説明

真空ポンプを隔離するための手段を有する外科手術システム

本発明は、灌流液源20と、回収カセット30と、前記回収カセット30において真空を発生させるためのポンプ40と、灌流液を注入し、生体材料を吸引するために手術領域に施用するハンドピース50と、前記ハンドピースを前記灌流液源および前記回収カセットのそれぞれに連結する導管60および62と、停止信号の受信後に、前記導管62および前記回収カセット30内における真空の発生を防止するために、前記ポンプを前記ハンドピースから隔離するための手段70とを備えた、生体材料を吸引するための外科手術システム10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、さまざまな外科的処置に有用なシステムに関する。さらに具体的には、本発明は、眼科手術的処置における空気抜きまたは圧力制御を補助するための手段を有する外科手術システムに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障とは、眼の水晶体またはその外皮に発達する混濁である。白内障の影響を受ける水晶体レンズを除去するための医療処置の1つは、超音波を使用して白内障を崩壊または乳化する、水晶体超音波乳化吸引術(phaco)である。水晶体超音波乳化吸引器としては、典型的には、灌注と吸引の両方の機能を備えたハンドピースが挙げられる。水晶体のハンドピースは乳化した流体中で吸引すると同時に、それらの吸引された流体を平衡塩類溶液 (BSS)と置き換えて患者の眼の前房の適切な圧力を維持する。このようなハンドピースは、陰圧または真空を発生させるポンプに連結されて吸引が行われ、眼からの破片がチューブを通じてカセット、バッグ、またはボトルなどの回収手段に流れる。
【0003】
眼科手術における通常の、および潜在的な危険の発生は「閉塞後サージ」である。眼科手術、特に白内障手術の際に、水晶体超音波乳化吸引術の間などに水晶体が壊され、乳化されるときに、手術部位に灌流液が絶え間なく注入され、流体および乳化した組織は水晶体のハンドピースを通じて手術部位から吸引される。組織片が水晶体のハンドピースの吸引ルーメンよりも大きい場合には、水晶体用針の目詰まりを生じうる。吸引導管が詰まった状態にある限り、吸引システム全体の陰圧が増加する。その結果、障害物が除去された後、システムは、一般にサージと称されるものを経験しうる。閉塞後サージは、水晶体嚢(capsular bag)を破裂させ、眼の後部から眼の前房内への硝子体の漏れを生じさせるか、または角膜の内皮細胞に回復困難な損傷を生じさせることなどにより、患者の眼に深刻な被害を生じうる。一般的に言えば、内皮細胞は自然には再生せず、眼科手術における閉塞後サージを防止することが肝要である。
【0004】
回転翼ポンプおよびベンチュリポンプなどの空気排出ポンプは、外科的な吸引のための真空源として幅広く利用されている。回転ポンプの場合には、例えば、ローターの回転は、流体がチューブを通じて液体タンクに移動するよう押し進めるために必要とされ、ここでローターの回転は吸引を推進する真空を発生させる。閉塞後サージを低減させるための1つの方法は、ハンドピースの先端または導管における閉塞を検知すること、および真空がこれ以上生じないようにポンプに停止を指示することである。
【0005】
別の手法は、流体圧を自動的にモニターおよび制御して、過度の陰圧を低減することである。例えば、特許文献1には、所定の圧力に達したときに、チューブから過度の圧力を放出する安全弁を含めた制御システムが記載されている。
【0006】
しかしながら、上記方法および他の従来の圧力制御方法では、ポンプはその動きを継続するための運動量を有することから、真空ポンプの停止または安全弁の導入などによるエネルギー源の遮断は即時停止につながらないという問題を認識または解決していない。このような運動量は、ポンプのエネルギー源の遮断にもかかわらず、陰圧を発生させ続け、陰圧の発生の停止および停止信号に遅れを生じる。前房の体積がかなり小さい場合には、ポンプの停止の遅延により、眼に損傷を生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,902,495号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、眼科手術における運動量駆動式のポンピングから生じる望ましくない影響を排除または低減することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、停止信号の受信後に運動量駆動式の真空を発生させず、眼科手術の際に閉塞後サージを効率的に防止する外科手術システムを提供することが本発明の目的の1つである。
【0010】
1つの実施の形態では、停止信号の受信後に、運動量駆動式のポンピングの望ましくない影響を除去するために、真空ポンプをハンドピースから隔離するための手段を備えた外科手術システムが提供される。
【0011】
別の実施の形態では、停止信号の後に運動量駆動式のポンピングの望ましくない影響を取り除くために、ポンプをハンドピースから隔離するための手段を備えた眼科手術のための外科手術システムが提供される。
【0012】
さらに別の実施の形態では、停止信号の後に、運動量駆動式のポンピングの望ましくない影響を取り除くため、ポンプを水晶体のハンドピースから隔離するための手段を備えた、白内障手術のための眼科手術用の手術システムが提供される。
【0013】
別の実施の形態では、ポンプをハンドピースから隔離するための手段と、システムの導管内圧力をモニターし、隔離するための手段に停止信号を送るための制御装置とを備えた外科手術システムが提供される。
【0014】
さらに別の実施の形態では、ポンプを水晶体のハンドピースから隔離するための手段と、システムの導管内圧力をモニターし、隔離するための手段に停止信号を送るための制御装置とを備えた眼科手術のための外科手術システムが提供される。
【0015】
別の実施の形態では、ポンプをハンドピースから隔離するための手段と、圧力を軽減するための1つ以上の圧力安全バルブと、システムの導管内圧力をモニターし、隔離するための手段および/または安全弁に停止信号を送るための制御装置とを備えた外科手術システムが提供される。
【0016】
別の実施の形態では、ポンプを水晶体のハンドピースから隔離するための手段と、圧力を軽減するための1つ以上の圧力安全バルブと、システムの導管内圧力をモニターし、隔離するための手段および安全弁に停止信号を送るための制御装置とを備えた眼科手術のためのシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ポンプを隔離するための手段を含む外科手術システムの1つの実施の形態の線図。
【図2】ポンプを隔離するための手段と、制御装置と、随意的な圧力安全バルブとを含む、外科手術システムの別の実施の形態の線図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明は本質的に単なる例示であり、本開示、用途、または使用方法を限定することは意図されていない。
【0019】
図1を参照すると、外科手術システム10は、灌流液源20、回収カセット30、真空ポンプ40、外科的なハンドピース50、外科的なハンドピースを灌流液源および真空ポンプ/回収カセットのそれぞれに接続する導管60および62、およびハンドピース50からポンプを隔離するための手段70を備えている。外科手術システム10は、望ましくない生体材料を破壊して患者の眼から除去することが必要な眼科手術に特に有用である。特に、外科手術システム10は、眼に回復困難な損傷を生じることなく、白内障を除去するために使用することができる。
【0020】
灌流液源20は、典型的には、流体容器22および外科的な流体24を備える。外科的な流体は、任意の既知の外科的な流体であって差し支えなく、当業者は、行われる外科手術の性質に従って、適切な外科的な流体を選択することができる。眼科手術用の手術システムでは、外科的な流体24は、例えばBSSなどの眼科手術的な流体である。導管60の各末端は、容器22および水晶体のハンドピース50のそれぞれに接続され、眼科手術的な流体が水晶体のハンドピース50の灌注スリーブ54を通じて患者の眼に送達される。
【0021】
回収カセット30は、典型的には、回収チャンバ、およびハンドピース50および真空ポンプ40のそれぞれに接続するための入口および出口を有する。回収チャンバは、ハンドピース50の水晶体用針52および吸引導管62を通じて、手術部位から生物学的破片を収容する。回収カセット30は、その再利用可能性の有無にかかわらず、当技術分野で既知の外科手術システムのための任意の回収手段から選択することができる。よって、カセット30は、任意の既知の再利用可能な、または使い捨ての回収手段でありうる。操作の安全性および健全性のためには、外科的な流体が、溢れ出し、漏れることを防止するように設計された、流体レベル検出装置が備わった回収カセットを選択することが好ましいであろう。回収カセット30は、当技術分野で既知の任意の手段によって、ハンドピース50およびポンプ40と連動するように取り付けられる。
【0022】
真空ポンプ40は、吸引導管62を通じて回収カセット30およびハンドピース40に接続されて、ハンドピース、導管、および陰圧または真空を伴う回収カセットを備えた吸引システムを提供する。真空ポンプ40は、本外科手術システムを含めた外科手術システムに適している限り、当技術分野で既知の任意のポンプでありうる。真空ポンプ40は、眼科手術用の手術システムに適したものであることが好ましい。本発明に適用可能なポンプの例としては、限定はしないが、ベンチュリポンプ、回転翼ポンプ、ダイアフラムポンプ、液封式ポンプ、ピストンポンプ、スクロールポンプ、ねじポンプ、ワンケルポンプ、外接式(external)ベーンポンプ、ブースターポンプ、多層式ルート(multistage roots)ポンプ、蠕動ポンプ、およびテプラーポンプが挙げられる。ポンプは、ベンチュリポンプ、回転翼ポンプおよびダイアフラムポンプから選択されることが好ましい。
【0023】
外科的なハンドピース50は、水晶体用針52および針を取り囲む灌注54のための環状スリーブを備えた、従来の水晶体超音波乳化吸引用のハンドピースでありうる。外科的なハンドピースは、手術部位の上、または内部に設置されて、望ましくない生体材料を除去する。眼科手術用の手術システムでは、例えば、水晶体のハンドピース50は眼の切開を通じて挿入され、エネルギー源に接続された水晶体用針が、白内障などの望ましくない生体材料破壊するために、超音波およびレーザーなどのエネルギーを手術部位に印加する。外科的な流体24は、環状スリーブ54を通じて手術部位に注入され、水晶体用針52は同時に、眼から望ましくない材料を含む流体を吸引する。
【0024】
外科手術システム10は、典型的には、灌注および吸引システムのための2つの別々の導管60および62を必要とする。灌注導管60は外科的なハンドピース50を灌流液源20に接続して、手術部位にBSSなどの外科的な流体24を提供する。灌注システムは、灌注の流速を制御し、それによって手術部位の適切な圧力の維持を助けるために、ハンドピース50と灌流液源20との間に配置可能な1つ以上のバルブを備えていてもよい。
【0025】
吸引導管62は、例えば、外科的なハンドピース50を回収カセット30、次いで真空ポンプ40に接続するが、吸引要素の配置および接続を変更することができることは当業者には明らかであろう。真空ポンプ40は、吸引導管62を通じて回収カセット30に動作可能に接続され、望ましくない生体材料が手術部位から、一時的に貯蔵するための回収カセット30に吸引され、その後廃棄される。
【0026】
ポンプを隔離するための手段70は、その操作によって真空ポンプ40をハンドピース50および/または回収カセット30から分離するように、真空ポンプ40とハンドピース50の間に配置される。隔離手段70が吸引システムのどこにでも配置することができることは当業者には明らかである。したがって、例えば、隔離手段70は、カセット30とポンプ40の間、またはカセット30とハンドピース50の間に配置することができる。さらには、1つ以上の隔離手段70は、外科手術システム:例えば、1つはポンプ40とカセット30の間、もう一方はカセット30とハンドピース50の間に挿入することができる。ポンプを隔離するための手段70は、停止信号を受信する際に、吸引導管62を停止する、または発生した陰圧をハンドピース50および/または回収カセット30から逸らすように設計される。したがって、隔離手段70は、停止信号の受信後に、吸引導管62および/または回収カセット30内の真空の残留生成を完全に防止する。ポンプを隔離するための手段70は、吸引導管62を停止する、または発生した陰圧をハンドピース50および/または回収カセット30から逸らすのに適したバルブであることが好ましい。したがって、ポンプを隔離するための手段70は、ゲートバルブ、バタフライバルブ、ボールバルブ、3方向バルブ、および4方向バルブからなる群より選択される従来のバルブでありうる。
【0027】
図2を参照すると、外科手術システム12は、図1に示す要素に加えて、ポンプを隔離するための手段70に接続された制御装置80を備える。制御装置80は、外科医などの操作者からの主導信号を受信した場合、または閉塞後サージを生じうる所定のレベルの圧力差を検知した場合に、ポンプを隔離するための手段70に停止信号を送るように設計される。隔離過程の自動化のため、制御装置80は、吸引導管の圧力62をモニターする手段、および真空ポンプ70を隔離する手段に機械的または電気的信号を送る手段を含みうる。したがって、1つの実施の形態では、制御装置80は、吸引導管62の真空レベルを測定し、信号を生み出す圧力トランスデューサーを備える。制御装置80は、電気的手段によってコンピュータ処理され、さまざまなパラメータに基づいて、外科手術システムを最適に制御することができ、ここで電気的手段は吸引システムを停止するために要素を始動させるのに最適なタイミングを決定する。
【0028】
外科手術システム12は、随意的に、眼房などの手術部位における閉塞後サージを防止するために、吸引導管62に接続された圧力安全バルブ90を備える。圧力安全バルブ90は、気流を所定の圧力で吸引導管62内に導く、真空レベル制御バルブでありうる。外科手術システム10は、閉塞後サージを防止する効率を最大限にするために、1つ以上の圧力安全バルブ90を有しうる。1つの実施の形態では、制御装置80は、制御装置80が両方の構成要素を同時に制御できるように、ポンプを隔離するための手段70および圧力安全バルブ90に連結される。制御装置80によって生み出される停止信号は、閉塞後サージを防止するために、これらの構成要素を一斉に作動するように導く。これらのシステムでは、1つの信号は、真空ポンプ40の完全な隔離、すなわち運動量駆動式の真空を生じさせないだけでなく、吸引導管62内の増大する陰圧の軽減をも生じさせる。
【0029】
実施の形態は、本発明の原理およびその実践上の用途を最もよく説明し、それによって当業者が本発明をさまざまな実施の形態、およびさまざまな変更に最良に活用できるようにするために記載されている。
【0030】
本明細書に記載され、例証されている構成および方法には、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな変更をなしうることから、前述の説明に含まれ、または添付の図面に示されるすべての事柄は、限定ではなく例証として解釈されるべきであることが意図されている。よって、本発明の幅および範囲は上記の例となる実施の形態によって限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によってのみ定義されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
灌流液源と、
回収カセットと、
前記回収カセット内に真空を発生させるポンプと、
灌流液を注入し、生体材料を吸引するために手術領域に施用されるハンドピースと、
前記ハンドピースを前記灌流液源と前記回収カセットのそれぞれに連結する導管と、
停止信号の受信後に、前記導管および前記回収カセット内における真空の発生を防止するために、前記ハンドピースから前記ポンプを隔離するための手段と、
を備えた、生体材料を吸引するための外科手術システム。
【請求項2】
前記ポンプを隔離するための手段が、前記導管を停止するか、または発生した陰圧を前記ハンドピースから逸らすための機械的手段であることを特徴とする請求項1記載の外科手術システム。
【請求項3】
前記ポンプを隔離するための手段が、前記導管を停止するか、または発生した陰圧を前記ハンドピースから逸らすためのバルブであることを特徴とする請求項1記載の外科手術システム。
【請求項4】
前記バルブが、ボールバルブ、ゲートバルブ、バタフライバルブ、3方向バルブ、および4方向バルブからなる群より選択されることを特徴とする請求項3記載の外科手術システム。
【請求項5】
前記ポンプを隔離するための手段に停止信号を送るために、前記隔離手段に接続された制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の外科手術システム。
【請求項6】
前記制御装置が、前記導管の圧力をモニターし、所定の圧力に達したときに、前記ポンプおよび前記隔離手段に停止信号を送る、サージ流制御装置であることを特徴とする請求項5記載の外科手術システム。
【請求項7】
1つ以上の圧力安全バルブをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の外科手術システム。
【請求項8】
前記ポンプを隔離するための手段と圧力安全バルブのそれぞれに接続した制御装置をさらに備え、
前記制御装置が、所定の圧力を検知したときに、機械的または電気的停止信号を前記ポンプおよび前記ポンプを隔離するための手段に送り、前記圧力安全バルブを開かせることを特徴とする請求項7記載の外科手術システム。
【請求項9】
前記外科手術システムが眼科手術用であり、前記ハンドピースが、患者の眼に施用する水晶体超音波乳化吸引用のハンドピースであることを特徴とする請求項1記載の外科手術システム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−507623(P2011−507623A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539786(P2010−539786)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/087379
【国際公開番号】WO2009/085923
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(391008847)ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド (137)
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED
【Fターム(参考)】