説明

直噴ガスエンジン

【課題】ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンにおいて、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立する。
【解決手段】ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンであって、ガス燃料を燃焼室内に直接噴射する噴射手段、ガス燃料を貯蔵するメインタンク及びサブタンク、メインタンク及びサブタンクの内圧を個別に取得するタンク内圧検出手段、メインタンクの内圧が第1所定圧以上である場合はメインタンクから噴射手段にガス燃料を供給し、メインタンクの内圧が第1所定圧未満である場合はサブタンクから噴射手段にガス燃料を供給する燃料供給源切換手段、並びにサブタンクの内圧が第2所定圧未満である場合は、メインタンクからサブタンクにガス燃料を充填してサブタンクの内圧を高める加圧手段を備えることを特徴とする直噴ガスエンジン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス燃料を燃焼室に供給し、同燃焼室において同ガス燃料を燃焼させることにより動力を取り出すエンジンにおける同ガス燃料の噴射制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガス燃料を燃焼室に供給して同ガス燃料を燃焼させることにより動力を取り出すエンジンが知られている。例えば、燃焼室に水素と酸素と作動ガスとしてのアルゴンガスとを供給して同水素を燃焼させる水素エンジンが提案されている。アルゴンガスは一つの原子からなる分子(単原子分子)である。単原子分子からなるガス(単原子分子ガス、不活性ガス)は、空気よりも比熱比が大きい。従って、アルゴンガスを作動ガスとして用いる上記水素エンジンは、非常に高い熱効率にて運転され得る(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
上述したように、アルゴンガス等の単原子分子ガスを作動ガスとするエンジンは、非常に熱効率が高い。換言すると、アルゴンガスの比熱比は非常に大きいので、燃焼室内の温度は空気を作動ガスとする場合に比べて非常に高くなる。このため、通常の火花点火燃焼(火炎伝播による燃焼)により燃料を燃焼させるとノッキング等の異常燃焼が発生する虞がある。従って、点火時期を比較的遅角側の点火時期に設定せざるを得ない。この結果、熱効率が低下する。そこで、かかるエンジンにおいて、圧縮上死点近傍にてガス燃料(例えば、水素ガス)を噴射することにより同噴射されたガス燃料を拡散燃焼させることが考えられる。
【0004】
一方、燃料としてのガス(例えば、水素ガス)は、高圧のガス状態にてタンク(例えば、ボンベ)内に貯えられる。従って、タンク内のガス燃料が消費されて減少するとタンク内のガス燃料の圧力が低下する。他方、ガス燃料(例えば、水素ガス)を拡散燃焼させるために同ガス燃料を燃焼室内に噴射する時点における同燃焼室内の圧力は非常に高くなっている。この結果、ガス燃料をタンク内の圧力を利用して燃焼室内に噴射するエンジンの場合、タンク内のガス燃料が消費されて減少すると(即ち、タンク内のガス燃料の圧力が低下すると)、ガス燃料を拡散燃焼に好適な噴射タイミングにて燃焼室内に噴射することができない。このため、ガス燃料がタンク内に残存しているにもかかわらず、ガス燃料をタンクに補給しなければエンジンの運転を継続することができないという問題が生じる。また、ガス燃料の噴射を行うための圧力(噴射手段の噴射圧、燃料噴射圧)を何らかの手段(例えば、加圧ポンプ等)により発生させている場合であっても、その圧力(即ち、噴射手段に供給されているガス燃料の圧力)が何らかの理由により低下すると、拡散燃焼に好適な噴射タイミングにてガス燃料を燃焼室内に噴射することができるレベルにまで噴射圧を高めることが困難となるので、上記と同様な問題が生じる。
【0005】
そこで、上記課題に対処するために、直噴ガスエンジンにおいて、タンク内のガス燃料の圧力(タンク内圧)が所定圧以上の場合は、酸素や作動ガスを含むガスが燃焼室内にて圧縮されている高圧縮状態にある期間内の所定の第1噴射時期にてガス燃料を燃焼室内に噴射する所謂「高圧噴射」(「圧縮行程噴射」とも称する)を行って、タンクから供給されるガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させ、タンク内圧が所定圧未満の場合は、前記高圧噴射が可能ではないため、燃焼室内の圧力(筒内圧)が前記第1噴射時期における圧力よりも低い圧力である第2噴射時期(例えば、吸気行程)にてガス燃料を燃焼室内に噴射し、且つ点火手段から所定の点火時期にて火花を発生させ、これにより、燃焼室内に噴射されたガス燃料に点火して、ガス燃料を火花点火燃焼させることが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
しかしながら、前述のように、ガス燃料(特に、水素ガス)を吸気行程噴射し、通常の火花点火燃焼(火炎伝播による燃焼)によって燃焼させると、比熱比が高い単原子分子ガス(例えば、アルゴンガス)を作動ガスとして使用する場合は特に、ノッキング等の異常燃焼が発生する虞がある。従って、点火時期を比較的遅角側の点火時期に設定したり、又は特許文献2に記載されている作動ガス循環型水素エンジンの場合は、排気ガスからの水蒸気の分離率を低下させて燃焼室に吸気される作動ガス中の水蒸気の比率を高める等の対処を行わざるを得ない。この結果、作動ガスの比熱比が低下し、エンジンの熱効率が低下するという問題が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−93681号公報
【特許文献2】特開2009−68392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述の如き課題に対処するために為されたものであり、その目的は、ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンにおいて、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、
ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンであって、
ガス燃料を燃焼室内に直接噴射する噴射手段と、
前記ガス燃料を貯蔵するメインタンク及びサブタンクと、
前記メインタンク及び前記サブタンクの内圧を個別に取得するタンク内圧検出手段と、
前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が第1所定圧以上である場合は前記メインタンクから前記噴射手段に前記ガス燃料を供給し、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第1所定圧未満である場合は前記サブタンクから前記噴射手段に前記ガス燃料を供給する燃料供給源切換手段と、
前記タンク内圧検出手段によって検出される前記サブタンクの内圧が第2所定圧未満である場合は、前記メインタンクから前記サブタンクに前記ガス燃料を充填して前記サブタンクの内圧を高める加圧手段と、
を備えること、
を特徴とする、直噴ガスエンジンによって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンにおいて、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下しても、サブタンクからガス燃料を供給することができ、且つサブタンクの内圧は、加圧手段によってメインタンクからサブタンクにガス燃料が充填されることにより所定の圧力以上に維持されるので、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンを含むシステムの概略図である。
【図2】本発明の1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明のもう1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の更にもう1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおけるタンク内圧警告手段によって実行される、ガス燃料タンクの内圧に関する警告の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御における第1所定圧と、エンジン負荷及びエンジン回転数との関係を示す模式図である。
【図6】本発明のもう1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御における加圧手段の吐出量と、サブタンクの内圧の時間微分及びサブタンクの内圧との関係を示す模式図である。
【図7】本発明の更にもう1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御における加圧手段の吐出量と、エンジン負荷及びエンジン回転数との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述のように、本発明は、ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンにおいて、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立することを目的とする。
【0013】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンにおいて、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下しても、加圧手段によってメインタンクからサブタンクにガス燃料を充填してサブタンクの内圧を高めることにより、サブタンクからガス燃料を供給することができるので、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立することができることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
【0014】
即ち、本発明の第1態様は、
ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンであって、
ガス燃料を燃焼室内に直接噴射する噴射手段と、
前記ガス燃料を貯蔵するメインタンク及びサブタンクと、
前記メインタンク及び前記サブタンクの内圧を個別に取得するタンク内圧検出手段と、
前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が第1所定圧以上である場合は前記メインタンクから前記噴射手段に前記ガス燃料を供給し、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第1所定圧未満である場合は前記サブタンクから前記噴射手段に前記ガス燃料を供給する燃料供給源切換手段と、
前記タンク内圧検出手段によって検出される前記サブタンクの内圧が第2所定圧未満である場合は、前記メインタンクから前記サブタンクに前記ガス燃料を充填して前記サブタンクの内圧を高める加圧手段と、
を備えること、
を特徴とする、直噴ガスエンジンである。
【0015】
上記直噴ガスエンジンは、ガス燃料を燃焼室に供給し、同燃焼室において同ガス燃料を燃焼させることにより動力を取り出すエンジンである。同ガス燃料としては、圧縮上死点近傍にてガス燃料を燃焼室内に噴射することにより同噴射されたガス燃料を拡散燃焼させることが可能な種々のガス燃料を使用することができる。即ち、本発明は、種々のガス燃料を用いる直噴ガスエンジンに広く適用することができる。
【0016】
上記噴射手段は、貯蔵タンクから供給されるガス燃料を同供給されたガス燃料の圧力を利用して燃焼室内に直接噴射するようになっている。即ち、上記噴射手段は、所謂「筒内噴射手段」である。かかる噴射手段は、例えば、指示信号に応答して燃焼室に露呈した噴射口を弁体により開閉し、同噴射口が同弁体により開かれたときに同噴射手段に供給されているガス燃料の圧力により同燃焼室内にガス燃料を噴射するガス燃料噴射弁とすることができる。但し、噴射手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、噴射手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0017】
上記メインタンク及びサブタンクは、ガス燃料をガス状態にて貯蔵するタンクである。かかるタンクの詳細については、当該技術分野において周知であるので、本明細書中では説明を割愛する。
【0018】
上記タンク内圧検出手段は、メインタンク及びサブタンクの内圧を個別に取得する。即ち、上記タンク内圧検出手段は、メインタンク及びサブタンクの内部に貯蔵されるガス燃料の圧力をそれぞれのタンク毎に個別に取得する。前述のように、上記噴射手段は、貯蔵タンクから供給されるガス燃料を同供給されたガス燃料の圧力を利用して燃焼室内に直接噴射するようになっていることから、タンク内圧検出手段によって検出される個々のタンク内圧は、個々のタンクから噴射手段に供給されるガス燃料の圧力に対応する圧力となる。
【0019】
尚、上記タンク内圧検出手段は、例えば、メインタンク及びサブタンクの各々に設けられる圧力センサ(例えば、静電容量方式の圧力センサ)を含む構成とすることができる。この場合、上記圧力センサは各々のタンク内のガス燃料の圧力(タンク内圧)に対応する信号を発生するので、例えば、同圧力センサを電子制御装置に接続して、同電子制御装置による種々の制御に利用することができる。因みに、電子制御装置とは、例えば、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子装置を指す。但し、タンク内圧検出手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、タンク内圧検出手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0020】
上記燃料供給源切換手段は、タンク内圧検出手段によって検出されるメインタンクの内圧が第1所定圧以上である場合はメインタンクから噴射手段にガス燃料を供給し、タンク内圧検出手段によって検出されるメインタンクの内圧が第1所定圧未満である場合はサブタンクから噴射手段にガス燃料を供給する。
【0021】
尚、上記第1所定圧とは、メインタンクの内部に貯蔵されるガス燃料を拡散燃焼に好適な噴射タイミングにて燃焼室内に噴射するのに十分に高い圧力として規定することができる。より具体的には、上記第1所定圧は、酸素や作動ガスを含むガスが燃焼室内にて圧縮されている高圧縮状態にある期間内の所定の時期にガス燃料を燃焼室内に噴射する所謂「高圧噴射」(「圧縮行程噴射」とも称する)を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を噴射手段において達成し得る圧力として規定することができる。
【0022】
即ち、上記燃料供給源切換手段は、メインタンクの内圧が拡散燃焼に好適な噴射タイミングにてガス燃料を燃焼室内に噴射するのに十分に高い場合には、メインタンクから噴射手段にガス燃料を供給し、メインタンクの内圧が拡散燃焼に好適な噴射タイミングにてガス燃料を燃焼室内に噴射するのに不十分である場合には、サブタンクから噴射手段にガス燃料を供給する。
【0023】
尚、上記燃料供給源切換手段は、例えば、メインタンク及びサブタンクから噴射手段へガス燃料を供給するガス通路(以降、単に「ガス燃料供給路」とも称する)、並びに同ガス燃料供給路上に設けられた遮断弁を含む構成とすることができる。この場合、例えば、上記遮断弁の開閉により、噴射手段へのガス燃料の供給源をメインタンク又はサブタンクの何れかに切り換えることができる。かかる遮断弁の制御は、例えば、タンク内圧検出手段によって検出されるメインタンクの内圧に対応する信号を受け、同信号に基づいて、メインタンクの内圧と第1所定圧とを比較し、同比較の結果に基づいて、遮断弁の開閉状態を制御するように構成された電子制御装置によって実現することができる。但し、燃料供給源切換手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、燃料供給源切換手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0024】
ところで、上記のように、燃料供給源切換手段は、タンク内圧検出手段によって検出されるメインタンクの内圧が第1所定圧未満である場合はサブタンクから噴射手段にガス燃料を供給する。つまり、この場合は、ガス燃料の消費等の理由によりメインタンクの内圧が低下しているにもかかわらず、サブタンクの内圧は、上述の高圧噴射を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を噴射手段において達成し得る圧力に維持される必要がある。
【0025】
従って、上記加圧手段は、タンク内圧検出手段によって検出されるサブタンクの内圧が第2所定圧未満である場合は、メインタンクからサブタンクにガス燃料を充填してサブタンクの内圧を高める。
【0026】
尚、上記第2所定圧とは、上述の第1所定圧と同様に、サブタンクの内部に貯蔵されるガス燃料を拡散燃焼に好適な噴射タイミングにて燃焼室内に噴射するのに十分に高い圧力として規定することができる。より具体的には、上記第2所定圧は、上述の第1所定圧と同様に、高圧噴射を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を噴射手段において達成し得る圧力として規定することができる。
【0027】
即ち、上記加圧手段は、タンク内圧検出手段によって検出されるサブタンクの内圧が、高圧噴射を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を噴射手段において達成し得る圧力よりも低い場合は、メインタンクからサブタンクにガス燃料を充填してサブタンクの内圧を高める。これにより、サブタンクの内圧は、上述の高圧噴射を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を噴射手段において達成し得る圧力に維持される。
【0028】
尚、上記加圧手段は、例えば、メインタンクからサブタンクへガス燃料を供給するガス通路(以降、単に「ガス燃料加圧路」とも称する)、及び同ガス燃料加圧路上に設けられた加圧装置(例えば、ガスコンプレッサ等)を含む構成とすることができる。また、上記ガス燃料加圧路は、メインタンクとサブタンクとを接続する独立したガス通路であっても、メインタンクに接続される前述のガス燃料供給路とサブタンクに接続される前述のガス燃料供給路とをバイパスするように設けられたガス通路であってもよい。あるいは、加圧装置の作動により、メインタンクからサブタンクへガス燃料を供給し、サブタンク内にガス燃料を充填して、サブタンクの内圧を高めることができる限り、ガス燃料加圧路は、これら以外の如何なる構成を有していてもよい。
【0029】
かかる加圧装置の制御は、例えば、タンク内圧検出手段によって検出されるサブタンクの内圧に対応する信号を受け、同信号に基づいて、サブタンクの内圧と第2所定圧とを比較し、同比較の結果に基づいて、加圧装置の作動状態を制御するように構成された電子制御装置によって実現することができる。但し、加圧手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、加圧手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0030】
上記構成により、本発明の第1態様に係る直噴ガスエンジンおいては、燃料供給源切換手段により、メインタンクの内圧が拡散燃焼に好適な噴射タイミングにてガス燃料を燃焼室内に噴射するのに十分に高い場合には、メインタンクから噴射手段にガス燃料が供給され、メインタンクの内圧が拡散燃焼に好適な噴射タイミングにてガス燃料を燃焼室内に噴射するのに不十分である場合には、サブタンクから噴射手段にガス燃料が供給される。加えて、サブタンクの内圧が拡散燃焼に好適な噴射タイミングにてガス燃料を燃焼室内に噴射するのに不十分である場合には、加圧手段により、メインタンクからサブタンクにガス燃料が充填され、サブタンクの内圧が高められ、上述の高圧噴射を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を噴射手段において達成し得る圧力に維持される。
【0031】
斯くして、本発明の第1態様に係る直噴ガスエンジンによれば、ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンにおいて、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下しても、サブタンクからガス燃料を供給することによって高圧噴射を持続することができ、且つサブタンクの内圧は、加圧手段によってメインタンクからサブタンクにガス燃料が充填されることにより所定の圧力以上に維持されるので、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立することができる。
【0032】
ところで、前述のように、上記ガス燃料としては、圧縮上死点近傍にてガス燃料を燃焼室内に噴射することにより同噴射されたガス燃料を拡散燃焼させることが可能である限り、種々のガス燃料を使用することができる。具体的には、上記ガス燃料としては、例えば、水素、天然ガス等を挙げることができる。
【0033】
概して、拡散燃焼させることが可能なガス燃料を通常の火花点火燃焼(火炎伝播による燃焼)により燃焼させると、ノッキング等の異常燃焼が発生する傾向が強い。従って、これらの燃料を通常の火花点火燃焼によって燃焼させようとする場合は、点火時期を比較的遅角側の点火時期に設定せざるを得ず、結果として、エンジンの熱効率が低下する。かかる傾向は、水素をガス燃料として使用する場合に特に著しい。従って、水素をガス燃料として使用する場合は、水素を圧縮上死点近傍にて噴射(高圧噴射)して拡散燃焼させることが望ましい。
【0034】
一方、本発明の前記第1態様に係る直噴ガスエンジンにおいては、前述のように、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下しても、サブタンクからガス燃料を供給することによって高圧噴射を持続することができる。つまり、本発明の前記第1態様に係る直噴ガスエンジンは、通常の火花点火燃焼においては種々のガス燃料の中でも特に異常燃焼を起こし易い水素を燃料として使用するのに、より好適なエンジンであると言うことができる。
【0035】
従って、本発明の第2態様は、本発明の前記第1態様に係る直噴ガスエンジンであって、前記ガス燃料が水素であることを特徴とする、直噴ガスエンジンである。
【0036】
尚、上記のように水素をガス燃料として使用する場合は、エンジンの燃焼室内で水素が燃焼して生ずる結果物(燃焼生成物)は水(HO)である。従って、水素をガス燃料として使用することは、環境保護の観点からも望ましい。
【0037】
ところで、前述のように、アルゴンガス等の単原子分子からなるガス(単原子分子ガス、不活性ガス)を作動ガスとすると、単原子分子ガスの比熱比は空気に比べて非常に大きいので、空気を作動ガスとする場合に比べて燃焼室内の温度は非常に高くなり、エンジンの熱効率が非常に高くなる。また、上記のように不活性ガスを作動ガスとすると、空気を作動ガスとするエンジンにおいて問題視されている窒素酸化物(NOx)が排出されないので、不活性ガスを作動ガスとすることもまた、環境保護の観点からも望ましい。本発明は、上記のように不活性ガスを作動ガスとするエンジンにも適用可能であり、更には、特許文献2に記載されているような作動ガス循環型エンジンにも適用可能である。
【0038】
本発明の前記第1態様に係る直噴ガスエンジンにおいては、前述のように、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下した際にサブタンクからガス燃料を供給することによって高圧噴射を持続するために、サブタンクの内圧が第2所定圧未満である場合は、加圧手段がメインタンクからサブタンクにガス燃料を充填してサブタンクの内圧を高め、ガス燃料の高圧噴射が可能な圧力にサブタンクの内圧を維持する。
【0039】
しかしながら、ガス燃料の消費が更に進み、メインタンクの内圧が著しく低下すると、加圧手段によるメインタンクからサブタンクへのガス燃料の充填が著しく困難となり、サブタンクの内圧を第2所定圧以上に維持するには加圧手段の作動に必要とされる動力が過大になったり、更にはサブタンクの内圧を第2所定圧以上に維持することが実質的に不可能になったりする。つまり、メインタンクの内圧が所定の圧力未満に低下した場合は、加圧手段によるサブタンクの加圧を効率良く行うことができなくなる虞がある。
【0040】
そこで、本発明の第3態様は、本発明の前記第1態様又は第2態様の何れかに係る直噴ガスエンジンであって、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第1所定圧よりも低い第3所定圧未満である場合は前記加圧手段の作動を停止する加圧停止手段を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジンである。
【0041】
上記加圧停止手段は、タンク内圧検出手段によって検出されるメインタンクの内圧が第3所定圧未満である場合は加圧手段の作動を停止する。かかる加圧手段の作動制御は、例えば、タンク内圧検出手段によって検出されるメインタンクの内圧に対応する信号を受け、同信号に基づいて、メインタンクの内圧と第3所定圧とを比較し、同比較の結果に基づいて、加圧手段の作動状態を制御するように構成された電子制御装置によって実現することができる。但し、加圧停止手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、加圧停止手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0042】
尚、上記第3所定圧とは、加圧手段が、メインタンクの内部に貯蔵されるガス燃料をサブタンクに充填することによって、高圧噴射を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を噴射手段において達成し得る圧力(第2所定圧)以上の圧力にサブタンクの内圧を効率良く維持することが可能な、メインタンクの内圧の最小値として規定することができる。従って、第3所定圧は、前述の第1所定圧よりも低い圧力として設定される。
【0043】
逆に言うと、メインタンクの内圧が第3所定圧未満にまで低下している場合は、加圧手段を作動させても、サブタンクの内圧を高圧噴射が可能な圧力まで効率良く高めることがもはやできない。即ち、かかる状況下において加圧手段を作動させることは限られた動力を無駄に浪費することに他ならない。
【0044】
一方、本発明の第3態様に係る直噴ガスエンジンにおいては、メインタンクの内圧が第3所定圧未満にまで低下している場合は、加圧停止手段により、加圧手段の作動が停止されるので、上記のような動力の浪費を抑制することができる。
【0045】
上記のように、本発明の前記第1態様乃至第3態様の何れかに係る直噴ガスエンジンにおいては、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下しても、サブタンクからガス燃料を供給することができ、且つサブタンクの内圧は、加圧手段によってメインタンクからサブタンクにガス燃料が充填されることにより所定の圧力以上に維持されるので、メインタンクやサブタンク内に使用されずに残るガス燃料の量を抑制しつつ且つ高圧噴射に必要なガス燃料の圧力を維持しつつ、ガス燃料を効率良く使用することにより、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立することができる。
【0046】
しかしながら、このままガス燃料が補給されなければ、本発明の前記第1態様乃至第3態様の何れかに係る直噴ガスエンジンにおいても、いずれは高圧噴射に必要なガス燃料の圧力を維持することができなくなり、エンジンが停止する事態を避けることができない。また、上記のようにエンジンが停止することによってガス燃料の欠乏を運転者が認識することはできるが、この時点ではエンジンが既に停止しているため、同エンジンを搭載した乗り物(例えば、車両等)をガス燃料の補給が可能な地点(例えば、ガス燃料スタンド等)に移動させることは困難であり、これ以上航行を続けることは実質的に不可能となる。かかる事態を回避するためには、ガス燃料の消費状況(貯蔵状況)を運転者に認識させることが重要である。
【0047】
従って、本発明の第4態様は、本発明の前記第1態様乃至第3態様の何れかに係る直噴ガスエンジンであって、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第1所定圧未満である場合は第1警告を発し、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第3所定圧未満である場合は第2警告を発し、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記サブタンクの内圧が前記第2所定圧未満である場合は第3警告を発する、タンク内圧警告手段を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジンである。
【0048】
上記構成によれば、上記タンク内圧警告手段により、タンク内圧検出手段によって検出されるメインタンクの内圧が第1所定圧未満である場合は第1警告が発せられ、タンク内圧検出手段によって検出されるメインタンクの内圧が第3所定圧未満である場合は第2警告が発せられ、タンク内圧検出手段によって検出されるサブタンクの内圧が第2所定圧未満である場合は第3警告が発せられる。
【0049】
即ち、第1警告が発せられることにより、メインタンク内に貯蔵されたガス燃料が減少してメインタンクの内圧が第1所定圧未満にまで低下したために、メインタンクからのガス燃料の供給が停止され、代わりにサブタンクからのガス燃料の供給が開始されたことを運転者が認識することができる。尚、サブタンクからガス燃料を供給するに当たっては、サブタンクの内圧は、加圧手段によって、高圧噴射を実現し得る所定の圧力に維持される。従って、この時点でガス燃料が補給され、メインタンクの内圧が十分に上昇すれば、加圧手段が停止されて、メインタンクから噴射手段へのガス燃料の供給が再開され、加圧手段の作動に動力を割くこと無く、高い効率にてエンジンを運転することができることを運転者は認識することができる。
【0050】
一方、第1警告が発せられてもガス燃料が補給されない場合は、メインタンク内に貯蔵されたガス燃料が加圧手段によってサブタンクに充填され、サブタンクから噴射手段に供給されるので、メインタンクの内圧は更に低下し、やがては第3所定圧未満にまで低下する。この際、上記タンク内圧警告手段によって第2警告が発せられるので、加圧手段によるメインタンクからサブタンクへのガス燃料の充填が停止したことを運転者が認識することができる。従って、遠からずサブタンクの内圧が第2所定圧未満にまで低下し、エンジンが停止するであろうことを運転者が認識することができる。
【0051】
更に、上記のように第2警告が発せられてもガス燃料が補給されない場合は、サブタンクの内圧が第2所定圧未満にまで低下し、上記タンク内圧警告手段によって第3警告が発せられる。これにより、サブタンクの内圧が既に第2所定圧未満にまで低下しており、間も無くエンジンが停止するであろうことを運転者が認識することができる。
【0052】
尚、上記タンク内圧警告手段は、例えば、前述のタンク内圧検出手段の構成に関する説明において言及された電子制御装置に接続されて、タンク内圧検出手段から受信される信号に基づいて、同電子制御装置の制御によって警告を発するように構成された警告手段であってもよい。また、上記タンク内圧警告手段が発する警告は、特定の方法によるものに限定される必要は無く、例えば、運転者の視覚や聴覚に訴える方法(例えば、警告ランプ、アラーム音、音声等)であってもよい。但し、タンク内圧警告手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、タンク内圧警告手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0053】
ところで、本発明に係る直噴ガスエンジンが搭載される乗り物は、そのタイプ(車両、船舶、航空機等)にかかわらず、居住性や経済性等の観点から、同乗り物の構成要素については、小型化・軽量化の要請が常に存在するのが一般的である。従って、前述の加圧手段の最大吐出圧力やサブタンクの許容圧力を徒に高く設計することは、これらの構成要素の大型化・重量化を招くので望ましくない。
【0054】
従って、本発明の第5態様は、本発明の前記第1態様乃至第4態様の何れかに係る直噴ガスエンジンであって、外部からのガス燃料の充填が前記メインタンクのみに対して行われること、並びに前記加圧手段の最大吐出圧力及び前記サブタンクの許容圧力が、前記メインタンクに対する外部からのガス燃料の充填圧よりも低いことを特徴とする、直噴ガスエンジンである。
【0055】
仮に、加圧手段の最大吐出圧力及びサブタンクの許容圧力を、メインタンクに対する外部からのガス燃料の充填圧よりも高くしようとする場合、メインタンクに充填されるガス燃料の充填圧よりも更に高い圧力でガス燃料をサブタンクに充填することが必要となるため、加圧手段の出力は、より高いことが求められ、結果として大型の加圧手段を導入せざるを得なくなる。また、かかる高圧のガス燃料を貯蔵するサブタンクの許容圧力もまた、より高いことが求められ、結果として壁厚の厚い重厚なサブタンクを導入せざるを得なくなる。
【0056】
一方、本発明の第5態様に係る直噴ガスエンジンにおいては、外部からのガス燃料の充填がメインタンクのみに対して行われ、且つ加圧手段の最大吐出圧力及びサブタンクの許容圧力が、メインタンクに対する外部からのガス燃料の充填圧よりも低いので、上記のような高出力の加圧手段や重厚なサブタンクは不要である。これにより、本発明に係る直噴ガスエンジンが搭載される乗り物の構成要素に対する小型化・軽量化の要請に応えることがより容易となるので望ましい。
【0057】
前述のように、本発明に係る直噴ガスエンジンにおいては、メインタンクの内圧が第1所定圧以上であるか否かに応じて、噴射手段へのガス燃料の供給源をメインタンクとするかサブタンクとするかが切り換えられる。また、第1所定圧は、前述のように、酸素や作動ガスを含むガスが燃焼室内にて圧縮されている高圧縮状態にある期間内の所定の時期にガス燃料を燃焼室内に噴射する所謂「高圧噴射」(「圧縮行程噴射」とも称する)を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を噴射手段において達成し得る圧力として規定することができる。
【0058】
しかしながら、上記圧縮行程噴射を行い得る圧力は、エンジンの運転状況(例えば、エンジンの負荷や回転数等)に応じて変化することが知られている。例えば、エンジンの運転状況が低回転又は軽負荷である場合は、高回転且つ重負荷である場合と比較して、より低い圧力において上記圧縮行程噴射を行い得る。従って、噴射手段へのガス燃料の供給源をメインタンクとするかサブタンクとするかの判断基準としての、メインタンクの内圧の閾値である第1所定圧は、特定の固定値とするのではなく、エンジンの運転状況に応じて変動する値とすることがより望ましい。
【0059】
従って、本発明の第6態様は、本発明の前記第1態様乃至第5態様の何れかに係る直噴ガスエンジンであって、エンジンの負荷及び回転数を検出するエンジン運転状況検出手段と、前記エンジン運転状況検出手段によって検出されるエンジンの負荷及び回転数に基づいて前記第1所定圧を変更する第1所定圧変更手段と、を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジンである。
【0060】
上記エンジン運転状況検出手段は、例えば、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル踏み込み量)を検出するためのアクセルセンサ、エンジンの吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度(スロットル開度)を検出するためのスロットルセンサ、吸気通路を通過する空気の量(通路空気量)を検出するための空気量センサ、及びクランクシャフトの回転速度(エンジン回転数)及び回転角(クランク角)を検出するためのクランクセンサ等が接続された電子制御装置を含む構成とすることができる。
【0061】
上記の場合、上記エンジン運転状況検出手段は、例えば、アクセル踏み込み量、スロットル開度、及び通路空気量から求められるエンジンの吸入空気量とエンジン回転数とに基づいてエンジンの負荷を算出することができる。また、上記のように、クランクセンサによって検出されるクランクシャフトの回転速度からエンジンの回転数を検出することができる。但し、エンジン運転状況検出手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、エンジン運転状況検出手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0062】
上記第1所定圧変更手段は、上記のようにして検出されるエンジンの負荷及び回転数に基づいて第1所定圧を変更する。より具体的には、上記第1所定圧変更手段においては、酸素や作動ガスを含むガスが燃焼室内にて圧縮されている高圧縮状態にある期間内の所定の噴射時期における燃焼室内の圧力(筒内圧)をエンジンの負荷及び回転数等と関連付けて予め測定して、(例えば、電子制御装置が備える記憶装置に)テーブルとして記憶させておき、上記のようにして検出されるエンジンの負荷及び回転数と同記憶されたテーブルとに基づいて、第1所定圧を変更することができる。但し、第1所定圧変更手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、第1所定圧変更手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0063】
上記により、噴射手段へのガス燃料の供給源をメインタンクとするかサブタンクとするかの判断基準としての、メインタンクの内圧の閾値である第1所定圧は、特定の固定値としてではなく、エンジンの運転状況に応じて変動する値として設定される。本実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御における第1所定圧と、エンジン負荷及びエンジン回転数との関係の一例を図5に模式的に示す。
【0064】
図5に示すように、第1所定圧変更手段は、例えば、前述のように、エンジンの運転状況が低回転又は軽負荷である場合は、高回転且つ重負荷である場合と比較して、より低い圧力において上記圧縮行程噴射を行い得るので、第1所定圧をより低く設定する。これにより、加圧手段の作動を伴うサブタンクからのガス燃料供給への切り換えを遅らせ、メインタンクから噴射手段にガス燃料を直接供給する期間を延ばすことができる。その結果、加圧手段を作動させる機会を低減することができるので、高い効率にてエンジンを運転することができる。
【0065】
ところで、前述のように、本発明に係る直噴ガスエンジンにおいては、メインタンクの内圧が第1所定圧未満である場合はサブタンクから噴射手段にガス燃料が供給されると共に、サブタンクの内圧が第2所定圧未満である場合は、加圧手段によってメインタンクからサブタンクにガス燃料が充填され、サブタンクの内圧が高められる。
【0066】
この際、加圧手段の吐出量が小さ過ぎると、サブタンクの内圧が第2所定圧に到達するのに要する時間が長くなり、サブタンクから供給されるガス燃料の高圧噴射を速やかに実現することが困難となる。逆に、加圧手段の吐出量が大き過ぎると、サブタンクの内圧が第2所定圧の上下でハンチングするようになり、サブタンクから供給されるガス燃料の高圧噴射を安定に実現することが困難となる。
【0067】
従って、サブタンクから供給されるガス燃料の高圧噴射を迅速且つ安定に実現するためには、加圧手段の吐出量を適切に調整することが望ましい。具体的には、サブタンクから供給されるガス燃料の高圧噴射を迅速且つ安定に実現するためには、サブタンクの内圧に基づいて、加圧手段の吐出量を適切に調整することが望ましい。
【0068】
上記観点から、本発明の第7態様は、本発明の前記第1態様乃至第6態様の何れかに係る直噴ガスエンジンであって、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記サブタンクの内圧に応じて前記加圧手段の吐出量を変更する吐出量変更手段を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジンである。
【0069】
上記構成によれば、例えば、サブタンクの内圧が小さい程、加圧手段の吐出量を大きくしたり、又はサブタンクの内圧の時間微分が小さい程(即ち、サブタンクの内圧の低下の程度が大きい程)、加圧手段の吐出量を大きくしたりすることによって、サブタンクの内圧を第2所定圧近傍に適確に維持することができるので、高負荷運転に必要な高圧噴射を迅速且つ安定に実現することができる。
【0070】
本実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御における加圧手段の吐出量と、サブタンクの内圧の時間微分及びサブタンクの内圧との関係の一例を図6に模式的に示す。図6に示すように、サブタンクの内圧が小さい程、又はサブタンクの内圧の時間微分が小さい程、加圧手段の吐出量を大きくすることが望ましい。
【0071】
尚、加圧手段の吐出量は、単純な方法としては、ある時点でのサブタンクの内圧と第2所定圧との差から導かれるガス燃料の充填必要量を、サブタンクの内圧を第2所定圧に到達させるまでにかかる期間として許容可能な期間で割ることによって求めることができる。但し、現実には、サブタンクと噴射手段との間のガス燃料供給路の長さや太さ、途中に設けられるサージタンクの容量等の設計上の各種要因等を考慮して、種々の修正を加えることができる。
【0072】
また、上記吐出量変更手段は、例えば、タンク内圧検出手段によって検出されるサブタンクの内圧又は同内圧の時間微分に基づいて、上述のように加圧手段の吐出量を算出するように構成された電子制御装置を含む構成とすることができる。但し、上記吐出量変更手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、上記吐出量変更手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0073】
ところで、本発明の第7態様に係る直噴ガスエンジンにおける上記吐出量変更手段による加圧手段の吐出量の変更は、サブタンクの内圧又は同内圧の時間微分に応じて、言わば「フィードバック的」に行うものである。一方、サブタンクから供給されるガス燃料の高圧噴射をより迅速且つ安定に実現するには、加圧手段の吐出量を「フィードフォワード的」に変更することがより望ましい。
【0074】
即ち、吐出量変更手段が、例えば、ある時点でのエンジンの負荷及び回転数に基づいて、加圧手段の吐出量を変更するように構成されていてもよい。より具体的には、吐出量変更手段が、エンジンの負荷が高い程、又はエンジンの回転数が高い程、加圧手段の吐出量を増やすように構成されていてもよい。
【0075】
従って、本発明の第8態様は、本発明の前記第1態様乃至第6態様の何れかに係る直噴ガスエンジンであって、エンジンの負荷及び回転数を検出するエンジン運転状況検出手段と、前記エンジン運転状況検出手段によって検出されるエンジンの負荷及び回転数に基づいて前記加圧手段の吐出量を変更する吐出量変更手段と、を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジンである。
【0076】
上記エンジン運転状況検出手段の構成等については、本発明の第6態様に係る直噴ガスエンジンに関する説明において既に述べたものと同様であるので、ここでは説明は割愛する。但し、エンジン運転状況検出手段に関する前述の説明はあくまでも例示であって、エンジン運転状況検出手段の構成は前述の説明に限定されるものではない。
【0077】
上記吐出量変更手段は、上記エンジン運転状況検出手段によって検出されるエンジンの負荷及び回転数に基づいて加圧手段の吐出量を変更する。より具体的には、上記吐出量変更手段は、例えば、上記エンジン運転状況検出手段によって検出されるエンジンの負荷及び回転数に基づいてガス燃料の消費速度を算出し、サブタンクの内圧が第2所定圧未満にまで低下することのないように加圧手段の吐出量を制御するように構成された電子制御装置を含む構成とすることができる。但し、吐出量変更手段に関する上記説明はあくまでも例示であって、吐出量変更手段の構成は上記説明に限定されるものではない。
【0078】
本実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御における加圧手段の吐出量と、エンジン負荷及びエンジン回転数との関係を図7に模式的に示す。図7に示すように、エンジンの負荷が高い程、又はエンジンの回転数が高い程、加圧手段の吐出量を増やすことが望ましい。
【0079】
上記構成により、本実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいては、吐出量変更手段による加圧手段の吐出量の変更が「フィードフォワード的」に行われるので、サブタンクの内圧を第2所定圧に維持する際の応答遅れを抑制することができ、サブタンクから供給されるガス燃料の高圧噴射をより一層迅速且つ安定に実現することができる。
【0080】
以上のように、本発明によれば、ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンにおいて、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下しても、サブタンクからガス燃料を供給することができ、且つサブタンクの内圧は、加圧手段によってメインタンクからサブタンクにガス燃料が充填されることにより所定の圧力以上に維持されるので、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立することができる。
【0081】
以下、本発明の種々の実施態様に係る直噴ガスエンジンにつき、添付図面を参照しつつ説明する。但し、以下に述べる説明はあくまで例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
【0082】
前述のように、図1は、本発明の1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンを含むシステムの概略図である。このシステムは、直噴ガスエンジン10、メインタンク21、サブタンク22、圧力センサ31、圧力センサ32、遮断弁41、遮断弁42、加圧装置51等を備えている。
【0083】
尚、図1は、エンジン10の特定気筒の断面、並びに同特定気筒に接続された吸気ポート及び排気ポートの断面等を示しているが、同エンジンが複数の気筒を備える場合は、他の気筒も同様の構成を備えることができる。
【0084】
エンジン10は、シリンダヘッドと、シリンダと、シリンダ内において往復運動するピストン13と、クランク軸と、ピストン13とクランク軸とを連結しピストン13の往復運動をクランク軸の回転運動に変換するためのコネクティングロッドと、シリンダブロックに連接されたオイルパンとを備えるピストン往復動型エンジンである。通常は、ピストン13の側面にはピストンリング(図示せず)が配設されている。
【0085】
シリンダヘッド、シリンダ及びオイルパンから形成される空間は、ピストン13により、ピストン13の頂面側の燃焼室12と、クランク軸を収容するクランクケースとに区画されている。また、シリンダヘッドには、燃焼室12に連通した吸気ポートと、燃焼室12に連通した排気ポートとが形成されている。
【0086】
吸気ポート及び排気ポートには吸気ポート及び排気ポートを開閉するための吸気弁及び排気弁がそれぞれ配設されている。これらの吸気弁及び排気弁の作動機構等については当業者に周知であるので、本明細書においては説明を割愛する。また、これらの弁のうち、少なくとも一部が、開弁時期及び閉弁時期を変更することができる所謂「可変動弁装置」であってもよい。
【0087】
シリンダヘッドには、ガス燃料を燃焼室12内に噴射するための噴射弁11が配設されている。噴射弁11は、燃焼室に露呈した噴射口(噴孔)、弁体及び電磁式弁体駆動装置等を備えた周知の電磁開閉式ガス噴射弁である。噴射弁11は指示信号に応答して電磁式弁体駆動装置によって弁体を駆動することにより噴射口を開閉する。噴射弁11は、噴射口が弁体により開かれたとき、噴射弁11に供給されているガス燃料の圧力によりガス燃料を燃焼室12内(筒内)に直接噴射する。この際の噴射弁11近傍におけるガス燃料の流れが、図1中の矢印Fによって示されている。
【0088】
メインタンク21は、燃料としてのガス燃料(例えば、水素)を高圧状態にて貯蔵するガス燃料貯蔵タンクである。メインタンク21は、ガス通路(管)によって噴射弁11と連通されている。ガス通路には、メインタンク21から噴射弁11に向かう順に、遮断弁41、ガス燃料圧レギュレータ71、及びサージタンク72が介装されている。また、メインタンク21には、外部からガス燃料を充填するための充填口61からメインタンク21に連通するガス通路も設けられている。
【0089】
サブタンク22もまた、燃料としてのガス燃料(例えば、水素)を高圧状態にて貯蔵するガス燃料貯蔵タンクである。サブタンク22もまた、ガス通路(管)によって噴射弁11と連通されている。ガス通路には、サブタンク22から噴射弁11に向かう順に、遮断弁42、ガス燃料圧レギュレータ71、及びサージタンク72が介装されている。即ち、図1に記載されているシステムにおいては、サブタンク22から噴射弁11に向かうガス通路は、遮断弁41とレギュレータ71との間の部分において、メインタンク21から噴射弁11に向かうガス通路と合流する形態をとっている。
【0090】
レギュレータ71としては、周知のプレッシャレギュレータを使用することができる。レギュレータ71は、メインタンク21又はサブタンク22から供給されるガス燃料の圧力がレギュレータ71の設定圧力よりも高い場合、レギュレータ71よりも下流(サージタンク72側)におけるガス通路内のガス燃料の圧力を設定圧力にまで減圧・調整するように構成されている。一方、メインタンク21又はサブタンク22から供給されるガス燃料の圧力が設定圧力よりも低い場合、レギュレータ71は、レギュレータ71よりも下流におけるガス通路内のガス燃料の圧力をメインタンク21又はサブタンク22から供給されるガス燃料の圧力と等しくするように構成されている。尚、設定圧力は前述の高圧噴射を実行可能な圧力(例えば、10MPa程度)である。
【0091】
また、メインタンク21及びサブタンク22には、タンク内に貯蔵されるガス燃料の圧力を検出する圧力センサ31及び32がそれぞれ設けられている。圧力センサ31及び32は、それぞれメインタンク21及びサブタンク22の内圧(ガス燃料の圧力)に対応して発生する信号を、前述の電子制御装置(図示せず)に伝えるように構成されている。
【0092】
更に、図1に記載されているシステムにおいては、メインタンク21からサブタンク22へと連通するガス通路が別途設けられている。このガス通路には、メインタンク21からサブタンク22に向かう順に、加圧装置51及び遮断弁52が介装されている。但し、前述のように、加圧装置51の配置箇所は上記に限定されるものではなく、例えば、メインタンク21から噴射弁11に向かうガス通路とサブタンク22から噴射弁11に向かうガス通路との合流箇所に三方弁を設け、同三方弁と遮断弁41とを連通するガス通路と同三方弁と遮断弁42とを連通するガス通路とをバイパスするガス通路を新たに設け、この新たに設けられたガス通路に加圧装置51を介装してもよい。
【0093】
尚、上記加圧装置51、遮断弁52、並びに遮断弁41及び42等の動作は、前述の電子制御装置(図示せず)によって制御されている。具体的には、本実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいては、圧力センサ31によって検出されるメインタンク21の内圧が第1所定圧P1以上である場合はメインタンク21から噴射弁11にガス燃料が供給され、圧力センサ31によって検出されるメインタンク21の内圧が第1所定圧P1未満である場合はサブタンク22から噴射弁11にガス燃料が供給され、且つ圧力センサ32によって検出されるサブタンク22の内圧が第2所定圧P2未満である場合はメインタンク21からサブタンク22にガス燃料を充填してサブタンク22の内圧を高めるように加圧装置51が作動される。
【0094】
尚、第1所定圧P1及び第2所定圧P2は、前述のように、それぞれメインタンク21及びサブタンク22の内部に貯蔵されるガス燃料を拡散燃焼に好適な噴射タイミングにて燃焼室内に噴射するのに十分に高い圧力として規定することができる。より具体的には、第1所定圧P1及び第2所定圧P2は、高圧噴射を行ってガス燃料を燃焼室内において拡散燃焼させるのに十分に高い圧力を上記噴射手段において達成し得るメインタンク21及びサブタンク22の各々の内圧の最小値として規定することができる。
【0095】
上記ガス燃料制御の実行手順につき、図2を参照しつつ、以下に詳しく説明する。前述のように、図2は、本発明の1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【0096】
図2に示すように、本実施態様においては、先ずメインタンク21の内圧Pm及びサブタンク22の内圧Psがタンク内圧検出手段(圧力センサ31及び32)によって取得される(ステップS201)。次に、取得されたメインタンク21の内圧Pmが第1所定圧P1以上であるか否かが判定される(ステップS202)。メインタンク21の内圧Pmが第1所定圧P1以上である場合は(ステップS202:Yes)、遮断弁41が開かれ、遮断弁42が閉じられる(ステップS203)。これにより、メインタンク21から噴射手段(噴射弁11)にガス燃料が供給される。
【0097】
一方、タンク内圧検出手段(圧力センサ31)によって取得されたメインタンク21の内圧Pmが第1所定圧P1未満である場合は(ステップS202:No)、遮断弁41が閉じられ、遮断弁42が開かれる(ステップS204)。これにより、サブタンク22から噴射手段(噴射弁11)にガス燃料が供給されるようになる。
【0098】
次に、タンク内圧検出手段(圧力センサ32)によって取得されたサブタンク22の内圧Psが第2所定圧P2未満であるか否かが判定される(ステップS205)。取得されたサブタンク22の内圧Psが第2所定圧P2未満である場合は(ステップS205:Yes)、加圧手段(加圧装置51)の作動が開始され(ONされ)、遮断弁52が開かれる(ステップS206)。これにより、加圧手段(加圧装置51)によって、メインタンク21からサブタンク22にガス燃料が充填され、サブタンク22の内圧が高められる。
【0099】
一方、タンク内圧検出手段(圧力センサ32)によって取得されたサブタンク22の内圧Psが第2所定圧P2以上である場合は(ステップS205:No)、加圧手段(加圧装置51)の作動が停止され(OFFされ)、遮断弁52が閉じられる(ステップS207)。これにより、必要以上に加圧手段(加圧装置51)が作動することに起因する動力の浪費を抑制することができる。
【0100】
以上のようにして、本実施態様においては、ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンにおいて、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下しても、サブタンクからガス燃料を供給することができ、且つサブタンクの内圧は、加圧手段によってメインタンクからサブタンクにガス燃料が充填されることにより所定の圧力以上に維持されるので、航続距離の向上と高負荷時の高効率運転とを両立することができる。
【0101】
しかしながら、前述のように、ガス燃料の消費が更に進み、メインタンク21の内圧Pmが著しく低下すると、加圧手段(加圧装置51)によるメインタンク21からサブタンク22へのガス燃料の充填が著しく困難となり、サブタンク22の内圧Psを第2所定圧P2以上に維持するには加圧手段(加圧装置51)の作動に必要とされる動力が過大になったり、更にはサブタンク22の内圧Psを第2所定圧P2以上に維持することができなくなったりする。
【0102】
つまり、メインタンク21の内圧Pmが所定の圧力(第3所定圧P3)未満にまで低下した場合は、加圧手段(加圧装置51)を作動させても、サブタンク22の内圧Psを高圧噴射が可能な圧力まで効率良く高めることがもはやできない。即ち、かかる状況下において加圧手段(加圧装置51)を作動させることは、限られた動力を無駄に浪費することに繋がる虞がある。従って、メインタンク21の内圧Pmが所定の圧力(第3所定圧P3)未満に低下した場合は、加圧手段(加圧装置51)を作動させず、サブタンク22に貯蔵されているガス燃料の圧力による高圧噴射を可能な限り継続させる方が、加圧手段(加圧装置51)を無駄に作動させるよりも、省エネルギーの観点からも望ましい。
【0103】
尚、第3所定圧P3とは、前述のように、加圧手段(加圧装置51)によってメインタンク21からサブタンク22にガス燃料を充填してサブタンク22の内圧Psを高め、サブタンク22の内圧Psを高圧噴射に必要な圧力(即ち、第2所定圧P2以上)に効率良く維持することが可能な、メインタンク21の内圧Pmの最小値として規定することができる。当然のことながら、第3所定圧P3は、前述の第1所定圧P1よりも低く設定される。
【0104】
上記のような状況下で実行される、本発明に係る直噴ガスエンジンにおけるガス燃料噴射制御について、図3を参照しつつ、以下に詳しく説明する。前述のように、図3は、本発明のもう1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【0105】
図3に示すように、本実施態様においても、先ずメインタンク21の内圧Pm及びサブタンク22の内圧Psがタンク内圧検出手段(圧力センサ31及び32)によって取得される(ステップS301)。次に、取得されたメインタンク21の内圧Pmが第3所定圧P3以上であるか否かが判定される(ステップS302)。メインタンク21の内圧Pmが第3所定圧P3以上である場合は(ステップS302:Yes)、次のステップS303以降のフローに進む。このステップS303以降のフローは、図2に示すフローチャートにおけるステップS202以降のフロート同一であるので、ここでの説明は割愛する。
【0106】
一方、タンク内圧検出手段(圧力センサ31)によって取得されたメインタンク21の内圧Pmが第3所定圧P3未満である場合は(ステップS302:No)、遮断弁41が閉じられ、遮断弁42が開かれ、加圧手段(加圧装置51)の作動が停止され(OFFされ)、遮断弁52が閉じられる(ステップS304)。これにより、メインタンク21からサブタンク22へのガス燃料の充填を伴わずに、サブタンク22から噴射手段(噴射弁11)へのガス燃料の供給が継続される。
【0107】
以上のようにして、本実施態様においては、メインタンクの内圧が、加圧手段を作動させてもサブタンクの内圧を高圧噴射が可能な圧力まで効率良く高めることがもはやできない程度にまで低下した場合は、加圧手段を作動させず、サブタンクに貯蔵されているガス燃料の圧力による高圧噴射を可能な限り継続させることにより、加圧手段を無駄に作動させることに起因する動力の浪費を抑制することができる。
【0108】
以上説明してきた本発明の実施態様は何れも、ガス燃料の消費に伴ってメインタンクの内圧が低下しても、メインタンクに残っているガス燃料を加圧手段によってサブタンクに充填して、サブタンクの内圧を維持し、高圧噴射を持続させようとするものである。しかしながら、このままガス燃料が補給されなければ、いずれは高圧噴射に必要なガス燃料の圧力を維持することができなくなり、エンジンが停止する事を回避することはできない。従って、ガス燃料の消費状況(貯蔵状況)を運転者に適宜認識させ、エンジンの予期せぬ停止という事態を避けることが重要である。
【0109】
そこで、ガス燃料の消費状況(貯蔵状況)を運転者に認識させるべく、メインタンク及びサブタンクの内圧に関する警告を発する実施態様について、図4を参照しつつ、以下に詳しく説明する。前述のように、図4は、本発明の更にもう1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおけるタンク内圧警告手段によって実行される、ガス燃料タンクの内圧に関する警告の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【0110】
図4に示すように、本実施態様においては、先ずメインタンク21の内圧Pm及びサブタンク22の内圧Psがタンク内圧検出手段(圧力センサ31及び32)によって取得される(ステップS401)。次に、取得されたサブタンク22の内圧Psが第2所定圧P2以上であるか否かが判定される(ステップS402)。サブタンク22の内圧Psが第2所定圧P2未満である場合は(ステップS402:No)、第3警告が表示される(ステップS404)。これにより、サブタンクの内圧Psが既に第2所定圧P2未満にまで低下しており、間も無くエンジン10が停止するであろうことを運転者が認識することができる。
【0111】
一方、タンク内圧検出手段(圧力センサ32)によって取得されたサブタンク22の内圧Psが第2所定圧P2以上である場合は(ステップS402:Yes)、タンク内圧検出手段(圧力センサ31)によって取得されたメインタンク21の内圧Pmが第3所定圧P3以上であるか否かが判定される(ステップS403)。取得されたメインタンク21の内圧Pmが第3所定圧P3未満である場合は(ステップS403:No)、第2警告が表示される(ステップS406)。これにより、メインタンク21の内圧Pmが第3所定圧P3未満にまで低下したことを受け、加圧手段(加圧装置51)によるメインタンク21からサブタンク22へのガス燃料の充填が既に停止されており、遠からずサブタンク22の内圧が第2所定圧P2未満にまで低下し、やがてエンジン10が停止するであろうことを運転者が認識することができる。
【0112】
一方、タンク内圧検出手段(圧力センサ31)によって取得されたメインタンク21の内圧Pmが第3所定圧P3以上である場合は(ステップS403:Yes)、取得されたメインタンク21の内圧Pmが第1所定圧P1以上であるか否かが判定される(ステップS405)。メインタンク21の内圧Pmが第1所定圧P1未満である場合は(ステップS405:No)、第1警告が表示される(ステップS408)。これにより、メインタンク21内に貯蔵されたガス燃料が減少してメインタンク21の内圧Pmが第1所定圧P1未満にまで低下したために、ガス燃料の供給源がメインタンク21からサブタンク22に切り換えられたことを運転者が認識することができる。
【0113】
尚、上記のようにメインタンク21に代わってサブタンク22からガス燃料を供給するに当たっては、サブタンク22の内圧Psは、加圧手段(加圧装置51)によって、高圧噴射を実現し得る所定の圧力に維持される。従って、この時点でガス燃料が補給され、メインタンク21の内圧が十分に上昇すれば、加圧手段(加圧装置51)が停止されて、メインタンク21から噴射手段へのガス燃料の供給が再開され、加圧手段(加圧装置51)の作動に動力を割くこと無く、高い効率にてエンジンを運転することができることを運転者が認識することができる。
【0114】
一方、タンク内圧検出手段(圧力センサ31)によって取得されたメインタンク21の内圧Pmが第1所定圧P1以上である場合は(ステップS405:Yes)、ガス燃料が十分に貯蔵されていることを意味するので警告は表示されない(ステップS407)。
【0115】
尚、図4に示すフローチャートによって表される一連の処理は、例えば、所定のクランク角毎の割り込み処理として、電子制御装置によって実行することができるが、エンジン等の設計仕様等に応じて、当該処理の実行時期を他の方法によって制御してもよい。
【0116】
また、本実施態様においては、上記のように、ガス燃料の欠乏によるエンジンの停止という事態に対する緊急性が高い順(即ち、警告3、警告2、警告1の順)に、各タンクの内圧の判定及び各警告の表示のルーチンを実行しているが、各ルーチンの実行順序は必ずしも本実施態様にて示した順序に限定されない。
【0117】
更に、本実施態様においては、図4に示すフローチャートに従って発っせられる各々の警告を「表示する」と説明したが、個々の警告を発する方法は、特定の方法に限定されるものではなく、例えば、運転者の視覚や聴覚に訴える種々の方法(例えば、警告ランプ、アラーム音、音声等)から適宜選択することができる。
【0118】
以上、本発明の1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンの構成、本発明の種々の実施態様に係る直噴ガスエンジンにおいて実行されるガス燃料噴射制御の実行手順、及び本発明の1つの実施態様に係る直噴ガスエンジンにおけるタンク内圧警告手段によって実行される、ガス燃料タンクの内圧に関する警告の実行手順につき、様々な図を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができる。
【符号の説明】
【0119】
10…エンジン、11…噴射弁、12…燃焼室、13…ピストン、21…メインタンク、22…サブタンク、31…圧力センサ、32…圧力センサ、41…遮断弁、42…遮断弁、51…加圧装置、52…遮断弁、61…充填口、71…レギュレータ、72…サージタンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス燃料を燃焼室内に直接噴射して燃焼させる直噴ガスエンジンであって、
ガス燃料を燃焼室内に直接噴射する噴射手段と、
前記ガス燃料を貯蔵するメインタンク及びサブタンクと、
前記メインタンク及び前記サブタンクの内圧を個別に取得するタンク内圧検出手段と、
前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が第1所定圧以上である場合は前記メインタンクから前記噴射手段に前記ガス燃料を供給し、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第1所定圧未満である場合は前記サブタンクから前記噴射手段に前記ガス燃料を供給する燃料供給源切換手段と、
前記タンク内圧検出手段によって検出される前記サブタンクの内圧が第2所定圧未満である場合は、前記メインタンクから前記サブタンクに前記ガス燃料を充填して前記サブタンクの内圧を高める加圧手段と、
を備えること、
を特徴とする、直噴ガスエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載の直噴ガスエンジンであって、前記ガス燃料が水素であることを特徴とする、直噴ガスエンジン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の何れか1項に記載の直噴ガスエンジンであって、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第1所定圧よりも低い第3所定圧未満である場合は前記加圧手段の作動を停止する加圧停止手段を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジン。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に係る直噴ガスエンジンであって、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第1所定圧未満である場合は第1警告を発し、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記メインタンクの内圧が前記第3所定圧未満である場合は第2警告を発し、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記サブタンクの内圧が前記第2所定圧未満である場合は第3警告を発する、タンク内圧警告手段を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジン。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の直噴ガスエンジンであって、外部からのガス燃料の充填が前記メインタンクのみに対して行われること、並びに前記加圧手段の最大吐出圧力及び前記サブタンクの許容圧力が、前記メインタンクに対する外部からのガス燃料の充填圧よりも低いことを特徴とする、直噴ガスエンジン。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の直噴ガスエンジンであって、エンジンの負荷及び回転数を検出するエンジン運転状況検出手段と、前記エンジン運転状況検出手段によって検出されるエンジンの負荷及び回転数に基づいて前記第1所定圧を変更する第1所定圧変更手段と、を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジン。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の直噴ガスエンジンであって、前記タンク内圧検出手段によって検出される前記サブタンクの内圧に応じて前記加圧手段の吐出量を変更する吐出量変更手段を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジン。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の直噴ガスエンジンであって、エンジンの負荷及び回転数を検出するエンジン運転状況検出手段と、前記エンジン運転状況検出手段によって検出されるエンジンの負荷及び回転数に基づいて前記加圧手段の吐出量を変更する吐出量変更手段と、を更に備えることを特徴とする、直噴ガスエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−117495(P2012−117495A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270288(P2010−270288)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】