説明

真空断熱二重容器の製造方法

【課題】本発明は、極めて商品価値の高い真空断熱二重容器の製造方法を提供する。
【解決手段】金属製の外筒1内に空間部Sを介して金属製の内筒2を配設し、前記外筒1と前記内筒2との間の空間部Sを真空断熱空間部とする真空断熱二重容器の製造方法であって、前記外筒1及び前記内筒2から成る被処理体3を真空加熱炉6で加熱しながら該被処理体3の前記空間部Sを脱気し且つ脱気孔を真空封止し、その後、前記真空加熱炉6内に窒素ガスTを導入して前記被処理体3の表面に窒化部10を形成し、続いて、前記窒化部10を加熱処理して変色せしめる真空断熱二重容器の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱二重容器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビール等の飲料を注ぐ容器として、これまで、ガラス製、陶製等の種々の素材のものが提案されており、本出願人は特開2003−129291号に開示される金属製(チタン製)の真空断熱二重容器を提案している。
【0003】
【特許文献1】特開2003−129291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人は、この金属製の真空断熱二重容器について更なる研究開発を進めた結果、極めて商品価値の高い真空断熱二重容器を提供し得る画期的な製造方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0006】
金属製の外筒1内に空間部Sを介して金属製の内筒2を配設し、前記外筒1と前記内筒2との間の空間部Sを真空断熱空間部とする真空断熱二重容器の製造方法であって、前記外筒1及び前記内筒2から成る被処理体3を真空加熱炉6で加熱しながら該被処理体3の前記空間部Sを脱気し且つ脱気孔を真空封止し、その後、前記真空加熱炉6内に窒素ガスTを導入して前記被処理体3の表面に窒化部10を形成し、続いて、前記窒化部10を加熱処理して変色せしめることを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法に係るものである。
【0007】
また、金属製の外筒1内に空間部Sを介して金属製の内筒2を配設し、前記外筒1と前記内筒2との間の空間部Sを真空断熱空間部とする真空断熱二重容器の製造方法であって、前記外筒1及び前記内筒2から成る被処理体3を真空加熱炉6で加熱しながら該被処理体3の前記空間部Sを脱気し且つ脱気孔を真空封止し、その後、前記被処理体3を冷却し、続いて、前記被処理体3を前記真空加熱炉6で加熱し、その後、前記真空加熱炉6内に窒素ガスTを導入して前記被処理体3の表面に窒化部10を形成し、続いて、前記窒化部10を加熱処理して変色せしめることを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法に係るものである。
【0008】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記被処理体3を前記真空加熱炉6で加熱して前記窒化部10を加熱処理することを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法に係るものである。
【0009】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記外筒1はチタン製であることを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法に係るものである。
【0010】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記真空加熱炉6内の温度が約700℃以下になった時点で該真空加熱炉6内に窒素ガスTを導入することを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法に係るものである。
【0011】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記被処理体3の開口部3aを閉塞した状態で前記真空加熱炉6内へ窒素ガスTを導入することを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法に係るものである。
【0012】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記窒素ガスTの導入による昇圧により前記外筒1及び前記内筒2の表面に凹凸部4,5を設けることを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により得られる真空断熱二重容器は、金属表面に形成された窒化部を加熱処理して変色せしめることで得られる従来にない独特な質感を呈する極めて高品位な真空断熱二重容器となり、しかも、この真空断熱二重容器の表面に設けられる独特な質感が、該真空断熱二重容器を製造する際の真空加熱炉内の冷却に用いられる窒素ガスによる窒化を利用したものであるから、確実に実現できるものであり、前述した高品位な真空断熱二重容器を確実且つ効率良く製造することができるなど従来にない作用効果を発揮する画期的な真空断熱二重容器の製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例により製造された真空断熱二重容器である。
【図2】本実施例により製造された真空断熱二重容器の平断面図である。
【図3】本実施例に係る真空断熱二重容器の製造工程説明図である。
【図4】被処理体3の説明断面図である。
【図5】被処理体3の説明断面図である。
【図6】本実施例に係る真空断熱二重容器の製造工程説明図である。
【図7】本実施例に係る真空断熱二重容器の製造工程説明図である。
【図8】本実施例に係る真空断熱二重容器の製造工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0016】
本発明は、外筒1及び内筒2から成る被処理体3を真空加熱炉6で加熱しながら該被処理体3の空間部Sを脱気し且つ脱気孔を真空封止し、その後、真空加熱炉6内に窒素ガスTを導入して被処理体3の表面に窒化部10を形成し、続いて、この窒化部10を加熱処理すると、この被処理体3の表面は、白色に近いつや消し調に変色して独特な質感を呈する。
【0017】
従って、簡易な方法により、表面が白色に近いつや消し調の独特な質感を呈する今までに無い全く新しいデザインの容器を製造することができる。
【実施例】
【0018】
本発明の具体的な一実施例について図面に基づいて説明する。
【0019】
本実施例は、外筒1内に空間部Sを介して内筒2を配設し、外筒1と内筒2との間の空間部Sを真空断熱空間部とする真空断熱二重容器の製造方法である。尚、本実施例では、真空断熱二重容器を、ワインやウイスキーなどのアルコール飲料を飲む際に使用するタンブラーとして構成しているが、これに限るものではない。
【0020】
また、本実施例に係る外筒1及び内筒2は、図1,2に図示したように金属製(チタン製)の有底筒状体であり、内筒2は外筒1に比して径小で高さが低く設定され、また、夫々の開口部1a,2aは略同一径に設定されている。尚、外筒1及び内筒2を構成する素材はステンレスなどその他の金属でも良い。
【0021】
従って、外筒1内に内筒2を配して開口部1a,2a同士を接合した際、外筒1と内筒2との間には空間部Sが形成される。
【0022】
尚、本明細書におけるチタンとは、純チタン及びチタン合金を示す。また、外筒1及び内筒2夫々の素材(成分)や板厚や大きさ(形状)は、後述する真空断熱二重容器として製造した際に、該真空断熱二重容器の機能(特に断熱機能)を低下させない程度に凹凸部4,5が形成されることを考慮して適宜選択される。
【0023】
また、外筒1の底部中央には凹部1bが設けられ、この凹部1bの中央位置には真空封止する際の脱気孔1b’が設けられている。
【0024】
また、外筒1及び内筒2には、図1,2に図示したように後述する製造過程においてその表面に凹凸部4,5が無数に設けられている。
【0025】
従って、この外筒1と内筒2とから成る真空断熱二重容器の表面に設けられる凹凸部4,5により、チタン製(金属製)でありながら、あたかも陶器のようなデコボコ感のあるデザインを呈することになる。
【0026】
以上の外筒1及び内筒2を用いた真空断熱二重容器の製造方法について説明する。
【0027】
先ず、外筒1内に内筒2を配して互いに開口部1a,2a同士を溶接(アルゴン溶接)により接合し、被処理体3を設ける。この被処理体3を構成する外筒1の内面と内筒2の外面との間には空間部Sが形成される。この空間部Sは後に真空処理されることで真空断熱空間部となる。
【0028】
続いて、外筒1と内筒2との空間部Sを脱気し且つ脱気孔1b’を真空封止する。
【0029】
具体的には、図3,4に図示したように被処理体3を真空過熱炉6内に配する。この際、被処理体3は開口部3aが閉塞されるように平坦な載置面6aに逆さ状態に配され、この状態で外筒1の底部に設けた脱気孔1b’の周囲にロウ材7(チタンロウ)を配するとともに、このロウ材7の上に封止板8を載せる。
【0030】
この状態で真空加熱炉6内の温度を約800℃以上とするとともに、徐々に脱気して真空状態(10-3〜10-4Torr)とし、更に、温度を約1050℃まで上げる。
【0031】
この際、ロウ材7が熔融して外筒1と封止板8が一体化して脱気孔1b’が閉塞され、外筒1と内筒2との間の空間部Sが真空状態のまま封止されて真空断熱空間部が形成される(図5参照)。
【0032】
加熱を停止して自然冷却により真空加熱炉6内の温度が700℃よりも低い温度(約630℃〜670℃)に下がった時点で真空加熱炉6内に窒素ガスTを導入して常圧に戻し(この時点で凹凸部4,5が形成される)、一気に常温まで温度を下げて被処理体3を冷却して真空封止作業は完了する。
【0033】
具体的には、真空加熱炉6内の温度を約800℃以上(チタンの再結晶温度以上、且つチタンの変態点880℃(α組織からβ組織の変わる温度)を超える約1,050℃)とするとともに、真空状態(10-3〜10-4Torr)とし、この状態を15分〜20分保持する。この際、被処理体3の外筒1及び内筒2は再結晶し(α組織となり)、延性が増加する(再結晶しない部分は結晶粒が粗大化した状態となっている。)。その後、加熱を停止し、自然冷却により真空加熱炉6内の温度が約700℃以下になった時点で、真空加熱炉6内に窒素ガスTを導入して一気に常圧常温まで戻して被処理体3を急速冷却する。この加熱冷却常圧処理において、外筒1及び内筒2には凹凸部4,5が生じる。
【0034】
大気圧状況下に戻す(窒素ガスを導入する)時点を700℃よりも低い温度で行なうのは、約700℃以上の高温下においては素材が柔らか過ぎてしまい、この状態で大気圧環境下(常圧下)に戻すと外筒1及び内筒2に大きく凹む部分が生じて外筒1と内筒2とが当接してしまう部位ができてしまい、これを防止するためである。ただ、あまりにも低い温度で常圧下に戻しても凹凸は形成されにくく且つ時間がかかり過ぎてしまい、生産性が悪くなる。
【0035】
この大気圧環境下の真空加熱炉6内におかれた外筒1及び内筒2は、その表面にはくっきりとした大きな凹凸部4,5が無数に形成され(図5参照)、窒素ガスTの導入により常温に戻ってこの凹凸部4,5は固定される。
【0036】
また、図示していないが、この真空封止作業の際には、予め各被処理体3にはカバー体が被嵌されており、窒素ガスTを用いた急速冷却の際には、各被処理体3が窒素ガスTに触れないようにしている。この真空封止作業の際に被処理体3にカバー体を被嵌するのは、ロウ材7としてチタンロウを採用した場合、高温化で窒素ガスTに触れるとロウ材としての性能が急激に低下してしまうからであり、ロウ材7が窒素ガスTに触れないようにする為である。尚、被処理体3に窒化部10を形成しないように冷却する場合にはアルゴンガスを用いても良い。
【0037】
続いて、真空封止作業が済んだ被処理体3の表面に窒化部10(窒化層・窒化皮膜)を形成する。
【0038】
具体的には、真空加熱炉6内で、被処理体3をカバー体で被嵌されない状態とし、この状態で前述と同様に加熱するとともに窒素ガスTを用いて急速冷却すると、被処理体3の表面には、窒素ガスTに触れることで窒化部10が形成される(図6参照)。この窒化部10は黒色でつや消し状態である。尚、被処理体3の内面(内筒2の内面)は、窒素ガスTに触れない為に窒化せず、素材(チタン)が持つ色に輝く質感を呈する(図1参照)。
【0039】
続いて、被処理体3の窒化部10を加熱処理して完成する。
【0040】
具体的には、被処理体3を真空過熱炉6内に配した状態とする。この際、被処理体3は開口部3aが閉塞されるように平坦な載置面6aに逆さ状態に配され、更に、被処理体3にはカバー体11が被嵌されている。
【0041】
この状態で真空加熱炉6内の温度を約1050℃まで上げると、窒化部10は加熱されて白色(灰色)になる(図7参照)。
【0042】
加熱を停止して自然冷却により真空加熱炉6内の温度が700℃よりも低い温度(約630℃〜670℃)に下がった時点で真空加熱炉6内に窒素ガスTを導入して常圧に戻し(この時点で凹凸部4,5が形成される)、一気に常温まで温度を下げて被処理体3を冷却して窒化部10の加熱処理は完了する(図8参照)。この際、被処理体3にはカバー体11が被嵌されているため、再び黒色の窒化部10が形成されることが防止される。
【0043】
この窒化部10を加熱処理した後の被処理体3の表面は、白色に近いつや消し調(灰色)に変色して独特な質感を呈する。
【0044】
本実施例は上述のように構成したから、金属表面に形成された窒化部10を加熱処理して変色せしめることで得られる従来にない独特な質感を呈する極めて高品位な真空断熱二重容器が得られることになり、しかも、この真空断熱二重容器の表面に設けられる独特な質感が、該真空断熱二重容器を製造する際の真空加熱炉内を冷却する際の窒素ガスによる窒化を利用したものであるから、確実に実現できるものであり、前述した高品位な真空断熱二重容器を確実且つ効率良く製造することができる。
【0045】
また、本実施例は、チタン製でありながら、その表面に設けられる凹凸部4,5から成る凹凸感からあたかも陶器のようなデザインを呈する極めて高品位な(芸術性の高い)高品位で且つ同じものが二つとないという付加価値を有する真空断熱二重容器が得られることになり、しかも、この真空断熱二重容器の表面に設けられる凹凸部がチタンの再結晶を利用したものであるから、確実に実現できるものであり、前述した高品位で且つ同じものが二つとない真空断熱二重容器を確実且つ効率良く製造することができることになる。
【0046】
また、本実施例は、被処理体3の外筒1及び内筒2を加熱することで結晶粒の大きな独特な風合いのデザイン(チタン結晶模様)が得られ、しかも、このチタン結晶模様の大きさや形状や配置等がランダムとなり、よって、前述した凹凸部4,5だけでなく様々な模様のものを意図せずとも製造することができる。実際の製造工程において再結晶しない部分も生じることになり、これがかえってオリジナルな模様として現れることになり、しかも、本実施例は加熱して常温に戻す工程を複数回繰り返し行なうから、その都度異なった部位に凹凸が形成されることになり、このことによってもオリジナルな模様が形成されることになる。
【0047】
また、本実施例は、外筒1だけでなく内筒2もチタン製としたから、オールチタン製とすることでより一層高級感を増すことができる。
【0048】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0049】
S 空間部
T 窒素ガス
1 外筒
2 内筒
3 被処理体
3a開口部
4 凹凸部
5 凹凸部
6 真空加熱炉
10 窒化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の外筒内に空間部を介して金属製の内筒を配設し、前記外筒と前記内筒との間の空間部を真空断熱空間部とする真空断熱二重容器の製造方法であって、前記外筒及び前記内筒から成る被処理体を真空加熱炉で加熱しながら該被処理体の前記空間部を脱気し且つ脱気孔を真空封止し、その後、前記真空加熱炉内に窒素ガスを導入して前記被処理体の表面に窒化部を形成し、続いて、前記窒化部を加熱処理して変色せしめることを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法。
【請求項2】
金属製の外筒内に空間部を介して金属製の内筒を配設し、前記外筒と前記内筒との間の空間部を真空断熱空間部とする真空断熱二重容器の製造方法であって、前記外筒及び前記内筒から成る被処理体を真空加熱炉で加熱しながら該被処理体の前記空間部を脱気し且つ脱気孔を真空封止し、その後、前記被処理体を冷却し、続いて、前記被処理体を前記真空加熱炉で加熱し、その後、前記真空加熱炉内に窒素ガスを導入して前記被処理体の表面に窒化部を形成し、続いて、前記窒化部を加熱処理して変色せしめることを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記被処理体を前記真空加熱炉で加熱して前記窒化部を加熱処理することを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記外筒はチタン製であることを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記真空加熱炉内の温度が約700℃以下になった時点で該真空加熱炉内に窒素ガスを導入することを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記被処理体の開口部を閉塞した状態で前記真空加熱炉内へ窒素ガスを導入することを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の真空断熱二重容器の製造方法において、前記窒素ガスの導入による昇圧により前記外筒及び前記内筒の表面に凹凸部を設けることを特徴とする真空断熱二重容器の製造方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−97311(P2012−97311A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244847(P2010−244847)
【出願日】平成22年10月30日(2010.10.30)
【出願人】(592084174)株式会社セブン・セブン (13)
【Fターム(参考)】