説明

真空吸着パッド

【課題】 真空吸着パッドにおける前記の課題を解決し、コンクリート、モルタル、タイルの凹凸の著しい外壁素材にも高真空で吸着でき、例えば、簡素構造の小型軽量、低コスト、高耐久の、壁面走行安定化装置にも利用可能な真空吸着パッドを提供することを目的とする。
【解決手段】 パッド基板33と、その周囲に沿ってパッド基板に固定したシール部材35と、上記基内に設け、真空源に接続するための真空引き孔37とを備え、これらパッド基板33とシール部材35とで囲まれるパッド内を真空に維持して被吸着面に吸着させる真空吸着パッドP1において、上記シール部材35は、高分子ゲルで形成されるとともに、被吸着面側先端35aに向かって先細りとし、断面形状において、上記先端35aの角度が鋭角であり、かつ、この先端を、パッド基板に固定したシール部材固定部の幅方向中心よりも外側に位置させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内部を真空に維持して、例えば、ビルの外壁などに吸着させる真空吸着パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
高所作業用のゴンドラに連結し、ゴンドラの上下移動とともに移動しながら壁面に吸着して、ゴンドラの揺れを止めるために、ゴンドラの進行とともに移動する走行安定化装置には、真空吸着パッドを用いることが知られている。
例えば、特許文献1の建築物の壁面清掃器及びそれを備えた壁面清掃装置、特許文献2のウオールクリーナ用吸着ユニット、特許文献3の壁面吸着移動装置では、シール部材として独立発泡樹脂や空気充填管状弾性体等の弾性体が用いられている。
【0003】
また、吸着構造としては、特許文献4の壁面走行用ロボットの移動吸着盤、特許文献5のクローラ型壁面吸着走行ロボットに見られる様に、伸縮自在なベローズの端面に接面シール材を備えた吸着パッドや、端部にシール材を備えた矩形の真空室の内部にスプリングで接面に付勢された滑り止めブロックを設けた構造例がある。
【特許文献1】特開平10−033439号公報
【特許文献2】特開平10−086865号公報
【特許文献3】特開平11−171063号公報
【特許文献4】特許第2122089号公報
【特許文献5】特許第2578262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記したいずれのものでも、コンクリート、モルタル、タイル、ガラス、PCパネル等、種々の素材が使われ、凹凸があるどのような壁面に対しても、確実に吸着できるというものではなかった。
例えば、上記特許文献1、2、3のように、独立発泡樹脂や空気充填管状弾性体からなるシール部材では、弾性体の接面反発力が高く、接面時には吸着パッドが反力により接面から剥離してしまうという問題があった。
【0005】
このような課題を解決するため、特許文献4の移動吸着盤や、特許文献5のクローラ型壁面吸着走行ロボットなどがあるが、これらの吸着構造は非常に複雑であり、装置が高コスト化してしまうばかりでなく、運用性、保守性の観点からも、一般的な普及が出来ないという問題があった。
また、接面吸着用のシール部材としての低反発の弾性体として、独立発泡スポンジが利用されることもあるが、この発泡スポンジは、真空で気泡が破壊され、スポンジがへたり、短期間で交換せざるを得ないとの課題もあった。
【0006】
この発明は、真空吸着パッドにおける前記の課題を解決し、コンクリート、モルタル、タイルの凹凸の著しい外壁素材にも高真空で吸着でき、例えば、簡素構造の小型軽量、低コスト、高耐久の、壁面走行安定化装置にも利用可能な真空吸着パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、パッド基板と、その周囲に沿ってパッド基板に固定したシール部材と、上記基内に設け、真空源に接続するための真空引き孔とを備え、これらパッド基板とシール部材とで囲まれるパッド内を真空に維持して被吸着面に吸着させる真空吸着パッドにおいて、上記シール部材は、高分子ゲルで形成されるとともに、被吸着面側先端に向かって先細りとし、断面形状において、上記先端の角度が鋭角であり、かつ、この先端を、パッド基板に固定したシール部材固定部の幅方向中心よりも外側に位置させた点に特徴を有する。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明を前提とし、上記パッド基板の裏面には、所定の厚みを有するクッション部材を設け、このクッション部材には、上記真空引き孔に連通する真空引き通路を貫通させた点に特徴を有する。
【0009】
第3の発明は、上記第1または第2の発明を前提とし、上記クッション部材の外形の変形量を規制する変形規制手段を設けた点に特徴をする。
【0010】
第4の発明は、上記第1〜第3の発明を前提とし、上記クッション材層内に形成した真空引き通路には、この真空引き通路内が真空になったときに、一定以上の通路断面積を維持するための通路保持手段を設けた点に特徴を有する。
【0011】
第5の発明は、上記第1〜第4の発明を前提とし、上記パッド内には、上記シール部材を被吸着面に接触させたときに開弁し、上記パッド内と真空源とを連通させる開閉弁機構を設けた点に特徴を有する。
【0012】
第6の発明は、上記第5の発明を前提とし、上記開閉弁機構は、通常は閉弁状態を維持し、上記吸着パッドが被吸着面に接触したときに作用する力によって開弁する第1弁部を備えた点に特徴を有する。
【0013】
第7の発明は、上記第6の発明を前提とし、上記開閉弁機構は、上記第1弁部が開弁状態のとき、吸着パッド内と真空源側との差圧を検出し、その差圧が設定値未満のときに開弁する第2弁部を備えた点に特徴を有する。
【0014】
第8の発明は、上記第7の発明を前提とし、上記第2弁部には、上記第1弁部が開弁状態であって、第2弁部が閉弁状態のとき、吸着パッド内と真空源側とを連通する絞り孔を備えた点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0015】
第1〜第8の発明によれば、シール部材が、接触表面の凹凸を吸収するとともに、接面への密着性が高いため、ビルの外壁など、凹凸がある被吸着面にも、確実に吸着可能な真空吸着パッドが得られる。また、シール部材の先端が、薄膜状になって被吸着面に密着するので、その部分で小さな隙間ができ、真空漏れが発生したとしても、これにより形成されるジェット流によって、膜状の部分が再密着して真空の回復が可能である。
従って、この真空吸着パッドは、コンクリート、モルタル、タイルなど、凹凸のあるビル外壁などの面に、確実かつ安定的に吸着することができる。
【0016】
第2の発明の真空吸着パッドによれば、パッド基板の裏面に設けたクッション部材の変形の範囲で、被吸着面の段差に対応可能な走行安定化装置を実現できる。
しかも、クッション部材内に、真空引き通路を形成したので、吸着面の移動に応じて伸縮自在な通路を単純な構成で実現できる。
【0017】
第3の発明は、クッション部材の変形量を規制し、過度な外力が作用してクッション部材が破損することを防止できる。
また、このような真空吸着パッドを用いた走行安定化装置において、被吸着面への吸着状態で、クッション部材の変形量が大きくなりすぎると、装置本体の位置が大きくぶれてしまうことがあるが、上記クッション部材の変形量を規制することによって、装置本体のぶれを抑えることができる。
【0018】
第4の発明によれば、クッション部材内に形成した真空引き通路内の真空度が上がっても、上記真空引き通路がつぶれてしまうことを防止できる。従って、パッド内を高真空度に保つことができる。
【0019】
第5〜第8の発明によれば、被吸着面に接触しない真空吸着パッド内の真空引きをしないようにして、真空源のエネルギーロスを抑えることができる。
また、パッド内の開閉弁機構によって、個々の真空吸着パッドの真空を独立に保つことができるため、複数の真空吸着パッドの真空引き孔を真空連通パイプで連通させて真空源と接続することができる。
そこで、複数の真空吸着パッドを、壁面などに沿って走行する走行安定化装置に用いた場合にも、真空源側で接続すべき真空吸着パッドを選択して連通を切り換える複雑な機構が不要になり、装置を単純化、小型化して、低コスト化することができる。
【0020】
特に、第6の発明では、吸着パッドが被吸着面に接触したことを機械的に検知して、開閉弁機構を制御することができるので、電気的なセンサとは異なり、信号の伝達に遅れが発生したり、雨水や水を利用する環境においてもセンサが故障したりしにくくなる。
【0021】
第7の発明によれば、吸着パッドが被吸着面側に位置しているときに、真空漏れが発生したとしても、第2弁部が閉弁状態を保つことができるので、真空漏れによって、真空連通パイプ内の真空度が低下することを防止することができる。
第8の発明によれば、第2弁部が閉弁状態であっても、絞り孔を介して一定量の通気があり、真空漏れを最小限に保ちながら、吸着パッド内を真空にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1〜図15を用いて、この発明の第1実施形態を説明する。
なお、ここでは、図1に示す真空吸着パッドP1を図3に示す走行安定化装置に用いる例を説明する。この走行安定化装置は、図2に示すように、装置本体1をゴンドラGに取り付け、ゴンドラGの壁面2に沿った走行を安定化させる装置である。そして、後で詳しく説明するが、装置本体1内には、無端状の一対のローラチェーン29,30を設け、このローラチェーンに複数の真空吸着パッドP1を取り付けてクローラ状にして用いるようにしている。
【0023】
図1に示す上記真空吸着パッドP1は、長辺を吸着パッドの幅Wとする長方形の四隅を面取りした形状の底面と、その外周に起立した側面33aを有するパッド基板33内に、上記側面33aに平行な垂直部34aを有するカバー34を設けている。このカバー34をパッド基板33内に組み込んだとき、上記垂直部34aがパッド基板33の底面に接触するとともに、上記側面33aと垂直部34aとの間に間隔が保たれるようにし、上記側面33aと垂直部34aとの上記間隔に、図5、図6に示すように、リング状のシール部材35の基端側を挟み込んで固定している。
【0024】
そして、上記のように真空吸着パッドP1をローラチェーン29,30に固定したとき、図5に示すように、上記シール部材35が、フレーム12の起立片12a,12bから外方に突出する関係にしている。そして、この第1実施形態では、上記真空吸着パッドP1の幅Wを、一対のローラチェーン29,30の対向間隔よりも大きくしている(図5参照)。
そして、上記パッド基板33とシール部材35とで囲まれるパッド内部を真空に保つことによって、シール部材35を接触させた壁面2などの被吸着面に真空吸着させて使用する。
【0025】
まず、この真空吸着パッドP1を取り付けた装置本体1について詳しく説明する。
装置本体1は、図3、図4のように、金属板で形成し、互いに対向する起立片12a,12bを備えたフレーム12に、高所作業用のゴンドラGを取り付けるための支持部材13を連結している。この支持部材13には、図4に示すように、ゴンドラGを取り付けるためのL字状の取り付け部14を備えている。この取り付け部14とボルト14aとの間にゴンドラGのバーを嵌め、押さえボルト14bによって固定するようにしている。
【0026】
また、フレーム12は、図3,図4に示すように、連結部材15を介して支持部材13に揺動可能に連結されている。また、この連結部材15には、ポンプ接続部16を設けているが、後で説明するロータリー管継ぎ手55をこのポンプ接続部16を介して図示していない真空源である真空ポンプに接続するようにしている。
【0027】
更に、支持部材13は、上記フレーム12を挟むコの字状の固定部材17を備え、固定ボルト18を締め付けることによって、支持部材13に対するフレーム12の角度を固定するようにしている。上記のように、フレーム12を支持部材13に揺動可能にしながら、固定部材17によってフレーム12を固定するようにしたのは、図2に示すように、上記支持部材13にゴンドラGを取り付け、ゴンドラGを吊るして使用する際に、上記装置本体1と壁面2とがぴったりと接触できるようにするためである。そして、上記装置本体1が、壁面2に対してぴったり接触した時の間隔を維持するために、フレーム12の各起立片12a、12bに、それぞれ一対のローラ20,20を設けている。
なお、この実施形態では、図2に示すように、ゴンドラGに、2台の装置本体1,1を取り付けるようにしている。そして、図2は、装置本体1にゴンドラGを取り付けた状態の図で、(a)は側面図、(b)は壁面2側からの正面図である。
【0028】
次に、上記フレーム12内の構造を詳しく説明する。
図5に示すように、フレーム12の一方の起立片12aには回転軸21,22の一端が片持ち支持され、他端には一枚の板部材23が掛け渡されている。このようにした回転軸21,22は、上記起立片12a及び板部材23のそれぞれに設けた軸受け24,25で回転自在に支持されている。このようにしたそれぞれの回転軸21,22のそれぞれには一対の歯車26,27を設け、これら回転軸21,22と歯車26,27とが一体的に回転する構成にしている。
【0029】
なお、図中符号28は、上記起立片12aと板部材23との対向部間に設けた支持部材であり、板部材23を支持する機能を発揮するものである。
そして、上記回転軸21に設けた歯車26と、回転軸22に設けた歯車26とにローラチェーン29を掛け渡し、同様に、歯車27と27にも、別のローラチェーン30を掛け渡している。そして、これらローラチェーン29,30の対向間隔を幅wとしている。
【0030】
また、上記各ローラチェーン29,30には、上記真空吸着パッドP1と同数の固定部29a,30aを備え、これら固定部29a、30aを介して、ローラチェーンの移動方向に等間隔に、図1に示す真空吸着パッドP1を取り付けている。ただし、各真空吸着パッドP1の底面には、図5、図13に示すように、ゴムシートからなるシール部材31を介してプラスティックあるいは金属等の接続用基板32を設け、この接続用基板32にローラチェーンの固定部29a,30aを固設している。
【0031】
なお、真空吸着パッドP1は、その長辺をローラチェーン29,30の走行方向に直交して取り付けられるが、このとき上記真空吸着パッドP1の片側が、回転体の幅wよりも外側に突出する構成にしている。言い換えると、真空吸着パッドP1の片側は、ローラチェーン30の走行軌跡よりも外側に突出することになる。
真空吸着パッドP1を上記のように偏らせてローラチェーン29,30に取り付けることによって、その真空吸着パッドP1の上記突出部分で囲繞される囲繞空間Eが形成されることになる。
【0032】
さらに、上記各真空吸着パッドP1は、上記シール部材35が壁面2に接触した状態で、吸着パッド内を真空にしたとき壁面2に吸着されるが、この真空吸着パッドP1には、その吸着時に壁面2とパッド基板33との距離を一定以上に保つための一対の脚部36,36を所定の間隔を保ってカバー34から突出させている。この脚部36,36は、その中央に、ビス36aを貫通させ、このビス36aが、パッド基板33及びシール部材31を貫通して、上記接続用基板32に固定されている。この脚部36に対応する接続用基板32の裏面に、上記ローラチェーン29,30が位置するようにしている。
【0033】
このように脚部36,36を設けた理由は次のとおりである。すなわち、真空吸着パッドP1が必要以上に壁面2に吸着されると、シール部材35が壁面2に強く押し付けられて損傷する恐れがある。そこで、上記のように脚部36,36を設けて、真空吸着パッドP1が壁面2に必要以上に押し付けられないようにしている。また脚部36,36は、壁面との間で摩擦力を生じ吸着パッドを回転させる原動力を生んでいる。
【0034】
また、上記真空吸着パッドP1のカバー34であって、上記回転体の幅wの範囲に対応する位置に開口を設け、この開口をフィルタ34bで塞いでいる。
さらに、上記パッド基板33には、真空引き孔37と、真空破壊孔38とを形成しているが、これら各孔37,38は、図5に示すように、回転体の幅wの外側である上記囲繞空間Eに対して開口させている。なお、真空引き孔37は、パッド基板33と接続用基板32とシール部材31を貫通している。
従って、上記フィルタ34bと真空引き孔37及び真空破壊孔38とは、互いに干渉することがない位置関係を保つことになる。
【0035】
次に、上記真空吸着パッドP1のシール部材35について説明する。
このシール部材35は、上記したように、パッド基板33の側面33aとカバー34の垂直部34aとの間に基端部を固定したリング状の部材であるが、例えば、スチレンゲル、ウレタンゲル、オレフィン系ゲルなどの高分子ゲルで形成している。このような高分子ゲルは、微粘着性があり、被吸着面に対して接触した場合の密着度を高めることができる。しかも、高分子ゲルは、低反発性材料なので、壁面2に押し付けられたときに発生する反力も小さく、壁面2に密着し易い。
また、高分子ゲルは変形し易いため、壁面2に目地などの凹凸があってもそれに対応して変形し、密着することができる。
【0036】
更に、シール部材35は、その断面形状を、図6に示すようにパッド基板に固定した固定部と反対側の接面側先端35aの角度θを鋭角にするとともに、この先端35aがシール部材35における、固定部の幅方向中心である図6の一点鎖線で示す位置より外側に位置するようにしている。
このような形状にすることによって、シール部材35は、壁面2に接触させたときに、先端が外側に向かってスカートのように広がり易くなる。
このシール部材35の形状が、外側へ広がり易い形状であることを、図7,図8を用いて説明する。
【0037】
シール部材35の先端を壁面2に接触させ、シール部材35を押圧すると、シール部材35の先端には力Fが作用する。図7では、壁面2をシール部材35の先端に軽く接触させ、先端がほんの僅か押し縮められた状態を示している。このとき、作用する力Fによって、シール部材35内には、歪みが発生する。この歪みによって、図中左右方向へ開く方向の、破線の矢印で示した力f1、f2が発生する。シール部材35の内部には、上記左右方向の力f1、f2に対する抗力R1,R2が発生するはずである。しかし、シール部材35の先端よりも外側には、部材がないので、実際には、上記抗力R1はほとんど発生せず、力のバランスによってシール部材35の先端は、図8に示すように外側へ移動し、先端35aが外側に開いて壁面2に密着する。
【0038】
この第1実施形態では、シール部材35の先端35aが、パッド基板33の外周とほぼ同じ位置に位置しているため、先端35aより外側に部材がなく、上記抗力R1がほとんど発生しない。ただし、先端35aの位置が、この図6に示すよりも、一点鎖線で示した中心線寄りであっても、上記中心線よりも外側にあれば、上記歪みに応じて発生する抗力R1が、抗力R2よりも小さくなるので、シール部材35が外側へ向かって開く点は同じである。つまり、シール部材35の先端35aの角度θを鋭角にするとともに、この先端35aを、固定部の幅方向中心よりも外側に位置させれば、先端35aを被吸着面に接触させたときに、外側へ開き易くなる。
【0039】
このように、先端35aが、外側へ開けば、先端35aに向かう斜面が壁面2に接触するので、壁面2に対して平行な先端面が接触する場合と比べて、壁面への接触面積が大きくなる。そして、上記先端35aが開いて、壁面2に接触した状態で、パッド内部の真空度を上げれば、先端35aよりも基端側の部分35bも、真空によって内側へ引かれ、さらに変形して延びる。そして、このシール部材35は、高分子ゲルで形成しているので変形量が非常に大きく、しかも、先端を鋭角にしているので、先端が薄く伸びて薄膜状となり、壁面2との密着面積を最大限にすることができる。
【0040】
このように、薄く延びたシール部材35が壁面2に密着した状態で、小さな隙間ができて真空漏れが発生した場合には、上記小さな隙間にジェット流が発生し、そのジェット流によって延びたシール部材35を引き付け、壁面2へ再密着させることもできる。すなわち、真空漏れが発生しても、それを回復することができる。
このようなシール部材35を備えることによって、真空吸着パッドP1は、凹凸のある被吸着面にも密着し易く、真空漏れの発生も少なくできる。従って、この真空吸着パッドP1は、凹凸がある被吸着面に対して、密着性が高く、真空を維持できるので、吸着力が強くなる。
【0041】
上記のように、このシール部材35は、先端位置を鋭角にするとともに、その位置を固定部の幅方向中心よりも外側にして、接面状態で真空引きしたときに、その変形によって薄膜状の部分が形成され、密着性を増す構成にしている。そのため、上記薄膜による効果を得るために、予め、薄膜部分を形成するなど、シール部材35を複雑な形状にする必要がない。
【0042】
さらに、上記真空引き孔37の内側には、開閉弁機構V1を設け、この開閉弁機構V1によって真空吸着パッドP1と、上記フレーム12内に設け、後で詳しく説明する真空連通パイプVPとを連通させたり、あるいはその連通を遮断させたりするようにしている。
この開閉弁機構V1は、図9〜図11に示すように、弾性を有する板部材39の先端に設けた弁部材40を主要素にしてなる第1弁部41と、同じく弾性を有する板部材43に設けたシート部材44と、このシート部材44に形成した通孔45及びこの通孔45に対応し、板部材43に設けられた絞り孔46を主要素にしてなる第2弁部47とからなる。
【0043】
第1弁部41は、板部材39に切り込みを入れて湾曲させ、その湾曲部から折り返した固定部39aをパッド基板33に固定するとともに、上記弁部材40とは反対側端部に、接触検知棒42を設けている。この接触検知棒42は、カバー34から突出し、通常状態において、上記板部材39の弾性力によって図9の位置を保っている。この図9に示す接触検知棒42の位置は、真空吸着パッドP1のシール部材35を、壁面2などの被吸着面に接触したときに、その先端が壁面で押される位置である。そして、接触検知棒42がこの位置にあるとき、板部材39の弾性力によって、弁部材40により第2弁部47の絞り孔46を閉じるとともに、その押圧力で板部材43をたわませて、シート部材44で真空引き孔37の周囲をシートする構成にしている。
なお、上記第1弁部41の弁部材40が絞り孔46を閉じているときを、この発明の第1弁部の閉弁状態といい、第2弁部47のシート部材44が真空引き孔37の周囲をシートしているときを、この発明における第2弁部47の閉弁状態という。
【0044】
そして、接触検知棒42が、壁面2に接触することによって、図9の下方に押された場合には、図11に示すように、接触検知棒42とは反対側の弁部材40が上昇して、絞り孔46を開く開弁状態となる。なお、第1弁部41が開弁状態を保てば、第2弁部47に対する押圧力も開放されることになる。
一方、第2弁部47は、弾性を有する板部材43の基端側を、スペーサ48を介してパッド基板33に固定するとともに、その先端側には、リング状のシート部材44を設け、その中央に絞り孔46を形成している。そして、上記スペーサ48の厚みを、上記シート部材44の厚みよりも厚くし、板部材43に押圧力が作用していないときには、図11に示すように、第2弁部47を開弁状態に維持する構成にしている。
【0045】
ただし、この第2弁部47は、上記第1弁部41が開弁状態であっても、真空吸着パッドP1内の真空度が低く、真空連通パイプVPとの間の差圧が設定値以上になれば、その差圧によって第2弁部47が、図9に示すように真空引き孔37側に押し付けられ、その真空引き孔37を塞ぐ。また、第2弁部47が閉弁状態を維持して真空引き孔37を塞いでいても、第1弁部41が開弁状態ならば、上記絞り孔46を介して一定量の空気が、真空連通パイプVP側へ流れることになる。
【0046】
このような開閉弁機構V1を設けたので、この装置本体1を、図2(a)のように、壁面2に沿って矢印A方向へ引き上げる際に、壁面2に接触した真空吸着パッドP1の開閉弁機構V1のみが開弁状態となり、当該真空吸着パッドP1は内部が真空となって吸着力を発揮する。その他の真空吸着パッドP1内は、開閉弁機構V1が閉弁状態を維持して真空連通パイプVPとの連通が遮断されるので、真空ポンプが必要以上にエネルギーを消費することなく、真空連通パイプVP内の真空度を保つことができる。
【0047】
以下には、開閉弁機構V1の機能を更に詳しく説明する。
まず、図示しない真空ポンプを作動させた状態で、壁面2に装置本体1を押し付けると、接触検知棒42が壁面2で押圧され、その圧力作用で、第1弁部41が開弁状態となる。第1弁部41が開弁状態となっても、真空吸着パッドP1内の真空度が低く、差圧が板部材43のバネ力よりも大きい場合には、第2弁部47は閉弁状態を保ち、絞り孔46を介してのみ上記真空連通パイプVPと真空吸着パッドP1内とが連通する。この状態では、上記絞り孔46を介して流量が真空ポンプに引かれるので、真空吸着パッドP1内の真空度は徐々に高くなる。そして、パッド内部の真空度が高くなって、真空吸着パッドP1内と真空連通パイプVPとの差圧が設定値未満になれば、第2弁部47が図11に示す開弁状態となる。従って、真空引き孔37が全開して真空吸着パッドP1内の真空度を高く保つ。
【0048】
もし、上記接触検知棒42が壁面2に接触して、第1弁部41が開弁状態になっても、壁面の凹凸などにシール部材35が密着できなければ、真空吸着パッドP1内は大気圧となる。このときには、上記したように第2弁部47が、差圧によって閉弁状態を保つことになる。第2弁部47が、差圧によって閉弁状態を保てば、大気は絞り孔46を介してのみ引かれることになる。
そのため、壁面2に接触した真空吸着パッドP1に大気が流れ込んでも、絞り孔46を介しての僅かな流量のみが、真空連通パイプVP内に流れるだけなので、上記真空連通パイプVP内の真空度の低下を最小限にとどめることができる。
【0049】
また、真空吸着パッドP1を吸着させた状態で、何らかの原因によって真空漏れが発生した場合にも、上記第2弁部47が差圧によって閉じるため、大気は絞り孔46を介してのみ引かれることになる。従って、上記の場合と同様に、真空連通パイプVP内の真空度の低下を最小限にとどめることができる。
更に、漏れの原因が取り除かれて、真空吸着パッドP1内部の真空度が高くなれば、第2弁部47が開弁状態となるので、真空吸着パッドP1内の真空度を高く維持することができる。
【0050】
また、図5に示すように、真空引き孔37よりもさらに外側に形成した前記真空破壊孔38は真空破壊弁V2によって、開閉される構成にしている。この真空破壊弁V2は、図12に示すように、真空吸着パッドP1の外に設けたもので、通常は、閉弁状態を保つものである。すなわち、パッド基板33に一端側49aを固定した板部材49の他端側49bにローラ50を取り付けるとともに、上記板部材49に切り込みを入れて分岐させたバネ部49cを形成している。このバネ部49cには、弁部材51を設け、上記バネ部49cのバネ力によって弁部材51をパッド基板33に押し付けて真空破壊孔38を塞いでいる。
【0051】
そして、図12に示す真空破壊弁V2の閉弁状態において、上記ローラ50を矢印C方向へ移動させると、板部材49が移動して、上記バネ部49cを矢印D方向へ移動させる。このようにバネ部49cが矢印D方向に移動すれば、真空破壊弁V2が開弁状態となって、パッド内部の真空を破壊する。
このように真空破壊弁V2を設けたのは、当該装置本体1のスムーズな走行を維持するためである。すなわち、当該装置本体1が所定の方向に移動するとき、真空吸着パッドP1の走行方向前方の真空吸着パッドP1が壁面2からスムーズに剥がれる必要がある。もし、それがスムーズに剥がれなければ、極端な場合には走行不能になるし、走行不能にならないとしても、上記真空吸着パッドP1を無理やり剥がさなければならないので、スムーズな走行が阻害されることになる。そこで、上記のように真空破壊弁V2を設けて、真空吸着パッドP1の走行方向前方の真空吸着パッドP1が壁面2からスムーズにはがれるようにしたものである。
【0052】
従って、真空破壊弁V2が開くタイミングは、図13に示すように装置本体1を壁面2に対して矢印A方向に走行させ、一連の真空吸着パッドP1が矢印G方向へ移動するが、その中で、真空吸着パッドP1aの位置からP1bの位置へ移動して、壁面2から離れるときになる。そこで、図5に示すように、前記フレーム12に、上記タイミングにあわせて真空破壊弁V2を開くための押圧部材52を設け、上記真空吸着パッドP1が壁面2から離れる関係位置に到達したとき、そのローラ50が押圧部材52に乗り上げて、真空破壊弁V2を強制的に開弁させるようにしている。
ただし、上記真空吸着パッドP1を上記のような走行安定化装置に用いず、はしごの先端などに取り付けて、固定具として使用する場合には、スムーズな走行は必要ない。その場合でも、上記真空破壊弁V2を手動で開弁できるようにしておけば、固定具のスムーズな取り外しが可能になる。
【0053】
上記のようにした各真空吸着パッドP1を図示していない真空ポンプに接続するのが、上記真空連通パイプVPである。この真空連通パイプVPは、上記真空吸着パッドP1と同数のT型管継ぎ手53を、図14に示すように、可撓性を有する複数の単位チューブ54を介して直列に接続している。このようにした真空連通パイプVPの一端を塞ぐとともに、その他端を、回転可能なロータリー管継ぎ手55に接続している。そして、このロータリー管継ぎ手55には、真空ポンプに接続するポンプ接続部16を連通させている。また、このロータリー管継ぎ手55を、囲繞空間E側の起立片12bに設けている。
【0054】
上記真空連通パイプVPのT型管継ぎ手53は、図15に示すように、真空引き孔接続管部56と、一対の接続部を備えたチューブ接続管部57とからなり、真空引き孔接続管部56を各真空吸着パッドP1の真空引き孔37に接続し、チューブ接続管部57には前記単位チューブ54を接続している。なお、上記真空引き孔接続管部56は、チューブ接続管部57を回転可能に貫通し、その先端に雄ねじ部56aを形成するとともに、この雄ねじ部56aとは反対端に頭部56bを形成し、この頭部56bを外方に突出させている。従って、上記雄ねじ部56aを接続用基板32に形成した雌ねじ部32aにはめるとともに、外部から頭部56bを回すことによって、T型管継ぎ手53を真空吸着パッドP1に簡単に取り付けることができる。
なお、図15中、符号58,58はシール部材で、連結部からの真空漏れを防いでいる。
【0055】
上記のように各真空吸着パッドP1の真空引き孔37に、T型管継ぎ手53の真空引き孔接続管部56を接続することによって、真空連通パイプVPが上記囲繞空間E内に位置するとともに、この真空連通パイプVPを介して各真空吸着パッドP1が一連に連通することになる。
従って、上記ローラチェーン29,30の移動に伴って、真空吸着パッドP1が移動すると、上記単位チューブ54とT型管継ぎ手53とで構成された真空連通パイプVPが真空吸着パッドP1に従って移動し、上記真空連通パイプVPの一端を連結したロータリー管継ぎ手55が回転する。このとき、真空吸着パッドP1に従って移動する真空連通パイプVPが移動するが、上記したように、上記真空連通パイプVPとロータリー管継ぎ手55とを上記回転体の幅wの外側に形成された空間E内に設けたので、上記真空連通パイプVPが、歯車26,27の回転軸21,22に絡まることがない。
【0056】
以上のように、第1実施形態の真空吸着パッドP1には、開閉弁機構V1を設けたので、複数の真空吸着パッドP1を一連に連通させた場合にも、個々の真空吸着パッドP1内の独立性が保たれる。例えば、壁面2側に接触した複数の真空吸着パッドP1のうち、いずれかの真空吸着パッドP1で真空漏れが発生した場合にも、前記したように、その真空吸着パッドP1の開閉弁機構V1が閉弁状態を確保するので、他の真空吸着パッドP1の吸着力に影響を及ぼすことはない。従って、このような真空吸着パッドP1を走行安定化装置に用いれば、真空連通パイプVPの構造を単純化しながら、安全性を十分に確保することができる。つまり、上記真空吸着パッドP1を用いることによって、上記装置本体1の構造を単純化でき、小型化、低コスト化が可能になる。
【0057】
また、上記真空吸着パッドP1は、走行安定化装置に用いるだけでなく、固定装置としても利用できる。例えば、壁に立て掛けるはしごの端部に取り付け、壁面に真空吸着させれば、はしごを壁面に固定することができる。
このような固定装置として利用する場合にも、上記シール部材35が、外壁などの凹凸に対応して密着するので、吸着力を強くして確実な固定ができる。また、上記開閉弁機構V1によって、被吸着面に接触したときにのみ、パッド内部を真空引きするようになるので、固定面から真空吸着パッドP1を外したときに、大気を引いて真空源の負荷が大きくなることを防止することもできる。
【0058】
さらに、上記したように、各真空吸着パッドP1において、上記フィルタ34bと真空引き孔37及び真空破壊孔38とは、互いに干渉することがない位置関係に保っているので、真空引きによって、上記フィルタ34bを通過してしまうような細かい異物を吸い込んでしまうことがあっても、その異物が、真空引き孔37や真空破壊孔38へ、直接入り込む可能性は低い。そのため、異物が、上記各孔37,38に設けた開閉弁機構V1の弁部材40や、真空破壊弁V2の弁部材51に付着して、真空漏れなどの悪影響を起こすことがなく、より安全である。
【0059】
図16、図17に示す第2実施形態の真空吸着パッドP2は、上記第1実施形態における真空吸着パッドP1のパッド基板33の裏面に、パッド基板33の幅Wから両脇がはみ出す大きさの金属板などの支持基板61を取り付け、この支持基板61を介して、スポンジ製あるいは高分子ゲル製などの、変形度の大きいクッション部材60を設けたものである。上記支持基板61に、熱溶着や接着剤によって上記クッション部材60を固定するとともに、クッション部材60の、上記支持基板61とは反対面には、別の支持基板62を取り付け、一対の支持基板61,62の間にクッション部材60を挟んでいる。ただし、支持基板61を介して、クッション部材60と反対側は、第1実施形態の真空吸着パッドP1と同じ構成である。そこで、以下には、上記真空吸着パッドP1と異なる構成について説明する。上記第1実施形態と同様の構成要素については、同じ符号を用い、詳細な説明は省略する。
【0060】
また、上記支持基板61,62には、それぞれパッド基板33に形成された真空引き孔37に対応する位置に、通路孔61a、62aを形成するとともに、クッション部材60にも、これら通路孔61a,62a間に位置する真空引き通路60aを形成している。これら、真空引き孔37、通路孔61a、真空引き通路60a、通路孔62aが連続して、真空源に連通する一つの通路を形成するようにしている。そして、一方の支持基板62の通路孔62aに、管継ぎ手を介して真空源を接続し、真空吸着パッドP2内の真空引きをするようにしている。
【0061】
また、上記クッション部材60に形成した真空引き通路60a内には、この発明の通路保持手段であるコイルスプリング63を設けている。このようなコイルスプリング63を設けたのは、次の理由による。上記真空吸着パッドP2が、壁面などに接面した状態で、内部を真空引きすると、上記真空引き通路60a内も真空になる。もしも、真空引き通路60a内に、コイルスプリング63のような通路保持手段がなければ、真空によって真空引き通路60aがつぶれてしまって、真空引きができなくなってしまうためである。上記コイルスプリング63を設けておけば、真空引き時にクッション部材60が変形しても、真空引き通路60aの内径が、コイルスプリング63の直径で支持され、真空引き通路60aが保持されることになる。
【0062】
さらにまた、上記支持基板61には、ジョイント64を介して、支持棒65の一端を接続するとともに、この支持棒65を支持基板62に形成した貫通孔62bを貫通させ、さらに、支持棒65の他端を支持部材66に固定している。そして、この真空吸着パッドP2を走行安定化装置に利用する場合、上記支持部材66を上記装置本体1側に連結する。
また、ジョイント64は、支持基板61の平面上で回転可能なジョイントである。そこで、クッション部材60が変形したときには、支持棒65が、支持基板61に対して角度を変え、ジョイント64の可動範囲で傾くが、この支持棒65の他端側の傾きは、支持部材66の貫通孔66bの範囲に規制される。また、クッション部材60が、図の矢印方向へ伸縮する場合にも、支持棒65の長さを超える伸長はできない。
言い換えれば、上記クッション部材60の変形は、支持棒65の可動範囲及び長さに制限されることになる。
【0063】
例えば、クッション部材60が、図16の上下方向に伸縮するような場合にも、上記支持棒の長さを超えて伸びることはない。そのため、後で詳しく説明するが、この真空吸着パッドP2が、壁面に吸着した状態で、引っ張り力が発生しても、引きちぎれるほど伸びないということである。つまり、上記支持棒65、支持基板61,62、及び支持部材66によって、この発明の変形規制手段にあたる。
【0064】
そして、一方の支持基板62に、固定部29a,30aによって、一対のローラチェーン29,30を固定して、先に説明した図2に示す装置本体1と同様の装置を構成することができる。
この第2実施形態の真空吸着パッドP2を用いた走行安定化装置では、図17に示すように、壁面に段差があって、装置本体との距離が遠い壁面2aと、近い壁面2bとが有った場合にも、上記クッション部材60の伸縮範囲内で、この段差に対応することができる。すなわち、距離の遠い壁面2aに対しては、クッション部材60が自然長に近い状態で、上記シール部材35を壁面2aに接触させて真空吸着パッドP2を吸着させる。一方、近い壁面2bに対しては、クッション部材60が壁面2bからの押圧力で圧縮された状態で、真空吸着パッドP2が吸着する。
【0065】
このように、パッド基板33の裏面側にクッション部材60を設けた真空吸着パッドP2ならば、このクッション部材60の変形可能な範囲で、接触面の段差に対応可能な走行安定化装置を実現できる。
しかも、クッション部材内に、真空引き通路を形成することによって、吸着面の移動に応じて、伸縮自在な通路を単純な構成で実現できた。
【0066】
また、上記支持棒65などの変形規制手段を設けて、クッション部材の変形量を規制しているので、過度な外力が作用してクッション部材が破損することを防止できるだけでなく、このような真空吸着パッドを用いた走行安定化装置の装置本体のぶれも防止できる。すなわち、走行安定化装置において、上記真空吸着パッドP2が被吸着面への吸着状態で、クッション部材60の変形量が大きくなりすぎた場合には、装置本体が大きくぶれてしまうことがあるが、上記クッション部材60の変形量を規制することによって、装置本体のぶれを抑えることができる。
【0067】
なお、図17では、隣り合う真空吸着パッドP2が、段差を超えて、それぞれ距離の近い壁面2aと、遠い壁面2bとに吸着している状態を示しているが、移動中に、段差の位置に真空吸着パッドP2が位置した場合に、両壁面2a,2bに同時に、一つの真空吸着パッドP2で対応することはできない。ただし、この実施形態の真空吸着パッドP2も、上記第1実施形態の真空吸着パッドP1と同様に、接面時に開弁状態となる、開閉弁機構V1を備えているので、他の真空吸着パッドP2内の真空度を落とすことなく、その他の真空吸着パッドP2によって壁面に吸着することができる。
【0068】
なお、クッション部材60を構成する材質は、変形量が大きければ、高分子ゲルに限らない。例えば、ウレタンホームなど、変形量の大きなスポンジなどでもかまわない。
ただし、クッション部材には、真空引き通路を形成するので、発泡樹脂が連続気泡を有する場合には、上記連続気泡を介しての真空漏れを防ぐために、クッション部材に形成した真空引き通路内壁にコーティング処理などの漏れ防止処理を施す必要がある。また、クッション部材を形成する部材が独立発泡樹脂の場合でも、真空引きに伴う繰り返しの変形で、気泡外壁が破壊して連続気泡になってしまうことがあるので、独立気泡の発泡樹脂を用いる場合にも、真空引き孔内壁にコーティング処理などを施した方がよい。
さらに、クッション部材60の反発力が大きすぎると、壁面からの反力の影響を受け易くなるので、上記シール部材35と同様に、低反発性材料を用いることが好ましい。
【0069】
また、上記図16、図17では省略しているが、この真空吸着パッドP2にも真空破壊孔38を設け、真空破壊弁を設けることができる。
真空破壊弁を設ける場合、上記真空引き通路60aと同様に、支持基板61,62、及びクッション部材60を貫通する真空破壊通路を形成し、支持基板62に形成した通路孔に上記真空破壊弁を設ける必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1実施形態の真空吸着パッドの斜視図である。
【図2】第1実施形態の真空給吸着パッドを利用した走行安定化装置の例を示した図で、(a)側面図、(b)は正面図である。
【図3】走行安定化装置の斜視図である。
【図4】走行安定化装置の側面図である。
【図5】図3のV-V線断面図である。
【図6】第1実施形態における真空吸着パッドのシール部材の拡大断面図である。
【図7】シール部材に作用する力関係を表わした図である。
【図8】シール部材の変形例を示した図である。
【図9】開閉弁機構の動作説明図であり、閉弁状態を示している。
【図10】図9の部分拡大図である。
【図11】開閉弁機構の動作説明図であり、開弁状態を示した図である。
【図12】真空破壊弁の拡大図である。
【図13】図3及び図5のXIII-XIII線断面図である。
【図14】図3及び図5のXIV-XIV線断面図である。
【図15】T型継ぎ手の接続部分の拡大断面図である。
【図16】第2実施形態の真空吸着パッドの断面図である。
【図17】第2実施形態の真空吸着パッドを用いた走行安定化装置の動作説明図である。
【符号の説明】
【0071】
1 装置本体
2 壁面
P1 真空吸着パッド
35 シール部材
37 真空引き孔
V1 開閉弁機構
41 第1弁部
42 接触検知棒
47 第2弁部
V2 真空破壊弁
P2 真空吸着パッド
60 クッション部材
60a 真空引き通路
61 支持基板
61a 通路孔
62 支持基板
62a 通路孔
63 コイルスプリング
64 ジョイント
65 支持棒
66 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド基板と、その周囲に沿ってパッド基板に固定したシール部材と、上記基内に設け、真空源に接続するための真空引き孔とを備え、これらパッド基板とシール部材とで囲まれるパッド内を真空に維持して被吸着面に吸着させる真空吸着パッドにおいて、上記シール部材は、高分子ゲルで形成されるとともに、被吸着面側先端に向かって先細りとし、断面形状において、上記先端の角度が鋭角であり、かつ、この先端を、パッド基板に固定したシール部材固定部の幅方向中心よりも外側に位置させた真空吸着パッド。
【請求項2】
上記パッド基板の裏面には、所定の厚みを有するクッション部材を設け、このクッション部材には、上記真空引き孔に連通する真空引き通路を貫通させた請求項1に記載の真空吸着パッド。
【請求項3】
上記クッション部材の外形の変形量を規制する変形規制手段を設けた請求項1または2に記載の真空吸着パッド。
【請求項4】
上記クッション材層内に形成した真空引き通路には、この真空引き通路内が真空になったときに、一定以上の通路断面積を維持するための通路保持手段を設けた請求項1〜3のいずれか1に記載の真空吸着パッド。
【請求項5】
上記パッド内には、上記シール部材を被吸着面に接触させたときに開弁し、パッド内と真空源とを連通させる開閉弁機構を設けた請求項1〜4のいずれか1に記載の真空吸着パッド。
【請求項6】
上記開閉弁機構は、通常は閉弁状態を維持し、上記吸着パッドが被吸着面に接触したときに作用する力によって開弁する第1弁部を備えた請求項5に記載の真空吸着パッド。
【請求項7】
上記開閉弁機構は、上記第1弁部が開弁状態のとき、吸着パッド内と真空源側との差圧を検出し、その差圧が設定値未満のときに開弁する第2弁部を備えた請求項6に記載の真空吸着パッド。
【請求項8】
上記第2弁部には、上記第1弁部が開弁状態であって、第2弁部が閉弁状態のとき、吸着パッド内と真空源側とを連通する絞り孔を備えた請求項7に記載の真空吸着パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−238306(P2008−238306A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80192(P2007−80192)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(304032712)ステラ技研株式会社 (6)
【Fターム(参考)】