説明

真空炉

【課題】従来の真空炉における処理時間の圧縮、精度の高い品質管理、省エネルギー化を主題に置きトータル的な制御の最適化、生産性の改善をめざす。
【解決手段】炉内に被加熱物を一部開放して囲うようにした仕切り板3と、炉内壁と仕切り板3の間に位置するヒータ4を設けるとともに、前記ヒータ4で加熱されたガスを循環及び拡散させて被加熱物を昇温させるようにしたファン7を設け、炉内において、ヒータ4で加熱されたガスを、仕切り板の内側、外側に循環及び拡散させることにより、被加熱物の温度分布が均一化し、温度上昇時間が著しく短縮され温度上昇における省エネルギー化を実現できるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱風循環により昇温時間の短縮、真空加熱の高効率化、冷却水を利用し急速冷却を可能にし、生産の高効率化、高品質管理、省エネルギー化に寄与した真空炉に関する。
【背景技術】
【0002】
真空炉における温度上昇は熱源から被加熱物の間に伝熱を司る媒体が存在せず、主に輻射熱が温度を上げる基本となっており昇温時間が非常に長くかかるのが従来の真空炉の特徴である。
【0003】
この事を改善するために特許文献1、2、3、4には炉内ガス、ファン、熱源を利用する事により昇温時間を短縮する提案がなされている。真空加熱においては様々な熱源からの輻射熱を利用する事で処理されている。冷却時間の短縮については特許文献2、4には冷却用にガスを導入し炉内温度を下げる提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−218978号公報
【特許文献2】特開2001−263957号公報
【特許文献3】特開平7−208876号公報
【特許文献4】実開平7−26696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1、2、3、4は被加熱物の加熱に対しては有効な提案である。しかしながら、特許文献1、2、3、4の真空炉の真空加熱は熱源からの輻射熱の直接利用の粋を超えていない。冷却に関しては特許文献2、4の提案をもってしても大幅な改善には到らない。
【0006】
そこで、本発明は高効率化、省エネルギー化を主題に置き上述の各工程に対して構造の最適化、新方式を導入し真空炉をトータル的に制御し工程管理、生産性の向上を劇的に改善した真空炉を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、炉内に被加熱物を一部開放して囲うようにした仕切り板と、炉内壁と仕切り板の間に位置するヒータを設けるとともに、前記ヒータで加熱されたガスを循環及び拡散させて被加熱物を昇温させるようにしたファンを設けたことを特徴とする真空炉としている。
【0008】
請求項2に係る発明は、冷却構造を炉外部に備えたものとしている。
【0009】
請求項3に係る発明は、ヒータで加熱されるガスを置換するためのポートを備えたものとしている。
【0010】
請求項4に係る発明は、昇温中に使用する制御センサーと真空加熱工程時に使用する制御センサーを独立させ工程の切替わり時にスムースに温度調節器による制御を可能にする電気回路を備えたものとしている。
【0011】
請求項5に係る発明は、ヒータを上下左右の4ゾーンにそれぞれ独立制御可能に設けたものとしている。
【0012】
請求項6に係る発明は、仕切り板に輻射効率を上げるコーティングを施したものとしている。
【0013】
請求項7に係る発明は、真空加熱工程完了後、任意のガスを炉内に充填し炉外に取付けた冷却パイプに冷却水を流しながら同時にファンにてガスを循環させることにより急速に被加熱物の温度を下げるようにしたものとしている。
【0014】
請求項8に係る発明は、ファンのモーターの回転をマグネットカップリングの使用により非接触駆動するようにしたものとしている。
【発明の効果】
【0015】
この発明の真空炉は、上述のような構成を有しており、炉内において、ヒータで加熱されたガスを、仕切り板の内側、外側に循環及び拡散させるようにしているので、被加熱物の温度分布が均一化し、温度上昇時間が著しく短縮され温度上昇における省エネルギー化を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】真空炉内部のシーズヒータ、仕切り板、ファンユニット、冷却パイプ、給排気ポートと循環風の流れが判る横からの断面図である。
【図2】真空炉内部のシーズヒータ、仕切り板、ファンユニット、冷却パイプの構成が判る正面からの断面図である。
【図3】ファン駆動方式を説明するファンユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳述する。なお、各図面において、同じ符号を付した部材に対しての重複説明は適宜省略するものとする。また、各図面においては説明に不要な部材等は適宜、図示を省略している。
【0018】
図1〜図3のうち、図1、図2は真空炉内部のシーズヒータ、仕切り板、ファンユニット、冷却パイプ、給排気ポートと循環風の流れが判る断面図である。
【0019】
この真空炉は、炉内壁から適正な距離に被加熱物を一部開放して囲うように上下左右に仕切り板3を設け、軸流ファン7を回転させ炉内壁と仕切り板3の間に適正に配列されたシーズヒータ4を熱源に加熱されたガスを循環及び拡散させ被加熱物の温度を急速、均一に昇温する。昇温工程終了後の真空加熱工程では適正に配置された炉内シーズヒータ4からの輻射熱により上下左右に存在する仕切り板を通して被加熱物を加熱する。
【0020】
冷却工程においては、シーズヒータ4を切り、真空炉に設けたポートから任意のガスを炉内に供給し、軸流ファン7を回転させ循環及び拡散させる。その時に炉外壁面に接するように取付けた冷却パイプ14に冷却水を循環させ、真空炉本体の温度を急速に下げる。この事により炉内壁面温度が下がり循環ガスとの間で熱交換を促進し循環ガスの温度を下げ、循環ガスと被加熱物の間で熱交換を促進する事により急速に被加熱物の温度を下げる。
【0021】
図1に示すように、本発明に係る真空炉は真空チャンバー1に仕切り板3と、シーズヒータ4と、軸流ファン7と、ファンモーター8と、外部マグネットカップリング9Aと、内部マグネットカップリング9Bと、真空排気ポート12と、ガス給気ポート13と、冷却パイプ14とを備え、扉11を含め断熱材2で保温効果を高めた構成となっている。
【0022】
仕切り板3は、上下左右の各部分と、中央部分を除く後の部分とで構成されており、前側(扉11側)には設けられていない。軸流ファン7は、後方の前記仕切り板3の中央の開放部分に配置され、仕切り板3の内側の後方から前方へ至り、そして仕切り板3と炉内壁との空間の前方から後方へ至るガス流を形成する。仕切り板3と軸流ファン7の構成に関し、前後と左右の関係は入れ替わってもよい。
【0023】
ガス給気ポート13は、被加熱物の処理条件により不活性ガス、大気を任意に導入できるようになっており、被加熱物の特性により昇温時における循環ガスを任意に導入し、あらゆる被加熱物の急速昇温を実現させる事ができる。
【0024】
まず、昇温工程では、被加熱物の特性により大気下での加熱処理が可能な場合は被加熱物を図1の真空チャンバー1にセット後、扉11を閉めて加熱処理を進行する。
【0025】
また、非加熱物の特性上不活性ガス下の処理が必要な場合は、扉2を閉めた後はじめに真空排気ポート12を開ける事で炉内の大気を炉外に排気する。排気完了後、真空排気ポート12を閉じガス給気ポート13を開ける事で炉内の循環ガスを被加熱物加熱処理に見合ったガスに急速置換させる。
【0026】
急速置換完了後、ガス給気ポート13を閉じシーズヒータ4の電力を供給する制御を開始し、軸流ファン7をファンモーター8によりマグネットカップリング9A及び9Bを介して回転させる。この構造は図3ファン駆動方式を説明するファンユニットの断面図にて後述する。
【0027】
軸流ファン7が回転する事により循環風流れ方向10が発生する。この時、被加熱物を囲む様に取付けられた仕切り板3と真空チャンバー1との間をガスが通過するときに、シーズヒータ4によりガスが加熱される。ガス循環制御用センサー21にて任意の設定温度に到達するまで熱風循環を継続する。断熱材2の効果で省エネルギー、到達時間の短縮を可能にしている。
【0028】
任意の設定温度に到達後、軸流ファンの回転を減速し真空排気ポート12を開けて温度上昇に使用したガスを炉外に排気する。この時ガス循環制御用センサー21から新しく採用した電気回路により真空加熱制御用センサー22A、22B、22C、22Dにスムースに移行し真空加熱制御を行う。
【0029】
被加熱物の特性に合わせ、真空加熱制御用センサー22A、22B、22C、22Dを独立制御する事によりシーズヒータ4の電力を供給する制御を行い真空加熱下での被加熱物の温度を均一化する事を可能にしている。
【0030】
真空加熱下におけるシーズヒータ4から供給される熱エネルギーは仕切り板3にコーティングされた高効率輻射塗料により赤外線領域で全波長域に放射率を高め、被加熱物に直接吸収させて効率のよい加熱を行い真空加熱における省エネルギー化を実現させている。さらに、ヒータに吸熱コーティング加工を追加することにより、吸熱、放射の効率を改善することができる。
【0031】
安定した真空加熱終了後、ガス給気ポート13を開け被加熱物に見合ったガスを炉内に充填し減速していた軸流ファン7の回転を元に戻し、循環風流れ方向10を発生させる。
【0032】
この時、真空加熱制御センサー22A、22B、22C、22D制御からガス循環制御用センサー21に切替えシーズヒータ4の電力を供給する制御を終了する。
【0033】
なお、昇温工程及び真空加熱工程でより高精度に温度制御を実現するため、熱電対を少なくとも2個以上独立させ、各工程の移り変わり時にスムースに温度調節機による制御を可能にするための電気回路を備えたものとすることができる。例えば、真空加熱工程用に4個の熱電対を上下左右に配置し、それぞれが独立温度制御を行い被加熱物の加熱を高精度に均一化できるようにするとよい。これにより、被加熱物に対しての各工程における安定した制御が可能となり、安定した品質管理を実現させることができる。
【0034】
また、ヒータ4を上下左右の4ゾーンにそれぞれ独立制御可能に設けることにより、四方から真空炉の形状特性、被加熱物の吸熱特性に応じた温度管理が可能であり、数種類の吸熱特性の被加熱物の同時真空加熱処理も実現させることができる。
【0035】
続く冷却工程では、炉外壁に接するように取付けた冷却パイプ14に冷却水入口5から冷却水を注水し冷却水出口6から排水する。この時、高温になった真空チャンバー1の熱エネルギーを熱交換する事により急速な温度降下を促進させる。
【0036】
軸流ファン7により発生した循環風流れ方向10は仕切り板3と真空チャンバー1との間を通過する際、急速に温度降下した真空チャンバーとの間で熱交換が進み冷却される。
【0037】
冷却された循環風流れ方向10は被加熱物との間で熱交換を行い、被加熱物の温度降下を急速に促進させ冷却時間の劇的な短縮を可能にしている。
【0038】
このように、真空加熱工程完了後、任意のガスを炉内に充填し炉外に取付けた冷却パイプに冷却水を流しながら同時にファンにてガスを循環させることにより急速に被加熱物の温度を下げるようにすれば、冷却用ガスをワンパスさせる事による冷却方式に使用されるガス量と比べて劇的に使用量を減量させ省エネルギー化を実現させる事ができる。また、冷却水により真空炉自体の急速冷却を可能にするので、冷却時間の大幅な短縮により生産性の劇的向上を実現させる事ができる。
【0039】
図3によるファン駆動方式を説明するファンユニットの断面図より軸流ファン7の駆動原理を説明する。
【0040】
真空チャンバー1の背面に穴を空けそこにファン軸32を貫通させる。このファン軸32は軸受ベアリング31により真空チャンバー1に取付けられた軸受ユニット34に保持される。
【0041】
軸受ユニットに保持されたファン軸32の右側に内部マグネットカップリング9Bを取付け、反対側には軸流ファン7を取付ける。
【0042】
ファン軸33の先端に外部マグネットカップリング9Aを取付けたファンモーター8をモーターベース35に取付ける。モーターベースは4本のモーターベース固定支柱により真空チャンバー1に固定する。
【0043】
外部マグネットカップリング9Aと内部マグネットカップリング9Bは磁気の力を利用し、非接触でのトルク伝達を可能にしており、磨耗による発塵は無くクリーン環境、真空環境に非常に適している。
【0044】
ファンモーター8の電力を供給する制御を開始しモーター軸33及び外部マグネットカップリング9Aを回転させると内部マグネットカップリング9Bも同調しながら回転する。
【0045】
内部マグネットカップリング9Bが回転する事により、連結しているファン軸33が軸受ベアリング31に保持されながらスムースに回転し始める。この事により軸流ファン7が回転し循環風流れ方向10が発生する。
【0046】
以上がこの発明の好適な実施形態であるが、この発明は上述の実施形態の構成に限定されるものではなく、形状、寸法、材質等を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 真空チャンバー
2 断熱材
3 仕切り板
4 シーズヒータ
5 冷却水入口
6 冷却水出口
7 軸流ファン
8 ファンモーター
9A 外部マグネットカップリング
9B 内部マグネットカップリング
10 循環風流れ方向
11 扉
12 真空排気ポート
13 ガス給気ポート
14 冷却パイプ
21 ガス循環制御用センサー
22A 真空加熱制御用センサー上
22B 真空加熱制御用センサー右
22C 真空加熱制御用センサー下
22D 真空加熱制御用センサー左
31 軸受ベアリング
32 ファン軸
33 モーター軸
34 軸受ユニット
35 モーターベース
36 モーターベース固定支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に被加熱物を一部開放して囲うようにした仕切り板と、炉内壁と仕切り板の間に位置するヒータを設けるとともに、前記ヒータで加熱されたガスを循環及び拡散させて被加熱物を昇温させるようにしたファンを設けたことを特徴とする真空炉。
【請求項2】
冷却構造を炉外部に備える請求項1記載の真空炉。
【請求項3】
ヒータで加熱されるガスを置換するためのポートを備える請求項1又は2に記載の真空炉。
【請求項4】
昇温中に使用する制御センサーと真空加熱工程時に使用する制御センサーを独立させ工程の切替わり時にスムースに温度調節器による制御を可能にする電気回路を備える請求項1、2又は3に記載の真空炉。
【請求項5】
ヒータを上下左右の4ゾーンにそれぞれ独立制御可能に設けた請求項1、2、3又は4に記載の真空炉。
【請求項6】
仕切り板に輻射効率を上げるコーティングを施した請求項1、2、3、4又は5に記載の真空炉。
【請求項7】
真空加熱工程完了後、任意のガスを炉内に充填し炉外に取付けた冷却パイプに冷却水を流しながら同時にファンにてガスを循環させることにより急速に被加熱物の温度を下げるようにした請求項1、2、3、4、5又は6に記載の真空炉。
【請求項8】
ファンのモーターの回転をマグネットカップリングの使用により非接触駆動するようにした請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載の真空炉。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−208821(P2011−208821A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74216(P2010−74216)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(510086844)株式会社工研社 (1)
【Fターム(参考)】