説明

石粉焼結体、多孔質石粉焼結体の製造方法

【課題】石粉の有効利用をさらに促進させるために、広く使用されている水ガラスを使用して、建材、道路用路盤材等広範な利用を図ることができる耐水性に優れ高圧縮強度を有する石粉焼結体、また、広い範囲で空隙率を調整できる石粉焼結体及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る石粉焼結体は、水ガラスを粘結剤としてなる石粉焼結体であって、温度900〜1100℃で焼結してなる。この石粉焼結体の耐水性は、湿式圧縮強度の乾式圧縮強度に対する比が0.9以上であり、圧縮強度は、乾式圧縮強度が10MPa以上である。また、空隙率は、0〜90%にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採石場や砕石場で大量に排出される石粉の有効利用を図ることができる石粉焼結体、多孔質石粉焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
採石場や砕石場で大量に排出される石粉は、シリカ(SiO2)を主成分とする微細な粉体状の排出物であり、その多くが廃棄処分にされている。このため、廃棄物の減少、資源の有効利用の観点から石粉の有効利用が求められている。
【0003】
このような要請に対し、例えば、特許文献1において、礫混じり砂質粘土や礫混じりシルト質粘土或いは礫質土の粒度分布を有する来待石粉体と水との混練物を成形後乾燥し、次いで焼成したことを特徴とする来待石粉焼結体が提案されている。そして2.60mm以上の礫を15%以上も含むような礫質土の粒度分布を有する来待石粉体の場合は、塑性限界が高くなって成型不良になりやすいので、水ガラスなどのバインダーを添加するか、加圧成型する必要があることが記載され、該来待石粉焼結体は漁礁、藻礁、タイル、レンガ、ブロック等への利用が可能であることが記載されている。
【0004】
特許文献2においては、砕石粉又は砕石スラッジの単独又は混合物を主原料とし、これに発泡剤として過酸化水素及び水を用いると共に、固化材としてセメントを用いたことを特徴とする砕石スラッジ等を用いた発泡体が提案されている。そして、その発泡体は60〜70%の有孔率を有しており、保水性、保湿性、濾過性、吸着性、軽量性、保肥性、透水性に優れ、建材、炉材、土壌改良材等への利用が可能であることが記載されている。
【0005】
ところで、引用文献1、2に示されているように、石粉の成型、焼成、固化等において水ガラスやセメントが使用されている。水ガラスは、土壌硬化剤、鋳物砂のバインダー等に古くから使用されており、自然環境に対する負荷が少なく安価であるので、石粉の成型、焼成、固化剤として好ましい。しかしながら、水ガラスが水溶性であるために、水ガラスで焼成、固化したものは耐水性がなく崩壊しやすいという問題がある。
【0006】
この問題に対し、特許文献3において、水ガラスを用いて成形体を成形し、成形体を乾燥させた後、成形体に酸処理を施すことを特徴とする水ガラスを用いて成形体を製造する方法が提案されている。そして、水ガラスを700℃程度の高温で加熱して乾燥させると、水ガラスが脱水縮合されて篭状のシロキサン結合の3次元網目構造を有するガラス質が形成され、ガラス中のアルカリ金属の周囲の水への溶出が難くなってシリカの溶解が防止され耐水性が向上するが、ガラス質の強度が低くなるので耐水性、強度ともに良好な特性を得るには、乾燥温度を200℃以下にするのがよいことが記載されている。また、200℃で乾燥させた成形体は、水に7日間浸漬した後もシリカの溶出は観察されず、その一軸圧縮強度が1000kN/m2(1.0MPa)以上あることが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006-96646号公報
【特許文献2】特開2005-162514号公報
【特許文献3】特開2005-74240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に示されるように多孔質の石粉焼成又は固化材を得ることによって石粉の有効利用を図ることができる。しかしながら、建材、道路用路盤材等広範な利用を図るためには、耐水性及び圧縮強度に優れた石粉焼結体又は石粉固化材が求められる。特許文献1の提案に係る来待石粉焼結体又は特許文献2の提案に係る発泡体は、どの程度の圧縮強度を有するか不明であるが、文献に記載された用途等から推測すると高い圧縮強度は期待できない。特許文献3の提案に係る成形体は、耐水性に優れるが建材、道路用路盤材等広範な利用を図るためにはさらなる圧縮強度の向上が必要である。
【0009】
本発明は、石粉の有効利用を促進させるために、広く使用されている水ガラスを使用して、建材、道路用路盤材等広範な利用を図ることができる耐水性に優れ高圧縮強度を有する石粉焼結体、また、広い範囲で空隙率を調整できる石粉焼結体及びそれらの製造方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る石粉焼結体は、水ガラスを粘結剤としてなる石粉焼結体であって、温度900〜1100℃で焼結してなる。この石粉焼結体は、耐水性に優れ、高圧縮強度を有する。
【0011】
上記石粉焼結体の耐水性は、湿式圧縮強度の乾式圧縮強度に対する比が0.9以上であり、圧縮強度は、乾式圧縮強度が10MPa以上である。また、空隙率は、0〜90%にすることができる。
【0012】
上記特性を有する石粉焼結体は、水ガラスを粘結剤とする石粉を混練・造粒後、または、混練・成形後、該造粒物又は成形物の焼結を900〜1100℃で行うことにより製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る石粉焼結体は、耐水性に優れ、高圧縮強度を有し、また、空隙率を0〜90%に調整することができる。これにより、濾過材、建材、道路用路盤材等への広範な利用により、石粉の有効利用を広く進めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。本発明に係る石粉焼結体は、水ガラスを粘結剤としてなる石粉焼結体であって、温度900〜1100℃で焼結してなる。すなわち、水ガラスを粘結剤とする石粉を温度900〜1100℃で焼結することによって耐水性に優れ、高圧縮強度を有する石粉焼結体を得ることができる。
【0015】
石粉は、採石場や砕石場で大量に排出され、その多くが75μm以下の微細な石粒子からなる粉体である。石粉の組成は、主成分が二酸化珪素(SiO2)で、その他酸化第二鉄(Fe2O3)が2.16%、酸化アルミニウム(Al2O3)等が含まれる。
【0016】
水ガラスは、鋳物砂の粘結剤として使用されている公知のけい酸ナトリウムを使用することができる。水ガラスは、石粉同士が粘着して適度な流動性を有し、成形に適する程度に添加するのがよい。しかし、水ガラスの添加量は石粉焼結後の圧縮強度にも影響を与えるので、所要の圧縮強度と流動性を考慮して適当な添加量にされる。なお、必要に応じ水を添加して水ガラスの濃度を希釈させて石粉と水ガラスの混練、造粒、成形を行うのがよい。
【0017】
本発明に係る石粉焼結体においては、焼結温度が重要であり、その焼結温度は900〜1100℃とされる。この温度範囲で焼結することによって、水ガラスの水中への溶出が抑えられ、耐水性に優れ高圧縮強度の石粉焼結体を得ることができる。
【0018】
表1は、石粉と水ガラスを混練し直径15mm、長さ20〜25mmの円柱状に成形したものを各温度で焼結した石粉焼結体の、形状変化、圧縮強度(乾式強度)及び石粉焼結体を水中に7日間浸漬したときの該浸漬水のpH変化と、その石粉焼結体をそのまま引き出し水を含んだままで圧縮試験をしたときの圧縮強度(湿式強度)を示す。なお、乾式強度は、焼結炉冷後の石粉焼結体の圧縮強度を示す。浸漬水は、水道水pH7.4〜7.5を用いた。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示すように、焼結温度が1200℃を除いていずれも石粉焼結体の形状の変化はなく、1000℃までは密度の変化がほとんどないことが分かる。そして、焼結温度が1200℃の場合は、SiO2が溶融して緻密化が進んでいることが分かる。
【0021】
石粉焼結体の乾式強度は、焼結温度が400℃以上の温度において10MPa以上でほぼ一定であるが、800及び1000℃の場合は12MPaになっている。これに対し、湿式強度は、焼結温度が400℃の場合に乾式強度の32%になっており、600℃の場合が71%、800℃の場合が61%、1000℃の場合が92%になっている。
【0022】
また、石粉焼結体の浸漬試験によると、焼結温度が800℃以下においては浸漬水のpHが高くなっており、800℃以下の焼結温度では水ガラスの溶出、すなわち、水ガラス中のNaが溶出し、これによりSiO2が溶出していることが分かる。この試験結果から、水ガラスを粘結剤とする石粉焼結体の場合は、焼結温度が800℃以下では耐水性に問題があることが分かる。そして、石粉焼結体の焼結は800℃を超える温度で行う必要があることが分かる。なお、表1によると、焼結温度が1000℃の場合もわずかに浸漬水のpHが高くなっているが、SiO2の溶出は測定されなかった。
【0023】
すなわち、本発明に係る石粉焼結体は、水ガラスを粘結剤とする石粉を、900〜1100℃で焼結することによって得られるものである。このようにして得られた石粉焼結体は、耐水性に優れ高圧縮強度を有する。しかしながら、本発明は上述の石粉焼結体に限定されない。本発明によれば、耐水性に優れ、種々の空隙率を有するものを得ることができる。すなわち、石粉と水ガラスの混合粉の成形圧力を調整することにより、また、石粉、水ガラスにさらにけい砂を添加することによって石粉焼結体の空隙率を0〜90%に調整することができる。けい砂の添加量を多くすると空隙率を高くすることができる。
【0024】
なお、本発明において、石粉、水ガラス/及び水、けい砂の混合(混練)は、鋳造用混練機、例えばシンプソンタイプ・マラーを好適に使用することができる。また、このように混練したものをプレス成形して所定の形状とすることができ、造粒機により所定の粒径にすることもできる。
【実施例1】
【0025】
水ガラスを粘結剤とする石粉焼結体の焼結温度と圧縮強度又は耐水性との関係を調べる試験を行った。試験に使用した石粉は、福原産業株式会社製の表2に示す組成、表3に示す粒度分布を有していた。本石粉は、表2に示すように、二酸化珪素(SiO2)が82.81%、酸化第二鉄(Fe2O3)が2.16%、酸化アルミニウム(Al2O3)が3.18%含まれ、この三成分で全体の88.15%が占められていることが分かる。また、表3に示すように、0.075mm(75μm)以下の粒子径の累積百分率は68.2%であった。
【0026】
水ガラスは、富士化学株式会社製CO2Aを使用した。水は、pH7.4〜7.5の水道水を使用した。上記石粉を質量で100部に対し、水ガラス10部、水10部添加し、ポリ袋に入れて密封し、これを外側から手もみにより混合させた。得られたダマ(水ガラスを濃く含み塊状となった部分)を潰しながら十分に均質化して、ポリ袋から小出しにしながらシリンジに充填し、約10kgf/cm2(約1MPa)で加圧して直径15mm×長さ20〜25mmの円柱状に成形した。この成形体をアルミナ製の容器に入れて電気炉(大気炉)で加熱・焼結した。焼結温度は400、600、800、1000、1200℃で、各1時間保持した。加熱速度は300℃/hrとし、石粉焼結体は焼結後炉冷にした。
【0027】
圧縮強度は、島津製材料試験器(オートグラフ、容量1000kgf、10000N)を用いて測定した。圧縮速度は10mm/minであった。耐水性試験は、得られた石粉焼結体を水道水を満たしたビーカー中に7日間浸漬し、浸漬水のpHを測定することにより行った。本試験結果は表1の通りであった。なお、石粉100部、水ガラス20部とする成形体を1000℃で焼結した場合の乾式強度は、20MPaであった。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【実施例2】
【0030】
石粉と水ガラス、または、石粉、水ガラスとけい砂からなる種々の密度を有する成形体を1000℃で焼結し、得られた石粉焼結体の空隙率を測定する試験を行った。石粉焼結体を得る試験条件は、実施例1と同様であった。石粉焼結体の空隙率はアルキメデス法により測定した。けい砂はツチヨシ産業株式会社製FTA60を使用した。
【0031】
石粉100部に対し水ガラス10部からなる混合粉を1MPaで円筒状(直径15mm×長さ20〜25mm)に成形したものの石粉焼結体の空隙率は20%であり、乾式圧縮強度は12MPaであった。また、石粉100部に対し、水ガラス12.5部、水12.5部、けい砂25部からなる混合粉を0.3MPaで成形したものの石粉焼結体の空隙率は30%、乾式圧縮強度は4.1MPaであり、石粉100部に対し、水ガラス17部、水17部、けい砂67部からなる混合粉を0.3MPaで成形したものの石粉焼結体の空隙率は40%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水ガラスを粘結剤としてなる石粉焼結体であって、焼結温度が900〜1100℃である耐水性高圧縮強度の石粉焼結体。
【請求項2】
耐水性は、湿式圧縮強度の乾式圧縮強度に対する比が0.9以上であることを特徴とする請求項1に記載の石粉焼結体。
【請求項3】
圧縮強度は、乾式圧縮強度が10MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の石粉焼結体。
【請求項4】
空隙率が0〜90%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の石粉焼結体。
【請求項5】
水ガラスを粘結剤とする石粉を混練・造粒後、または、混練・成形後、該造粒物又は成形物の焼結を900〜1100℃で行う多孔質石粉焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2009−62239(P2009−62239A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232938(P2007−232938)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】