説明

直流電動機

【課題】 電気的中性点のズレを解消しつつも、大型化及びコストの増大の防止を図ることが可能な直流電動機を提供する。
【解決手段】 直流電動機1は、ブラシ40に対して整流子の外周に沿う方向へずれた位置に電磁石50を備えている。この電磁石50は、固定子コイルに通電した電流量に比例した磁力を発生させて、ブラシ40を整流子の外周に沿う方向へ移動させる構成となっている。このため、電気的中性点の移動に応じてブラシ40を移動させることが可能となる。また、電磁石50によりブラシ40を移動させるため、ブラシ移動用のモータを設ける必要がなく、電気的中性点の移動に応じた個数のブラシを設ける必要もなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシと整流子とを備えた直流電動機において、界磁電流が変化すると電気的中性点が移動することによって出力トルクが変化したり、ブラシの寿命が低下してしまうことが知られている。
【0003】
そこで、これを解決するために、ブラシを移動させるための専用モータを新たに設け、このモータの駆動によりブラシを移動させて電気的中性点のズレを解消する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、ブラシを複数設け、電気的中性点の移動にあわせて適切なブラシに通電するように切り替える技術についても提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−308755号公報
【特許文献2】特開昭63−239357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、以下のような問題がある。すなわち、特許文献1記載の技術では、ブラシ移動用のモータを設ける必要があるため、電動機が大型化したりコストの著しい増大を招いたりしてしまう。また、特許文献2記載の技術では、ブラシを複数設けなければならず、電動機の大型化を招いてしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電気的中性点のズレを解消しつつも、大型化及びコストの増大の防止を図ることが可能な直流電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の直流電動機は、固定子と、固定子に巻き回された固定子コイルと、固定子コイルに通電する電源部と、固定子に直面して回転可能に取り付けられた電機子と、電機子と同軸上に設けられて電機子と一体的に回転可能な整流子と、整流子に接触して設けられるブラシとを備えている。また、本発明の直流電動機にあっては、電磁石を備えている。この電磁石は、ブラシに対して整流子の外周に沿う方向へずれた位置に設けられおり、電源部が固定子コイルに通電した電流量に応じた磁力を発生させて、ブラシを整流子の外周に沿う方向へ移動させる構成となっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定子コイルに通電した電流量に応じた磁力を電磁石に発生させてブラシを整流子の外周に沿う方向へ移動させることとしている。このため、電気的中性点の移動に応じてブラシを移動させることが可能となる。また、電磁石によりブラシを移動させるため、ブラシ移動用のモータを設ける必要がなく、電気的中性点の移動に応じた個数のブラシを設ける必要もなくなる。従って、電気的中性点のズレを解消しつつも、大型化及びコストの著しい増大の防止を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、同一又は同様の要素には同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の図においては、本発明の特徴を分かり易く説明するため、各構成要素を模式的に示し、各部の寸法やその比率、形状等は必ずしも正確には表していない。
【0009】
まず、直流電動機1の構成を説明する。図1に示すように、直流電動機1は、直流電力を機械的動力に変換するものであり、主要な構成要素として、界磁極10、電機子20、整流子30、及びブラシ40を備え、これらの要素がケーシング2に収容されている。
【0010】
ケーシング2は、充分な機械的強度を持つ有底筒状の部材2aと、有底筒状の部材2aの開放側を閉塞する円盤状の部材2bからなり、その内部には、筒の長手方向に伸びる回転軸3が配設されている。回転軸3はケーシング2の軸受け4,5によってケーシング2に対して回転可能に支持されている。
【0011】
界磁極10は、固定子11と、この固定子11に巻き回された固定子コイル12とを有しており、ケーシング2の内周面に所定間隔で複数固定されている。そして、この固定子コイル12へバッテリ(電源部)からの直流が供給されることで界磁が形成されるようになっている。なお、固定子コイル12へ供給される電流量は、図示しない電源制御部により制御されるようになっている。
【0012】
電機子20は、回転軸3に固定され、固定子11と直面して回転可能に取り付けられている。この電機子20は、珪素鋼板等が円筒形に成形されてなる電機子鉄心21に複数の電機子巻線22が巻回された構造となっている。そして、電気子20は、電機子巻線22に通電されることで電磁力を発生させ、回転軸3を回転中心として、この回転軸3と共に回転する。
【0013】
整流子30は、電機子20と同軸上に設けられて電機子20と一体的に回転可能となっている。この整流子30は、放射状に均等配置された導電板30aと、これら導電板30aそれぞれを互いから絶縁して保持する樹脂材とからなり、ブラシ40に接触することで、バッテリからブラシ40を介して供給される電力を、導電板30aを通じて電機子20の電機子巻線22に通電する構成となっている。
【0014】
ブラシ40は、電気黒鉛質等の摩擦係数が小さい導電材料からなり、整流子30の導電板30aに接触するものであって、ブラシホルダ41に保持されている。ここで、ブラシ40及びその周辺部の構成を図2を参照して詳細に説明する。なお、図2では、簡略化のため整流子30などの図示を省略している。
【0015】
まず、図2(a)に示す如く、ブラシ40は複数個(4個)設けられている。また、ブラシ40はそれぞれがブラシホルダ41に収容されている。さらに、本実施形態にあっては、同図に示す如く、ブラシ40に対して整流子30の外周に沿う方向へずれた位置に電磁石50が設けられている。
【0016】
電磁石50は、バッテリに接続されて、通電された電流量に応じた磁力を発生させるようになっている。そして、電磁石50は、磁力の発生により、ブラシ40を整流子30の外周に沿う方向へ移動させることとなる(図2(b))。他方、ブラシ40を挟んで電磁石50の反対側にはバネ60が接続されている。このバネ60は一端がケーシング2に接続され、他端がブラシ側に接続されている。このため、電磁石50は、バネ60に抗してブラシ40を移動させるこことなる。
【0017】
また、電磁石50は、図1に示した固定子コイル12に直列接続されている。このため、電磁石50は、固定子コイル12に通電した電流量に応じた磁力を発生する構成となっている。さらに、電磁石50の巻線数及びバネ係数は予め調整され、電磁石50は、電気的中性点の移動分だけ、ブラシ40を整流子30の外周に沿う方向へ移動させるようになっている。
【0018】
なお、図3に示す如く、複数のブラシ40は非磁性体43を介してプレート42に固定されている。このため、電磁石50は、ブラシ40を単独で移動させるのではなく、プレート42ごと移動させるようになっている。
【0019】
さらに、図2に示す如く、プレート42には、整流子30の外周に沿う方向に伸びる溝42aが形成されている。そして、この溝42aは、ピン44を受容し、整流子30の外周に沿う方向へのプレート42の移動をガイドするようになっている。具体的には、図4に示すように、ピン44は天板44aと突起部44bとからなり、突起部44bの先端側はケーシング2に設けられた孔部に嵌合し、プレート42は天板44aとケーシング2とによって挟まれるようになっている。これにより、上記した如く、図2に示すように、プレート42の移動は整流子30の外周に沿う方向に限定されることとなる。
【0020】
そして、以上のような構成を有する直流電動機1にあっては、以下のように電気的中性点のズレを解消する。まず、図5(a)に示すように、固定子コイル12の電流、即ち界磁電流を約2.5A(アンペア)としたとする。このとき、電気的中性点は約95°付近となっている。
【0021】
次に、図5(b)に示すように、界磁電流を約10Aとする。このとき、界磁電流の増大により、電気的中性点は、例えば図5(b)に示すように約125°付近となり、約30°だけ電気的中性点が移動する。
【0022】
ここで、固定子コイル12と電磁石50とは直列接続されている。このため、固定子コイル12に10Aの電流を通電した場合、電磁石50にも10Aの電流を通電することとなる。また、電磁石50の磁力F(x)は、
【数1】

により表すことができる。すなわち、この磁力Fによりブラシ40をプレート42ごと30°分移動させれば、電気的中性点のズレを解消し、出力トルクが変化したり、ブラシ寿命の低下したりすることを防止できることとなる。
【0023】
従って、電磁石50の巻線数Nを上記移動分に合わせて設定しておくことにより、ブラシ移動用のモータや、電気的中性点の移動に応じた個数のブラシを設けることなく、電気的中性点のズレを解消することができる。なお、この巻線数Nについては、電磁石50と対抗して設けられるバネ60のバネ係数との関係をも考慮して設定しておくとよい。
【0024】
このようにして、本実施形態に係る直流電動機1によれば、固定子コイル12に通電した電流量に応じた(電流量の二乗に比例した)磁力を電磁石50に発生させてブラシ40を整流子30の外周に沿う方向へ移動させることとしている。このため、電気的中性点の移動に応じてブラシ40を移動させることが可能となる。また、電磁石50によりブラシ40を移動させるため、ブラシ移動用のモータを設ける必要がなく、電気的中性点の移動に応じた個数のブラシを設ける必要もなくなる。従って、電気的中性点のズレを解消しつつも、大型化及びコストの著しい増大の防止を図ることができる。
【0025】
また、ブラシ40は複数設けられ、これら複数のブラシ40はすべてが1つのプレート42に固定され、電磁石50は、プレート42ごと複数のブラシ40を整流子30の外周に沿う方向へ移動させる。ここで、ブラシ40を整流子30の外周に沿う方向へ移動させる場合、複数のブラシ40を移動させるためには、ブラシ1つにつき1つの電磁石50を設ける必要がある。ところが、複数のブラシ40をプレート42に固定してプレート42ごと移動させることにより、複数のブラシ40に対し1つの電磁石50を設けるだけでよく、構成を簡素化することができる。
【0026】
また、直流電動機1は、ケーシング2と、このケーシング2に設けられた孔部に嵌合するピン44とを有し、プレート42には、このピン44を受容して整流子30の外周に沿う方向へガイドする溝42aが形成されている。このように、ピン44と溝42aとによって、プレート42の移動を整流子30の外周に沿う方向に限定することとなり、ブラシ40の移動を正確ならしめることができる。
【0027】
また、固定子コイル12と電磁石50とは直列接続されている。このため、固定子コイル12の電流値と同じ電流を電磁石50に通電することとなり、簡素な構成で固定子コイル12への通電電流に比例した磁力を電磁石50に発生させることができる。
【0028】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。例えば、上記実施形態では、複数のブラシ40をプレート42に固定し、プレート42を整流子30の外周に沿う方向に移動させることで、複数のブラシ40を一体的に整流子30の外周に沿う方向に移動させているが、これに限らず、複数のブラシ40にそれぞれ電磁石50を隣接配置して、複数のブラシ40それぞれを個々に移動させるようにしてもよい。
【0029】
また、プレート42に溝42aを設け、ピン44を溝42aからケーシング2まで貫挿して、プレート42の移動を整流子30の外周に沿う方向に限定することとしているが、これに限らず、ケーシング2に溝を設け、この溝に摺動する突起部をプレート42に設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係る直流電動機の構成図である。
【図2】ブラシ及びその周辺部構成の模式図であり、(a)は初期の状態を示し、(b)はプレート移動後の状態を示している。
【図3】図2(a)のA−A断面図である。
【図4】図2に示した溝及びピンの周辺部の様子を示す図である。
【図5】本実施形態に係る直流電動機の動作の説明図であって、(a)は固定子コイルへの通電電流値が2.5A(アンペア)の場合を示し、(b)は固定子コイルへの通電電流値が10Aの場合を示している。
【符号の説明】
【0031】
1…直流電動機
2…ケーシング
3…回転軸
10…界磁極
11…固定子
12…固定子コイル
20…電機子
21…電機子鉄心
22…電機子巻線
30…整流子
30a…導電板
40…ブラシ
41…ブラシホルダ
42…プレート
42a…溝
43…非磁性体
44…ピン
44a…天板
44b…突起部
50…電磁石
60…バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
前記固定子に巻き回された固定子コイルと、
前記固定子コイルに通電する電源部と、
前記固定子に直面して回転可能に取り付けられた電機子と、
前記電機子と同軸上に設けられて該電機子と一体的に回転可能な整流子と、
前記整流子に接触して設けられるブラシと、
前記ブラシに対して前記整流子の外周に沿う方向へずれた位置に設けられ、前記電源部が前記固定子コイルに通電した電流量に応じた磁力を発生させて、前記ブラシを前記整流子の外周に沿う方向へ移動させる電磁石と、
を備えることを特徴とする直流電動機。
【請求項2】
前記ブラシは複数設けられ、これら複数のブラシは1つのプレートに固定され、前記電磁石は、前記プレートごと複数のブラシを前記整流子の外周に沿う方向へ移動させることを特徴とする請求項1に記載の直流電動機。
【請求項3】
少なくとも前記固定子、前記固定子コイル、前記電機子、前記整流子、前記ブラシ、及び前記電磁石を収容するケーシングと、
このケーシングに設けられた孔部に嵌合するピンと、を更に備え、
前記プレートには、前記ピンを受容して前記整流子の外周に沿う方向への移動をガイドする溝が形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電動機。
【請求項4】
前記固定子コイルと電磁石とは直列接続されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の直流電動機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−74913(P2006−74913A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255767(P2004−255767)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】