説明

直線作動装置に用いられるウェアリング

【課題】ウェアリングの摩耗を抑制して耐久性の向上を図ると共に、変位体を円滑に直線変位させる。
【解決手段】ウェアリング20は、流体圧シリンダ10におけるピストン16の外周面に装着され、環状の本体部56と、該本体部56の内周面から半径内方向に突出した複数の壁部58と、前記内周面に形成され潤滑剤の充填される潤滑用溝60とを有する。そして、ウェアリング20が、ピストン16の第3環状溝46に装着された際、その本体部56が浅溝部52に挿入され壁部58が深溝部54に挿入される。この本体部56の外周面62は、ウェアリング20の軸線方向に沿って切断された断面形状が、外周側に向かって断面円弧状に膨出した円弧状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線方向に沿って変位する変位体を備える直線作動装置に用いられ、前記変位体に装着されるウェアリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、ワークの搬送や位置決め、あるいは種々の産業機械を駆動させるための駆動手段として圧力流体によって直線変位するピストンを備えた流体圧シリンダが知られている。この流体圧シリンダは、筒状のシリンダチューブの内部にピストンが変位自在に挿通され、前記ピストンに連結されたピストンロッドがロッドカバーによって変位自在に支持されている。そして、シリンダチューブ及びロッドカバーに設けられたポートから前記シリンダチューブ内に圧力流体が導入されることにより、前記ピストン及びピストンロッドが軸線方向に沿って変位する。このような流体圧シリンダでは、ピストンの外周面にパッキン及びウェアリングが装着され、シリンダチューブの内周面に摺接している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−187413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような流体圧シリンダでは、一般的に、ピストンがシリンダチューブに対して同軸上に配置され、その外周面に設けられたパッキン及びウェアリングが、前記シリンダチューブの内周面に対して均一に摺接するように構成されている。しかしながら、例えば、シリンダチューブから突出したピストンロッドの端部に、その軸線と直交方向に荷重が付与された場合、又は、前記ピストンロッド等の自重によって該ピストンロッドと共にピストンが前記シリンダチューブ内で若干だけ傾斜した際、パッキン及びウェアリングが、前記シリンダチューブの内周面に対して片辺りすることとなる。これにより、ピストンが変位する際の摺動抵抗が増加し、該ピストンの変位抵抗となると共に、ウェアリングが偏摩耗してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、摩耗を抑制して耐久性の向上を図ることができ、しかも、変位体を円滑に直線変位させることが可能な直線作動装置に用いられるウェアリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、本発明は、ボディと、該ボディの内部に沿って変位自在に設けられる変位体と、前記変位体に連結される連結部材とを有する直線作動装置において、前記変位体の外周面に溝部を介して装着され前記ボディの内壁面に当接する環状のウェアリングであって、
前記ウェアリングは、環状に形成される本体部と、
前記本体部の外周面に設けられ前記内壁面に当接すると共に、前記変位体に装着された状態において、該変位体及び前記本体部の軸線に対して所定角度傾斜、又は、半径外方向に向かって膨出した断面形状で形成される当接部と、
前記本体部の内周側から前記外周面側に向かって潤滑剤を供給する潤滑剤供給部と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、変位体に溝部を介して装着されるウェアリングにおいて、環状に形成された本体部を備え、前記本体部の外周面には、ボディの内壁面に当接し、前記変位体に装着された状態において、該変位体及び前記本体部の軸線に対して所定角度傾斜、又は、半径外方向に向かって膨出した断面形状で形成される当接部を備える。そして、例えば、変位体に連結された連結部材に対して荷重が付与され、前記変位体がボディの内部において傾斜した場合でも、当接部を設けているため、従来技術に係るウェアリングと比較し、前記当接部とボディの内壁面との接触面積を大きく確保することが可能となる。
【0008】
その結果、直線作動装置において、変位体がボディに対して傾斜した場合でも、前記変位体を軸線方向に沿って変位する際の摺動抵抗が増加してしまうことが回避され、しかも、潤滑剤供給部から潤滑剤がウェアリングの外周面へと供給されているため、前記変位体をボディに沿って円滑に変位させることができると共に、ウェアリングの摩耗を抑制できるため、その耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0009】
さらに、当接部を、断面円弧状に形成したり、内周側に向かって傾斜した傾斜面を設けるとよい。
【0010】
さらにまた、傾斜面は、本体部の軸線方向に沿った一端部及び他端部側にそれぞれ設けられ、該本体部の軸線方向に沿った中央部に対して対称形状で形成するとよい。
【0011】
またさらに、傾斜面は、変位体がボディに対して傾斜した際、該ボディの内壁面と略平行となる角度で傾斜させるとよい。
【0012】
また、潤滑剤供給部は、本体部の内周面に形成され、潤滑剤の保持される潤滑剤保持部と、前記潤滑剤保持部と外周面とを連通する連通路とを備えるとよい。これにより、潤滑剤を、本体部において潤滑剤保持部から外周面側へと連通路を通じて確実に供給することが可能となる。
【0013】
さらに、連通路は、本体部の一端部及び他端部の少なくともいずれか一方の端面に設けるとよい。これにより、潤滑剤保持部に保持された潤滑剤を、連通路を通じて本体部の一端部及び他端部から該本体部の外周面へと確実且つ安定的に供給することができる。
【0014】
さらにまた、連通路は、本体部の内部を貫通するように形成するとよい。これにより、潤滑剤保持部に保持された潤滑剤を、本体部の内部に形成された連通路を通じて該本体部の外周面へと確実且つ安定的に供給することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0016】
すなわち、ウェアリングを構成する本体部の外周面に、変位体及び前記本体部の軸線に対して所定角度傾斜、又は、半径外方向に向かって膨出した断面形状で形成される当接部を設けることにより、前記変位体に連結された連結部材に対して荷重が付与され、前記変位体がボディの内部において傾斜した場合でも、従来技術に係るウェアリングと比較し、前記当接部とボディの内壁面との接触面積を大きく確保することができる。その結果、直線作動装置において、変位体がボディに対して傾斜した場合でも、前記変位体を軸線方向に沿って変位する際の摺動抵抗が増加してしまうことが回避され、しかも、潤滑剤供給部から潤滑剤がウェアリングの外周面へと供給されているため、前記変位体をボディに沿って円滑に変位させることができると共に、前記ウェアリングの摩耗を抑制できるため、その耐久性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るウェアリングの用いられた流体圧シリンダの全体断面図である。
【図2】図1の流体圧シリンダにおけるピストン近傍を示す拡大断面図である。
【図3】図2に示すウェアリングの外観斜視図である。
【図4】図3に示すウェアリングの正面図である。
【図5】図3に示すウェアリングの背面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図1の流体圧シリンダにおいてピストン及びピストンロッドがシリンダチューブの軸線に対して傾斜した場合を示す全体断面図である。
【図8】図7の流体圧シリンダにおけるピストン近傍を示す拡大断面図である。
【図9】図9Aは、第1変形例に係るウェアリングの装着されたピストン近傍の拡大断面図であり、図9Bは、第2変形例に係るウェアリングの装着されたピストン近傍の拡大断面図である。
【図10】図10Aは、本発明の第2の実施の形態に係るウェアリングの用いられた流体圧シリンダにおけるピストン近傍を示す拡大断面図であり、図10Bは、図10Aのピストンがシリンダチューブに対して傾斜した場合の拡大断面図である。
【図11】図11Aは、第3変形例に係るウェアリングの装着されたピストン近傍の拡大断面図であり、図11Bは、第4変形例に係るウェアリングの装着されたピストン近傍の拡大断面図である。
【図12】図12Aは、本発明の第3の実施の形態に係るウェアリングの用いられた流体圧シリンダにおけるピストン近傍を示す拡大断面図であり、図12Bは、図12Aのピストンがシリンダチューブに対して傾斜した場合の拡大断面図である。
【図13】図13Aは、第5変形例に係るウェアリングの装着されたピストン近傍の拡大断面図であり、図13Bは、第6変形例に係るウェアリングの装着されたピストン近傍の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る直線作動装置に用いられるウェアリングについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0019】
図1において、参照符号10は、本発明の第1の実施の形態に係るウェアリング20の適用された直線作動装置である流体圧シリンダを示す。
【0020】
この流体圧シリンダ10は、図1及び図2に示されるように、有底筒状に形成されるシリンダチューブ(ボディ)12と、前記シリンダチューブ12の開口した端部に装着されるロッドカバー14と、前記シリンダチューブ12の内部を軸線方向(矢印A、B方向)に沿って変位するピストン(変位体)16と、前記ピストン16に連結されるピストンロッド(連結部材)18と、前記ピストン16の外周面に装着されるウェアリング20とを含む。
【0021】
シリンダチューブ12の一端部には、その側面に圧力流体が供給・排出される第1ポート22が形成されている。第1ポート22は、連通路24aを介して前記シリンダチューブ12の内部に形成されたシリンダ室26と連通する。また、シリンダ室26は、シリンダチューブ12の内部に沿って形成され、該シリンダ室26にピストン16が変位自在に配設される。このシリンダ室26は、ピストン16とシリンダチューブ12の閉塞された一端部との間に形成される第1シリンダ室28と、前記ピストン16とロッドカバー14との間に形成される第2シリンダ室30とから構成される。すなわち、第1シリンダ室28が、連通路24aを通じて第1ポート22と連通している。
【0022】
ロッドカバー14は、その一端部の外周面にねじ部が刻設され、シリンダチューブ12の開口端部に対して螺合されることにより一体的に連結される。この際、シリンダチューブ12の開口端部に装着されたシール部材32が前記ロッドカバー14の端面に当接する。これにより、シリンダ室26内の気密が好適に保持され、前記ロッドカバー14とシリンダチューブ12との間を通じて前記シリンダ室26の圧力流体が外部に漏出することが防止される。
【0023】
また、ロッドカバー14の側面には、圧力流体が供給・排出される第2ポート34が形成され、該第2ポート34は連通路24bを通じて該ロッドカバー14の中央部を貫通したロッド孔36に連通している。このロッド孔36は、ロッドカバー14の軸線方向(矢印A、B方向)に沿って貫通し、その内部にはピストンロッド18が変位自在に挿通されている。
【0024】
ロッド孔36には、軸線方向に沿った略中央部に環状溝を介してブッシュ38が装着されると共に、前記ブッシュ38と隣接したロッドカバー14の他端部側(矢印B方向)には、環状溝を介してロッドパッキン40が装着されている。ブッシュ38は、例えば、金属製材料から断面略長方形状のリング状に形成され、その内周面がピストンロッド18の外周面に当接している。そして、ピストンロッド18が軸線方向(矢印A、B方向)に沿って変位する際、その外周面に当接することによって変位自在に支持している。
【0025】
ピストン16は、例えば、金属製材料から形成され、その中心部を貫通したピストン孔にピストンロッド18の一端部側(矢印A方向)に挿通され、螺合されることによって連結される。
【0026】
一方、ピストン16の外周面には、該ピストン16の軸線方向(矢印A、B方向)に沿って所定間隔離間した第1〜第3環状溝42、44、46が形成され、ロッドカバー14側(矢印B方向)となる第1環状溝42にはピストンパッキン48が装着され、該第1環状溝42に隣接した第2環状溝44にはマグネット50が装着され、最も前記ロッドカバー14から離間した第3環状溝46にはウェアリング20が装着される。
【0027】
なお、第1及び第2環状溝42、44は、断面略矩形状に形成され、第3環状溝46は、ピストン16の外周面に対して略一定深さで窪んだ浅溝部52と、該浅溝部52の中央においてさらに内周側へと窪んだ深溝部54とからなる。
【0028】
この浅溝部52は、ピストン16の端面から第2環状溝44と交差する部位まで軸線方向に沿って(矢印A、B方向)延在している(図2参照)。
【0029】
すなわち、ピストンパッキン48によってシリンダチューブ12における第1及び第2シリンダ室28、30の気密が好適に保持されると共に、シリンダチューブ12に設けられた位置検出手段(図示しない)を介してマグネット50を検出することにより、前記ピストン16の軸線方向(矢印A、B方向)に沿った位置を検出することが可能となる。
【0030】
ウェアリング20は、図2〜図6に示されるように、例えば、樹脂製材料から形成され、環状に形成される本体部56と、該本体部56の内周面から半径内方向に突出した複数の壁部58と、前記内周面に形成され潤滑剤の充填される潤滑用溝60とを有する。そして、ウェアリング20が第3環状溝46に装着された際、その本体部56が浅溝部52に挿入されると共に、壁部58が深溝部54に挿入される。
【0031】
本体部56は、その一部が軸線方向(矢印A、B方向)に沿って切断され、半径方向に拡径自在に形成される。この本体部56の外周面(当接部)62は、図6に示されるように、軸線方向(矢印A、B方向)に沿って切断された断面形状が、外周側に向かって断面円弧状に膨出した円弧状に形成される。外周面62は、ウェアリング20の軸線方向に沿った幅方向において、その略中央部が最も拡径した断面形状で形成される(図6参照)。
【0032】
一方、本体部56の内周面には、幅方向に沿った略中央部に半径内方向に突出した複数の壁部58が設けられる。壁部58は、断面略長方形状に形成され、ウェアリング20の内周面に沿って周方向に互いに等間隔離間して配置されると共に、半径内方向に同一高さで突出している。
【0033】
また、本体部56の内周面には、壁部58に隣接して半径外方向に所定深さで窪んだ潤滑用溝60を有する。潤滑用溝60は、壁部58と該壁部58に隣接した他の壁部58との間となるように配置されると共に、前記ウェアリング20の一端部側(矢印A方向)に開口した第1溝部64と、前記ウェアリング20の他端部側(矢印B方向)に開口した第2溝部66とから構成される。そして、第1溝部64と第2溝部66とが、ウェアリング20の周方向に沿って交互となるように配置される。なお、潤滑用溝60を構成する第1及び第2溝部64、66は、略同一深さで形成される。
【0034】
さらに、本体部56の一端部及び他端部には、第1溝部64及び第2溝部66と連通し、半径外方向に向かって延在する連通溝68a、68bがそれぞれ形成される。この連通溝68a、68bは、第1及び第2溝部64、66と同一の幅寸法で形成され、該第1及び第2溝部64、66に対して直交するように延在している。
【0035】
そして、潤滑用溝60には、例えば、グリス等の潤滑剤が充填され、前記ウェアリング20がピストン16に装着された際、前記潤滑剤が、第3環状溝46における浅溝部52と前記潤滑用溝60との間を通じてウェアリング20の一端部側及び他端部側へと流出した後、それぞれ連通溝68a、68bを通じて半径外方向へと流通し、前記ピストン16とシリンダチューブ12との間に供される。
【0036】
ピストンロッド18は、その一端部側(矢印A方向)にピストン16の連結される細軸部70が形成されると共に、他端部側(矢印B方向)には前記細軸部70より拡径した太軸部72が形成される。そして、太軸部72は、ロッドカバー14のロッド孔36に挿通され、ブッシュ38を介して軸線方向に沿って変位自在に支持される。また、太軸部72の外周面にロッドパッキン40が当接し、ロッド孔36とピストンロッド18との間からの圧力流体の漏出が防止される。
【0037】
本発明の第1の実施の形態に係るウェアリング20の用いられた直線作動装置である流体圧シリンダ10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0038】
図示しない圧力流体供給源から第1ポート22に圧力流体(例えば、圧縮エア)を供給することにより、前記第1ポート22に供給された圧力流体が、連通路24aを通じて第1シリンダ室28に導入される。これにより、シリンダチューブ12の内部に設けられたピストン16が、図1に示される初期位置からロッドカバー14側(矢印B方向)に向かって押圧され、前記ピストン16がロッドカバー14側に向かって変位する。なお、第2シリンダ室30における圧力流体は、連通路24bを通じて圧力流体の供給されていない状態にある第2ポート34から外部へと排出される。
【0039】
また、この際、ウェアリング20は、その外周面62がシリンダ室26の内壁面に摺接しながら変位することとなるが、前記外周面62が前記内壁面に向かって膨出した断面円弧状に形成されているため、その摺動抵抗が小さく、該ウェアリング20の装着されたピストン16が円滑に変位する。さらに、ウェアリング20の潤滑用溝60に保持された潤滑剤が、第1及び第2溝部64、66から連通溝68a、68bを経て前記ウェアリング20及びピストン16の外周面へと流出し、該ピストン16とシリンダチューブ12との間の潤滑がなされる。
【0040】
そして、ピストン16が、ロッドカバー14の端面に当接することにより流体圧シリンダ10におけるピストン16の変位終端位置となる。
【0041】
一方、上述した変位終端位置にあるピストン16をロッドカバー14から離間させる方向(矢印A方向)へと変位させる場合には、第1ポート22に圧力流体供給源(図示せず)から供給されていた圧力流体を、図示しない切換弁の切換作用下に第2ポート34へと供給すると共に、前記第1ポート22を圧力流体が供給されていない状態とする。
【0042】
第2ポート34に供給された圧力流体は、連通路24bを通じて第2シリンダ室30に導入され、ピストン16がロッドカバー14から離間する方向へと押圧されることにより、前記ピストン16が前記ロッドカバー14から離間する方向(矢印A方向)へと変位する。この場合も同様に、外周面62が断面円弧状に形成されたウェアリング20によってピストン16の変位抵抗が低減されるため、該ピストン16を円滑に変位させることができる。
【0043】
なお、第1シリンダ室28における圧力流体は、連通路24aを通じて第1ポート22から外部へと排出される。
【0044】
そして、ピストン16が、シリンダチューブ12の閉塞された一端部側(矢印A方向)に当接することにより、流体圧シリンダ10におけるピストン16の初期位置へと復帰する(図1参照)。
【0045】
次に、例えば、ピストンロッド18の他端部に対して該ピストンロッド18の軸線と直交方向(鉛直方向)に荷重Fが付与された場合について、図7及び図8を参照しながら説明する。
【0046】
このような荷重F(図7参照)が付与された場合には、ピストンロッド18の他端部が下方へと押圧され、ロッドカバー14によって支持された部位を支点として前記他端部が下方へと所定角度だけ傾斜した状態となる。これにより、ピストンロッド18の一端部及び該一端部に連結されたピストン16が、ピストン16の外周面とシリンダ室26の内壁面との間に設けられたクリアランスを介してシリンダ室26内で上方に向かって所定角度だけ傾斜した状態となる。
【0047】
これにより、ウェアリング20は、ピストン16と共にシリンダチューブ12の軸線及び内周面に対して所定角度だけ傾斜するが、その外周面62が断面円弧状に形成されているため、前記内周面と前記ウェアリング20の外周面62との接触面積が変わることがない。
【0048】
その結果、何らかの原因でピストンロッド18の他端部に対して下方への荷重Fが付与され、前記ピストンロッド18及びピストン16がシリンダ室26内において傾斜した場合でも、ピストンロッド18及びピストン16が、シリンダチューブ12の軸線と同軸上に設けられた通常状態(図1参照)と比較し、ウェアリング20とシリンダチューブ12との接触面積を安定的且つ大きく確保することができ、それに伴って、前記シリンダチューブ12に当接した際に前記ウェアリング20に付与される面圧の増加を抑制することができる。換言すれば、シリンダチューブ12に対するウェアリング20の接触面積が変化することがない。
【0049】
すなわち、流体圧シリンダ10において、ピストン16を軸線方向(矢印A、B方向)に沿って変位する際の摺動抵抗が増加してしまうことが回避され、前記ピストン16及びピストンロッド18を円滑に変位させることが可能となる。
【0050】
以上のように、第1の実施の形態では、ピストン16に装着されるウェアリング20において、環状に形成された本体部56を備え、その外周面62が、該本体部56の軸線方向に沿って切断した断面において半径外方向に向かって膨出した断面円弧状に形成されている。
【0051】
そのため、ピストンロッド18の他端部に荷重Fが付与され、該ピストンロッド18と共にピストン16が所定角度だけ傾斜した場合でも、従来技術に係るウェアリングと比較し、ウェアリング20の外周面62とシリンダチューブ12の内壁面との接触面積を大きく確保することが可能となる。その結果、流体圧シリンダ10において、該ピストンロッド18と共にピストン16が所定角度だけ傾斜した場合でも、前記ピストン16を軸線方向に沿って変位する際の摺動抵抗が増加してしまうことが回避され、前記ピストン16及びピストンロッド18を円滑に変位させることが可能となる。
【0052】
また、潤滑用溝60を構成する第1及び第2溝部64、66に充填された潤滑剤が、それぞれ連通溝68a、68bを通じて本体部56の外周側へと導かれ、ウェアリング20及びピストン16の外周面に供給され、該外周面とシリンダチューブ12におけるシリンダ室26の内周面との間の潤滑に供される。これにより、ピストン16をシリンダチューブ12に沿って円滑に変位させることができると共に、ウェアリング20の摩耗を低減させ耐久性の向上を図ることができる。
【0053】
さらに、ウェアリング20において、第1溝部64は、幅方向における一端部側(矢印A方向)に連通し、第2溝部66は、前記幅方向における他端部側(矢印B方向)に連通しているため、潤滑剤を、前記ウェアリング20の一端部及び他端部側に略均等に供給することができる。その結果、潤滑剤を、ピストン16の外周面に沿って幅広く供給することができ、それに伴って、前記ピストン16とシリンダチューブ12との間における潤滑をより一層好適に行うことが可能となる。
【0054】
次に、第1及び第2変形例に係るウェアリング100、110について、図9A及び図9Bを参照しながら簡単に説明する。
【0055】
第1変形例に係るウェアリング100は、図9Aに示されるように、本体部56の内周面に壁部58が設けられておらず、前記内周面が断面平面状に形成されている。一方、ウェアリング100の装着される第3環状溝46が、浅溝部52及び深溝部54を有しておらず、断面矩形状に形成されている。そして、この第3環状溝46にウェアリング100を装着する際、その内周面が前記第3環状溝46の底面に当接する。
【0056】
第2変形例に係るウェアリング110は、図9Bに示されるように、本体部112の一端部及び他端部に連通溝68a、68bを有さず、前記本体部112を貫通し、潤滑用溝60と前記本体部112の外周面62とを貫通する貫通孔114を備えている。そして、潤滑用溝60に充填された潤滑剤が、貫通孔114を通じてウェアリング110の外周面62へと供給され、ピストン16及びウェアリング110とシリンダチューブ12との間の潤滑を行う。
【0057】
この第2変形例に係るウェアリング110のように、潤滑剤を潤滑用溝60から貫通孔114を通じて直接的に該ウェアリング110の外周面62へと供給することにより、より一層効果的にピストン16及びウェアリング110の潤滑を行うことが可能となる。
【0058】
次に、第2の実施の形態に係るウェアリング120の用いられた流体圧シリンダ10を図10A及び図10Bに示す。なお、上述した第1の実施の形態に係るウェアリング20及び流体圧シリンダ10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0059】
この第2の実施の形態に係るウェアリング120では、本体部122の外周面124が平坦部126と、該平坦部126に対して所定角度だけ内周側に傾斜した一対の第1傾斜部128a、128bとを有する点で、第1の実施の形態に係るウェアリング20と相違している。
【0060】
この平坦部126は、ウェアリング120の一端部と他端部との間となる幅方向の略中央部に形成され、前記ウェアリング120の軸線と略平行な平面状に形成される。
【0061】
一方、第1傾斜部128a、128bは、平坦部126を中心として一端部側及び他端部側にそれぞれ形成され、該平坦部126から離間する方向に向かって徐々に内周側に傾斜している。この第1傾斜部128a、128bの平坦部126に対する傾斜角度θ1は略同一に設定される。
【0062】
なお、本体部122の内周面には、第1の実施の形態に係るウェアリング20と同様に、複数の壁部58及び潤滑用溝60が設けられている。
【0063】
この第1傾斜部128a、128bの傾斜角度θ1は、例えば、ピストンロッド18の他端部に対して略垂直方向に荷重Fが付与された際、シリンダチューブ12に対するピストンロッド18の最大傾斜角度と略同等となるように設定される。
【0064】
換言すれば、傾斜角度θ1は、ピストンロッド18が最も傾斜した際に、ウェアリング120の第1傾斜部128a、128bと、該ウェアリング120の外周面124に臨むシリンダチューブ12の内壁面とが略平行となる角度に予め設定される。
【0065】
このようなウェアリング120を用いることによって、ピストンロッド18の他端部に荷重Fが付与され、該ピストンロッド18と共にピストン16が所定角度だけ傾斜した場合に、前記ウェアリング120における一方の第1傾斜部128aとシリンダチューブ12の内壁面とが平行となり、且つ、面接触させることができるため、従来技術に係るウェアリング20と比較し、ウェアリング120の外周面124とシリンダチューブ12の内壁面との接触面積を大きく確保することができる。
【0066】
その結果、流体圧シリンダ10において、ピストンロッド18と共にピストン16が所定角度だけ傾斜した場合でも、前記ピストン16を軸線方向に沿って変位する際の摺動抵抗が増加してしまうことが回避され、前記ピストン16及びピストンロッド18を円滑に変位させることが可能となる。
【0067】
また、このウェアリング120では、例えば、ピストンロッド18の他端部に対して上方への荷重Fが付与され、前記ピストンロッド18及びピストン16が傾斜した場合でも、もう一方の第1傾斜部128bが、シリンダチューブ12の内壁面とが平行となって面接触するため、上記と同様に接触面積を大きく確保でき、それに伴って、前記ウェアリング20に付与される面圧を低減できるため、前記ピストン16の摺動抵抗が増加してしまうことがなく、前記ピストン16及びピストンロッド18を円滑に変位させることができる。
【0068】
さらに、このウェアリング120では、対称形状となる第1傾斜部128a、128bが一対設けられているため、前記ウェアリング120をピストン16に対して装着する際、指向性がなく、それに伴って、前記ウェアリング120の組付作業性を向上させることが可能となる。
【0069】
次に、第3及び第4変形例に係るウェアリング130、140について、図11A及び図11Bを参照しながら簡単に説明する。
【0070】
第3変形例に係るウェアリング130は、図11Aに示されるように、本体部56の内周面に壁部58が設けられておらず、前記内周面が断面平面状に形成されている。一方、ウェアリング130の装着される第3環状溝46が、浅溝部52及び深溝部54を有しておらず、断面矩形状に形成されている。そして、この第3環状溝46にウェアリング130を装着する際、その内周面が前記第3環状溝46の底面に当接する。
【0071】
第4変形例に係るウェアリング140は、図11Bに示されるように、本体部142の一端部及び他端部に連通溝68a、68bを有さず、前記本体部142を貫通し、潤滑用溝60と前記本体部56の外周面62とを貫通する一対の貫通孔144a、144bを備えている。この貫通孔144a、144bは、断面略V字状に形成され、その一方が、潤滑用溝60と一方の第1傾斜部128aとを連通し、他方の貫通孔144bが、前記潤滑用溝60と他方の第1傾斜部128bとを連通している。
【0072】
そして、潤滑用溝60に充填された潤滑剤が、一対の貫通孔144a、144bを通じてそれぞれウェアリング140の第1傾斜部128a、128bへと供給され、該ウェアリング140及びピストン16の外周面とシリンダチューブ12の内壁面との間における潤滑を行う。このように、貫通孔144a、144bを通じて潤滑剤をウェアリング140の外周面側へと直接的に供給することにより、前記ピストン16とシリンダチューブ12との間の潤滑をより一層確実且つ安定的に行うことが可能となる。
【0073】
次に、第3の実施の形態に係るウェアリング150の用いられた流体圧シリンダ10を図12A及び図12Bに示す。なお、上述した第1の実施の形態に係るウェアリング20及び流体圧シリンダ10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0074】
この第3の実施の形態に係るウェアリング150では、本体部152の外周面154に、該ウェアリング150の他端部から一端部側(矢印A方向)に向かって徐々に内周側へと傾斜した第2傾斜部156を有している点で、第1及び第2の実施の形態に係るウェアリング20、120と相違している。
【0075】
この第2傾斜部156は、ウェアリング150の他端部から一端部側に向かって一直線上に傾斜し、その傾斜角度θ2は、例えば、他端部の外周部を通り前記ウェアリング150の軸線と平行な仮想線L(図12A参照)に対し、前記他端部を基点として内周側に向かって設定される。そして、第2傾斜部156の傾斜角度θ2は、例えば、ピストンロッド18の他端部に対して略垂直方向に荷重Fが付与された際、シリンダチューブ12に対するピストンロッド18の最大傾斜角度と略同等となるように予め設定される。
【0076】
換言すれば、傾斜角度θ2は、ピストンロッド18が最も傾斜した際に、ウェアリング150の第2傾斜部156と、該ウェアリング150の外周面154に臨むシリンダチューブ12の内壁面とが略平行となる角度で設定される。
【0077】
このようなウェアリング150を用いることによって、ピストンロッド18の他端部に上方から荷重Fが付与され、該ピストンロッド18と共にピストン16が所定角度だけ傾斜した場合に、前記ウェアリング150における第2傾斜部156とシリンダチューブ12の内壁面とが平行となり、且つ、面接触させることができるため、従来技術に係るウェアリングと比較し、ウェアリング150の外周面154とシリンダチューブ12の内壁面との接触面積を大きく確保することができる。
【0078】
その結果、流体圧シリンダ10において、該ピストンロッド18と共にピストン16が所定角度だけ傾斜した場合でも、前記ピストン16を軸線方向に沿って変位する際の摺動抵抗が増加してしまうことが回避され、前記ピストン16及びピストンロッド18を円滑に変位させることが可能となる。
【0079】
次に、第5及び第6変形例に係るウェアリング160、170について、図13A及び図13Bを参照しながら簡単に説明する。
【0080】
第5変形例に係るウェアリング160は、図13Aに示されるように、本体部56の内周面に壁部58が設けられておらず、前記内周面が断面平面状に形成されている。一方、ウェアリング160の装着される第3環状溝46が、浅溝部52及び深溝部54を有しておらず、断面矩形状に形成されている。そして、この第3環状溝46にウェアリング160を装着する際、その内周面が前記第3環状溝46の底面に当接する。
【0081】
第6変形例に係るウェアリング170は、図13Bに示されるように、本体部172の一端部及び他端部に連通溝68a、68bを有さず、前記本体部172を貫通し、潤滑用溝60と前記本体部56の外周面62とを貫通する貫通孔174を備えている。この貫通孔174は、潤滑用溝60と第2傾斜部156とを連通している。
【0082】
そして、潤滑用溝60に充填された潤滑剤が、貫通孔174を通じてウェアリング170の第2傾斜部156へと供給され、該ウェアリング170及びピストン16の外周面とシリンダチューブ12の内壁面との間における潤滑を行う。このように、貫通孔174を通じて潤滑剤をウェアリング170の外周面62側へと直接的に供給することにより、前記ピストン16とシリンダチューブ12との間の潤滑をより一層確実且つ安定的に行うことが可能となる。
【0083】
なお、本発明に係る直線作動装置に用いられるウェアリングは、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0084】
10…流体圧シリンダ 12…シリンダチューブ
16…ピストン 18…ピストンロッド
20、100、110、120、130、140、150、160、170…ウェアリング
56、112、122、142、172…本体部
58…壁部 60…潤滑用溝
62、124、154…外周面 68a、68b…連通溝
114、144a、144b、174…貫通孔
126…平坦部 128a、128b…第1傾斜部
156…第2傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、該ボディの内部に沿って変位自在に設けられる変位体と、前記変位体に連結される連結部材とを有する直線作動装置において、前記変位体の外周面に溝部を介して装着され前記ボディの内壁面に当接する環状のウェアリングであって、
前記ウェアリングは、環状に形成される本体部と、
前記本体部の外周面に設けられ前記内壁面に当接すると共に、前記変位体に装着された状態において、該変位体及び前記本体部の軸線に対して所定角度傾斜、又は、半径外方向に向かって膨出した断面形状で形成される当接部と、
前記本体部の内周側から前記外周面側に向かって潤滑剤を供給する潤滑剤供給部と、
を備えることを特徴とする直線作動装置に用いられるウェアリング。
【請求項2】
請求項1記載のウェアリングにおいて、
前記当接部は、断面円弧状に形成されることを特徴とする直線作動装置に用いられるウェアリング。
【請求項3】
請求項1記載のウェアリングにおいて、
前記当接部は、前記内周側に向かって傾斜した傾斜面を有することを特徴とする直線作動装置に用いられるウェアリング。
【請求項4】
請求項3記載のウェアリングにおいて、
前記傾斜面は、前記本体部の軸線方向に沿った一端部及び他端部側にそれぞれ設けられ、該本体部の軸線方向に沿った中央部に対して対称形状で形成されることを特徴とする直線作動装置に用いられるウェアリング。
【請求項5】
請求項3又は4記載のウェアリングにおいて、
前記傾斜面は、前記変位体が前記ボディに対して傾斜した際、該ボディの内壁面と略平行となる角度で傾斜することを特徴とする直線作動装置に用いられるウェアリング。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のウェアリングにおいて、
前記潤滑剤供給部は、前記本体部の内周面に形成され、前記潤滑剤の保持される潤滑剤保持部と、
前記潤滑剤保持部と前記外周面とを連通する連通路と、
を備えることを特徴とする直線作動装置に用いられるウェアリング。
【請求項7】
請求項6記載のウェアリングにおいて、
前記連通路は、前記本体部の一端部及び他端部の少なくともいずれか一方の端面に設けられることを特徴とする直線作動装置に用いられるウェアリング。
【請求項8】
請求項6記載のウェアリングにおいて、
前記連通路は、前記本体部の内部を貫通するように形成されることを特徴とする直線作動装置に用いられるウェアリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−229759(P2012−229759A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98864(P2011−98864)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000102511)SMC株式会社 (344)
【Fターム(参考)】