説明

眼、耳または鼻の感染症を処置するためのフィナフロキサシンを含む組成物および方法

本発明は、フィナフロキサシンまたはフィナフロキサシン誘導体を含む組成物によって感染組織を処置するステップを含む、眼、耳または鼻の感染症を処置するための方法に関する。加えて本発明は、フィナフロキサシンまたはフィナフロキサシン誘導体を含む抗菌組成物にも関する。この組成物は眼、耳または鼻の感染症の処置に好適である。本発明の組成物および方法は、急性の耳の感染症、特にたとえば急性外耳炎(AOE)および中耳腔換気用チューブを伴う急性中耳炎(AOMT)などの外耳道の感染症の処置に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年7月2日に出願された米国仮特許出願第61/222,625号の米国特許法§119の下での優先権を主張し、この米国仮特許出願第61/222,625号の全容は、参照として本明細書に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は一般的に、眼、耳または鼻の障害を処置するための方法に関する。本発明は特定的に、フィナフロキサシンまたはフィナフロキサシン誘導体を含む組成物によって、眼、耳または鼻の感染症を処置することに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
従来の抗菌処置に対する微生物耐性は、医学専門家にとって進行中の問題である。耐性の問題が克服されるまでは、従来の治療法の効果を低くするか、または特定の場合には無効にしてしまう微生物突然変異の効果を鈍らせるために、微生物感染症を処置するための新たな処置および治療法を常に供給することが必要である。特に、キノロン系抗生物質に対する耐性が問題になってきている。
【0004】
キノロン系抗生物質は望ましい抗菌特性を有することが公知である。たとえば、眼、耳および鼻の状態の処置に用いるためのキノロン化合物が特許文献1に開示されており、本明細書においてその内容全体が引用により援用される。
【0005】
フィナフロキサシンはH.pylori感染の処置に有用であると記載されている。非特許文献1;Matzkeらに対する特許文献2。フィナフロキサシンの眼、耳および鼻への適用は記載されていない。
【0006】
多くの適用のうちの1つを挙げると、抗菌特性を有する組成物の使用は、結膜炎などの眼の感染症の処置にとって重要である。結膜炎はさまざまな種類の微生物に起因し得るが、バクテリアおよび/またはウイルスによる場合がほとんどである。残念ながら結膜炎の症状は感染因子の病因に特異的ではなく、原因因子または微生物を定めるために有効な検査が必要なことがある。結膜炎を処置するのに適切な薬剤は、感染に影響される感受性の組織を考慮して注意深く選ばなければならない。処置における上述の困難さに鑑みて、広域スペクトルの抗菌特性、無害の毒物学的プロファイル、および/または伝染性の感染性病原体の伝播を防ぐ特徴を有する、結膜炎を処置するための組成物が必要である。
【0007】
耳の感染症、たとえば急性外耳炎(acute otitis externa:AOE)および中耳腔換気用チューブを伴う急性中耳炎(acute otitis media with tympanostomy tubes:AOMT)などは、局所的な抗菌組成物によって処置されることが好ましい。なぜなら経口抗菌剤の使用は全身性副作用の危険性を有しており、かつ時には薬物耐性株が発生する可能性があるためにこうした感染症を根絶できないことがあるからである。近年、耳の感染症の最も一般的な原因であるStaphylococcusおよびPseudomonasバクテリアのキノロン耐性株の着実な増加がみられている。いくつかの地域では、耳の感染症から単離されたPseudomonas株の過半数がキノロン耐性である。非特許文献2を参照されたい。加えて、外耳は耳垢が存在するので通常は酸性の環境である。したがって、低いpHで有効である耳の感染症の処置のためのさらなる局所的組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,716,830号明細書
【特許文献2】米国特許第6,133,260号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Buissonniereら、「Antimicrobial activity of a new fluoroquinolone,finafloxacin,against H.Pylori in comparison to levofloxacin」、Helicobacter、2008年10月、第13巻、第5号、p.465
【非特許文献2】Snow,J.ら、Ballenger’s Otorhinolaryngology:Head and Neck Surgery、2009年、p.194
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フィナフロキサシン(finafloxacin)、またはその医薬的に許容できる塩、誘導体、エナンチオマーもしくは水和物を含む、眼、耳および鼻の障害の処置のための組成物に関する。好ましい実施形態において、こうした組成物は、眼、耳および鼻の感染症、特にさまざまなバクテリア種によってもたらされる感染症の処置のためのものである。好ましいフィナフロキサシン組成物は、抗菌効力を高める酸性pHを有する。加えて本発明は、フィナフロキサシンを含む組成物で感染組織を処置するステップを含む、感染した眼、耳または鼻の組織を処置するための方法に関する。
【0011】
本発明の組成物および方法は、急性の耳の感染症、特にたとえば急性外耳炎(AOE)および中耳腔換気用チューブを伴う急性中耳炎(AOMT)などの外耳道の感染症の処置に有用である。耳垢の存在に起因して、外耳環境は通常酸性pHである。本発明者らは、酸性pHでテストしたときに、フィナフロキサシンを含む組成物が他のキノロン組成物よりも耳の感染症において一般的に見出される微生物に対して全般的に効果的であることを思いがけず見出した。加えて本発明のフィナフロキサシン組成物は、外耳感染症の局所的処置に用いられたときに内耳毒性となる可能性が低い。したがって本発明の組成物および方法は、耳の感染症の局所的処置によく適している。
【0012】
特定のフィナフロキサシン組成物は増強された抗菌活性を提供し、キノロン耐性微生物によってもたらされた感染症の処置に使用され得る。こうした活性の増強は、他の抗生物質よりも高い効力および良好な浸透というフィナフロキサシンの特徴の組み合わせによるものと考えられる。眼用のフィナフロキサシン組成物は、眼の感染症の局所的処置に特によく適している。こうした組成物は中性pHにて配合されてもよく、たとえばStaphylococcus aureusなどの一般的な眼の病原体に対してその効力を保持してもよい。
【0013】
前述の概要は、本発明の特定の実施形態の特徴および技術的利点を広く説明するものである。付加的な特徴および技術的利点は、以下の本発明の詳細な説明に記載される。本発明の詳細な説明をあらゆる添付の図面とともに考慮するときに、本発明に特有であると考えられる新規の特徴がより良く理解されるであろう。ただし本明細書に提供される図面は本発明の例示を助けるか、または本発明の理解を深める手助けをすることが意図されるものであって、本発明の範囲の定義となることは意図されていない。
【0014】
以下の説明を添付の図面の図と組み合わせて参照することによって、本発明およびその利点のより完全な理解が得られ得る。図面において、類似の参照番号は類似の特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1a】図1aは、耳の感染症のモルモットモデルの結果を示す棒グラフである。
【図1b】図1bは、耳の感染症のモルモットモデルの結果を示す棒グラフである。
【図1c】図1cは、耳の感染症のモルモットモデルの結果を示す棒グラフである。
【図1d】図1dは、耳の感染症のモルモットモデルの結果を示す棒グラフである。
【図2】図2は、いくつかのキノロン系抗菌剤に対する角膜灌流比較データを示すグラフである。
【図3】図3は、局所的投与後の角膜組織におけるフィナフロキサシンおよびシプロフロキサシンの眼薬物動態研究の結果を示す図である。
【図4】図4は、局所的投与後の眼房水におけるフィナフロキサシンおよびシプロフロキサシンの眼薬物動態研究の結果を示す図である。
【図5】図5は、Staphylococcus aureusを用いたウサギ角膜炎モデル研究におけるフィナフロキサシンおよびシプロフロキサシン組成物の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の組成物は、フィナフロキサシンまたはその医薬的に許容できる塩、誘導体、エナンチオマーもしくは水和物を含む。フィナフロキサシン(8−シアノ−1−シクロプロピル−6−フルオロ−7−[(4aS,7aS)−ヘキサヒドロピロロ[3,4−b]−1,4−オキサジン−6(2H)−イル]−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸)は次の構造を有する。
【0017】
【化1】

本発明の実施形態に用いるのに好ましい塩は、フィナフロキサシン一塩酸塩である。ジアステレオマーおよびエナンチオマー的に純粋なフィナフロキサシンも本発明の実施形態に用いるのに好ましい。本明細書において用いられる「フィナフロキサシン」という用語は、フィナフロキサシンおよびその医薬的に許容できる塩、誘導体、エナンチオマーまたは水和物を包含することが意図される。「医薬的に許容できる」という語句は当該技術分野において認識されており、これは当業者によって定められた妥当な利益/危険率に相応して、過度の毒性、刺激、アレルギー反応またはその他の問題もしくは合併症を伴わない、ヒトおよび動物の組織と接触させて用いるのに好適な組成物、ポリマーならびにその他の材料および/または剤形を示す。
【0018】
フィナフロキサシンおよびその誘導体は、本明細書においてその内容全体が引用により援用されるMatzkeらの米国特許第6,133,260号に記載される方法に従って合成されてもよい。
【0019】
本発明の組成物は、微生物組織感染症を有するか、またはその危険性がある哺乳動物およびヒトの被験体を処置することに特に向けられたものである。本発明の方法に従って処置または予防され得る微生物組織感染症は、J.P.Sanfordら、「The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2007」第37版(Antimicrobial Therapy,Inc.)において言及されている。本発明の実施形態によって処置可能であり得る特定の微生物組織感染症は、バクテリア、原生動物、真菌、酵母、胞子および寄生虫によってもたらされる感染症を含む。加えて本発明は特に、眼、耳および鼻/副鼻腔の感染症を処置するための抗菌組成物および方法に向けられている。
【0020】
本発明の特定の実施形態は、眼組織感染症の処置に特に有用である。本発明の組成物および方法を用いて処置され得る眼の状態の例は、結膜炎、角膜炎、眼瞼炎、涙嚢炎(dacyrocystitis)、麦粒腫および角膜潰瘍を含む。さらに本発明の方法および組成物は、感染の危険が生じるさまざまな眼の外科手技において予防的に用いられてもよい。
【0021】
耳および鼻/副鼻腔の組織感染症も、本発明の実施形態によって処置されてもよい。本発明の組成物および方法によって処置され得る耳の状態の例は、急性外耳炎および中耳炎(鼓膜が破裂したか、または中耳腔換気用チューブが挿入されている場合)を含む。本発明の組成物および方法によって処置され得る鼻/副鼻腔の状態の例は、鼻炎、副鼻腔炎、鼻腔保菌、および手術によって鼻または副鼻腔の組織が冒される状態を含む。
【0022】
本発明の実施形態は、感染因子による組織の感染を防ぐために予防的に使用されてもよい。こうした実施形態においては、感染の危険のある組織が本発明の組成物に接触させられる。
【0023】
特定の実施形態において、本発明の組成物は1日1回投与される。しかし、本発明の組成物は任意の投与頻度での投与のために配合されてもよく、その投与頻度としては1週間に1回、5日に1回、3日に1回、2日に1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、1日6回、1日8回、1時間おき、またはそれより高い任意の頻度が挙げられる。こうした投薬頻度は、治療レジメンによって変化する継続時間に対しても維持される。特定の治療レジメンの継続時間は、1回の投薬から数ヵ月または数年間におよぶ投与レジメンまで変化し得る。当業者は、医薬的に有効な量のフィナフロキサシンまたはその組成物を組み込んだ特定の指示に対する治療レジメンの決定に精通しているだろう。「医薬的に有効な量」という語句は当該技術分野において認識された用語であり、これは本発明の医薬組成物に組み込まれたときに、任意の医学的処置に適用可能な妥当な利益/危険率で何らかの所望の効果をもたらすような薬剤の量を示す。その有効量は、たとえば処置される疾患もしくは感染因子、投与される特定の組成物、または疾患もしくは感染因子の重症度などの要因に依存して変化し得る。
【0024】
フィナフロキサシンに加えて、本発明の組成物は1つまたはそれ以上の賦形剤を任意に含む。医薬組成物に一般的に使用される賦形剤は、等張化剤、保存剤、キレート化剤、緩衝剤、界面活性剤および酸化防止剤を含むがそれに限定されない。その他の賦形剤は、可溶化剤、安定化剤、快適性向上剤(comfort−enhancing agents)、ポリマー、皮膚軟化剤、pH調整剤、および/または滑沢剤を含む。さまざまな賦形剤のいずれかが本発明の組成物に用いられてもよく、このさまざまな賦形剤としては水、水と水混和性溶媒(たとえば、C1〜C7−アルカノール)との混合物、0.5%から5%の非毒性の水溶性ポリマーを含む鉱油または植物油、天然物(たとえばアルギン酸類、ペクチン、トラガカント、カラヤゴム、キサンタンガム、カラゲーニン、寒天およびアラビアゴム)、デンプン誘導体(たとえば酢酸デンプンおよびヒドロキシプロピルデンプン)、さらにその他の合成生成物(たとえばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、酸化ポリエチレン、好ましくは架橋したポリアクリル酸、およびこれらの生成物の混合物))が挙げられる。好ましい実施形態において、賦形剤の濃度は典型的にフィナフロキサシンの濃度の1倍から100倍であり、賦形剤はフィナフロキサシンに対して不活性であることに基づいて選択される。
【0025】
好適な張性調整剤は、マンニトール、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトールなどを含むがそれに限定されない。好適な緩衝剤は、ホスフェート、ボレート、アセテートなどを含むがそれに限定されない。好適な界面活性剤は、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤を含むが非イオン性界面活性剤の方が好ましく、RLM 100、POE 20セチルステアリルエーテル(たとえばProcol(登録商標)CS20)、およびポロキサマー(たとえばPluronic(登録商標)F68)を含むがそれに限定されない。好適な酸化防止剤は、サルファイト、アスコルベート、ブチル化ヒドロキシアニソール(butylated hydroxyanisole:BHA)およびブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene:BHT)を含むがそれに限定されない。
【0026】
本明細書に示される組成物は、1つまたはそれ以上の保存剤を含んでもよい。こうした保存剤の例は、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、チオサリチル酸のアルキル水銀塩(たとえばチオメルサール)、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀、ホウ酸フェニル水銀、過ホウ酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、パラベン(たとえばメチルパラベンまたはプロピルパラベン)、アルコール(たとえばクロロブタノール、ベンジルアルコールまたはフェニルエタノール)、グアニジン誘導体(たとえばポリヘキサメチレンビグアナイド)、過ホウ酸ナトリウム、またはソルビン酸などを含む。特定の実施形態において、組成物は自己保存され(self−preserved)得るので保存剤を必要としない。
【0027】
副鼻腔適用での使用に対しては、噴霧器または当業者に周知のその他のこうした装置を用いたエアロゾル形成に好適な賦形剤を含む組成物が用いられてもよい。
【0028】
本発明のいくつかの組成物は、被験体の眼への適用に眼科的に好適である。眼への投与のために、組成物は溶液、懸濁液、ゲル、または軟膏であってもよい。好ましい局面において、フィナフロキサシンを含む組成物は、眼への局所的適用のために、点滴剤の形態で水溶液中に配合される。「水(性)(aqueous)」という用語は典型的に、賦形剤の>50重量%、より好ましくは>75重量%、特に>90重量%が水である水性組成物を示す。これらの点滴剤は単一用量アンプルから送達されてもよく、そのアンプルは好ましくは無菌であり、そのことによって組成物の静菌構成要素を不要にしてもよい。代替的には、点滴剤は多用量ボトルから送達されてもよく、その多用量ボトルは好ましくは組成物が送達される際に組成物から任意の保存剤を抽出する装置を含んでもよく、こうした装置は当該技術分野において公知である。
【0029】
他の局面において、本発明の組成物は、濃縮されたゲルもしくは類似の賦形剤として、または眼瞼の下に置かれる溶解可能な挿入物として眼に送達されてもよい。さらに他の局面において、本発明の組成物は、軟膏、油中水型エマルションおよび水中油型エマルションとして眼に送達されてもよい。
【0030】
眼に対する局所的組成物については、蒸発および/または疾患によってもたらされる涙の任意の高張性を抑制する目的で、この組成物は好ましくは等張性であるか、またはわずかに低張性である。このために、組成物のオスモル濃度をキログラム当り210〜320ミリオスモル(mOsm/kg)またはそれに近いレベルにするための等張化剤が必要であり得る。溶液のpHは、眼が許容できる範囲である3.0から8.0の間であってよい。本発明の組成物は一般的に220〜320mOsm/kgの範囲のオスモル濃度を有し、好ましくは235〜300mOsm/kgの範囲のオスモル濃度を有する。眼用の組成物は、一般的に無菌の水溶液として配合される。
【0031】
特定の実施形態においては、1つまたはそれ以上の涙の代用物を含む組成物にフィナフロキサシンが配合される。当該技術分野においてはさまざまな涙の代用物が公知であり、それは以下を含むがそれに限定されない:モノマーポリオール、たとえばグリセロール、プロピレングリコール、およびエチレングリコールなど;ポリマーポリオール、たとえばポリエチレングリコールなど;セルロースエステル、たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびヒドロキシプロピルセルロースなど;デキストラン、たとえばデキストラン70など;ビニルポリマー、たとえばポリビニルアルコールなど;ならびにカルボマー、たとえばカルボマー934P、カルボマー941、カルボマー940およびカルボマー974Pなど。本発明の特定の組成物は、コンタクトレンズまたはその他の眼用製品とともに用いられてもよい。
【0032】
いくつかの実施形態において、本明細書に示される組成物は、0.5〜100cps、好ましくは0.5〜50cps、最も好ましくは1〜20cpsの粘度を有する。このように粘度が比較的低いことによって、生成物は安心できるもの(comfortable)であり、かすみを生じず、かつ製造、移送および充填動作の際に簡単に処理されることを確実にする。
【0033】
さまざまな微生物感染症を効果的に処置し、かつ副作用を最小化するために、組成物の抗菌活性を最大化して最小量の活性成分が使用されるようにするべきである。本発明の抗菌組成物の活性は、一般的に抗菌剤自体によるものであり、フィナフロキサシン以外の組成物構成要素は通常ほとんど影響しない。
【0034】
本発明の組成物を構成する成分の濃度が変化し得ることも想定される。好ましい実施形態において、フィナフロキサシンは眼用組成物中に約0.1%から1.0%w/vの濃度で存在する。特に好ましい実施形態は0.1%から0.5%w/vのフィナフロキサシン濃度を有し、最も好ましい実施形態は約0.3%から0.4%w/vのフィナフロキサシン濃度を有する。この濃度は所与の組成物中の成分の追加、置換および/または除去によって変化し得ることを当業者は理解するだろう。
【0035】
組成物のpHを約3から約8.0に、好ましくは5.0から7.5に維持する緩衝系を用いて、好ましい組成物が調製される。特に好ましい耳用組成物は5.0から6.0のpHを有し、最も好ましい耳用組成物は約5.9のpHを有する。特に好ましい眼用組成物は6.0から8.0のpHを有し、最も好ましい眼用組成物は7.5から8.0のpHを有する。特定の実施形態においては、組成物が適用または分配される組織に適合した生理的pHを有する局所的組成物(上記のとおり、特に局所的眼用組成物)が好ましい。
【0036】
本明細書に示される方法において、フィナフロキサシンを含む組成物の医薬的に有効な量を被験体に投与することは、当業者に公知の任意の方法によって行なわれてもよい。
【0037】
たとえば、組成物は局部的に、局所的に、皮内に、病巣内に、鼻腔内に、皮下に、経口的に、吸入によって、注射によって、標的細胞を直接浸す局所灌流によって、カテーテルを介して、または洗浄を介して投与されてもよい。
【0038】
特定の実施形態において、組成物は眼表面に局所的に投与される。眼への投与に関しては、眼へのすべての局部経路が使用され得ることが想定され、その経路は局所、結膜下、眼周囲、眼球後、テノン嚢下、眼内、網膜下、後強膜近傍、および脈絡膜上の投与を含む。
【0039】
本発明の組成物は、抗炎症剤も含んでいてもよい。本発明の組成物は、1つまたはそれ以上の抗炎症剤をも含有してもよい。本発明において使用される抗炎症剤は、ステロイド系または非ステロイド系に大きく分類される。好ましいステロイド系抗炎症剤はグルココルチコイドである。眼、耳または鼻への使用のためのグルココルチコイドは、デキサメタゾン、ロテプレドノール、リメキソロン、プレドニゾロン、フルオロメトロン、ヒドロコルチゾン、モメタゾン、フルチカゾン、ベクロメタゾン、フルニソリド、トリアムシノロン、およびブデソニドを含む。
【0040】
非ステロイド系抗炎症剤は以下のとおりである:プロスタグランジンHシンセターゼ阻害剤(Cox IまたはCox II)(シクロオキシゲナーゼI型およびII型阻害剤とも呼ばれる)、たとえばジクロフェナク、フルルビプロフェン、ケトロラク、スプロフェン、ネパフェナク、アンフェナク、インドメタシン、ナプロキセン、イブプロフェン、ブロムフェナク、ケトプロフェン、メクロフェナメート、ピロキシカム、スリンダク、メファナム酸、ジフルシナル、オキサプロジン、トルメチン、フェノプロフェン、ベノキサプロフェン、ナブメトン、エトドラク、フェニルブタゾン、アスピリン、オキシフェンブタゾン、NCX−4016、HCT−1026、NCX−284、NCX−456、テノキシカム、およびカルプロフェンなど;シクロオキシゲナーゼII型選択的阻害剤、たとえばNS−398、バイオックス、セレコキシブ、P54、エトドラク、L−804600、およびS−33516など;PAF拮抗剤、たとえばSR−27417、A−137491、ABT−299、アパファント、ベパファント、ミノパファント、E−6123、BN−50727、ヌパファント、およびモジパファントなど;PDE IV阻害剤、たとえばアリフロ、トルバフィリン、ロリプラム、フィラミナスト、ピクラミラスト、シパムフィリン、CG−1088、V−11294A、CT−2820、PD−168787、CP−293121、DWP−205297、CP−220629、SH−636、BAY−19−8004、およびロフルミラストなど;サイトカイン生成の阻害剤、たとえばNFκB転写因子の阻害剤など;または当業者に公知のその他の抗炎症剤。
【0041】
本発明の組成物に含有される抗炎症剤の濃度は、選択される1つまたは複数の薬剤および処置される炎症の種類に基づいて変化する。その濃度は、標的とする眼、耳または鼻の組織に組成物を局所的に適用した後に、それらの組織における炎症を低減させるのに十分な濃度である。こうした量のことを本明細書においては「抗炎症有効量」と呼ぶ。本発明の組成物は典型的に、約0.01wt%から約1.0wt%の量の1つまたはそれ以上の抗炎症剤を含有する。
【0042】
さまざまな耳への投与技術も想定される。特定の実施形態において、組成物は外耳道に直接送達されてもよい(たとえば、局所的な耳用点滴剤または軟膏;耳内または耳に近接して埋め込まれた徐放装置など)。局部投与経路は、組成物に対する耳筋内、鼓室内および蝸牛内の注射経路を含む。本発明の特定の組成物が耳内挿入物または移植装置に配合されてもよいことがさらに想定される。たとえば、組成物の送達は、たとえばTsueら,Amer.J.Otolaryngology,Vol.16(3):158−164,1995;Silversteinら,Ear Nose Throat,Vol.76:674−678,1997;Silversteinら,Otolaryngol Head Neck Surg,Vol.120:649−655,1999などに示されるとおり、鼓室への内視鏡を用いた(鼓膜を切開するためのレーザを用いた内視鏡検査を含む)注射によって達成されてもよい。さらに、細い(EMG記録)針を用いた鼓膜からの注射によって、鼓膜切開により配置された留置カテーテルを用いることによって、および、小さい管状カテーテルによる耳管を通じた注射または注入によって局部投与を達成できる。さらに、熟練した臨床医が十分慎重に注意深く中耳/内耳の窓膜または近接構造物に対して、組成物で十分に湿らせたゲルフォームまたは類似の吸収接着性製品を配置することによって、組成物を内耳に投与できる。冒された耳区画に組成物を送達するために、さまざまな他の装置が用いられてもよい;たとえば、カテーテルを介して、またはヒト被験体の内耳の処置および/または診断に用いるために具体的に設計された多機能装置を提供する米国特許第5,476,446号に例示されるとおりに送達されてもよい。この目的に対する他の装置については米国特許第6,653,279号も参照されたい。
【0043】
鼻の感染症の処置のための、本明細書に記載される組成物の投与は、当業者に公知のいくつかの方法を介して行なわれてもよい。たとえば、こうした組成物は小滴の形で、またはエアロゾル形成によって投与されてもよい。
【実施例】
【0044】
以下の実施例1〜7は、本発明の実施形態に従って調製されたものである。
【0045】
【化2】

【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
【化5】

【0049】
【化6】

【0050】
【化7】

【0051】
【化8】

オスモル濃度を200mOSM/kgから350mOSM/kgに調整。
【0052】
実施例8
インビトロでの抗菌効力の研究
標準的なインビトロ抗菌感受性テスト(M07−08 Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria that Grow Aerobically;Approved Standard−Eighth Edition(2009年1月,Clinical and Laboratory Standards Institute)(これは本明細書において引用により援用される))を用いて、pH5.8のフィナフロキサシン組成物をシプロフロキサシン(pH5.8)およびオフロキサシン(pH5.8およびpH7)組成物と比較した。耳および眼の感染症において一般的に見出されるグラム陽性およびグラム陰性のテスト生物を用いて、最小阻害濃度(Minimum inhibitory concentrations:MIC50)を定めた。MIC50は、濁度が失われることによって視覚的に判定される、テスト生物の生育を妨げた抗生物質の最低濃度とした。
【0053】
実験の結果を下の表1(グラム陽性生物)および表2(グラム陰性生物)に示す。フィナフロキサシン組成物は、シプロフロキサシンおよびオフロキサシン組成物に比べて、テストされたすべてのグラム陽性生物に対してより低いMIC50濃度を示した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

実施例9
インビボでの急性外耳炎(AOE)モデル
Pseudomonas aeruginosaを用いた急性外耳炎(AOE)のモルモットモデルにおいて、フィナフロキサシンテスト組成物(0.3%、0.03%、および0.003%)をオフロキサシン(0.3%および0.03%)ならびにシプロフロキサシン組成物(CILOXAN(登録商標)、Alcon Laboratories,Inc(0.3%塩酸シプロフロキサシン)、0.03%および0.003%)と比較した。モルモットの耳をわずかに擦過し、P.aeruginosaのバクテリア培養物(10CFU)200μlを各耳に注入した。耳を生理食塩水で洗浄し、Pseudomonas単離培地に蒔いた。図1a〜図1dはこれらの研究の結果をまとめたものである。
【0056】
図1aに示されるとおり、フィナフロキサシンの0.3%組成物は、2つの別個の用量のテスト組成物を用いてPseudomonasのほぼ完全な根絶をもたらした。より低濃度のフィナフロキサシン組成物(0.03%および0.003%)も、このモデルにおけるPseudomonasの非常に顕著な5〜6ログの低減を達成した。図1aにまとめられたテストにおいて、フィナフロキサシンはシプロフロキサシンと同様に良好に働いた。単一用量研究においても、フィナフロキサシンをオフロキサシンおよびシプロフロキサシン組成物と比較した。図1bは、0.3%フィナフロキサシン組成物が単一用量研究においてPseudomonasのほぼ完全な根絶をもたらしたことを示している。より低濃度の組成物(0.03%、図1cに示される)を用いると、フィナフロキサシンは単一用量研究において4ログCFUの低減を達成した。この研究において、フィナフロキサシン組成物はシプロフロキサシン組成物と同様に良好に働き、オフロキサシン組成物よりも良好に働いた。図1dは、0.03%および0.3%のフィナフロキサシン組成物において保存剤(BAC)を使用しても、自己保存組成物に比べてPseudomonasに対するフィナフロキサシンの効力に影響がないことを示している。
【0057】
実施例10
眼の薬物動態研究
図2は、エクスビボモデルを用いたいくつかのキノロン系抗菌剤(フィナフロキサシンを含む)に対する角膜灌流比較データを示す。このモデルにおいて、4つのキノロン系抗菌剤のpH7.3の0.1mMテスト溶液を比較した。図2に示されるとおり、フィナフロキサシンテスト組成物はシプロフロキサシンテスト組成物よりも良好な角膜灌流特性を有し、オフロキサシンテスト組成物よりも少ない灌流を示す。
【0058】
図3および図4は、フィナフロキサシンおよびシプロフロキサシン組成物の局所的投与に続く眼薬物動態研究の結果を示す。この研究にはニュージーランドシロウサギを用い、45μlの0.3%テスト組成物を両側に注入した。それぞれ図3および図4に示されるとおり、フィナフロキサシンおよびシプロフロキサシン両方の角膜ストロマおよび眼房水の組織濃度は、後の時点では同等であり、注入の直後はシプロフロキサシン組成物の方が高い濃度をもたらした。
【0059】
実施例11
インビボの角膜炎研究
ウサギ角膜炎モデルにおいて、異なる緩衝液およびpHの特徴を有する2つの0.33%フィナフロキサシン眼用組成物をCILOXAN(登録商標)と比較した。ニュージーランドシロウサギに、100CFUのStaphylococcus aureusの角膜注射を受けさせた。感染の4時間後から、1時間に1回45μlのテスト組成物によってウサギを局所的に処置した(合計6回の処置)。最終テスト処置の1時間後に角膜を集めて生存細胞を培養した。図5に示されるとおり、両方のフィナフロキサシン組成物が角膜炎モデルにおいてCILOXAN(登録商標)組成物と類似のStaphococcus aureusログ低減を示した。Psuedomonas aeruginosaを用いた類似のテストにおいて、フィナフロキサシン組成物はCILOXAN(登録商標)よりも劣るPsuedomonasのCFU低減を示した。
【0060】
実施例12
インビボの聴器毒性研究
下の表3は、2つの動物モデル(チンチラおよびウサギ)において行なわれた毒性テストの結果を示す。テストされたフィナフロキサシン組成物は、使用された動物モデルにおける内耳または外耳刺激を示さなかった。
【0061】
【表3】

本発明およびその実施形態を詳細に説明した。しかし、本発明の範囲が、本明細書に記載される任意のプロセス、製造、組成物、化合物、手段、方法、および/またはステップの特定の実施形態に限定されることは意図されない。本発明の趣旨および/または不可欠な特徴から逸脱することなく、開示される材料にさまざまな修正、代用および変更が行なわれ得る。したがって当業者は、本明細書に記載される実施形態と実質的に同じ機能を行なうか、または実質的に同じ結果を達成するような以後の修正、代用および/または変更が本発明のこうした関連実施形態に従って使用されてもよいことを、この開示から容易に認識するであろう。よって以下の請求項は、本明細書に開示されるプロセス、製造、組成物、化合物、手段、方法、および/またはステップに対する修正、代用および変更をその範囲内に包含することが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィナフロキサシンを含む医薬的に許容できる局所的組成物であって、該組成物は眼、耳または鼻の感染症の処置に好適である、組成物。
【請求項2】
フィナフロキサシンまたはその医薬的に許容できる塩を0.1w/v%から1.0w/v%の濃度で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
フィナフロキサシンまたはその医薬的に許容できる塩を0.1w/v%から0.5w/v%の濃度で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
フィナフロキサシンまたはその医薬的に許容できる塩を0.3w/v%から0.4w/v%の濃度で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物は5.0から7.5のpHを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は5.0から6.0のpHを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
抗炎症剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
眼、耳または鼻の感染症を処置するための方法であって、
フィナフロキサシンを含む組成物の医薬的に有効な量によって該感染症を処置するステップを含む、方法。
【請求項9】
前記感染症は鼻の感染症である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記感染症は急性外耳炎または中耳腔換気用チューブを伴う急性中耳炎である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物は、フィナフロキサシンまたはその医薬的に許容できる塩を0.1w/v%から1.0w/v%の濃度で含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は、フィナフロキサシンまたはその医薬的に許容できる塩を0.1w/v%から0.5w/v%の濃度で含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物は、フィナフロキサシンまたはその医薬的に許容できる塩を0.3w/v%から0.4w/v%の濃度で含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物は5.0から7.5のpHを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物は5.0から6.0のpHを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物は抗炎症剤をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
急性外耳炎または中耳腔換気用チューブを伴う急性中耳炎を処置するための方法であって、該方法は、
フィナフロキサシンを含む局所的耳用組成物を被験体の外耳道に注入するステップを含む、方法。
【請求項18】
前記組成物は、0.3w/v%から0.4w/v%のフィナフロキサシン濃度および5.0から6.0のpHを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物は0.3w/v%から1.0w/v%の濃度の塩化マグネシウムをさらに含む、請求項18に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−532115(P2012−532115A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517923(P2012−517923)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/040956
【国際公開番号】WO2011/003091
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】