説明

直動軸受装置

【課題】リテーナと軸部又はスリーブとの面当りを防止することで軸部とスリーブとの相対移動に際して摺動抵抗の更なる低減を可能にする直動軸受装置を提供する。
【解決手段】本直動軸受装置1は、軸部2と筒状のスリーブ3との間隙Sに、転動体4を保持するリテーナ5が遊嵌されている。リテーナ5の内周面には、周方向の等間隔位置に、軸部2の外周面に当接可能な丸形凸部53が軸線方向に形成される。リテーナ5は、周方向へのふら付きが抑制され、軸部2やスリーブ3と面当りすることがない。よって、軸部2とスリーブ3との相対移動に際して摺動抵抗が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動軸受装置、特に軸とこれに挿通するスリーブとの間に介装されるリテーナの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図6に示すように、直動軸受装置100としては、軸部102とこれに挿通するスリーブ103との間隙Sに筒体のリテーナ105を遊嵌し、このリテーナ105に転動体104を保持したものがある。この直動軸受装置100は、転動体104が軸部102の外周面とスリーブ103の内周面との間隙Sに予圧状態で介在されて転がり接触することから、軸部102とスリーブ103との間の摺動抵抗が低く抑えられる。また、軸部102とスリーブ103との間隙S内には、潤滑剤が供給されて転動体104における摩擦抵抗が低く抑えられている。従って、このような直動軸受装置100は、軸部102とスリーブ103とが軽く軽快に繰り返し直動往復移動することができる。
【特許文献1】特開2000−249145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記リテーナ105は、これに保持する転動体104が転動することによって軸部102の軸線方向に往復移動する。このリテーナ105は、軸部102とスリーブ103との間隙Sに遊嵌されているので、往復移動の間に周方向にふら付いて軸部102の軸中心に対して偏心する。そして時には、リテーナ105の内周面の一部が軸部102の外周面に面当り(面接触)することがあり、軸部102とリテーナ105との間で摺動抵抗となる(図6(b)参照)。すると、リテーナ105が円滑に往復移動できず転動体104の円滑な転動が妨げられ、そのため、軸部102とスリーブ103との相対移動が重くなり、軽く軽快な直動が安定して得られなくなる。
【0004】
また、リテーナ105の内周面の一部が軸部102の外周面に面当りした状態で、リテーナ105が軸部102の軸線方向に往復移動すると、軸部102の外周面に塗布された潤滑剤が掻き採られるような場合もある。すると、潤滑剤切れが早まり、軸部102とスリーブ103との円滑な相対移動が得られなくなる。
なお、リテーナ105の外周面の一部がスリーブ103の内周面と面当りすることによっても、リテーナ105とスリーブ103との間で上記同様の問題が起こる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、リテーナが軸部やスリーブと面当りすることを防止して、軸部とスリーブとの相対移動に際して摺動抵抗の更なる低減を可能にする直動軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る直動軸受装置は、
軸部とこれに挿通するスリーブとの間隙に筒体のリテーナを遊嵌し、このリテーナに転動体を保持した直動軸受装置であって、
上記リテーナの内周面には、周方向の等間隔位置の少なくとも3箇所に、上記軸部の外周面に当接可能な丸形凸部が軸線方向に形成されていることを特徴とする。
上記各丸形凸部の高さは、例えば、上記リテーナが周方向に偏心移動しても上記スリーブ内周面に当らない範囲で設定される。
【0007】
上記構成より、上記丸形凸部が軸部の外周面に当接することで、リテーナは、周方向へのふら付きが抑制され、軸部やスリーブと面当りすることがない。また、この丸形凸部は、丸く形成されているから、軸部に当接しても点当りか線当りにしかならないので、大きな摺動抵抗となることもない。従って、軸部とスリーブとの相対移動に際して、リテーナの面当りによる摺動抵抗が生じず、摺動抵抗が低減される。しかも、上記丸形凸部によってリテーナと軸部やスリーブとの面当りが防止されるので、軸部外周面やスリーブ内周面の潤滑剤が掻き採られることもない。
【0008】
また、上記リテーナの内周面または外周面には、上記転動体を保持する軸線位置に、潤滑剤を保持可能な凹溝がリテーナの両開口端に至る軸線方向全長にわたって形成されていてもよい。
これにより、軸部とスリーブとの間隙に供給された潤滑剤が凹溝内に保持される。この凹溝は、転動体を保持する軸線位置に形成されているので、凹溝内に保持された潤滑剤が転動体に確実に供給され、転動体における摩擦抵抗の低減状態を長期にわたって維持することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る直動軸受装置によれば、リテーナの面当りが防止されるので、更なる摺動抵抗の低減が実現され、軽くて軽快な直動が長期にわたって安定して得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1から図3に示すように、実施の形態による直動軸受装置1は、多角形の軸部2に対して、多角形断面の挿通孔30を有する筒状のスリーブ3が挿通され、軸部2とスリーブ3との間隙S内に、多数のローラ4(転動体)を保持した多角形筒体からなるリテーナ5が遊嵌された構成を備える。
【0011】
軸部2は、外周面が六角形となっており、この外周面の平面部21間における各頂部22は、円弧状に丸く形成されている。スリーブ3の内周面も、軸部2の外周面に合わせて六角形に形成されており、軸部2の各平面部21と対向する部分が平面部31となっている。
【0012】
リテーナ5は、軸部2とスリーブ3との間隙Sの形状に合わせて六角形の筒体で構成されており、周壁50の各平面部51には、ローラ4を保持するための貫通孔52が多数並設されている。従って、リテーナ5に保持された多数のローラ4は、軸部2の各平面部21の位置に対応して配置され、軸部2外周面の平面部21とスリーブ3内周面の平面部31との間に転がり接触状態に対面されている。なお、軸部2の平面部21とスリーブ3の平面部31との間隙Sの間隔が、ローラ4のローラ4径よりも僅かに狭く形成されており、各ローラ4は、軸部2とスリーブ3との間隙S内では予圧がかかった状態で保持されている。
【0013】
そして、このリテーナ5の内周面には、6箇所の各屈曲部分において軸部2外周面の各頂部22に当接可能な丸形凸部53が形成されている。これら丸形凸部53は、リテーナ5の軸線方向全長にわたって畝状に形成されている。また、各丸形凸部53の高さは、リテーナ5が周方向に偏心移動してもスリーブ3内周面に当らない範囲で設定でき、その限りで、丸形凸部53の頂部間を結んだ内径が、軸部2の頂部22間を結んだ外径と一致するか、これより大きくなるように設定できる。
【0014】
これにより、リテーナ5が周方向にふら付こうとしても、丸形凸部53が軸部2の外周面(頂部22)に当接するので、リテーナ5は、軸部2とスリーブ3との間隙S内の所定位置に配置され、軸部2やスリーブ3と面当りすることがない。また、これら丸形凸部53は、丸く形成されているから、軸部2に当接しても線当りにしかならないので、これが大きな摺動抵抗となることもない。従って、軸部2とスリーブ3との相対移動に際して、リテーナ5の面当りによる摺動抵抗が生じることがなく、摺動抵抗が低減される。しかも、上記丸形凸部53によってリテーナ5と軸部2やスリーブ3との面当りが防止されるので、軸部2の外周面やスリーブ3の内周面の潤滑剤が掻き採られることもない。
【0015】
また、リテーナ5の内周面には、6箇所の各平面部51において潤滑剤を保持可能な矩形状の凹溝54が形成されている。これら凹溝54は、ローラ4を保持する貫通孔52を通る軸線位置に、リテーナ5の両開口端55a,55bに至る軸線方向全長にわたって形成されている。これにより、軸部2とスリーブ3との間隙Sに供給された潤滑剤が凹溝54内に保持される。この凹溝54は、ローラ4の貫通孔52を通って形成されているので、凹溝54内に保持された潤滑剤がローラ4に確実に供給され、ローラ4における摩擦抵抗の低減状態を長期にわたって維持することができる。
【0016】
以上のような直動軸受装置1によれば、軸部2とスリーブ3との相対移動に際して、リテーナ5が周方向にふら付いて軸部2外周面やスリーブ3内周面に面当りして摺動抵抗を発生させることがない。同時に、リテーナ5によって軸部2外周面やスリーブ3内周面の潤滑剤が掻き採られることもない。しかも、リテーナ5の凹溝54内に保持された潤滑剤がローラ4に確実に供給され、ローラ4における摩擦抵抗の増大を長期にわたって防止できる。従って、この直動軸受装置1は、摺動抵抗が更に低減され、軽くて軽快な直動が長期にわたって安定して得られる。
【0017】
(適用例)
上記直動軸受装置1は、例えば、図4に示すように、金型のダイセットにおける左右一対の直動ガイド6a,6bにそれぞれ適用することができる。なお、図4中、7はポンチPを取り付けた上プレート、8はダイスDを取り付けた下プレートであり、下プレート8にはガイドポスト61(軸部2に相当)が固定され、上プレート7にはガイドブッシュ62(スリーブ3に相当)が固定され、そして、ガイドポスト61とガイドブッシュ62の間隙Sに上記リテーナ5が遊嵌されている。なお、9は、リテーナ5を下から受け止めるバネである。
【0018】
このダイセットでは、一対の直動ガイド6a,6bに上記直動軸受装置1を適用することで、左右いずれかの直動ガイド6a,6bでリテーナ5の面接触に起因した摺動抵抗が発生し、左右の直動バランスが崩れるといったこともない。従って、上プレート7と下プレート8との平行姿勢を高精度に維持して昇降移動ができ、ポンチPとダイスDとの位置合わせ精度を高精度に維持できる。しかも、軽くて軽快な直動が長期にわたって安定して得られる。
【0019】
(その他)
なお、本発明は、上記実施の形態に限らず、種々の設計変更を施すことが可能である。
例えば、図5に示すように、丸形凸部53の数は、リテーナ5の周方向の等間隔位置に少なくとも3箇所あればよい。
また、同図5に示すように、凹溝54は、リテーナ5の外周面に形成してもよいし、また、リテーナ5の内周面と外周面の両方に形成してもよい。
また、丸形凸部53の形は、畝状に連続形成されたものでなくても、ドーム状に点在されたものでもよい。この場合、ドーム状の各丸形凸部53は、軸部2とは点接触となるから、摺動抵抗が更に低減され得る。
また、リテーナ5の形は、六角形以外に、軸部2及びスリーブ3の形状に合わせて八角形等の各種の多角形形状や、円形等でもよい。
また、転動体であるローラ4は、円柱形、鼓形、太鼓形、ニードルローラ等の各種のローラを使用でき、さらに、転動体には、ローラ4に限らず、ボールを使用したものでもよい。
その他、本発明の直動軸受装置は、上記ダイセット以外に、テーブル搬送等の各種の直動ガイドに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態による直動軸受装置の外観を示す側面図である。
【図2】本実施の形態による直動軸受装置を上から見た上面図である。
【図3】本実施の形態による直動軸受装置のリテーナを示す一部断面図である。
【図4】本実施の形態による直動軸受装置を適用したダイセットの構成を示す側面図である。
【図5】他の実施の形態による直動軸受装置を上から見た上面図である。
【図6】従来の直動軸受装置を上から見た上面図であり、同図(a)はリテーナが正常位置にある状態を示し、同図(b)はリテーナが軸部と面当りした状態を示す。
【符号の説明】
【0021】
1 直動軸受装置
2 軸部
3 スリーブ
4 ローラ(転動体)
5 リテーナ
6a,6b 直動ガイド
7 上プレート
8 下プレート
53 丸形凸部
54 凹溝
61 ガイドポスト(軸部)
62 ガイドブッシュ(スリーブ)
S 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部とこれに挿通するスリーブとの間隙に筒体のリテーナを遊嵌し、このリテーナに転動体を保持した直動軸受装置であって、
上記リテーナの内周面には、周方向の等間隔位置の少なくとも3箇所に、上記軸部の外周面に当接可能な丸形凸部が軸線方向に形成されていることを特徴とする直動軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の直動軸受装置において、
上記各丸形凸部の高さは、上記リテーナが周方向に偏心移動しても上記スリーブ内周面に当らない範囲で設定されている直動軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の直動軸受装置において、
上記リテーナの内周面または外周面には、上記転動体を保持する軸線位置に、潤滑剤を保持可能な凹溝がリテーナの両開口端に至る軸線方向全長にわたって形成されていることを特徴とする直動軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−232175(P2008−232175A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68785(P2007−68785)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000100838)アイセル株式会社 (62)
【Fターム(参考)】