説明

着座者の骨盤の倒れ角測定装置

【課題】着座者の着座に伴う筋疲労を低減することができるシートであるか否かの評価分析を簡単かつ正確に行うことができる着座者の骨盤の倒れ角測定装置を提供する。
【解決手段】円形リング状の模擬臀部10と架け渡し部材20と模擬坐骨結節部30と上肢錘40と模擬腰椎プレート50を備え、模擬臀部10がシートクッション2に載置され、上肢錘40が錘取り付け部21に取り付けられると、上肢錘40の重量により模擬坐骨結節部30の下端部30Kを中心として後方に回転するとともに、模擬腰椎プレート50がシートバック3を押圧変形させて回転が停止し、模擬坐骨結節部30の下端部30Kを中心とする模擬坐骨結節部30の回転角から着座者の骨盤4の後方への倒れ角が求められるよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
シートに着座した着座者の骨盤の後方への倒れ角を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
着座者がシートに着座している時のシートクッションに加わる圧力分布の例を図7(a)に示し、坐骨結節部(着座した時に臀部を介して床面に当接する骨盤の下端部の突起部)を図6に示してある。図7(a),図7(b)において隣り合う線の間隔が狭い箇所ほど圧力が高いことを示し、ハッチング部分はさらに圧力が高いことを示している。図7(a)に示すように、臀部の骨盤4の坐骨結節部7が当接する部分Aにおいて、シートクッション2に加わる圧力の値が非常に高いことが分かる。このように、着座者がシート1に着座している時にシートクッション2に加わる圧力の中で最も大きな圧力は坐骨結節部7から加わる集中した圧力である。
また、着座者がシートに着座している時のシートバックに加わる圧力分布の例を図7(b)に示し、脊椎を図8に示してある。これらの図に示すように、骨盤の上部である仙骨78〜腰椎77が当接する部分Bにおいて、シートバック3に加わる圧力の値が非常に高いことが分かる。このように、着座者がシート1に着座している時にシートバック3に加わる圧力の中で最も大きな圧力は骨盤上部と腰椎77にわたる部分から加わる集中した圧力である。符号75は頚椎、76は胸椎、79は尾骨である。
【0003】
従って、着座時にシートクッションのシート面と当接している骨盤のシート面に対する角度は着座者の姿勢に大きく影響を及ぼし非常に重要である。そして、着座者の疲労を低減するためには、骨盤の傾斜角(倒れ角)が大きくならないようにシートを製作する必要がある。
その方法として、多くの車のシートバックの腰椎付近には、ランバーサポートと呼ばれる突起部が設置されている(特許文献1参照)。また、最近では腰椎ではなく、骨盤上端にランバーサポートを位置させることで骨盤を直接押さえ、後転を抑制することで姿勢変化を少なくさせて疲労を軽減させるシートが開発されている。
このように自動車の各メーカでは、骨盤回転を抑制するための構造をシートバックに組み込んでいるが(特許文献2も参照)、現状では組み上がったシートに対して、骨盤の倒れ角を求める測定方法や装置は無く、人間が着座して官能評価を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−36599号公報
【特許文献2】特許3163775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術によれば、着座者の疲労を低減することができるシートであるか否かを評価する場合、人間が着座して官能評価を行っていたために、評価分析が難しく、評価分析に時間を要すといった問題があった。
本発明は上記実状に鑑みて成されたもので、その目的は、着座者の疲労を低減することができるシートであるか否かの評価分析を簡単かつ正確に行うことができる着座者の骨盤の倒れ角測定装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特徴は、
シートに着座した着座者の骨盤の後方への倒れ角を測定する装置であって、
軸芯方向がシート幅方向に沿うようにシートクッションに載置する円形リング状の模擬臀部と、
前記シートの前後方向に対応する方向に沿うように前記模擬臀部の周部間に架け渡された架け渡し部材と、
前記架け渡し部材の長手方向中間部から下方に延び、下端部が前記シートクッションに当接する模擬坐骨結節部と、
前記着座者の上肢の重量に相当する重量に設定され、前記架け渡し部材に設けられた錘取り付け部に取り付けられる上肢錘と、
前記模擬臀部に取り付けられて、シートバックに当接する模擬腰椎プレートとを備え、
前記錘取り付け部は前記模擬坐骨結節部よりもシート後方に対応する側に位置し、
前記模擬臀部が前記シートクッションに載置され、前記上肢錘が前記錘取り付け部に取り付けられると、前記上肢錘の重量により前記模擬坐骨結節部の下端部を中心として後方に回転するとともに、前記模擬腰椎プレートが前記シートバックを押圧変形させて回転が停止し、前記模擬坐骨結節部の下端部を中心とする前記模擬坐骨結節部の回転角から前記着座者の骨盤の後方への倒れ角が求められるよう構成されている点にある。(請求項1)
【0007】
前記模擬臀部と模擬坐骨結節部と上肢錘と模擬腰椎プレートは、シートに着座する着座者の臀部と坐骨結節部と上肢の重量と腰椎に対応している。
本発明の上記の構成によれば、前記模擬臀部がシートクッションに載置され、上肢錘が錘取り付け部に取り付けられると、上肢錘の重量により、本装置が模擬坐骨結節部の下端部を中心として後方に回転し、模擬腰椎プレートがシートバックを押圧変形させて回転が停止する。つまり、本装置は、シートに着座して後上がりに傾斜した着座姿勢になるまでの着座者と同様に作動する。
そして、前記錘取り付け部が前記模擬坐骨結節部よりもシート後方に対応する側に位置していることと、前記上肢錘が着座者の上肢の重量に相当する重量に設定されていることとにより、本装置がシートクッションに載置されて回転が停止した時に本装置からシートに加わる力の大きさや方向を、着座者からシートに加わる力の大きさや方向と同一又はほぼ同一に設定することができる。
従って、前記模擬坐骨結節部の下端部を中心とする前記模擬坐骨結節部の回転角を測定することで、シートバックに上肢を支持された着座者の骨盤の後方への倒れ角を求めることができる。これにより、着座者の疲労を低減することができるシートであるか否かの評価分析を簡単かつ正確に行うことができる。また、ダミー人形等を用いる場合に比べて測定装置を小型化することができて、保管や持ち運びに便利になる。(請求項1)
【0008】
本発明において、
前記錘取り付け部は、前記上肢錘に形成された取り付け孔に挿入する上肢錘ピンを前記架け渡し部材に前記シートの前後方向に対応する方向に位置変更自在に設けて構成されていると、次の作用を奏することができる。(請求項2)
【0009】
所望のトルソ角(着座者の鉛直方向に対する傾斜角)に対応させて測定することができて、着座者の骨盤の後方への倒れ角をより正確に求めることができる。(請求項2)
【0010】
本発明において、
前記上肢錘は前記上肢錘ピンに着脱自在に構成されていると、次の作用を奏することができる。(請求項3)
【0011】
錘を変更することにより、想定する乗員(男性・女性・大人・子供など)を変更することができる。(請求項3)
【0012】
本発明において、
前記模擬腰椎プレートに布地を貼り付け可能に構成されていると、次の作用を奏することができる。(請求項4)
【0013】
模擬腰椎プレートとシートバック間に働く摩擦係数は素材毎に異なるため、模擬腰椎プレートに測定したい布地を貼りつけることで、前記摩擦係数による誤差を抑制することができ、着座者の骨盤の後方への倒れ角をより正確に求めることができる。(請求項4)
【0014】
本発明において、
前記模擬臀部は、前記架け渡し部材を介して連結された同芯状の左側リング材と右側リング材から成り、
前記架け渡し部材は、前記左側リング材の周部間に架け渡された左側第1プレートと、
前記右側リング材の周部間に架け渡され、前記左側第1プレートに対して平行に位置する右側第1プレートと、
前記左側第1プレートと右側第1プレートを連結する第1連結部材とから成り、
前記模擬坐骨結節部は、前記左側第1プレートの長手方向中間部と前記左側リング材の下端部の右側面とに架け渡された左側第2プレートと、
前記右側第1プレートの長手方向中間部と前記右側リング材の下端部の左側面とに架け渡され、前記左側第2プレートに対して平行に位置する右側第2プレートと、
前記左側第2プレートと右側第2プレートを連結する第2連結部材とから成り、
前記模擬腰椎プレートは、前記左側リング材と右側リング材の外周面に沿う断面円弧状のプレートに形成されて、幅方向両端部が前記左側リング材と右側リング材の外周面に各別に重ね合わされていると、次の作用を奏することができる。(請求項5)
【0015】
前記模擬臀部と架け渡し部材と模擬坐骨結節部と模擬腰椎プレートを上記のように構成したことで、本装置のバランスをよくすることができ、本装置を模擬坐骨結節部の下端部を中心として後方に円滑に回転させることができるとともに、模擬腰椎プレートでシートバックを均一に押圧変形させることができる。これにより、前記倒れ角をより正確に求めることができる。(請求項5)
【0016】
本発明において、
前記左側第1プレートの上面と前記右側第1プレートの上面と前記第1連結部材の上面とが段差なく連なるとともに、上下方向で同一又はほぼ同一位置に位置していると、次の作用を奏することができる。(請求項6)
【0017】
左側第1プレートの上面と前記右側第1プレートの上面と前記第1連結部材の上面に、前記模擬坐骨結節部の下端部を中心とする前記模擬坐骨結節部の回転角を測定するための角度計を載置することができ、角度計の設置作業が簡単になって、前記回転角の測定作業の作業性を向上させることができる。(請求項6)
【0018】
本発明において、
前記模擬腰椎プレートは、前記断面円弧状のプレートに換え、前記左側リング材及び右側リング材の後方と、前記左側リング材及び右側リング材の後部の側方とを覆う横断面U字状のプレートに構成されて、第3連結部材を介して前記架け渡し部材に支持されていると、次の作用を奏することができる。(請求項7)
【0019】
シートバックの幅方向両端部に配置されて、着座者をシート幅方向で保持するサイドサポート(センター部よりも前方に隆起している隆起部)は骨盤の支持に影響を与えることから、サイドサポートにも模擬腰椎プレートを当接保持させてサイドサポートの影響が及ぼされた測定結果を得る必要がある。
本発明の上記構成によれば、模擬腰椎プレートは、前記左側リング材及び右側リング材の後方と、前記左側リング材及び右側リング材の後部の側方とを覆う横断面U字状のプレートに構成されているから、模擬腰椎プレートの幅方向両端部をサイドサポートに当接保持させることができ、サイドサポートの影響が及ぼされた測定結果を得ることができて、前記回転角をより正確に測定することができる。(請求項7)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、着座者の疲労を低減することができるシートであるか否かの評価分析を簡単かつ正確に行うことができる装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】着座者の骨盤の倒れ角測定装置の斜視図(模擬腰椎プレートは省いてある)
【図2】着座者の骨盤の倒れ角測定装置で着座者の骨盤の倒れ角を測定している状態を示す斜視図(模擬腰椎プレートは省いてある)
【図3】着座者の骨盤の倒れ角測定装置の側面図(模擬腰椎プレートは省いてある)
【図4】着座者の骨盤の倒れ角測定装置の正面図(模擬腰椎プレートは省いてある)
【図5】着座者の骨盤の倒れ角測定装置の作動を示す模式図(模擬腰椎プレートは省いてある)であり、(a)は測定装置が後方に回転する前の状態を示す図、(b)は測定装置が後方に回転した後の状態を示す図
【図6】人体の骨盤を示す正面図
【図7】(a)は着座者がシートに着座した時にシートクッションに加わる圧力の分布を示す図(b)は着座者がシートに着座した時にシートバックに加わる圧力の分布を示す図
【図8】人体の脊椎を示す側面図
【図9】模擬腰椎プレートの取り付け構造を示す斜視図
【図10】別実施形態の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1,図2,図5(a),図5(b)に、自動車用のシート1に着座した着座者の骨盤4(図6参照)の倒れ角を測定する装置100(着座者の骨盤の倒れ角測定装置100)を示してある。シート1に着座した着座者はシートクッション2に臀部及び大腿部を支持されるとともに、シートバック3に上肢を支持される。前記着座者の骨盤4の倒れ角とは、上端部側ほどシート後方に位置するように傾斜した着座者の骨盤4の鉛直方向に対する角度である。
【0023】
[着座者の骨盤の倒れ角測定装置100の構造]
着座者の骨盤の倒れ角測定装置100は、軸芯方向がシート幅方向Wに沿うようにシートクッション2に載置する円形リング状の模擬臀部10と、
シート1の前後方向に対応する方向に沿うように模擬臀部10の周部間に水平(又はほぼ水平)に架け渡された架け渡し部材20と、
架け渡し部材20の長手方向中間部から下方に鉛直(又はほぼ鉛直)に延び、下端部30Kがシートクッション2に当接する模擬坐骨結節部30と、
着座者の上肢の重量に相当する重量に設定され、架け渡し部材20に設けられた錘取り付け部21に取り付けられる円板状の上肢錘40と、
模擬臀部10に取り付けられて、シートバック3に当接する模擬腰椎プレート50(図9参照)とを備え、左右対称に形成されている。
【0024】
前記模擬臀部10は前記着座者の臀部に対応し、模擬坐骨結節部30は坐骨結節部7(図6参照)に対応し、上肢錘40は上肢(上肢の重量)に対応し、模擬腰椎プレート50は腰椎77(図8参照)に対応している。
【0025】
錘取り付け部21は模擬坐骨結節部30よりもシート後方に対応する側に位置する。そして、模擬臀部10がシートクッション2に載置され、上肢錘40が錘取り付け部21に取り付けられると、上肢錘40の重量により模擬坐骨結節部30の下端部30Kを中心として本測定装置100が後方に回転するとともに、模擬腰椎プレート50がシートバック3を押圧変形させて回転が停止する。この模擬坐骨結節部30の下端部30Kを中心とする模擬坐骨結節部30の回転角から着座者の骨盤4の後方への倒れ角が求められるよう構成されている。
【0026】
[模擬臀部10の構造]
模擬臀部10は、架け渡し部材20を介して連結された同芯状の左側リング材11と右側リング材12から成る。
【0027】
[架け渡し部材20の構造]
架け渡し部材20は、左側リング材11の周部間に水平(又はほぼ水平)に架け渡された左側第1プレート13と、右側リング材12の周部間に水平(又はほぼ水平)架け渡され、左側第1プレート13に対して平行に位置する右側第1プレート14と、左側第1プレート13と右側第1プレート14を連結する前後一対の第1連結部材15とから成る。
【0028】
図3,図4にも示すように、左側第1プレート13と右側第1プレート14と第1連結部材15は断面が同一形状に形成されており、上下両端部と左右両端部に全長にわたる溝16が形成された断面四角形状に形成されている。前記溝16は径方向内方側が溝幅方向に膨らんでおり、前記上下両端部の溝16の両側部分と左右両端部の溝16の両側部分とがそれぞれ取り付けフランジ16Fに構成されている。左側第1プレート13と右側第1プレート14と第1連結部材15の中央部と四隅部には全長にわたる軽量化用の孔17が形成されている。
【0029】
前記第1連結部材15は左側第1プレート13と右側第1プレート14に挟み込まれ、第1連結部材15の長手方向の両端面が左側第1プレート13の側面と右側第1プレート14の側面に重ね合わされている。そして、左側第1プレート13の溝16の長手方向と直交するようにこの溝16内に挿入されたボルトB(図1参照)で左側第1プレート13の側面と第1連結部材15の長手方向の端面(左端面)が固定されている。
【0030】
左側第1プレート13は前後両端部の側面が左側リング材11の一方の側面(右側面)に重ね合わされている。そして、左側第1プレート13の溝16の長手方向と直交するように左側第1プレート13の前後両端部の溝16内に挿入されたボルトBで前記前後両端部の側面が左側リング材11の一方の側面に固定されている。
【0031】
右側第1プレート14と右側リング材12の連結構造は、左側第1プレート13と左側リング材11の連結構造と左右対称であり、右側第1プレート14と第1連結部材15の連結構造は、左側第1プレート13と第1連結部材15の連結構造と左右対称である。
【0032】
[模擬坐骨結節部30の構造]
模擬坐骨結節部30は、左側第1プレート13の長手方向中間部と左側リング材11の下端部11Kの右側面とに鉛直(又はほぼ鉛直)に架け渡された左側第2プレート31と、右側第1プレート14の長手方向中間部と右側リング材12の下端部12Kの左側面とに鉛直(又はほぼ鉛直)架け渡され、左側第2プレート31に対して平行に位置する右側第2プレート32と、左側第2プレート31と右側第2プレート32を連結する第2連結部材33とから成る。
【0033】
シート1の前後方向に対応する方向で、左側第2プレート31は左側リング材11の中心よりも前方側に偏って位置し、右側第2プレート32は、右側リング材12の中心よりも前方側に偏って位置している。
【0034】
左側第2プレート31と右側第2プレート32と第2連結部材33は前記左側第1プレート13(及び右側第1プレート14,第1連結部材15)と断面が同一形状に形成されている。つまり、左側第2プレート31・右側第2プレート32・第2連結部材33・左側第1プレート13・右側第1プレート14・第1連結部材15は断面が同一形状に形成されている。
【0035】
左側第2プレート31は上端面が左側第1プレート13の下面に重ね合わされている。そして、左側第2プレート31の溝16の長手方向と直交するように左側第2プレート31の長手方向中間部の溝16内に挿入されたボルトBで左側第2プレート31の上端面が左側第1プレート13の下面に固定されている。
【0036】
また、左側第2プレート31の下端部30Kの側面が左側リング材11の下端部11Kの一方の側面(右側面)に重ね合わされている。そして、左側第2プレート31の溝16の長手方向と直交するように左側第2プレート31の下端部30Kの溝16内に挿入されたボルトBで左側第2プレート31の下端部30Kが左側リング材11の下端部11Kに固定されている。
【0037】
右側第2プレート32と右側リング材12の連結構造は、左側第2プレート31と左側リング材11の連結構造と左右対称であり、右側第2プレート32と第2連結部材33の連結構造は、左側第2プレート31と第2連結部材33の連結構造と左右対称である。
【0038】
前記左側第1プレート13の上面13Jと前記右側第1プレート14の上面14Jと前記第1連結部材15の上面15Jとは段差なく連なるとともに、上下方向で同一の位置(又はほぼ同一位置)に水平に位置している。
【0039】
[模擬腰椎プレート50の構造]
図9に示すように、模擬腰椎プレート50は、左側リング材11と右側リング材12の外周面11G,12Gに沿う断面半円形状のプレートに形成されて、幅方向両端部が左側リング材11と右側リング材12の外周面11G,12Gに各別に重ね合わされて固定されている。模擬腰椎プレート50は左側リング材11と右側リング材12の上端部側から下端部にわたって左側リング材11と右側リング材12の後半部を覆っている。
【0040】
模擬腰椎プレート50には布地51を着脱自在に貼り付け可能に構成されている。すなわち、模擬腰椎プレート50と同幅であって周方向の長さがほぼ同一長さの布地51が模擬腰椎プレート50の外周面に重ね合わされ、固定用上部プレート52が布地51の周方向上側の端部に重ね合わされてボルトBで模擬腰椎プレート50に固定され、固定用下部プレート53が布地51の周方向下側の端部に重ね合わされてボルトBで模擬腰椎プレート50に固定されている。
【0041】
模擬腰椎プレート50とシートバック3間に働く摩擦係数は布地51毎に異なるため、模擬腰椎プレート50に布地51を貼り付けることで、前記摩擦係数による誤差を抑制することができて、着座者の骨盤4の後方への倒れ角をより正確に求めることができる。また、布地51は模擬腰椎プレート50に対して着脱自在であるので、多種類の布地51毎の前記倒れ角のデータを得ることができる。これにより、多種類の布地51毎に前記布地51に対応した前記倒れ角のより正確なデータを得ることができる。前記布地51は模擬腰椎プレート50に両面テープを介して貼り付けられていてもよい。
【0042】
[錘取り付け部21の構造]
前記錘取り付け部21は、上肢錘40の径方向中央部に形成された取り付け孔40Hに挿入する上肢錘ピン41を前記架け渡し部材20の左側第1プレート13と右側第1プレート14にこれらの長手方向(前記シートの前後方向に対応する方向)に位置変更自在に設けて構成されている。上肢錘ピン41の基端部は左側第1プレート13と右側第1プレート14の溝16内に入り込んでいる。
【0043】
[上肢錘40の構造]
上肢錘40は径方向中央部に取り付け孔40Hを備え、上肢錘ピン41に着脱自在に構成されている。
【0044】
上記の構成により、模擬臀部10がシートクッション2に載置され、上肢錘40が錘取り付け部21の上肢錘ピン41に取り付けられると、上肢錘40の重量により、本装置100が模擬坐骨結節部30の下端部30Kを中心として後方に回転し、模擬腰椎プレート50がシートバック3を押圧変形させて回転が停止する。つまり、本装置100は、シート1に着座して後上がりに傾斜した着座姿勢になるまでの着座者と同様の作動をする。
そして、前記錘取り付け部21が前記模擬坐骨結節部30よりもシート後方に対応する側に位置していることと、前記上肢錘40が着座者の上肢の重量に相当する重量に設定されていることとにより、本装置100がシートクッション2に載置されて回転が停止した時に本装置100からシート1に加わる力の大きさや方向を、着座者からシート1に加わる力の大きさや方向と同一又はほぼ同一に設定することができる。
従って、前記模擬坐骨結節部30の下端部30Kを中心とする前記模擬坐骨結節部30の回転角を測定することで、シートバック3に上肢を支持された着座者の骨盤4の後方への倒れ角を求めることができる。これにより、着座者の疲労を低減することができるシート1であるか否かの評価分析を簡単かつ正確に行うことができる。また、ダミー人形等を用いる場合に比べて測定装置100を小型化することができて、保管や持ち運びに便利になる。
【0045】
[着座者の骨盤4の倒れ角測定装置100による測定の手順]
(1) 左側第1プレート13と右側第1プレート14に取り付けられた上肢錘ピン41を左側第1プレート13と右側第1プレート14の長手方向に位置変更させて、トルソ角(着座者の鉛直方向に対する傾斜角)に対応した位置に位置させる。
(2) 図5(a)に示すように、シートバック3と模擬腰椎プレート50が接するようにして左側リング材11及び右側リング材12の外周面をシートクッション2に載置し、左側第1プレート13と右側第1プレート14が水平になるように本装置100を回転させる。もしも、設計におけるHP(ヒップポイント)位置を初期位置として倒れ角の測定を行いたい場合には、模擬腰椎プレート50がシートバック3と接していなくてもよい。なおこの場合には、接するまでの移動分も倒れ角に含まれることになる。
(3) 左側第1プレート13と右側第1プレート14と第1連結部材15の上面13J,14J,15Jにプロトラクタなどの角度計70(図2参照)を載置して初期値を測定する。
(4) 上肢錘ピン41に上肢錘40の取り付け孔40Hを嵌合して上肢錘40を上肢錘ピン41に取付ける。
(5) 上肢錘40の中心が左側リング材11及び右側リング材12の中心とシート前後方向に位置ずれしているので、上肢錘40を設置することで、本装置100が後方に回転し、左側第1プレート13と右側第1プレート14が初期位置から位置変更する。これに伴い、シートバック3が模擬腰椎プレート50に押されて変形する。
(6) シートクッション2が変形するのに必要な規定時間経過後に、左側第1プレート13と右側第1プレート14の角度を前記角度計70で測定する。
(7) これにより、前記模擬坐骨結節部30の下端部30Kを中心とする前記模擬坐骨結節部30の回転角を求めることができる。そして、この回転角から前記着座者の骨盤4の後方への倒れ角を求める。
前記模擬腰椎プレート50の幅は例えば160mmに設定することができる。また、前記トルソ角は例えば21°に設定することができる。
【0046】
[別実施形態]
(1) 図10に示すように、前記模擬腰椎プレート50は、前記断面円弧状のプレートに換え、前記左側リング材11及び右側リング材12の後方と、前記左側リング材11及び右側リング材12の後部の側方とを覆う横断面U字状のプレートに構成されて、第3連結部材54を介して左側第1プレート13と右側第1プレート14に固定されていてもよい。
【0047】
この構成によれば、模擬腰椎プレート50は、前記左側リング材11及び右側リング材12の後方と、前記左側リング材11及び右側リング材12の後部の側方とを覆う横断面U字状のプレートに構成されているから、模擬腰椎プレート50の幅方向両端部をシートバック3のサイドサポート(シートバック3の幅方向両端部に配置されて、着座者をシート幅方向で保持する部分でありシートバック3のセンター部よりも前方に隆起している隆起部である)に当接させることができ、サイドサポートの影響が及ぼされた測定結果を得ることができて、前記回転角をより正確に測定することができる。
(2) 人体の臀部硬さを模擬した弾性体を模擬腰椎プレート50の外周面に設けてあってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 シート
2 シートクッション
3 シートバック
4 骨盤
10 模擬臀部
11 左側リング材
11G 外周面(左側リング材の外周面)
11K 左側リング材の下端部
12 右側リング材
12G 外周面(右側リング材の外周面)
12K 右側リング材の下端部
13 左側第1プレート
13J 左側第1プレートの上面
14 右側第1プレート
14J 右側第1プレートの上面
15 第1連結部材
15J 第1連結部材の上面
20 架け渡し部材
21 錘取り付け部
30 模擬坐骨結節部
30K 下端部
31 左側第2プレート
32 右側第2プレート
33 第2連結部材
40 上肢錘
40H 取り付け孔
41 上肢錘ピン
50 模擬腰椎プレート
51 布地
54 第3連結部材
W シート幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座した着座者の骨盤の後方への倒れ角を測定する装置であって、
軸芯方向がシート幅方向に沿うようにシートクッションに載置する円形リング状の模擬臀部と、
前記シートの前後方向に対応する方向に沿うように前記模擬臀部の周部間に架け渡された架け渡し部材と、
前記架け渡し部材の長手方向中間部から下方に延び、下端部が前記シートクッションに当接する模擬坐骨結節部と、
前記着座者の上肢の重量に相当する重量に設定され、前記架け渡し部材に設けられた錘取り付け部に取り付けられる上肢錘と、
前記模擬臀部に取り付けられて、シートバックに当接する模擬腰椎プレートとを備え、
前記錘取り付け部は前記模擬坐骨結節部よりもシート後方に対応する側に位置し、
前記模擬臀部が前記シートクッションに載置され、前記上肢錘が前記錘取り付け部に取り付けられると、前記上肢錘の重量により前記模擬坐骨結節部の下端部を中心として後方に回転するとともに、前記模擬腰椎プレートが前記シートバックを押圧変形させて回転が停止し、前記模擬坐骨結節部の下端部を中心とする前記模擬坐骨結節部の回転角から前記着座者の骨盤の後方への倒れ角が求められるよう構成されている着座者の骨盤の倒れ角測定装置。
【請求項2】
前記錘取り付け部は、前記上肢錘に形成された取り付け孔に挿入する上肢錘ピンを前記架け渡し部材に前記シートの前後方向に対応する方向に位置変更自在に設けて構成されている請求項1記載の着座者の骨盤の倒れ角測定装置。
【請求項3】
前記上肢錘は前記上肢錘ピンに着脱自在に構成されている請求項2記載の着座者の骨盤の倒れ角測定装置。
【請求項4】
前記模擬腰椎プレートに布地を貼り付け可能に構成されている請求項1〜3のいずれか一つに記載の着座者の骨盤の倒れ角測定装置。
【請求項5】
前記模擬臀部は、前記架け渡し部材を介して連結された同芯状の左側リング材と右側リング材から成り、
前記架け渡し部材は、前記左側リング材の周部間に架け渡された左側第1プレートと、
前記右側リング材の周部間に架け渡され、前記左側第1プレートに対して平行に位置する右側第1プレートと、
前記左側第1プレートと右側第1プレートを連結する第1連結部材とから成り、
前記模擬坐骨結節部は、前記左側第1プレートの長手方向中間部と前記左側リング材の下端部の右側面とに架け渡された左側第2プレートと、
前記右側第1プレートの長手方向中間部と前記右側リング材の下端部の左側面とに架け渡され、前記左側第2プレートに対して平行に位置する右側第2プレートと、
前記左側第2プレートと右側第2プレートを連結する第2連結部材とから成り、
前記模擬腰椎プレートは、前記左側リング材と右側リング材の外周面に沿う断面円弧状のプレートに形成されて、幅方向両端部が前記左側リング材と右側リング材の外周面に各別に重ね合わされている請求項1〜4のいずれか一つに記載の着座者の骨盤の倒れ角測定装置。
【請求項6】
前記左側第1プレートの上面と前記右側第1プレートの上面と前記第1連結部材の上面とが段差なく連なるとともに、上下方向で同一又はほぼ同一位置に位置している請求項5記載の着座者の骨盤の倒れ角測定装置。
【請求項7】
前記模擬腰椎プレートは、前記断面円弧状のプレートに換え、前記左側リング材及び右側リング材の後方と、前記左側リング材及び右側リング材の後部の側方とを覆う横断面U字状のプレートに構成されて、第3連結部材を介して前記架け渡し部材に支持されている請求項5又は6記載の着座者の骨盤の倒れ角測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−52815(P2012−52815A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193152(P2010−193152)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】