説明

眼科用注射器

加熱室を備えたノーズコーンとヒータ組立体と注射針とを有する眼科用注射器が改良された薬剤供給作用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して眼科用薬剤供給装置に関し、さらに詳しくは後区用の眼科用薬剤供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の硝子体内への薬剤供給装置は、網膜組織を有さない眼の扁平部部位を通じて薬剤を硝子体まで供給して、合併症、例えば網膜剥離を回避している。ボシュロム社(Bausch & Lomb)から入手可能なビトラサート(VITRASERT)(登録商標)インプラントと、レチサート(RETISERT)(登録商標)インプラントとが例として含まれており、それらの両方は、注入のために比較的大きな扁平部の切開部(例えば1mm〜5mm)を要求している。緑内障の治療のためにピロカルピンを供給することに使用されてきたオキュサート(OCUSERT)装置は、22ゲージの注射針を通じて生体分解性または生体内分解性のあるペレットを扁平部に注入する扁平部注入作用を採用している。オキュサート装置が採用する扁平部注入作用は「自己封止式」の手法ではない。
【0003】
ブカロ(Bucalo)による米国特許第4030499号明細書は、固体状態にあるインプラントを包含する注射器を開示している。その注射器は、注射筒の外部空間または内部空間に配置された加熱用コイルと、体組織への注入前に固体のインプラントを液体に変化させる付設された注射針とを含んでいる。しかしながら、そのようなコイルの構成は、増大された製造コストと潜在的な信頼性問題とをもたらす。ローゼンマン(Rosenman)による米国特許第6488659号明細書は、熱過敏性ゲル化材料を患者の体内にある遠隔部位まで注入するための、伝熱流体用通路を備えたカテーテルを開示している。熱過敏性ゲル化材料は、注射器を介してカテーテルにまで供給される。カテーテルは、熱過敏性ゲル化材料が標的部位に供給されるまで、熱過敏性ゲル化材料を液体状態に維持している。しかしながら、カテーテルによる薬剤供給は、眼科用の適用例には適切でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
眼の後区における種々の病気および健康状態は、引続き視力を損なわせる。年齢に関連した、黄斑変性症(ARMD)、脈絡膜血管新生(CNV)、網膜症(例えば糖尿病性網膜症、硝子体網膜症)、網膜炎(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)性網膜炎)、ブドウ膜炎、黄斑浮腫、緑内障、および神経障害が種々の例である。それ故に、前述した現在の装置による制限が障害とならない、改良された後区用の眼科用薬剤供給装置が引続き要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの態様においては、本発明は、ノーズコーン、投与量形状部、注射針、プランジャ組立体およびヒータ組立体を含んでいる眼科用注射器である。ノーズコーンは加熱室を有している。投与量形状部は固体状態であって、加熱室内に配置されている。注射針は加熱室に流体的に結合されており、プランジャ組立体は加熱室内に少なくとも部分的に配置されたロッドを有している。ヒータ組立体はノーズコーンに配置されている。ヒータ組立体は、ノーズコーンと加熱室とを加熱して、投与量形状部を固体状態から液体状態まで変化させ、ノーズコーンは液体状態である投与量形状部が注射針内において再凝固するのを防止するのに十分な熱を前記注射針に伝達する。
【0006】
本発明の別の態様は、加熱室、投与量形状部、注射針、プランジャ組立体およびヒータ組立体を含んでいる眼科用注射器である。投与量形状部は固体状態であって、加熱室に配置されている。注射針は加熱室に流体的に結合されており、扁平部以外の場所において硝子体内への挿入が可能となる長さと直径とを有している。プランジャ組立体は加熱室内に少なくとも部分的に配置されたロッドを有している。ヒータ組立体は加熱室を加熱して、投与量形状部を固体状態から液体状態まで変化させ、ロッドは注射針を通じて投与量形状部を注入することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のさらなる完全な理解のため、ならびに本発明の追加の目的および効果のために、添付図面と一緒に以下の記載も参照されたい。
本発明の好ましい実施形態およびそれらの利点は、添付図面の図1〜図3と各種図面の同様な部分および対応する部分に使用される同様な参照符号とを参照することによって最もよく理解される。
【0008】
眼科用注射器5は概して、ハウジング10、プランジャ組立体12、作動組立体14、ノーズコーン16、ヒータ組立体18、注射針19、および投与量形状部60を含んでいる。ハウジング10は、ピン取付部20とピン(図示しない)とを介して取外し可能に摩擦結合された左ハウジング10aと右ハウジング10bとを含んでいる。ハウジング10は、好ましくは眼科用注射器5を把持するための部位11を含んでいる。プランジャ組立体12は、好ましくは、遠位ロッド22、基部24、および近位ロッド26を含んでいる。近位ロッド26は、調整ナット30に回転可能に結合するためのネジ山付き端部28を有している。プランジャ組立体12は、さらに、眼科用注射器5の各種表面を流体的に封止するOリング29を含んでいる。作動組立体14は、好ましくはプランジャ組立体12を受容していて加圧流体の流量を保持するためのボア34を有するシリンダ32である。加圧流体は好ましくは空気である。シリンダ32は、好ましくは開口38内に配置するための継手36を有している。継手36は、ボア34と流体的に連通する内腔(lumen)40を有している。内腔40は、細管41に流体的に結合されている。細管41は、眼科用注射器5の外部にある加圧流体43の源に流体的に結合している。ノーズコーン16は、好ましくは加熱室42とヒータ組立体取付具48とを含んでいる。ノーズコーン16は、好ましくは高い熱伝導率を有する材料、最も好ましくはアルミニウムから作製される。ヒータ組立体18は、ヒータ組立体取付具48に係合するための形状を有する本体50を含んでいる。ヒータ組立体18は、さらにインターフェース51に電気的に結合された入力線52を有している。インターフェース51は、眼科用注射器5の外部にある動力源53と電気的に結合している。注射針19は、加熱室42に流体的に連通している自己封止式の注射針である。注射針19は、好ましくは、約0.5mmから約5mmの長さを有する、23ゲージ(gage)〜25ゲージのステンレス鋼製の注射針である。
【0009】
薬剤62を含む投与量形状部60は、眼科用注射器5の製造時に殺菌状態で加熱室42内に配置される。投与量形状部60は、液体状態で眼に供給することが可能な低融点の投与量形状部であり、標的部位において凝固して、制御または維持された投入量の薬剤62を標的部位へ供給する。投与量形状部60は、好ましくは約40度と約80度との間における融点を有していて、好ましくは生体内において凝固するときに生体分解可能かまたは生体内分解可能である。投与量形状部60は、好ましくは加熱され、液体状態で加熱室42に配置され、次いで凝固される。加熱室42は、好ましくは約1μLから約100μLまでの投与量形状部60を保持する。当然のことながら、投与量形状部60の所望される量は、異なる薬剤62を備えた投与量形状部に応じて変更可能である。薬剤62は眼科的に許容可能なあらゆる薬剤であってもよい。薬剤62は、好ましくは眼の後区の病気または健康状態の治療または防止のための眼科的に許容可能な薬剤であって、年齢に関連した、黄斑変性症(ARMD)、脈絡膜血管新生(CNV)、網膜症(例えば糖尿病性網膜症、硝子体網膜症)、網膜炎(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)性網膜炎)、ブドウ膜炎、黄斑浮腫、緑内障、および神経障害の薬剤を含む。投与量形状部60は、投与量形状部60の融点を変更するための賦形剤を含む眼科的に許容可能な賦形剤であってもよい。
【0010】
一旦、投与量形状部60が加熱室42に配置されると、左ハウジング10aと右ハウジング10bとがピンとピン取付部20とを介して固定されうる。次いで、調整ナット30を近位ロッド26のネジ山付き端部28に沿って適切な位置まで移動して、投与量形状部60の適切な量のためにプランジャ組立体12の投入距離を調整する。次いで、調整ナット30を、好ましくは所定の位置に固定し、後続の調整を防止する。次いで、眼科用注射器5は、最終的な梱包および殺菌の状態に置かれる。
【0011】
加圧流体43の源と電源53とは、好ましくはインターフェース66、68を介してコンピュータまたはマイクロプロセッサ64にそれぞれ電気的に結合されている。さらに、コントローラ70は、好ましくはインターフェース72を介してマイクロプロセッサ64に電気的に結合されている。コントローラ70は、好ましくは足踏み式コントローラである。
【0012】
薬剤を眼に供給する眼科用注射器5の好ましい使用方法をさらに詳細に記述する。眼科用注射器5は、薬剤を眼の後区に供給するのに特に有益である。注射針19が網膜を通じて挿入された場合であっても、注射針19は短くて自己封止性であるので、網膜組織の大部分に支障を来たす可能性が少ない状態で、眼科用注射器5を扁平部以外の場所において硝子体に挿入できる。後区のあらゆる場所に投与量形状部を注入する眼科用注射器5の能力は、特定の標的組織において薬剤濃度を最大にするとともに、毒性の副作用に対する潜在性を少なくする。さらに、眼科用注射器5は投与量形状部を眼の後区または前区の他の部分まで注入するのに使用されうる。
【0013】
薬剤を供給する前に、看護師は細管41を加圧流体の源へ流体的に結合して、インターフェース51を電源53に電気的に結合する。滅菌の分野において、医師はコントローラ70を介して電源53を起動する。ヒータ組立体18は、ノーズコーン16、従って加熱室42を加熱し、それにより、投与量形状部60は固体から液体状態に迅速に変換するようになる。マイクロプロセッサ64は、好ましくは特定の投与量形状部60のために電力量と加熱時間とをカスタマイズする。医師は部位11を介して眼科用注射器5を把持して、麻酔された患者に対する供給行為を開始する。注射針19は、標的組織に近接する後区の部分において眼の硝子体内に注入される。作動組立体14は、コントローラ70を介して加熱室42内に遠位ロッド22を移動させるように作動される。マイクロプロセッサ64は、好ましくは特定の投与量形状部60のために作動圧力と時間とを制御する。液化した投与量形状部60は、加熱室42から注射針19を通じて標的組織まで流入する。一旦、標的組織に到達すると、投与量形状部60は標的組織において凝固し、制御または維持された薬剤62の投入供給を開始する。医師は硝子体から注射針19を取除き、注射針19により形成された開口は自己封止される。細管41とインターフェース51とは、電源43と加圧流体53の源とからそれぞれ取外される。次いで、眼科用注射器5は、好ましくは鋭利物収集器内に配置される。
【0014】
マイクロプロセッサ64は電源53を制御し、それによりヒータ組立体18は、投与量形状部60が注射針19を通過する間、投与量形状部60が標的組織に到達するまで、液状形態を維持する温度に投与量形状部60を加熱する。ただし、その温度は標的組織を損傷または刺激する温度よりも低い。ノーズコーン16と注射針19との間の受動的な潜在的に熱伝達は、好ましくはこのプロセスを容易にし、電気的コイルまたは他の加熱装置を介して注射針19を能動的に加熱する必要性を排除する。
【0015】
前述した内容から、本発明は安全に効果的で速度制御されながら様々な薬剤を眼、特に眼の後区にまで局所的に供給するための改良された装置と方法とを提供することが十分に理解されるであろう。本発明は実施例により本願明細書に示されており、当該技術分野の当業者であれば様々な修正を行うことができる。例えば、本発明は空気圧式の作動組立体14を有するプランジャ組立体12を使用するものとして記載したが、様々な他の機械式または電気機械式のプランジャ組立体と作動組立体とが利用されてもよい。例えば、バネの作用によるプランジャ組立体、プランジャを備えていて電気的に動作するリニアアクチュエータ、またはプランジャを備えていて電気的に動作するステップモータである。他の実施例として、注射器5は薬剤を眼以外の体内にある標的組織に供給するのに使用されている。
【0016】
本発明の作用および構造は前述した記載から明らかであると考える。図示または前述された本装置と方法とは好ましいものとして特徴付けられたものであり、特許請求の範囲に記載した本発明の精神と範囲とから逸脱することなしに様々の変更および修正が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明に係る好ましい実施形態による眼科用注射器の平面図である。
【図2】図2は線2−2に沿った図1の注射器の側断面図である。
【図3】図3は図1の注射器の分解斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱室を有するノーズコーンと、
前記加熱室内に固体状態で配置される投与量形状部と、
前記加熱室に流体的に結合される注射針と、
前記加熱室内に少なくとも部分的に配置されるロッドを有するプランジャ組立体と、
前記ノーズコーンに配置されたヒータ組立体とを備え、
前記ヒータ組立体は、前記ノーズコーンと前記加熱室とを加熱して、前記投与量形状部を固体状態から液体状態まで変化させ、前記ノーズコーンは前記液体状態である前記投与量形状部が前記注射針内において再凝固するのを防止するのに十分な熱を前記注射針に伝達する眼科用注射器。
【請求項2】
前記ヒータ組立体は前記注射針を能動的に加熱しないようにした請求項1記載の眼科用注射器。
【請求項3】
眼に対する注射器であって、前記眼は扁平部と硝子体と網膜とを有する注射器において、
加熱室と、
前記加熱室内に固体状態で配置される投与量形状部と、
前記加熱室と流体的に結合される注射針とを備え、該注射針は、前記扁平部以外の場所において前記硝子体内への挿入が可能となる長さと直径とを有しており、
さらに、
前記加熱室内に少なくとも部分的に配置されるロッドを有するプランジャ組立体と、
前記加熱室を加熱するヒータ組立体とを備え、該ヒータ組立体は、前記投与量形状部を固体状態から液体状態まで変化させ、前記ロッドが前記注射針を通じて前記投与量形状部を注入することを可能とする注射器。
【請求項4】
前記注射針は23またはそれ以上のゲージを有する請求項3記載の注射器。
【請求項5】
前記注射針は23から25までのゲージを有する請求項4記載の注射器。
【請求項6】
前記注射針は約0.5mmから約5mmまでの長さを有する請求項3記載の注射器。
【請求項7】
前記注射針は約0.5mmから約5mmまでの長さを有する請求項5記載の注射器。
【請求項8】
前記注射針は前記網膜を通じて前記硝子体内に挿入可能である請求項3記載の注射器。
【請求項9】
前記注射針は前記網膜を剥離することなしに前記網膜を通じて前記硝子体内に挿入可能である請求項8記載の注射器。
【請求項10】
前記注射針は自己封止式である請求項3記載の注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−505724(P2009−505724A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527918(P2008−527918)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/027955
【国際公開番号】WO2007/024369
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】