説明

直接酸化を使ったアリールポリグリコールカルボン酸の製造方法

直接酸化を使ったアリールポリグリコールカルボン酸の製造方法。本発明の対象は、次式(I)で表される化合物、
【化1】


(式中、Rは、6〜200個の炭素原子を有する芳香族基、Rは、水素、1〜22個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルキル残基、2〜22個の炭素原子を有するモノ又はポリ不飽和の直鎖状又は分岐状のアルケニル残基、又は6〜12個の炭素原子を有するアリール残基、Xは、2〜4個の炭素原子を有するアルキレン残基、nは、0〜100の数、
Bは、カチオン又は水素、を意味する。)及び/又はそれに対応するプロトン化カルボン酸の製造方法であり、該方法において、次式(II)、
【化2】


(式中、R、R、X及びnは上述の意味を有する。)で表される一つ又は複数の化合物が、酸素又は酸素含有ガスで、金含有触媒及び少なくとも一つのアルカリ性化合物の存在下で酸化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アリールポリグリコールカルボン酸(エーテルカルボン酸)、要するにカルボキシル官能基以外に一つ又は複数のエーテル架橋部を有する有機カルボン酸、及び/又はそのアルカリ−又はアミン塩は、高い石灰石けん分散能を有する、刺激の少ない洗浄剤として知られている。それらは、洗剤調合物及び化粧料調合物に、また、工業的用途、例えば金属加工用液及び冷却潤滑剤に使用される。
【背景技術】
【0002】
従来技術によれば、エーテルカルボン酸は、アリールポリグリコール類の、クロロ酢酸誘導体によるアルキル化(ウィリアムソンのエーテル合成)によって、あるいは様々な触媒を用いた触媒作用下での様々な試薬(大気酸素、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩)による酸化によって同じ出発材料から合成される。ウィリアムソンのエーテル合成は、なかんずく費用対効果の関係のために工業上最も知られたエーテルカルボン酸の製造方法であるが、その方法によって製造された生成物は、使用者の取り扱い性、例えば、溶解挙動、低温時の凝集状態、及び貯蔵安定性に関して、なお深刻な欠陥を有している。
【0003】
これらの欠陥は、本質的に、方法が原因で生じる副次成分に起因するものである。それ故、適したクロロ酢酸誘導体の過剰使用にもかかわらず、約70〜85%の転化率しか得られず、その結果、残留量のオキシエトキシレート及びオキシエトキシレートの基となる脂肪アルコールが最終生成物中に残ってしまう。更には、使用される過剰のクロロ酢酸誘導体によって、例えば、グリコール酸、ジグリコール酸及びその誘導体のような副産物が生じ、これが、生成物老化の本質的な原因であり、そして場合によっては、溶解挙動時の問題を引き起こす可能性がある。
【0004】
ウィリアムソン合成の更なる欠点とは、塩化ナトリウムによる反応生成物の高度の汚染にあり、塩化ナトリウムは水溶液の状態で本質的な点食の原因となる。そのうえ、形成された塩化ナトリウムは反応排水中に到達し、そしてそこで生物学的浄水装置に対する問題となる。というのは、そのような装置の浄化能を塩化ナトリウムが損なう可能性があるからである。
【0005】
例えば、米国特許第3342858号(特許文献1)中で説明されているように、アルコールオキシエチレートからエーテルカルボン酸への直接酸化は、白金触媒の助力で首尾よくいく。白金は懸濁物として使用することも、炭素のような支持体材料上に供することもできる。酸化は、アルカリ性溶液中で、20〜75℃の温度及び最大で3バールの圧力で行われる。この方法の欠点とは、非常に希釈された溶液(3〜12%濃度水溶液)、24時間までという時折長い反応時間、及びそれに伴う少ない空時収率である。使用された白金触媒の場合の低い選択率も同様に不利であり、蒸留加工後でさえ、収率は約68〜89%でしかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3342858号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L. Prati, G. Martra, Gold Bull. 39 (1999) 96
【非特許文献2】S. Biella, G.L. Castiglioni, C. Fumagalli, L. Prati, M. Rossi, Catalysis Today 72 (2002) 43−49
【非特許文献3】L. Prati, F. Porta, Applied catalysis A: General 291 (2005) 199−203
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、エーテルカルボン酸及びその塩が、金含有触媒を使ったアリールポリグリコールの空気酸素又は純粋な酸素での直接酸化によっても高い収率で得られることが今や見出された。
【0009】
従って、本発明の対象は、次式(I)で表される化合物、
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、
は、6〜200個の炭素原子を有する芳香族基、
は、水素、1〜22個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルキル残基、2〜22個の炭素原子を有するモノ又はポリ不飽和の直鎖状又は分岐状のアルケニル残基、又は6〜12個の炭素原子を有するアリール残基、
Xは、2〜4個の炭素原子を有するアルキレン残基、
nは、0〜100の数、
Bは、カチオン又は水素、
を意味する。)
及び/又は、その対応するプロトン化カルボン酸の製造方法であり、次式(II)、
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R、R、X及びnは、上述の意味を有する。)で表される一つ又は複数の化合物を、酸素又は酸素含有ガスで、金含有触媒及び少なくとも一つのアルカリ性化合物の存在下で酸化させる、上記の方法である。
【0014】
は、好ましくは6〜24個の炭素原子を有する芳香族基である。特に好ましくは、Rは、純粋な炭化水素基である。
【0015】
に含まれる芳香族系は、1〜200個、好ましくは2〜20個、特に4〜16個、例えば、6〜12個の炭素原子を含有するアルキル−又はアルケニル基で置換されることができる。
【0016】
特に好ましい実施形態において、Rは、1〜200個、好ましくは2〜20個、特に、4〜16個、例えば、6〜12個の炭素原子を含有するアルキル−又はアルケニル基で置換されたフェニル基である。その際、これらは、n−、イソ−及びtert−ブチル−、n−及びイソ−ペンチル−、n−及びイソ−ヘキシル−、n−及びイソ−オクチル−、n−及びイソ−ノニル−、n−及びイソ−デシル−、n−及びイソ−ドデシル−、テトラデシル−、ヘキサデシル−、オクタデシル−、トリプロペニル−、テトラプロペニル−、ポリ(プロペニル)−、及びポリ(イソブテニル)残基であることが好ましい。
【0017】
本発明により適しているのは、特に、OH−基に対してオルト位及び/又はパラ位に、一つ又は二つのアルキル残基を有するアルキルフェノールから誘導された芳香族系Rである。出発材料として特に好ましいものは、アルデヒドとの縮合を可能にする水素原子を芳香部分に少なくとも二つ有するアルキルフェノールであり、特にモノアルキル化フェノールである。特に好ましくは、芳香族系のRは、1〜200個、好ましくは2〜20個、特に4〜16個、例えば、6〜12個の炭素原子を含有し、フェノールのOH基に対してパラ位に位置するアルキル−又はアルケニル基を有する。
【0018】
更なる好ましい実施形態において、様々なアルキル残基を有する芳香族系のRが使用され、例えば、1:10〜10:1のモル比での一方のブチル残基、他方のオクチル−、ノニル−、及び/又はドデシル残基などである。
【0019】
模範的には、R1は、フェニル−、トリブチルフェニル−、トリスチリルフェニル−、ノニルフェニル−、クミル−又はオクチルフェニル−残基を表す。
【0020】
好ましくは、Rは、水素又はC〜Cアルキル残基である。
【0021】
出発化合物(II)のポリグリコール鎖(X−O)としては、(X−O)基がランダム又はブロック状に分布した、純粋なあるいは混合したアルコキシ鎖であることができる。
【0022】
アルカリ性化合物としてはカーボネート、水酸化物又は酸化物を、本発明の方法で使用することができる。水酸化物のBOHが好ましい。
【0023】
対イオンBとしては、好ましくは、アルカリ金属Li、Na、K、Rb及びCsのカチオンから選択されたアルカリ金属カチオンである。特に好ましくは、アルカリ金属Na及びKのカチオンである。本発明の方法におけるアルカリ性化合物としては、Li、Na、K、Rb及びCsの水酸化物が特に好ましい。
【0024】
金含有触媒は、純粋な金触媒、又は金以外に、更なる第VIII族の金属を含有する混合触媒であることができる。触媒としては、第VIII族からの金属で追加的にドープされた金触媒が好ましい。特に好ましくは、白金又はパラジウムでのドープである。
【0025】
好ましくは、支持体上に金属を供する。好ましい支持体は活性炭及び酸化物系支持体、好ましくは二酸化チタン、二酸化セリウム、又は酸化アルミニウムである。そのような触媒は、周知の方法、例えば、L. Prati, G. Martra, Gold Bull. 39 (1999) 96(非特許文献1)及びS. Biella, G.L. Castiglioni, C. Fumagalli, L. Prati, M. Rossi, Catalysis Today 72 (2002) 43−49(非特許文献2)、又はL. Prati, F. Porta, Applied catalysis A: General 291 (2005) 199−203(非特許文献3)に記載されているようなインシピネントウェットネス(Incipient Wetness (IW))又は析出沈殿(Deposition−Precipitation (DP))に従って製造することができる。
【0026】
担持された純粋な金触媒は、好ましくは、支持体と金とからなる触媒の重量に対して金を0.1〜5重量%含有する。
【0027】
触媒が金及び更なる金属を含有する場合、とりわけ金0.1〜5重量%及び第VIII族金属、好ましくは白金又はパラジウム0.1〜3重量%である。特に好ましくは、金を0.5〜3重量%含有するような触媒である。金/第VIII族金属の好ましい重量比、特に金/白金又は金/パラジウムの重量比は、70:30〜95:5である。
【0028】
更なる好ましい実施形態において、純粋な金触媒は、好ましくは1〜50nm、特に好ましくは2〜10nmの粒度を有するナノゴールド触媒である。純粋なナノゴールド触媒は、好ましくは、金を0.1〜5重量%、特に好ましくは金を0.5〜3重量%含有する。触媒がナノゴールドと更なる金属を含有する場合、好ましくは、ナノゴールド0.1〜5重量%及び第VIII族金属、好ましくは白金又はパラジウム0.1〜2重量%である。特に好ましくは、ナノゴールドを0.5〜3重量%含有するような触媒である。ナノゴールド/第VIII族金属の好ましい重量比、特にナノゴールド/白金又はナノゴールド/パラジウムの重量比は、70:30〜95:5である。
【0029】
本発明の方法は、とりわけ水中で遂行される。
【0030】
酸化反応は、30〜200℃、好ましくは80〜150℃の温度で遂行される。
【0031】
酸化中のpH値は、好ましくは、8〜13、特に好ましくは9〜11である。
【0032】
酸化反応時の圧力は、好ましくは、大気圧と比較してより高められる。
【0033】
アルカリ性媒体中での反応時、カルボン酸のアルカリ塩(B=Li、Na、K、Rb、Cs)、好ましくはナトリウム塩又はカリウム塩が最初に生じる。遊離エーテルカルボン酸(つまり、B=水素)を製造するために、得られた式(I)のエーテルカルボキシレートを、酸と反応させる。好ましくは、酸は、塩酸又は硫酸である。
【0034】
本発明の方法により、式(II)のアリールポリグリコールを<10重量%、好ましくは<5重量%、特に好ましくは<2重量%の僅かな残留量だけ有する、式(I)のカルボキシレートの溶液が好ましく生じる。
【実施例】
【0035】
例1:
ガス撹拌装置(Begasungsruehrer)を備えた2リットル圧力オートクレーブ中に、トリスチリルフェノールポリエチレングリコールの10重量%濃度水溶液(16EO、M=1100g/モル)を1リットル入れる。ナノゴールド触媒(二酸化セリウム上の金0.9重量%及び白金0.1重量%、粒度4〜8nm)を10g添加後、その懸濁液を苛性ソーダ溶液でpH10に調整し、そして120℃に加熱する。反応温度に到達後、反応溶液に、10バールの圧力を有する酸素を押し付け(aufgepresst)、そしてその圧力に後加圧によって保持する。全反応時間の間、自動滴定器を使って、苛性ソーダ溶液により混合物のpH値を10に保持する。4時間後、反応器を冷却し、解圧し、そして反応溶液のろ過によって触媒を分離する。溶液は、トリスチリルフェノールポリエチレングリコールカルボキシレート約10重量%の含有量を示し、トリスチリルフェノールポリエチレングリコールはもはや検知できない。
【0036】
例2:
ガス撹拌装置を備えた2リットル圧力オートクレーブ中に、ノニルフェノールポリエチレングリコールの10重量%濃度水溶液(6EO、M=490g/モル)を1リットル入れる。金触媒(二酸化チタン上の金0.9重量%及び白金0.1重量%、粒度4〜8nm)を10g添加後、その懸濁液を、苛性ソーダ溶液でpH11に調整し、そして110℃に加熱する。反応温度に到達後、反応溶液に、8バールの圧力を有する酸素を押し付け、そしてその圧力に後加圧によって保持する。全反応時間の間、自動滴定器を使って、苛性ソーダ溶液で混合物のpH値を11に保持する。2時間後、反応器を冷却し、解圧し、そして反応溶液のろ過によって触媒を分離する。溶液は、ノニルフェノールポリグリコールカルボキシレート約10重量%の含有量を示し、ノニルフェノールエトキシレートはもはや検知できない。
【0037】
例3:
ガス撹拌装置を備えた2リットル圧力オートクレーブ中に、トリ−sec−ブチルフェノールポリエチレングリコールの10重量%濃度水溶液(6EO、M=530g/モル)を1リットル入れる。金触媒(二酸化チタン上の金0.9重量%及び白金0.1重量%、粒度4〜8nm)を10g添加後、その懸濁液を苛性ソーダ溶液でpH11に調整し、そして100℃に加熱する。反応温度に到達後、反応溶液に、8バールの圧力を有する酸素を押し付け(aufgpresst)し、そしてその圧力に後加圧によって保持する。全反応時間の間、自動滴定器を使って、苛性ソーダ溶液で混合物のpH値を11に保持する。3時間後、反応器を冷却し、解圧し、そして反応溶液のろ過によって触媒を分離する。溶液は、トリ−sec−ブチルフェノールポリエチレングリコールカルボキシレート約10重量%の含有量を示し、トリ−sec−ブチルフェノールポリエチレングリコールはもはや検知できない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)で表される化合物、
【化1】

(式中、
は、6〜200個の炭素原子を有する芳香族基、
は、水素、1〜22個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルキル残基、2〜22個の炭素原子を有するモノ又はポリ不飽和の直鎖状又は分岐状のアルケニル残基、又は6〜12個の炭素原子を有するアリール残基、
Xは、2〜4個の炭素原子を有するアルキレン残基、
nは、0〜100の数、
Bは、カチオン又は水素、
を意味する。)
及び/又はその対応するプロトン化カルボン酸の製造方法であり、次式(II)、
【化2】

(式中、R、R、X及びnは、上述の意味を有する。)で表される一つ又は複数の化合物を、酸素又は酸素含有ガスで、金含有触媒及び少なくとも一つのアルカリ性化合物の存在下で酸化させる、上記の方法。
【請求項2】
前記金含有触媒が、1〜50nmの平均粒度を有するナノゴールド触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノゴールド触媒が、酸化物系支持体上又は炭素上に供されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化物系支持体が、二酸化チタン、酸化アルミニウム又は二酸化セリウムからなる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノゴールド触媒が、ナノゴールドを0.1〜5重量%含有している、請求項2〜4のいずれか一つ又はより多くに記載の方法。
【請求項6】
前記ナノゴールド触媒が、ナノゴールドを0.1〜5重量%、及び第VIII族金属を0.1〜2重量%含有している、請求項2〜5のいずれか一つ又はより多くに記載の方法。
【請求項7】
前記金含有触媒が、金と更なる第VIII族の元素とを、Au:第VIII族金属=70:30〜95:5の重量比で含有している、請求項1〜6のいずれか一つ又はより多くに記載の方法。
【請求項8】
が、6〜24個の炭素原子を有する芳香族基である、請求項1〜7のいずれか一つ又はより多くに記載の方法。
【請求項9】
が、炭化水素基である、請求項1〜8のいずれか一つ又は多くに記載の方法。
【請求項10】
に含まれる芳香族系が、1〜200個の炭素原子を有するアルキル基又はアルケニル基で置換されている、請求項1〜9のいずれか一つ又はより多くに記載の方法。
【請求項11】
が、フェニル基、トリブチルフェニル基、トリスチリルフェニル基、ノニルフェニル基又はオクチルフェニル基から、並びにn−、イソ−及びtert−ブチル−、n−及びイソ−ペンチル−、n−及びイソ−ヘキシル−、n−及びイソ−オクチル−、n−及びイソ−ノニル−、n−及びイソ−デシル−、n−及びイソ−ドデシル−、テトラデシル−、ヘキサデシル−、オクタデシル−、トリプロペニル−、テトラプロペニル−、ポリ(プロペニル)−及びポリ(イソブテニル)−残基で置換されたフェニル基から選択される、請求項1〜10のいずれか一つ又はより多くに記載の方法。
【請求項12】
が、水素又はC〜Cアルキル残基である、請求項1〜11のいずれか一つ又はより多くに記載の方法。
【請求項13】
Bが、水素、又はアルカリ金属Li、Na、K、Rb及びCsのカチオンである、請求項1〜12のいずれか一つ又はより多くに記載の方法。

【公表番号】特表2011−530488(P2011−530488A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521451(P2011−521451)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005134
【国際公開番号】WO2010/015314
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】