説明

真空蒸着装置

【課題】真空蒸着を行なうるつぼにセットした昇華性材料が、蒸着の際に突沸しにくくする。
【解決手段】 真空チャンバー(10)と、真空チャンバー(10)内に設けられ、蒸着材料を収納するるつぼ(11)と、るつぼ(11)に設けた蒸着材料を加熱する均一加熱機構(20)とを備える。均一加熱機構(20)は、るつぼ(11)の周囲に設けたヒーター(21)と、るつぼ(11)の内部に設けたカーボンロッド(23)を備える。蒸着材料(2)は、前記るつぼ(11)とカーボンロッド(23)との間に配置され、ヒータ(21)にて加熱されたるつぼ(11)およびカーボンロッド(23)の双方により、ほぼ均一に加熱されて蒸発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置に関するもので、特に昇華性物質を真空蒸発させる蒸着用るつぼを用いた真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空槽内に設けた金属やセラミックスなどで形成されたるつぼを加熱して原料材料を蒸発させて、この蒸気を基板の表面に蒸着させて形成する真空蒸着方法が一般的である。原材料の加熱手段としてヒーターや電子ビームが用いられている。
【0003】
真空蒸着膜を形成した製品は多く用いられている。例えば、包装用フィルムとして、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム又は酸化珪素などの無機酸化物を透明な樹脂基材フィルム上に蒸着した蒸着フィルムが提案されている。これらの蒸着フィルムは、透明性及び酸素、水蒸気等のガス遮断性を有しており、金属箔などでは得ることが出来ない透明性、ガスバリア性の両方を有する包装材料として好適とされている。
【0004】
しかし、これら蒸着材料は、蒸着材料が飛散して膜への異物混入や樹脂フィルムに損傷を与える場合がある。特に酸化珪素膜を得るための蒸着材料として用いる一酸化珪素(SiO)は、加熱すると昇華が始まり気化する部分と気化しない部分が存在し、樹脂フィルムに貫通穴(ピンホール)を引き起こし、蒸着フィルムの性能低下を引き起こす。
【0005】
また、昇華性有機物のように熱伝導性の悪い材料を蒸着すると、るつぼに触れている原材料部分が集中して過熱され突沸が起こる。突沸が生じると有機物の被膜を形成する原材料粒子が製品の表面に付着し表面平滑性を損なう。
このような昇華性材料の真空蒸着を開示するものとして、例えば特許文献1や特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−234163号公報
【特許文献2】特開2010−037589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは簡単な構成で突沸が生じにくい真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、薄膜を形成する被成膜体が内部に配置される真空チャンバー(10)と、真空チャンバー(10)内に設けられ、蒸着材料を収納するるつぼ(11)と、るつぼ(11)に設けた蒸着材料を加熱する均一加熱機構(20)とを備え、
前記均一加熱機構(20)は前記るつぼ(11)の周囲に設けたヒーター(21)と、るつぼ(11)の内部に設けた受熱加熱源(23)を備え、当該ヒーター(21)は前記るつぼ(11)および受熱加熱源(23)を加熱し、
前記蒸着材料(2)は、前記るつぼ(11)と受熱加熱源(23)との間に配置され、
真空チャンバー(10)内の被成膜体(3)上に薄膜を形成することを特徴とする真空蒸着装置(1)を提供する。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、蒸着材料はるつぼと受熱加熱源の間に配置され、ヒーターによりるつぼおよび受熱加熱源が加熱され、過熱されたるつぼおよび受熱加熱源により蒸発材料が加熱されて蒸発する。これにより蒸着材料はほぼ均一にかねるされ、るつぼと接する蒸着材料のみが蒸発することがなくなり突沸を抑制することができる。
【0010】
さらに、本発明の真空蒸着装置(1)は、前記受熱加熱源(23)がカーボンにより形成され、前記蒸着材料(2)に比べて10倍以上重い重量とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な構成で突沸を抑制した真空蒸着装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明に係る第1の実施の形態である真空蒸着装置の概略断面図である。
【図2】図2は図1のるつぼ部分を拡大して示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態である真空成膜装置について図1〜図2を参照しながら説明する。
【0014】
図1は本発明の第1の実施態様に係る真空蒸着装置を示す概略断面図、図2は図1のるつぼ部分を拡大して示す概略断面図である。
真空成膜装置1は真空チャンバー10と、真空チャンバー10と接続し真空チャンバー10の内部を真空に引く真空ポンプなどの真空排気系13とを備える。また、真空チャンバー10の内部下方には、2個のるつぼ11,12が並んで設けられている。真空チャンバー10の内部上方には、るつぼ11,12と対向するように基板ホルダー14が設けられている。なお、符号21,22はるつぼ11,12の夫々の周囲に螺旋状に巻回して形成したヒーター、符号5は可動可能なシャッターである。
【0015】
真空チャンバー10は、ステンレスなどの金属材料からなり、内部を真空に保つことできるよう開閉可能な密閉容器とされる。
【0016】
るつぼ11および12は、有底円筒形状、すなわちカップ形状とされ、例えばガラス、石英若しくはカーボンで形成される。るつぼの周囲にヒーター21,22を巻回して形成しヒーター21は真空チャンバー10の外部に設けた図示しない温度制御装置に接続される。ヒーターは、タングステンヒーター、赤外線ヒーター、SiCヒーターなどの各種のヒーターを用いることができる。
【0017】
基板ホルダ14は、真空チャンバー10上方に固定されており、下面に被蒸着物である基板3を取付ける。また、基板3とるつぼ11,12の間には、回転式のシャッター5が設けられており、シャッター5を可動することで、基板に蒸着材料が到達するのを遮断可能としている。
【0018】
真空蒸着装置は、蒸着材料2をるつぼ11,12の各々の中に所望の蒸着材料を所定量投入し、るつぼ周囲に設けたヒーター21,22を加熱することで、基板ホルダー14によって下向きに保持した基板3上に蒸着膜を成膜する。
【0019】
このとき、本発明においては、一方のるつぼ11に昇華性物質を加熱するための均一過熱機構20を形成している。均一加熱機構20は、るつぼ周囲に螺旋状に巻き回して形成したヒーター21と、るつぼ11の凹部11a中央に設置したカーボンロッド23とを有する。
【0020】
カーボンロッド23は、カーボン製の円柱形状とされ、るつぼ11の凹部11aの底部11b中心部上に設けた図示しない窪みに取り外し可能に勘合している。これにより、カーボンロッド23をるつぼ11から取り外して清掃することができ、また、所定の位置に常に設置可能とすることができる。カーボンロッド23の外径は、るつぼ11の内径の1/2、すなわち半分程度とされ、凹部11aのカーボンロッド23の周囲が、蒸着材料配設部11cとなる。
【0021】
また、カーボンロッド23は、蒸着材料配設部11cに投入する蒸着材料2の重量に対して、10倍以上の重量となる関係とする。カ−ボンロッド23の重量がるつぼ11に投入する蒸着材料2の重量の10倍以上とすることで、ヒーター21からの熱線のほとんどをカーボンロッド23が吸収することができ、効率的に蒸着材料を加熱することができる。10倍未満の場合には、カーボンロッド23での吸収が不十分で昇華性が大きな材料の場合には突沸が生じる頻度が実用上、歩留まり低下が問題原因となり得る。なお、蒸着材料の投入量、カーボンロッドの外径などを調整することで、この比率を調整することができる。
【0022】
つぎに、本実施の形態の真空蒸着装置1を用いた成膜工程について説明する。
先ず、上記構成の真空蒸着装置において、図1に示すように2個のるつぼ11,12に蒸着する原料となる蒸着物A、Bを別個に投入する。るつぼ11には昇華性材料の蒸着材料2(A)を、るつぼ12には非昇華性材料の蒸着材料2(B)を投入する。また、基板ホルダー14に基板3をセットする。ここでは、基板3の上に非昇華性材料の蒸着材料2(B)、昇華性材料の蒸着材料2(A)を順に積層して成膜する例にて説明する。
【0023】
その後、シャッター5を閉じて、るつぼ11,12と基板3とを遮断した状態で、真空排気系13で真空チャンバー10内を排気して所定の真空状態にする。
【0024】
次いで、るつぼ12にセットした蒸着材料2(B)を基板蒸着する。蒸着の際には、ヒーター22に通電して一方のるつぼ12内の蒸着材料2(B)を加熱する。蒸着材料2(B)の蒸発速度が安定した後にシャッター5を開けて、基板3上に蒸着膜を形成する。所定の膜厚の蒸着膜を形成した後にシャッター5を閉じ、ヒーター22への通電を停止する。
【0025】
ひき続いて、るつぼ11にセットした蒸着材料2(A)を基板蒸着する。蒸着の際には、ヒーター21に通電して一方のるつぼ11内の蒸着材料2(A)を加熱する。蒸着材料2(A)の蒸発速度が安定した後にシャッター5を開けて、蒸着材料2(B)が蒸着してある基板3上に蒸着膜を形成する。
【0026】
このとき、ヒーター21にてるつぼ11を加熱すると、るつぼ11が最初に加熱される。また、その熱の一部はカーボンロッド23も過熱する。カーボンロッド23は熱線吸収性が昇華性の蒸着材料2(A)と比べて大きい。したがってヒーター21からの熱線を昇華性の蒸着材料2(A)に比べて優先して吸収する。
【0027】
熱線を吸収したカーボンロッド23は、ヒーター21からの熱を吸収したことにより、同時に発熱源ともなる。吸収された熱線は、カーボンロッド23内部にて変換され、より長波長にシフトした熱線を放出する。すなわち、るつぼ11の蒸着材料配設部11cにセットされた昇華性の蒸着材料2(A)を加熱する。これにより、蒸着材料2(A)をるつぼ11の凹部11aの側壁からのみでなく、カーボンロッド23の周囲からも加熱することになる。したがって、蒸着材料2(A)をカーボンロッド23を設けない場合に比べて均一に加熱する。
【0028】
るつぼ11から所定の膜厚の蒸着膜を形成した後にシャッター5を閉じ、ヒーター21への通電を停止する。このように成膜することで、基板3上には、順に材料Bの蒸着膜および材料Aの蒸着膜が積層構造が形成される。
【0029】
以上の結果、本発明に係る真空蒸着装置1によれば、るつぼの凹部側壁と接する蒸着材料のみが集中的に加熱されることがなくなり、蒸着材料はほぼ均一に加熱される。よって、蒸着材料の突沸を抑制することができる。
【0030】
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。例えば、真空チャンバー10内に2個のるつぼ11,12を同時に配置した場合について示したが、蒸着原料ごとに1個ずつ配置して蒸着させる方法でも、また、2個同時に蒸着させる方法でも良い。
本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る真空蒸着装置によれば、突沸を低減することができ、昇華しやすい有機物材料に限らず、るつぼを用いた各種の真空蒸着装置に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 真空蒸着装置
2 蒸着材料
3 基板(被成膜体)
5 シャッター
10 真空チャンバー
11,12 るつぼ
11a 凹部
11b 底部
11c 蒸着材料配設部
13 真空排気系
14 基板ホルダー
20 均一加熱機構
21,22 ヒーター
23 受熱加熱源(カーボンロッド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜を形成する被成膜体が内部に配置される真空チャンバーと、真空チャンバー内に設けられ、蒸着材料を収納するるつぼと、るつぼに設けた蒸着材料を加熱する均一加熱機構とを備え、
前記均一加熱機構は前記るつぼの周囲に設けたヒーターと、るつぼの内部に設けた受熱加熱源を備え、当該ヒーターは前記るつぼおよび受熱加熱源を加熱し、
前記蒸着材料は、前記るつぼと受熱加熱源との間に配置され、
真空チャンバー内の被成膜体上に薄膜を形成することを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記受熱加熱源は、カーボンにより形成され、前記蒸着材料に比べて10倍以上重い重量とされていることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−153923(P2012−153923A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12504(P2011−12504)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】