説明

真空蒸着装置及びこの装置の電子ビーム照射方法

【課題】常に高い蒸着レートにより蒸着を行うことができ、しかも蒸着を行う半導体基板に損傷を与えたり、フォトレジストの硬化を引き起こすことのない、真空蒸着装置及びこの装置の電子ビーム照射方法を提供する。
【解決手段】この真空蒸着装置10は、半導体基板24を保持する基板ホルダーと、電子ビーム17を蒸発材料に照射し蒸発させる電子ビーム発生手段と、前記蒸発材料に前記電子ビーム17が照射されるように、前記電子ビーム17の軌道を制御するビーム軌道制御手段と、前記半導体基板24に蒸着される薄膜の蒸着レートを検知する蒸着レート検知手段と、前記蒸着レートが低下したとき、前記蒸着レートより高い蒸着レートが得られる前記蒸着材料の高蒸着レート位置を算出する高蒸着レート位置算出手段と、前記蒸着材料の前記高蒸着レート位置に前記電子ビーム17が照射されるよう前記電子ビーム17の軌道を修正するビーム軌道修正手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程に用いられる真空蒸着装置に係わり、特に電子ビームにより加熱する電子ビーム加熱式の真空蒸着装置及びこの装置の電子ビーム照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程に用いられる真空蒸着装置の1種に、非常に大きな電力密度を蒸発源に投入することが可能な電子ビーム加熱方式がある(特許文献1参照)。この方式の真空蒸着装置は、例えばGaAs電力FET(電力効果トランジスタ)の電極の形成に広く用いられる。
【0003】
この装置では、金属、例えばアルミニウム(Al)や白金(Pt)である蒸発源に電子ビームを照射し、その金属の蒸発分子流を上方に設けた半導体基板に当てて、電極などの膜形成を行う。
【0004】
蒸発源は通常、蒸発源容器に入れられ、蒸発源への電子ビームの照射は、フィラメントから発する電子ビームを電磁マグネットによって軌道修正することにより、制御される。
【0005】
従来、蒸発源への電子ビームの照射位置は、事前に、この真空蒸着装置のメインテナンスなどの際に、ダミーへの蒸着作業を行い、人の目で電子ビームの照射位置を確認しながら、X−Y軸の電磁マグネットの調整を行っていた。したがって、実際の蒸着を行う際には電子ビームの照射位置は固定であり、蒸着レートを上げるなど高い電子ビームを出力したい場合には、その照射位置の蒸発材料のみが蒸発して、容器も溶解し掘り込まれていき、容器がすり鉢状になってしまい、安定した蒸着を行うことができないという問題があった。
【0006】
この問題を解決する方法として、蒸発材料に照射される電子ビームをX−Y方向に一定の周波数と振幅によりスキャンすることにより、蒸発材料に電子ビームを均一に照射する方法がある。この方法によれば蒸発材料の一部のみに電子ビームを当てることはなくなり、安定した蒸発分子流を生成できる。しかし、この方法では、蒸着レートが極端に低下してしまい、更に高出力の電子ビームが必要とされる。そうなると、電子ビームから発生する熱や、蒸発材料から放射される反跳電子や2次電子の量が増大し、半導体基板に損傷を与えたり、フォトレジストの硬化を引き起こすなどの問題が生ずる。
【0007】
なお、蒸発源を複数の微小平面蒸発源によりモデル化し、基板上に形成される薄膜の膜厚の分布を所定の式により算出する技術は知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平2−61059号公報
【特許文献2】特開2001−140058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような従来の真空蒸着装置の問題点に鑑みてなされたもので、常に高い蒸着レートにより蒸着を行うことができ、しかも蒸着を行う半導体基板に損傷を与えたり、フォトレジストの硬化を引き起こすことのない、真空蒸着装置及びこの装置の電子ビーム照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1によれば、半導体基板を保持する基板ホルダーと、電子ビームを蒸発材料に照射し蒸発させる電子ビーム発生手段と、前記蒸発材料に前記電子ビームが照射されるように、前記電子ビームの軌道を制御するビーム軌道制御手段と、前記半導体基板に蒸着される薄膜の蒸着レートを検知する蒸着レート検知手段と、前記蒸着レートが低下したとき、前記蒸着レートより高い蒸着レートが得られる前記蒸着材料の高蒸着レート位置を算出する高蒸着レート位置算出手段と、前記蒸着材料の前記高蒸着レート位置に前記電子ビームが照射されるよう、前記電子ビームの軌道を修正するビーム軌道修正手段と、
を有することを特徴とする真空蒸着装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、常に高い蒸着レートにより蒸着を行うことができ、しかも蒸着を行う半導体基板に損傷を与えたり、フォトレジストの硬化を引き起こすことのない、真空蒸着装置及びこの装置の電子ビーム照射方法が得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は本発明一実施形態の全体構成を示す図である。この真空蒸着装置10は、蒸発源から蒸着分子流11を発生させ半導体基板(ウェーハ)に蒸着を行う蒸着チャンバー部12と、蒸発源に電子ビームを作るフィラメントに電源を供給する電子ビーム電源部13と、蒸着チャンバー部12内を真空にする高真空ポンプ部14とを有する。
【0012】
蒸着チャンバー部12は高真空ポンプ部14により真空とされ、その内部には、蒸発材料15が載置される蒸発源16と、蒸発材料15に照射する電子ビーム17を発生させるフィラメント18と、このフィラメント18から照射される電子ビーム17の軌道を制御する軌道制御用電磁マグネット19と、蒸発材料15に照射される電子ビーム17を遮断制御する電子ビームシャッター21と、蒸発源16の上方で回転軸22を中心に回転するドーム円盤型基板ホルダー23と、ドーム円盤型基板ホルダー23に保持される半導体基板24に形成される薄膜の厚さを検知する膜厚モニター25と、を有する。
【0013】
軌道制御用電磁マグネット19は、X方向とY方向に電子ビーム17を軌道制御することができるように、電子計算機(パソコン)27に接続されている。この電子計算機27には、後述するように、電子ビーム17のX軸、Y軸の可動範囲と、必要最低蒸着レートRiが入力される。
【0014】
一方、蒸着処理中は、膜厚モニター25により半導体基板24への蒸着レートが検知され、その蒸着レートが電子計算機27に時々刻々入力される。この検知された蒸着レートが上記必要最低蒸着レートRiより低下すると、応答曲面法により蒸発材料15の複数のビーム照射候補位置について蒸着レートを算出し、蒸着レートが最大となる電子ビーム照射位置を求めて、その位置に電子ビーム17が照射されるように電子ビーム17の軌道を修正する。
【0015】
図2に、ドーム円盤型基板ホルダー23を下から見た図を示す。同図に示すように、このドーム円盤型基板ホルダー23は、複数の半導体基板24が同心円の円形状に配設されており、ドーム円盤型基板ホルダー23の中心に設けられている回転軸22を中心に回転する。半導体基板24は、蒸発材料15から発する蒸発分子流11に対して直角になるようにドーム円盤型基板ホルダー23に設置されている。
【0016】
次に、この実施形態の真空蒸着装置10の動作を説明する。まず、ドーム円盤型基板ホルダー23に半導体基板24を設置し高真空ポンプ部14により蒸着チャンバー部12を高真空状態にする。
【0017】
図3に示すように、ステップS301において、軌道制御用電磁マグネット19に接続されている電子計算機27に、蒸発源16に対する電子ビーム17のX軸及びY軸の可動範囲及び、半導体基板24に対して最低必要な蒸着レートRiを、入力することにより設定する。
【0018】
ステップS302において、電子計算機27は、図4に示すように蒸発材料15に対して電子ビーム照射の最適位置を算出するためのビーム最適条件検出位置を、例えば9点、31a,31b,31c,31d,31e,31f,31g,31h,31iを決定する。
【0019】
ステップS303では、電子ビーム電源部13を作動させてフィラメント18に通電し電子ビーム17の軌道を修正して蒸発材料15に照射する。初期値では、例えば蒸発材料15の中心とみられる図4に示すビーム最適条件検出位置31aに電子ビーム17を照射するようにその軌道を制御する。
【0020】
ステップS304では、電子ビーム照射により発生した蒸発分子流11を半導体基板24に当てて、蒸着処理を行う。それと共にステップS305において膜厚モニター25によって半導体基板24への蒸着レートを監視する。これらの制御はすべて、電子計算機27によってなされる。膜厚モニター25のよる蒸着レートの検知は、蒸発源16にあるクリスタルの振動の周波数から蒸着レートを換算することにより行っている。
【0021】
次のステップS306では、膜厚により蒸着が完了したか検知し、まだ蒸着が完了していないときには、ステップS307において、蒸着レートが必要最低蒸着レートRiより小さくなったかを検知する。蒸着レートが必要最低蒸着レートRiより低下していないときには、ステップS304に戻って蒸着処理を継続し、ステップS305で蒸着レートを監視する。
【0022】
一方、蒸着レートが必要最低蒸着レートRiより低下してきたならば、ステップS308において、例えば実験計画法の応答曲面法に基づいて偏回帰分析を行う。この応答曲面法による分析も、電子計算機27により自動的になされる。
【0023】
次のステップS309では、蒸着レートが最大値となる、ビーム照射最適位置が決定される。そして、ステップS303に戻って、その位置の蒸発材料15に電子ビーム17が照射されるように、電子ビーム17の軌道が修正され、ステップS304では再び蒸着処理がなされる。このようにして、常時、高い蒸着レートが得られるように蒸発材料の適切な位置に電子ビームが照射されることになる。
【0024】
具体例として、A社の蒸着装置によりアルミニウム(Al)を蒸着する場合を考える。例えば、必要最低蒸着レートRiを80Å/秒とし、X軸及びY軸の可動範囲を各々±10mmとする。
【0025】
この場合の、9点のビーム最適条件検出位置と、その結果の蒸着レート(Å/秒)は、図5に示すようになる。図5において、X,Yの値が±14.1421となる場合があるのは、蒸発源16の中心からの距離であるためである。
【0026】
図5のX値、Y値に対する蒸着レートから、応答曲面法により関数Z=f(X,Y)としてこの方程式を仮定する。そのときの各蒸着レートに対する偏回帰係数を最小二乗法により求める。定数、X,Y,X,Y,XYの各係数は係数及び標準誤差係数は図6に示すようになる。
【0027】
上記の方程式の結果を、蒸着レートとX,Yの値の等高線によりプロットすると、図7(a)に示すようになる。更に、蒸着レートとX,Yの値の関係を曲面にプロットすると、図7(b)に示すようになる。
【0028】
図7(b)の曲面の最大値の位置を求めると図8に示すようになり、X=−5.56mm、Y=+1.79mmでありこの位置で最大の蒸着レートが得られ、その最大蒸着レートとして82.33Å/秒、が期待できる。
【0029】
この実施形態によれば、蒸着レートが低下した場合に、自動的に蒸着レートが大きい蒸発材料の位置を決定しその位置に電子ビームを照射するように電子ビームの軌道を修正する。したがって、常時、最適なレートの蒸着処理を行うことが可能である。
【0030】
上記実施形態では、9つのビーム最適条件検出位置を用いたが、本発明では、10点以上あるいは8点以下のビーム最適条件検出位置を用いてもよい。
【0031】
上記実施形態では、応答曲面法の偏回帰分析により蒸着レートが最大値となる位置を求めてその位置に電子ビームが照射されるように、電子ビームの軌道を修正した。しかし、本発明では、蒸着レートは最大値にならなくとも必要最低蒸着レートよりも高い蒸着レートが得られる位置の蒸発材料に電子ビームが照射されればよい。
【0032】
上記実施形態では、応答曲面法により、必要最低蒸着レートよりも高い蒸着レートが得られる蒸発材料の位置を求めた。しかし、本発明は応答曲面法を用いなくとも、必要最低蒸着レートよりも高い蒸着レートが得られる蒸発材料の位置が求められればよい。
【0033】
本発明は上記実施形態に限られず、その技術思想の範囲内で種々変形して実施可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明一実施形態の真空蒸着装置の全体構成を示す図。
【図2】この実施形態の真空蒸着装置における、ドーム円盤型基板ホルダー23の構造を示す図。
【図3】この実施形態の真空蒸着装置の動作を説明するための図。
【図4】この実施形態の真空蒸着装置において、ビーム最適条件検出位置を説明するための図。
【図5】ビーム最適条件検出位置と、その時の蒸着レートの関係を示す図。
【図6】図5に示す蒸着レートが得られた時の応答曲面法による関数の算出した各係数を示す図。
【図7】蒸着レートとX,Y値の等高線及び曲面をプロットした図。
【図8】蒸着レートが最大値となるX,Y値を示す図。
【符号の説明】
【0035】
10・・・真空蒸着装置、
12・・・蒸着チャンバー部、
13・・・電子ビーム電源部、
14・・・高真空ポンプ部、
15・・・蒸発材料、
16・・・蒸発源、
17・・・電子ビーム、
18・・・フィラメント、
19・・・軌道制御用電磁マグネット、
21・・・電子ビームシャッター、
22・・・回転軸、
23・・・ドーム円盤型基板ホルダー、
24・・・半導体基板、
25・・・膜厚モニター、
27・・・電子計算機、
31a,31b,31c,31d,31e,31f,31g,31h,31i・・・ビーム最適条件検出位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板を保持する基板ホルダーと、
電子ビームを蒸発材料に照射し蒸発させる電子ビーム発生手段と、
前記蒸発材料に前記電子ビームが照射されるように、前記電子ビームの軌道を制御するビーム軌道制御手段と、
前記半導体基板に蒸着される薄膜の蒸着レートを検知する蒸着レート検知手段と、
前記蒸着レートが低下したとき、前記蒸着レートより高い蒸着レートが得られる前記蒸着材料の高蒸着レート位置を算出する高蒸着レート位置算出手段と、
前記蒸着材料の前記高蒸着レート位置に前記電子ビームが照射されるよう、前記電子ビームの軌道を修正するビーム軌道修正手段と、
を有することを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
半導体基板を保持する基板ホルダーと、
電子ビームを蒸発材料に照射し蒸発させる電子ビーム発生手段と、
前記蒸発材料に前記電子ビームが照射されるように、前記電子ビームの軌道を制御するビーム軌道制御手段と、
前記半導体基板に蒸着される薄膜の蒸着レートを検知する蒸着レート検知手段と、
前記蒸着レートが必要最低蒸着レートより低下したとき、前記蒸発材料の複数のビーム最適条件検出位置に基づいて、応答曲面法により、前記蒸着材料の蒸着レートが前記必要最低蒸着レートより高い蒸着レートが得られる、前記蒸着材料の高蒸着レート位置を算出する高蒸着レート位置算出手段と、
前記蒸着材料の前記高蒸着レート位置に前記電子ビームが照射されるよう、前記電子ビームの軌道を修正するビーム軌道修正手段と、
を有することを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項3】
前記高蒸着レート位置算出手段は、応答曲面法の偏回帰分析により、前記高蒸着レート位置を算出することを特徴とする請求項2記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記ビーム最適条件検出位置は、9点であることを特徴とする請求項3記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記高蒸着レート位置算出手段は、前記蒸発材料の複数のビーム最適条件検出位置に基づいて、応答曲面法により、最も高い蒸着レートが得られる、前記蒸着材料の高蒸着レート位置を算出することを特徴とする請求項4記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
蒸発材料に電子ビームを照射し蒸発させる電子ビーム照射ステップと、
前記蒸発材料に前記電子ビームが照射されるように、前記電子ビームの軌道を制御するビーム軌道制御ステップと、
半導体基板に蒸着される薄膜の蒸着レートを検知する蒸着レート検知ステップと、
前記蒸着レートが必要最低蒸着レートより低下したとき、前記蒸発材料の複数のビーム最適条件検出位置に基づいて、応答曲面法により、前記蒸着材料の蒸着レートが前記必要最低蒸着レートより高い蒸着レートが得られる、前記蒸着材料の高蒸着レート位置を算出する高蒸着レート位置算出ステップと、
前記蒸着材料の前記高蒸着レート位置に前記電子ビームが照射されるよう、前記電子ビームの軌道を修正するビーム軌道修正ステップと、
を有することを特徴とする真空蒸着装置の電子ビーム照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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