説明

睡眠測定装置及び睡眠測定方法

【課題】 マット等が経年劣化したとしても、生体信号の適切な増幅率を簡便に設定することが可能な睡眠測定装置を提供する。
【解決手段】 睡眠測定装置は、水が充填されたマット上に乗った人から、その人の睡眠状態に応じ変化する生体信号を検出して増幅し、この生体信号に基づき睡眠状態を推定する。その増幅に用いる増幅率Aの設定に際し、先ず、生体信号センサで検出されたマット内圧の静的成分Pが取得される(S11)。マット内圧はマット内の水の圧力である。このマット内圧の静的成分Pから、その値に応じたマット内圧の変動分ΔVが特定される(S12)。マット内圧の変動分ΔVの各値は、マット内圧の静的成分Pを変化させつつ、所定荷重を付加することにより予め得られている。その特定された変動分ΔVを用いて所定の基準増幅率A0を補正することにより、上記増幅率Aが算出される(S13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が充填されたマットの上に乗った生体から、この生体の睡眠状態に応じて変化する生体信号を検出して増幅し、増幅された生体信号に基づき睡眠状態を推定する睡眠測定装置及び睡眠測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られたこの種の無呼吸検出装置の一つは、ユーザの睡眠状態における無呼吸を検出するもので、自動利得制御ユニットを備えている。この無呼吸検出装置では、空気を充填したエアマット上に横臥するユーザの身体から、エアマット内部へと伝わってくる圧力変動が、微差圧センサにより生体信号として検出されるようになっている。自動利得制御ユニットは、その検出された生体信号の利得(増幅率)を自動的に調節しつつ、増幅された生体信号を後段に設けられたフィルタへと出力する(特許文献1参照)。
【0003】
このフィルタは、例えば心拍や呼吸に対応するものである。心拍に対応させたフィルタが心拍信号を抽出し、呼吸に対応させたフィルタが呼吸信号を抽出する。さらに、後の処理で、これらの心拍信号及び呼吸信号の変動パターンから、マット上のユーザがどの睡眠段階にいるか、また、ユーザが無呼吸状態にあるかどうか等が推定される。
【0004】
【特許文献1】特開2000−271103号公報(段落0017、0020〜0022、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の自動利得制御ユニットによると、利得の調節が適切に行われないことがあった。つまり、検出される生体信号のうち後段の処理に必要な周波数帯域の信号は、心拍及び呼吸などに対応するものである。ところが、ユーザは睡眠時間内であっても寝返りを打ったりトイレに立ったり、生体信号のうち心拍及び呼吸以外の他の身体の動きによる信号が外乱として働き、この外乱に反応して利得が自動的に調節されてしまうことがあったからである。
【0006】
また、マット内の圧力は、静的な成分に、動的な成分(マット内圧の変動分)を重ね合わせたものとしてなり、加えて、そのマット内圧の静的成分の大きさが、動的成分の大きさに影響を与えることが確認されている。このマット内圧の静的成分は、製造時におけるマット内の流体の圧力、人体の重さ等によるものであり、マット内圧の動的成分は、心拍、呼吸等の人体の振動によるものである。
【0007】
ここで、マットは、例えば、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂から構成されるが、このマットが経年劣化等して伸びてきたり、マットの内容物が減少してきたりすると、マット内圧の静的成分がだんだん小さくなってくる。そうすると、このマット内圧の低下は、生体信号の変動幅を小さくする原因ともなる。従来の自動利得制御ユニットでは、どのような原因であるかに関わらず、増幅後の生体信号の値の大きさから利得を調節しているため、この利得の調節によって、生体信号の解析を適正に行うことができない恐れがある。
【0008】
本発明の目的は、これらの課題を解決できる睡眠測定装置及び睡眠測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る睡眠測定装置は、流体が充填されたマットの上に乗った生体から、この生体の睡眠状態に応じて変化する生体信号を検出して増幅し、増幅された生体信号に基づいて睡眠状態を推定するようになっている。本睡眠測定装置は、検出手段と、特定手段と、算出手段とを備えたことを特徴としている。
検出手段は、マット内の流体の圧力であるマット内圧の静的成分Pを検出する。特定手段は、検出手段により検出された静的成分Pから、静的成分Pの値に応じて変化する、所定荷重の付加時におけるマット内圧の変動分ΔVを特定する。算出手段は、特定手段により特定された変動分ΔVを用いて所定の基準増幅率A0を補正することによって、生体信号の増幅に用いる増幅率Aを算出する。
請求項2に係る睡眠測定装置は、請求項1に係る睡眠測定装置において、マット内圧の静的成分Pと、マット内圧の変動分ΔVとの対応関係を示す参照テーブルを記憶する記憶手段を備えたことを特徴とする。この場合、上記特定手段は、この記憶手段に記憶された参照テーブルから、上記検出手段によって検出された静的成分Pに応じた変動分ΔVを得るようになっている。
請求項3に係る睡眠測定装置は、請求項1又は請求項2に係る睡眠測定装置において、上記算出手段が次のようになっていることを特徴とする。即ち、算出手段は、基準増幅率A0に対応したマット内圧の変動分である基準変動分ΔV0を、上記特定手段により特定された変動分ΔVで割ることにより補正係数を求め、求められた補正係数を基準増幅率A0に掛けることによって、増幅率Aを算出する。
請求項4に係る睡眠測定装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に係る睡眠測定装置において、上記検出手段が、生体がマットに乗っていない状態で検出した検出値を、マット内圧の静的成分Pとして検出することを特徴する。
請求項5に係る睡眠測定装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に係る睡眠測定装置において、生体信号の低周波数帯域を通過させるローパスフィルタを備えたことを特徴とする。この場合、上記検出手段は、ローパスフィルタを、生体がマットに乗った状態で通過した生体信号を、マット内圧の静的成分Pとして検出する。
請求項6に係る睡眠測定装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に係る睡眠測定装置において、上記検出手段が、生体がマットに乗った状態で生体信号の平均値を算出するとともに、算出されたこの平均値を、マット内圧の静的成分Pとして検出することを特徴とする。
請求項7に係る睡眠測定装置は、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に係る睡眠測定装置において、上記検出手段が、生体がマットに乗った状態で変動するマット内圧を、生体信号として検出することを特徴とする。
請求項8に係る睡眠測定装置は、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に係る睡眠測定装置において、上記検出手段は、流体室と、空気室と、受圧膜と、歪みゲージとを有することを特徴とする。流体室はマットから連続しており、この流体室に流体が充填されている。空気室には空気が充填されている。受圧膜は空気室と流体室との間を仕切っている。歪みゲージは、受圧膜上に設けられており、流体室内における流体の圧力の変動を検出するようになっている。
請求項9に係る睡眠測定方法は、流体が充填されたマットの上に乗った生体から、生体の睡眠状態に応じて変化する生体信号を検出して増幅し、増幅された生体信号に基づいて睡眠状態を推定する。本睡眠測定方法は、(1)マット内の流体の圧力であるマット内圧の静的成分Pを検出し、(2)検出された静的成分Pから、静的成分Pの値に応じて変化する、所定荷重の付加時におけるマット内圧の変動分ΔVを特定し、(3)特定された変動分ΔVを用いて所定の基準増幅率A0を補正することによって、生体信号の増幅に用いる増幅率Aを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、検出されたマット内圧の静的成分Pの値から、その値に応じたマット内圧の変動分(動的成分)の大きさΔVが特定され、この変動分ΔVに基づき所定の基準増幅率A0を補正することによって生体信号の増幅率Aが設定される。そのため、マット等が経年劣化したとしても、生体信号の適切な増幅率が簡便に設定されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施の形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
(最良の実施の形態)
本発明の最良の実施の形態である睡眠測定装置につき、その全体構成から先ず説明する。本睡眠測定装置は、ユーザ(生体)の睡眠状態に応じて変化する生体信号を検出して増幅し、この増幅された生体信号に基づきユーザの睡眠状態を推定するようになっている。
【0012】
本睡眠測定装置は、図1に示すように、寝具1とともに用いられるものであり、マット2と、チューブ3と、睡眠測定装置本体4とを備えている。寝具1上に、睡眠測定の対象となるユーザが横臥しており、その寝具1の下にマット2が敷かれている。チューブ3は、その一端がマット2に繋がれており、また、その他端が、睡眠測定装置本体4に取り付けられた生体信号センサ5に接続されている。マット2及びチューブ3には、水(流体の例。空気等でもよい)が充填されている。これによって、寝具1上のユーザの身体から生じる、心拍(脈拍)、呼吸、その他の身体の動きによる振動が、マット2及びチューブ3を介して、睡眠測定装置本体4内の生体信号センサ5へマット内圧(マット内の水の圧力)の変化として伝えられる。
【0013】
ここでは、寝具1の下にマット2を敷くものとしているため、ユーザは、間接的にマット2上に乗ることになっているが、寝具1の上にマット2を敷くものとして、ユーザが直接マット2上に横になるようにしてもよい。また、マット2は、枕の上側又は下側に敷くものとしても、枕の形状に成形するものとしてもよい。
【0014】
睡眠測定装置本体4の生体信号センサ5は、マット内圧を検出するようになっている。この検出されたマット内圧は、ユーザが乗っていない状態において略一定となっており、このマット内圧が、睡眠測定開始時に、睡眠測定装置本体4内の可変増幅器の増幅率の設定に用いられる。これとともに、睡眠測定時には、ユーザがマット2に乗った状態で変動するマット内圧が、睡眠測定装置本体4の後段の処理にて生体信号として扱われる。
【0015】
この生体信号センサ5は、図2に示すように、接続口51と、水室52と、受圧膜53と、空気室54と、圧力変動検出部55とを備える。上述したチューブ3(前図1)は接続口51に接続されていて、水室52はマット2から連続したものとなる。水室52と空気室54との間は、受圧膜53により仕切られている。この水室52内にも水が充填されていて、マット2から水室52までは、チューブ3を介して水が流動可能なようになっている。空気室54には空気が充填されており、その室内は例えば1気圧に保たれている。
【0016】
空気室54側の受圧膜53の表面には、圧力変動検出部55が設けられている。この圧力変動検出部55は、歪みゲージが組み込まれたホイートストンブリッジ回路を含んでいて、例えば、図3に示す電気回路として構成されている。即ち、同図3のホイートストンブリッジ回路における抵抗R1〜R4のうちの抵抗R1が、圧力変動検出部55の歪みゲージ55aに相当する。この歪みゲージ55aが、受圧膜53の表面に貼り付けられている。圧力変動検出部55は、同図3のAB間の電圧を差動増幅回路C1により増幅して、これをセンサ出力Vsとして得る。
【0017】
マット2、チューブ3及び水室52内の水を順に介して伝えられる圧力の変動は、受圧膜53を、前図2に向かって左右へと振動させ、また、同図2の上下に伸縮させる。圧力変動検出部55の歪みゲージ55aが、この圧力変動を検出し、圧力変動検出部55が、検出された圧力変動を生体信号として、睡眠測定装置本体4内の可変増幅器41(後述。図9)へと出力するようになっている。図4は、その生体信号(センサ出力Vs)の例を示している。ここに示す生体信号には、0.8秒前後の周期Tとなったユーザの心拍による信号が含まれている。生体信号には、心拍の他に呼吸その他の体動が現れ、これら生体信号は、ユーザの睡眠状態(睡眠段階、睡眠の質)等に応じて変化する。
【0018】
加えて、この生体信号を表すマット内圧の値は、先述したように、静的成分(オフセット分)に変動分を足し合わせたもので、マット内圧の静的成分の大きさが、マット内圧の変動分の大きさに影響することが実験により確認されている。
【0019】
即ち、この実験では、図5(a)に示すように、基台61の上にマット62が置かれ、押圧板63が、基台61との間でこのマット62を挟み込むようになっている。アーム64の一端は押圧板63に取り付けられ、アーム64の他端は円板65上の一点に取り付けられている。この実験装置で、円板65を一定の角速度で回転させることにより、押圧板63が一定周期で上下方向に往復移動するようになっている。
【0020】
このマット62には、上記生体信号センサ5と同様のセンサが設けられている。押圧板63の往復移動に伴い、マット62に荷重が付加され、そのセンサの出力値が、図5(b)のグラフに示すように正弦波形に近いかたちで変化する。
【0021】
ここで、センサの出力波形の振幅Mは、マット内の水量Xによって変化する。水量Xを比較的少ない量から段階的に増加させながら、上記実験装置を稼動させて、センサ出力の振幅Mを記録していくことによって、マット内の水量Xと、振幅Mとの関係が得られる。同じ仕様の他の複数のマット62につき、上述した実験を行ったところ、その実験結果から、複数のマット62における振幅Mの変動量は非常に小さいことが確認されている。
【0022】
このマット内の水量Xと、出力の振幅Mとの関係から、図6のグラフに示す、マット内圧の静的成分P(何も載せていない無加重時のマット内圧)と、マット内圧の変動分ΔVとの関係が得られることになる。つまり、マット内の水量Xはマット内圧の静的成分Pと略比例するため、この図6のマット内圧の静的成分Pをマット内の推量Xに置き換えることができる。また、センサ出力の振幅Mはマット内圧の変動分ΔVを表す指標といえるため、図6のマット内圧の変動分ΔVをセンサ出力の振幅Mに置き換えることができる。
【0023】
図7、図8は、マット内圧の静的成分Pによるマット内圧の変動分ΔVへの影響を模式的に表している。いま、マット内圧の静的成分が値P1である場合に、マット内圧の変動分(マット内圧の振幅の大きさ)が値ΔV1であるとする。このとき、マット内圧の静的成分P1(図7(a))が、静的成分P2(図8(a))よりも小さければ、静的成分P1からの変動分ΔV1(図7(b))も、静的成分P2からの変動分ΔV2(図8(b))より小さくなるといった関係がある。
【0024】
即ち、マット内圧の静的成分Pが大きいほど、受圧膜が張られることになる。そうであれば、太鼓と同じ原理で、マット内圧の静的成分Pが大きなほど、マット内圧の変動分ΔVが大きくなる。
【0025】
ところが、このようなマット内圧の静的成分Pと、マット内圧の変動分ΔVとの関係は、マット内圧の静的成分Pがある値P0(図6)よりも小さい場合に限って(P<P0の場合に限り)成り立つ。つまり、受圧膜の伸びには限界があり、受圧膜は、ある程度以上に張られると変形し難くなる。よって、マット内圧の静的成分Pが、値P0よりも大きくなると(P>P0)、マット内圧の静的成分Pが大きくなるほど、マット内圧の変動分ΔVが小さくなっていく。
【0026】
本発明の特徴の一つは、マット内圧の静的成分Pと変動分ΔVとのこのような関係を用いて、静的成分Pから生体信号の増幅率(図9の可変増幅器41における増幅率A)を自動的に設定する点である。本発明の特徴の他の一つは、生体信号の検出と、増幅率設定に用いるマット内圧の静的成分Pの検出とを、同じ一つの生体信号センサ5により行う点である。以下、生体信号の増幅率の設定につき、詳細に説明する。
【0027】
睡眠測定装置本体4は、図9に示すように、上述した生体信号センサ5以外に、可変増幅器41、フィルタ42、増幅器43、A/D変換器44及び制御部45を有する。可変増幅器41は、生体信号センサ5から出力された生体信号を増幅するようになっている。
【0028】
フィルタ42は、3つのバンドパスフィルタ(BPF)等により構成される。これら3つのうちの1つのBPFは、可変増幅器41より出力された生体信号から、0.5Hz〜2Hzといった周波数帯域の心拍に対応する信号を、心拍信号として抽出するようになっている。他の1つのBPFは、可変増幅器41より出力された生体信号から、0.2Hz〜1Hz程度の周波数帯域の呼吸に対応する信号を、呼吸信号として抽出するようになっている。さらにもう1つのBPFは、可変増幅器41より出力された生体信号から、10Hz以上の周波数帯域のその他の身体の動きに対応する信号を、体動信号として抽出する。
【0029】
増幅器43は、フィルタ42にて抽出された心拍信号、呼吸信号及び体動信号を増幅するようになっている。この増幅器43の増幅率には固定値が用いられる。A/D変換器44は、後段の制御部45における処理のために、増幅器43から出力された心拍信号、呼吸信号及び体動信号をA/D変換するようになっている。
【0030】
制御部45は、CPU、RAM、ROM等を備えており、所定のプログラムを実行することにより、これらA/D変換後の心拍信号、呼吸信号及び体動信号を用いて、ユーザの睡眠状態を推定するようになっている。睡眠状態の推定につき例を挙げるならば、心拍信号から心拍数を算出して、この算出された心拍数がどの値の範囲にあるかによって、睡眠段階(段階1〜4のノンレム睡眠、及び、レム睡眠のいずれか)を判定することが可能である。また、呼吸信号から呼吸数を算出し、算出された呼吸数から、10秒以上の無呼吸が7時間の睡眠中に何回生じているかをカウントすることが可能である。この制御部45における睡眠状態の推定等は周知の技術であり、その詳細が例えば特開2004−113618号公報、特開2004−113329号公報等に開示されている。
【0031】
加えて、制御部45には、表示部46、入力部47及び補助記憶部48が接続されている。表示部46は、ユーザの睡眠状態の推定結果を表示するようになっている。入力部47は、睡眠測定の開始を指示する測定開始ボタン、及び、睡眠測定の終了を指示する測定終了ボタンを含んでいる。
【0032】
また、補助記憶部48は、EEPROMなどの不揮発性メモリやハードディスクドライブ等であり、この補助記憶部48には、制御部45が実行するプログラム、そのプログラムで用いるデータ等が記憶されている。特に、図6のマット内圧の静的成分Pとマット内圧の変動分ΔVとの対応関係を示す参照テーブルが、この補助記憶部48に格納されている。制御部45は、マット内圧の静的成分Pを指定して、これに対応するマット内圧の変動分ΔVを読み出すことができるようになっている。
【0033】
制御部45における可変増幅器41の増幅率Aの設定につき、図10,図11を用いてより詳細に説明する。図10は、入力部47の測定開始ボタンが押下された直後に制御部45(CPU)が実行する睡眠測定処理(睡眠測定プログラム)の流れを示している。
【0034】
睡眠測定処理のステップ1(以下、ステップをSと略す)において、制御部45は、先ず、可変増幅器41の増幅率Aを設定するようになっている。この増幅率Aの設定については後に図11を用いて説明する。
【0035】
可変増幅器41への増幅率Aの設定後に、入力部47の測定終了ボタンが押下されたか否かが判定される(S2)。測定終了ボタンが押下されなかった場合(S2にてNO)、S3において生体信号が測定される。即ち、A/D変換器44によりA/D変換されて得られた心拍信号、呼吸信号及び体動信号のデジタル値が、例えば0.05秒おきに取得されて、補助記憶部48に保存されていく。
【0036】
一方、測定終了ボタンが押下された場合(S2にてYES)、S4にて睡眠測定の結果が表示される。つまり、制御部45は、S3で補助記憶部48に格納された心拍信号、呼吸信号及び体動信号から、先述したように、睡眠段階を判定し、また無呼吸をカウントし、その結果を表示部46に表示する。この測定結果の表示の後に、本処理は終了する。
【0037】
そして、上記S1に対応する図11の増幅率設定処理では、制御部45は、先ず、S11で、生体信号センサ5により検出されたマット内圧の静的成分Pを取得する。即ち、ここでは、睡眠測定を開始するに当たり、マット2が無加重の状態である必要がある。例えば、表示部46に、「初期化中です。マットに乗らないで下さい。」といった表示を行わせることが可能である。このような表示によって、増幅率が設定される前の状態で、ユーザがマット2上に乗らないように誘導する。
【0038】
この無加重の状態での生体信号センサ5のセンサ出力Vsが、マット内圧の静的成分Pとして取り込まれる。(センサ出力Vsと、マット内圧とは、略線型の関係にある。)
【0039】
続いて、S12にて、制御部45は、S11で得たマット内圧の静的成分Pから、マット内圧の変動分ΔVを特定する。この変動分ΔVの値は、静的成分Pの値に応じて変化するものであるが、予め行われた実験又はシミュレーション等により静的成分Pに対応付けられている。具体的には、制御部45は、補助記憶部48上の参照テーブル(図6)から、検出された静的成分Paに応じた変動分ΔVaを読み出すようになっている。
【0040】
さらに、制御部45は、S13にて、S12で特定されたマット内圧の変動分ΔVを用いて、所定の基準増幅率A0を補正することにより、可変増幅器41における増幅率Aを算出する。この算出について具体的に説明すると、その前提として、マット内圧の静的成分Pが値P0である場合を基準とし、この場合におけるマット内圧の変動分ΔVを基準変動分ΔV0とする(図6)。また、基準増幅率A0を、この場合の増幅率Aとする。(補助記憶部48が、これら基準変動分ΔV0及び基準増幅率A0を記憶しているものとしてよい。)
【0041】
いま、S12で変動分ΔVaが得られており、この変動分ΔVaから、次の数1により、基準増幅率A0に対する補正係数Kaが求められる。
【0042】
【数1】

即ち、マット内圧の基準変動分ΔV0を、マット内圧の静的成分Paに応じた変動分ΔVaで割ることによって、補正係数Kaが求められる。この求められた補正係数Kaを基準増幅率A0に掛けることによって、可変増幅器41における増幅率Aaが算出される。制御部45は、この得られた増幅率Aaを可変増幅器41に設定する。この後、本処理はリターンする。
【0043】
この増幅率設定処理の直後に、制御部45は、表示部46に、次のような表示を行わせるものとしてよい。つまり、「初期化が完了しました。マット上に横になって下さい。」といった表示を行い、この表示により、ユーザがマット2上に横になるように促すのである。
【0044】
以上のように、本睡眠測定装置では、検出されたマット内圧の静的成分Pから、その値に応じたマット内圧の変動分ΔVの大きさが特定される。そして、この変動分ΔVに基づいて基準増幅率A0を補正することによって、可変増幅器41における増幅率Aが設定される。そのため、マット2が経年劣化して、マット表面に伸びが生じたとしても、マットの内容物が減少したとしても、或いは、気温、高度などによりマット内の流体の静的状態での圧力が変動したとしても、生体信号の適切な増幅率が簡便に設定されることになる。
【0045】
また、従来の無呼吸検出装置に設けられた自動利得制御ユニットは、専用の付加的な回路からなる。そのため、特開2000−271103号公報には明確な記載が無いものの、睡眠測定装置はその付加回路の分だけ複雑な構成及び動作とならざるを得ない。また、この従来の無呼吸検出装置でのように、絶対圧と、微差圧(生体信号)とは、通常、別々のセンサにより測定される。
【0046】
これらに対して、本発明の睡眠測定装置において、可変増幅器41の増幅率Aの設定に係る構成部分は、図9〜図11に示すように、比較的に簡素なものである。特に、本睡眠測定装置における生体信号センサ5には、2つの機能がある。即ち、可変増幅器41の増幅率Aの設定のために絶対圧を測定するという機能と、本来の生体信号を測定するという機能とである。生体信号センサ5のこれら2つの機能は、装置全体の構成の簡素化に大きく役立っている。
【0047】
(他の実施の形態等)
以上、具体的な実施の形態によって本発明を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することができる。
A. 上記実施の形態において、例えば、マット内圧の静的成分Pは、無加重時におけるマット内圧の検出値とした。これとは異なり、ユーザがマットに乗った状態で、マット内圧の静的成分Pを得ることが可能である。
【0048】
つまり、ユーザがマットに乗った状態で生体信号センサ5の変動するセンサ出力Vsからマット内圧の静的成分Pを取り出す。これによって、ユーザがマットの上に乗った後か否かを厳密に区分けし、この区分けに応じた制御をする必要があるといったタイミングの問題を解消することが可能である。
【0049】
具体的には、(a)センサ出力Vsにローパスフィルタ(LPF)を掛ける手法、及び、(b)センサ出力Vsの平均を取る手法が挙げられる。(a)のLPFを用いる手法において、このLPFは、フィルタ42(図9)を構成する4つ目のフィルタとして設けることができる。LPFは、低周波数帯域、例えば0.2Hz以下の生体信号を後段へと通過させる。このLPF通過する生体信号が、マット内圧の静的成分Pとして検出され、制御部45に入力されて、この静的成分Pに基づき図11の増幅率設定処理が行われる。
【0050】
また、(b)の平均値を取る手法では、生体信号センサ5から出力されて可変増幅器41(図9)で増幅された生体信号が、適宜、増幅器43、A/D変換器44を介して、制御部45に入力されるようにしてよい。制御部45内で、この生体信号の平均値が算出され、算出された平均値がマット内圧の静的成分Pとして用いられて、図11の増幅率設定処理が行われる。
【0051】
B. マット内圧の静的成分Pに応じたマット内圧の変動分ΔVの特定は、これらの対応関係を記した参照テーブルによるものとした。これとは異なり、参照テーブルを用いず、図6のグラフのような対応関係を算出式として表し、この算出式にマット内圧の静的成分Pを代入することによって、マット内圧の変動分ΔVを算出することができる。
【0052】
C. 生体信号センサ5には、歪みゲージ55a(図3)を用いるものとしたが、半導体歪みゲージを用いてもよい。マット内圧の検出値の精度を上げるために、複数の歪みゲージを生体信号センサ5内の受圧膜53に貼り付けるようにしてもよく、もちろん、複数の生体信号センサ5を用いてもよい。
【0053】
D. 1つの生体信号センサ5によって、睡眠測定開始前にマット内圧の静的成分Pを検出するとともに、睡眠測定時に生体信号(マット内圧)を検出するものとした。これとは異なり、マット内圧の静的成分Pを測定する生体信号センサと、従来から用いられているマイクロホンセンサとの双方を用いてもよい。即ち、マイクロホンセンサに本来の生体信号を検出させるとともに、生体信号センサを、マイクロホンセンサの検出値に対する増幅率を設定するためだけに用いるといったことも可能である。
【0054】
E. 歪みゲージ55aを、マット2の上面または下面の、例えば、人の胴体の中央近傍の下方に相当する位置に、直接、貼り付けるようにしてもよい。この際、チューブ3は不要となり、生体信号センサ及び睡眠測定装置の構成はより簡素なものとなる。
【0055】
F. 参照テーブルは、マット内圧の静的成分Pと、変動分ΔVとの対応関係を示すものとした。これに代えて、参照テーブルが、マット内圧の静的成分Pと、補正係数Kとの対応関係を示すようにしてもよい。この場合、上記数1の計算が予め行われて、その算出結果が参照テーブルに格納されることになる。
【0056】
G. 当然ながら、マット内圧の静的成分Pの基準値P0として、図6のような極値となる値を用いなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態の1つである睡眠測定装置の全体構成を示す図である。
【図2】生体信号センサの構成を示す図である。
【図3】生体信号センサ内の圧力変動検出部の一例を示す電気回路図である。
【図4】生体信号(センサ出力)の例を示す図である。
【図5】マット内圧の静的成分Pと、マット内圧の変動分ΔVとの関係を得るための実験装置の概略構成を示す図である。
【図6】マット内圧の静的成分Pと、マット内圧の変動分ΔVとの対応関係を示すグラフである。
【図7】マット内圧の静的成分Pによる変動分ΔVへの影響を説明するための第1の模式図である。
【図8】マット内圧の静的成分Pによる変動分ΔVへの影響を説明するための第2の模式図である。
【図9】睡眠測定装置本体の構成の概略を示すブロック図である。
【図10】睡眠測定処理の概要を示すフローチャートである。
【図11】図10におけるS1の増幅率設定処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1………寝具
2………マット
3………チューブ
4………睡眠測定装置本体
5………生体信号センサ(検出手段)
41……可変増幅器
42……フィルタ
43……増幅器
44……A/D変換器
45……制御部(実行プログラムとともに、特定手段、算出手段)
46……表示部
47……入力部
48……補助記憶部
51……接続口
52……水室
53……受圧膜
54……空気室
55……圧力変動検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が充填されたマットの上に乗った生体から、該生体の睡眠状態に応じて変化する生体信号を検出して増幅し、増幅された該生体信号に基づいて睡眠状態を推定する睡眠測定装置であって、
前記マット内の流体の圧力であるマット内圧の静的成分Pを検出する検出手段と、
該検出手段により検出された前記静的成分Pから、該静的成分Pの値に応じて変化する、所定荷重の付加時におけるマット内圧の変動分ΔVを特定する特定手段と、
該特定手段により特定された前記変動分ΔVを用いて所定の基準増幅率A0を補正することによって、生体信号の前記増幅に用いる増幅率Aを算出する算出手段とを備えたことを特徴とする睡眠測定装置。
【請求項2】
マット内圧の前記静的成分Pと、マット内圧の前記変動分ΔVとの対応関係を示す参照テーブルを記憶する記憶手段を備え、
前記特定手段は、
該記憶手段に記憶された前記参照テーブルから、前記検出手段によって検出された前記静的成分Pに応じた変動分ΔVを得ることを特徴とする請求項1に記載の睡眠測定装置。
【請求項3】
前記算出手段は、
前記基準増幅率A0に対応したマット内圧の変動分である基準変動分ΔV0を、前記特定手段により特定された前記変動分ΔVで割ることにより補正係数を求め、求められた該補正係数を前記基準増幅率A0に掛けることによって、前記増幅率Aを算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の睡眠測定装置。
【請求項4】
前記検出手段は、
生体が前記マットに乗っていない状態で検出した検出値を、マット内圧の前記静的成分Pとして検出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の睡眠測定装置。
【請求項5】
前記生体信号の低周波数帯域を通過させるローパスフィルタを備え、
前記検出手段は、
該ローパスフィルタを、生体が前記マットに乗った状態で通過した生体信号を、マット内圧の前記静的成分Pとして検出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の睡眠測定装置。
【請求項6】
前記検出手段は、
生体が前記マットに乗った状態で前記生体信号の平均値を算出するとともに、算出された該平均値を、マット内圧の前記静的成分Pとして検出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の睡眠測定装置。
【請求項7】
前記検出手段は、
生体が前記マットに乗った状態で変動する前記マット内圧を、前記生体信号として検出することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の睡眠測定装置。
【請求項8】
前記検出手段は、
前記マットから連続し、流体が充填された流体室と、
空気が充填されている空気室と、
該空気室と前記流体室との間を仕切る受圧膜と、
該受圧膜上に設けられ、前記流体室内における流体の圧力の変動を検出する歪みゲージとを有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の睡眠測定装置。
【請求項9】
流体が充填されたマットの上に乗った生体から、該生体の睡眠状態に応じて変化する生体信号を検出して増幅し、増幅された該生体信号に基づいて睡眠状態を推定する睡眠測定方法であって、
前記マット内の流体の圧力であるマット内圧の静的成分Pを検出し、
検出された該静的成分Pから、該静的成分Pの値に応じて変化する、所定荷重の付加時におけるマット内圧の変動分ΔVを特定し、
特定された該変動分ΔVを用いて所定の基準増幅率A0を補正することによって、生体信号の前記増幅に用いる増幅率Aを算出することを特徴とする睡眠測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−50395(P2009−50395A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218823(P2007−218823)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】