説明

真空成膜用マスクユニット及びこれを備えた真空成膜装置

【課題】パターニングの精度を向上させるための真空蒸着用マスクユニット及びこれを備えた真空成膜装置を提供する。
【解決手段】金属フレーム2と、金属フレームに固定され、開口パターンが形成されている金属箔4と、から構成され、金属フレームの内縁側に、金属箔を介して被成膜基板(基板1)を支持する基板受け部3を備え、基板受け部が、前記被成膜基板の中央部に向かって凹形状に傾いているテーパー形状であることを特徴とする、真空成膜用マスクユニットと、前記被成膜基板を前記真空成膜用マスクユニットに備える金属箔上に密着させるための基板押え機構6と、を備えることを特徴とする、真空成膜装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成膜用マスクユニット及びこれを備えた真空成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を構成する有機化合物層や電極を、スパッタリングや蒸着等の真空成膜手法によって特定のパターンで形成する場合、具体的な手法として、成膜部位に対応する開口部を形成したシャドウマスクを用いたパターニング手法が広く一般に採用されている。
【0003】
近年、素子の高精細化の要求を受けて、高精細パターンを精度良く形成できる真空成膜用マスクが必要となっている。
【0004】
特許文献1では、厚さが数十μm〜百μmという薄い金属箔をマスク箔として利用する方法が開示されている。この方法によれば、精細なストライプ状にパターニングされた薄膜の形成を実現することができる。
【0005】
ただし、マスク箔単体では剛性が保てず開口パターン精度が保てないため、このマスク箔の四辺をテンションがかかっている状態で金属フレーム上に固定した上で、その端部を溶接することマスク箔を金属フレーム上に保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−323888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、真空成膜装置においては、薄膜を形成する基板を所定の開口パターンが形成されたマスク上に重ねて位置合わせ(アライメント)を行った後、蒸着源あるいはスパッタリングターゲットに対向した状態で固定してから成膜を行っている。しかし、基板をマスク上に載置する際に、基板自体の重みで、基板を載置する金属箔が基板と共にたわんでしまう。また金属箔を、テンションをかけて金属フレームに貼り付けたとしてもこのたわみは依然解消されない。
【0008】
ここで金属箔はフレーム部で固定されているので、金属箔のたわみはフレーム部に近づくに従い緩和される傾向にある。しかし金属箔上に載置されている基板は金属箔よりも剛性が大きいため、フレーム部に近づくにつれて基板のたわみの方が金属箔のたわみよりも大きくなる。そうすると、基板が金属箔から離れる現象、いわゆる「浮き」が発生する。
【0009】
ここで、フレームの内縁部まで基板が金属箔と密着して上記「浮き」が発生しなければ、蒸着の際に何ら問題は生じないが、フレームの内縁部よりも内側の位置から上記「浮き」が発生すると、金属箔と基板との間に隙間が生じる。そうすると、蒸着の際にマスクのパターン通りに材料を蒸着することができないため、色ボケや混色の原因となっていた。
【0010】
また上記「浮き」を解消するために基板の中央部及び「浮き」が発生する部分をマグネット吸着させたり、基板に押圧させたりしたとしてもマグネット吸着や押圧されていない部分から新たな「浮き」が発生する。このため従来からある基板の固定方法では基板と金属箔との密着性を確保することが困難であった。
【0011】
一方、近年ではパネル高精細化や基板サイズの大型化が進行しているため、基板と金属箔との密着性を確保する課題は、より顕在化すると考えられる。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するためのものであり、その目的は、パターニングの精度を向上させるための真空蒸着用マスクユニット及びこれを備えた真空成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の真空成膜用マスクユニットは、金属フレームと、
前記金属フレームに固定され、開口パターンが形成されている金属箔と、から構成され、
前記金属フレームの内縁側に、前記金属箔を介して被成膜基板を支持する基板受け部を備え、
前記基板受け部が、前記被成膜基板の中央部に向かって凹形状に傾いているテーパー形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の真空成膜用マスクユニット及びこれを用いた成膜装置は、基板(被成膜基板)にかかるたわみに対応するように、金属フレームの内縁側に、基板の中央部に向かって凹形状に傾いているテーパー形状である基板受け部を備えている。こうすることで金属箔を基板のたわみに対応するように変形させることが可能になる。このため、基板の全面において、基板と金属箔との密着が実現できる。
【0015】
よって本発明によれば、パターニングの精度を向上させるための真空蒸着用マスクユニット及びこれを備えた真空成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の真空成膜用マスクユニットを備えた真空成膜装置の実施形態の例を示す断面模式図である。
【図2】比較例で使用した真空成膜用マスクユニットを備えた真空成膜装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の真空成膜用マスクユニットは、金属フレームと、この金属フレームに固定され、開口パターンが形成されている金属箔と、から構成される。また金属フレームの内縁側には、金属箔を介して被成膜基板を支持する基板受け部が設けられており、この基板受け部は、被成膜基板の中央部に向かって凹形状に傾いているテーパー形状を有している。
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の真空成膜用マスク及び真空成膜装置について説明する。
【0019】
図1は、本発明の真空成膜用マスクを備えた真空成膜装置の実施形態の例を示す断面模式図である。尚、本発明の真空成膜装置は、真空チャンバ内において真空蒸着を行う装置であるが、図1においては、説明の都合上真空チャンバは省略している。
【0020】
図1の真空成膜装置10は、成膜手段7としての蒸着源と、真空成膜用マスク11と、基板押え機構6とを備えている。
【0021】
まず本発明の真空成膜用マスクについて説明する。
【0022】
図1の真空成膜装置10の構成部材である真空成膜用マスク11は、金属フレーム2と、基板受け部3と、金属箔4とから構成される部材である。図1に示すように、薄膜が形成される被成膜基板(基板1)は、真空成膜用マスク11を構成する金属箔4上に載置されるが、この基板1の一部、具体的には、基板1の辺部及び角部は、金属箔4を介して、この金属膜4の直下にある基板受け部3に支持されている。
【0023】
基板受け部3は、金属フレーム2の内縁部を切削加工することにより形成される。ここで、基板受け部3が有するテーパーは、基板1と金属箔4との間に生じ得る浮きを軽減できるものであれば、その形状は特に限定されるものではない。尚、テーパーの形状は金属フレーム2の内縁部の切削加工によって決まるが、テーパーの具体的な形状として、切削面が平面となる形状(断面円錐形状)や切削面が曲面となる形状が挙げられる。また基板受け部3が有するテーパーのテーパー角(金属フレーム2の上面とテーパー端部の頂点を結んだ直線とでなす角度)は、0度よりも大きく0.5度以下の範囲が好ましい。0度よりも大きく1.0×10-3度以下の範囲がより好ましい。
【0024】
ところでテーパー形状を有する基板受け部3を設けることにより、金属フレーム2の内縁部において、金属フレーム2と金属箔4との間に遊びに相当する空間が形成される。ここで、基板受け部3が設けられている位置に基板1を載置すると、基板1及び金属箔4が当該「遊びに相当する空間」に入り込む。そうすると、基板受け部3における金属フレーム2と基板1との相対距離が小さくなるため、基板受け部3における浮きはほとんど生じないか、生じたとしてもμm未満単位という小さいものとなる。
【0025】
真空成膜用マスク11を構成する金属箔4は、図1に示されるように、金属フレーム2の外縁部、具体的には、図1に示される溶接部5で溶接を行うことで金属フレーム2上面に固定されている。また金属箔4は、所望のパターンで薄膜を形成することが可能になるように、所定の領域に開口パターンが形成されている。
【0026】
次に、基板押え機構について説明する。基板押え機構は、被成膜基板(基板1)を真空成膜用マスクユニットに備える金属箔上(金属箔4上)に密着させるために設けられている。
【0027】
図1の真空成膜装置の構成部材である基板押え機構6は、定盤等の平滑板(不図示)上に、基板1を押圧するための複数のピン6aを備えている。このピン6aは、少なくとも基板1の中央部、辺部及び角部に対応する位置に、一定の間隔を持って設けられる。ただし基板1と金属箔4との密着性を考慮して、基板の中央部に対応する位置にあるピンを省略してもよい。基板押え機構6は、成膜時には、図1(b)に示すように、ピン6aによって金属フレーム領域において押圧を加える。このとき、基板受け部3が被成膜基板の中央部に向かって凹形状に傾いているテーパー形状を有している。そのため、基板押え機構6で基板1を押圧等すると、基板受け部3が有するテーパー形状に基板1のたわみが吸収されると共に、基板1の全面を金属箔4と密着させることが可能となる。
【0028】
この基板押え機構6に備わっているピン6aは、平滑板に固定されていてもよいが、基板1のたわみにより正確に対応させる目的で、バネ等の弾性部材を用いて上下方向に揺動できる形式であってもよい。
【0029】
また基板押え機構6は、上述したピン6aに限定されるものではない。マグネットを用いて磁性体フレームを吸着する方式も採用することができる。
【0030】
ところで、基板1と金属箔4との間で発生する「浮き」がある状態で基板押え機構6による基板の押圧を行う際に、その「浮き」が小さいものであれば、基板1のたわみが矯正され基板1と金属箔4との密着性を確保することができる。しかし、この「浮き」が数十μmの大きさの場合、押圧をした箇所においては基板1のたわみが矯正されるが、押圧したときに生じる押圧に対する反発力によって押圧をしていない箇所に新たなたわみが生じる。このためこの力(反発力)が生じないために、テーパー形状の基板受け部3を設けて金属フレーム2の内縁部において発生し得る基板と金属箔との「浮き」を小さくする必要がある。
【0031】
次に、成膜手段について説明する。
【0032】
図1の真空成膜装置の構成部材である成膜手段7は、蒸着源やスパッタリングターゲット等を備える装置であり、成膜手段7に備わっている部材・装置については公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例を図面に基づいて説明するが、本発明は、本実施形態に限定されるものではない。
【0034】
図1の真空成膜装置10で蒸着膜を形成する場合は、まず、アラインメント処理を行った基板1(奥行360mm、幅460mm、厚さ0.5mmのガラス基板)を、図1(a)に示すように、金属箔4上に載置する。このとき、基板1は自重によるたわみのために、金属箔4上で緩やかな弧を描いた形状となる。このため基板1を支持する基板受け部3上において、基板1と金属箔4との間には隙間(浮き)が生じている。尚、この「浮き」は、基板1の角部において一番大きくなっている。
【0035】
一方、金属フレーム2の内縁に設けられている基板受け部3は、テーパー角が基板1の中心方向に4.4×10-5度傾いた断面円錐形状となるように、金属フレーム2の内縁を切削加工して設けられている。
【0036】
次に、図1(b)に示すように、基板押え機構6により基板1を押圧し、基板1を金属箔4上に固定する。ここで基板1を押圧すると、基板1と金属箔4とが基板受け部3に押し込まれそれぞれ変形する。そうすると、基板1の自重による穏やかな弧を描いたたわみを生かしつつ基板1のたわみが基板受け部3に吸収される。このため、基板の全面が金属箔4に密着させることが可能になる。
【0037】
このようにして基板を固定した後で真空蒸着を行ったところ、基板上に成膜された蒸着膜パターンには、パターン形状の不良や、パターニング精度の悪化は見られなかった。
【0038】
[比較例]
金属フレーム2に基板受け部を設けていない真空成膜用マスクを用いて実施例と同様に真空成膜を行った。尚、この比較例で使用した真空成膜装置20は、図1の真空成膜装置10と同様の構成であるが、説明の都合上、その一部を省略する場合がある。
【0039】
本比較例において、図2(a)に示されるように金属箔4上に基板1を載置すると、基板1は自重によるたわみのために、金属箔4上で緩やかな弧を描いた形状となる。このとき、基板の辺部(図2(a)のA−A断面)では、基板1は、自重でたわんでいるものの金属フレーム2の内縁に至るまで金属箔4と密着している(図2(b))。一方、基板の角部(図2(a)のB−B断面)では、金属フレーム2の内縁よりも内側、具体的には、図2(c)中のCの部分において基板1が金属箔4から離れて「浮き」が生じている。尚、本比較例においてこの「浮き」は40μm〜50μmである。
【0040】
ここで、基板1を押圧しないで(図2(b)、(c)の状態で)真空成膜を行うと、特に、「浮き」が生じている部分において成膜パターン形状、精度が不良であることが観察された。
【0041】
ここで、上記「浮き」を解消するために基板1の角部を基板押え機構6により金属フレーム2に押圧した。そうすると、基板1は、押圧した部分において金属フレーム2と密着したものの、基板1を押圧していない箇所、具体的には図2(d)中Dの部分において、基板1の剛性に起因する新たな浮き上がり(50μm〜60μm)が発生した。この状態で真空成膜を行うと、特に、図2(d)中のDの部分において、成膜パターン形状、精度が不良であることが観察された。この結果、基板に押圧を加えるだけでは、金属箔と基板との密着性を向上させることは困難であることが判った。
【符号の説明】
【0042】
1:基板、2:金属フレーム、3:基板受け部、4:金属箔、5:溶接部、6:基板押え機構、7:蒸着源、10(20):真空成膜装置、11:真空成膜用マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属フレームと、
前記金属フレームに固定され、開口パターンが形成されている金属箔と、から構成され、
前記金属フレームの内縁側に、前記金属箔を介して被成膜基板を支持する基板受け部を備え、
前記基板受け部が、前記被成膜基板の中央部に向かって凹形状に傾いているテーパー形状であることを特徴とする、真空成膜用マスクユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の真空成膜用マスクユニットと、
被成膜基板を前記真空成膜用マスクユニットに備える金属箔上に密着させるための基板押え機構と、を備えることを特徴とする、真空成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate