説明

睡眠改善剤及びその評価方法

【課題】入眠改善効果を有し、高い睡眠誘導効果を有する香調での調整の睡眠改善剤及びその効果を評価する方法を提供する。
【解決手段】α−ダマスコン(α-Damascone)及びγ−ウンデカラクトン(γ-Undecalactone)を香料組成中1%以上含むフルーティフローラル系香料成分を有効成分として含有することを特徴とする睡眠改善剤であり、上記睡眠改善剤を配合した入浴剤を使用し、入浴後の睡眠ポリソムノグラフィ(PSG)及び表皮温の少なくとも一方を測定することによりその効果
の評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠改善剤及びその評価方法に関するものであり、詳細には、生活環境の変化とりわけ夜間の活動が増加し、昼夜の生活パターンが不規則になることによる睡眠障害に対し、特に特定の香料成分により、入眠の問題を改善する睡眠改善剤及びその評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ここ数年、会社や学校や家族などの人間関係、インターネット・メールの発達やAV化、OA化、IC化など社会環境の急速な変化により仕事でストレスを感じる人が約6割近くおり、メンタルヘルスに関しての対応が重要となってきている。またこのような生活環境の変化により、夜間の活動が増加し、昼夜の生活パターンが不規則になり睡眠障害による疾病が増加している。不眠の原因には様々なストレス社会の中で、様々な悩みごとや心配ごとにより、自律神経系、内分泌系、免疫系が低下した場合等が挙げられる。
【0003】
特に、近年のストレスの増大によって、鎮静効果を有する香料成分によってストレスを解消する方法が提唱されている。例えば、有効成分を人に対し経口的又は経皮的に投与する方法や、香料組成物を気化させてその蒸気を吸気させるアロマテラピー等は、古くから行われている。このような、心理的なストレスに関する悩みの対処法としては、鎮静効果がありストレスを緩和する精油としては、ベルガモット、ラベンダー、ゼラニウム、イランイラン、ローズ等が広く知られている。より具体的には、ベルガモットは伝承的に鏡静効果があると言われている香料成分であるしその評価の技術が提案されており(特許文献1)ビターオレンジ精油(特許文献2)やジャスミンラクトン(特許文献3)を鼻粘膜、口腔粘膜あるいは肺組織から吸収させることにより誘眠を促進させることが提案されている。また、セダーウッド油の低沸点成分(α−ピネン、α−セドレン、β−セドレン、カリオフィレン等)を鎮静用精油として使用することも提案されている(特許文献4)。
【0004】
しかし、これらの成分の鎮静効果は、学術的な評価結果によって判定されたものではなく、経験的な知識又は官能試験によって判定されたものである。今後香料の精神状態への影響を研究する上では、客観的で再現性のある評価方法が必要とされる。
【0005】
特許文献5及び非特許文献1においては、マスクを使用して評価対象化合物を施与し、入眠時及び睡眠時における心電図測定によって自律神経のバランスを測定する方法が記載されている。しかし、このような方法においてはマスクを使用するため、日常生活と離れた状況での試験であり、マスクを使用していることによるストレスが試験結果に影響を与える可能性が高い。なお、本発明に関連する背景技術としては、上記文献に加えて特許文献6〜8の技術が挙げられる。
【0006】
これらを解決する方法として、芳香剤、入浴剤、アロマオイル、御香、スプレーなど香りやまたは色による精神的疲労回復、ストレスの軽減、リフレッシュ、気分転換などを目的として広く商品に応用される。最近は、植物精油によるリラックス作用などアロマテラピーやインドのアーユルベータなどの研究も盛んである。このような中で、特に入浴剤は簡易な方法で、精神的効果に関しても近年では脳波や唾液などの指標を用いた評価のほか、睡眠への効果に関しての研究も行なわれるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−159919
【特許文献2】特開平4−128234号公報
【特許文献3】特開平6−40911号公報
【特許文献4】特開平5−255688号公報
【特許文献5】国際公開第01/058435号パンフレット
【特許文献6】特開2005−325070号公報
【特許文献7】特開2006−062998号公報
【特許文献8】特開2006−063063号公報
【特許文献9】特開2007−197334号公報
【特許文献10】特開2008−050352号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Automatic Neuroscuence: Basic and Clinical 108(2003) 第79-86頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、入眠改善効果を有し、高い睡眠誘導効果を有する香調での調整の睡眠改善剤及びその効果を評価する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、フルーティフローラル系香料成分が、入眠時に睡眠改善効果を有すること見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明はフルーティフローラル系香料成分を有効成分として含有することを特徴とする睡眠改善剤である。
【0011】
本発明の評価方法は、上記睡眠改善剤を配合した入浴剤を使用し、入浴後の睡眠ポリソムノグラフィ(PSG)及び表皮温の少なくとも一方を測定することにより行うものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、入眠改善効果を有し、高い睡眠誘導効果を有する香調での調整の睡眠改善剤及びその効果を評価する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の睡眠改善剤の一実施形態における表皮温の遠位(右足部)と近位(左胸部)の差について経時変化を比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の睡眠改善剤に配合するフルーティフローラル系香料としては、α−ダマスコン(α-Damascone)及びγ−ウンデカラクトン(γ-Undecalactone)を香料組成中1%以上含むことが必須である。その他のフルーティフローラル系香料構成成分としてリモネン(Limonene)、リナロ−ル(Linalool)、エチルブチレート(Ethyl Butylate)、フェニルエチルアルコール(Phenylethyl alcohol)、ゲラニオール(Geraniol)、シトロネロール(Citronellol)、ヘキシルアセテート(Hexyl acetate)、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)、ヘディオン(Hedione)、イソイースーパー(Iso E super)及びガラクソライド(Galaxolide)が挙げられ、これらから任意に1種または2種以上を配合することが可能であり、配合量もα−ダマスコン(α-Damascone)及びγ−ウンデカラクトン(γ-Undecalactone)の効果を阻害しない範囲で特に制限はない。
【0016】
本発明の睡眠改善剤の評価方法は、上記フルーティフローラル系香料を有効成分として配
合した入浴剤を使用し、入浴後の睡眠ポリソムノグラフィ(PSG)及び表皮温の少なくとも一方を測定することにより睡眠改善効果を評価するものである。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。睡眠効果の測定方法は、本発明においては、以下の測定法によって確認することができる。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%である。
【0018】
[実施例、比較例]
表1に記載の香料にて試料を調製し、下記方法で入眠効果を評価した。対象者は同意の得られた健常女性7名とし、フルーティフローラル系香料を賦香した乳液タイプ入浴剤サンプル(実施例)および、香料を賦香しない対照サンプル(比較例)を用いた。本実験で用いたフルーティフローラル系香料の組成を表2に示す。α−ダマスコン(α-Damascone)1%、γ−ウンデカラクトン(γ-Undecalactone)1%を含み、その他の成分としてリモネン(Limonene)、リナロ−ル(Linalool)、エチルブチレート(Ethyl Butylate)、フェニルエチルアルコール(Phenylethyl alcohol)、ゲラニオール(Geraniol)、シトロネロール(Citronellol)、ヘキシルアセテート(Hexyl acetate)、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)、ヘディオン(Hedione)、イソイースーパー(Iso E super)及びガラクソライド(Galaxolide)等を含んだものをフルーティフローラル香料として評価した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
実験は対象者1人に対し、順応夜1夜とそれに引き続くサンプル使用夜2夜の連続計3夜行い、サンプル使用夜についてはクロスオーバー法を用い順序効果を考慮した上で、フルーティフローラル系香料0.95%配合した入浴剤(実施例)および無香料入浴剤(比較例)のいずれかを割り付けた。なお対象者は過去に重篤な身体的既往がなく、睡眠質問表を用いて現在の睡眠習慣に大きな問題がないことを確認した。また実験期間中、アルコール飲料、コーヒーや茶葉抽出物などのカフェイン含有飲料の摂取、バナナや柑橘類などのカテコラミン含有飲食物の摂取、過度の運動、午睡を禁止した。また実験の3夜は曜日効果を考慮し、全例とも平日の同一曜日になるように実験日程を調整した。
【0022】
19時までに夕食を摂った後、20時より15分間、表1の処方の入浴剤を使用し入浴を行なった。湯温40℃、入浴剤は200Lの水道水温水に対して40mLとなるよう濃度を調整した。
【0023】
20:30から22:00までの間に終夜睡眠ポリソムノグラフィ(PSG)記録用の電極を装着し、PSG記録装置に接続して生理学的なキャリブレーションを行なった。22:55にはベッド上に臥床してPSG測定開始準備状態に入り、23:00に消灯して照度5lux以下の状態で翌朝7:00までPSG記録を行なった。右足の第3、4趾間および左胸部には表皮温測定用プローブを装着したうえ、長時間携帯用体温ロガーを用いて表皮温の測定を行なった。測定については順応夜を含み、入浴など行動ロガーが破損する危険のある場合を除き24時間の連続測定を行い3日間分を記録した。表皮温測定については20:00から翌朝7:00までを1日分の記録とし、3夜にわたり連続的に測定した。起床時刻は7:00とし、頭皮に付着した電極ペースト除去などのためのシャワー浴を行い、朝食を摂った後に解散し、日中は通常の生活を続けるよう指示した。
【0024】
データ解析は順応夜を除く2夜について、実施例夜と比較例夜の差について比較し検討を行った。PSGの睡眠段階判定はRechtschaffen & Kales(1968)の方法によって行い、睡眠時間(SPT)、睡眠潜時(SL)、睡眠段階1−4およびレムの各睡眠潜時(
S1−S4,LR)深睡眠潜時(SWSL)レム睡眠潜時(RL)、睡眠効率(SE)、覚醒、睡眠段階1−4、レムの各段階の時間(Wm,1m−4m,Rm)、および各睡眠段階の比率(Wr,1r−4r,Rr)を算出した。
【0025】
睡眠3分法(就床時から150分毎に解析を行なう方法)による睡眠ステージの結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
睡眠3分法を用いた解析を行なった結果、23:00−1:30でのS3,S4の出現率およびS4の出現率について、実施例が比較例に比べ高い値を示した。表皮温の遠位(右足部)と近位(左胸部)の差について経時変化を比較した結果、睡眠初期において、実施例が比較例と比較し有意に高い値を示した。(図1に示す。)
【0028】
睡眠3分法により、睡眠導入期における実施例のS3+S4の出現率およびS4の出現率が比較例よりも多い値にあったことから、香料を配合した入浴剤浴によって睡眠状態が改善されたことがわかった。表皮膚温は表皮毛細血管の収縮および拡張が反映された結果で、さらにこれは自律神経系の活動の変化が反映した結果である。今回の結果では実施例で比較例よりも入眠後に遠位皮膚温と近位皮膚温の差が大きく、入眠時には遠位皮膚温と近位皮膚温の開きが大きくなることも知られている。よって、フルーティフローラル香料を配合した入浴剤を使用した入浴が、入眠過程での睡眠状態によい影響を与えたことは明白である。
【符号の説明】
【0029】
1 実施例
2 比較例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ダマスコン(α-Damascone)及びγ−ウンデカラクトン(γ-Undecalactone)を香料組成中1%以上含むフルーティフローラル系香料成分を有効成分として含有することを特徴とする睡眠改善剤。
【請求項2】
請求項1記載の睡眠改善剤を配合した入浴剤を使用し、入浴後の睡眠ポリソムノグラフィ(PSG)及び表皮温の少なくとも一方を測定することにより睡眠改善効果を評価することを特徴とする睡眠改善剤の評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−74007(P2011−74007A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226553(P2009−226553)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(306018365)クラシエホームプロダクツ株式会社 (188)
【Fターム(参考)】