説明

矢尻

【課題】
錆の発生を抑えると共に、摩耗による変形をなくし、さらに、比重の大きさを兼ね備えた直進性に優れた矢尻を提供する。
【解決手段】
矢尻1に、硬質の金属炭化物の焼結体である超硬合金(JIS M3916)を用い、これを研磨加工することにより、内外周面軸心の同軸度精度が0.05mm以下である、表面の滑らかな、また肉厚の均一な構造をなす矢尻を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、和弓用の矢を構成する矢尻に関するものである。
【背景技術】
【0002】
和弓に用いられている矢は、図3に示す様に、先端に矢尻1を備えた箆4の反対の端に矢羽5及び矢筈6を備えて構成されている。そして、弓により矢尻1を先頭に飛ばされた矢は矢尻1が的に突き刺さるようになっており、その為の形状をなしている。上記矢尻1は、古くは旧石器時代に製造されており、材質も石や骨から木や竹などに変わり、さらに鉄や真鍮と変化を遂げた。さらに矢の改良に関しては、特許文献1が示す様に、上記矢尻1について、錆の発生と摩耗の対策を目的にして、セラミック製の矢尻が開示されている。また、矢を安定して飛ばすには矢の重心を前にずらす事により可能となるが、この発想は昔よりあり、矢尻1と箆4の間に釘などの重りを使用する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−63500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本来、矢に求められる最大の性能は直進性である。直進性とは安定した飛行軌跡と飛行姿勢の事を言い、直進性の向上が命中率を高めることに繋がる。矢尻の錆や摩耗は、この性能の低下を引き起こす。したがって、特許文献1に開示されているように、長い間放置しておくと錆が発生しやすく摩耗しやすい鉄製の矢尻や、錆は発生しにくいが鉄製のもの以上に摩耗が激しい銅合金製の矢尻について、セラミックス焼結体を用いる事により、耐食性と耐摩耗性に優れた矢尻を提供することは効果的である。しかし、この技術は耐食性と耐摩耗性を改善するに過ぎず、直進性を飛躍的に向上させるものではない。すなわち、セラミックス焼結体の比重は3〜4で、鉄製の矢尻より比重が小さく、矢を安定して飛ばすには矢の重心を先端に近づけるという点において致命的な問題点がある。また、矢尻と箆の間に釘などの重りを使用する場合は、使用時に釘が外れたり、釘の重さを調節するなど煩雑であるという問題がある。本発明は上記問題点を解決し、直進性を高める為の矢尻を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、矢の先端に備える矢尻であって、JIS M3916に規定される超硬合金からなることを特徴とする。また、前記超硬合金がJIS分類番号E3〜E6であることを特徴とする。また、矢尻の内外周面軸心の同軸度精度が0.05mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、矢を構成する矢尻をJIS規格M3916(鉱山工具用超硬チップ)のE3〜E6に相当する超硬合金で形成することによって、直進性に優れ、更に耐摩耗性、耐腐食性、及び耐チッピング性に良好な矢尻を提供する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の矢尻の構造図で、(a)側面図、(b)底面図である。
【図2】本発明の矢尻の製造工程のフロー図である。
【図3】和弓用の矢の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の詳細について、図を参照して説明する。図1は本発明の矢尻の構造図である。矢尻1は、硬質の金属炭化物の粉末を焼結して作られる超硬合金を加工して製作する。図2に製造工程を示す。以下、各工程の詳細を説明する。炭化タングステン(WC)と結合剤であるコバルト(Co)を、アトライタ・ボールミルと呼ばれる混合機を使用し、粉末の酸化を防止する為に、有機溶剤(アルコール等)と共に混合する(S001)。次に、混合・粉砕した粉末をプレスして押し固める(S002)。プレスは金型を用いた油圧プレス機を使用する。次に、プレス品を400℃〜800℃の温度で焼処理し(S003)半焼結する。半焼結は超硬合金の酸化を防止する為、真空バッチタイプの炉を使用する。次に半焼結品を成形加工する(S004)。この状態では超硬合金も硬度が低く、旋削加工が可能である。しかし、次の工程の本焼結(S005)によって体積が収縮するので、あらかじめ計算した荒加工のみを行う。本焼結を終えた超硬合金はHIP(熱間等方加圧)処理(S006)を行い、超硬合金として完成する。本発明に使用する超硬合金は中でも、JIS規格M3916(鉱山工具用超硬チップ)E3〜E6相当の超硬合金を対象としている。この素材は一般耐摩耗用材種V(JIS)と比べて衝撃に強く、矢の使用目的である的に当たる、もしくは的をはずれて的以外のものに当たるという行為において、最も耐久性に優れている。表1は異なる材料で製作した矢尻を評価した結果である。本表では、矢尻としての耐久性、耐食性、耐摩耗性及び比重を、非常に良好(○)、良好(△)、不良(×)で評価した。
【0009】
【表1】

【0010】
耐久性においては、抗折力を基準とし、本発明では3.0GPa、比較1では2.7GPa、比較2では0.9GPaで、本発明が最も優れている事が分かる。耐食性、耐摩耗性は、ビッカース硬度が1000kg/mm以上で矢尻に使用することを考えれば、差はあまり無い。また、比重については、本発明と比較1は14〜15であるが、比較2は3〜5であり矢尻として飛翔体に使用するにはふさわしくない。さらに、本発明の対象であるE種は、研磨加工においてもチッピングが少なく、研削性も良好であり、コストパフォーマンスに優れている。矢の直進性を含めて総合的に評価すると、表1の全ての項目において、本発明は矢尻に求められている性能を兼ね備え、矢尻のための究極の素材であることが分かる。図2の製作工程において、台金を図1に示す外周面2の形状に成形し、この台金に、#120〜#240のダイヤを電着させたダイヤモンド砥石を用い、外周面2を研磨加工する(S008)。次にこの外周面2を基準とし、内径加工機に矢尻1をセットし、同軸度0.05mm以内の精度をもって内周面3を研磨加工する(S009)。このときの同軸度の精度が直進性を向上する。矢尻を箆に装着させた時、従来の矢尻では矢全体の中心軸と矢尻の中心軸とがずれ、安定した飛行が損なわれていた。一般に、矢は上下左右に振れながら魚の様に飛行する。これは「色がつく」と言い、好ましいものではない。本発明の矢尻は、矢全体の中心軸と矢尻の中心軸との誤差を最小にして、飛行の安定性を確保し、直進性を高めている。弓道家は、色がつかない様、日々練習を重ねているが、本発明の矢尻は弓道家に大きく貢献している。競技としての弓道では、射法八節が基本であり、その中の残心(残身)という矢が放たれた後の姿勢は矢の安定した直進性により、より高く評価される。本発明をまとめると、JIS規格M3916(鉱山工具用超硬チップ)超硬合金を用い、矢尻を形成する。また、矢は的に当たる際に大きな衝撃が加わる為、欠けや割れを防止する目的としてE3〜E6(JIS)の超硬合金を用いる。一般に超硬合金は焼結の際に収縮するので、その焼き肌は粗く、肉厚も均一ではない。よって、本発明では、矢尻の外周面2の焼き肌を研磨加工して、表面を滑らかにし、また内周面3も研磨加工を施し、肉厚を均一にして軸心の同軸度を0.05mm以下とする。
【符号の説明】
【0011】
1 矢尻
2 外周面
3 内周面
4 箆
5 矢羽
6 矢筈


【特許請求の範囲】
【請求項1】
矢の先端に備える矢尻であって、JIS M3916に規定される超硬合金からなることを特徴とする矢尻。
【請求項2】
前記超硬合金がJIS分類番号E3〜E6であることを特徴とする請求項1記載の矢尻。
【請求項3】
内外周面軸心の同軸度精度が0.05mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の矢尻。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−210156(P2010−210156A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57309(P2009−57309)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(309001687)トヨミツ工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】