説明

真空ポンプ

【課題】簡単な構成でロータ及びサイドプレートの損傷を抑制して真空ポンプの耐久性の低下を防止すること。
【解決手段】電動モータ10に取り付けられるケーシング31と、このケーシング31に形成されて当該ケーシング31の両端に開口を有する中空形状のシリンダ室Sと、電動モータ10の出力軸12に、軸方向に移動自在に設けられ、当該出力軸12とともにシリンダ室S内を回転駆動されるロータ27と、シリンダ室Sの開口を塞ぐ一対のサイドプレート25,26とを備え、ロータ27が出力軸12の先端部12A側へ移動することを規制するプッシュナット70を当該出力軸12に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動機の回転軸に取付けられるロータを有する真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、駆動機に取り付けられるケーシングと、このケーシングに形成されて当該ケーシングの両端に開口を有する中空形状のシリンダ室と、駆動機の回転軸に設けられて当該回転軸とともにシリンダ室内を回転駆動されるロータと、シリンダ室の開口を塞ぐ一対のサイドプレートとを備える真空ポンプが知られている。この種の真空ポンプは、例えば、自動車のブレーキ倍力装置を作動させるための真空を発生させるために使用され、ケーシングのシリンダ室内でロータを電動モータ等の駆動機で駆動することによって真空を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6491501号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車のブレーキ倍力装置を作動させるような小型の真空ポンプでは、小型で軽量のロータが使用されているため、ロータは回転軸に対して何ら固定されておらず、回転軸の軸方向に移動自在に設けられていた。さらに、ロータは回転軸の先端部に設けられているため、駆動機を駆動させてロータを回転させた場合、このロータが回転に伴い回転軸の先端側に移動して突出しやすい状況にあった。このため、真空ポンプの運転中に、ロータが前側(回転軸の先端側)のサイドプレートと接触することにより、これらロータ及びサイドプレートが摩耗で損傷し、真空ポンプの耐久性が低下するといった問題が想定された。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成でロータ及びサイドプレートの損傷を抑制して真空ポンプの耐久性の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、駆動機に取り付けられるケーシングと、このケーシングに形成されて当該ケーシングの両端に開口を有する中空形状のシリンダ室と、前記駆動機の回転軸に、軸方向に移動自在に設けられ、当該回転軸とともに前記シリンダ室内を回転駆動されるロータと、前記シリンダ室の前記開口を塞ぐ一対のサイドプレートとを備える真空ポンプにおいて、前記ロータが前記回転軸の先端側へ移動することを規制するプッシュナットを当該回転軸に設けたことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、回転軸に設けられたプッシュナットにより、ロータが回転軸の先端側へ移動することが規制されるため、このロータと前側のサイドプレートとの接触が簡単な構成で防止されることにより、当該ロータ及びサイドプレートの摩耗が抑制され、真空ポンプの耐久性を向上させることができる。さらに、プッシュナットは、ボルト等の締結手段と比べて簡単に回転軸に取付けられるため、回転軸の先端側へロータが移動することを簡単、かつ、短時間の作業で防止することができる。
【0007】
この構成において、本発明は、前記駆動機側に位置する前記サイドプレートに当接するまで前記ロータを前記回転軸に挿し込み、この状態で、前記プッシュナットを所定の基準値を超えるまで前記ロータの端面に押し付けて当該プッシュナットを前記回転軸に係止させたことを特徴とする。この構成によれば、回転軸に対するロータの位置決めを容易に行うことができ、熟練者でなくてもポンプの組み付け作業を短時間で行うことができる。
【0008】
また、本発明は、前記回転軸は、先端部に前記プッシュナットの複数の爪部が係止される係止部と、この係止部よりも縮径した縮径部とを備え、この縮径部の直径は前記プッシュナットの複数の爪部で囲まれた開口の内径と略同径に形成されていることを特徴とする。この構成によれば、縮径部の直径がプッシュナットの複数の爪部で囲まれた開口の内径と略同径に形成されているため、プッシュナットを縮径部に沿って移動させることで、プッシュナットが回転軸に対して傾くことなく係止部まで案内することができる。このため、係止部に案内されたプッシュナットをそのままロータに押し付けることにより、プッシュナットが傾くことによる当該プッシュナットの装着の失敗を低減することができ、作業手順を簡素化するとともに作業時間の短縮化を図ることができる。
【0009】
また、本発明は、前記ロータの前端面には、前記回転軸が挿し込まれる軸孔の周囲に凹部が形成され、この凹部内で前記プッシュナットを前記回転軸に係止したことを特徴とする。この構成によれば、回転軸の先端部をロータの前端面よりも突出させることなく、プッシュナットを回転軸に係止させることができ、真空ポンプの構成の簡素化を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転軸に設けられたプッシュナットにより、ロータが回転軸の先端側へ移動することが規制されるため、このロータと前側のサイドプレートとの接触が簡単な構成で防止されることにより、当該ロータ及びサイドプレートの摩耗が抑制され、真空ポンプの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係る真空ポンプを使用したブレーキ装置の概要図である。
【図2】真空ポンプの側部部分断面図である。
【図3】真空ポンプをその前側から見た図である。
【図4】ロータと出力軸との連結構造を示す分解斜視図である。
【図5】回転軸の先端部分とプッシュナットとの形状を示す図である。
【図6】ロータの組み付け手順を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る真空ポンプ1を負圧源として使用したブレーキ装置100の概要図である。ブレーキ装置100は、例えば、自動車等の車両の左右の前輪に取り付けられたフロントブレーキ2a,2b、及び左右の後輪に取り付けられたリアブレーキ3a,3bを備えている。これらの各ブレーキは、マスターシリンダ4とブレーキ配管9によりそれぞれ接続されており、マスターシリンダ4からブレーキ配管9を介して送られる油圧によって各ブレーキが作動する。
また、ブレーキ装置100は、ブレーキペダル5と連結されたブレーキブースター(ブレーキ倍力装置)6を備え、このブレーキブースター6には、空気配管8を介して、真空タンク7及び真空ポンプ1が直列に接続されている。ブレーキブースター6は、真空タンク7内の負圧を利用してブレーキペダル5の踏力を倍力するものであり、小さな踏力でマスターシリンダ4のピストン(図示せず)を移動させることにより、十分なブレーキングパワーを引き出せるようになっている。
真空ポンプ1は、車両のエンジンルーム内に配置され、真空タンク7内の空気を車両外部へ排出し、当該真空タンク7内を真空状態とする。なお、自動車等に用いる真空ポンプ1の使用範囲は、例えば、−60kPa〜−80kPaである。
【0013】
図2は、真空ポンプ1の側部部分断面図であり、図3は、図2の真空ポンプ1をその前側(同図中の右側)から見た図である。ただし、図3は、シリンダ室Sの構成を示すべく、ポンプカバー24,サイドプレート26等の部材を取り外した状態を図示している。なお、以下では、説明の便宜上、図2および図3の上部にそれぞれ矢印で示す方向が、真空ポンプ1の上下前後左右を示すものとして説明する。また、前後方向については軸方向、左右方向については幅方向ともいう。
【0014】
図2に示すように、真空ポンプ1は電動モータ(駆動機)10と、この電動モータ10を駆動源として作動するポンプ本体20とを備えており、これら電動モータ10及びポンプ本体20が一体に連結された状態で自動車等の車体に固定支持されている。
【0015】
電動モータ10は、略円筒形状に形成されたケース11の一方の端部(前端)の略中心からポンプ本体20側(前側)に向かって延びる出力軸(回転軸)12を有している。出力軸12は、ポンプ本体20を駆動する駆動軸として機能するものであり、前後方向に延びる回転中心X1を基準として回転する。出力軸12の先端部12Aはスプライン軸に形成されており、ポンプ本体20のロータ27の軸方向に貫通する軸孔27Aに係合し、出力軸12とロータ27とが一体に回転可能に連結される。なお、出力軸12とロータ27とをスプライン結合する構成に代えて、キーを介して結合してもよい。
電動モータ10は、電源(図示略)の投入により、出力軸12が、図3中の矢印R方向(反時計回り)に回転し、これによりロータ27を、回転中心X1を中心として同方向(矢印R方向)に回転させるようになっている。
【0016】
ケース11は、有底円筒形状に形成されたケース本体60と、このケース本体60の開口を塞ぐカバー体61とを備え、ケース本体60は、その周縁部60Aが外方に折り曲げて形成されている。カバー体61は、ケース本体60の開口と略同径に形成された円板部(壁面)61Aと、この円板部61Aの周縁に連なり、ケース本体60の内周面に嵌まる円筒部61Bと、この円筒部61Bの周縁を外方に折り曲げて形成した屈曲部61Cとを備えて一体に形成され、円板部61A及び円筒部61Bがケース本体60内に進入し、屈曲部61Cが、ケース本体60の周縁部60Aに当接して固定されている。これにより、電動モータ10には、ケース11の一方の端部(前端)が内側に窪み、ポンプ本体20がインロー嵌合により取り付けられる嵌合穴部63が形成される。
また、円板部61Aの略中央には、出力軸12が貫通する貫通孔61Dと、この貫通孔61Dの周囲にケース本体60の内側に延びる円環状のベアリング保持部61Eとが形成され、このベアリング保持部61Eの内周面61Fに、上記出力軸12を軸支するベアリング62の外輪が保持される。
【0017】
ポンプ本体20は、図2に示すように、電動モータ10のケース11の前側に形成された嵌合穴部63に嵌合されるケーシング本体22と、このケーシング本体22内に圧入されてシリンダ室Sを形成するシリンダ部23と、当該ケーシング本体22を前側から覆うポンプカバー24とを備えている。本実施形態ではケーシング本体22、シリンダ部23及びポンプカバー24を備えて、真空ポンプ1のケーシング31を構成している。
【0018】
ケーシング本体22は、例えば、アルミニウム等の熱伝導性の高い金属材料を用いて、図3に示すように、前側から見た形状が上記した回転中心X1を略中心とした上下方向に長い略矩形に形成されている。ケーシング本体22の上部には、このケーシング本体22に設けられたシリンダ室S内に連通する連通孔22Aが形成され、この連通孔22Aには真空吸込ニップル30が圧入されている。この真空吸込ニップル30は、図2に示すように、上向きに延びる直管であり、当該真空吸込ニップル30の一端30Aには、外部機器(例えば、真空タンク7(図1参照))から負圧空気を供給するための管またはチューブが接続される。
【0019】
ケーシング本体22には、前後方向に延びる軸心X2を基準とした孔部22Bが形成され、この孔部22Bに円筒状に形成されたシリンダ部23が圧入されている。軸心X2は、上述の電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に対して平行で、かつ、図2に示すように、回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心している。本構成では、回転中心X1を中心とするロータ27の外周面27Bが、軸心X2を基準に形成されているシリンダ部23の内周面23Aに接するように軸心X2が偏心されている。
【0020】
シリンダ部23は、ロータ27と同一の金属材料(本実施形態では、鉄)で形成されている。この構成では、シリンダ部23とロータ27とは熱膨張係数が同じなので、シリンダ部23及びロータ27の温度変化にかかわらず、ロータ27が回転した際の当該ロータ27の外周面27Bとシリンダ部23の内周面23Aとの接触を防止できる。なお、シリンダ部23及びロータ27は、略同じ程度の熱膨張係数を有する金属材料であれば、異なる材料を用いても構わない。
また、ケーシング本体22に形成された孔部22Bにシリンダ部23を圧入することにより、ケーシング本体22の前後方向の長さ範囲内でシリンダ部23を収容することができるため、このシリンダ部23がケーシング本体22から突出することが防止され、ケーシング本体22の小型化を図ることができる。
更に、ケーシング本体22はロータ27よりも熱伝導性の高い材料で形成されている。これによれば、ロータ27及びベーン28が回転駆動した際に発生した熱がケーシング本体22に速やかに伝達できることにより、ケーシング本体22から十分に放熱することができる。
【0021】
シリンダ部23には、上記したケーシング本体22の連通孔22Aとシリンダ室S内とを繋ぐ開口23Bが形成されており、真空吸込ニップル30を通じた空気は、連通孔22A,開口23Bを通じてシリンダ室S内に供給される。このため、本実施形態では、真空吸込ニップル30、ケーシング本体22の連通孔22A及びシリンダ部23の開口23Bを備えて吸気経路32が形成される。また、ケーシング本体22及びシリンダ部23の下部には、これらケーシング本体22及びシリンダ部23を貫通し、シリンダ室Sで圧縮された空気が吐出される吐出口22C,23Cが設けられている。
【0022】
シリンダ部23の後端および前端には、それぞれシリンダ室Sの開口を塞ぐサイドプレート25,26が配設されている。これらサイドプレート25,26は、その直径がシリンダ部23の内周面23Aの内径よりも大きく設定されており、シールリング25A,26Aにより付勢されて、シリンダ部23の前端及び後端にそれぞれ押し付けられている。これにより、シリンダ部23の内側は、真空吸込ニップル30に連なる開口23B及び吐出口23C,22Cを除いて、密閉されたシリンダ室Sが形成される。
【0023】
シリンダ室Sには、ロータ27が配設されている。ロータ27は、電動モータ10の回転中心X1に沿って延びる円柱形状を有し、ポンプ本体20の駆動軸である出力軸12が挿通される軸孔27Aを有すると共に、この軸孔27Aから径方向に離れた位置に、複数のガイド溝27Cが軸孔27Aを中心とする等角度間隔で周方向に間隔を空けて設けられる。上記軸孔27Aは、出力軸12の先端部12Aに設けられたスプライン軸に係合するスプライン孔に形成され、ロータ27と出力軸12とがスプライン連結されるようになっている。
【0024】
ロータ27の前後方向の長さは、シリンダ部23のシリンダ室Sの長さ、すなわち、上述の2枚にサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しく設定され、ロータ27とサイドプレート25,26との間は略閉塞されている。
また、ロータ27の外径は、図3に示すように、ロータ27の外周面27Bが、シリンダ部23の内周面23Aのうちの右斜め下方に位置する部分と微小なクリアランスを保つように設定されている。これにより、図3に示すように、ロータ27の外周面27Bと、シリンダ部23の内周面23Aとの間には、三日月形状の空間が構成される。
【0025】
ロータ27には、三日月形状の空間を区画する複数(本例では5枚)のベーン28が設けられている。ベーン28は、板状に形成されていて、その前後方向の長さは、ロータ27と同様、2枚のサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しくなるように設定されている。これらベーン28は、ロータ27に設けられたガイド溝27Cから出没自在に配設されている。各ベーン28は、ロータ27の回転に伴い、遠心力によってガイド溝27Cに沿って外側へ突出し、その先端をシリンダ部23の内周面23Aに当接させる。これにより、上述の三日月形状の空間は、相互に隣接する2枚のベーン28,28と、ロータ27の外周面27Bと、シリンダ部23の内周面23Aとによって囲まれる5つの圧縮室Pに区画される。これら圧縮室Pは、出力軸12の回転に伴うロータ27の矢印R方向の回転に伴い、同方向に回転し、その容積が、開口23B近傍で大きく、一方、吐出口23Cで小さくなる。つまり、ロータ27,ベーン28の回転により、開口23Bから1つの圧縮室Pに吸入された空気は、ロータ27の回転に伴って回転しつつ圧縮されて、吐出口23Cから吐出される。
【0026】
本構成では、シリンダ部23は、図2に示すように、このシリンダ部23の軸心X2が回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心してケーシング本体22に形成されている。このため、ケーシング本体22内には、シリンダ部23が偏心したのと反対の方向に大きなスペースを確保することができ、このスペースにはシリンダ部23の周縁部に沿って、吐出口23C、22Cに連通する膨張室33が形成されている。
膨張室33は、シリンダ部23の下方から出力軸12の上方に至るまで、当該シリンダ部23の周縁部に沿った大きな閉空間として形成され、ポンプカバー24に形成された排気口24Aに連通している。この膨張室33に流入した圧縮空気は、当該膨張室33内で膨張、分散して当該膨張室33の隔壁にぶつかって乱反射する。これにより、圧縮空気の音エネルギが減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。本実施形態では、ケーシング本体22及びシリンダ部23にそれぞれ形成された吐出口22C,23C、膨張室33及び排気口24Aを備えて排気経路37を構成する。
【0027】
本実施形態では、シリンダ部23をロータ27の回転中心X1から偏心して配置することにより、ケーシング本体22にはシリンダ部23の上記回転中心X1側の周縁部に大きなスペースを確保することができる。このため、このスペースに大きな膨張室33を形成することにより、ケーシング本体22に膨張室33を一体に形成することができるため、当該膨張室33をケーシング本体22の外部に設ける必要がなく、ケーシング本体22の小型化を図ることができ、ひいては真空ポンプ1の小型化を図ることができる。
【0028】
ポンプカバー24は、前側のサイドプレート26にシールリング26Aを介して配置され、ケーシング本体22にボルト66で固定されている。ケーシング本体22の前面には、図2に示すように、シリンダ部23や膨張室33を囲んでシール溝22Dが形成され、このシール溝22Dには環状のシール材67が配置されている。ポンプカバー24には、膨張室33に対応する位置に排気口24Aが設けてある。この排気口24Aは、膨張室33に流入した空気を機外(真空ポンプ1の外部)に排出するためのものであり、この排気口24Aは、機外からポンプ内への空気の逆流を防止するためのチェックバルブ29が取り付けられている。
【0029】
上記したように、真空ポンプ1は、電動モータ10とポンプ本体20とを連結して構成されており、電動モータ10の出力軸12に連結されたロータ27及びベーン28がポンプ本体20のシリンダ部23内で摺動する。このため、ポンプ本体20を電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に合わせて組み付けることが重要である。
このため、本実施形態では、電動モータ10は、ケース11の一端側に出力軸12の回転中心X1を中心とした嵌合穴部63が形成されている。一方、ケーシング本体22の背面には、図2に示すように、シリンダ室Sの周囲に後方へ突出した円筒状の嵌合部22Fが一体に形成されている。この嵌合部22Fは、電動モータ10の出力軸12の回転中心X1と同心に形成されており、電動モータ10の嵌合穴部63にインロー嵌合する外径に形成されている。
このため、本構成では、電動モータ10の嵌合穴部63にケーシング本体22の嵌合部22Fを嵌め込むだけで、簡単に中心位置を合わせることができ、電動モータ10とポンプ本体20との組み付け作業を容易に行うことができる。また、ケーシング本体22の背面には、嵌合部22Fの周囲にシール溝22Eが形成され、このシール溝22Eには環状のシール材35が配置されている。
【0030】
ところで、自動車のブレーキ装置に使用されるような小型の真空ポンプでは、一般に、小型で軽量のロータが使用されており、さらに、ポンプの組み付け作業の効率化を図るためにロータは出力軸に対して何ら固定されておらず、出力軸の軸方向に移動自在に設けられていた。これに加えて、ロータは、電動モータの出力軸の先端に、いわゆる片持支持されているため、ロータを回転させた場合、このロータが回転に伴い出力軸の先端側に突出しやすい状況にあった。このため、従来の構成では、真空ポンプの運転中に、ロータが前側のサイドプレートと接触することにより、これらロータ及びサイドプレートが摩耗で損傷し、真空ポンプの耐久性が低下するといった問題が想定される。この問題を解消すべく、本構成では、ロータ27と出力軸12との連結構造に特徴を有する。
【0031】
図4は、ロータ27と出力軸12との連結構造を示す分解斜視図である。
ロータ27は、上述のように、出力軸12とスプライン連結されるとともに、この出力軸12に係止されるプッシュナット70により、当該出力軸12の先端側への移動が規制されている。
具体的には、ロータ27の軸孔27Aの一部には、図4に示すように、スプライン孔部27Dが形成され、このスプライン孔部27Dには出力軸12の先端部12Aに形成されたスプライン部12Bが係合して、ロータ27と出力軸12とがスプライン連結される。このように、ロータ27と出力軸12とがスプライン連結された状態では、ロータ27はスプライン部12B上を軸方向に移動自在となっている。
また、ロータ27の前端面27Eには、軸孔27Aの周囲に当該軸孔27Aよりも拡径した円柱状の凹部27Fが形成される。この凹部27F内には、軸孔27Aに挿し込まれた出力軸12の係止部12Cと縮径部12Dとが延出し、当該凹部27F内にて出力軸12の係止部12Cにプッシュナット70が係止される。
【0032】
プッシュナット70は、図5に示すように、環状且つ板状のフランジ部71と、このフランジ部71の内周縁部から平面視において中心方向に突出形成された複数(5つ)の爪部72とを有して構成される。これら5つの爪部72は、フランジ部71の内周縁部に略均等配置されており、これら爪部72の先端72Aで形成された開口73の内径D1よりも出力軸12の係止部12Cの直径D2は若干大きく形成されている。
これにより、プッシュナット70は、係止部12Cに嵌め込まれる際に、各爪部72が変形し、これら爪部72の復元力により当該爪部72と係止部12Cの外周面とが係止する。また、プッシュナット70のフランジ部71が凹部27Fの底面(端面)27F1(図4)に当接することで、ロータ27の出力軸12の先端部側への移動が規制される。
従って、プッシュナット70を出力軸12に取り付けるといった簡単な構成で、ロータ27と前側のサイドプレート26とが接触することを防止できることにより、当該ロータ27及びサイドプレート26の摩耗が抑制され、真空ポンプ1の耐久性を向上させることができる。さらに、プッシュナット70は、ボルト等の締結手段と比べて簡単に出力軸12の係止部12Cに取付けられるため、出力軸12の先端部12A側へロータ27が移動することを簡単、かつ、短時間の作業で防止することができる。
【0033】
ここで、ロータ27を出力軸12に固定するだけであれば、ボルト等の締結手段を用いることも勿論可能である。しかし、本実施形態のような小型の真空ポンプ1では、ポンプの組み付け作業の高効率化及び時間短縮が求められており、ロータ27を出力軸12に固定する場合には、ロータ27を位置決めして固定する作業を短時間(例えば、10秒程度)で行う必要がある。
次に、図6を参照して、ロータ27の組み付け手順を説明する。
この図6では、電動モータ10のケース11及びケーシング本体22などの記載を省略している。
まず、図6Aに示すように、出力軸12にロータ27を挿し込み、出力軸12のスプライン部12Bとロータ27のスプライン孔部27Dとをスプライン連結させる。この場合、ロータ27の長さ寸法は、シリンダ室S(図2)の長さと略同一に設定されているため、ロータ27の後端面27Gが後ろ側のサイドプレート25に当接するまで挿し込むことにより、このロータ27の前端面27Eとシリンダ室Sの開口とが略面一となる。
続いて、出力軸12の係止部12Cにプッシュナット70を係止させる。ロータ27をサイドプレート25に当接するまで、ロータ27を出力軸12に挿し込むと、図6Bに示すように、出力軸12の係止部12Cがロータ27に形成された凹部27F内に延出される。
【0034】
本実施形態では、図5に示すように、出力軸12は係止部12Cと、この係止部12Cよりも縮径した縮径部12Dとを備え、この縮径部12Dの直径D1はプッシュナット70の複数の爪部72の先端72Aで囲まれた開口73の内径D1と略同径に形成されている。このため、プッシュナット70を縮径部12Dに嵌め、この縮径部12Dに沿って移動させることで、出力軸12に対して傾くことなくプッシュナット70を係止部12Cまで案内することができる。さらに、縮径部12Dの角部12Eには面取加工が施されており、プッシュナット70を縮径部12Dに簡単に嵌めることができる。
【0035】
続いて、図6Cに示すように、プッシュナット70がロータ27の凹部27Fの底面27F1に当接するまで、このプッシュナット70を押し込んで当該プッシュナット70を出力軸12の係止部12Cに係止させる。
この場合、プッシュナット70は、押付荷重を計測できる専用の治具(図示略)を用いて出力軸12に取り付けられる。この押付荷重Fが所定の閾値(例えば100N)を超えるまで押付けることにより、ロータ27は後ろ側のサイドプレート25とプッシュナット70とで挟まれることで位置決めされる。このため、ロータ27をサイドプレート25に当接するまで出力軸12に挿し込むといった簡単な作業で、出力軸12に対するロータ27の位置決めを容易に行うことができ、さらに、プッシュナット70を所定の基準値を超えるまでロータ27の凹部27Fの底面27F1に押し付けることにより、この基準値を超えたか否かでロータ27の位置決めが完了したことを容易に判断することができ、熟練者でなくてもポンプの組み付け作業を短時間で行うことができる。
この状態では、ロータ27を後側のサイドプレート25に接触させて位置決めしているため、真空ポンプ1の初動時には、ロータ27とサイドプレート25とが摺動することにより、ロータ27及びサイドプレート25には初期摩耗が生じる。しかしながら、真空ポンプ1の運転時には、ロータ27をプッシュナット70側へ押し付けようとする力が生じるため、ロータ27とサイドプレート25との接触が防止され、その後のロータ27及びサイドプレート25の摩耗が防止される。
【0036】
以上、説明したように、本実施形態によれば、電動モータ10に取り付けられるケーシング31と、このケーシング31に形成されて当該ケーシング31の両端に開口を有する中空形状のシリンダ室Sと、電動モータ10の出力軸12に、軸方向に移動自在に設けられ、当該出力軸12とともにシリンダ室S内を回転駆動されるロータ27と、シリンダ室Sの開口を塞ぐ一対のサイドプレート25,26とを備え、ロータ27が出力軸12の先端部12A側へ移動することを規制するプッシュナット70を当該出力軸12に設けたため、このロータ27と前側のサイドプレート26との接触が簡単な構成で防止されることにより、当該ロータ27及びサイドプレート26の摩耗が抑制され、真空ポンプ1の耐久性を向上させることができる。さらに、プッシュナット70は、ボルト等の締結手段と比べて簡単に出力軸12に取付けられるため、出力軸12の先端部12A側へロータ27が移動することを簡単、かつ、短時間の作業で防止することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、電動モータ側に位置する後側のサイドプレート25に当接するまでロータ27を出力軸12に挿し込み、この状態で、プッシュナット70を所定の基準値を超えるまでロータ27の端面に押し付けて当該プッシュナット70を出力軸12に係止させたため、ロータ27をサイドプレート25に当接するまで出力軸12に挿し込むといった簡単な作業で、出力軸12に対するロータ27の位置決めを容易に行うことができる。さらに、プッシュナット70を所定の基準値を超えるまでロータ27の端面に押し付けることにより、この基準値を超えたか否かでロータ27の位置決めが完了したことを容易に判断することができ、熟練者でなくてもポンプの組み付け作業を短時間で行うことができる。
この場合、ロータ27は、後側のサイドプレート25に接触した状態で位置決めされるため、真空ポンプ1の初動時には、ロータ27とサイドプレート25とが摺動することにより、ロータ27及びサイドプレート25には初期摩耗が生じる。しかしながら、真空ポンプ1の運転時には、ロータ27をプッシュナット70側へ押し付けようとする力が生じるため、ロータ27とサイドプレート25との接触が防止され、その後のロータ27及びサイドプレート25の摩耗が防止される。
【0038】
また、本実施形態によれば、出力軸12は、先端部12Aにプッシュナット70の複数の爪部72が係止される係止部12Cと、この係止部12Cよりも縮径した縮径部12Dとを備え、この縮径部12Dの直径はプッシュナット70の複数の爪部72の先端72Aで囲まれた開口73の内径と略同径に形成されているため、プッシュナット70を縮径部12Dに沿って移動させることで、出力軸12に対して傾くことなくプッシュナット70を係止部12Cまで案内することができる。このため、係止部12Cに案内されたプッシュナット70をそのままロータ27に押し付けることにより、プッシュナット70が傾くことによる当該プッシュナット70の装着の失敗を低減することができ、作業手順を簡素化するとともに作業時間の短縮化を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、ロータ27の前端面27Eには、出力軸12が挿し込まれる軸孔27Aの周囲に凹部27Fが形成され、この凹部27F内でプッシュナット70を出力軸12の係止部12Cに係止させたため、出力軸12の先端部12Aをロータ27の前端面27Eよりも突出させることなく、プッシュナット70を出力軸12に係止させることができ、真空ポンプ1の構成の簡素化を図ることができる。
【0040】
以上、本発明を実施するための最良の実施の形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 真空ポンプ
6 ブレーキブースター(ブレーキ倍力装置)
7 真空タンク
9 ブレーキ配管
10 電動モータ(駆動機)
11 ケース
12 出力軸(回転軸)
12A 先端部
12B スプライン部
12C 係止部
12D 縮径部
20 ポンプ本体
22 ケーシング本体
23 シリンダ部
25 サイドプレート
26 サイドプレート
27 ロータ
27A 軸孔
27D スプライン孔部
27E 前端面
27F 凹部
27F1 底面(端面)
27G 後端面
28 ベーン
70 プッシュナット
71 フランジ部
72 爪部
72A 先端
73 開口
100 ブレーキ装置
F 押付荷重
P 圧縮室
R 矢印
S シリンダ室
X1 回転中心
X2 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機に取り付けられるケーシングと、このケーシングに形成されて当該ケーシングの両端に開口を有する中空形状のシリンダ室と、前記駆動機の回転軸に、軸方向に移動自在に設けられ、当該回転軸とともに前記シリンダ室内を回転駆動されるロータと、前記シリンダ室の前記開口を塞ぐ一対のサイドプレートとを備える真空ポンプにおいて、
前記ロータが前記回転軸の先端側へ移動することを規制するプッシュナットを当該回転軸に設けたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記駆動機側に位置する前記サイドプレートに当接するまで前記ロータを前記回転軸に挿し込み、この状態で、前記プッシュナットを所定の基準値を超えるまで前記ロータの端面に押し付けて当該プッシュナットを前記回転軸に係止させたことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記回転軸は、先端部に前記プッシュナットの複数の爪部が係止される係止部と、この係止部よりも縮径した縮径部とを備え、この縮径部の直径は前記プッシュナットの複数の爪部で囲まれた開口の内径と略同径に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記ロータの前端面には、前記回転軸が挿し込まれる軸孔の周囲に凹部が形成され、この凹部内で前記プッシュナットを前記回転軸に係止したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117437(P2012−117437A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267351(P2010−267351)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(510063502)ナブテスコオートモーティブ株式会社 (34)
【Fターム(参考)】