説明

直流電源装置

【課題】トランスによって入出力が電気的に絶縁された直流電源装置において、半導体スイッチの高周波動作化のために、スイッチング損失を低減する補助回路を設けた電源装置の構成を提供する。
【解決手段】直流電源101とトランスTの一次巻線とを半導体スイッチを介して接続し、トランスの二次巻線とインダクタンスLdとコンデンサFCの並列回路で構成した平滑回路102とを整流ダイオードD5〜D8を介して接続し、コンデンサFCから負荷RLに給電する直流電源装置において、ダイオードと半導体スイッチとの並列回路と、これに直列に接続された半導体スイッチQzで制御可能な共振インダクタンスLzとコンデンサCzよりなる共振回路103を、整流ダイオードD5〜D8の直流出力側に接続した直流電源装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を出力する直流電源装置に係わり、その中でも特に半導体スイッチング損失の低減回路を付加した電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不安定な直流電源の安定化や、直流電圧を変更する場合、あるいは入力と電気的に絶縁された直流電源を出力する必要がある場合にはDC−DCコンバータが用いられる。その中でも、入力と出力が電気的に絶縁された直流電源装置において、絶縁に使用するトランスは使用する周波数の上昇に比例して小型化が可能であるが、半導体スイッチのスイッチング過渡状態で発生するスイッチング損失によって半導体冷却が妨げとなり、スイッチング周波数の上昇に限界がある。そのために、共振回路を利用した転流回路を設けることによって、スイッチング損失を低下させる従来例の構成は特許文献1〜特許文献2と非特許文献1に記載されている。
【0003】
図2には、これらに記載されている共振回路の例を示す。101には直流電源、102はフィルタリアクトルとフィルタコンデンサで構成されるフィルタ回路、103は共振回路、104は各半導体スイッチのオン/オフを制御するゲート制御装置である。
【0004】
図2の回路動作について説明する。Q1〜Q4はインバータ回路を構成する半導体スイッチで、それぞれの半導体スイッチにはD1〜D4のフリーホイールダイオードが付属する。半導体スイッチQ1とQ2との接続点aと半導体スイッチQ3とQ4との接続点bとの間にトランスTの一次巻線が接続され、二次巻線は共振リアクトルLzを介して整流ダイオードD5〜D8よりなるブリッジの接続点cとdに接続される。このブリッジの出力はフィルタ回路102を介して負荷RLに与えられる。
【0005】
なお、共振回路103は整流ブリッジの出力側とフィルタ回路102との間に挿入されている。
【0006】
ゲート制御装置104はQ1〜Q4とQzにオンとオフの指令を与える。半導体スイッチとしては、バイポーラトランジスタ・MOSFET・サイリスタ・ゲートターンオフサイリスタ・IGBTなどが考えられるが、ここでは代表例としてIGBTを使用して説明する。
【0007】
図3は図2の公知例を説明するための動作波形の時間変化を表したものである。Iabは点a,b間に流れる電流、Vabは点a,b間の電圧、Izは共振回路103に流れる電流、Vzは共振コンデンサCzの両端の電圧である。Ioは整流ブリッジからフィルタ回路102と負荷RLで環流する電流を示す。
【0008】
回路動作について以上を用いて説明すると、ゲート制御装置104からQ1とQ4にオン信号が与えられて、インバータ回路の半導体スイッチQ1とQ4が導通状態であるとする。電流Iabが流れていて直流電源101から負荷RLにエネルギーを伝達している。
【0009】
インバータ回路の半導体スイッチQ1とQ4をターンオフする前の時刻t0において共振回路103の半導体スイッチQzをターンオンする信号をゲート制御装置104から与えターンオンさせると、共振コンデンサCzの充電電流が直流電源101より流れ込む。この電流Izは共振リアクトルLzと共振コンデンサCzの直列共振電流である。半導体スイッチQ1とQ4に流れる電流は負荷側に流れる電流Idと共振電流Izの和であり、正弦波状に増加してゆく。その時、共振コンデンサCzには電圧が発生し、トランスの二次電圧より高い電圧となる。
【0010】
時刻t1にて、その充電が完了し電圧は最大値に達する。その後、共振コンデンサCzの放電が始まり、フリーホイールダイオードD9と共振コンデンサCzの経路で放電電流が流れ出す。ここでは、トランスTの巻数比を1:1とすると、フィルタリアクトルLdの電流Idは電流IabとIzの和で一定となるように流れるので、Izが増加するとIabは減少する。
【0011】
時刻t2では、IzとIdが等しくなるため、Iabが0となる。放電が進み、やがて時刻t4で共振コンデンサCzは完全に放電し、その電流Izは0となる。一方、フィルタリアクトルLdに流れる電流Idは連続であるから、共振コンデンサの放電電流Izが0となった時点で、電流Idは整流ダイオードD5〜D8に切り替わって流れる電流Ioとなる。このように電流Idの連続性は保たれる。
【0012】
共振電流IzがフリーホイールダイオードD9を流れ、トランス一次側電流Iabが0となる、時刻t2〜t4の間の時刻t3においてゲート制御装置104から半導体スイッチQ1とQ4にターンオフ信号を送り、ターンオフさせると、トランス一次側電圧Vabは0となり、Q1とQ4には入力直流電源電圧Eに等しい程度の電圧が印加される。これは僅かに残るトランスの励磁電流分がフリーホイールダイオードD3と直流電源101、フリーホイールダイオードD2の経路でフリーホイールするためである。半導体スイッチQ1とQ4の電流は時刻t3の時点でほぼ0となるから、ターンオフの過程ではスイッチング損失はほとんど発生しない。
【0013】
一方、時刻t0の時点で半導体スイッチQzがターンオンするときは、共振リアクトルLzによって共振電流Izは徐々に増加するため、ターンオンの過渡状態ではIzはまだ小さな値であるためスイッチング損失は小さい。また、フリーホイールダイオードD9が導通し共振電流Izが正である期間に、半導体スイッチQzをターンオフさせるとQzの電流はすでに0であるので、スイッチング損失は発生しないことが分かる。
【0014】
時刻t5にはゲート制御装置104から、半導体スイッチQ2とQ3にターンオン指令が出され、ターンオンを開始する。この時はフィルタリアクトルLdに流れる電流Idは整流ダイオードD5〜D8を環流している電流Ioと等しい。この時、共振リアクトルLzを通して電流Iabは流れ始めるため急激な増加はできず、また、Idは一定と見なせるため、Ioとの和がIdとなるように変化するから、IabはIoの減少分で増加してゆく。このため、Q2とQ3のターンオン過渡状態ではほとんど電流は流れない。このことからターンオン損失は小さい。このIabはだんだんと増加し、時刻t6にはIdと等しくなり、Ioは0となる。この後の半周期に関しては、以上と同様の原理で動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平4−368464号公報
【特許文献2】特開平11−98836号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】O. Deblecker, A Moretti, and F. Vallee:“Comparative Analysis of Two Zero-Current Switching Isolated DC-DC Converters for Auxiliary Railway Supply,”SPEEDAM 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
引き続き、公知例である図2に基づき説明する。
【0018】
1つ目の課題として、ダイオードには順方向に通電し電流が流れ始めた直後に逆方向の電圧を印加すると、一定期間逆方向に電流が流れた後に電圧が回復する、リカバリ特性(逆回復特性)がある。図3において、時刻t4からt6の間では整流ダイオードD5〜D8には順方向に電流Ioが流れている。時刻t5において一次側に電圧が印加されて共振リアクトルLzを通して電流が流れ出し、時刻t6でこのダイオードの電流Ioが0となる。この直後、点c,d間が短絡状態となり、共振リアクトルLzに流れていた電流が、c,D5,e,D7,dとc,D6,f,dの2つの経路で整流ダイオードD7,D6が逆方向に流れる方向で短絡される現象が発生する。その後、整流ダイオードD7とD6が逆回復し、電流が0となると、共振リアクトルLzに流れていた電流経路がなくなり、点e,f間に過電圧が発生するという問題がある。
【0019】
2つ目には、1つ目と同様に時刻t5において、トランスTの一次側には半導体スイッチQ2とQ3がターンオンすることによってステップ状の電圧が印加される。ステップ状の電圧は高周波成分まで含むので、トランスTの周波数特性によっては、Tの内部で漏れインダクタンスと浮遊容量で決まる共振が発生し、Tの二次側に過電圧を発生し、リカバリの時と同様に点e,f間に過電圧を発生する。
【0020】
以上2つの整流ダイオードのリカバリとトランスの周波数特性による過電圧は、時刻t5〜t6間のほぼ同時刻で発生するため、2つの跳ね上がり電圧が重畳した電圧が点e,f間に発生することとなり、整流ダイオードの耐圧を超える可能性もあり、素子の破壊の恐れがある。また、共振コンデンサCzにはこの時、充電されていないのでCzの電圧は0であるから、点e,f間の電圧はそのまま共振回路制御用半導体スイッチQzにも印加され、Qzも同時に破壊してしまうという課題がある。
【0021】
これを解決した公知例を図4に示し、図4の手法での対策方法について述べる。図4では図2の回路と比較し、共振回路103の共振コンデンサCzと共振回路制御用半導体スイッチQzの接続点gとフィルタ回路のフィルタリアクトルLdとフィルタコンデンサFCの接続点hとの間に新たなスナバダイオードDsを負荷した構成になっている。スナバダイオードDsと共振コンデンサCzの直列回路がフィルタリアクトルLdと並列に接続されている。上記ダイオードのリカバリとトランス内部の周波数特性によって過電圧が生じると点e,fの電圧が高く跳ね上がるが、共振コンデンサCzとスナバダイオードDsに電流が流れCzを充電する。このコンデンサの電圧Vzは次に半導体スイッチQzがオンするまで保持される。このように、e,f間に過電圧が発生した場合、共振コンデンサCz,スナバダイオードDs、及びコンデンサFCのバイパス経路で電流が流れることから、過電圧の抑制効果を生み出す。なお、過電圧発生後に共振コンデンサCzには電荷が充電されるが、共振回路103が動作するので、共振コンデンサCzに蓄えられた電荷は放電し0に戻るため、トランスTの一次側半導体スイッチの損失低減のための回路動作としては何も影響はない。
【0022】
この電圧抑制回路の課題は、トランスTと整流ダイオードD5〜D8で発生する過電圧を強制的に別経路でバイパスさせることで抑制しており、根本的な原因解決には至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決する手段の一つは、ダイオードと半導体スイッチとの並列回路と、共振コンデンサと、共振リアクトルとを有する共振回路を整流ダイオードブリッジ回路の直流出力側に設けることである。
【0024】
さらに、電力変換回路の半導体スイッチを流れる電流がほぼゼロとなったときに前記電力変換回路の半導体スイッチをオフさせる機能を有しても良い。
【0025】
または、トランスの一次側の電圧のスペクトル分布がトランス内部の直列共振周波数を含まず、整流ダイオードのリカバリによる過電圧が整流ダイオードブリッジ回路の素子耐圧を超えない値に、トランスの漏れインダクタンス値を設計しても良い。
【0026】
さらに、電力変換回路の半導体スイッチと共振回路内の半導体スイッチのオン/オフの制御をゲート制御装置によって制御しても良い。
【0027】
さらに、共振回路は、ダイオードと半導体スイッチが逆並列に接続された並列回路と、共振コンデンサと、共振リアクトルと、が直列に接続された回路であり、整流ダイオードブリッジ回路の直流出力とフィルタ回路の間に整流ダイオードブリッジ回路と並列に接続しても良い。または、共振リアクトルは、整流ダイオードブリッジ回路の直流出力とフィルタ回路の間に直列に接続され、ダイオードと半導体スイッチが逆並列に接続された並列回路と、共振コンデンサと、が直列に接続された回路が共振リアクトルとフィルタ回路の間に整流ダイオードブリッジ回路と並列に接続しても良い。
【0028】
または、ダイオードと半導体スイッチとの並列回路と、共振コンデンサとが直列接続された共振回路を整流ダイオードブリッジ回路の直流出力側に整流ダイオードブリッジ回路と並列接続し、トランスの漏れインダクタンス値が、トランスの一次側の電圧のスペクトル分布がトランス内部の直列共振周波数を含まない値であって、整流ダイオードのリカバリによる過電圧が整流ダイオードブリッジ回路の素子耐圧を超えない値に設定された構成であっても良い。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、従来の回路構成において必然的に発生するトランスT内部共振による過電圧と、整流ダイオードのリカバリによる過電圧を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明での直流電源装置の実施例1を示す。
【図2】図2は公知例の回路構成を示す。
【図3】図3は公知の構成での電圧電流と半導体スイッチ指令の時間変化を示す。
【図4】図4は公知例での課題解決方法の例を示す。
【図5】図5はダイオードブリッジを接続した場合のトランスTの等価回路を示す。
【図6】図6はトランスTの一次側から見たインピーダンスの周波数特性を示す。
【図7】図7は図1における電圧電流と半導体スイッチの指令の時間変化を示す。
【図8】図8(a)はトランスのインピーダンスの周波数特性と入力一次電圧のスペクトル分布を示し、図8(b)はトランスの漏れのインダクタンスと過電圧の関係を示す。
【図9】図9は本発明での直流電源装置の実施例2を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
始に、従来技術で課題となる、整流ダイオードのリカバリ現象とトランスTの二次側過電圧に関して考える。
【0032】
まず、トランスTに整流ダイオードブリッジD5〜D8を接続したときの等価回路を図5に示す。図5について説明すると、a〜dはそのまま図1,図2,図4内に示すa〜dと同じ位置を示し、R1,R2はそれぞれトランスTの一次側・二次側の巻線抵抗、Lp1,Lp2はトランス一次側・二次側の漏れインダクタンス、Cp1,Cp2はトランス一次側巻線および二次側巻線の浮遊容量を示す。また、Zabは一次側から二次側を見たインピーダンスを示す。従来例での共振リアクトルLzは、トランスTの漏れインダクタンスを含みLzはLp1とLp2の和で表される。また、半導体スイッチQ1とQ4がターンオンしabに電圧が印加された時を考えると、整流ダイオードD6とD7は導通状態からリカバリしてオフする。この時の整流ダイオードの接合容量をCd6とCd7とする。図5の等価回路において、トランスTの一次側から二次側を見たインピーダンスZabの絶対値の周波数特性を図6に示す。この周波数特性には周波数frにおいてトランス内部での直列共振点106を持つ。これは、図5の等価回路におけるトランス内部で過電圧を発生する直列共振経路105で共振する。この時の直列共振周波数frは下記の〔数1〕で与えられるように、トランスTの漏れインダクタンス(LP1+LP2)とトランス一次側巻線の浮遊容量Cp1とトランス二次側の浮遊容量Cp2と整流ダイオードの接合容量Cd6,Cd7の合成の容量で決定される。
【0033】
【数1】

【0034】
トランスTの一次側電圧Vabはパルス状の波形が印加されると、その波形は高周波成分までスペクトルが分布するため、トランス内部の直列共振周波数frも含有されるから、過電圧を有する共振波形が二次側に発生する。
【0035】
一方、ダイオードのリカバリ現象による過電圧は共振リアクトルLzとリカバリ時のダイオード電流の時間変化率(di/dt)の積で決定される。
【0036】
これらより、トランスTと整流ダイオードD5〜D8で発生する過電圧の問題に対する根本的な解決は、トランスの漏れインダクタンスを小さくすることである。このことによって、直列共振周波数frは〔数1〕によれば高く成るから、半導体スイッチのターンオン波形に含まれない帯域にすることが可能であり、同時に整流ダイオードリカバリ現象による過電圧も小さくすることが可能となる。
【0037】
図2や図4の公知例では共振リアクトルLzをトランスTの漏れインダクタンスを利用することとしているが、本発明では、トランスTの二次側の過電圧を防止するために、トランスTの持つ励磁インダクタンスを製造上可能な程度に小さくし、例えば図1または図9に示すように半導体スイッチQzで制御可能な共振リアクトルLzと共振コンデンサCzを有する共振回路103を整流ダイオードD5〜D8の直流出力側に接続し、過電圧問題を解決するものである。
【0038】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の実施例1として、その構成を図1により説明する。
【0040】
101には直流電源、102はフィルタリアクトルLdとフィルタコンデンサFCで構成されるフィルタ回路、107は共振回路、104は各半導体スイッチのゲート制御装置である。Q1〜Q4はインバータ回路を構成する半導体スイッチで、それぞれの半導体スイッチにはD1〜D4のフリーホイールダイオードが付属する。半導体スイッチQ1とQ2との接続点aと半導体スイッチQ3とQ4との接続点bとの間にトランスTの一次巻線が接続され、二次巻線は整流ダイオードD5〜D8よりなるブリッジの接続点cとdに接続される。このブリッジの出力はフィルタ回路102を介して負荷RLに与えられる。
【0041】
ゲート制御装置104はQ1〜Q4とQzにオンとオフの指令を与える。半導体スイッチとしては、バイポーラトランジスタ・MOSFET・サイリスタ・ゲートターンオフサイリスタ・IGBTなどが考えられるが、本実施例では代表例としてIGBTを使用して説明する。
【0042】
図1に示す構成では、トランスTの持つ励磁インダクタンスを製造上可能な程度に小さくし、その代わりに共振リアクトルLzとして共振回路に加えている。
【0043】
整流ダイオードD5〜D8の出力側e,fに半導体スイッチQzで制御可能な共振リアクトルLzと共振コンデンサCzよりなる共振回路107を直列に接続している。共振回路107はより具体的には、フライホイールダイオードD9が逆並列に接続された半導体スイッチQzと、共振リアクトルLzと、共振コンデンサCzとが直列に接続された回路である。共振回路107は整流ブリッジの出力側とフィルタ回路102との間に整流ダイオードブリッジ回路と並列に挿入されている。
【0044】
また、図7には図1に示す実施例の動作を説明するための動作波形の時間変化を表したものである。基本的な動作は技術背景で述べた図2と同一であるので、それとの差異を説明する。VCは共振コンデンサCzの両端の電圧、VLは共振リアクトルLzの両端の電圧である。Vzは共振回路の電圧でVCとVLの和で示されるIoは整流ブリッジからフィルタ回路102と負荷RLで環流する電流を示す。
【0045】
ゲート制御装置104からQ1とQ4にオン信号が与えられて、インバータ回路の半導体スイッチQ1とQ4が導通状態であるとする。点a,b間に流れる電流Iabが流れていて直流電源101から負荷RLにエネルギーを伝達している。回路動作では、公知例と同様にインバータ回路の半導体スイッチQ1とQ4をターンオフする前の時刻t0において共振回路107の半導体スイッチQzをターンオンする信号をゲート制御装置104から与えQzをターンオンさせると、共振コンデンサCzの充電電流が直流電源101より流れ込む。この電流Izは共振リアクトルLzと共振コンデンサCzの直列共振電流である。時刻t1からt2までの間では、公知例と同じIzが流れることで共振コンデンサCzを充電し、共振コンデンサCzの両端には電圧VCが発生する。一方、そのIzの時間変化と共振リアクトルLzのインダクタンスとの積で決定される電圧がVLとして発生する。
【0046】
その充電が時刻t1で完了し放電を始めるため、電流Izは正となるが、Izは時間変化を有するため、Lzではほぼ一定の誘導電圧が発生し続ける。その後の時刻t2では、IzとフィルタリアクトルLdに流れるIdが等しくなり、Iabが0となるため、Izは一定となり時間変化がなるから電圧VLが0となる。この時に電圧Vzは共振コンデンサCzの電圧VCと等しくなる。以後では、公知例と同様に放電が進み、やがて時刻t4で共振コンデンサCzは完全に放電し、その電流Izは0となる。一方、フィルタリアクトルLdに流れる電流Idは連続であるから、共振コンデンサの放電電流Izが0となった時点で、電流Idは整流ダイオードD5〜D8に切り替わって流れる電流Ioとなり、電流連続が保たれる。
【0047】
半導体スイッチQ1とQ4にターンオフに関しては、時刻t2〜t4の間の時刻t3にてゲート制御装置104からゲートオフの信号を送り、ターンオフさせる。半導体スイッチQ1とQ4を流れる電流は時刻t3の時点でほぼ0となるから、ターンオフの過程では損失はほとんど発生させないスイッチングが可能となる。ここで、t3時点で半導体スイッチQ1とQ4を流れるほぼゼロの電流とは、トランスの励磁電流のことである。その値は、トランスの設計と半導体スイッチの駆動周波数に依存するが、例えば駆動周波数を4kHzとした場合、半導体スイッチの電流定格の2%以下の電流、1200Aの半導体スイッチなら24A以下の電流となるようにする。
【0048】
本実施例の場合、共振リアクトルLzには共振リアクトルLzと共振コンデンサCzの共振電流成分のみが流れ、主回路の負荷電流である直流電流成分は流れないから共振リアクトルLzは小型のリアクトルでよい。
【0049】
ただし、トランスTの漏れインダクタンスを0とすることは製造上困難である。この漏れインダクタンスの制限値を決定する例として図8を用いて説明する。トランスTの一次側に接続される半導体スイッチがターンオンする際に、トランスTの一次側電圧波形が有するスペクトル分布とトランス内部共振特性によって過電圧が発生する。そのため、図8(a)に示すようにトランスTの一次側の電圧のスペクトル分布が〔数1〕で与えられるトランス内部の直列共振周波数frを含まぬように、トランスTの漏れインダクタンス値を設定することで共振による過電圧を防止可能である。この条件の下で、図8(b)に示すように、整流ダイオードのリカバリによる過電圧が整流ダイオードの素子耐圧の許容値を超えない範囲でトランス漏れインダクタンスの制限値を設定する。
【実施例2】
【0050】
実施例1とは異なる他の実施例を図9を用いて以下に説明する。
【0051】
本発明は図9の形態においても実現可能である。本実施例においても、共振回路108はフリーホイールダイオードD9が逆並列に接続された半導体スイッチQzと共振コンデンサCzと共振リアクトルLzを有している。具体的には、フリーホイールダイオードD9が逆並列に接続された半導体スイッチQzと共振コンデンサCzを直列接続した回路が、整流ブリッジの出力点eとフィルタリアクトルLdとの間の点fに接続されており、共振リアクトルLzが整流ブリッジの出力点eと点fの間に挿入されている。
【0052】
つまり、共振リアクトルLzが整流ダイオードの出力点eとフィルタリアクトルLd接続点fの間に挿入した構成である。
【0053】
動作原理と波形は実施例1と同一である。ただし、この場合には、共振リアクトルLzには負荷電流の直流成分が連続で流れる点で、実施例1とは異なり、実施例1と比較して大きなリアクトルが必要となる。しかし、配線の都合などによって、その配線インダクタンスによりLzの値を満足できる場合には有効な構成である。
【0054】
上述した各実施例によれば、従来の回路構成において必然的に発生するトランスT内部共振による過電圧と、整流ダイオードのリカバリによる過電圧を同時に低減させる効果がある。
【0055】
また、それら二次側の過電圧の原因を取り除いた構成であるため、過電圧への対応策は不要となる。つまり、公知例2ではスナバダイオードDsを導入することで過電圧をバイパスさせていたが、そのような半導体素子が減少することで、装置全体の信頼性向上につながる。
【0056】
一方、従来例では共振リアクトルLzはトランスTの漏れインダクタンスとして構成され、追加のリアクトルは不要であったが、本発明では整流ダイオードD5〜D8の直流出力側に接続される、追加のリアクトルとするため、共振リアクトルLzと共振コンデンサCzの組み合わせの自由度が高まることで半導体スイッチの定格など、設計の自由度を大きく増加させることが可能となる。
【0057】
特に、実施例1に示す形態では、共振リアクトルLzには負荷に流れる主回路電流が流れずに共振電流のみとなるためLzの小型のものでよい。
【0058】
このように、本発明は従来の回路に共振回路を付加したのみの構成であり、電圧制御範囲が広く取れ、制御性がよい。またスナバ回路の省略によって公知例よりさらに信頼性が向上し、実績の多いPWM制御インバータ回路に付加すると大きな効果を生む。当然ながら公知例と同様に、スイッチング周波数の高周波化による小型軽量化と、冷却装置の簡素化,高周波電磁ノイズの低減への効果も含んでいる。
【0059】
なお、本発明における共振リアクトルLzは、必ずしもリアクトルを増加させる装置を意図するものではなく、配線そのもののインダクタンスを利用しても良い。
【符号の説明】
【0060】
101 直流電源
102 フィルタ回路
103,107,108 共振回路
104 ゲート制御装置
105 トランス内部で過電圧を発生する直列共振経路
106 トランス内部での直列共振点
Cd6 整流ダイオードD6の接合容量
Cd7 整流ダイオードD7の接合容量
Cp1 トランスTの等価回路における一次側浮遊容量
Cp2 トランスTの等価回路における二次側浮遊容量
Cz 共振コンデンサ
D1〜D4,D9 フリーホイールダイオード
D5〜D8 整流ダイオード
Ds スナバダイオード
E 入力直流電源電圧
FC フィルタコンデンサ
Fr トランス内部で発生する直列共振の周波数
Ld フィルタリアクトル
Lm トランスTの等価回路における励磁インダクタンス
Lp1 トランスTの等価回路における一次側漏れインダクタンス
Lp2 トランスTの等価回路における二次側漏れインダクタンス
Lz 共振リアクトル
Q1〜Q4 半導体スイッチ
Qz 共振回路制御用半導体スイッチ
R1 トランスTの等価回路における一次巻線抵抗
R2 トランスTの等価回路における二次巻線抵抗
RL 負荷
T トランス
Zab トランスTの一次側から二次側を見たインピーダンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、直流から交流を生成可能な電力変換回路と、前記電力変換回路の出力と接続されたトランスの一次巻線と、トランスの二次巻線と、前記二次巻線と接続された整流ダイオードブリッジ回路と、リアクトルとコンデンサで構成され前記整流ダイオードブリッジ回路の出力側に接続されるフィルタ回路と、を有する直流電源装置において、
ダイオードと半導体スイッチとの並列回路と、共振コンデンサと、共振リアクトルとを有する共振回路を前記整流ダイオードブリッジ回路の直流出力側に設けたことを特徴とする直流電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の直流電源装置において、
前記電力変換回路の半導体スイッチを流れる電流がほぼゼロとなったときに前記電力変換回路の半導体スイッチをオフさせることを特徴とする直流電源装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の直流電源装置において、
前記トランスの一次側の電圧のスペクトル分布が前記トランス内部の直列共振周波数を含まず、前記整流ダイオードのリカバリによる過電圧が前記整流ダイオードブリッジ回路の素子耐圧を超えない値に、前記トランスの漏れインダクタンス値を設計することを特徴とした直流電源装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の直流電源装置において、
前記電力変換回路の半導体スイッチと前記共振回路内の半導体スイッチのオン/オフの制御は、ゲート制御装置によって制御されることを特徴とする直流電源装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の直流電源装置において、
前記共振回路は、前記ダイオードと前記半導体スイッチが逆並列に接続された前記並列回路と、共振コンデンサと、前記共振リアクトルと、が直列に接続された回路であり、前記整流ダイオードブリッジ回路の直流出力と前記フィルタ回路の間に前記整流ダイオードブリッジ回路と並列に接続されることを特徴とする直流電源装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の直流電源装置において、
前記共振リアクトルは、前記整流ダイオードブリッジ回路の直流出力と前記フィルタ回路の間に直列に接続され、
前記ダイオードと前記半導体スイッチが逆並列に接続された前記並列回路と、共振コンデンサと、が直列に接続された回路が前記共振リアクトルと前記フィルタ回路の間に前記整流ダイオードブリッジ回路と並列に接続されることを特徴とする直流電源装置。
【請求項7】
直流電源と、直流から交流を生成可能な電力変換回路と、前記電力変換回路の出力と接続されたトランスの一次巻線と、トランスの二次巻線と、前記二次巻線と接続された整流ダイオードブリッジ回路と、リアクトルとコンデンサで構成され前記整流ダイオードブリッジ回路の出力側に接続されるフィルタ回路と、を有する直流電源装置において、
ダイオードと半導体スイッチとの並列回路と、共振コンデンサとが直列接続された共振回路を前記整流ダイオードブリッジ回路の直流出力側に前記整流ダイオードブリッジ回路と並列接続し、
前記トランスの漏れインダクタンス値が、前記トランスの一次側の電圧のスペクトル分布が前記トランス内部の直列共振周波数を含まない値であって、前記整流ダイオードのリカバリによる過電圧が前記整流ダイオードブリッジ回路の素子耐圧を超えない値に設定されたことを特徴とした直流電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−75210(P2012−75210A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216333(P2010−216333)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】