説明

眼鏡用合わせガラスレンズ

【課題】眼鏡用合わせガラスレンズが優れた防眩性を奏するように、非常に薄い接着剤層に所要の濃度でテトラアザポルフィリン化合物を配合できるようにし、しかも色むらが生じないように配合して、眼鏡用合わせレンズに所期される光吸収能の波長585nm付近の遮光を充分に行なわせることである。
【解決手段】眼鏡用合わせガラスレンズは、接着剤層1を介して2枚のガラスレンズ基材2、3(厚さ約1mm)を貼り合わせ、波長565〜605nmに可視光分光透過率の主吸収ピークを有するものであり、所定の無溶剤系の接着剤にテトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤と共に配合した液状のものをガラスレンズ基材2上に滴下し(図中、液滴1aを鎖線で示す。)、その上から別のガラスレンズ基材3を載せて比較的軽い負荷で押し付けて層状に広げ、接着剤層1を厚さ5〜150μmで硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定波長域について光吸収性能を有する眼鏡用合わせガラスレンズ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、眼鏡用ガラスレンズに特定波長域に光吸収性のある無機系または有機系の色素を配合することにより、防眩性や視認性の良い機能を付与できることが知られている。
【0003】
例えば、眼に有害な光線を含有し、且つ眼に眩しさを感じさせる太陽光線の透過を調整するために、サングラスが使用されているが、眩しさを抑えるためには、標準比視感度曲線の中心波長近傍の透過率を抑える事が大切である。
【0004】
一般的なサングラスでは、全ての波長部分の透過率を抑えられてしまっているものが多く、そのようなものでは、薄暮などの光線が少ない環境下ではサングラスを使用したときに視野が極端に暗くなり、外界の物体(信号、釣りの浮き)を視認するのに支障を来たしている。即ち、このようなサングラスでは、眩しさを抑えようとした結果、全体の透過光線量が減少しすぎ対象物を充分に視認出来ない。
【0005】
全体的な明るさを維持しながらも標準比視感度曲線の中心波長近傍の透過率を抑えて防眩効果を発揮するサングラスとしては、ガラスにネオジムなどを含有させて580nm付近の光線を吸収させるサングラスが知られている。
【0006】
ガラス製眼鏡レンズに配合される波長585nm付近の可視光を遮光する無機系色素としては、ネオジムイオンを供給するネオジム系色素化合物が挙げられる。具体的なネオジム系色素化合物としては、酢酸ネオジム、塩化ネオジム、硝酸ネオジム、酸化ネオジム、ネオジム−2,4−ペンタンジオネート、ネオジムトリフルオロペンタンジオネート、フッ化ネオジム、硫酸ネオジム等の無水物や水和物が挙げられる(特許文献1)。
【0007】
また、ネオジム系色素化合物と同様に波長585nm付近の可視光を遮光する有機系色素としては、テトラアザポルフィリン化合物が知られており、これはプラスチック製レンズに0.0002〜0.05重量%程度配合して用いられていた(特許文献2)。
【0008】
また、二枚のガラスレンズの間にポリマー薄膜層を介して重ね合わせのため、接着剤を使用し、その接着剤にベンゾトリアゾール(BTA)のような波長400nm以下程度の波長を吸収する紫外線吸収剤が添加されたガラスレンズが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平 9−188796号公報(段落0012など)
【特許文献2】特開2008−134618号公報(請求項4、6、8、段落0069など)
【特許文献3】特開2004−279512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記した従来技術のうち、防眩性を奏するようにテトラアザポルフィリン化合物を配合する特許文献2に記載された発明は、この化合物を配合する対象の材料が実際には比較的低融点のプラスチック製レンズ材料に限定されてしまい、眼鏡レンズ材料として汎用されるガラスレンズに直接混合することはできなかった。
なぜならガラスの溶融成形時には、テトラアザポルフィリン化合物が熱分解されてしまい、レンズには所期した光吸収能である波長585nm付近の遮光が不充分になってしまうからである。
【0011】
また、本願の発明者らはテトラアザポルフィリン化合物を接着剤に配合することを試みたが、2枚のレンズ間に非常に薄い厚みで形成される接着剤層に対して配合することについて種々の困難性があった。
【0012】
すなわち、テトラアザポルフィリン化合物の本来の機能として、サングラスなどの眼鏡として所定波長域で所期した光吸収機能を発揮させるためには、非常に薄い厚みで形成される接着剤層に高い濃度で配合することが必要となるが、テトラアザポルフィリン化合物のガラスレンズ用接着剤への溶解性が低いために、そのような適切な配合が困難であった。
【0013】
また、眼鏡レンズに色むらが生じて実用性を失しないように、非常に薄い接着剤層に対してテトラアザポルフィリン化合物をできるだけ高い濃度で均一に分散させる必要があるが、そのような配合は困難であった。
【0014】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、眼鏡用合わせガラスレンズが優れた防眩性を奏するように、非常に薄い接着剤層に所要の濃度でテトラアザポルフィリン化合物を配合できるようにし、しかも色むらが生じないように配合して、眼鏡用合わせレンズに所期される光吸収能の波長585nm付近の遮光を充分に行なわせることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、この発明においては、接着剤層を介して複数のガラス製眼鏡レンズ基材を貼り合わせ、波長565〜605nmに可視光分光透過率の主吸収ピークを有するように色素を具備した眼鏡用合わせガラスレンズにおいて、前記接着剤層は、無溶剤系の接着剤にテトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤と共に配合した厚さ5〜150μmの接着剤層であることを特徴とする波長565〜605nmに可視光分光透過率の主吸収ピークを有する眼鏡用合わせガラスレンズとしたのである。
【0016】
上記したように構成されるこの発明の眼鏡用合わせガラスレンズは、無溶剤系接着剤にテトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤と共に配合することにより、所要の濃度でテトラアザポルフィリン化合物を接着剤に配合することができ、しかも極めて均一に溶解または分散させて配合できる。これにより眼鏡用合わせガラスレンズには、所期した光吸収能である波長585nm付近の遮光が充分に発揮できる。
【0017】
上記の所期した光吸収能をより充分に発揮させるためには、硬化後の接着剤層にも有機溶剤がある程度残存し、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1.2重量%以下、さらに好ましくは0.2〜1.2重量%含有する接着剤層であることが、色素の均一な溶解性および分散性のために好ましい。
【0018】
また、色素はテトラアザポルフィリン化合物と共にネオジム系色素化合物を併用した色素であることが好ましい。
ネオジム系色素化合物を併用することにより、波長565〜605nmに存在する可視光分光透過率の主吸収ピークはさらに充分に低下する。
【0019】
前記した接着剤層は、厚さ5〜150μmとする。5μ未満の薄い層では接着力が安定せず、かすれや外観不良が発生しやすいという欠点があり、150μmを越える厚い層では気泡入りや歪みが生じやすいからである。
【0020】
また、眼鏡用合わせガラスレンズが、偏光フィルム層を有する合わせガラスレンズである構成を採用した上記の眼鏡用合わせガラスレンズとすることもできる。
偏光フィルム層を備えることにより、構成される偏光眼鏡用合わせガラスレンズは、防眩性に優れた偏光眼鏡を構成できるものとなり、とくにその偏光性能は偏光フィルムが、ポリビニルアルコールからなり、かつ偏光剤がヨウ素系の偏光剤である場合に優れたものになる。
【0021】
上記したような高い性能を有するこの発明の眼鏡用合わせガラスレンズは、以下のようにして製造することができる。すなわち、テトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤に溶解し、得られた色素溶液を無溶剤系の接着剤に配合して粘度100〜2000mPa・sの色素含有接着剤液を調製し、この色素含有接着剤液をガラスレンズ基材に塗布し、その上に別のガラスレンズ基材を配置し、これら2枚のガラスレンズ基材の間に厚さ5〜150μmの接着剤層を介して重ね合わせ一体化して眼鏡用合わせガラスレンズを製造することができる。
【0022】
または、テトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤に溶解し、得られた色素溶液を無溶剤系の接着剤に配合して粘度100〜2000mPa・sの色素含有接着剤液を調製し、この色素含有接着剤液をガラスレンズ基材または偏光フィルムに塗布し、2枚のガラスレンズ基材の間に前記偏光フィルムを配置して前記ガラスレンズ基材と前記偏光フィルムの間に厚さ5〜150μmの接着剤層を介して重ね合わせ一体化して偏光眼鏡用合わせガラスレンズを製造することができる。
【0023】
このような製造方法によれば、テトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤に所定濃度で溶解したものが、無溶剤系の接着剤に溶解または均一に分散したものになり、これを所定の粘度100〜2000mPa・sの色素含有の接着剤液を調製することにより、塗液中に均一に色素が分散するように配合できる。
【0024】
なお、所定範囲未満の粘度では所望の接着層の厚さが得られにくくなり、所定範囲を超える粘度では整合するようにきれいに積層し難くなって作業性が極端に悪くなって好ましくない。また、接着剤層が、有機溶剤を所定の微量を含有することにより色素の均一な溶解性および分散性が保たれる。
【0025】
このような条件を採用することにより、非常に薄い接着剤層に所要濃度でテトラアザポルフィリン化合物を配合しても、なお極めて均一に溶解または分散させて配合することができるようになる。
【発明の効果】
【0026】
この発明の眼鏡用合わせガラスレンズは、無溶剤系の接着剤にテトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤と共に配合した厚さ5〜150μmの接着剤層を有するとしたから、非常に薄い接着剤層に所要濃度でテトラアザポルフィリン化合物を均一に溶解または分散させて保持できるようになり、これにより所期した光吸収能である波長585nm付近の遮光が充分に発揮できるものになる利点がある。
【0027】
また、この発明の眼鏡用合わせガラスレンズの製造方法では、所要濃度でテトラアザポルフィリン化合物を所定の接着剤層中に極めて均一に溶解または分散させて配合することができるようになり、上記の所期した高性能を発揮できる偏光眼鏡などにも用いられる眼鏡用合わせガラスレンズを効率よく確実に製造できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態の接着剤層の形成状態を説明する眼鏡用合わせガラスレンズの部品分解断面図
【図2】第1実施形態の眼鏡用合わせガラスレンズの断面図
【図3】第2実施形態の接着剤層の形成状態を説明する眼鏡用合わせガラスレンズの部品分解断面図
【図4】実施例1の眼鏡用合わせガラスレンズの分光スペクトルを示し、波長と透過率の関係を示す図表
【図5】実施例3の眼鏡用合わせガラスレンズの分光スペクトルを示し、波長と透過率の関係を示す図表
【図6】比較例1の眼鏡用合わせガラスレンズの分光スペクトルを示し、波長と透過率の関係を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の実施形態を以下に添付図面を参照しながら説明する。
図1、2に示すように、第1実施形態の眼鏡用合わせガラスレンズは、接着剤層1を介して2枚のガラスレンズ基材2、3(厚さ約1mm)を貼り合わせ、波長565〜605nmに可視光分光透過率の主吸収ピークを有するものであり、波長565〜605nmに可視光分光透過率の主吸収ピークを有するように所定の色素を具備し、所期した防眩性と共に視認性のバランスのとれたものを奏するものである。
【0030】
このような実施形態の接着剤層1は、所定の無溶剤系の接着剤にテトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤と共に配合した液状のものをガラスレンズ基材2上に滴下し(図中、液滴1aを鎖線で示す。)、その上から別のガラスレンズ基材3を載せて比較的軽い負荷で押し付けて層状に広げ、接着剤層1の厚さを5〜150μmとなるように硬化させたものである。
【0031】
実施形態を構成する2枚以上のガラスレンズ基材2、3の素材は、ガラスの材質としては周知なソーダガラス、フリントガラスやクラウンガラスなどのガラス素材を採用することができ、度付でないサングラスなどの眼鏡を作製するためには厚さ1mm程度のものを採用すればよい。また、度付の眼鏡レンズを作製する場合には、例えば片面に1〜2cm程度の適当な厚みの眼鏡レンズ素材を採用する。
【0032】
この発明に用いる無溶剤系の接着剤は、高分子化合物の未硬化状態でのモノマーやオリゴマーを主成分として硬化剤(重合開始剤、光吸収剤その他の添加剤を含む)と共に配合したものであり、紫外線その他による光重合などの化学反応によって硬化するものである。具体例としては、アクリル樹脂系紫外線硬化型接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、変成シリコーン樹脂系接着剤などが挙げられる。因みに光吸収剤としては、400nmまでの紫外線を吸収するベンゾトリアゾール(BTA)などが挙げられる。
【0033】
接着剤層の厚さを5〜150μmにコントロールするための手法としては、ガラス基材と同じ屈折率を有する前記層厚程度の微小なガラスビーズを接着剤に混合する手法を挙げることができる。
【0034】
この発明に用いる色素のうち、必須成分のテトラアザポルフィリン化合物は、下記の化1の式で示される周知なものであり、さらに化2の式で示されるものの市販品として、三井化学社製:PD−311S、山田化学工業社製:TAP−2、TAP−9などを採用することができる。
【0035】
【化1】

【0036】
[化1中、A1〜A8は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数1〜20の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数6〜20のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、2価の1置換金属原子、4価の2置換金属原子、又はオキシ金属原子を表す。]
【0037】
【化2】

【0038】
[化2中、Cuは2価の銅を、t−Cはターシャリーブチル基を表し、その4個の置換基の置換位置は化1におけるそれぞれA1とA2、A3とA4、A5とA6及びA7とA8のいずれかひとつの位置に置換されている位置異性体構造を表す。]
【0039】
この発明でいう波長565〜605nmに存在させる可視光分光透過率の主吸収ピーク(透過率に同じ)は、眼鏡レンズに期待される性能に合わせて調整することも可能であるが、できれば可視光分光透過率の主吸収ピークが、透過率10%以下の主吸収ピークであることが好ましい。このような主吸収ピークであれば、色素による良好な防眩性および視認性が極めて充分に奏されているといえる。
【0040】
テトラアザポルフィリン化合物を含む色素を無溶剤系の接着剤に配合する際、使用する有機溶剤としては、テトラアザポルフィリン化合物が溶解するものであればよく、メチルエチルケトン(MEK)の他、ヘキサン、ヘプタン、アセトン、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルムなどが挙げられる。このようにケトン系の溶媒は、この発明に用いる有機溶媒として適用できることが判明している。
【0041】
そして、前述したように、この発明では硬化後の接着剤層にも有機溶剤をある程度残存させるようにしており、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1.2重量%以下、さらに好ましくは0.2〜1.2重量%含有する接着剤層であることが、色素の均一な溶解性および分散性のために好ましい。
【0042】
有機溶剤を全く配合せずにテトラアザポルフィリン化合物を含む色素を無溶剤系の接着剤に配合すると、2次凝集により分散不良が生じて好ましくない。また、有機溶剤が適量を超えて接着剤層に残存すると、接着剤層の硬化が充分に起こらず、または硬化時間が長くなりすぎて実用性が損なわれて好ましくない。
【0043】
また、この発明に用いる色素としては、上記したテトラアザポルフィリン化合物以外にも必要に応じて、ネオジム系色素化合物や紫外線吸収性色素もしくは赤外線吸収性色素または両色素などを併用して添加可能である。これらは接着剤層に配合する場合がある他、可能な場合にはガラスレンズに添加するか、またはガラス表面などへのコーティングによって層状に設けることができる。
【0044】
ネオジム系色素化合物としては、前述したような公知な化合物である酢酸ネオジム、塩化ネオジム、硝酸ネオジム、酸化ネオジム、ネオジム−2,4−ペンタンジオネート、ネオジムトリフルオロペンタンジオネート、フッ化ネオジム、硫酸ネオジム等の無水物や水和物が挙げられる。
【0045】
紫外線吸収性色素としては、例えば下記のようなものが挙げられる。
(1) 2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン
(2) 4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン
(3) 2−2´−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン
【0046】
これらの紫外線吸収剤を用いる際には、波長の長いUV−A(315〜400nm)と波長の短いUV−B(280〜315nm)とそれ以下のUV−C(100〜280nm)の全ての紫外線を吸収させることが好ましい。
【0047】
たとえば溶接光の青色炎を消す為には、波長380〜450nmを吸収する必要があり、偏光フィルムと赤外線吸収剤を使用する場合は、染料を入れなくても吸収するが、偏光フィルムを使用しない場合には、樹脂に青色を吸収する黄色染料、橙染料、赤染料及びそれらの混合物を使用する。
【0048】
そして、眼鏡用レンズをブラウン系の色調にするには、黄色染料、橙色染料、赤色染料等やこれらの混合物を使用する。レンズを着色せず、レンズ成形後に染色することも可能である。
【0049】
赤外線吸収剤としては、波長780〜2500nmの範囲に渡って赤外線を吸収する赤外線吸収剤を選定すればよく、周知の赤外線吸収色素を採用できるが、例えば下記のようなものを使用することが好ましい。
【0050】
(1) N,N,N´,N´−テトラキス(p-置換フェニル)-p−フェニレンジアミン類、ベンジジン類及びそれらのアルミニウム塩、ジイモニウム塩からなる赤外線吸収剤。
(2) N,N,N´,N´−テトラアリールキノンジイモニウム塩類。
(3) ビス−(p-ジアルキルアミノフェニル)〔N,N-ビス(p-ジアルキルアミノフェニル
)p-アミノフェニル〕アルミニウム塩。
【0051】
眼鏡用合わせガラスレンズが、偏光フィルム層を有する偏光レンズである場合には、素材の偏光フィルムは、周知製法に従って得られる。例えばポリビニルアルコール製フィルムにヨウ素もしくはヨウ素化合物または染料を含浸等によって含ませ、一軸延伸したものを採用することが好ましい。
【0052】
図3に示すように、第2実施形態の偏光眼鏡用レンズは、厚さ1.5cmのガラスレンズ基材4上に接着剤層1を前述のようにして形成する際、偏光フィルム5を載せてラミネートし、さらにその上に接着剤層6を形成するように厚さ1mmのガラスレンズ基材7を載せて軽い負荷で押し付けながら硬化させたものである。なお、図3中、6aは接着剤の液滴を示している。
【0053】
また、上記した製法の他にも、化学反応によって硬化する無溶剤系の接着剤の硬化反応を伴うインサート成形により偏光フィルムの両側に例えば5〜150μmの間隙を開けて配置した偏光フィルムの両面とレンズ材料との間隙に接着剤を注入し、偏光フィルムを眼鏡用レンズ基材とを一体化させてレンズ素材を製造し、レンズ度数の必要に応じて研削や研磨を経て製品化することができる。
【0054】
このようにして得られた眼鏡用合わせガラスレンズは、従来のネオジム含有のガラス製のレンズに比べてレンズ周縁部分からの耐圧性に優れており、眼鏡枠に嵌めた状態での割れが防止できる点でも優れた使用耐久性を示すものであった。その強度は、特に異質のガラス基材を張り合わせた場合に比べて、同質のガラス基材を貼り合わせることによって向上した。
【実施例1】
【0055】
厚さ1mmのソーダガラスで凸面側ガラス基材(8カーブレンズ)を作製すると共に、凹面側ガラス基材(7.999カーブ)を作製し、別途、紫外線硬化型接着剤(ヘンケルジャパン製:#3201)を1000gに対して、前記化2に示される色素としてテトラアザポルフィリン化合物(三井化学社製:染料PD311S)を1.5gと紫外線吸収剤3gをMEK10gに溶解させ、これらを混合してから真空脱気させた色素含有の接着剤組成物を調製し、これを塗布した前記ガラス基材を用いて偏光フィルムを挟んでラミネートし、その後、UV照射して硬化させ、偏光眼鏡用合わせガラスレンズを得た。
【0056】
なお、上記した偏光フィルムは、厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(通称ビニロンフィルム)を4倍に一軸延伸した後、ヨウ素0.1重量%を含む水溶液(染料液)に浸漬し、その後にホウ酸3重量%を含有する水溶液に浸漬し、液切りした後、70℃で5分間加熱処理して複数枚の偏光フィルム(厚さ30μm)を製造した。
得られた偏光眼鏡用合わせガラスレンズについて、分光透過率を日立製作所社製:U−2000スペクトロフォトメーターで測定し、波長と透過率の関係を図4に示した。
【0057】
図4の結果からも明らかなように、580nmでの波長吸収性能は従来の酸化ネオジム入りガラスよりも吸収性能が優れるものが得られた。また、真空脱気された接着剤からは有機溶剤のMEKが含有量0.2重量%またはそれ以下まで除去されたが、非常に薄い接着剤層に所要の濃度でテトラアザポルフィリン化合物を配合でき、しかも色むらが生じないものが得られた。
【実施例2】
【0058】
実施例1において、MEK10gに代えてアセトン2gを使用し、真空脱気を行なわず、接着剤層が、有機溶剤(アセトン)を2重量%含有するようにしたこと以外は、実施例1と同様にして偏光眼鏡用合わせガラスレンズを製造した。
【0059】
実施例2についても実施例1と同様にスペクトロフォトメーターで測定したが、580nmでの波長吸収性能を含めて波長と透過率の関係は実施例1と全く同様に優れており、非常に薄い接着剤層に所要の濃度でテトラアザポルフィリン化合物を配合でき、しかも色むらが生じないものが得られた。
【実施例3】
【0060】
実施例1において、色素としてテトラアザポルフィリン化合物(三井化学社製:染料PD311S)1.5gを使用することに代えて、色素としてテトラアザポルフィリン化合物(三井化学社製:染料PD311S)0.8gおよび硝酸ネオジム10gを使用したこと以外は、実施例1と全く同様にして偏光眼鏡用合わせガラスレンズを製造した。
実施例3についても実施例1と同様にスペクトロフォトメーターで測定し、波長と透過率の関係を図5に示した。
【0061】
図5の結果からも明らかなように、580nmでの波長吸収性能は特に優れたものが得られ、また、酸化ネオジムに特有の波長吸収性能も併せて発揮されており、また、非常に薄い接着剤層には色むらがなく、優れた特性の偏光眼鏡用合わせガラスレンズが得られた。
【実施例4】
【0062】
実施例1における「これを塗布した前記ガラス基材を用いて偏光フィルムを挟んでラミネートし、その後、UV照射して硬化させ、」という工程に代えて、「樹脂製ガスケットで二枚のガラス製眼鏡レンズ基材を100μmの間隙を開けて保持し、その間隙に実施例1で調製された色素含有の接着剤組成物を注入し、その後、UV照射して硬化させ、」という工程を採用したこと以外は、実施例1と同様にして偏光眼鏡用合わせガラスレンズを得た。
【0063】
[比較例1]
ソーダガラスレンズ中に酸化ネオジムを含有する市販のネオジムガラスを用いた。
実施例1と同様に分光透過率を日立製作所社製:U−2000スペクトロフォトメーターで測定し、波長と透過率の関係を図6に示した。
図1の結果からも明らかなように、酸化ネオジム入りガラスは、580nmでの波長吸収性能が実施例1の性能に比べて劣っていた。
【0064】
[比較例2]
実施例1において、無溶剤系の接着剤である紫外線硬化型接着剤(ヘンケルジャパン製:#3201)に代えて、溶剤型接着剤の酢酸ビニル樹脂系の市販接着剤を用いたところ、硬化後の接着剤層中に気泡が生じ、良質の眼鏡用合わせガラスレンズが得られなかった。
【符号の説明】
【0065】
1、6 接着剤層
2、3、4、7 ガラスレンズ基材
5 偏光フィルム
1a、6a 液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤層を介して複数のガラス製眼鏡レンズ基材を貼り合わせ、波長565〜605nmに可視光分光透過率の主吸収ピークを有するように所定の色素を具備した眼鏡用合わせガラスレンズにおいて、
前記接着剤層は、無溶剤系の接着剤にテトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤と共に配合した厚さ5〜150μmの接着剤層であることを特徴とする眼鏡用合わせガラスレンズ。
【請求項2】
接着剤層が、有機溶剤を2重量%以下含有する接着剤層である請求項1に記載の眼鏡用合わせガラスレンズ。
【請求項3】
色素が、テトラアザポルフィリン化合物と共にネオジム系色素化合物を併用した色素である請求項1または2に記載の眼鏡用合わせガラスレンズ。
【請求項4】
眼鏡用合わせガラスレンズが、偏光フィルム層を有する合わせガラスレンズである請求項1〜3のいずれかに記載の眼鏡用合わせガラスレンズ。
【請求項5】
偏光フィルムが、ポリビニルアルコールからなり、かつ偏光剤がヨウ素系の偏光剤である請求項4に記載の眼鏡用合わせガラスレンズ。
【請求項6】
テトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤に溶解し、得られた色素溶液を無溶剤系の接着剤に配合して粘度100〜2000mPa・sの色素含有接着剤液を調製し、この色素含有接着剤液をガラスレンズ基材に塗布し、その上に別のガラスレンズ基材を配置し、これら2枚のガラスレンズ基材の間に厚さ5〜150μmの接着剤層を介して重ね合わせ一体化することからなる眼鏡用合わせガラスレンズの製造方法。
【請求項7】
テトラアザポルフィリン化合物を含む色素を有機溶剤に溶解し、得られた色素溶液を無溶剤系の接着剤に配合して粘度100〜2000mPa・sの色素含有接着剤液を調製し、この色素含有接着剤液をガラスレンズ基材または偏光フィルムに塗布し、2枚のガラスレンズ基材の間に前記偏光フィルムを配置して前記ガラスレンズ基材と前記偏光フィルムの間に厚さ5〜150μmの接着剤層を介して重ね合わせ一体化することからなる眼鏡用合わせガラスレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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