説明

睡眠行動を監視するための方法及び電界マットレス

【課題】人の動きを監視するための電界マットレス及び方法を提供する。
【解決手段】電界マットレスは、複数の電極、電界を発生するために電極に電気的に接続される波形発生器520、及び被験者の動きによって引き起こされる電界における変動を検出するために電極のうちの少なくとも1つに接続される検出器530を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に言って睡眠行動を監視する方法及び電界マットレスに関するものであり、より特定して言うと睡眠パターンに影響を与える可能性のある病気を患う被験者の睡眠行動を監視する方法及び電界マットレスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎としても知られる湿疹はあらゆる年代の人に影響するが、特に幼児及び乳児に圧倒的に多い皮膚の症状である。この症状は熱帯気候の地域において悪化する。例えば、シンガポールにおいて10人のうち1人、子供5人のうち1人が湿疹を患っていると推定されている。
【0003】
症状の重さは人によって異なるであろうが、症候は同様であり容易に認識できる。湿疹患者は、頭皮、顔面、鼠径部、胸部、腕及び脚などの身体部分に炎症性の皮膚発疹を患う。通常、患部は脂腺がある身体部分である。
【0004】
発疹は非常に痒いため、患者は不快を軽くしようとして絶え間なく引っかく。引っかき行為は睡眠中も続くので、睡眠の質が下がることになり、その結果、深刻な二次的効果を引き起こす場合がある。従って、睡眠行動を監視することは、湿疹患者の診断及び治療にとって非常に有益である。
【0005】
これまで患者の活動及び(または)患者の生理的状態に基づいて患者の睡眠の質を監視するための様々な装置及び方法が提案されている。睡眠中の運動及び活動を監視するための装置は、腕時計またはリストバンドなど着用可能な装置とベッド型の装置に大きく分類することができる。
【0006】
アクチウォッチ(Actiwatch)は全身的自発運動の統合的デジタル測定値を記録するための小型データロギング装置であり、感度の良い加速度計、加速度計から出力されるデータを記録するためのメモリ及びオプションの第二の入力装置またはセンサを含む。アクチウォッチ装置の構成及びこの装置からのデータダウンロードは、データ通信インターフェイス及びパソコン(PC)によって実行されるコンピュータソフトウェアプログラムによって行われる。これは、臨床医及び研究者が不眠症、PLM、睡眠時無呼吸などの睡眠障害を患う患者の睡眠の質を測定するための手段となる。アクチウォッチ装置は、一般に患者の手首または手足に着けられ、患者の湿疹をさらに刺激して不都合な場合がある。もう1つの不利点は、アクチウォッチ装置及びその関連ソフトウェアのコストが高いことである。アクチウォッチについてさらなる情報は、例えば<www.minimitter.com/products/Brochures/900-0108-00_AW.pdf>から入手することができる。
【0007】
2002年11月26日に公告された「SensorBed」と題する米国特許第6,485,441号は、多数の加速度計及びその他のセンサを含む装置に関するものである。この装置は配備し難く、可搬性ではない。
【0008】
「睡眠中の人に有益な運動モニタ」と題する米国特許第5,796,340号が1998年8月18日に公告された。この特許は、患者の呼吸及び(または)心臓活動を検出するための圧力変換器を内部に持つ隔離された内部キャビティを有するマットレスに関するものである。
【0009】
「SleepSmart」と題する米国特許第6,468,234号が1998年8月22日に公告された。この特許は、従来のマットレスの上に敷けるシートに組み込まれる圧力及び温度センサを用いて睡眠の質を測定するための方法及び装置に関するものである。この装置は、人の体位、体温、音、振動及び動きなど身体的特性に関するデータを収集するための統合された圧力及び(または)温度センサパッド配列の層を1つまたはそれ以上含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は被験者の睡眠行動を監視するための改良された方法及びマットレスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様は、複数の電極、電界を発生するために電極に電気的に接続される波形発生器及び電界における変動を検出するために電極のうちの少なくとも1つに接続される検出器を含む、電界マットレスを提供する。電界の変動は、電界における被験者の動きによって引き起こされる。電界マットレスは、さらに、個々の電極を前記検出器に選択的に接続するためのマルチプレクサを含む。複数の電極は、電界マットレス内において二次元または三次元配列で配置することができる。
【0012】
本発明のもう1つの態様は、人の動きを監視するための方法を提供する。この方法は、電界を発生するステップ、電界における変動を検出するステップ、変動が電界における人の動きを表すものであるか否かを判定するステップ、及び人の体位の表示を出力するステップを含む。変動は、人の身体の様々な部位に対応する電界の複数の位置において検出することができ、人の四肢の動きを表すことができる。
【0013】
添付図面を参照して例としていくつかの実施形態について以下に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
被験者の睡眠行動を監視するための方法及び装置の実施形態について下に説明する。実施形態のうち一部は特に湿疹患者に言及して説明されているが、本発明の原理は被験者の動きを監視するために一般的に応用されるので、本発明の応用はこのように限定されるものではない。
【0015】
発明者は、湿疹を患う被験者及び患わない被験者数人の睡眠活動を監視するために市販のアクチウォッチ装置を用いて一連の実験を行った。
【0016】
第一の実験において、アクチウォッチを用いて湿疹患者の睡眠活動が監視され、分析されて、同じ監視期間中被験者について行われた録画と比較された。
【0017】
図1は、湿疹を患う17歳の被験者の睡眠活動のグラフを示している。グラフ120は、グラフ110の部分112の分解図である。グラフ120のウィンドウ122は多様な引っかき運動を示しており、異なる四肢によって行われた引っかき運動が一般的に言って相互に区別不能であることを示している。グラフ120のウィンドウ124は全身の動きを示している。このように、引っかき運動及び全身の動きは、一般的に言って区別不能である。
【0018】
第二の実験においては、湿疹を患っていない被験者の睡眠活動及び湿疹を患う被験者の睡眠活動がアクチウォッチ装置を用いて24時間記録された。データは分析され、それぞれの被験者の実際の睡眠活動の録画と照合して比較された。
【0019】
図2aは、湿疹を患っていない被験者の睡眠活動のグラフを示している。グラフ210は、日中(領域211及び213)の身体活動のレベルがその間に介在する夜間(領域212)の身体活動のレベルよりかなり大きいことを示している。グラフ220はグラフ210の領域212の分解図である。
【0020】
図2bは、湿疹を患う被験者の睡眠活動のグラフを示している。
【0021】
グラフ230は、日中(領域231及び233)の身体活動のレベルがその間に介在する夜間(領域232)の身体活動のレベルより大きいことを示している。しかし、夜間の身体活動のレベルは湿疹を患う被験者の場合湿疹を患わない被験者よりかなり大きい(すなわちそれぞれグラフ210及び230の夜間領域212と232を比較する)。グラフ240はグラフ230の領域232の分解図である。
【0022】
人体は、イオン溶液を含有する水を含むので電界を用いて検出することができる誘電特性を示す。都合が良いことに、この検出は、人体に害のない低電圧電界を用いて行うことができる。
【0023】
図3は、電界を用いて被験者の運動及び(または)存在を検出するための電極配列を示している。
【0024】
電極配列310は、銅線を通じて電気コネクタ330に電気的に接続される、線形に配置される電極321−329の配列を含む。電極321−329の各々は積層銅板から作られるが、その代わりにスチール、アルミニウム及びチタンなど別の導電性材料から作ることができる。また、電極321−329は鉄質マットまたはベールを含むことができる。
【0025】
図4は、電界を用いて被験者の運動及び(または)存在を検出するための別の電極配列を示している。
【0026】
電極配列410は、銅線を通じて電気コネクタ430に電気的に接続される電極421−429の3×3配列を含む。電極421−429の各々は積層銅板から作られるが、その代わりにスチール、アルミニウム及びチタンなど他の導電性材料から作ることができる。また、電極421−429は鉄質マットまたはベールを含むことが出来る。
【0027】
図3及び4の電極配列310及び410は、各々二次元格子状に配置される9個の電極を含む。ただし、他の数の電極の配列を実現することができる。特に、もっと多くのもっと小さい電極を使用すると、被験者のもっと小さいまたはもっと目立たない体の動きをさらに良く検出する。さらに、検出感度を高めるために積み重ねまたは三次元形態で複数の配列を実現することができる。
【0028】
図3及び4の電極配列310及び410を従来のまたは特注のマットレスと統合して、「電界マットレス」を構成することができる。統合は、従来のマットレスへの電極配列の埋込みまたは従来のマットレスの上面または下面への電極配列の取付けを含めて多様な方法で行うことができる。さらに、電極配列は、従来のマットレスに使用することができる非導電性基材、例えば柔らかな布に取り付けるかまたは埋め込むことができる。その代わりに、またはこれに加えてプラスティック、ゴム及び(または)アクリルなど他の非導電性基材を使用することができる。電極に積層銅板を使用することにより電極に柔軟性が与えられ、マットレスへの統合または埋め込み及びマットレスの洗濯が容易になる。
【0029】
別の実施形態においては、各々面積10cm2の28個の電極の7×4配列がシングルベッド用のマットレスプロテクタに縫い込まれた。電極には電界発生器によってエネルギが供給された。ある時限に定間隔で個々の電極で検出される電界の規模を表す8ビット未加工データを記録するためにメモリカード記憶装置付きデータロガーが使用された。データは処理のためにコンピュータシステムに転送された。データの処理によって個々の電極に関する変動が識別され、時間の経過に伴う被験者の存在及び動きが表示された。四肢の存在または不在の検出は電極の7×4配列を用いて可能となった。
【0030】
図5は、電界における被験者の存在及び(または)動きを監視するための装置のブロック図を示している。装置は電極の配列510を含み、電極は各々、電界を発生するために電極配列510に接続される波形発生器520からエネルギ供給を受ける。電極配列510を実現するために使用される電極配列の例は、図3及び4に関連して上に説明した電極配列を含む。
【0031】
波形発生器520を制御しかつ波形発生器520によって発生された電界における変化を検出するために、マイクロコントローラ530が波形発生器520に接続される。マイクロコントローラ530は、メモリ、通信インターフェイス及び電界における変動を検出し、かつ(または)処理するためのプロセッサを含む。マイクロコントローラ530は、シリアル通信インターフェイス532に接続され、シリアル通信インターフェイスはブルートゥース送信器534に接続される。図5の装置は、シリアル通信インターフェイス532を通じて、またはブルートゥース送信器534を通じて無線で、一時的または恒久的にパーソナルコンピュータ(PC)、ラップトップまたはノート型コンピュータ、携帯端末(PDA)などコンピュータシステム540に接続することができる。RS-232、RS-485、ユニバーサルシリアルバス(USB)、FireWire、WiFiなど様々なシリアルまたはその他の通信インターフェイス及び(または)無線通信手段を利用することができる。マイクロコントローラ530によって収集されたデータは記憶及び分析のためにコンピュータシステム540に転送される。コンピュータシステム540が実行するソフトウェアアプリケーションは、電極配列510からのデータの分析、及び被験者の睡眠活動のグラフ表示及び電極に対する被験者のポジションの図式表示を含む結果の表示を可能にする。
【0032】
本発明の特定の実施形態においては、波形発生器520は、120kHzで動作するよう構成されるモトローラ33794の集積回路を含み、マイクロコントローラ530はモトローラDSP56F823 16ビット・デジタル信号プロセッサチップを含み、信号プロセッサチップはオンボード16ビット・アナログ-デジタル変換器を含む。モトローラ33794集積回路内部の発生器は、電極配列510を駆動するために高調波成分が少ないピーク-ピーク値5.0Vの正弦波形を発生する。モトローラ33794集積回路内部のレシーバ-マルチプレクサは、同時に、検出器は現在選択されている電極を同じくモトローラ33794集積回路内部の検出器に接続する。集積回路は正弦波をDC信号に変換する。DC信号は感度を増すためにフィルタリングされ、多重化されオフセットされた後、モトローラDSP56F8323デジタル信号プロセッサ内部のアナログ-デジタル変換器に送られる。電極配列510のうち選択されていない残りの電極の出力は内部接地される。電界の攪乱は電極のうちの1つまたはそれ以上における容量性電圧の変化として反映される。この種の攪乱は検出されて、モトローラDSP56F8323のアナログ-デジタル変換器に送られる。
【0033】
図6は、電界を用いて被験者の体位及び(または)動きを監視するための方法のフローチャートを示している。電界はステップ610において発生される。電界における変動はステップ620において検出される。ステップ630において、ステップ620において検出された変動が電界における被験者の体位及び(または)動きを表すものであるか否かが判定される。被験者の動き及び(または)体位の表示はステップ640において出力される。この種の出力の例が図7a、7b及び7cに示されている。
【0034】
図7a、7b及び7cは、各々本発明の実施形態に従った電界マットレス上の人体の存在の検出を示している。
【0035】
図7aは、電界マットレス上で仰向けに横たわる人のグラフ表示710及びマットレス内の配列における一部の電極によってこの人の身体の存在が検出されたことを示す対応するグラフ出力715を示している。グラフ出力715のより詳細な図716はクロスハッチングによって検出電極を示している。
【0036】
図7bは、電界マットレス上で左を向いて横たわる人の写真720及びマットレス内の配列における一部の電極によってこの人の身体の存在が検出されたことを示す対応するグラフ出力725を示している。グラフ出力725のより詳細な図726はクロスハッチングによって検出電力を示している。
【0037】
図7cは、電界マットレス上に座っている人の写真730及びマットレス内の配列における一部の電極によってこの人の身体の存在が検出されたことを示す対応するグラフ出力735を示している。グラフ出力735のより詳細な図736はクロスハッチングによって検出電極を示している。
【0038】
本発明の実施形態に従った電界マットレスは経済的に折り畳んで運べるように作ることができ有利である。
【0039】
以上の詳細な説明は実施形態例を示しているだけであり、本発明の範囲、適用性または形態を限定しようとするものではない。むしろ、実施形態例の説明は、本発明の実施形態の実現を可能にするための説明を当業者に与えるものである。特許請求の範囲に示される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく機能及び要素の配置に様々な変更を加えることができる。
【0040】
本明細書において言及される特定の特徴、要素及びステップが、本発明が関係する技術において既知の同等物を持つ場合、この既知の同等物は、個々に述べられているかのごとく本明細書に組み込まれると見なされる。さらに、特定の実施形態に関連して言及される特徴、要素及びステップは、特に明示されない限り、任意に他の実施形態の一部を成すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】湿疹を患う被験者の睡眠活動を表すグラフである。
【図2a】湿疹を患わない被験者の睡眠活動を表すグラフである。
【図2b】湿疹を患う被験者の睡眠活動を表すグラフである。
【図3】電界を用いて被験者の運動及び(または)存在を検出するための電極配列のブロック図である。
【図4】電界を用いて被験者の運動及び(または)存在を検出するための別の電極配列のブロック図である。
【図5】電界を用いて被験者の存在及び(または)動きを監視するための装置のブロック図である。
【図6】電界を用いて被験者の存在及び(または)動きを監視するための方法のフローチャートである。
【図7a】本発明の実施形態に従った電界マットレスにおける人体の存在の検出を示す図である。
【図7b】本発明の実施形態に従った電界マットレスにおける人体の存在の検出を示す図である。
【図7c】本発明の実施形態に従った電界マットレスにおける人体の存在の検出を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
510 電極配列
520 波形発生器
530 マイクロコントローラ
532 シリアル通信インターフェイス
534 ブルートゥース送信器
540 コンピュータシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極と、
電界を発生するために前記電極に電気的に接続される波形発生器と、
前記電界における変動を検出するために前記電極のうちの少なくとも1つに接続される検出器と、を含み、
前記変動が前記電界における被験者の動きによって引き起こされる、ことを特徴とする電界マットレス。
【請求項2】
前記変動が前記電界における誘電性の変動によって引き起こされる、請求項1に記載の電界マットレス。
【請求項3】
前記複数の電極の各々が積層銅板から製造される、請求項2に記載の電界マットレス。
【請求項4】
前記複数の電極が電極の二次元配列を形成するように配置される、請求項2に記載の電界マットレス。
【請求項5】
前記複数の電極が電極の三次元配列を形成するように配置される、請求項2に記載の電界マットレス。
【請求項6】
個々の前記電極を選択的に前記検出器に接続するためのマルチプレクサを含む、請求項2に記載の電界マットレス。
【請求項7】
前記被験者の動きを識別するために前記電界において検出された変動を処理するためのコンピュータシステムを含む,請求項2に記載の電界マットレス。
【請求項8】
前記複数の電極が前記電界マットレス内に配置される、請求項1から7までのうちいずれか1項に記載の電界マットレス。
【請求項9】
前記被験者が人である、請求項1から7までのうちいずれか1項に記載の電界マットレス。
【請求項10】
人の動きを監視するための方法であり、該方法が、
電界を発生するステップと、
前記電界における変動を検出するステップと、
前記変動が前記電界における前記人の動きを表すものであるか否かを判定するステップと、
前記人の体位の表示を出力するステップと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記変動が前記人の身体の様々な部位に対応する前記電界における複数の位置において検出される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記変動が前記人の四肢の動きを表す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記人の動きの表示を出力するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記変動が前記電界における誘電性の変化によって引き起こされる、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【公開番号】特開2006−271978(P2006−271978A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−92203(P2006−92203)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】