説明

石積み浄化堤の機能維持方法及びシステム

【課題】貧酸素水塊や青潮に曝されても石積み浄化堤の水質浄化機能を維持する。
【解決手段】本発明に係る石積み浄化堤の機能維持システム1は、石積み浄化堤2で囲まれた内水域7に設置され該内水域から貧酸素水又はその可能性がある水を取水可能な取水ポンプ8と、該取水ポンプからの海水の溶存酸素濃度を高めて高濃度酸素水を生成可能な酸素水生成手段としての酸素濃縮装置9及び酸素溶解装置10と、高濃度酸素水を石積み浄化堤2に供給可能な酸素水供給手段としての送水ポンプ11及び吐出管12と、外水域14の潮位を計測する潮位計21と、外水域14の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素計22と、潮位計21及び溶存酸素計22で計測された値に応じて酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を駆動制御する制御装置23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質浄化堤が貧酸素水塊や青潮に曝されたときにその水質浄化機能を維持する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市部近傍の沿岸水域においては、河川による流入負荷や堆積ヘドロからの溶出負荷が大きく、広域かつ根本的な水質浄化を行うことは容易ではないが、かかる水域の一部を石積み浄化堤で取り囲み、その内側に拡がる内水域を浄化する試みが実施されるようになってきた。
【0003】
石積み浄化堤は、礫あるいは石を堤体材として海底から積み上げてなる海洋構造物であり、潮の干満や波が生じると、外水域の海水は堤体材の礫間を通過して内水域へと移動する。
【0004】
ここで、プランクトン等の海水中の汚濁成分は、堤体材の表面に付着形成された微生物群からなる生物膜によって付着あるいは捕捉されるとともに、付着捕捉された濁り成分は、微生物群によって分解されたり、礫間に棲息する貝類や甲殻類によって摂取される。
【0005】
すなわち、外水域の海水は、石積み浄化堤を構成する堤体材の礫間を通過することで汚濁成分が除去され、清浄な海水となって内水域に流入することとなり、かくして石積み浄化堤は、自然の生態を利用した水質浄化機能を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−184081号公報
【特許文献2】特開2000−45244号公報
【特許文献3】特開平8−57489号公報
【特許文献4】特開平7−290084号公報
【特許文献5】特開2005−46756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、出願人による実証試験の結果、貧酸素水塊や青潮が潮汐や波浪によって石積み浄化堤に流入する懸念があることがわかってきた。かかる場合に遭遇した場合、石積み浄化堤の水質浄化機能は著しく低下することになる。
【0008】
すなわち、貧酸素水塊は、海底近傍での有機物分解による多量の酸素消費によって溶存酸素濃度が例えば3.5mg/l未満に低下した海水であり、青潮は、かかる海水が表層部に湧昇し、それに含まれていた硫化水素が海面近傍で酸素と接触してコロイド状の硫黄になったものである。
【0009】
そのため、貧酸素塊や青潮が潮の干満や波によって石積み浄化堤を通過すると、堤体材に付着していた生物膜や棲息生物は、無酸素あるいは貧酸素の状態に曝されることとなり、その結果、生物膜や棲息生物が死滅し、ひいては石積み浄化堤の水質浄化機能が著しく低下するという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、貧酸素塊や青潮に曝されても水質浄化機能を維持することが可能な石積み浄化堤の機能維持方法及びシステムを提供することを目的とする。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持方法は請求項1に記載したように、石積み浄化堤で囲まれた内水域、該石積み浄化堤の外側に拡がる外水域又はその堤体内から取水し、取水された水の溶存酸素濃度を高めて高濃度酸素水とし、該高濃度酸素水を前記石積み浄化堤を構成する堤体材の礫間に供給するものである。
【0012】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持方法は、吐出口が前記礫間に位置決めされるように前記石積み浄化堤に埋設された吐出管を介して前記高濃度酸素水を供給するものである。
【0013】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持方法は、前記内水域、前記外水域又は前記堤体内の水位が上昇しているときに前記供給を行うものである。
【0014】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持方法は、前記内水域、前記外水域又は前記堤体内の溶存酸素濃度が所定値未満のときに前記供給を行うものである。
【0015】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持方法は、前記取水を前記内水域から行うものである。
【0016】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持システムは請求項6に記載したように、石積み浄化堤で囲まれた内水域、該石積み浄化堤の外側に拡がる外水域又はその堤体内に設置され該内水域、外水域又は堤体内から取水可能な取水ポンプと、入力側に前記取水ポンプが接続され該取水ポンプからの水の溶存酸素濃度を高めて高濃度酸素水を生成可能な酸素水生成手段と、該酸素水生成手段の出力側に接続された酸素水供給手段とを備えるとともに、該酸素水供給手段を、前記高濃度酸素水が前記石積み浄化堤を構成する堤体材の礫間に供給されるように構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持システムは、前記酸素水供給手段を、前記酸素水生成手段の出力側に接続された吐出管で構成するとともに、該吐出管を、その吐出口が前記礫間に位置決めされるように前記石積み浄化堤に埋設したものである。
【0018】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持システムは、前記内水域、前記外水域又は前記堤体内の水位を計測する水位計と該水位計で計測された水位の値に応じて前記酸素水生成手段を駆動制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記水位計による値からその水位が上昇中であるかどうかを判断し、該水位が上昇中であると判断されたときに前記酸素水生成手段を作動させるようになっているものである。
【0019】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持システムは、前記内水域、前記外水域又は前記堤体内の溶存酸素を計測する溶存酸素計と該溶存酸素計で計測された溶存酸素濃度の値に応じて前記酸素水生成手段を駆動制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記溶存酸素計による値が所定値未満のときに前記酸素水生成手段を作動させるようになっているものである。
【0020】
また、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持システムは、前記取水ポンプを前記内水域に設置したものである。
【0021】
石積み浄化堤が貧酸素水に曝されたとき、石積み浄化堤を構成する堤体材の表面に形成されている生物膜や礫間に棲息する生物は、上述したように貧酸素状態におかれて死滅し、石積み浄化堤はその水質浄化機能を喪失する。
【0022】
本出願人は、かかる問題を解決すべく、石積み浄化堤の堤体に酸素を供給すればどうかという点に着眼して研究開発を行ったところ、無酸素状態に近い貧酸素水に対しては、通常のエアレーションでは十分な量の酸素を供給することができないことや、短時間に大気に放散されてしまうため、堤体の隅々にまで酸素を供給することが難しいこと、さらには内水域に流入した貧酸素水が内水域を汚濁させることがあらたに判明した。
【0023】
これらの点を踏まえてさらに研究を続けたところ、石積み浄化堤で囲まれた内水域、該石積み浄化堤の外側に拡がる外水域又はその堤体内から取水し、次いで、その水の溶存酸素濃度を酸素水生成手段で高めて高濃度酸素水とした後、該高濃度酸素水を酸素水供給手段を介して堤体材の礫間に供給することにより、貧酸素状態となっている水を石積み浄化堤の近傍から除去するとともに、堤体材の表面に付着する生物膜や礫間に棲息する生物の死滅を未然に防止することができるというあらたな知見を得るに至ったものである。
【0024】
貧酸素水又はその可能性がある水を取水する位置としては、
【0025】
(a)石積み浄化堤の外側に拡がる外水域
【0026】
(b)石積み浄化堤で囲まれた内水域
【0027】
(c)石積み浄化堤の堤体内
【0028】
の3つから適宜選択することが可能であるが、石積み浄化堤の内水域から取水するようにすれば、貧酸素水が石積み浄化堤を通過して内水域に流入した後であっても、該内水域から貧酸素水を除去することができるので、内水域の水質浄化を行うことも可能となる。
【0029】
一方、石積み浄化堤の堤体内、例えば堤体に取水ピットを設けて該取水ピットから取水するようにすれば、高濃度酸素水は、供給後、速やかに取水ポンプで回収されるため、堤体材の礫間には常に新鮮な高濃度酸素水が供給されることとなり、生物膜や礫間棲息生物の死滅をより確実に防止することが可能となる。
【0030】
溶存酸素濃度を高めて高濃度酸素水を生成するための酸素水生成手段は、例えば高濃度の酸素を溶解可能な装置を適宜用いればよい。
【0031】
かかる酸素水生成手段は例えば、PSA方式の酸素濃縮装置と、該酸素濃縮装置で生成された高濃度酸素ガスを例えば90%程度に溶解させることが可能な酸素溶解装置とを組み合わせて構成することが可能であり、それぞれ市販の装置から適宜選択することができる。
【0032】
本発明において貧酸素水とは、溶存酸素濃度がきわめて小さい場合として実質的に無酸素水をも含むとともに、いわゆる貧酸素水塊もこれを含む概念で用いるものとする。また、青潮は、硫化水素や該硫化水素が酸化された硫黄酸化物を含むため、溶存酸素濃度が低い単なる貧酸素水塊とは区別されることがあるが、本明細書で貧酸素水とは、溶存酸素濃度が低い水であって、青潮も含む概念として用いるものとする。
【0033】
高濃度酸素水は、石積み浄化堤を構成する堤体材の礫間に任意の方法で供給すれば足りるものであって、酸素水供給手段をどのように構成するかも任意である。
【0034】
例えば、石積み浄化堤の堤体頂部近傍に設置された散水装置で酸素水供給手段を構成することにより、高濃度酸素水を石積み浄化堤の表面から内部へと浸透させるようにしてもよいし、石積み浄化堤の外水域側でかつ水面下方に配置された供給管で酸素水供給手段を構成することにより、高濃度酸素水を石積み浄化堤の外水域側で噴出させて堤体内に流入させてもよい。
【0035】
ここで、酸素水供給手段を、酸素水生成手段の出力側に接続された吐出管で構成するとともに、該吐出管を、その吐出口が礫間に位置決めされるように石積み浄化堤に埋設したならば、高濃度酸素水を拡散させることなく石積み浄化堤の礫間に吐出することができるので、生物膜や礫間棲息生物の死滅をより確実に防止することが可能となる。
【0036】
なお、酸素水供給手段は、吐出管のみで構成する以外に、吐出管及び該吐出管の上流側又は下流側に接続された送水ポンプで構成することが可能であるが、かかる送水ポンプは必要に応じて適宜備えるようにすればよい。
【0037】
酸素水生成手段をどのタイミングで作動させるかは任意であるが、貧酸素水は主として外水域側で発生して内水域側に流入するため、石積み浄化堤の内水域、外水域又は堤体内の水位が上昇しているときに高濃度酸素水の供給を行うようにすれば、貧酸素水の流入に合わせて高濃度酸素水が石積み浄化堤の堤体材間隙に供給されることとなり、効率的な維持管理が可能となる。
【0038】
酸素水生成手段を作動させるには、内水域、外水域又は堤体内の水位を水位計で計測し、その値から水位が上昇中であるかどうかを制御手段で判断し、該水位が上昇中であると判断されたときに該制御手段で酸素水生成手段を作動させるようにすればよい。
【0039】
水位は、石積み浄化堤の内水域、外水域又は堤体内のいずれで計測してもよく、堤体内で計測する場合には例えば計測ピットを設けて該計測ピットの水位を計測するようにすればよい。
【0040】
また、石積み浄化堤の内水域、外水域又はその堤体内の溶存酸素濃度が所定値未満のときに高濃度酸素水の供給を行うようにすれば、石積み浄化堤が貧酸素水に曝されるおそれがあるときのみ、高濃度酸素水が供給されることとなり、水位上昇に基づく作動と同様、石積み浄化堤の効率的な維持管理が可能となる。
【0041】
酸素水生成手段を作動させるには、内水域、外水域又は堤体内の溶存酸素を溶存酸素計で計測し、その値が所定値未満のときに制御手段で酸素水生成手段を作動させるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】石積み浄化堤の機能維持システム1の概略図。
【図2】吐出管12の図であり、(a)は堤体の軸線に直交する断面に沿った配置図、(b)はA−A線に沿う鉛直断面図、(c)は吐出管の拡大詳細図。
【図3】石積み浄化堤の機能維持システム1の実施手順を示したフローチャート。
【図4】変形例に係る石積み浄化堤の機能維持システムを示した概略図。
【図5】別の変形例に係る石積み浄化堤の機能維持システムを示した概略図。
【図6】別の変形例に係る石積み浄化堤の機能維持システムを示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明に係る石積み浄化堤の機能維持方法及びシステムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図1は、本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持システムを示した概略図である。同図でわかるように本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持システム1は、石積み浄化堤2で囲まれた内水域7に設置され該内水域から取水可能な取水ポンプ8と、該取水ポンプからの海水の溶存酸素濃度を高めて高濃度酸素水を生成可能な酸素水生成手段としての酸素濃縮装置9及び酸素溶解装置10と、高濃度酸素水を石積み浄化堤2に供給可能な酸素水供給手段としての送水ポンプ11及び吐出管12とからなる。
【0045】
石積み浄化堤2は、礫、石等の堤体材3を海底4から積み上げ、これを被覆石5で被覆して堤体を構成してある。
【0046】
酸素濃縮装置9は、大気から空気を取り込んでこれを圧縮するコンプレッサ(図示せず)と、圧縮空気から水分を予め除去するクーラー及びドレインセパレータ(図示せず)と、該ドレインセパレータに接続された吸着筒(図示せず)とを備えており、該吸着筒は、ドレインセパレータから送られてきた空気中の窒素を加圧下でゼオライトに吸着させる一方、ゼオライトに吸着した窒素を減圧下で脱着させて大気に排出するプロセスを繰り返し行うようになっており、かかる吸着脱着工程を繰り返すことで、空気中の酸素を選択的に取り出し、例えば濃度が90%程度の酸素ガスを生成できるようになっている。
【0047】
かかる酸素濃縮装置9においては、吸着筒を例えば2本設置し、それぞれを吸着工程と脱着工程で切り替えながら連続同時使用するように構成することができる。
【0048】
酸素溶解装置10は、酸素濃縮装置9から送られてきた高濃度酸素ガスを、取水ポンプ8から送られてきた海水で満たされた噴流ボックス(図示せず)に吹き込むことにより、該噴流ボックス内でキャビテーションを生じさせ、高濃度酸素ガスを例えば90%程度に貧酸素水に溶解させることができるようになっている。
【0049】
送水ポンプ11は、その入力側を酸素溶解装置10の噴流ボックスに、その出力側を吐出管12にそれぞれ接続してあるとともに、吐出管12は図2でよくわかるように、該吐出管に形成された多数の吐出口13が石積み浄化堤2を構成する堤体材3の礫間に位置決めされるように石積み浄化堤2に埋設してあり、かかる構成により、酸素溶解装置10で生成された高濃度酸素水を石積み浄化堤2を構成する堤体材3の礫間に供給できるようになっている。
【0050】
吐出管12は、高濃度酸素水が石積み浄化堤2のあらゆる箇所、特に堤体中央の底層部に確実に供給されるよう、断面積、本数、埋設深さ等を適宜設定するとともに、同様な観点で吐出口13の孔径や個数を適宜設定する。
【0051】
本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持システム1は図1に示すように、石積み浄化堤2の外水域14の潮位と溶存酸素濃度をそれぞれ計測する潮位計21及び溶存酸素計22と、潮位計21と溶存酸素計22とで計測された値に応じて酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を駆動制御する制御装置23とを備えており、該制御装置は、潮位計21による値から外水域14の水位が上昇中であるかどうかを判断し、該水位が上昇中であると判断されたとき、又は溶存酸素計22による値が所定値、例えば3.5mg/l未満のとき、酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を作動させるようになっている。
【0052】
図3は、本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持システム1を用いて石積み浄化堤2の機能を維持する方法を実施する手順を示したフローチャートである。同図でわかるように、本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持方法においては、まず、石積み浄化堤2の外水域14の潮位と溶存酸素濃度を潮位計21及び溶存酸素計22でそれぞれ計測する(ステップ101)。
【0053】
次いで、潮位計21による値から、外水域14の潮位が上昇中であるかどうかを判断する(ステップ102)。
【0054】
ここで、上昇中でない場合には(ステップ102、NO)、溶存酸素濃度が所定値、例えば3.5mg/l未満がどうかを判断し(ステップ103)、所定値以上であれば(ステップ103、NO)、潮位計21及び溶存酸素計22による計測を継続して行う(ステップ101)。
【0055】
一方、外水域14の潮位が上昇中であれば(ステップ102、YES)、貧酸素水が外水域14の側に存在していた場合、潮汐によって貧酸素水が外水域14から内水域7に流入している可能性があるので、制御装置23で取水ポンプ8を作動させ、石積み浄化堤2で囲まれた内水域7から貧酸素水又はその可能性がある海水を取水する(ステップ104)。
【0056】
また、溶存酸素計22による値が所定値未満であれば(ステップ103、YES)、波浪によって貧酸素水が外水域14から内水域7に流入している可能性があるので、制御装置23で取水ポンプ8を作動させ、石積み浄化堤2で囲まれた内水域7から貧酸素水又はその可能性がある海水を取水する(ステップ104)。
【0057】
次に、制御装置23で酸素濃縮装置9及び酸素溶解装置10を作動させることにより、取水された貧酸素水又はその可能性がある海水の溶存酸素濃度を高めて高濃度酸素水とする(ステップ105)。
【0058】
次に、送水ポンプ11を制御装置23で制御することにより、酸素濃縮装置9及び酸素溶解装置10で生成された高濃度酸素水を吐出管12を介して送水し、該吐出管に形成された吐出口13を介して堤体材3の礫間に吐出する(ステップ106)。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持システム1及び方法によれば、貧酸素水又はその可能性がある海水を取水ポンプ8で取水し、次いで、その溶存酸素濃度を酸素濃縮装置9及び酸素溶解装置10で高めて高濃度酸素水とした後、該高濃度酸素水を送水ポンプ11で送水し、吐出管12に形成された吐出口13から堤体材3の礫間に吐出するようにしたので、堤体材3の表面に付着する生物膜や礫間に棲息する生物の死滅を未然に防止し、ひいては石積み浄化堤2の水質浄化機能を維持することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持システム1及び方法によれば、取水ポンプ8を石積み浄化堤2の内水域7に設置することで、貧酸素水又はその可能性がある海水を該内水域から取水するようにしたので、貧酸素水が石積み浄化堤2を通過して内水域7に流入した後であっても、該内水域から貧酸素水を除去することが可能となり、石積み浄化堤2の水質維持のみならず、内水域7の水質浄化も併せて行うことが可能となる。
【0061】
また、本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持システム1及び方法によれば、石積み浄化堤2の外水域14の潮位を潮位計21で計測し、該潮位計で計測された値に応じて酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を制御装置23で駆動制御するようにしたので、高濃度酸素水を、貧酸素水の流入に合わせて石積み浄化堤2を構成する堤体材3の礫間に吐出することが可能となり、かくして石積み浄化堤2の効率的な維持管理が可能となる。
【0062】
また、本実施形態に係る石積み浄化堤の機能維持システム1及び方法によれば、石積み浄化堤2の外水域14の溶存酸素濃度を溶存酸素計22で計測し、該溶存酸素計で計測された値に応じて酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を制御装置23で駆動制御するようにしたので、石積み浄化堤2が貧酸素水に曝されるおそれがあるときのみ、高濃度酸素水を堤体材3の礫間に吐出することが可能となり、石積み浄化堤2のさらなる効率的な維持管理が可能となる。
【0063】
本実施形態では、石積み浄化堤2の外水域14における潮位と溶存酸素濃度を潮位計21及び溶存酸素計22でそれぞれ計測するとともに、それらの計測値に応じて酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を制御装置23で駆動制御するようにしたが、潮位計21及び溶存酸素計22のうち、いずれか一方のみを設置し、潮位又は溶存酸素濃度のいずれかだけで酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を制御装置23で駆動制御するようにしてもよい。
【0064】
例えば溶存酸素計22のみを外水域14に設置し、潮位とは関係なく溶存酸素濃度の計測値に応じて、酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を制御装置23で駆動制御するようにすれば、貧酸素水が石積み浄化堤2に到来した時点で、石積み浄化堤2の堤体材3の礫間には高濃度酸素水が既に満たされていることとなり、かくして高濃度酸素水は、石積み浄化堤2及びその内水域7を守るバリアとしての役目を果たし、石積み浄化堤2の機能低下を予防することが可能となる。
【0065】
また、これとは逆に、制御装置23による各装置の作動条件を、潮位が上昇中でかつ溶存酸素濃度が所定値未満とすることが可能であり、かかる変形例においては、貧酸素水が流入している可能性がきわめて高い場合のみ、システムを稼働させるものであり、システムの運転コストを低減することが可能となる。
【0066】
また、潮位や溶存酸素濃度を別システムで監視しつつ、あるいは潮位や溶存酸素濃度とは関係なく適宜に、酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を手動で操作するようにしてもよい。
【0067】
一方、酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び送水ポンプ11並びに取水ポンプ8を常時運転することで、高濃度酸素水を連続供給するようにしてもかまわない。
【0068】
かかる変形例においては、システムの運転コストよりも、石積み浄化堤の機能維持が優先される。図4(a)は、かかる変形例を示したものであって、潮位計21、溶存酸素計22及び制御装置23は不要となる。
【0069】
また、本実施形態では、石積み浄化堤2で囲まれた内水域7から貧酸素水又はその可能性がある海水を取水するようにしたが、これに代えて、石積み浄化堤2の堤体内から取水するようにしてもよい。
【0070】
図4(b)は、かかる変形例を示したものであり、堤体に取水ピットを設けて該取水ピットに取水ポンプ8を設置してなる。かかる変形例においては、吐出口13を出た高濃度酸素水が貧酸素水又はその可能性が高い海水とともに取水ポンプ8で回収される流れが比較的短い経路で形成されるため、常に新鮮な高濃度酸素水が堤体材の礫間に供給されることとなり、かくして生物膜や礫間棲息生物の死滅をより確実に防止することが可能となる。
【0071】
また、本実施形態では、酸素水供給手段として送水ポンプ11を設けるようにしたが、場合によってはこれを省略してもかまわない。かかる変形例においては、酸素水供給手段は吐出管12のみで構成されることになるとともに、制御装置23は、酸素濃縮装置9、酸素溶解装置10及び取水ポンプ8を駆動制御することとなる。
【0072】
また、本実施形態では、石積み浄化堤2に埋設された吐出管12を介して高濃度酸素水を石積み浄化堤2を構成する堤体材3の礫間に直接供給することで、高濃度酸素水の拡散を防ぐようにしたが、場合によっては高濃度酸素水を堤体材3の礫間に間接的に供給するようにしてもかまわない。
【0073】
図5及び図6はかかる変形例を示したものであり、図5に示した変形例においては、酸素水供給手段としての散水装置52を石積み浄化堤2の堤体頂部に設置するとともに該散水装置の入力側を送水ポンプ11の出力側に接続することにより、高濃度酸素水を石積み浄化堤2の表面から内部へと浸透させるように構成してあり、図6に示した変形例においては、酸素水供給手段としての供給管62を石積み浄化堤2の外水域14側でかつ水面下方に配置するとともに該供給管の基端側を送水ポンプ11の出力側に接続することにより、高濃度酸素水を石積み浄化堤2の外水域14側で噴出させて堤体内に流入させるように構成してある。
【0074】
かかる構成においても、高濃度酸素水の酸素濃度が多少低下するものの、該高濃度酸素水を石積み浄化堤2を構成する堤体材3の間隙に供給することは可能であって、上述した実施形態と同様の作用効果を奏するとともに、既存の石積み浄化堤に手を加える必要がないため、構築コストを安価に抑えることができるという作用効果も奏する。
【符号の説明】
【0075】
1 石積み浄化堤の機能維持システム
2 石積み浄化堤
3 堤体材
7 内水域
8 取水ポンプ
9 酸素濃縮装置(酸素水生成手段)
10 酸素溶解装置(酸素水生成手段)
11 送水ポンプ(酸素水供給手段)
12 吐出管(酸素水供給手段)
13 吐出口
14 外水域
21 潮位計(水位計)
22 溶存酸素計
23 制御装置(制御手段)
52 散水装置(酸素水供給手段)
62 供給管(酸素水供給手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石積み浄化堤で囲まれた内水域、該石積み浄化堤の外側に拡がる外水域又はその堤体内から取水し、取水された水の溶存酸素濃度を高めて高濃度酸素水とし、該高濃度酸素水を前記石積み浄化堤を構成する堤体材の礫間に供給することを特徴とする石積み浄化堤の機能維持方法。
【請求項2】
吐出口が前記礫間に位置決めされるように前記石積み浄化堤に埋設された吐出管を介して前記高濃度酸素水を供給する請求項1記載の石積み浄化堤の機能維持方法。
【請求項3】
前記内水域、前記外水域又は前記堤体内の水位が上昇しているときに前記供給を行う請求項1又は請求項2記載の石積み浄化堤の機能維持方法。
【請求項4】
前記内水域、前記外水域又は前記堤体内の溶存酸素濃度が所定値未満のときに前記供給を行う請求項1又は請求項2記載の石積み浄化堤の機能維持方法。
【請求項5】
前記取水を前記内水域から行う請求項1又は請求項2記載の石積み浄化堤の機能維持方法。
【請求項6】
石積み浄化堤で囲まれた内水域、該石積み浄化堤の外側に拡がる外水域又はその堤体内に設置され該内水域、外水域又は堤体内から取水可能な取水ポンプと、入力側に前記取水ポンプが接続され該取水ポンプからの水の溶存酸素濃度を高めて高濃度酸素水を生成可能な酸素水生成手段と、該酸素水生成手段の出力側に接続された酸素水供給手段とを備えるとともに、該酸素水供給手段を、前記高濃度酸素水が前記石積み浄化堤を構成する堤体材の礫間に供給されるように構成したことを特徴とする石積み浄化堤の機能維持システム。
【請求項7】
前記酸素水供給手段を、前記酸素水生成手段の出力側に接続された吐出管で構成するとともに、該吐出管を、その吐出口が前記礫間に位置決めされるように前記石積み浄化堤に埋設した請求項6記載の石積み浄化堤の機能維持システム。
【請求項8】
前記内水域、前記外水域又は前記堤体内の水位を計測する水位計と該水位計で計測された水位の値に応じて前記酸素水生成手段を駆動制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記水位計による値からその水位が上昇中であるかどうかを判断し、該水位が上昇中であると判断されたときに前記酸素水生成手段を作動させるようになっている請求項6又は請求項7記載の石積み浄化堤の機能維持システム。
【請求項9】
前記内水域、前記外水域又は前記堤体内の溶存酸素を計測する溶存酸素計と該溶存酸素計で計測された溶存酸素濃度の値に応じて前記酸素水生成手段を駆動制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記溶存酸素計による値が所定値未満のときに前記酸素水生成手段を作動させるようになっている請求項6又は請求項7記載の石積み浄化堤の機能維持システム。
【請求項10】
前記取水ポンプを前記内水域に設置した請求項6又は請求項7記載の石積み浄化堤の機能維持システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−88075(P2011−88075A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243672(P2009−243672)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】