の分岐油路24を形成している。
【0028】
この第一の分岐油路24は、第一の導入油路22の下流側の分岐開始点26からそれぞれ下流側で枝分かれ状に分岐していて、その枝分かれした各分岐油路24の末端が個別に複数の潤滑剤吐出口40の一つに連通されており、分岐開始点26と潤滑剤吐出口40との間の各油路長さと、分岐開始点26と潤滑剤吐出口40との間に存在する分岐点27の数とが、全ての潤滑剤吐出口40について同一である。なお、本実施形態の例では、第一の油路形成部材23に形成された複数の潤滑剤吐出口40は、腕部6L側の転動体転動路13を向く角部に面取り部23aを形成し、この面取り部23aに穿孔された斜めの孔によって設けられている(図7(d)参照)。このような構成とすれば、図6(b)に示すように、腕部6L側の転動体転動路13に対向するように潤滑剤吐出口40を形成する上で好適である。
【0029】
ここで、特に本実施形態の例では、スライダ2と第一の油路形成部材23との界面部分の、スライダ2の軸方向中央位置且つ第一の油路形成部材23の幅方向中央位置に分岐開始点26を配するとともに、この分岐開始点26から潤滑剤吐出口40までの間に、軸方向両端部に向かう方向へ二股に分岐するT字状の分岐点27を複数段階に配することで、分岐する油路の枝分かれ形状を、分岐開始点26から下流側に向かって逐次二股に分岐していく形状としている。これにより第一の潤滑剤供給機構が構成される。なお、本実施形態の例は、第一の油路形成部材23に、軸方向両端部に向かう方向へ二股に分岐する分岐点27を、二段階に配した例である。
【0030】
一方、二つの潤滑剤導入口21、31のうち、第二の潤滑剤導入口31は、第二の導入油路32と連通されている。この第二の導入油路32は、第二の潤滑剤導入口31に連続する横穴32Aと、この横穴32Aの途中部分に連通して前記左右両腕部6L、6Uのうちの同図右側の腕部6U(以下、他方の腕部6Uともいう)内に形成されるとともに、当該他方の腕部6Uの端面6tに開口する縦穴32Bとから構成されている。
【0031】
そして、この第二の導入油路32が、第二の分岐油路34を介して複数の潤滑剤吐出口41に連通されており、これにより、第二の潤滑剤導入口31から左右両腕部6L、6Uのうちの他方の腕部6U側に形成される転動体転動路13に潤滑剤を供給可能になっている。なお、複数(この例では4箇所)の潤滑剤吐出口41は、図5に示すように、軸方向に間隔を空けつつ転動体転動路13に沿ってほぼ均等に配置されている。
【0032】
ここで、第二の分岐油路34は、第二の油路形成部材33により構成される。つまり、第二の油路形成部材33は、図5および図8に示すように、表面に溝35を備える平面視が矩形状の板部材であり、この溝35と干渉しない位置に複数の取付孔38が形成されている。そして、他方の腕部6Uの端面6tには不図示の雌ねじが形成されており、この溝35を備える表面を、図4に示すように前記他方の腕部6Uの端面に向けて当該他方の腕部6Uに取付ねじ39で取り付け、これにより、当該他方の腕部6Uと第二の油路形成部材33との間に前記溝35によって第二の分岐油路34を形成している。
【0033】
また、この第二の分岐油路34は、第二の導入油路32の下流側の分岐開始点36からそれぞれ下流側で枝分かれ状に分岐していて、その枝分かれした各分岐油路34の末端が個別に複数の潤滑剤吐出口41の一つに連通されており、分岐開始点36と潤滑剤吐出口41との間の各油路長さと、分岐開始点36と潤滑剤吐出口41との間に存在する分岐点37の数とが、全ての潤滑剤吐出口41について同一である。なお、本実施形態の例では、第二の油路形成部材33に形成された複数の潤滑剤吐出口41は、ように、溝35をそのまま案内レール1の側面1aに対向する方向に延長することによって形成されている。
【0034】
ここで、特に本実施形態の例では、スライダ2の他方の腕部6Uの端面6tと第二の油路形成部材33との界面部分の、スライダ6の軸方向中央位置且つ第二の油路形成部材33の幅方向中央位置に分岐開始点36を配するとともに、この分岐開始点36から潤滑剤吐出口41までの間に、軸方向両端部に向かう方向へ二股に分岐するT字状の分岐点37を複数段階に配することで、分岐する油路の枝分かれ形状を、分岐開始点36から下流側に向かって逐次二股に分岐していく形状としている。これにより第二の潤滑剤供給機構が構成される。なお、本実施形態の例は、第二の油路形成部材33に、軸方向両端部に向かう方向へ二股に分岐する分岐点37を、二段階に配した例である。
【0035】
次に、このリニアガイドの作用・効果、並びにこのリニアガイドの使用例およびその作用・効果について説明する。
上述のように、このリニアガイドは、左右両腕部6L、6Uの転動体転動路13それぞれに対して潤滑剤が導入される複数の潤滑剤吐出口40、41に、二つの潤滑剤導入口21、31から別個の供給ルートで潤滑剤をそれぞれ導くことができるので、左右両腕部6L、6Uの転動体転動路13の軸方向全域に潤滑剤を供給することができる。
【0036】
そして、この別個の供給ルートは、第一の潤滑剤導入口21が、平板部7内に形成されるとともに案内レール1側を向く面に開口する第一の導入油路22と連通され、この第一の導入油路22が、左右両腕部6L、6Uのうちの一方の腕部6L側に形成される転動体転動路13に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口40に第一の分岐油路24を介して連通されており、第二の潤滑剤導入口31が、左右両腕部6L、6Uのうちの他方の腕部6U内に形成されるとともに当該他方の腕部6Uの端面6tに開口する第二の導入油路32と連通され、この第二の導入油路32が、他方の腕部6U側に形成される転動体転動路13に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口41に、第二の分岐油路34を介して連通されているので、例えば、このリニアガイドの使用例として、スライダ2を、その左右両腕部6L、6Uを上下方向とする立てた姿勢で使用して、その使用姿勢において、第一の潤滑剤導入口21と第一の導入油路22を含む第一の潤滑剤供給機構が上下方向下側に位置されるとともに、第二の潤滑剤導入口31と第二の導入油路32を含む第二の潤滑剤供給機構が上下方向上側に位置されるようにすることによって、リニアガイドが壁掛け姿勢かつ油潤滑の条件で使用した場合であっても、転動体転動路13の軸方向全域に潤滑剤を供給することができる。
【0037】
換言すれば、このリニアガイドによれば、スライダ2がその左右両腕部6L、6Uを上下方向とする立てた姿勢で使用され、その使用姿勢において、第一の潤滑剤導入口21と第一の導入油路22を含む油路の潤滑剤吐出口40が、第二の潤滑剤導入口31と第二の導入油路32を含む油路の潤滑剤吐出口41よりも上下方向下側に位置される構成であれば、特に、リニアガイドが壁掛け姿勢かつ油潤滑の条件で使用した場合であっても、左右の転動体転動路13の軸方向全域に潤滑剤を供給する上で好適である。
【0038】
また、上記リニアガイドによれば、複数の潤滑剤吐出口40、41が、軸方向に間隔を空けつつ転動体転動路13に沿って配置されているので、転動体転動路13の軸方向全域に均一に潤滑剤を供給する上でより好適である。
さらに、上記リニアガイドによれば、各分岐油路24、34が、第一の導入油路22および第二の導入油路32の下流側の分岐開始点26、36からそれぞれ下流側で枝分かれ状に分岐していて、その枝分かれした各分岐油路24、34の末端が個別に前記複数の潤滑剤吐出口40、41の一つに連通されており、分岐開始点26、36と潤滑剤吐出口40、41との間の各油路長さと、分岐開始点26、36と潤滑剤吐出口40、41との間に存在する分岐点27、37の数とが、全ての潤滑剤吐出口40、41について同一なので、転動体転動路13の軸方向全域により均一に潤滑剤を供給する上で一層好適である。
【0039】
また、上記リニアガイドによれば、スライダ2と二つの油路形成部材23、33との界面部分の、スライダ2の軸方向中央位置且つ油路形成部材23、33の幅方向中央位置に前記分岐開始点26、36を配するとともに、分岐開始点26、36から潤滑剤吐出口40、41までの間に、軸方向両端部に向かう方向へ二股に分岐する分岐点を複数段階に配することで、該分岐する油路の枝分かれ形状を、分岐開始点26、36から下流側に向かって逐次二股に分岐していく形状としているので、転動体転動路13の軸方向全域に均一に潤滑剤を供給する分岐油路を構成する上で好ましい。
なお、本発明に係る直動案内装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
【0040】
例えば、上記実施形態では、第一の油路形成部材23に形成された複数の潤滑剤吐出口40が、面取り部23aに穿孔された斜めの孔によって形成されている例で説明したが、これに限らず、図9に変形例を示すように、第二の油路形成部材33に形成された複数の潤滑剤吐出口41同様に、溝25をそのまま案内レール1の側面1aに対向する方向に延長することによって複数の潤滑剤吐出口40を形成してもよい。しかし、腕部6L側の転動体転動路13に対向するように潤滑剤吐出口40を形成する上では、腕部6L側の転動体転動路13を向く角部に面取り部23aを形成し、この面取り部23aに穿孔された斜めの孔によって複数の潤滑剤吐出口40を設けることは好ましい。
【0041】
また、例えば上記実施形態では、二つの油路形成部材23、33に、軸方向両端部に向かう方向へ二股に分岐する分岐点27、37を、それぞれ二段階に配した例で説明したが、これに限らず、一段階であってもよいし、あるいは図10に例示するように三段階以上の多段階であってもよい。なお、図10は、第一の油路形成部材23に形成された溝25(第一の分岐油路24)が、三段階に分岐する例である。
【符号の説明】
【0042】
1 案内レール
2 スライダ
2A スライダ本体
2B エンドキャップ
3 転動体
5 サイドシール
6 腕部
7 平板部
10 (案内レールの)転動体転動溝
11 (スライダの)転動体転動溝
13 転動体転動路
14 戻し通路
21 第一の潤滑剤導入口
22 第一の導入油路
23 第一の油路形成部材
24 第一の分岐油路
25 溝
26 分岐開始点
27 分岐点
28 取付孔
29 取付ねじ
31 第二の潤滑剤導入口
32 第二の導入油路
33 第二の油路形成部材
34 第二の分岐油路
35 溝
36 分岐開始点
37 分岐点
38 取付孔
39 取付ねじ
40、41 潤滑剤吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる転動体軌道面を左右に有する案内レールと、該案内レールに沿って相対移動可能なスライダとを備え、該スライダが、前記軸方向に延びる平板部と該平板部の左右両側部からそれぞれ同一方向に延びる腕部とからなって横断面形状が略コ字状をなし、前記左右両腕部の間に前記案内レールを挟むように前記案内レールに跨設され、前記案内レールの左右の転動体軌道面に対向する転動体軌道面を前記左右両腕部にそれぞれ有するとともに、前記案内レールの左右の転動体軌道面及び前記スライダの左右両腕部の転動体軌道面の間に形成される左右の転動体転動路内に複数の転動体が転動自在にそれぞれ配される直動案内装置であって、
前記スライダは、当該スライダの外面に開口して潤滑剤が導入される二つの潤滑剤導入口を備え、
第一の潤滑剤導入口は、前記平板部内に形成されるとともに前記案内レール側を向く面に開口する第一の導入油路と連通され、当該第一の導入油路が、前記左右両腕部のうちの一方の腕部側に形成される転動体転動路に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口に第一の分岐油路を介して連通されており、
第二の潤滑剤導入口は、前記左右両腕部のうちの他方の腕部内に形成されるとともに当該他方の腕部の端面に開口する第二の導入油路と連通され、当該第二の導入油路が、前記他方の腕部側に形成される転動体転動路に潤滑剤を供給する複数の潤滑剤吐出口に、第二の分岐油路を介して連通されていることを特徴とする直動案内装置。
【請求項2】
表面に溝を備える二つの油路形成部材を備え、
第一の油路形成部材は、前記溝を備える表面を前記平板部の案内レール側を向く面に向けて前記平板部に取り付け、前記平板部と前記第一の油路形成部材との間に前記溝によって前記第一の分岐油路を形成し、
第二の油路形成部材は、前記溝を備える表面を前記他方の腕部の端面に向けて当該他方の腕部に取り付け、当該他方の腕部と前記第二の油路形成部材との間に前記溝によって前記第二の分岐油路を形成してなることを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項3】
前記複数の潤滑剤吐出口は、前記軸方向に間隔を空けつつ前記転動体転動路に沿って配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の直動案内装置。
【請求項4】
前記各分岐油路は、前記第一の導入油路および前記第二の導入油路の下流側の分岐開始点からそれぞれ下流側で枝分かれ状に分岐していて、その枝分かれした各分岐油路の末端が個別に前記複数の潤滑剤吐出口の一つに連通されており、前記分岐開始点と前記潤滑剤吐出口との間の各油路長さと、前記分岐開始点と前記潤滑剤吐出口との間に存在する分岐点の数とが、全ての前記潤滑剤吐出口について同一であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の直動案内装置。
【請求項5】
前記スライダと前記二つの油路形成部材との界面部分の、前記スライダの軸方向中央位置且つ油路形成部材の幅方向中央位置に前記分岐開始点を配するとともに、前記分岐開始点から前記潤滑剤吐出口までの間に、軸方向両端部に向かう方向へ二股に分岐する分岐点を複数段階に配することで、該分岐する油路の枝分かれ形状を、前記分岐開始点から下流側に向かって逐次二股に分岐していく形状としたことを特徴とする請求項4に記載の直動案内装置。
【請求項6】
前記スライダがその左右両腕部を上下方向とする立てた姿勢で使用されるものであり、その使用姿勢において、前記第一の潤滑剤導入口と第一の油路を含む油路の潤滑剤吐出口が、前記第二の潤滑剤導入口と第二の油路を含む油路の潤滑剤吐出口よりも上下方向下側に位置されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の直動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−104460(P2013−104460A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247397(P2011−247397)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】