説明

眼科用剤

【課題】プラノプロフェンの溶解度が高いpH領域と、フマル酸ケトチフェンの安定性が確保できるpH領域が異なるため、プラノプロフェンとフマル酸ケトチフェンを同時に配合することは困難であった。本発明は、プラノプロフェンの刺激が生じにくい高いpH領域においてもフマル酸ケトチフェンの安定化をはかることにより、プラノプロフェンとフマル酸ケトチフェンを同時に配合した点眼剤を提供することを目的とする。
【解決手段】プラノプロフェン及びフマル酸ケトチフェンを含むpHが6.5を超える眼科用剤において、さらにエデト酸塩類を配合したことを特徴とする眼科用剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラノプロフェン及びフマル酸ケトチフェンを含有する、pHが6.5を超える眼科用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プラノプロフェン(化学名:α−メチル−5H−[1]ベンゾピラノ[2,3−b]ピリジン−7−酢酸)は、炎症の原因物質プロスタグランジンの生成を抑制し、かゆみ、充血等の症状を緩和し、外眼部及び前眼部の炎症性疾患(眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎、前眼部ブドウ膜炎、術後炎症)の治療のため、点眼剤として臨床的に広く用いられている。プラノプロフェンは、分子内にカルボキシル基を持つアリールカルボン酸であり、カルボキシル基の解離の程度により、水への溶解性が大幅に変化する。カルボキシル基が解離しやすいpH7.1以上では溶解性が非常に高いが、pH5.2以下ではほとんど溶解しないことが報告されており(非特許文献1参照)、pHが低いほど溶解しにくくなる性質がある。通常、プラノプロフェンは、溶解度の点からpH7〜8で点眼剤として使用されている。
【0003】
フマル酸ケトチフェンは、アレルギー反応の際、ヒスタミン等の遊離抑制作用・直接拮抗作用を有し、ロイコトリエンの産生と遊離抑制・拮抗作用を有しており、また、好中球・好酸球等の炎症細胞の遊走・浸潤抑制作用、活性酸素産生抑制作用を示すことが知られ、アレルギー症状の予防・改善のため、点眼剤や点鼻剤等として臨床的に広く用いられている。フマル酸ケトチフェンは、水溶液中での安定性の点からpH5.8以下が好ましいとされており(特許文献1及び2参照)、現在発売されているフマル酸ケトチフェンを配合した点眼剤はpH6未満で販売されている。
【0004】
プラノプロフェンとフマル酸ケトチフェンはその薬効から同時投与するとアレルギー症状の改善に有効と考えられるが、プラノプロフェンの溶解性が高いpH領域と、フマル酸ケトチフェンの水溶液中での安定性が確保できるpH領域とが異なるため、プラノプロフェンとフマル酸ケトチフェンを同時に配合することが困難であり、これまでにプラノプロフェンとフマル酸ケトチフェンを同時に配合した点眼剤は上市されていない。
【0005】
従来、プラノプロフェンとフマル酸ケトチフェンを同時に配合した点眼剤を提供するために、pHが高い領域でプラノプロフェン及びフマル酸ケトチフェンを溶解し、その後pHを低い領域に調節することにより、プラノプロフェンの溶解性とフマル酸ケトチフェンの安定性を両立させた点眼剤用組成物が開示されている(特許文献3参照)。しかし、低いpHでプラノプロフェンを点眼すると刺激が生じる事が知られていることから(非特許文献2参照)、この技術をそのまま点眼剤に使用するのは困難である。
【0006】
従来、プラノプロフェンの刺激を改善する方法として、プラノプロフェンとクロロブタノールを配合した点眼剤(特許文献4参照)、プラノプロフェンとコンドロイチン硫酸ナトリウムを配合した点眼剤(特許文献5参照)等が知られている。
【0007】
しかしながら、フマル酸ケトチフェン、プラノプロフェン、及びエデト酸塩を配合し、6.5を超えるpHに調整した点眼剤は知られていない。
【特許文献1】特開2002−308770号公報
【特許文献2】特開2001−187728号公報
【特許文献3】特開2005−272462号公報
【特許文献4】特開2005−239681号公報
【特許文献5】特開2005−239682号公報
【非特許文献1】医薬品研究、1976年、第7巻、第2号、200−210頁
【非特許文献2】小河貴裕ら、眼紀37、1986年、829−834頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プラノプロフェンの刺激が生じにくい高いpH領域においてもフマル酸ケトチフェンの安定化をはかることにより、プラノプロフェンとフマル酸ケトチフェンを同時に配合した眼科用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために種々検討した結果、プラノプロフェン及びフマル酸ケトチフェンを含むpHが6.5を超える点眼剤に、さらにエデト酸塩類を配合することにより、プラノプロフェンが十分な溶解度で溶解し、かつ、刺激が生じにくく、さらにフマル酸ケトチフェンの安定性が確保できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)プラノプロフェン及びフマル酸ケトチフェンを含有し、pHが6.5を超える眼科用剤において、エデト酸塩類を配合したことを特徴とする眼科用剤、
(2)前記エデト酸塩類が、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム又はエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムである(1)に記載の眼科用剤、
(3)プラノプロフェンの含有量が眼科用剤全体の0.005w/v%〜0.2w/v%であり、かつ、フマル酸ケトチフェンの含有量が眼科用剤全体の0.005w/v%〜0.5w/v%である(1)又は(2)に記載の眼科用剤、である。
【0011】
本発明で用いるエデト酸塩は、種々の成分の安定化剤としても用いられる成分であるが、プラノプロフェンとフマル酸ケトチフェンを同時配合した系における安定化効果は、他の安定化剤では得ることができず、エデト酸塩に特異的な効果である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の眼科用剤によれば、プラノプロフェン、フマル酸ケトチフェン、及びエデト酸塩類を含み、6.5を超えるpHに調整することによって、プラノプロフェンの刺激を抑え、かつフマル酸ケトチフェンの不安定化を抑制することが可能となった。これによって長期保存においても一定の品質を保つ眼科用剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のプラノプロフェンは、非ステロイド性消炎鎮痛剤の1つであり、シクロオキシゲナーゼを阻害し、炎症の原因物質プロスタグランジンの生成を抑制することで炎症部位の消炎鎮痛作用を示す物質である。医療用の点眼剤として、ニフラン(登録商標)の販売名で市販されている他、医薬品の点眼剤として複数の製品が市販されている。
【0014】
本発明のプラノプロフェンの配合濃度は、適用する疾病の症状に応じて適宜増減することができるが、眼科用剤全体の0.005w/v%〜0.2w/v%であることが好ましく、0.025w/v%〜0.1w/v%であることがさらに好ましい。0.005w/v%未満であると治療効果の点から不十分になる恐れがあり、0.2w/v%を超えて配合すると、溶解度が不十分になる恐れがあるからである。
【0015】
また、本発明のフマル酸ケトチフェンは抗アレルギー薬の1つであり、抗アレルギー作用と共にヒスタミン、ロイコトリエン、血小板活性化因子に対する拮抗作用を有することを特徴とし、その構造から塩基性抗アレルギー薬に分類される。また、ヒスタミン拮抗薬とも呼ばれる。医療用としては、ザジテン(登録商標)の販売名で市販されている。
【0016】
本発明のフマル酸ケトチフェンの配合濃度は、適用する疾病の症状に応じて適宜増減することができるが、眼科用剤全体の0.005w/v%〜0.5w/v%であることが好ましく、0.01w/v%〜0.1w/v%であることがさらに好ましい。0.005w/v%未満であると治療効果の点から不十分になる恐れがあり、0.5w/v%を超えて配合すると、刺激が生じる恐れがあるからである。
【0017】
さらに、本発明のエデト酸塩類とは、エチレンジアミン四酢酸の塩類であり、本発明においてはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム又はエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを用いることもできる。
【0018】
本発明のエデト酸塩類の配合濃度は、必要に応じて適宜選択することができるが、眼科用剤製剤全体の0.0001w/v%〜0.15w/v%であることが好ましく、0.001w/v%〜0.1w/v%であることがさらに好ましい。0.0001w/v%未満であるとフマル酸ケトチフェンの安定性が不十分になる恐れがあり、0.15w/v%を超えて配合すると使用感が悪くなる恐れがあるからである。
【0019】
本発明に係る眼科用剤には、さらに緩衝剤、等張化剤、溶解補助剤、保存剤、粘稠剤、pH調整剤のような各種の添加剤を適宜添加してもよい。
【0020】
緩衝剤としては、例えばリン酸塩緩衝剤(リン酸二水素ナトリウム−リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム−水酸化カリウム)、ホウ酸緩衝剤(ホウ酸−ホウ砂)、酒石酸塩緩衝剤(酒石酸−酒石酸ナトリウム)、アミノ酸(グルタミン酸ナトリウム、イプシロンアミノカプロン酸)等が挙げられる。
【0021】
等張化剤としては、ソルビトール、グルコース、マンニトール等の糖類、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、ホウ砂等の塩類、ホウ酸等が挙げられる。
【0022】
溶解補助剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(ポリソルベート80)、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン界面活性剤、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0023】
保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第四級アンモニウム塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸及びそれらの塩、チメロサール、クロロブタノール、デヒドロ酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0024】
粘稠剤としては、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びそれらの塩等が挙げられる。
【0025】
pH調整剤としては、塩酸、リン酸、酢酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
本発明に係る眼科用剤は、主に点眼剤として提供される。本発明の眼科用剤は、刺激の点から6.5を超えるpHである必要があるが、6.6〜8.0の範囲が好ましく、6.7〜8.0の範囲がさらに好ましい。
【0027】
本発明に係る眼科用剤を点眼剤とした場合、1日1回〜数回、1回1滴〜数滴を投与することができる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明を詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
表1に示す配合に従って、精製水(約80mL)に各成分を溶解後、希塩酸を適量添加してpHを6.7に調整後、精製水で全量を正確に100mLとした。その後、ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。
【0030】
[比較例1〜4]
表1に示す配合に従って、実施例1と同様の手順により、無菌の点眼剤を得た。
【0031】
[試験例1]
実施例及び比較例で得た点眼剤の調製直後の外観を観察した。また、これらをプラスチック製の点眼剤容器に充填し、50℃で保存した時のフマル酸ケトチフェン残存量を、特開平10−139666号公報記載の方法に基づき、高速液体クロマトグラフ法で測定した。結果を表1に示した。表1中、「実」は実施例、「比」は比較例を示し、処方の数値は「mg/100mL」で示した。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明にかかる実施例1の点眼剤は、フマル酸ケトチフェンの残存量が低下せず、着色も認められなかった。本発明の点眼剤は、比較例の点眼剤に比べて、フマル酸ケトチフェンの不安定化を抑制し、着色を抑制することから、点眼剤として有用であることがわかった。
【0034】
[参考試験例1]
プラノプロフェンを0.05%含有するpHが異なる点眼剤を調製した。健常者5名が点眼し、下記評価基準により刺激感を評価した。結果を表2に示した。
○・・・刺激感がない、
△・・・刺激感がややある、
×・・・刺激感がある。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から明らかなように、6.5を超えるpHに調製すると、プラノプロフェンによる点眼時の刺激が抑制できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の眼科用剤は、プラノプロフェン、フマル酸ケトチフェン、及びエデト酸塩類を配合し、かつpHが6.5を超えることを特徴とする点眼剤であり、フマル酸ケトチフェンの経時的な残存量の低下と製剤の着色を抑制し、アレルギー症状等での眼のかゆみを長時間抑える極めて有用な点眼剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラノプロフェン及びフマル酸ケトチフェンを含有し、pHが6.5を超える眼科用剤において、エデト酸塩類を配合したことを特徴とする眼科用剤。
【請求項2】
前記エデト酸塩類が、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム又はエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムである請求項1に記載の眼科用剤。
【請求項3】
プラノプロフェンの含有量が眼科用剤全体の0.005w/v%〜0.2w/v%であり、かつ、フマル酸ケトチフェンの含有量が眼科用剤全体の0.005w/v%〜0.5w/v%である請求項1又は2に記載の眼科用剤。

【公開番号】特開2009−114183(P2009−114183A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268062(P2008−268062)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】