説明

直動装置

【課題】掬部先端と転動体との衝突に起因する騒音を極めて小さくできる極めて実用性に秀れた直動装置の提供。
【解決手段】軸1と該軸1に被嵌される外筒2と該軸1及び外筒2の間に設けられる転動体保持器3と該転動体保持器3により保持される転動体4とから成り、前記転動体保持器3の転動溝5と前記外筒2と前記軸1とで前記転動体4が移動する負荷部6が設けられ、この負荷部6はリターン部7を介して無負荷部8と連通せしめられた直動装置であって、前記転動体保持器3は黄銅製、リン青銅製若しくはステンレス鋼製であり、この転動体保持器3の前記転動溝5の両端部には前記負荷部6を移動する前記転動体4を掬い上げてリターン部7側へ移動せしめる掬部9が夫々設けられ、この掬部9の掬い上げ傾斜角度αは0〜20°に設定されている直動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に開示されるような、軸と、この軸に被嵌される外筒と、この軸及び外筒の間に設けられる転動体保持器と、この転動体保持器により保持される転動体とから成り、前記転動体保持器の転動溝と前記外筒と前記軸とで前記転動体が移動する負荷部が設けられ、この負荷部はリターン部を介して無負荷部と連通せしめられ、この負荷部と無負荷部と左右のリターン部とで転動体無限循環路が形成された直動装置がある。
【0003】
ところで、上記直動装置においては、負荷路の転動体をスムーズにリターン部及び無負荷部へと移動させるため、転動体保持器の転動溝の両端には転動体を掬い上げる掬部が設けられている。
【0004】
この掬部はボールを掬い上げてリターン部へスムーズに移動させるため、その先端の掬い上げ傾斜角度は可及的に小さい傾斜角度とすることが望ましいが、傾斜角度を小さくする程先端が肉薄となり、破損し易くなってしまうため、ある程度の厚さを確保する必要がある(一般的に、転動体保持器は、成形性・コスト性の面から合成樹脂製のものが採用されることが多く、強度に不安があり、耐久性を考慮すると掬部は肉厚になりがちである。)。
【0005】
一方、掬部の先端を厚くした場合には、外筒を直線移動させることで循環するボールと掬部先端との衝突時の衝撃が大きくなり、衝突に起因して大きな騒音が発生することは避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3244374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、掬部先端と転動体との衝突に起因する騒音を極めて小さくできる極めて実用性に秀れた直動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
軸1と、この軸1に被嵌される外筒2と、この外筒2の内面に係合される転動体保持器3と、この転動体保持器3により保持される転動体4とから成り、前記転動体保持器3の転動溝5と前記外筒2と前記軸1とで前記転動体4が移動する負荷部6が設けられ、この負荷部6はリターン部7を介して無負荷部8と連通せしめられ、この負荷部6と無負荷部8と左右のリターン部7とで転動体無限循環路が形成された直動装置であって、前記転動体保持器3はリン青銅製であり、この転動体保持器3の前記転動溝5の両端部には前記負荷部6を移動する前記転動体4を掬い上げてリターン部7側へ移動せしめる掬部9が夫々設けられ、この掬部9の掬い上げ傾斜角度αは0〜20°に設定されていることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0010】
また、軸1と、この軸1に被嵌される外筒2と、この外筒2の内面に係合される転動体保持器3と、この転動体保持器3により保持される転動体4とから成り、前記転動体保持器3の転動溝5と前記外筒2と前記軸1とで前記転動体4が移動する負荷部6が設けられ、この負荷部6はリターン部7を介して無負荷部8と連通せしめられ、この負荷部6と無負荷部8と左右のリターン部7とで転動体無限循環路が形成された直動装置であって、前記転動体保持器3は黄銅製であり、この転動体保持器3の前記転動溝5の両端部には前記負荷部6を移動する前記転動体4を掬い上げてリターン部7側へ移動せしめる掬部9が夫々設けられ、この掬部9の掬い上げ傾斜角度αは0〜20°に設定されていることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0011】
また、軸1と、この軸1に被嵌される外筒2と、この外筒2の内面に係合される転動体保持器3と、この転動体保持器3により保持される転動体4とから成り、前記転動体保持器3の転動溝5と前記外筒2と前記軸1とで前記転動体4が移動する負荷部6が設けられ、この負荷部6はリターン部7を介して無負荷部8と連通せしめられ、この負荷部6と無負荷部8と左右のリターン部7とで転動体無限循環路が形成された直動装置であって、前記転動体保持器3はステンレス鋼製であり、この転動体保持器3の前記転動溝5の両端部には前記負荷部6を移動する前記転動体4を掬い上げてリターン部7側へ移動せしめる掬部9が夫々設けられ、この掬部9の掬い上げ傾斜角度αは0〜20°に設定されていることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0012】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の直動装置において、前記掬部9の掬い上げ傾斜角度αは10〜18.5°に設定されていることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0013】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の直動装置において、前記外筒2には第一負荷溝10が設けられ、前記軸1には第二負荷溝11が設けられ、前記負荷部6は、前記転動体保持器3の転動溝5と前記第一負荷溝10と前記第二負荷溝11とで構成され、前記転動体4としてボールが採用されたボールスプラインであることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0014】
また、請求項5記載の直動装置において、前記転動体保持器3の掬部9同士は連結部12により連結され、前記第二負荷溝11の底部には、前記連結部12が配設される連結部配設溝13が設けられていることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の直動装置において、前記軸1は、中空軸体14と該中空軸体14に挿入される軸体15とで構成されていることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0016】
また、請求項7記載の直動装置において、前記軸体15は、前記中空軸体14に嵌合状態に挿入されていることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0017】
また、請求項7,8いずれか1項に記載の直動装置において、前記軸体15は銅合金製若しくは鋼製であることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0018】
また、請求項9記載の直動装置において、前記軸体15はリン青銅製であることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0019】
また、請求項9記載の直動装置において、前記軸体15は黄銅製であることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0020】
また、請求項7〜11いずれか1項に記載の直動装置において、前記軸体15は複数の分割軸体16で構成されていることを特徴とする直動装置に係るものである。
【0021】
また、請求項1〜12いずれか1項に記載の直動装置において、前記外筒2は鋼製であることを特徴とする直動装置に係るものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上述のように構成したから、掬部先端と転動体との衝突に起因する騒音を極めて小さくできる極めて実用性に秀れた直動装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施例の一部を切り欠いた概略説明側面図である。
【図2】本実施例の概略説明断面図である。
【図3】本実施例の要部の拡大概略説明図である。
【図4】別例の一部を切り欠いた概略説明側面図である。
【図5】別例の概略説明断面図である。
【図6】別例の要部の拡大概略説明図である。
【図7】本実施例の軸の一部を切り欠いた概略説明図である。
【図8】実験結果を示すグラフである。
【図9】実験結果を示すグラフである。
【図10】実験結果を示すグラフである。
【図11】実験結果を示すグラフである。
【図12】実験結果を示すグラフである。
【図13】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0025】
転動体保持器3を黄銅製、リン青銅製若しくはステンレス鋼製とすることで、合成樹脂製の転動体保持器に比し、掬部9の掬い上げ傾斜角度を小さくしても該掬部9が破損し難くなる。更に、転動体保持器3を黄銅製、リン青銅製若しくはステンレス鋼製とすることで、外筒2との間のすべり摩擦を増大させ、外筒2の振動減衰性を大きくすることができる。
【0026】
従って、掬部9の掬い上げ傾斜角度αを小さくすることで転動体4と掬部9先端とが衝突した際の衝撃が弱まるのは勿論、更にこの衝撃による振動が急激に減衰せしめられるから、掬部9先端と転動体4との衝突に起因する騒音が従来に比し極めて小さくなる。
【0027】
また、例えば軸1を中空軸体14と該中空軸体14に挿入される軸体15とで構成した場合には、この中空軸体14と軸体15とのすべり摩擦によりこの軸1も良好な振動減衰性を発揮可能となり、それだけ掬部9先端と転動体4との衝突に起因する騒音が小さくなる。
【実施例】
【0028】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。本実施例は、図1〜3に図示したように、軸1と、この軸1に被嵌される外筒2と、この軸1及び外筒2の間に設けられる転動体保持器3と、この転動体保持器3により保持される転動体4とから成り、前記転動体保持器3の転動溝5と前記外筒2と前記軸1とで前記転動体4が移動する負荷部6が設けられ、この負荷部6はリターン部7を介して無負荷部8と連通せしめられ、この負荷部6と無負荷部8と左右のリターン部7とで転動体無限循環路が形成された直動装置であって、前記転動体保持器3は黄銅製、リン青銅製若しくはステンレス鋼製であり、この転動体保持器3の前記転動溝5の両端部には前記負荷部6を移動する前記転動体4を掬い上げてリターン部7側へ移動せしめる掬部9が夫々設けられ、この掬部9の掬い上げ傾斜角度αは0〜20°に設定されているものである。
【0029】
各部を具体的に説明する。
【0030】
軸1は、図7に図示したように、円筒状の中空軸体14と該中空軸体14に挿入され該中空軸体14とは異なる材料から成る円柱状の中実軸体15とで構成されている。また、軸1にして後記転動体保持器3の転動溝5に配設される転動体4(ボール)と接触する部位には夫々直線状の第二負荷溝11が形成されている(即ち、本実施例は所謂ボールスプラインである。)。
【0031】
具体的には、中空軸体14は鋼製であり、中実軸体15は銅合金製(リン青銅若しくは黄銅製が特に好ましい。)で複数の分割中実軸体16から成り、また、中実軸体15は、中空軸体14に嵌合状態に挿入されている。尚、本実施例においては軸体15として中実軸体15を採用しているが、用途に応じて適宜流体流通用の孔などが形成された中空軸体を採用しても良い。図中、符号17は止めネジである。
【0032】
従って、軸1に振動が加えられると中空軸体14に対して中実軸体15が微動し、中空軸体14の内面と該中空軸体とは異種材料である中実軸体15の外面とですべり摩擦が生じることで、一般的な単なる一の中実軸体から成る軸に比し振動減衰性が向上する。尚、本実施例においては可及的に大きな振動減衰性を得るため、中空軸体14と中実軸体15とは異なる材料としているが、同じ材料としても良い。
【0033】
即ち、掬部9と転動体4とが衝突した際に生じる振動が、中空軸体14と中実軸体15とのすべり摩擦により良好に減衰せしめられることになる。特に、本実施例においては分割中実軸体16を採用しているから、複数の中実軸体16の界面同士でも摩擦が生じ、振動減衰性が一層向上する。
【0034】
外筒2は、鋼製の円筒状体であり、この外筒2の内面にはリン青銅製の転動体保持器3が係合される。また、外筒2の内面にして転動体保持器3の転動溝5に配設される転動体4と接触する部位には第一負荷溝10が設けられている。
【0035】
この場合、転動体保持器3が従来一般的に使用されていた合成樹脂製(ポリアセタール製)の転動体保持器に比し、この転動体保持器3が取り付けられる外筒2の振動減衰特性が向上し(後述の実験例参照)、よって、掬部9と転動体4とが衝突した際に生じる振動が良好に減衰せしめられることになる。
【0036】
尚、図中、符号18は転動体保持器3を外筒2に取り付ける取り付け部材、19は軸1と外筒2との間に異物が侵入することを防止するシール部材である。
【0037】
転動体保持器3は、リン青銅製の円筒状体であり、負荷部6を構成する直線状の転動溝5と、リターン部7を構成する半円弧状のリターン溝20と、無負荷部8を構成する直線状の無負荷溝21とが楕円状の転動体無限循環部を構成するように連設形成されている。転動体保持器3には、この転動溝5、リターン溝20及び無負荷溝21から成る転動体無限循環部が計4つ設けられている。尚、本実施例においては、複数の分割体(断面視半円状の2つの分割体(図示省略))から成る所謂セパレートタイプの転動体保持器を採用している。従って、各分割体同士の界面の摩擦により一層振動減衰特性が増加する。また、リン青銅製でなく、黄銅製若しくはステンレス鋼製の転動体保持器3を採用しても良い。
【0038】
この転動溝5は貫通溝に構成され、この転動溝5に配設された転動体4の一部が軸1側に突出して軸1の第二負荷溝11と接触し得るように構成されている。従って、上述のように外筒2の内面にして転動溝5に配設される転動体4が接触する部位には第一負荷溝10が形成されているから、転動体保持器の転動溝5と外筒2の第一負荷溝10と軸1の第二負荷溝11とで負荷部6が構成されることになる。
【0039】
尚、リターン溝20及び無負荷溝21は非貫通溝に構成され、リターン溝20と外筒2の内面とによりリターン部7が構成され、無負荷溝21と外筒2の内面とにより無負荷部8が構成されている。また、リターン溝20と無負荷溝21とは段差がないように滑らかに連設される。
【0040】
また、外筒2を軸1に対して直線移動させると、負荷部6に位置する転動体4は、外筒2の移動方向とは逆方向側のリターン部7を通じて無負荷部8へと移動する。この際、貫通溝たる転動溝5に位置する転動体4は、この転動溝5の両端に設けられる平面視スコップ状(丸みを帯びた三角形状)の掬部9(の一方側)によって掬い上げられて非貫通溝たるリターン部7へと移動する。
【0041】
尚、図中、符号22は、直線状の第一負荷溝10とリターン部7との間に設けられる傾斜部であり、この傾斜部22の傾斜角度βは掬部9の掬い上げ傾斜角度α以下の大きさに設定される。本実施例においては掬部9の掬い上げ傾斜角度αと同じ角度に設定されている。
【0042】
本実施例においては、掬部9の掬い上げ傾斜角度αは、0〜20°に設定される。後述する実験結果を踏まえると18.5°以下に設定するのが好ましいことが確認されている。ここで、掬部9と転動体4との衝突の際の衝撃力を小さくすべく掬い上げ傾斜角度αを小さくした場合、掬部9の強度不足が問題となるが、本実施例においては転動体保持器3として黄銅製、リン青銅製若しくはステンレス鋼製のものを採用しているため、十分な強度が発揮される。
【0043】
ここで、掬い上げ傾斜角度αに0°が含まれる理由は、掬部9が側面視において直線形状でない場合、具体的には、掬部9の先端側を下に凸な湾曲円弧状とし基端側を上に凸な湾曲円弧状として両円弧を滑らかに繋いだ所謂Rつなぎ形状とした場合には、理論上、掬部9先端における傾斜角度が0°となるからである。
【0044】
尚、本実施例においては、上述のような軸1及び転動体保持器3を採用しているが、他の構成、例えば図4〜6に図示した別例のように、転動体保持器3の掬部9の先端部同士を連結部12により連結して、第二負荷溝11の底部に、この連結部12が配設される連結部配設溝13を設けた構成とする等、他の構成としても良い。
【0045】
一般的には例えば図3に図示したように軸1の第二負荷溝11底面と掬部9の底面との間には必ず微小な隙間dが存在するため、掬い上げ初期には掬部9の先端と転動体4が接触することは避けられないが、この別例の場合、図6に図示したように連結部12と(軸1の第二負荷溝11より更に深い)連結部配設溝13の存在により、掬部9先端を連結部配設溝13内に位置せしめ、転動体が掬部9の傾斜途中部9aと接触して掬い上げられるように構成することが可能となり、脆い掬部9先端に直接転動体4が衝突せず、また、それだけ滑らかな掬い上げが可能となり、それだけ騒音が低減される。
【0046】
尚、この別例の場合、連結部12がなくとも、掬部9を図3の構成に比し下方に延ばし、この掬部9先端を連結部配設溝13に相当する溝に配設すれば同様の効果が発揮されるが、下方に延ばした分だけ掬部9の強度が低下するため、連結部12により両端の掬部9先端を連結して補強した方が好ましい。
【0047】
本実施例は上述のように構成したから、転動体保持器3を黄銅製、リン青銅製若しくはステンレス鋼製とすることで、合成樹脂製の転動体保持器に比し、掬部9の掬い上げ傾斜角度を小さくしても該掬部9が破損し難くなる。更に、転動体保持器3を黄銅製、リン青銅製若しくはステンレス鋼製とすることで、外筒2との間のすべり摩擦を増大させ、外筒2の振動減衰性を大きくすることができる。
【0048】
従って、掬部9の掬い上げ傾斜角度αを小さくすることで転動体4と掬部9先端とが衝突した際の衝撃力が弱まるのは勿論、更にこの衝撃力が急激に減衰せしめられるから、掬部9先端と転動体4との衝突に起因する騒音が従来に比し極めて小さくなる。
【0049】
また、軸1を中空軸体14と該中空軸体14に挿入され該中空軸体14とは異なる材料から成る中実軸体15とで構成したから、この中空軸体14と中実軸体15とのすべり摩擦によりこの軸1も良好な振動減衰性を発揮可能となり、それだけ掬部9先端と転動体4との衝突に起因する騒音が小さくなる。
【0050】
従って、本実施例は、掬部先端と転動体との衝突に起因する騒音を極めて小さくできる極めて実用性に秀れたものとなる。
【0051】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0052】
図8は、ボールスプラインにおいて一般的な黄銅製の転動体保持器を用い、掬部の傾斜角度を種々変化させたものを直動させて夫々のオーバーオール音圧レベル(騒音の大きさ)を調べた結果である。尚、直線〜°とは、図3,6に図示したように掬部9の傾斜部分を側面視直線形状としたものである。
【0053】
図8より、傾斜角度を小さくすることで騒音の大きさが低減することが分かる。特に、直線10°及び直線18.5°では、特に騒音の大きくなる高速度時にRつなぎよりも大幅に騒音を低減できることが確認できた。
【0054】
また、図9は、樹脂製(ポリアセタール製)保持器と黄銅製(C3602製)保持器とリン青銅製(C5191B製)保持器とステンレス鋼製(SUS303製)保持器を、夫々鋼製の外筒に組み付けて直線移動させた際の騒音の大きさを調べた結果である。
【0055】
図9より、樹脂製保持器に比し黄銅製,リン青銅製及びステンレス鋼製の保持器は騒音が小さくなることが確認できた。
【0056】
また、図10は、上記各保持器を夫々鋼製の外筒に組み付けた際に各保持器の材質が及ぼす音のスペクトルの影響を調べた結果である。
【0057】
図10より、樹脂製保持器に比し黄銅製,リン青銅製及びステンレス鋼製の保持器は可聴周波数領域全域で音圧レベルが低減することが確認できた。
【0058】
また、図11は、上記各保持器を夫々鋼製の外筒に組み付け、この外筒に所定の加振力を加えた場合の減衰波形を調べた結果である。
【0059】
図11より、樹脂製保持器に比し黄銅製,リン青銅製及びステンレス鋼製の保持器は秀れた振動減衰性を発揮することが確認できた。
【0060】
また、図12は、上記各保持器を夫々鋼製の外筒に組み付けた際のアクセレランスを調べた結果である。
【0061】
図12より、樹脂製保持器に比し黄銅製,リン青銅製及びステンレス鋼製の保持器はよりブロードな特性を示し、秀れた振動減衰性を発揮することが確認できた。
【0062】
また、図13は、上記各保持器を夫々鋼製の外筒に組み付けた際の減衰比を調べた結果である。
【0063】
図13より、樹脂製保持器に比し黄銅製,リン青銅製及びステンレス鋼製の保持器はより大きな減衰比を示し、秀れた振動減衰性を発揮することが確認できた。
【0064】
以上より、掬部の傾斜角度を18.5°以下とすると共に黄銅製、リン青銅製若しくはステンレス鋼製の保持器を用いた本実施例は、従来の保持器を用いたボールスプラインに比し、騒音を著しく低減することが可能となることが確認できた。また、特にステンレス鋼製では一層顕著な騒音低減効果を得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0065】
1 軸
2 外筒
3 転動体保持器
4 転動体
5 転動溝
6 負荷部
7 リターン部
8 無負荷部
9 掬部
10 第一負荷溝
11 第二負荷溝
12 連結部
13 連結部配設溝
14 中実軸体
15 軸体
16 分割軸体
α 掬い上げ傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、この軸に被嵌される外筒と、この外筒の内面に係合される転動体保持器と、この転動体保持器により保持される転動体とから成り、前記転動体保持器の転動溝と前記外筒と前記軸とで前記転動体が移動する負荷部が設けられ、この負荷部はリターン部を介して無負荷部と連通せしめられ、この負荷部と無負荷部と左右のリターン部とで転動体無限循環路が形成された直動装置であって、前記転動体保持器はリン青銅製であり、この転動体保持器の前記転動溝の両端部には前記負荷部を移動する前記転動体を掬い上げてリターン部側へ移動せしめる掬部が夫々設けられ、この掬部の掬い上げ傾斜角度は0〜20°に設定されていることを特徴とする直動装置。
【請求項2】
軸と、この軸に被嵌される外筒と、この外筒の内面に係合される転動体保持器と、この転動体保持器により保持される転動体とから成り、前記転動体保持器の転動溝と前記外筒と前記軸とで前記転動体が移動する負荷部が設けられ、この負荷部はリターン部を介して無負荷部と連通せしめられ、この負荷部と無負荷部と左右のリターン部とで転動体無限循環路が形成された直動装置であって、前記転動体保持器は黄銅製であり、この転動体保持器の前記転動溝の両端部には前記負荷部を移動する前記転動体を掬い上げてリターン部側へ移動せしめる掬部が夫々設けられ、この掬部の掬い上げ傾斜角度は0〜20°に設定されていることを特徴とする直動装置。
【請求項3】
軸と、この軸に被嵌される外筒と、この外筒の内面に係合される転動体保持器と、この転動体保持器により保持される転動体とから成り、前記転動体保持器の転動溝と前記外筒と前記軸とで前記転動体が移動する負荷部が設けられ、この負荷部はリターン部を介して無負荷部と連通せしめられ、この負荷部と無負荷部と左右のリターン部とで転動体無限循環路が形成された直動装置であって、前記転動体保持器はステンレス鋼製であり、この転動体保持器の前記転動溝の両端部には前記負荷部を移動する前記転動体を掬い上げてリターン部側へ移動せしめる掬部が夫々設けられ、この掬部の掬い上げ傾斜角度は0〜20°に設定されていることを特徴とする直動装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の直動装置において、前記掬部の掬い上げ傾斜角度は10〜18.5°に設定されていることを特徴とする直動装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の直動装置において、前記外筒には第一負荷溝が設けられ、前記軸には第二負荷溝が設けられ、前記負荷部は、前記転動体保持器の転動溝と前記第一負荷溝と前記第二負荷溝とで構成され、前記転動体としてボールが採用されたボールスプラインであることを特徴とする直動装置。
【請求項6】
請求項5記載の直動装置において、前記転動体保持器の掬部同士は連結部により連結され、前記第二負荷溝の底部には、前記連結部が配設される連結部配設溝が設けられていることを特徴とする直動装置。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の直動装置において、前記軸は、中空軸体と該中空軸体に挿入される軸体とで構成されていることを特徴とする直動装置。
【請求項8】
請求項7記載の直動装置において、前記軸体は、前記中空軸体に嵌合状態に挿入されていることを特徴とする直動装置。
【請求項9】
請求項7,8いずれか1項に記載の直動装置において、前記軸体は銅合金製若しくは鋼製であることを特徴とする直動装置。
【請求項10】
請求項9記載の直動装置において、前記軸体はリン青銅製であることを特徴とする直動装置。
【請求項11】
請求項9記載の直動装置において、前記軸体は黄銅製であることを特徴とする直動装置。
【請求項12】
請求項7〜11いずれか1項に記載の直動装置において、前記軸体は複数の分割軸体で構成されていることを特徴とする直動装置。
【請求項13】
請求項1〜12いずれか1項に記載の直動装置において、前記外筒は鋼製であることを特徴とする直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−33199(P2011−33199A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256118(P2010−256118)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【分割の表示】特願2007−311595(P2007−311595)の分割
【原出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(591077818)日本ベアリング株式会社 (19)
【Fターム(参考)】